最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~   作:野傘

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第19話:ポケモン、ゲットだぜ! 後編

【あ! 野生のバッフロンが 飛びだしてきた!】

 

 

「モッフモフオオオオオ!!」

 

 

 頑健な蹄で大地を削り、土煙を蹴立てて突進するバッフロン。

 怒りに染まった瞳でカナタをしっかと捉え、その身体を粉々にせんと凄まじい勢いで押し寄せる。

 

(怒り状態のポケモンはボールにゃ入らねえ……! 一発ぶん殴って大人しくさせる……!)

 

 直撃すれば人体など一瞬で大地の染みへと変わるであろう攻撃を前に、しかしカナタはあくまでも冷静。

 何せキャプテン修行の一巻として師匠の手持ちにさんざっぱら追い回されたのだ。この程度の圧など今更どうということはない。

 地獄めいたルピナスの訓練。それを乗り越えたことでカナタはちょっとやそっとでは動じない胆力を手に入れていた。

 

 相棒入りのボールを片手に、迫るバッフロンを見据えながらタイミングを図るカナタ。

 そして、バッフロンが目と鼻の先へ迫ったその瞬間。

 

「セイッ!)」

 

 掛け声とともに地を蹴り、勢いよく前へ転がった。

 向かったのは真正面から迫るバッフロンの左側後方。突進するバッフロンの横をすり抜け、背後を取る。

 

「とりゃああ!!」

 

 刹那、間髪を入れずバッフロンの無防備な後頭部目掛けボール(相棒)を投げ放った。

 

 カナタが行ったのは、その名も『秘技・背面取りの術』。

 背後よりボールを投げつけ相手ポケモンの不意をうつ、伝統的な奇襲戦術である。

 モンスターボール伝来とともにユールにも齎されたこの技術を、カナタもまたキャプテンに必要な技能の一巻として叩き込まれていた。

 

【野生のバッフロンの 不意をついた!】

「ブモ!?」

 

 突如として後頭部へ走った鈍い衝撃に思わずたたらを踏むバッフロン。

 瞬間、ぶつけられた衝撃でボールの留め具が外れ──王の血を引く子狼が飛び出した。

 

【ゆけ! イワンコ!】

「ガルルルオオオン!!」

 

 解き放たれた相棒へカナタは素早く指示を飛ばす。

 

「相棒、“かみつく”だ!」

「ガウル!!」

 

 相棒(カナタ)の声に短い唸りで返したイワンコ。

 バッフロンは不意を打たれ隙だらけの状態。反撃の恐れはない。

 そのままバッフロンの体に取り付き、首筋(きゅうしょ)目がけて思い切り牙を突き立てた。

 

【イワンコの “かみつく”!】

 

 ──が、しかし。

 

【効果はいまひとつのようだ……】

 

「がう……!?」

 

 確かに牙は突き刺さった。にもかかわらず、感じたのは異様なまでの手ごたえのなさ。

 原因はバッフロンの体を覆う分厚い毛皮。ユールの過酷な自然に適応し、原種より発達したそれがイワンコの急所への一撃を阻んだのだ。

 同時に、イワンコを襲ったのは牙へ帯びた“あく”エネルギーを阻害されるような感覚。

 

「ブウウモオオオオオ!!」

「きゅわん!?」

 

 瞬間、背に張り付くイワンコを引き剥がさんとバッフロンが大暴れし始める。

 たまらず振り落とされ、地面へと落ちてしまったイワンコ。それでも寸前にくるり宙返りして怪我無く着地したのは流石と言うべきか。

 が、着地に集中するあまり(バッフロン)から意識を外してしまったのも事実。そして、それは正しく“隙”に他ならなかった。

 

「ブッフロン!!」

「──きゃう!?」

 

【バッフロンの “じならし”!】

 

 イワンコが地に降り立つ刹那、バッフロンの蹄が思い切り大地を踏み鳴らす。

 依るべき大地が揺れ動き、思わずバランスを崩してしまうイワンコ。

 瞬間、無防備なその体にバッフロンの豪脚が振り下ろされた。

 

【バッフロンの “10まんばりき”!】

 

 “じめん”のエネルギーを帯びた踏みつけが平原を穿ち、岩盤すらも叩き割る。

 マトモにぶつかれば耐久に劣るイワンコでは確実に“ひんし”となったであろう一撃。故にギリギリのところで体勢を立て直しどうにか直撃だけは避けたものの、余波の衝撃だけで大きく吹き飛ばされてしまう。

 何度も大地に体を打ち付けながらゴロゴロと転がるイワンコ。それでも地に爪を立てどうにか体の制御を取り戻し、体勢を立て直す。

 

「相棒! 大丈夫か!」

「ぐぬ……いわんぬ!!」

 

 バッフロンの一撃に大きく吹き飛ばされた相棒へ大丈夫かと声を掛けるカナタ。

 対しイワンコは“大事ない”とばかりに鳴き声を返す。

 

 声の調子は未だに軒昂。なれどその足元は僅かにふらついている。

 いかに直撃を避けたとは言え、効果抜群(じめんタイプ)の技のダメージは無視できないものであったようだ。

 

 イワンコは王の血を引く眷属といえど、いまだ未成熟(しんかまえ)である故に耐久は脆い。

 長期戦となれば不利なのはこちら側。ここは一挙に捕獲圏内までダメージを稼ぐ他ないだろう。

 先の攻防、そして彼我のダメージよりそう判断したカナタは、眼前のバッフロンをいかに攻略すべきかと思考を回していく。

 

(さっきの“かみつく”のダメージが明らかに少ねえ。単純な能力差じゃねえな……たぶんタイプ相性による軽減か)

 

 先の攻防にて、不意を打った状態で“きゅうしょ”に攻撃を当てたにもかかわらず、バッフロンの受けたダメージは明らかに少なかった。

 その原因は恐らくタイプ相性によるもの。リージョンフォームのポケモンは往々にして原種から保有するタイプが変わる。ならば眼前のユールバッフロンもまた御多分に洩れずということなのだろう。

 

(“かみつく(あくタイプ)”を半減したってことはアイツのタイプは“かくとう”、“あく”、“フェアリー”の内のどれか……十中八九“かくとう”だろうな)

 

 その姿形や戦法、そして近縁とも言えるケンタロスの例からユールバッフロンのタイプは“かくとう”であると当たりをつけるカナタ。

 

(しっかし、“かくとう”相手となると相棒じゃちと不利か……)

 

 イワンコの使える技はその大半が“いわ”、“あく”、“ノーマル”に偏っており、そのどれもが“かくとう”タイプには効果がいまひとつ。

 さてどう攻めるべきかと思案したところで、カナタはふと思い立つ。

 

あいつ(バッフロン)の毛皮……そういやさっきの“かみつく”もあんまり深く刺さってなかったな……もしかしたら)

 

 先ほどイワンコの突き立てた牙はバッフロンの分厚い毛皮に阻まれて全く刺さっていなかった。

 それはタイプ相性による軽減とは違う、物理的な防御。刹那、カナタの脳裏に物理防御を強化するとある特性の存在が()ぎる。

 あのユールバッフロンの長い毛皮は恐らく寒冷地に適応したが故のもの。熱を内部に閉じ込め寒さを凌ぐ性質を持っていると見て間違いないだろう。

 ならば──。

 

(──試してみるか)

 

 垣間見えた、攻略の糸口。

 カナタはすぐさまに行動に移った。

 

「相棒、タイミングを合わせてアイツに“ほのおのキバ”だ」

「わお……わふん!」

 

 命じたのは“ほのおのキバ”。

 果たしてイワンコは自らの得意とするタイプと異なるタイプによる攻撃に僅か首を傾げるも、しかし相棒の言うことならばとすぐさま攻勢の構えを取る。

 

「フンモオオオ!!」

 

【バッフロンの “アフロブレイク”!】

 

 と、体勢を整えた次の瞬間、バッフロンの突進が再びカナタたち目がけて放たれる。

 

 全身を(いか)らせ、猛進するバッフロン。自らを迎え撃たんとする様を見ながら、それすらも踏み砕かんとする勢いで地を駆ける。

 対し、イワンコは姿勢を低く四肢に力を込め、今か今かとカナタの合図を待っていた。

 

(まだだ……もう少し……後少しだけ引き付けて……)

 

 そして、カナタは土煙を蹴立て迫りくるバッフロンを冷静に観察しつつ、その時を待ち──。

 

「(──今だ!)相棒、やれ!」

 

 その体が射程内へと到達した刹那、鋭い声で相棒(イワンコ)へと合図を送った。

 

「──ワオンッ!!」

 

 カナタからの合図を受けて矢のような速度で飛び出したイワンコ。自慢の俊足を以てバッフロンへ肉薄し──そのアフロへ燃え盛るキバを突き立てたのであった。

 

【イワンコの “ほのおのキバ”!】

 

 

「──ブ、ブモオオオン!?」

 

 

 ──果たして効果は覿面であった。

 燃える牙がバッフロンへと突き刺さり、アフロヘアーから黒い煙が上がる。

 煙を上げる頭に驚いたか。バッフロンは食らいつくイワンコを跳ねのけると、慌てて地面に自慢のアフロを擦り付け、消火にかかる。

 

(やっぱり、そうか!)

 

 まるでカナタたちのことなど忘れたかのようなバッフロン慌てぶりを見て、カナタは自らの予想が当たったことを確信する。

 

(こいつの特性は【もふもふ】みてえな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──!)

 

 直接攻撃を半減する代わりにほのおタイプのダメージが倍加する特性──【もふもふ】。緒戦の結果からカナタはユールバッフロンの特性がそれに類するものでは無いかと予想をつけたのだ。

 その予想は的中。燃え移った炎を消さんと転げまわるバッフロンの様は正しく“ほのお”が弱点であることを示していた。

 

 糸口は、掴んだ。

 ならば後はそれを全力でこじ開けるのみ。

 

「このまま一気に畳みかけるぞ! 相棒、“オルタナバースト”だ!!」

「ガルルルルオオオオ!!」

 

 “ここが切り札の切り時だ”。

 刹那の間にそう判断したカナタは、掛け声とともに手首のオルタナストーンへと意識を集中。瞬間、ストーンからあふれ出た極光の輝きがイワンコの体に吸い込まれていく。

 

【イワンコの オルタナバースト!】

【イワンコはオーラをまとい 全ての能力が上がった!】

 

 迸る極光の輝き。膨れ上がる存在感。

 蓄えられたオーラが未だ小さく幼いその身を“ぬし”に等しい存在へと押し上げた。

 

「──!! フモウ!!」

 

 地面を転がり必死になって炎を消していたバッフロンは、傍らに凄まじい“威”を感じ飛び起きる。

 見れば眼前には総身より輝くオーラを迸らせる子狼(イワンコ)の姿。

 自らと比べ物にならぬ矮躯、なれどそこには巨大な蒼き狼の幻影(すがた)が見えた。

 

 

「──モ、モオウ……」

 

 

 体が震える。心が竦む。

 間違いない。アレは古より一族を屠ってきた我らが天敵──暴嵐纏う冬の王に他ならぬ。

 

 その身を流れる血潮に、遺伝子に、種の記憶そのものにまで刻み込まれた根源的な恐怖。

 それを齎す絶対の天敵を前にしてバッフロンの思考が狂乱に支配される。

 

 

「──フ……ブ……フンモオオオオオ!!」

 

 

 己を苛む恐怖に耐えかね、衝動的にイワンコ目がけ突進するバッフロン。

 技もへったくれもないただただ勢い任せの突進。その膂力故に威力こそ脅威的ではあるものの──今のイワンコにとっては()()()()()()()()

 

「──ガウル」

 

 イワンコの姿が、ブレた。

 総身に充填された膨大なオルタナエナジーによる身体能力の超強化。それがイワンコに爆発的な加速を齎す。

 大地を走る黄昏色の残光。気が付けば、すでにイワンコの姿はバッフロンの至近にあり──。

 

【イワンコの “ほのおのキバ”!】

 

「グウワルルオオオ!!」

「ブ、モオオオオン!?」

 

 刹那、焔を帯びた顎がバッフロンの喉笛を咥え、その身を地に引き倒したのであった。

 

「ブ……ル……」

 

 喉笛、という四肢動物型のポケモンにとっての急所へ加えられた弱点である“ほのお”の一撃。

 さらに突進の勢いそのままに地面に引き倒された衝撃で、バッフロンの体力(HP)危険域(レッドゾーン)へと突入する。

 迫りくる命の危機。それを察したバッフロンの本能が逃走のため肉体を縮小させんとする──その寸前。

 

「そいやっさ!」

 

 カナタから投擲されたボールがバッフロンへとぶつかり、光とともにその身を中に吸い込んでいく。

 

 果たして弱り切った(ひんし寸前)のバッフロンが安全な場所(ボールの中)への誘惑に抗える筈もなく。

 

 ──パチン!

 

【やったー! バッフロンを 捕まえたぞ!】

 

 ──軽快な花火とともにその内へと収まったのであった。




【バッフロンのデータが新しくポケモン図鑑に登録されます!】

 バッフロン(ユールのすがた) けながうしポケモン タイプ:かくとう・じめん
 図鑑説明:『体を覆う長い毛はとても暖かく どんな寒さもへっちゃら。抜け毛で作ったコートは ユールの古くからの特産品だ』

 特性:ダブルコート
 ・物理技とこおりタイプの技のダメージを半減するが、ほのおタイプの技のダメージは2倍になる。
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