最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~ 作:野傘
首府“アースシティ”の近郊、“
そして時代が下った現代においてもその重要性は変わらない。
ユール地方の支配者たる5体の“キング”、その意を受けたキャプテンたちによる決め事はユール全土の行政にさえ影響を及ぼすほどである。
……そんな重要な会合に果たして新米のカナタが参加してよいのか疑問に思うが、しかしこの会議への参加は“ぬし”の討伐に並ぶキャプテンの重要な役目の一つ。招集がかかれば何をおいても参加しなくてはならない。
何より、新たなキャプテンか選定された際は
かくしてキャプテンの一員として
目指す先は会場たるアースシティ、“
という訳でしばらくの不在を伝えるべくミッドタウンの一角、ミスト博士の研究所を訪れた二人。
だが、二人が訪れた丁度その時、当のミスト博士は何やら荷造りの真っ最中であった。
「やーやー、ルピナスくんにカナタくん。久しぶりだね。顔を見せてくれたのはあの日以来じゃないかい?」
「ん、久しぶり。……? ミスト、その大荷物は?」
「ああ、ちょっと“アースシティ”までね。研究の進捗をスポンサーに報告しなくちゃならなくて」
タイミングが良いのか、悪いのか。どうやらミスト博士自身もしばらく家を空ける予定であったらしい。
それも行先は二人と同じ“アースシティ”である。出立の挨拶をしに来た相手が、同じタイミングで同じ目的へ向かうという偶然。カナタは思わず呟いた。
「へー、博士も行くんスか。奇遇っスね」
「うん? 私“も”……ということは、君たちも“アースシティ”へ?」
「ん、実は……」
漏れ出たカナタの言葉を聴きつけ、首を傾げたミスト博士。
そんな彼女へルピナスは自分たちもまた
「ふうむ、キャプテンたちの会議に参加するためアースシティに、ねえ。ふむ、なら丁度いい。私と一緒に行かないかね?」
「一緒に──?」
「──スか?」
と、互いの目的地が同じであることを知ったミスト博士は、ならばと二人に提案する。
“一緒に行かないか”、と。
「こうして久しぶりに会えたんだ。せっかくだから色々話も聞きたいし……それにしばらく会う機会もなさそうだしね。どうだい?」
「そりゃもちろん一緒に行けるんなら嬉しいっスけど……」
「ん、流石のアーマーガアも三人同時に騎乗するのは無理」
「ああ、それなら問題ないさ。アースシティまでの定期連絡船があるだろう? それに一緒に乗っていけばいい」
「──ホントっスか!?」
ミストの言葉にカナタは腰を浮かせた。
連絡船。まさかこのユールにそんなものがあったとは。
いや、よくよく考えれば誰もが
──ちなみに余談ではあるが、このユール地方には街と街を結ぶ「道路」が存在しない。
街を一歩外に出れば強力な野生ポケモンが闊歩する
故に、ユール地方の「街」はその全てが海を臨む港町。空路では運べる量に限りがあり、海路が物流のメインを担う以上、そうなるのは必然と言えよう。
閑話休題。
さて、ミスト博士から定期連絡船のことを聞き及び目を輝かせるカナタ。これであの吊り下げ飛行を味わわずに済む。
確かにキャプテン修行で多少慣れはしたが、それでもあんな危険極まりない飛行方法などしないに越したことはない。
そう期待を込めた瞳でルピナスの方を見たカナタであったが、しかし肝心のルピナスは首を横に振る。
「ん、せっかくの申し出だけど遠慮しておく。ポケモンを使った移動はキャプテンとしての修行の一環。定期船なんて軟弱な手段を使うのはキャプテンとしての誇りにかかわる。……それに船は運賃が結構高いし」
「ああ、安心したまえよ。キミたちの分のチケット代も私が出そう。私が言い出しっぺだし、それに懐にも余裕があるからね」
「ん、人の好意を無下にするのもよくない。ありがたく同行させてもらう」
「手のひらクルックルじゃねーか」
なんということだろう。
キャプテンの修行云々と難色を示していたルピナスであったが、ミスト博士が代金を自分が持つと言った途端、瞬く間に態度を反転させ提案を受け入れたではないか。
何と現金な性格であろうか。確かに『奔狼の氷原』のキャプテンは万年金欠の貧乏暮らしであるが、それにしたってあまりにも前言撤回が早すぎる。
そりゃあの吊り下げ飛行を味わわずに済むのは助かるが……軟弱な手段を使うのはキャプテンとしての誇りにかかわるのではなかったのか。
「する必要もない苦労をわざわざ背負って無駄に体力を消耗するのはバカのやること。生き延びるにはその時その時でちゃんと適切な手段を見極めることが肝心」
「はあ、さいでっか」
いけしゃあしゃあとそう述べるルピナスに、カナタは呆れを通り越して感心すら覚えた。
何て分厚い面の皮なのだろう。胸はあんなに薄いのに。
「何 か 言 っ た?」
「ヒエ……な、何も言ってないっスよ」
と、内心でそう呟いたところ突如として飛んだ殺気にカナタは思わず顔を蒼ざめさせた。
口に出してもいないのにどうして貧乳イジリが分かるのだ。怖すぎる。
突き刺さる殺気にビビり散らかすカナタ。
どこかで自らの胸をイジられたことを察し、怒りを燃やすルピナス。
そんな二人の姿を「仲がいいねえ」と呑気に眺めるミスト。
研究所にカオスな雰囲気が満ち溢れた。
さてさて、ミスト博士の提案により共に“アースシティ”へと向かうこととなった二人。
とはいえ、ミスト博士はまだ荷造りの最中でありすぐの出立は不可能。かといって彼女の荷物の中には複数の実験器具も含まれており、下手に触ると危険な代物もあるため荷造りを手伝うことも難しい。
という訳でカナタは手持ち無沙汰で居間に座っている他ないのであった。
ちなみにルピナスはノータイムで茶菓子を漁りにいった。相変わらずのがめつさである。彼女の辞書に「遠慮」の二文字はないようだ。
と、暇を持て余したカナタが無駄に指遊びを始めた──その時。
「うぎゃああああああああああっ!?」
「うおっ!?」
突如として家中に鳴り響いた、大音量の悲鳴。
同時にどんがらがっしゃんと何かが倒れる音。
聞こえてきたのはミスト博士が荷物の整理を行っていた部屋。
これはただ事ではない。すわ一大事かと慌てて部屋へと駆けつけるカナタ。
そこで彼が目の当たりにしたのは──。
「モ、モモモンスタァァァァ!? ちくしょう!! 窓は全部閉めきっていた筈だというのに、一体どこから入り込みやがったんだい!?」
「ちゅ?」
「ウワアアアアアッ!? ヤメロヤメロヤメロそこ動くなァ!! それ以上近づいてみろ!? 必殺のダブルゴールドスプレーが火を吹くぞォ!!」
「ちゅう……」
部屋の隅でガタガタ震えながら涙目でなっさけない悲鳴を上げるミスト博士と──その視線の先にちょこんと座る手のひらサイズのポケモンの姿であった。
【バチュル くっつきポケモン タイプ:むし/でんき】
「えぇ、どういう状況……?」
怖がる要素なぞほぼないであろう手のひらサイズのミニポケモンに、大げさなほどビビり散らかすミスト博士。
そして、そんな彼女を不思議そうな顔で見るバチュル。
何とも訳の分からない状況を前にカナタは思わずボソリと呟いた。
だが、焦りに焦ったミスト博士がその言葉を聞き取ることはできず。というよりも焦りのあまりカナタの存在にすら気が付かず、そのままコント染みた一人芝居を続けていく。
「ああ!! クソッダメだ、ダブルゴールドスプレーはもう荷物にしまっていた!! アイツを追っ払う手立てがないじゃないかい!?」
「ばちゅう」
「ギャアアアアッ!? 近寄ってきたァ!? も……もうダメだぁ、私はここで死ぬんだぁ……きっとお腹を掻っ捌かれて、生きたまま内臓を食べられてしまうんだぁ」
「怖えーよ。どうしてバチュル相手にそんな発想が出てくるんだよ」
やたらと血みどろスプラッタな想像を口走るミスト博士に反射的にツッコミを入れるカナタ。
実際、当のバチュルも“そんなことしねーよ”とばかりに若干困った様子である。そもそもとしてバチュルの口の形状では腹を掻っ捌くことなど不可能だ。
「ん、
と、その時。騒ぎを聴きつけたか、何やら口いっぱいにモノを頬張りながらルピナスがやって来る。
「あ、師匠。……何食べてんですか?」
「ん、サルミアッキ」
「……ああ、あの世界一マズイって評判の」
「ん、それは言い過ぎ。確かにちょっとクセはあるけど慣れれば美味しい。試しに一つ食べてみる?」
「あ、大丈夫です。遠慮しときま──「ああ!? ルピナスくんにカナタくん!! ちょうどよかった助けておくれ!! そのモンスターをどっかに追い払ってくれたまえよ!!」」
そこでようやっとカナタたちの存在に気が付いたか、ミスト博士から二人に救援を懇願する声が届く。
果たしてその言葉を聞いたルピナスは部屋の中のバチュルをひょいと持ち上げると、そのまま窓から外へと逃がしたのだった。
「ん、一件落着」
「ハァー……! ハァー……! た、助かったよルピナスくぅん……危うく命の危機だったよぉ……」
一仕事終えたとばかりにパンパンと手を払うルピナスに、憔悴しきった顔で礼を言うミスト博士。
そのあまりの怯え具合に流石のカナタもいぶかし気な表情を浮かべる。
「いや、アンタ一応ポケモン博士でしょう? そんな調子でちゃんと研究なんか出来るんスか?」
「何を言ってるんだい? 私の専門は空間物理学と量子工学だよ。あんな
「え」
「──ん、この通りミストはけっこうな
「マジか」
告げられた意外過ぎる事実にカナタは目を丸くする。
ポケモン世界で「博士」と呼ばれる存在ならばてっきりポケモンの研究を行っているものと思い込んでいたが、どうやら彼女は違うらしい。
しかも、
頭のおかしい
まあ、同時に“今度実験台にされかけた時は相棒を出してビビってる隙に逃げよう”、とも考えていたのだが。
「ハア……もうやだおうちかえる」
「ん、ミストしっかりして。ここは貴方の家」
「ちくしょう!! そうだった!! ──ええい、もうこんな危険なところに居られるか!! さっさとアースシティまでいくよぉ!!」
果たして、もはやこの研究所は安住の地でないと悟ったか。
ミスト博士は涙目で荷造りを再開するのであった。