最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~   作:野傘

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第11話:白くなだらかな雪原のように

 カナタがキャプテン修行を始めてしばらくたった、ある日。

 

「ん、今日の内容は“オルタナバースト”を使いこなすための訓練。あなたにはバーストを使ってわたしと1vs1のポケモン勝負をしてもらう」

「ウッス、オナシャス」

 

 場所はキャプテン小屋前の広場。

 呼び出したカナタたちにルピナスは今回の修行の内容を説明する。

 

「“オルタナバースト”は“ぬしポケモン”との戦いにおける()()。そしてキャプテンの主たる役目が“ぬし”の討伐にある以上、キャプテンの相棒はこれを使いこなすことが必須。──ここまではいい?」

「ウッス」

「ん、ならいい。……今のあなたたちはまだ未熟で、バーストを完全には使いこなせていない。この状態じゃあ“ぬし”を相手取っても勝てるかどうか分からない」

「……えと、“ぬし”ならこの前倒したんすけども」

「ん、じゃあ聞くけど今すぐもっかいアレと戦えって言われて勝てる?」

「あー……多分、無理そっすね」

「そういうこと。“ぬし”が野生ポケモンである以上、敗北は即ち“死”につながる。だからこそ戦闘における不確定要素は出来る限り排除する必要があるの」

「えっと、つまり……?」

「ん、つまりカナタたちは一刻も早くオルタナバーストを使いこなせるようにならなくちゃいけない……ってこと」

 

 “オルタナバースト”は“オルタナストーン”に蓄えられた“オルタナ粒子”をポケモンに纏わせることでその能力を超強化する、ユール地方独自の技術である。

 一たび使えば例え未進化個体だろうと進化したポケモンを凌駕する力を得られる“オルタナバースト”だが、しかしそのような力を無制限に使える訳もなく。使えるのは一戦闘につき一度、それも制限時間付きだ。

 さらに、カナタのイワンコはまだオルタナの力を使いこなせておらず、制限時間は他のキャプテンのそれと比べて相当に短くなってしまっている。

 故に彼が一人前のキャプテンとなるためには、これをどうにか克服する必要があった。

 

「……なるほど、今日の訓練もその一環っつーことっすか」

「ん、その通り。“オルタナバースト”を使いこなすためには、実際に使うことで慣れるしかない。だからこそこうして実戦形式で訓練するという訳」

「了解っす」

 

 と、ルピナスの説明に納得して頷くカナタ。

 ならば早速と配置につこうとするが……次の瞬間、ルピナスの放った言葉にピタリと足を止めた。

 

「ん、そうだ。今日の勝負でわたしに勝てたら、明日は休みにしていい」

「──マジで?」

 

 その言葉を聞いた途端、カナタの目の色が変わる。

 

「マジっすか!? ウソじゃないッスよね!?」

「ん、そんなことでウソなんてつかない。それにわたしに勝てるくらい強ければ、キャプテンとしての勝負の実力は十分。一日くらい修行を休みにしても問題ない」

「ホントにホントにホントっスね!? 言質とったっスよ!? ──ひゃっほおおおい!! 休みじゃああああ!!」

 

 “勝負に勝ったら次の日は修行を休みにしてよい”。ルピナスのその言葉が決して嘘ではないことを確かめて、瞬間カナタは歓喜の雄叫びを上げた。

 

 休み。休日。ああ、何と良い響きだろうか。

 

 キャプテンに選ばれてよりこっち、休みなしの修行漬けの日々を送っていたカナタ。それでも生粋のポケモンバカたるが故に相棒(イワンコ)のためなら何のその、と修行に励んできたものの……偶には気晴らしがしたいのもまた本音。

 そんな折に降って湧いたこのチャンス。カナタのやる気がシビルドン昇りとなるのもむべなるかな。

 

「しゃあオラァ!! 気張れよ相棒、休みになったら一日中構い倒してやっかんな!!」

「──! わおん!」

 

 そして、それは相棒たるイワンコもまた同じであった。

 勝てば一日中自分(イワンコ)に構ってやるとの言葉に目を輝かせ、いつも以上に張り切った様子のイワンコ。

 対面するルピナスを見据え、早くしろばかりに首の岩を地面に叩きつける。

 

 いつになくやる気十分といった様子のカナタとイワンコの姿を見て一つ頷いたルピナス。

 次いで彼女は広場の反対、カナタたちと相対するように立つと、腰元のボールを一つ取り出し内より己が手持ちを繰り出した。

 

「出てきて、ニャイキング」

「ニャキン」

 

 

【ニャイキング バイキングポケモン タイプ:はがね】

 

 

 ボールより飛び出し、雪の地面に着地したのは鋼質のあご髭を長く伸ばした二頭身のポケモン──ニャイキング。

 相対するイワンコの姿を見とめるや、伸ばした短剣の如き両爪を光らせ、挑発するように笑みを浮かべる。

 

「ぐううるるる……!!」

 

 果たしてその挑発的な笑みが気に障ったか。

 イワンコは牙を剥きだし、今にも飛び掛からんばかりに唸りを上げる。

 両者の間に散る見えざる火花。一触即発の気配が広場に満ちる。

 果たして膨れ上がる戦意が臨界を迎えんとした刹那──カナタの発した一言により勝負の火蓋が切られた。

 

「先手必勝! イワンコ、“あなをほる”!」

「ぬわん!」

 

 先手を切ったのは、カナタたちの側。

 命ぜられた技は“あなをほる”。はがねタイプに対するイワンコの最大打点である。

 イワンコはトレーナーの指示に応え、大地に爪を突き立て穿孔。瞬く間に地中にその身を隠す。

 瞬間、一拍の間を置いてニャイキングの背後の地面より飛び出した。

 

 ニャイキングの死角をついた完璧なタイミングでの一撃。

 これを避けることは不可能だろう。いかなルピナスの手持ちとはいえ、効果抜群の攻撃をまともに浴びれば相当のダメージは免れまい。

 と、カナタはそう思案するが……しかし。

 

「ニャイキング、迎え撃って」

「ニャニャキン」

 

 その浅はかな思考はものの見事に裏切られる。

 

【ニャイキングの “ねこだまし”!】

 

「わおっ!?」

「いいっ!?」

 

 イワンコがニャイキングの体に肉薄せんとした刹那、突如イワンコの鼻先に衝撃が走る。

 目の前が爆発したかのような感覚にイワンコは思わず“ひるんで”しまう。

 

 “ねこだまし”、場に出た当初にしか使えないという条件付きながら確実に相手を怯ませる強力な技である。

 果たして先手を挫かれ、敵手の至近距離にて隙を晒してしまったイワンコ。その無防備な胴体目掛けニャイキングの爪が振り下ろされる。

 

【ニャイキングの “メタルクロー”!】

【効果は バツグンだ!】

 

「きゃうっ!?」

 

 ニャイキングの鋼鉄の爪がイワンコの体を切り裂く。

 はがねタイプを帯びた爪の一撃はいわタイプであるイワンコに対し効果抜群。さらにタイプ一致により補正とニャイキングの特性【かたいツメ】により、威力は約2倍となる。

 元よりあまり威力の高くない“メタルクロー”と言えども、ここまで補正がかかれば話は別。直撃を受けたイワンコの体に無視できぬダメージが刻まれる。

 それでも咄嗟に技の衝撃を利用し、敵の間合いより離脱してみせたのは流石のセンスと言えよう。おかげでイワンコはニャイキングの追撃を躱し、何とか体勢を立て直すことが出来た。

 

「わうう……!」

「大丈夫か、相棒!?」

「ぐう……うわん!!」

 

 が、いかに一息入れたといえども刻まれたダメージは無視できるようなものではない。

 進化前のイワンコの耐久はお世辞にも優れているとはいえない。何とか耐えはしたものの、次に同じ一撃を貰えば“ひんし”となることは確実である。

 痛みに顔を歪め、僅かに足をふら付かせる相棒の姿を見てそう判断したカナタ。故に彼は迷わずここで“切り札”を切ることを決断する。

 

「(くっそ、やっぱ進化前と進化後じゃあ地力が違いすぎるか……! ……もうちっと残しときたかったが……仕方ねえ!)イワンコ、“オルタナバースト”だ!」

「!! わおん!!」

 

 進化系と進化前、二つの間に横たわる埋めがたき種族値の差。

 これを覆すにはイワンコの種族値そのものを底上げする他ない。

 本音を言えば制限時間の関係上、もう少しタイミングを見計らいたかったが……このまま出し渋った挙句に敗北してしまっては元も子もない。

 

 かくて、カナタは自らの片腕に嵌めた腕輪──その中心に収まる極彩色の結晶(オルタナストーン)へと手を翳す。

 次の瞬間、ストーンより眩いばかりの極光が溢れ出し、イワンコの体へと吸い込まれていく。

 

 

【二人の絆とオルタナストーンが共鳴する……!】

 

 

「がるるるうわおおおおおん!!」

 

 

【イワンコの オルタナバースト!】

【イワンコはオーラをまとい 全ての能力が上がった!】

 

 

 イワンコが極光の輝き(オルタナオーラ)を纏う。

 同時にまるで体躯が一回り大きくなったかのような、圧倒的な存在感がその身より溢れだす。

 これこそが“オルタナバースト”。ユールにおいて真なるキャプテンのみが振るうことを許された、“ぬし”をも打ち倒す秘奥儀である。

 

 オルタナオーラが齎すエネルギーが、イワンコの身体に強大な力を与える。

 跳ね上がった能力値は進化系であるルガルガンにも迫るほど。これならば例え相手がニャイキングであろうとも互角に渡り合えよう。

 とはいえ、先にも述べたようにオルタナバーストには制限時間が存在する。悠長に様子見している時間はない。

 

「とっとと決着(けり)をつけるぞ相棒! 全力で“かみつく”!!」

「ぬぬわん!!」

 

 故に、これより先は短期決戦。何としてでも制限時間内に相手を仕留める。

 選択した技は“かみつく”。“あなをほる”より威力は劣るが、その分速攻性には優れている。

 先の攻防で“あなをほる”が対処された以上、二度目を試したところで結果は同じ。ならばここは確実にダメージを与えることを優先する。

 

 カナタからの指示に応え、再びイワンコが疾駆する。ただでさえ早かったその速度はバーストによりさらに加速。文字通りの目にも留まらぬ速さで以てニャイキングへと肉薄した。

 もはや相棒であるカナタにさえ目で追えぬ超加速。その一撃は確かにニャイキングの不意を突いた──。

 

「──ニャイキング。後ろ、8時の方向」

「ニャイ」

「わうっ!?」

 

 ──筈だった。

 

 ニャイキングの死角より超高速で放たれた一撃。カナタには知覚すらも困難なそれをルピナスとニャイキングは完璧に対処してみせる。

 急所目掛け突き立てられようとしていたイワンコの牙が、ニャイキングの鋼爪に阻まれる。牙に込められたあくタイプのエネルギーによりニャイキングの体にダメージが入るが、それもオニスズメの涙ほどの極僅かのもの。そして牙を突き立てたことにより、イワンコの身体は一瞬だが停止してしまう。

 攻撃の後に生まれたほんの僅かな隙。果たしてルピナスはそれを見逃すことなく、己が手持ち(ニャイキング)へ命令を下す。

 

「“つめとぎ”」

「ニャニャニャニャ!!」

 

 瞬間、ニャイキングが目にも止まらぬ速さでイワンコへと“ひっかき”を浴びせた。

 

「わうう!? きゅわんっ!!」

 

 鋭い爪で顔面を引っかかれイワンコは思わずしてのけ反る。

 “つめとぎ”、本来であれば自らの爪を磨いて攻撃と命中率を一段階上げる変化技だ。だが、ニャイキングはそれを相手の顔面目掛けて行うことでこれを攻撃に転用したのである。無論、元々が変化技ゆえに大したダメージはないものの……それでも顔中に浴びせられれば怯むのも当然。

 イワンコもこれはたまらないと慌ててその場より離脱するのであった。

 

 完全に不意を打った筈の一撃を凌いだ挙句、能力の上昇までしてみせた。

 その恐るべき技量にカナタは思わず口をあんぐりと開ける。

 

「うっそだろ!? あれにも対応してくんのかよ!?」

「ん、動きが直線的すぎてどこに攻撃するのかバレバレ。攻撃される場所が分かってれば対処は簡単」

 

 カナタの言葉にそうこともなげに返すルピナスであったが、果たしてそれを実際に実行できるトレーナーが世界にどれほどいようか。

 少なくとも今のカナタが同じことをやれと言われても絶対に不可能である。

 

(ちっくしょう……! 分かってたけどやっぱツエーわ、師匠! てか、相手の顔面に爪突き立て研ぐとかやることがえげつなさすぎだろうよ!)

 

 “下手すりゃ顔の肉が抉れてんぞ!”、あまりに情け容赦のないルピナスのやり方にカナタは思わず戦慄した。

 同時にこのまま下手に攻めても技量の差で対応され、バーストの制限時間まで粘られてしまうであろうと推測する。

 故に──。

 

(まだバーストの時間は残ってるが……いくら攻めても対応されるんじゃあジリ貧だ。こうなりゃ、一気に勝負を決めっきゃねえ!)

 

 バーストで種族値の差を縮めても、積み重ねた練度(レベル)の差ばかりはどうしようもない。

 何より格上を相手に生中な技を当てたところで効果は薄い。ならばここで最大火力を叩きつけ一挙に勝負を決める。それより他に勝利(やすみ)への道はない。

 

「このままじゃ埒が明かねえ! イワンコ、“バーストわざ”で一気に決めるぞ!!」

「──ぐわんぬ!!」

「!」

 

 カナタからの呼びかけに応え、イワンコが全身に力を込める。

 全身より迸る極光の輝きが、四肢へと集約していく。

 イワンコの周囲に風が吹寄せ、その身を森羅穿つ狂飆の鏃へと変貌させる。

 

 膨れ上がる、威圧感。

 狼王(シナトマカミ)の力を宿す一撃を前に、ルピナスの表情が驚愕に変わる。

 

「まさか秘伝王技(ヒデンオウギ)を──!? ニャイキング──!」

「もう遅い!! ぶちかませ、イワンコ!!」

 

 先の攻防でも一切変わらなかったルピナスの鉄面皮を崩した。その事実にほんの少し得意げな笑みを浮かべながら、カナタは相棒へと“バーストわざ”の解放を指示した。

 

 

「ぐるわおおおおおん!!」

 

 

 瞬間、咆哮と共に爆発的な速度で狂飆の鏃が打ち放たれた。

 

 

【イワンコの バーストわざ!】

 

 

「にゃ、にゃい……!」

 

 迫りくる秘伝王技(ヒデンオウギ)に驚き、慌てて動き出したニャイキング。だが、狂飆の鏃と化したイワンコを前にそれは余りにも遅すぎる。

 かくてニャイキングは為す術もなく、イワンコの“バーストわざ”に貫かれる──。

 

 

【しかし うまく 決まらなかった!】

 

 

 ──ことはなかった。

 

「──わふっ!?」

「──んげっ!?」

 

 “バーストわざ”がニャイキングへと到達する寸前、突如としてイワンコの纏う“オルタナオーラ”が消滅する。

 同時に身に纏った狂飆も霧散し、制御を失ったイワンコの体がゴロゴロと転がっていく。

 

 “バーストわざ”の不発。それはカナタの乾坤一擲の賭けが失敗に終わったことを意味した。

 だが、それも致し方無いこと。イワンコの放とうとした“バーストわざ”──“■■■■■エッジストーム”はキングの力を再現する秘伝王技(ヒデンオウギ)。進化前のイワンコが扱うには時期尚早であったのだ。

 

 そして、カナタたちの対戦相手は敵手が眼前で晒した致命的な隙を見逃すような手合いではなく。

 

「ニャキン」

「ぬわっ!?」

 

 刹那、転がるイワンコをニャイキングの両手が掴む。

 そのまま逃げられぬようしっかりホールド、イワンコの体を完全に捕らえてしまう。

 

「捕まえた」

「──やっべ!! 逃げろ、イワンコ!!」

 

 拘束されてしまった相棒の姿にマズいと感じたカナタはすぐさま逃れるよう指示するも……しかしガッチリと抑え込まれてしまい脱出は叶わず。

 

「これでお終い。ニャイキング、“アイアンヘッド”」

「ニャッキン」

 

【ニャイキングの “アイアンヘッド”!】

 

 次の瞬間、ニャイキングの鉄頭がイワンコの脳天目がけ思い切り叩きつけられる。

 果たして、積み技(つめとぎ)によって強化された効果抜群の一撃をバースト状態の解けたイワンコが耐えられる筈がなく。

 

「──わふん」

 

【効果はバツグンだ!】

【イワンコは たおれた!】

 

 敢え無く目を回して倒れる(戦闘不能となる)のであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「あ、相棒ォーーーーッ!?」

「ん、わたしの勝ち」

 

 ひんし状態でぶっ倒れた相棒へと駆け寄り、カナタは大急ぎで手当てを施す。

 そんなカナタを横目に、自らの手持ち(ニャイキング)をボールに戻しながらルピナスは淡々と結果を告げる。

 

「うわーん、負けたーー!! バースト使っても手も足もでねえじゃねえか、クソッタレーー!!」

「ん、当然。ニャイキングはわたしが鍛えたポケモン。“ぬし”にも負けないようしっかりと鍛えてある。キングの眷属が相手だってそう簡単に負ける訳がない」

 

 休みを求め全身全霊を以て挑んだ勝負。その惨憺たる結果に思わずして叫ぶカナタ。

 対しルピナスは、これまた淡々とした口調で先の勝負を講評する。

 

眷属(イワンコ)の動きそのものは悪くない。足も速いし、技の威力もしっかりしてる。何より未進化の身であれだけバーストを使えるのは驚異的」

 

 “でも”、とルピナスは続けた。

 

「動きが素直で直線的に過ぎる。さっきも言ったけど、あれじゃ次に何をしようとしているのかバレバレ。あと多分野生の時の癖だと思うけど、技を出すときに必ず相手の死角に入り込もうとする傾向がある」

 

 恐らくは獲物を仕留める時の動きが染み付いているのだろう。

 普通の野生相手であればそれで問題ないだろうが、並外れて強靭な“ぬし”やトレーナーの視界がある対人戦においては逆に動きそのものを読まれてしまう要因となりうる。

 

「確かに眷属は優秀でとても強いけど……それだけ。単に強いだけの野生ポケモンじゃ“ぬし”相手には叶わない。だからこそ弱点を補って、その強さを引き上げるキャプテン(トレーナー)がいるの」

 

 ポケモンは優れたトレーナーと共に戦うことでその強さを何倍にもはね上げる。

 逆に言えば、未熟なトレーナーではポケモンの力を引き出すことが出来ず、むしろその強さを殺してしまうことにもなりかねない。

 ましてや、トレーナーとしては素人に毛が生えた程度のカナタといえば──。

 

「指示は雑だし、遅い。おまけに自分の相棒(イワンコ)の動きも追えてない。ハッキリ言ってへっぽこ。これじゃどんなにポケモンが優秀でも強さを発揮できない」

「──えーと、つまり……」

「ん、トレーナーとしては何一つとして役に立ってない。現状、単なる“オルタナバースト”発生装置」

「ギャフン!!」

 

 ルピナスの言葉がカナタの心に突き刺さる! 効果はバツグンだ!

 

 全くもって容赦のないルピナスからの講評にカナタは白目をむいた。

 やめてあげて欲しい。もうカナタのHP(ライフ)はゼロだ。

 思わず地面に手を突き、崩れ落ちそうになるカナタ。

 

 が、ルピナスはそんなカナタを全くもって慮ることなく講評を続けていく。

 

「──特に酷かったのが最後のアレ。どうして使えもしない“バーストわざ”を使おうとしたの?」

「いやあ、その……使ったら意表が突けるし、師匠を倒すにはこれしかないかなぁ……と」

「練習で一回も成功したことないのに?」

 

 ルピナスからの冷徹な指摘にカナタは冷や汗を流す。

 そう、彼女の言う通り先の“ぬしツンベアー”戦以来、イワンコの“バーストわざ”は一度たりとも成功していない。

 そも秘伝王技(ヒデンオウギ)とは修行の果て、進化を経てようやく使えるようになるもの。ならば先の一戦は本当に例外だったのだろう。

 そしてカナタたちはその例外を再現しようとして、見事に失敗したという訳である。

 

「それは……まあ、こうピンチになったら覚醒する感じで……」

「ハア……練習でできなかったことが、本番でいきなりできるようになることなんてない。そもそも練習は本番で失敗しないためにするもの。“頑張ったけれど結局ダメでした”じゃ意味がないの。やるなら確実に成功するようにすべき」

「アッハイ」

 

 ぐうの音もでねえ。

 

「ん、という訳イワンコが回復したら指示の練習。みっちりやるからそのつもりで」

「アッハイ……あの、ところで師匠、お休みの方は……」

「負けたんだからもちろんなし。明日は一日座学の時間」

「oh……」

 

 残念ながら敗北した以上、休暇は“なし”である。

 待望の休みが幻と消えたことにガックリと肩を落としつつ、カナタは相棒の手当を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

「今日も疲れた……」

 

 疲労困憊でベッドに腰かけながら、カナタは呟く。

 昼間の勝負と修行により体力は消耗し尽くし、全身が金属でも詰めたかのように重い。

 正直に言えば今すぐにでも意識を飛ばしたいカナタであったが、しかし彼にはまだやることがあった。

 

「なあ、いい加減機嫌直してくれよ相棒」

「ウゥ……」

 

 傍らに座ったあからさまに不機嫌な様子の相棒をなだめるように、カナタはその首の毛皮をわしゃわしゃと撫でる。

 大人しく撫でられるイワンコであったが、それでも相変わらず顔は不満げなままであった。

 

 休みの予定がパーになったからか、それとも“オルタナバースト”を使ってなおルピナスに敗北したからか……ともあれ、勝負の後イワンコは一日中ずっとこの調子であった。

 ご機嫌斜めな相棒の姿にため息を吐きつつ、触れ合い(ポケリフレ)を続けるカナタ。

 

「頼むよぉ、埋め合わせは必ずするからさあ」

「わふ……くうん」

 

 まるで機嫌を損ねた彼女をなだめるダメ男のような発言である。

 

 これが目の覚めるようなイケメンならまだしも、パッとしない顔立ちのカナタではぶっちゃけ寒いだけである。

 が、イワンコにとってはそれで覿面だったか、ようやっとその不機嫌な顔を収めるとカナタの膝上でごろりと丸くなり、“もっと撫でろ”と言うかのように一声鳴くのだった。

 

「へいへい撫でさせていただきますよ、お姫様っと」

 

 キングの血を引く相棒のわがままぶりに苦笑いしつつカナタが触れ合い(ポケリフレ)を再開しようとした──その時である。

 

「……? ──! わおん!」

「おん、どうした相棒……ってオワアアア!?」

 

 突如あらぬ方向を向き不思議そうな表情を浮かべたイワンコ。次いで何かに気が付いたかのように表情を真剣なものへと変えると、カナタへ呼びかけるように鳴き声を上げる。

 先ほどとは打って変わった相棒の態度に“一体どうしたのか”と首を傾げたカナタであったが……次の瞬間、寝室に強烈な極光の輝きが溢れたことで叫び声を上げた。

 

「な、なんじゃあこりゃ!?」

 

 部屋中を照らす極彩色の光。たどればそれは枕元、就寝のため外しておいた腕輪──そこに嵌め込まれたオルタナストーンから発せられたものであった。

 突然の出来事に一体何が起きているのかとビビり散らかしたカナタ。彼は輝くオルタナストーンを引っ掴むと、大慌ててルピナスの部屋へと駆け込み──。

 

「し、師匠ー! 師匠ー! な、何か俺のストーンがいきなり光、って……あ」

「……あ」

 

 刹那、目に飛び込んだ()()()()()ルピナスの姿に思わずビシリ、と固まったのであった。

 

 どうやらカナタが飛び込んだのは丁度着替えのタイミングであったらしい。よくよく見れば辺りには脱いだ衣服が散らばっていた。

 が、当のカナタにはそんなことに気が付く余裕はなく。また、ルピナスも突然のことに動揺してか、呆然として彼を見つめるばかり。

 そのまましばし無言で見つめあう両者。と、その時カナタの視線がチラと僅かに下がる。それは目を合わせ続けることに耐えられなくなったためか、はたまた男としての性質(サガ)か。理由はともかくとして彼はルピナスの顔より視線を逸らし、そして()()を見たのだ。

 

 ──平原だ。平原がある。

 

 視線の先に広がっていたのは、どこまでも続く果ての無い大平原であった。

 雪の降り積もる雪原を思わせる、白くなだらかな平野。山も谷も、あらゆる起伏の一切が存在しない不毛にして虚ろなる荒涼の地平。

 例えるならばクレベースの背、あるいはマッギョの胴体の如き()()を目の当たりにして、カナタは反射的に呟いていた。

 

 

「……まな板じゃn「──出 て っ て !!」──ぶべらっ!?

 

 

 なお、それを聞いたルピナスに思いっ切りぶん殴られたが自業自得である。

 南無。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「ずびばぜんでじだ……」

 

 しばし後、由緒正しいDOGEZAスタイルで謝罪するカナタ。

 こちらを見据えるルピナスの視線は“ぜったいれいど”の冷たさである。下手な言い訳をすればボコボコにされるだけでは済まないだろう。

 故にここは平身低頭。誠心誠意謝罪する他ない。長時間の土下座でそろそろ足の痺れが限界だが、しかしここは我慢である。

 

 果たして彼の誠意が通じたのか、無言であったルピナスはやがてため息を一つ吐き、口を開いた。

 

「一つ屋根の下で暮らしてる以上、事故が起こるのも仕方ない。次から部屋に入る時はちゃんとノックするように」

「ウッス、肝に銘じるっス」

それと次わたしのことをまな板といったらその時は生まれてきたことを後悔させてあげるから、そのつもりで

「ヒエッ……」

 

 殺意が込められた重々しい言葉にカナタは震えながら頭を振ることしか出来なかった。

 同時に、ルピナスに胸イジリは絶対にNGであると深く深く心に刻み込む。

 カナタはまだ自らの命が惜しかった。

 

「ん、それで一体なにが起きたの?」

「ええと、実はですね……」

 

 と、ルピナスからの問いにカナタは懐から相変わらず光を発し続けるオルタナストーンを取り出し事の経緯を説明する。

 果たしてカナタの話に耳を傾けながら、しばしオルタナストーンの光を見つめていたルピナスは不意にボソリと呟いた。

 

「……招集がかかった」

「へ?」

 

 彼女の言葉が何を意味しているのか掴めず、間抜けな声を上げたカナタ。

 対しルピナスはそんなカナタに向き直ると、矢継ぎ早に指示を出す。

 

「すぐに荷物を纏めて。明日の朝にはここを出発する」

「え、あ。その、出発するってどこかに行くんすか? この光と何か関係が?」

「……この光は“霊王”からの呼びかけ。受け取ったキャプテンはすぐに“集いの原(シンクヴェトリル)”へ集まるのが習わし」

 

 そして、一拍の間をおいてルピナスは()()()()()()()()()()()()()()()名を新米キャプテン(カナタ)に告げた。

 

「──全島集会(アルシング)が開かれる」




──その胸は平坦であった。
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