最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~   作:野傘

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第16話:老人の話はたいてい長くなりがち

「なっ……!?」

「ほう!!」

「……!」

「……フン」

 

 ──英雄行路(チャンピオンロード)

 アッシュが呟いたその言葉に、四者四様の反応を見せるキャプテンたち。

 信じられないと驚愕する者。目を輝かせる者。僅か目を見開く者。鼻を鳴らす者。

 

 そして、ある意味最も当事者に近しいカナタはと言えば──。

 

英雄行路(チャンピオンロード)……って、何スか?」

 

 頭に“?”を浮かべ首を傾げていた。

 

 チャンピオンロード。カナタの知識によれば、それはポケモンリーグ挑戦前の最後の関門となるダンジョンの名である。

 しかしこのユール地方にはポケモンリーグが存在しない。となれば、名前が同じであってもその意味するところは異なるのだろうか。

 

 と、思わず口より零れた疑問を聴きつけたのだろう、ルピナスが答えた。

 

「……英雄行路(チャンピオンロード)はユールに古くからある風習。腕に覚えのある戦士(トレーナー)が相棒と共に五つのキング場を巡り、その地を守るキャプテンの試練を突破して(キング)に謁見するの」

 

 そして、晴れて全ての(キング)に見えた挑戦者は比類なき英雄(チャンピオン)として『戦人の神殿(いくさびとのしんでん)』に永遠にその名を刻む(でんどういり)名誉を得るのだ──と、ルピナスは言う。

 

「はえー、なるほど。ジム巡り(チャレンジ)みてえなもんスか」

「……確かに似ているところはあるけど、英雄行路(チャンピオンロード)は他の地方のジム巡り(チャレンジ)なんかとは違う」

「──え」

 

 ルピナスの語った内容に、ユール地方におけるジム巡り(チャレンジ)のようなものかと納得したカナタ。

 だがしかし、次いでルピナスの放った一言に思わずして固まった。

 

英雄行路(チャンピオンロード)に挑む者は自らの力の証明するため、“ぬしポケモン”が跋扈する内陸部(ワイルドエリア)を越えていかなくちゃならない。勿論、命の保証なんてない。死者だって何人も出てる」

「……マジで?」

「こんなことで嘘なんて言わない。それに死ななくたって怪我を負ったり、心が折れたりで大半の挑戦者は途中で脱落する」

 

 英雄行路(チャンピオンロード)()()()()の命がけの旅。人の領域を離れ、“ぬしポケモン”が支配する野生の世界(ワイルドエリア)を往く難行だ。

 そこに命の保証はなく。頼れるのは己の力と相棒のみ。

 一流の戦士とてユールの自然そのものと対峙する過酷な旅路に心を折られ、離脱するのもざらなのだ。ならばいかにキャプテンとて、未だ素人に毛が生えた程度の実力のカナタをや。

 

 故に、ルピナスは断言する。

 

「だからとてもじゃないけど、英雄行路(チャンピオンロード)に挑戦するなんて──「おいおい、ルピナス嬢。兄ちゃんは他ならぬ狼王に認められたキャプテンだぜぃ?」──ッ!」

 

 ──が、その言葉を遮りアッシュは返した。

 カナタは“他ならぬ狼王に認められしキャプテンである”、と。

 

英雄行路(チャンピオンロード)における挑戦者最大の脅威は彼の地を支配する“ぬしポケモン”どもだ。只人が奴らを相手取って生き延びるには並みの腕じゃあ足りねえ。だが、兄ちゃんは“ぬし”への対抗手段である“オルタナバースト”を持ったキャプテンだ。奴ら相手でも十分に戦える」

「──ッ!! だとしても、カナタはまだキャプテンとして未熟!! 内陸部(ワイルドエリア)を一人で旅するなんて危険すぎる……『奔狼の氷原』としてはとても認められない!!」

「そう焦りなさんな、俺ァ何も一人で旅しろとは言ってねえよぃ? 兄ちゃんが旅慣れてねえのは承知の上だ。──だから、ルピナス嬢も一緒についてってやんな。()()()がいりゃ、兄ちゃんも心強いだろうよぃ」

「え、師匠も挑戦したんスか!?」

 

 アッシュの漏らした一言にカナタは驚きの声を上げる。

 彼曰く、ルピナスもまた英雄行路(チャンピオンロード)に挑戦した経験があるらしい。

 

全島集会(アルシング)から許可を得てねえ非公式(モグリ)のヤツだがな。それでも嬢ちゃんは俺を除いたキャプテン3人に打ち勝ち、その実績を以て全島集会(アルシング)からキャプテン代理として認められたんだよぃ」

「はえー」

「勿論、内陸部(ワイルドエリア)の歩き方だって熟知してらァよい。それにキャプテンである以上はどの道、内陸部(ワイルドエリア)での活動は避けらんねぇ。そのための修行と考えりゃあ丁度いいってもんよ、なあ?」

「それは……そう、だけど……」

「……それに何よりもだ。英雄行路(チャンピオンロード)への挑戦はあくまで狼王のキャプテン(カナタ)の意思次第。挑戦するか否かを決めるのは嬢ちゃんじゃあないぜぃ?」

「……っ」

 

 まるで嗜めるかのようなアッシュからの言葉に、唇を噛んで黙り込むルピナス。

 確かにアッシュの言葉は正しく正論である。提案を受けたのがカナタである以上、挑戦を受けるかはどうかは彼の意思次第。そも代理である彼女がいくら否と唱えようと、正統なキャプテンであるカナタが是とすればそれが優先されるのは当然だ。

 キングの意向は絶対、故にその意を受けたキャプテンの言葉は何よりも優先される……それこそが古くより続くユールの不文律である。

 

「つーわけで、英雄行路(チャンピオンロード)に挑戦するかは兄ちゃんの意思次第って訳だが……どうするよぃ?」

「……」

 

 果たして、そうアッシュを水を向けられたカナタは、しばし考え込むように黙った後……徐に口を開く。

 

「……答える前に一つ教えて欲しいっス。その英雄行路(チャンピオンロード)ってのに挑戦するとなると、結構な期間『氷原』を空けることになると思うんスけど……大丈夫なんスか?」

「安心しろぃ。キング場にキャプテンが居んのは、誤って入り込んだ人間がキングと無用なトラブルを起こすのを避けるためだよぃ。幸い、『氷原』は人里(ミッドタウン)から相当に距離がある。人里のガイド連中がしっかり見張ってりゃあ、しばらく離れてても問題はあるめぇ」

 

 “それに言い出しっぺである以上、俺も協力するしな”──と、アッシュは言う。

 果たしてその言葉を聞き及び、納得したように頷いたカナタ。次いで、“だったら”と彼はアッシュの問いに答えを返した。

 

英雄行路(チャンピオンロード)への挑戦、受けさせてもらうっス」

「──カナタっ!!」

「ンナハハ! そう言ってくれると思ってたぜぃ!」

 

 “英雄行路(チャンピオンロード)へ挑戦する”。

 そんなカナタの答えに信じられないばかりに声を漏らすルピナス。一方、アッシュは“そう来なくては”と上機嫌な笑みを浮かべる。

 

「あなた、自分が何を言っているのか分かっているの? 英雄行路(チャンピオンロード)は本当に危険、文字通り命がけの難行なの。物見遊山気分なら挑むつもりならすぐに撤回すべき」

「でも、やらなきゃキャプテンって認めてもらえないんスよね? だったらやる以外に選択肢ねえじゃないっスか」

「それは……!」

「──それに俺には師匠も、相棒もついてるじゃないスか。俺だけなら無理でも、二人がいれば絶対大丈夫っスよ、きっと」

 

 ルピナスにとってはまさしく無謀といっていいカナタの言葉。

 すぐさまに撤回させようとしたが、しかしキングの眷属(イワンコ)の存在を引き合いに出されれば口ごもる他ない。

 何せカナタはともかくとして、眷属(イワンコ)の強さは彼女も知るところ。その存在一匹でカナタの未熟を補って余りあるほどの力を持っているのだ。

 そこに経験者である自分(ルピナス)がサポートについたのならば……必ずしも無謀な挑戦とは言えなくなる。

 

「だからって……」

「諦めなルピナス嬢。今回はアンタの負けだぜぃ」

 

 それでもなお食い下がろうとするルピナスだったが、そんな彼女を諌めるようにアッシュから声が掛かる。

 

「アッシュ……」

「何よりカナタの兄ちゃん──正統なる狼王のキャプテンがこうして自らの意思を示したんだ。()()の嬢ちゃんがこれ以上口を挟むのは野暮ってもんだぜぃ?」

「……っ! 分かった……」

 

 ユールにおいて優先されるべきは正統なるキャプテンの意思。それが自らの意思を示した以上、代理である彼女にもはや口を挟む権利はない。

 アッシュの示すユール地方の不文律を前にして、ルピナスは引かざるを得ないのであった。

 

 なお──。

 

(ウッヒョー!! 憧れの旅だぜ、旅!! やっぱポケモン世界っつったら旅は欠かせねえよなァ!? 鍛えたわざで勝ちまくって、仲間を増やして次の街へレッツゴーだぜヒャッホホーイ!)

 

 英雄行路(チャンピオンロード)の挑戦を受けた際のカナタの内心が、()()()()であったことは秘密である。

 

 

「──さて、狼王のキャプテンの意思は確かめた。では、これより我が提案に対し決を採る」

 

 

 かくて“英雄行路(チャンピオンロード)へ挑戦する”というカナタの意思を確かめたアッシュは、会場に並ぶキャプテンたちを見回し問うた。

 

 

「キャプテン・カナタによる英雄行路(チャンピオンロード)への挑戦──これを認めるや否や?」

「ガーハハハハアッ!! 『霊峰』は無論、賛である!!」

「……『入江』、賛」

「フン、『沼地』も賛だ。あの時の雪辱を果たしてやる」

「──あ、『氷原』も賛……っス」

 

 

 対し、キャプテンたちもまた口々に賛意を示していく。

 

 

「ならば良し! 全会の一致を以て、我が提案は可決された! 全島集会(アルシング)の名の下、ここにキャプテン・カナタによる英雄行路(チャンピオンロード)の開始を宣言する!」

 

 

 果たして、全てのキャプテンが賛同したのを見届けた後、アッシュは高らかにそう宣言したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 アースシティ。“翠緑に染まる、始まりの大地”の異名を持つユール地方の首都である。

 ユール地方西部、半島の付け根に位置するこの都市は、その地勢から“オルタナの帳”の影響が小さく、ユール地方においては唯一といってもよい「現代文明」を享受できる場所であった。

 

 さて、時は流れてその日の夜。カナタとルピナスはアッシュと共にアースシティのレストランで夕食を共にしていた。

 何ゆえこの面子で一緒に食事を取っているかといえば、全島集会(アルシング)の閉会後、アッシュより“一緒に飯でもどうだ”、と誘われたためであった。

 ちなみに、二人は“アッシュの奢り”であると聞いた瞬間に秒で誘いを快諾していた。

 “貰えるものは貰っておく”、それが『奔狼の氷原』のモットーだ。この世において、他人の財布で食べる飯ほどウマいものはないのである。

 

 とはいえ──。

 

「もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ──!」

 

 師匠(ルピナス)のそれは流石に食べ過ぎなのであるが。

 

 ホシガリスの如く頬を膨らませ、口いっぱいに食べ物を頬張るルピナス。

 その様は元々の幼げな容姿も相まってどことなく小動物のようである。

 しかし、普段の彼女の食事量を知るカナタからすれば、その量は明らかに過大。というか、完全に自棄食い(やけぐい)であった。

 

「……師匠、いくら奢りだからって流石に食べ過ぎっスよ。そんなに食ったら腹壊しますって」

「んぐ──止めないで。今のわたしはとても機嫌が悪い。食べなきゃやってられない」

「いやあ、まあ確かにさっきの会議で色々不本意だったのは分かりますけど……体調崩したら何にもならねえですって」

「ん、それなら心配いらない。ちゃんと()()をかけてから食べてる」

 

 体調不良を懸念するカナタに、ルピナスは心配ご無用と懐から何やら白い粉の入った容器を取り出し、料理へとふりかけた。

 いや、それはふりかけたというよりぶちまけたといった方が正しいだろうか。もはや、料理の上に白い粉の山ができているレベルである。

 

「これでよし」

「いや、明らかにかけすぎでしょうよ。料理がもう見えなくなってんじゃないっスか。──ってか、そもそも何なんすかその粉」

「サルミアッキパウダー」

「……what?」

 

 瞬間、カナタは思わず耳を疑った。

 

「は? え、は? え? サルミアッキ? サルミアッキなんで?」

「ん、サルミアッキはとても体にいい。これさえかければどんなに食べても次の日体調は崩さない」

「──いやいやいや、無理ですって。サルミアッキにそこまでの効力はないですって」

「そんなことはない、サルミアッキは万能薬。風邪にも効くし、二日酔いも食べすぎもこれをキメれば一発で解決。流石に状態異常には効かないけれど、その内効くようになる*1

「おまえは何を言ってるんだ」

 

 師匠(ルピナス)のサルミアッキに対する信頼感が凄すぎる。

 どんだけサルミアッキを信奉しているのだ。そんなに信奉されてもサルミアッキでは荷が勝ちすぎだろう。

 だが、真剣な顔でサルミアッキの力を語るルピナスの瞳には一片の曇りもない。心の底からサルミアッキの効能を信じているようである。

 いったいサルミアッキの何が彼女をそこまで信頼させているか。カナタにはさっぱり理解できなかった。

 

「ンナハハ! いい食いっぷりだなぃ、ルピナス嬢。ほれカナタの兄ちゃんももっと食いねぃ。若者が遠慮するもんじゃねえぜぃ?」

 

 そんな二人のやり取りを見ながらケラケラと笑うアッシュ。

 そのまま上機嫌な様子で肴の干物を口に放り込み、火酒(ブレニヴィン)の入ったグラスをぐいと呷るのだった。

 

「プッハァ、やっぱ火酒(ブレニヴィン)にゃあコイツだねぃ」

「……さっきから気になってたんスけど。アッシュさん、それ何食べてんですか? 何か便所みてえな臭いするんスけど」

「うん? おおうハウカットルのことかよぃ。こりゃユールの伝統的な料理でな。ま、一言で言えばサメハダーの肉にションベンをかけて腐らせたもんだな。ちっとばかし臭えが慣れれば中々イケるぜぃ。兄ちゃんも一つ食うかい?」

「あ、遠慮しときます」

 

 そう言って差し出された干物を丁重に断るカナタ。

 ポケモン食に対して若干の忌避感を覚えたのも確かだったが、それ以上にちょっと食べ物の癖が強すぎる。

 カナタの味覚は一般的な日本人のそれ。流石に癖強伝統食はハードルが高かった。

 それを知って知らずか、アッシュもそれ以上勧めることなく引き下がる。やはり根っからのユール人でなければキツイ代物であるらしい。

 

 と、そんなこんなで食事も一通り終わり、食後の一服に移ったころ。

 静かに酒を呷っていたアッシュがやおらに口を開く。

 

「──こうして兄ちゃんたちを誘ったのは、英雄行路(チャンピオンロード)に挑む前に一つ、兄ちゃんに知っといて欲しいことがあったからなのよぅ」

「知っといて欲しいこと?」

「おうよ。キャプテンであれば……いや、ユールに住まう者ならば必ず一度は耳にする、俺たちの起源たる──物語(サーガ)をな」

 

 “サーガ”。それはユールの起源を物語る神話伝承。

 この地方に語り継がれる伝説であり、同時に今のユールの成立を記録した歴史でもある。

 新たにキャプテンとなったものは“霊王のキャプテン”から改めてこれを語り聞かされるのが習わし。なぜならそれはキャプテンという役目の始まりを示すもの故に、とアッシュは言う。

 

 先の上機嫌な様子とは打って変った厳かな口調に、自然と居住まいを正す二人。

 果たしてアッシュはそんな二人の様子を見て取った後──朗々と語り出した。

 

 

 

「これは遥か昔の話。この島にたどり着いた我らの先祖が目の当たりにした神話の伝承(きおく)。終わりなき「黄昏」を生きるユールの民の──その始まりの物語だ」

*1
なりません

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