最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~   作:野傘

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第14話:全島集会(アルシング)

 “集いの原(シンクヴェトリル)”。

 全島集会(アルシング)の会場たるこの原野は首府アースシティより40㎞ほど内陸、“裂け目(ギャオ)の泉”と呼ばれる湖のほとりにある。

 かつて島中の代表者たちが一同に集い、侃々諤々の議論を繰り広げたことから名付けられたこの場所はしかし今、その名に反した物言わぬ岩と地衣類の絨毯が広がる無人の野となっていた。

 

 ──と、その時。

 水のせせらぎのみが響く原野に、突如として力強い羽ばたきの音が鳴る。

 音の出所は原野の上空、黒鉄の鎧を纏う一羽の大鴉──アーマーガア。

 アーマーガアの背にはトレーナーたるルピナスの姿、そしてその脚にはいつもの如くげっそりした顔のカナタがぶら下がっていた。

 

 アースシティに到着しミスト博士と別れたカナタとルピナス。集会に遅れてはならぬと早々に出立した二人は果たしてしばし後、この会場たる“集いの原(シンクヴェトリル)”へとたどり着いたのだった。

 

「ん、お疲れアーマーガア。ゆっくり休んで」

「うへえ……何度やってもやっぱり慣れねえなぁ、これ……」

 

 着地したアーマーガアに労いの言葉をかけボールへと格納するルピナス。

 一方のカナタは何度やっても慣れぬ宙吊り飛行に辟易としながら、体に結び付けていた命綱を解く。

 

 周囲を見渡せば動くものはカナタたち以外何もない。

 どうやら自分たちが一番乗りであるらしい。些か早く着き過ぎたか。

 

 と、思わず漏れ出たカナタの言葉に、しかしルピナスは“否”と首を振る。

 

「ん、そんなことはない。わたしたちが到着したということは、もうすぐ他のキャプテンたちもくる。間違いない」

「つっても誰か来るような気配もないっスよ。そもそも連絡をとる手段だってないのに……何でそれが分かるんです?」

「“霊王”の天眼は未来を見通す。その呼びかけは全島集会(アルシング)が開かれる未来から逆算して、ちょうど同じタイミングで揃うようにキャプテンたちへ届けられるの」

 

 ルピナスに曰く、全島集会(アルシング)の開催を知らせる“霊王”の呼びかけはキャプテンたちがちょうど同じ刻に集うよう、調整して届けられるとのこと。

 裏を返せば誰か一人でもこの場所にたどり着けば、ほどなくして他の者たちも集うということである。

 

 果たしてそんなルピナスの言葉を裏付けるかの如く、“集いの原(シンクヴェトリル)”に二人と異なる第三の声が響いた。

 

 

「ガァーーハッハッハッハッハァ!!」

 

 

 何処かより轟く大音量の哄笑。

 同時にドバア、ドバアと盛大に水しぶきを上げながら“裂け目(ギャオ)の泉”より何者かがこちらへと近づいてくる。

 

「ほら、さっそく来た」

「おお、本当だ……いや、何でバタフライ?」

 

 見れば水しぶきの発生元はバタフライのフォームで泳ぐ一人の男であった。

 力強い動きで水を掻き分けながら、こちら目がけて進んでくる男。どうしてポケモンを使わず生身で泳いでいるのかは分からないが、まあ何か事情があるのだろう。

 

 

「──トウッ!!」

 

 

 と、そうこうしている内に岸辺へと近づいていた男は次の瞬間、掛け声と共に水面を飛び出し見事な三点(ヒーロー)着地を決めたのであった。

 予想外の方向からド派手な登場を決めた男を唖然として見つめるカナタ。

 一方のルピナスは特に怪しむこともなく男へと近づき、親し気な様子で話しかける。

 

「ん、“ラクサ”。久しい」

「──おおう! キャプテン・ルピナスではないか!! 久方ぶりであるな!! うむ、息災そうで何よりである!!」

(声でっか……)

 

 声を掛けられたことでその存在に気が付いたか、ルピナスの方へと顔を向けた男。その姿を一目見るや途端に破顔し、遠雷を思わせる声で応えた。

 どうやら男はルピナスと知り合いのようだ。このタイミングでここへ来たということは、彼もまたこのユール地方のキャプテンの一人なのであろう。

 

「して、キャプテン・ルピナスよ!! 彼方に見えしあの青年が新たな“狼”のキャプテンであるか!!」

「ん、そう。──カナタ、こっち」

「あ、はい」

 

 ルピナスに促されおっかなびっくりと男へ近寄るカナタ。

 近寄って見れば男は身長2メートル近い巨漢であった。年は40代といったところか。燃えるような赤い髪にこれまた真っ赤な髭を蓄え、豪放磊落を絵に描いたような笑みでこちらを見つめていた。

 しかし、何よりカナタの目を引いたのは男の肉体。ブリーフパンツ(水着)一枚纏っただけのその体には、はち切れんばかりの筋肉(マッスル)が詰まっていた。

 まさしくゴーリキーもかくやの肉体美。思わず“肩にちっちゃい重機乗せてんのかい”と叫びたくなるほどである。

 

「ん、紹介する。こっちがカナタ、『奔狼の氷原(ほんろうのひょうげん)』の新しいキャプテン」

「ど、どうもっス。カナタっス、よろしくっス」

「──で、カナタ。こっちが『鳴神の霊峰(なるかみのれいほう)』のキャプテンを務めている……」

ラクサである!! よろしく頼むであるぞ、()()()()()!!」

 

 

【『鳴神の霊峰(なるかみのれいほう)』キャプテン・ラクサ 】

 

 

 “ラクサ”。自らをそう名乗った男はカナタの手をとり、ブンブンと勢いよく振った。

 そのあまりの勢いにカナタの体が上下に激しく揺さぶられる。かくとうポケモンも顔負けの怪力に、あの筋肉が決して見せかけではないと思い知らされるカナタであった。

 

 と、カナタが“そろそろ腕が千切れるのでは”と思い始めた頃。彼らの傍らにいたルピナスがふと空を見上げ呟いた。

 

「ん、また来た」

「おおう! 三番手は“噴煙”であるか!!」

 

 同時にラクサもまたカナタから手を放し、空を見上げる。

 どうやら新たなキャプテンが到着したようだ。釣られるように上を見たカナタは、極光の空に赤い閃光が輝くのを見た。

 

 ──ぴいいいきゅおおおおお!!

 

 大気を引き裂き鳴り響く、鋭い啼き声。

 現れたのは紅蓮の双翼を持つ一羽の炎隼──ファイアローであった。

 

 

【ファイアロー れっかポケモン タイプ:ほのお・ひこう】

 

 

 双翼より火の粉を吹き出し、凄まじい速度で空を翔けるファイアロー。見ればその脚にはトレーナーであろう一人の青年がぶら下がっていた。

 やがてファイアローは翼を畳むと、トレーナー諸共に急降下を始める。その姿はまさしく真紅の流星が如く、今にも大地へと墜落せんとする勢いであった。

 だが、しかし本物の流星とは違いファイアローは意思を持つ生物。自らの意思で急降下した以上、そのまま墜落することなぞありえない。

 果たして大地へと激突する刹那、ファイアローは再び翼を広げ宙返り、幾度も翼を羽ばたかせ落下の勢いを殺していく。そうして勢いを完全に殺し切った後、自らのトレーナーを無事地へと降り立たせたのであった。

 

「……ご苦労」

 

 自らを送り届けたファイアローに労いの言葉をかけながら、ボールへと格納する青年。年はカナタと同じくらいであろうか。現代的なコートを身に纏い、亜麻色の髪をうなじまで伸ばした眉目秀麗な男であった。

 

「師匠、あの人は……」

「ん、“ソーレイ”。『噴煙の入江(ふんえんのいりえ)』のキャプテン」

「久方ぶりであるな、キャプテン・ソーレイ!! 相も変わらず見事な身のこなしである!!」

 

 

【『噴煙の入江(ふんえんのいりえ)』キャプテン・ソーレイ 】

 

 

 果たしてソーレイと呼ばれた青年は、ラクサからの呼びかけに僅かに手を挙げて返すと、そのままスタスタと自らの定位置であろう場所に移動し佇む。

 つい先ほど曲芸染みた急降下を行ったにもかかわらず、その歩みには一切の淀みはない。

 鍛え方が違うというヤツなのであろうか。未だ吊り下げ飛行を行う度にダメージを負っているカナタは思わず感心するのであった。

 

「あ、そうだ師匠。今来た人に挨拶は……」

「ん、そうだった。じゃあ……あっ」

 

 と、新たなキャプテンにカナタのことを紹介すべく歩き出したその時──カナタたちの頭上に影が掛かった。

 同時に、“集いの原(シンクヴェトリル)”に響く羽音。反射的に空を見上げたカナタはそこで空を泳ぐ()()を見た。

 

 ──ジュララララ……!

 

 三対六枚の黒翼を羽ばたかせゆっくりと降下する一匹のポケモン。

 上半身を覆う黒い毛皮。全身に生え揃う緑の鱗と腹部に浮き上がった毒々しい紫の紋様。一見すれば、その姿は色違いのサザンドラに見えた。

 だが、目の前のポケモンはカナタの記憶にあるサザンドラとは明らかに異なった特徴もまた備えていた。

 まずはその身体。通常のサザンドラに残っていた筈の後肢は完全に退化・消滅しており、さらにそのシルエットも──さながらオリジンフォルムのギラティナを思わせる──長大なものへと変化していた。

 また、腕状になっていた左右の頭も中央のそれと遜色のないほど長く伸び、さらにその形状も進化前のモノズやジヘッドを思わせるものとなっていた。

 正しく、三つの頭を持つ有翼の蛇といったその様相。通常のサザンドラとは似て非なる姿を目にして、カナタは直感的に悟る。

 

(ありゃあ……リージョンフォームか!)

 

 リージョンフォーム。それは第七世代『S・M(サン・ムーン)』にて初登場した、ポケモンの新たなる姿。

 既存のポケモンが異なる環境に適応したことで、従来とは異なる姿へと変化した……いわば亜種のような存在である。

 そしてリージョンフォームはポケモンの種族名の後ろにそれぞれの地方の名を冠した『~のすがた』と呼称されるのが通例。その法則に従うならば、目の前の(リージョン)サザンドラの名は──。

 

 

【サザンドラ(ユールのすがた) どくオロチポケモン タイプ:あく・どく】

 

 

 即ち、“ユールのすがた”。

 酷寒と不毛、そして未知のエネルギー溢れるユールの環境に適応した、サザンドラの新たな姿である。

 

実機(ゲーム)にも出てこねえリージョンフォーム……!! ここが原作にゃ登場しねえ地方である以上、存在するとは思ってたが……マジで見たことねえポケモンがいるんだな!!)

 

 ポケモンマニアたる自らの知識にもない、未知なる姿のポケモン。

 勿論、この世界がゲームそのものではなく、あくまでゲームによく似た別の“現実”世界であることは承知していた。それ故にゲーム上では観測されない未知なるポケモンが存在することも、また。

 だが、実際にこうして実物を目の前にしてマニアたるカナタはやはり興奮を隠せない。未知なる存在。かつての世界において未だ誰も見たことのないポケモン。新作の発表がなされたあの時を、遥かに凌駕する感情がカナタの内に湧き上がる。

 正直に言えば今すぐにでも“ウッヒョー!!”と叫んで駆け寄り、至近距離で舐め回すように観察したい。だが、流石にこの場でそれをやってはマズイ。職場の同僚が集結したような場所でそんなことやってしまっては社会的に終わる。最悪の場合は怒った師匠(ルピナス)にぶち殺される。

 いかにポケモンのこととなれば後先考えないカナタとはいえ、それを理解できる程度の理性は残っている。あと、普通に命は惜しい。

 故に、カナタは湧き上がる熱情(リビドー)をぐっと堪え、その場に留まるのであった。

 

 さて、カナタが己の秘めたる熱情(リビドー)を抑え込んでいる間に、とうとう地面スレスレまで降下したサザンドラ。

 刹那、その背より一人の人影が“集いの原(シンクヴェトリル)”へと降り立った。

 

「……」

 

 その人間を一言で表せば、“異様”であった。

 全体的な体形から、性別は恐らくは女性。背はカナタより頭半分ほど高く、女性としてはかなり長身の部類だろう。

 だが、外見からカナタが読み取れたのはたったのそれだけ。それ以外のあらゆる情報はまるで分からなかった。

 その理由は女性の纏う衣服。喪服を思わせる漆黒のドレスが女性の全身を覆っていた。

 胴は勿論のこと、腕も、脚もその全てが黒い布で覆い隠され、肌の露出は一切なく。さらにはその顔さえも黒いベールで覆っており、いかなる表情も伺いしれない。

 唯一の例外は、視界を確保するためであろうベールの切れ込みから覗く、爛々と輝く紅い瞳であろうか。

 

「……!」

(なんだ、こっちを見て……?)

 

 その時、ベールより覗く真紅の瞳がカナタを射抜く。

 まるで睨め付けるかのような強い視線に、先の興奮が萎むのと同時にどことなく嫌なものを感じたカナタ。

 ──果たして彼の直感は正しかった。

 次の瞬間、黒衣の女からカナタに向けて信じ難い言葉が放たれる。

 

「……なぜ、余所者(よそもの)がここにいる?」

「……へ?」

「ここはユールのキャプテンのみが集うことを許される神聖な場……余所者(よそもの)風情が立ち入ることは許されぬ──()く、()ね」

 

 “余所者は即刻に立ち去れ”、忌々し気な声音でカナタにそう言い放つ女。

 あまりにも予想外な女の言葉にカナタは困惑し、思わずまごつく。

 

 確かに自分(カナタ)はユールの人間ではない。だが、こうしてキャプテンの証(オルタナストーン)を受け取った以上はユール地方のキャプテンである筈だ。

 

「いや。でも、俺は──「私は“()ね”と言ったのだ。(キング)の意を受けし我が言葉は即ちユールの法である。黙して従え」……ッ!!」

 

 だが、そう伝えようとしたカナタの言葉を遮って、一方的に女は話を進めていく。

 まるで“カナタの言葉に聞く価値がない”、とでも言うかのように。

 

「──それに従えぬというのならば、ああ仕方なし」

 

 刹那、女は傍らの相棒(サザンドラ)に一言命を下す。

 

「消せ、【ヘドロばくだん】」

「ジュララララッ!!」

 

【サザンドラの ヘドロばくだん!】

 

「うおっ!!」

 

 果たして女の命を受けたサザンドラの口から、カナタ目掛け黒紫色の毒々しい塊が吐き出される。

 放たれたのは【ヘドロばくだん】。威力90を誇るどくタイプの特殊技だ。

 命中安定、デメリットを持たないどくタイプの技の中ではヘドロウェーブと並んで最高の火力を持つ一撃。無論、そんなもの直撃すればポケモンならぬカナタではひとたまりもないだろう。よくて瀕死の重傷、悪ければ命さえ落としかねない。

 だが、そんな状況を前にしてカナタは動くことができなかった。何せ彼にとってはあまりにも予想外の出来事。悪の組織ならばまだしも、仮にも秩序側に立つ筈のキャプテンが躊躇なく人間目掛け攻撃を命じる。そのような出来事に直面しては混乱するのもまたいた仕方なし。

 避けることも、ましてや相棒を繰り出すことさえ叶わない。まさしく絶体絶命の危機。だが、放たれた【ヘドロばくだん】がカナタの体を焼き溶かす寸前、両者の間に一つの影が躍り出る。

 

「──アーマーガア! 防いで!」

「ガアーーアッ!!」

 

 カナタを守るように割り込んだのは、黒鉄の鎧を纏う大鴉──アーマーガア。

 次の瞬間、黒紫の毒塊が勢いよくアーマーガアへとぶつかるも、彼の身に纏う鋼の鎧を前に何の効果も齎すことなく消え去る。

 

【アーマーガアには効果がないようだ……】

 

「うおお、あっぶねぇ……! た、助かったぜアーマーガア……」

 

 間一髪のところで助けが入り、冷や汗を流すカナタ。

 一方、カナタへの攻撃が途中で防がれたことに女は憎々し気に舌打ちをする。

 

「チッ……何のつもりだ?」

「──それはこっちの台詞。一体どういうつもりなの、“エルダ”?」

 

 

【『瘴気の沼地(しょうきのぬまち)』キャプテン・エルダ 】

 

 

 そんな女──エルダに対し、それはこっちの台詞だと返したルピナス。

 対処が間に合わなければカナタは確実に命を落としていたであろう一撃。無辜の人間に対するあまりにも理不尽な凶行。

 それは内心ではカナタのことを嫌うルピナスをしても、看過できない行為であった。

 

「“どういうつもり”だと? 決まっている。ユールの道理を踏みにじり、神聖な場を土足で荒らした慮外者を排除しようとしたまでのこと。島を荒らす害虫の排除はキャプテンとして当然の責務であろうがよ」

「だとしてもいくら何でもやり過ぎ。いかに怪しい人間であっても、まずは話を聞くべき。……それにカナタはシナトマカミ(キング)からオルタナストーンを授けられた、『奔狼の氷原』の正式なキャプテン。余所者であっても、この場に居る資格はある。他ならぬキャプテン代理のわたしが保証する」

「──ハッ! 笑わせるな。王の信を裏切り、キャプテンたる資格を失った貴様の言葉がどうして信用できる? 大方、適当な余所者をキャプテンと名乗らせ傀儡にでもしようしているに違いあるまい」

 

 “何と浅ましい性根か”。

 忌々し気に、憎々し気に、エルダはそう吐き捨てる。

 

「キャプテン代理などという紛い物の地位に縋るのみならず、偽物さえ用意しようとする落伍者。このようなものが一時でもキャプテン候補であったとは……誇り高き“狼”の一族も堕ちたものだ。こんな輩を選んだ所為で自らの腕を失ってしまうとは、先代も愚かな男よなあ!」

「!!!!」

 

 果たして、エルダの言い放ったその言葉は、ルピナスにとっての【逆鱗】以外の何物でもなかった。

 

「──わたしのことはいくら罵倒しても構わない。甘んじて受け入れよう。……だが、先代(ラッセル)をそれ以上侮辱することは許さない。続けるつもりなら殺してでもその口閉じさせてやる

 

 口調の端々に殺意すら滲ませて、言葉を返したルピナス。

 見たこともない程激昂した師匠(ルピナス)の姿に、傍らのカナタは口を噤み震えあがる他なかった。

 下手に口を挟めば本当に殺されかねない。そう思ってしまうほど、今のルピナスは恐ろしかった。

 だが、そんな彼女からの殺意を直接ぶつけられてなお、せせら笑うエルダ。

 

「ハッ! 言うではないか落伍者風情が!」

「──その落伍者風情に負けたのはどこの誰?」

「──ッ!! 貴様ァ!!」

 

 が、ルピナスから放たれた反撃の言葉に、一瞬にして逆上する。

 

「あれは所詮まぐれの敗北! 次に戦えば勝つのは私だ!」

「そう、なら今ここで試してみる? 尤も、何度()ったところで結果は同じだと思うけど」

「──いいだろう!! あの時の屈辱を……いま! ここで! 晴らしてくれよう!!

 

 膨れ上がる戦意。飛び散る火花。

 一触即発の気配が“集いの原(シンクヴェトリル)”に満ち満ちる。

 互いを不倶戴天の敵を見定めたもの同士。もはや何人たりとも二人を止めることは叶わない。

 

──サザンドラァ!!

──アーマーガア!!

 

 そして一瞬の間をおいて、二人は各々の手持ちへと攻撃を命じ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そこまでだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、今にも戦場へと変わらんとしていた“集いの原(シンクヴェトリル)”が水を打ったように静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として広場に響いた、静かな……しかしよく通る声。

 

「“集いの原(シンクヴェトリル)”は神聖な場。許可なき私闘は禁じられている」

 

 カツン、カツンと杖を鳴らし、進み出るは一人の老人。

 

「故にその戦い……オレが預かるぜぃ」

 

 いつの間に現れたのか、気が付けばすでにそこに居た彼こそは──ユール地方のキャプテン、その最後の一人。

 

「“霊王”のキャプテン。『戦人の神殿(いくさびとのしんでん)』が守り人(ゴジ)たる、このオレ──」

 

 痩身の体に雪避けの長い外套を羽織り、頭にはつば広の帽子を身に着ける。

 白い髭を長く蓄えた顔に、無骨な眼帯を捲いたその姿は──。

 

「──“アッシュ”がよぅ」

 

 ──カナタにはどこか見覚えのあるものであった。

 

 

 

 

【『戦人の神殿(いくさびとのしんでん)』キャプテン・アッシュ 】

 

 

 

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