最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~   作:野傘

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あるいは、彼女の存在意義。


第二章:天弧震電のビフレスト
第10話:狼王のキャプテン


 ──気に食わない。

 

 わたし(ルピナス)が“カナタ”という人物に抱く思いを一言で表せばそうなるだろう。

 

 カナタ。自らをポケモンが架空の存在とされる異世界からやってきたと嘯く怪しい青年。

 自らのポケモンを持たず、トレーナーとしての常識すら知らない素人。にもかかわらず、キングの眷属をパートナーとなり、キャプテン以外には抗うことすら難しい“ぬし”を打ち倒し──あろうことか、シナトマカミ(キング)の正式なキャプテンとして認められた。

 

 ──わたしには、アイツがキャプテンに相応しい人間だなんて到底思えない。

 

 何故、キングは自らのキャプテンとしてカナタを選んだのだろう。

 確かに“ぬし”の討伐はキャプテンの重要な使命。それを成し遂げたという功績を以て、カナタをキャプテン足る資格有りと見なしたというのか。

 だが、あの討伐はあくまで眷属(イワンコ)の奮闘あってのこと。決してカナタのみの力で成し遂げた訳ではない。

 というより、討伐できたのは()()()()()()()()()()()()()()()だろう。もしもカナタが連れていたのが眷属でない普通のポケモンだったなら、相対した時点で死んでいた筈だ。

 それに、“ぬし”の討伐は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。本当に“ぬし”の討伐がキャプテンの条件であるならば、先代が亡くなった後キャプテンの座が空位であったことの説明がつかない。

 つまり、“ぬし”を討伐したという事実は、決してキャプテンの資格があることを意味しないのだ。

 

 ならアイツが選ばれた要因はそれ以外の部分にあるのか。

 残念ながら、わたしにはそれが皆目見当がつかなかった。

 

 “ぬし”相手に啖呵を切る根性は認めよう。でも、それは彼我の力量を把握していないがための蛮勇に過ぎない。

 今回は()()()()上手くいったからよかったものの。相対する敵の実力を把握せず無謀に突っ込んでいくのは端的に言って自殺行為に他ならない。

 ユールにおいてキャプテンの活動は常に死の危険と隣り合わせ。()()()()()使()()()()()も分からない人間がキャプテンの役目を果たすなんてどう考えても無理だ。

 

 実際、ユールのキャプテンが果たすべき役目を聞いた途端、アイツは顔を真っ青にして授けられたキャプテンの証(オルタナストーン)を“クーリングオフしたい”などと宣っていた。

 

 

『……あの、すんません。オルタナストーン(これ)って今からでもクーリングオフできま──『ガルル!!』──アダダダダダダッ!? いやいやいや冗談冗談やるやるやりますもちろん喜んでキャプテンやらせていただきますゥ!! だからこれ以上頭を噛むのはやめて!? 出てるから!! 出ちゃいけないものがぴゅーって出ちゃってるからァ!!

 

 

 ──尤も、イワンコに頭を噛まれてすぐに前言撤回していたが。

 

 どうやらアイツがキャプテンに選ばれたのは眷属(イワンコ)の意向もあってのことらしい。

 不敬を承知で言えば少々“親バカ”が過ぎるのではなかろうか。振り回される人間(こっち)の身にもなって欲しいものだ。

 あっちにとっては眷属(こども)世話係(おもり)程度の認識なのかもしれないが、人間(こちら)にとって“キャプテン”とは自然の脅威たる“ぬしポケモン”に対抗するための最大にしてほぼ唯一の戦力なのだから。

 

 とはいえ、これ以上愚痴ったところで仕方がないのも事実。

 キングの縄張りに()()()()()()わたし(人間)たちの立場で、家主(キング)の意向に逆らうことはできない。

 何より、キャプテンの選定はキングの意思次第。そしてユール地方(この地)において、キングの意思は絶対。

 (キング)が望まれたのならば、わたし(人間)たちはただそれに従うまでだ。

 

 キングの決定に人間の意思が割り込む余地はない。

 キングの意向に()()()()()()は何一つ関係はない。

 

 キャプテン“代理”とは、即ち次のキャプテンが選ばれるまでの代行役。

 真なるキャプテンが現れたのならば、疾くその役目を引き継ぐべきだ。

 そして選ばれたキャプテンが未熟で、それが叶わないのであれば──叶うまで教え導くのも役目である。

 

 それが“代理”であるわたしの果たすべき役割(に課せられた義務)

 それを為すことがキャプテン“代理”としての正しい在り方。

 

 だからこそ、わたしはカナタに一人前となるまで鍛えることを提案したのだ。

 本心がどうあれ、それがキャプテンとして正しい行いなのだから。

 

『え。あ、はい。正直言って右も左も分からん状況なんで、是非ともお願いしたいんですけども……』

 

『あの……ちなみにキャプテン就任って今からでも断ること出来ます?』

 

『あ、出来るけどやるんだったら腕の一本は覚悟しろと。後、相棒とは確実にオサラバと……マジかぁ』

 

『やるっきゃねえか、キャプテン……』

 

 そんなわたしの提案をカナタは苦渋の表情を浮かべて受け入れる。

 正直、腕云々については脅し半分だ。()()()()()()、カナタが辞退を申し出たところでシナトマカミがそこまで要求することは恐らくない。

 ──だがキングが過去に自らの信を裏切った者へ制裁を課した実例がある以上、可能性は0ではないだろう。

 

 まあいい。アイツがどうなろうと、わたしのやることに変わりはない。

 わたしが先代にされたように、アイツが一人前のキャプテンとなれるよう修行をつける……それだけだ。

 

 尤も、キャプテンとなるための修行は厳しい。わたしだって何度投げ出しかけたことか。

 それにズブの素人であるアイツが耐えられるとは到底思えない。どうせ3日もすれば投げ出すだろう。

 

 内心でそう思いながら、しかし決して(おもて)には出さず。

 かくて、カナタを一人前のキャプテンとするための修行の日々が始まったのだ。

 

 

 

※※※

 

 

 

 ──結果として、“3日もすれば投げ出すだろう”というわたしの予想は外れることとなった。

 

『──わぎぃ!!』

『無理無理無理無理死ぬ死ぬ死ぬ絶対死ぬぅ! 師匠!! 無理ですって師匠!! 助けてください!!』

『ん、この程度で人は死なない。それに本当に死にそうになったらちゃんと助けに入る。だから安心して……当たって砕けて?』

『砕けちまったらそれでお終いでしょうが!! お、おい相棒!! こんなん相手にして勝てるわきゃねえ! さっさと逃げ──『ガルルルオオ!!』──うわーい、()る気満々じゃねえかコンチクショー!!』

 

 ある時は、キング場に侵入した野生ポケモンに突っ込ませたり。

 

『──げえええんげえええええん!!』

『オワアアアアアッ!? 掠った!? 掠ったよ、今!? アレ直撃してたら俺の顔面多分潰れたトマトみてえになってたよ!?』

『ん、大丈夫。ちゃんと直撃“は”しないように調整してる』

『直撃“は”って……え、直撃じゃなけりゃ当てる気満々だってコトォ!?』

『? 当然だけど? 生身でポケモンと対峙した時の訓練なんだから、当たったら痛くしないと訓練にならない』

『せめてもう少しこう、手心というものを……』

『ん、だから直撃は避けてる』

『それは手心とは言わな──『“ストーンエッジ”』──危なっ!! ちょっと! まだ話してる最中でしょうが!?』

『実戦じゃ相手は一々待ってなんてくれない。お喋りしている暇があったら、その間に一つでも多くその手の“ねばりだま”を投げつけるべき』

『その投げつける隙が見つからねーんだわ!! ええい、こうなりゃやけっぱちだ!! これでも喰らいやがれー!!』

 

 ある時は、生身のカナタを手持ちポケモンで散々追い回したり。

 

『ぜぇぜぇ……や、やっと帰ってこれた……。マジで遭難するとこだった……』

『ん、戻ってきた。じゃあ、これからわたしと勝負』

『……あの、師匠。いま俺たち雪原に放り出されて、やっとこさ帰ってきたところ何スけど……』

『だからこそ。目的地に着いたとしてもそこで突発的な戦闘行為が発生することもある。“消耗を最小限に、常に余力を残して行動することが肝心”。訓練前にちゃんと伝えておいた。だから、それができているか確認』

『は、はは……遭難しかけてる時にんな余裕ある訳ねえっスよチクショー! なあ相棒、お前もそう思うよな!?』

『ガウルルル!!』

『うん、おめーは元気いっぱいだったなクソが!! ──しゃあねえ、やってやらあ!!』

 

 ある時は、クラフトキットだけ持たせて雪原に放り出したり。

 

 ……自分でやらせておいて何だが、素人であるカナタにとってはあまりにも厳しい修行である。

 だが、修行の度に瀕死になりながらもカナタはそれをこなして見せた。

 

 事あるごとに泣き言は言う。弱音もこぼす。ぼやきもする。

 でも、投げ出すことだけは絶対にしない。

 確かに脅すようなことは言ったが、それだけでは説明がつかないほど必死にアイツは食らいついてきた。

 理由は分からないけれどアイツは明らかに()()で、キャプテンになろうと努力していたのだ。

 

 ──その姿に、わたしはどうしようもない苛立ちを覚えた。

 

 キツイなら逃げ出せばいいものを。

 辛いなら投げ出せばいいものを。

 この地に縁もゆかりもない、ただキングに選ばれただけの余所者が──どうしてそんなに必死になる。

 

 ──気に食わない。

 ──気に入らない。

 ──腹立たしくて仕方ない。

 

 ああ、やっぱりわたしはアイツ(カナタ)のことが嫌いだ。

 ──そして、そんなアイツにどうしようもなく“嫉妬”してしまう自分のことが、もっと嫌いだ。

 

 心中に止めどなく噴き上がるドロドロとした感情。

 でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから蓋をして、奥底にしまい込んで、何とも思っていないフリをする。

 そうすればわたしは()()()()()()()()()()()()

 

 だって、キャプテンであることがわたしの存在意義(レゾンデートル)なのだから。

 紛い物(だいり)のわたしが正しさを失ってしまったら、もう何者でもなくなってしまうから。

 

 ──そしてわたしは素知らぬ顔で、今日もアイツに修行をつける。

 ──それが正しいキャプテン代理の在り方なのだと、自らに言い聞かせて。

 

 ──例え、その先に存在意義(レゾンデートル)の喪失が待ち受けていようとも。

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