最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~ 作:野傘
「なっ……!?」
「ほう!!」
「……!」
「……フン」
──
アッシュが呟いたその言葉に、四者四様の反応を見せるキャプテンたち。
信じられないと驚愕する者。目を輝かせる者。僅か目を見開く者。鼻を鳴らす者。
そして、ある意味最も当事者に近しいカナタはと言えば──。
「
頭に“?”を浮かべ首を傾げていた。
チャンピオンロード。カナタの知識によれば、それはポケモンリーグ挑戦前の最後の関門となるダンジョンの名である。
しかしこのユール地方にはポケモンリーグが存在しない。となれば、名前が同じであってもその意味するところは異なるのだろうか。
と、思わず口より零れた疑問を聴きつけたのだろう、ルピナスが答えた。
「……
そして、晴れて全ての
「はえー、なるほど。ジム
「……確かに似ているところはあるけど、
「──え」
ルピナスの語った内容に、ユール地方におけるジム
だがしかし、次いでルピナスの放った一言に思わずして固まった。
「
「……マジで?」
「こんなことで嘘なんて言わない。それに死ななくたって怪我を負ったり、心が折れたりで大半の挑戦者は途中で脱落する」
そこに命の保証はなく。頼れるのは己の力と相棒のみ。
一流の戦士とてユールの自然そのものと対峙する過酷な旅路に心を折られ、離脱するのもざらなのだ。ならばいかにキャプテンとて、未だ素人に毛が生えた程度の実力のカナタをや。
故に、ルピナスは断言する。
「だからとてもじゃないけど、
──が、その言葉を遮りアッシュは返した。
カナタは“他ならぬ狼王に認められしキャプテンである”、と。
「
「──ッ!! だとしても、カナタはまだキャプテンとして未熟!!
「そう焦りなさんな、俺ァ何も一人で旅しろとは言ってねえよぃ? 兄ちゃんが旅慣れてねえのは承知の上だ。──だから、ルピナス嬢も一緒についてってやんな。
「え、師匠も挑戦したんスか!?」
アッシュの漏らした一言にカナタは驚きの声を上げる。
彼曰く、ルピナスもまた
「
「はえー」
「勿論、
「それは……そう、だけど……」
「……それに何よりもだ。
「……っ」
まるで嗜めるかのようなアッシュからの言葉に、唇を噛んで黙り込むルピナス。
確かにアッシュの言葉は正しく正論である。提案を受けたのがカナタである以上、挑戦を受けるかはどうかは彼の意思次第。そも代理である彼女がいくら否と唱えようと、正統なキャプテンであるカナタが是とすればそれが優先されるのは当然だ。
キングの意向は絶対、故にその意を受けたキャプテンの言葉は何よりも優先される……それこそが古くより続くユールの不文律である。
「つーわけで、
「……」
果たして、そうアッシュを水を向けられたカナタは、しばし考え込むように黙った後……徐に口を開く。
「……答える前に一つ教えて欲しいっス。その
「安心しろぃ。キング場にキャプテンが居んのは、誤って入り込んだ人間がキングと無用なトラブルを起こすのを避けるためだよぃ。幸い、『氷原』は
“それに言い出しっぺである以上、俺も協力するしな”──と、アッシュは言う。
果たしてその言葉を聞き及び、納得したように頷いたカナタ。次いで、“だったら”と彼はアッシュの問いに答えを返した。
「
「──カナタっ!!」
「ンナハハ! そう言ってくれると思ってたぜぃ!」
“
そんなカナタの答えに信じられないばかりに声を漏らすルピナス。一方、アッシュは“そう来なくては”と上機嫌な笑みを浮かべる。
「あなた、自分が何を言っているのか分かっているの?
「でも、やらなきゃキャプテンって認めてもらえないんスよね? だったらやる以外に選択肢ねえじゃないっスか」
「それは……!」
「──それに俺には師匠も、相棒もついてるじゃないスか。俺だけなら無理でも、二人がいれば絶対大丈夫っスよ、きっと」
ルピナスにとってはまさしく無謀といっていいカナタの言葉。
すぐさまに撤回させようとしたが、しかし
何せカナタはともかくとして、
そこに経験者である
「だからって……」
「諦めなルピナス嬢。今回はアンタの負けだぜぃ」
それでもなお食い下がろうとするルピナスだったが、そんな彼女を諌めるようにアッシュから声が掛かる。
「アッシュ……」
「何よりカナタの兄ちゃん──正統なる狼王のキャプテンがこうして自らの意思を示したんだ。
「……っ! 分かった……」
ユールにおいて優先されるべきは正統なるキャプテンの意思。それが自らの意思を示した以上、代理である彼女にもはや口を挟む権利はない。
アッシュの示すユール地方の不文律を前にして、ルピナスは引かざるを得ないのであった。
なお──。
(ウッヒョー!! 憧れの旅だぜ、旅!! やっぱポケモン世界っつったら旅は欠かせねえよなァ!? 鍛えたわざで勝ちまくって、仲間を増やして次の街へレッツゴーだぜヒャッホホーイ!)
「──さて、狼王のキャプテンの意思は確かめた。では、これより我が提案に対し決を採る」
かくて“
「キャプテン・カナタによる
「ガーハハハハアッ!! 『霊峰』は無論、賛である!!」
「……『入江』、賛」
「フン、『沼地』も賛だ。あの時の雪辱を果たしてやる」
「──あ、『氷原』も賛……っス」
対し、キャプテンたちもまた口々に賛意を示していく。
「ならば良し! 全会の一致を以て、我が提案は可決された!
果たして、全てのキャプテンが賛同したのを見届けた後、アッシュは高らかにそう宣言したのであった。
アースシティ。“翠緑に染まる、始まりの大地”の異名を持つユール地方の首都である。
ユール地方西部、半島の付け根に位置するこの都市は、その地勢から“オルタナの帳”の影響が小さく、ユール地方においては唯一といってもよい「現代文明」を享受できる場所であった。
さて、時は流れてその日の夜。カナタとルピナスはアッシュと共にアースシティのレストランで夕食を共にしていた。
何ゆえこの面子で一緒に食事を取っているかといえば、
ちなみに、二人は“アッシュの奢り”であると聞いた瞬間に秒で誘いを快諾していた。
“貰えるものは貰っておく”、それが『奔狼の氷原』のモットーだ。この世において、他人の財布で食べる飯ほどウマいものはないのである。
とはいえ──。
「もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ──!」
ホシガリスの如く頬を膨らませ、口いっぱいに食べ物を頬張るルピナス。
その様は元々の幼げな容姿も相まってどことなく小動物のようである。
しかし、普段の彼女の食事量を知るカナタからすれば、その量は明らかに過大。というか、完全に
「……師匠、いくら奢りだからって流石に食べ過ぎっスよ。そんなに食ったら腹壊しますって」
「んぐ──止めないで。今のわたしはとても機嫌が悪い。食べなきゃやってられない」
「いやあ、まあ確かにさっきの会議で色々不本意だったのは分かりますけど……体調崩したら何にもならねえですって」
「ん、それなら心配いらない。ちゃんと
体調不良を懸念するカナタに、ルピナスは心配ご無用と懐から何やら白い粉の入った容器を取り出し、料理へとふりかけた。
いや、それはふりかけたというよりぶちまけたといった方が正しいだろうか。もはや、料理の上に白い粉の山ができているレベルである。
「これでよし」
「いや、明らかにかけすぎでしょうよ。料理がもう見えなくなってんじゃないっスか。──ってか、そもそも何なんすかその粉」
「サルミアッキパウダー」
「……what?」
瞬間、カナタは思わず耳を疑った。
「は? え、は? え? サルミアッキ? サルミアッキなんで?」
「ん、サルミアッキはとても体にいい。これさえかければどんなに食べても次の日体調は崩さない」
「──いやいやいや、無理ですって。サルミアッキにそこまでの効力はないですって」
「そんなことはない、サルミアッキは万能薬。風邪にも効くし、二日酔いも食べすぎもこれをキメれば一発で解決。流石に状態異常には効かないけれど、その内効くようになる*1」
「おまえは何を言ってるんだ」
どんだけサルミアッキを信奉しているのだ。そんなに信奉されてもサルミアッキでは荷が勝ちすぎだろう。
だが、真剣な顔でサルミアッキの力を語るルピナスの瞳には一片の曇りもない。心の底からサルミアッキの効能を信じているようである。
いったいサルミアッキの何が彼女をそこまで信頼させているか。カナタにはさっぱり理解できなかった。
「ンナハハ! いい食いっぷりだなぃ、ルピナス嬢。ほれカナタの兄ちゃんももっと食いねぃ。若者が遠慮するもんじゃねえぜぃ?」
そんな二人のやり取りを見ながらケラケラと笑うアッシュ。
そのまま上機嫌な様子で肴の干物を口に放り込み、
「プッハァ、やっぱ
「……さっきから気になってたんスけど。アッシュさん、それ何食べてんですか? 何か便所みてえな臭いするんスけど」
「うん? おおうハウカットルのことかよぃ。こりゃユールの伝統的な料理でな。ま、一言で言えばサメハダーの肉にションベンをかけて腐らせたもんだな。ちっとばかし臭えが慣れれば中々イケるぜぃ。兄ちゃんも一つ食うかい?」
「あ、遠慮しときます」
そう言って差し出された干物を丁重に断るカナタ。
ポケモン食に対して若干の忌避感を覚えたのも確かだったが、それ以上にちょっと食べ物の癖が強すぎる。
カナタの味覚は一般的な日本人のそれ。流石に癖強伝統食はハードルが高かった。
それを知って知らずか、アッシュもそれ以上勧めることなく引き下がる。やはり根っからのユール人でなければキツイ代物であるらしい。
と、そんなこんなで食事も一通り終わり、食後の一服に移ったころ。
静かに酒を呷っていたアッシュがやおらに口を開く。
「──こうして兄ちゃんたちを誘ったのは、
「知っといて欲しいこと?」
「おうよ。キャプテンであれば……いや、ユールに住まう者ならば必ず一度は耳にする、俺たちの起源たる──
“サーガ”。それはユールの起源を物語る神話伝承。
この地方に語り継がれる伝説であり、同時に今のユールの成立を記録した歴史でもある。
新たにキャプテンとなったものは“霊王のキャプテン”から改めてこれを語り聞かされるのが習わし。なぜならそれはキャプテンという役目の始まりを示すもの故に、とアッシュは言う。
先の上機嫌な様子とは打って変った厳かな口調に、自然と居住まいを正す二人。
果たしてアッシュはそんな二人の様子を見て取った後──朗々と語り出した。
「これは遥か昔の話。この島にたどり着いた我らの先祖が目の当たりにした神話の