最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~   作:野傘

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第18話:ポケモン、ゲットだぜ! 前編

 ──さて、時は全島集会(アルシング)を終えた明くる日。

 カナタはルピナスに連れられアースシティ近郊の平原までやってきていた。

 

「──あの、師匠。何か英雄行路(チャンピオンロード)挑戦の準備をするっつって急にここまで連れてこられたんですけど……一体何をするんです?」

 

 英雄行路(チャンピオンロード)準備のためと聞かされて、突然街の外まで連れてこられたカナタは“一体何をするのか”とルピナスに問う。

 対し、ルピナスはそんなカナタの疑問に一言、こう答えた。

 

「ん、今日はカナタのポケモンを捕まえる」

「……マジすか!?」

 

 彼女の口から飛び出した答えに、思わず上擦った声を漏らすカナタ。

 無理もない。何せ今回、カナタにとっては初のポケモン捕獲。ポケモン(この)世界に来たからには一度はやってみたかった憧れの行為である。興奮するのも当然であった。

 

 ──ちなみに、キャプテン修行を始めてからカナタはルピナスに勝手なポケモンの捕獲を禁止されている。

 これはまだ未熟なカナタでは複数体のポケモンを育てるのは難しいこと、下手に手持ちを増やすより先ず相棒(イワンコ)とともに戦う力を身に着けることを優先したこと、などの理由があるが……何より“お金がない”という一点が大きい。

 何せこのユール地方において“ポケモン預かりシステム(ポケモンボックス)”が使えるのはアースシティのみ。当然の如く『奔狼の氷原(ほんろうのひょうげん)』に居を置くカナタが使用できる筈もない。

 

 そしてボックスが使えない以上、捕獲したポケモンは手元に置いておく他ないのだが……そうすると食費諸々が掛かるのだ。

 『奔狼の氷原(ほんろうのひょうげん)』はぶっちゃけ貧乏だ。家計はいつだって“かえんぐるま”である。

 ただでさえカナタとイワンコが同居した影響で食い扶持が増えている状態。これ以上養う数を増やす余裕はないという悲しい現実であった。

 

 そんな訳で今まで禁止されていたカナタのポケモンの捕獲であったが……しかし、今回ルピナスはそれを破るという。

 はてさて一体どういう風の吹き回しであろうか。

 

 と、カナタがそう問うてみればルピナスは不本意そうな顔で“英雄行路(チャンピオンロード)のためである”と答えた。

 

「いくら私が付いてても荷物を抱えて徒歩でユールの内陸を旅するのは流石に危険すぎる。だから荷物持ちを兼ねたライドポケモンを予め確保しておきたいの」

「ははあ、なるほど」

 

 彼女の答えにカナタは納得した顔で頷く。

 なるほど。確かにそういった理由ならば納得できる。いかに倹約家(けち)のルピナスとはいえ、命の危険となれば金銭の出し惜しみはしないということだろう。

 ──尤も、最後にボソリと“後でアッシュに請求してやる”と呟いていたのだが。まあ、これもご愛嬌というヤツであろう。

 

 さてさて、理由も分かったところで早速実践である。

 平原に転がる無数の岩に身を隠しながら周囲を見回し、お目当てのポケモンを探すカナタとルピナス。

 狙うのは騎乗が可能で荷物も持てるそれなりの体躯の四つ足のポケモンだ。

 

「──ん、あれが良さそう」

「お、ホントっスか。どれどれ」

 

 と、そこで何かを見つけたのかルピナスが前方を指差しながらカナタに声をかける。

 つられるように見れば、そこに居たのはのんびりと草を食む一匹のポケモン。

 全身を覆う茶色の毛皮。すらりと伸びた細身の脚。丸く大きな尻尾と黒い玉のような装飾を備えた大きな角を持つその姿、間違いない。

 

 ──ぶるるぅ

 

【オドシシ おおツノポケモン タイプ:ノーマル】

 

 その名も“オドシシ”。第二世代・金銀クリスタルで初登場した鹿状のポケモンであった。

 

(オドシシか、確かに師匠の言う条件にゃぴったりだ)

 

 何とも言えぬ表情で草を食むオドシシを眺めながらカナタは内心で独り言ちる。

 人も荷物ものせられる、それなり体躯の四つ足のポケモンでかつそこそこに足は速い。ノーマルタイプ故の攻撃範囲の広さやさいみんじゅつ等の補助技を覚えるなど戦闘力も中々。加えて進化系のアヤシシはLEGENDS アルセウス(ヒスイ地方)においてライドポケモンとして活躍していた実績もある。旅の足としては申し分ないだろう。

 

「よし、それじゃあ早速」

「ん、待ってカナタ」

 

 という訳で早速捕獲せんとボールを片手にいそいそ岩影から出ようとするカナタ。

 が、すぐさまにルピナスによって引き留められる。

 

「師匠、何で止めるんスか」

「オドシシは臆病なポケモン。この距離でノコノコ近づいていったらすぐに気づかれて逃げられちゃう」

「マジっスか、危ねえ。でも、ある程度近寄んないとボールも当てられねえっスよ? どうするんスか?」

「ん、だから()()を使って近くまでおびき寄せる」

 

 そう言ってルピナスが懐から取り出したのは、ほんのり香ばしい匂いのする白っぽい塊であった。

 

「これは……」

「“よせだまのもと”。ポケモンが好む匂いを発する保存食。これでアイツの気を引いて、油断しているところを捕まえる」

「おーなるほど」

 

 “よせだまのもと”。LEGENDSアルセウスにて登場したポケモンをおびき寄せるエサである。

 登場したのが過去の時間軸(ヒスイ地方)であったこと、そして次回作の第9世代(S・V)では影も形もなかったことから既に廃れたものと思っていたが、どうやらこのユールではまだ現役であるらしい。

 恐らくこのユール地方がかつてのヒスイに近しい環境を有しているためなのだろう。

 

 ──と、そう納得したところでカナタはふと思い出す。

 

「そういえば師匠、“よせだまのもと”って確か何かと混ぜないと効果がないんじゃあ……」

「ん、その通り」

 

 そう。ゲームにおいて“よせだまのもと”はそれ単体では効果がない、ポケモンの好物であるエサを練り込むことで初めて力を発揮するアイテムであった。

 そしてそれはゲームならざるこの世界においてもまた同じであるらしい。投げかけられたカナタからの疑問にルピナスは“その通りだ”と返す。

 

「──という訳で今回はこれにどんなポケモンも大好物のサルミアッキを練り込んでいく」

「待て待て待て待て待て」

 

 突如として“よせだまのもと”にルピナスがこれでもかと大量の白い粉をぶちまけ始めたのを見て、カナタは思わず制止の声を上げた。

 

「ん、なに?」

「“なに?”、じゃねーんですわ。明らかにおかしーんですわ。もっとキノコとかマメとか選択肢色々あるでしょうが。何でそこでよりにもよってサルミアッキ(世界一不味いアメ)なんですか、どう考えても逆効果じゃないっスか」

「何を言っているの? サルミアッキはこの世で一番美味しい食べ物。これを使えばどんなポケモンもすぐに飛びつくに決まってる。何もおかしいところはない」

「いやそのりくつはおかしい」

 

 一点の曇りのない瞳でサルミアッキは世界一美味しい、どんなポケモンも大好物だと語るルピナス。

 まるで意味が分からない。本気でそう思っているならどう考えても頭がおかしい。実は危ない薬でもキメてるんじゃなかろうか。カナタは訝しんだ。

 

「ん、そんなに疑うなら試してみるといい。そうすればハッキリする」

「えー……まあ、一応やりますけど……」

 

 さんざっぱら言い募るカナタに、しかしルピナスは“試してみれば分かる”と自信満々の様子で己の作った“よせだま”を押し付ける。

 一方、ルピナスの言葉を疑りつつもカナタはしぶしぶ受け取った“よせだま”──仮に“サルミよせだま”と呼ぶべきか──をオドシシの近くへと放り投げる。

 

 ──!

 

 綺麗な放物線を描きオドシシの傍へと転がった“サルミよせだま”。その音と匂いに気づいたか、オドシシは顔を上げ地面に転がる“サルミよせだま”へと近づいていく。

 そのまま顔を寄せフンフンと匂いを嗅ぐオドシシ。次の瞬間、オドシシは大きく口を開き──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ぺっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──思いっきり唾を吐き捨てたのであった。

 

 まるで“こんなもん食えるかバーカ”とでも言わんばかりの態度。その目つきはさながらゴミを見るそれであった。

 どうやら“サルミよせだま”はオドシシに食べ物とすら認識されなかったらしい。当たり前だ。

 

 ──ぶるるるぅ!

 

 果たしてふしぎなゴミを投げつけられたことで警戒心を煽られたか、オドシシは止める間もなく平原の彼方へと逃げ出したのであった。

 

 

【野生のオドシシは逃げ出した!】

 

 

「──唾吐かれた上に思いっきり逃げられてるんですけど」

「おかしい。こんなことはありえない」

 

 まさしく“残当”としかいいようのない結果に、じっとりとした目つきでルピナスを見るカナタ。

 が、当のルピナスはその視線に気づくこともなく心底不思議そうな顔で首を傾げるばかり。その様子を見るに、どうやら彼女は本気で“サルミよせだま”にポケモンが飛びつくものと思っていたらしい。やっぱり頭がおかしいんじゃなかろうか。

 

 師匠(ルピナス)のサルミアッキへの偏執的なまでの信頼に、もはや正気すら疑い出したカナタ。

 と、その時、上の空であったカナタにルピナスから再び声がかかる。

 

「──ん。カナタ、見て。また来た」

「え……マジっすか」

 

 先ほどオドシシが立ち去った場所を指さしながら、再び何かが現れたと言うルピナス。

 まさか本当に“サルミよせだま”(あれ)に引き寄せられたというのか、とカナタが急いで指さす方向を見れば、そこにあったのは何処となく見覚えのあるポケモンの姿。

 

 ──ンモッフ

 

 オドシシと比べてややずんぐりとした印象を受ける逞しい体格。全身を覆うフサフサとした毛皮。そして何より目を引くのは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(あれは……バッフロンか?) 

 

 カナタの記憶が正しければ、それは“ずつきうしポケモン”バッフロンに他ならなかった。

 ──が、しかし。

 

(でも、微妙に姿が違うような……)

 

 なるほど、確かに目の前のポケモンは“バッフロン”によく似ている。

 だが、よくよく見るといくつかの部分でカナタの記憶にある“バッフロン”と微妙に異なる特徴を備えていた。

 まず目を引くのが全身に生えた長い「毛」だろう。通常のバッフロンの毛は頭部のアフロを除けばそれほど長いものではないが、目の前のポケモンのそれは体から垂れ下がる程に長く伸びている。

 また通常のバッフロンがモデルとなったバイソンよろしく盛り上がった背部をしているのに対し、こちら全体的に扁平だ。

 アフロから突き出ていた長大な角も、記憶よりかなり小さく全体的に鋭角な印象を受けた。

 

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()特徴の数々。それをポケモンマニアとしての知識に照らし合わせれば自ずと正体は見えてくる。

 

(──リージョンフォームか!)

 

 

【バッフロン(ユールのすがた) けながうしポケモン】

 

 

 即ち、リージョンフォーム。不毛と酷寒、未知のエネルギー溢れるユールの地に適応した変種(バリアント)──“ユールのすがた”のバッフロンに他ならなかった。

 

 カナタの視線の先、フンフンと鼻を鳴らしエサを探している様子のバッフロン。次いで地面に転がっていた“サルミよせだま”を見つけると数度匂いを嗅いだ後、パクリと口へと運んだのであった。

 

「嘘だろおい」

「ふふ、さっきのオドシシは何かの間違い。やっぱりサルミアッキは最強のポケモンのエサ。これはもう確定的」

 

 あのよく言ったところでゲテモノ、悪く言えば“かつてよせだまのもとだった何か”を平気で口にした事実に呆然と呟くカナタ。

 一方のルピナスはお手製“サルミよせだま”が効能を発揮したとしたり顔。やはりサルミアッキは万能であるとますます確信を深めたようである。

 

 が、しかし。

 

 ──モッモッモッ……ン゛モッ゛!?

 

 口に入れた“サルミよせだま”を無心で咀嚼していたバッフロン。

 が、突如ビクリと体を震わせ──

 

 ──モ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛~~~~~ッ!!

 

 次の瞬間、悲鳴のような鳴き声とともに地面をのたうち回り始めたのだった。

 

「ほら見てカナタ。あまりの美味しさにバッフロンも転げまわってる」

「どう見ても苦しみ悶えてんじゃねーか」

 

 気が狂ったように地べたを転がるバッフロンの姿。どう見てもあまりの不味さに苦しみ悶えているとしか思えないのだが、ルピナスは美味しさのあまり転げまわったなどと世迷言を抜かしている。

 いったい彼女の目には何が見えているのだろう。サルミアッキの摂りすぎで目と脳がイカレてしまったのだろうか。

 

 と、内心カナタが師匠(ルピナス)の頭の心配をしていたところで──。

 

 

「ン゛モ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」

 

 

「ん? 何か声が近づいてるような……って、危ねえ!!」

 

【バッフロンの “アフロブレイク”!】

 

 突如悶え苦しむバッフロンの鳴き声が近づき……次の瞬間、衝撃と共にカナタたちが身を隠していた岩が()()される。

 突然の出来事に驚くカナタであったが、そこは新米なれどキャプテン。インパクトの瞬間咄嗟に身を翻し、何とか逃れることに成功したのであった。

 

「フーフー!! ブフモオオオオ!!」

 

 カナタの背後、砕かれた岩の残骸を踏みつけながら咆哮を上げるバッフロン。その怒りに染まった瞳がギロリとカナタを射抜いた。

 どうやらカナタのことを自らに変な代物を食べさせた張本人と判断したらしい。“よくも変なもの食わせてくれやがったな”とばかりに角の切っ先をカナタへ向け、再度突進の構えを取る。

 

(クソッタレ、完全にとばっちりじゃねえか!!)

 

 怒り心頭で戦闘態勢を取るバッフロンを目の前に、カナタはそう内心で吐き捨てる。

 師匠(ルピナス)が変なものを用意した所為でとんだとばっちりを受ける羽目になってしまった。

 

(ってか、肝心の師匠(ルピナス)はどこに……あ!!)

 

 と、そこでルピナスの姿が見えないことに気づいたカナタ。一体どこにいったのかと視線を飛ばせば、いつの間にボールから出したのか、アーマーガアの背に乗り空中へと避難したルピナスを捉える。

 

「ちょ、師匠!! ずるいっスよ自分ばっかり!! 俺も乗せてくださいよ!!」

「ん、ダメ。いつでもわたしが助けられるとは限らないんだから、これくらいは一人で対処してもらわないと困る」

「んな無茶な!」

 

 安全な空中から悠々とこちらを見下ろすルピナスに思わず抗議の声を上げるカナタ。次いで自分も乗せてくれと頼むも、ルピナスからはにべもなく断られる。

 曰く、“自分がいつでも助けられる訳ではないのだから、これくらいは一人で対処しろ”、と。

 正直に言って無茶振りとしか言いようがないが、しかしこれ以上ルピナスに抗議をしたとしても無駄だろう。そもそもルピナスは抗議したくらいで考えを変えるような人間ではないし、考えを翻させる余裕もない。

 つまりカナタは独力でこの状況をどうにか打破する必要があった。

 

(──オーケー、ポジティブに考えよう。いくら師匠(ルピナス)が鬼畜だからって流石に俺のこと見殺しにはしねえ筈。ってことはバッフロン(こいつ)は俺と相棒でどうにかできる相手ってことだ)

 

 師匠(ルピナス)の助力は見込めない。ならば、とカナタは考えを切り替える。

 師匠(ルピナス)は上空で静観の構え。戦いに介入してこないということは、つまり師匠(ルピナス)はバッフロンをカナタたちだけで何とかなると判断しているということだ。

 

(よくよく考えりゃあ、バッフロン(コイツ)も師匠の出した条件に合ってるな……ちょうどいい、ここで捕まえて俺の足になってもらうぜ)

 

 覚悟を決め、相棒(イワンコ)入りのボールを片手にバッフロンを見据える。

 相手は未知のリージョンフォーム。手の内の分からぬ危険な存在なれど──しかしそれ以上に興奮が勝った。

 何せカナタは生粋のポケモンマニアにしてポケモントレーナー。見たことのないポケモンを捕獲せんとするシチュエーションに心躍らぬ筈がない。

 

 

「フンモオオオオオ!!」

 

 

 刹那、咆哮と共に猛然と突進を開始するバッフロン。

 さあ、戦端は開かれた。これよりは──楽しい楽しい勝負の時間だ。

 

 

 

 

 

 

【あ! 野生の バッフロンが 飛びだしてきた!】

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