最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~   作:野傘

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お待たせして本当に申し訳ない……。


第20話:雷乃発声

 タッタ、タッタ、とバッフロンの背に乗って軽快に地を駆ける。

 周りは岩の大地と地衣の絨毯が広がる荒野。遠目にはチラホラと荒野を駆けるオドシシたちの群れ。抜けるような空にはキャモメやカイデンといった海鳥ポケモンの姿が見えた。

 

 文明の“ぶ”の字もない、大自然の真っ只中。そこに踏み固められた一本道をひたすらに駆ける。

 ポケモン背に乗って果てのない大地を何処までも旅するという、子供のころより憧れたシチュエーション。カナタのテンションが高まるのも無理はない。

 

 テンションの赴くまま、調子に乗ってバッフロンに更なるスピードアップを命ずるカナタ。そんな彼の指示に従い、バッフロンも走る速度を上げる。

 その様は捕獲時の暴走からは考えられないほどに従順だ。これもまた捕獲時の戦闘でカナタたちがしっかりと力を示したためだろう。

 この前イワンコに思い切りメンチを切られてビビっていた姿を見かけたが……まあ、些細なことである。

 

 力強い踏み込みとともにバッフロンの走りがグンと加速する。

 周囲に広がる荒野の景色が飛ぶように過ぎ去っていく。

 強い風が頬を打ち、たまらない爽快感と解放感がカナタの全身に湧き上がる。

 己が衝動の赴くまま、次の瞬間カナタは叫んだ。

 

「──ハイヨー!」

「フモッフモッフモーン!」

 

 まさしく気分はカウボーイ。

 そんなカナタのテンションに呼応するかのように、バッフロンもまた鳴き声を上げるのであった。

 

 

 ──さて、時はバッフロン捕獲より数日後のこと。

 

 数日にわたる慣らしと準備を終え、とうとう英雄行路(チャンピオンロード)へと旅立ったカナタたち。

 アースシティを出立し、目指す先は近傍のキング場──『鳴神の霊峰(なるかみのれいほう)』。かの地を統べるキングポケモン、“雷王”オオイカヅチと見えるべくひたすら歩みを進めていた。

 

 なお、何ゆえに最初の目的地を『鳴神の霊峰(なるかみのれいほう)』を選んだのかといえば、それはかの地が最も人里(アースシティ)から近く到達難易度が低いキング場だからである。

 英雄行路(チャンピオンロード)はユール5つのキング場を巡り、自らの力をキングに認めさせる試練の旅。その際、キング場を巡る順番は最後が『戦人の神殿(いくさびとのしんでん)』であること以外、特に定められてはない。

 だが各々のキング場はその位置や環境によって到達する難易度が変わり、その難度は凡そ『霊峰』、『入江』、『沼地』、『氷原』の順に困難となってゆく。

 そのため挑戦者は『霊峰』より巡るのが定石(セオリー)とされており、カナタたちもまたそれに倣ったという訳だ。

 

 閑話休題。

 

 さてさて、荒涼たるユールの大地を心行くまま疾走していたカナタたち。

 その時、彼らの頭上にふっと大きな影がかかる。同時に耳へと届いたのは、海鳥ポケモンたちとは明らかに異なる、大きく鋼質な羽ばたきの音。

 見上げればそこには優雅に宙を舞う黒鉄の大鴉──アーマーガアの姿があった。

 

「おおっと、師匠が戻ってきたな。うし、バッフロン。ちょっとそこで止まってくれ」

「ブッフモウ」

 

 アーマーガアの姿を見とめ師匠(ルピナス)が偵察より戻ったことを知ったカナタは、バッフロンに指示し疾走を緩めさせる。

 数分の後、長い減速を終えて立ち止まったバッフロン。そのすぐ傍へと、アーマーガアが着陸する。

 ついでアーマーガアの背からひらりと身軽に飛び降りる金色の影。

 行く先の偵察を終え、舞い戻った師匠(ルピナス)にカナタは声をかけた。

 

「師匠、偵察お疲れっス。どうでした?」

「ん。取り敢えず『霊峰』の麓まで見てきたけど、“ぬし”の気配はなかった。このまま進んでも問題はないと思う」

 

 カナタからの問いに一つ頷き、持ち帰った偵察結果を伝えるルピナス。

 

 結果はある意味想定通り。いかに命の保証のない人界の外(ウートガルズ)といえども、ここはキングの領域(なわばり)。その威光によって他の“ぬし”が寄り付くことは滅多になく、()()()()()()()()()()()()比較的安全に往来できる場所である。

 それに『鳴神の霊峰(なるかみのれいほう)』一帯は最大都市たる「アースシティ」の近傍ということもあって、ガイドの見回りも頻繁。例え危険があってもすぐに情報が共有されるのだ。

 

 そう、つまりある意味ここは──街中を除けば──ユールにおいて最も安全と呼べる場所。英雄行路(チャンピオンロード)最初の目的地として選ばれるのも当然であった。

 いわばチュートリアルゾーン。道中に危険な野生ポケモンは少なく、気候は比較的穏やか。旅慣れぬ者が旅の練習を行うのにうってつけと言えよう。

 とはいえ、ここが文明の恩恵が届かぬ野生の領域であることもまた確か。そして人ならざる者の領域においては、いつだって“万が一”が起こり得る。

 そういった意味でもやはりこの地はチュートリアルとしてうってつけであった。基本的には安全。しかし油断すれば命の危機。往来するにはどこが安全かを見極める必要がある。

 文明を拒むユールの地を旅するための基本姿勢。それを養うのにここはまさしくちょうどよい環境なのである。

 

 と、そんな理屈はさておいて。

 

 ルピナスからの報告を聞き、納得したように頷くカナタ。

 そんな彼にルピナスはさらに続けて言葉を紡ぐ。

 

「それから少し先にちょうどいい水場を見つけた。今日はそこで野宿する。案内するから着いてきて」

「ホントっすか。了解っス」

 

 今日の寝床へ案内するというルピナスの言葉に、了承の意を述べたカナタ。

 それを聞き及んだルピナスはアーマーガアの背に乗り込むと、再び宙へと舞い上がり、先導するようにゆっくりと飛び始める。

 

「ようし、バッフロン。後少しで今日はお終いだ。もちっとだけ頑張ってくれよ」

「フンモッフ」

 

 果たしてカナタは股下のバッフロンに声をかけると、空を舞う師匠(ルピナス)を見失わないよう先を急ぐのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばカナタ、あれの進捗はどう?」

「“あれ”……っすか?」

 

 数刻後。焚火の前で夕食のハルズフィスクル*1にスキール*2を塗っていたカナタは、唐突に投げられたルピナスの言葉に首を傾げた。

 

 はて。師匠(ルピナス)の言う“あれ”、とは一体何のことであろうか。

 言われて記憶を探るものの、残念ながらカナタの脳裏にそれらしきものは思い浮かばない。

 

 ハルズフィスクルをモグモグと咀嚼しながら、どうにもピンとこない様子で頭を捻るカナタ。そんなカナタに業を煮やしたか、ルピナスは促すように言葉を続けた。

 

「ん、ほら。この前渡した“バーストわざ”の……」

「──ああ! あの秘伝書っスか!」

 

 と、ルピナスの言葉でようやく思い出したか。

 カナタは手のひらをポンと叩き、納得の表情を浮かべた。

 

 思い出したのは英雄行路(チャンピオンロード)に出立する少し前、ルピナスから渡された三冊の古びた書物のこと。

 英雄行路(チャンピオンロード)攻略のため、と渡されたその名は“秘伝書”。ユール地方においてポケモンに“わざ”──とりわけ“バーストわざ”を覚えさせるため使用する、わざマシンの一種であった。

 カナタの相棒(イワンコ)はまだ未熟。故に王の力を再現するバーストわざ──ヒデンオウギを使うことは叶わない。

 だが英雄行路(チャンピオンロード)を踏破するには“バーストわざ”は必須。“オルタナバースト”は“ぬし”と戦うための力。“ぬし”の纏う極光の加護(オルタナオーラ)を貫き、トドメを刺すには超火力(“バーストわざ”)の一撃が必要不可欠なのである。

 だからこそイワンコはヒデンオウギではない……自らが扱える“バーストわざ”を取得する必要があった。

 

 そこで先の秘伝書の出番という訳である。

 渡された秘伝書は先代キャプテン・ラッセルが進化前(イワンコ)でも扱えるよう編み出した、“日”、“月”、“黄昏”の名を冠するバーストわざが記されたもの。

 そしてカナタには、これらを英雄行路(チャンピオンロード)の早い段階で会得するように、と目標を課せられていたのであった。

 

 さてさて、ルピナスより“バーストわざ”会得の進捗状況を問われ、カナタは思わず“あー……”とあらぬ方向へ視線を逸らす。

 その煮え切らない態度で諸々と察したか、ルピナスは眉を顰めて言った。

 

「その態度、もしかして上手くいっていない?」

「……ウッス。いや、俺と相棒なりに練習はしてみたんスよ? でも、どうすりゃいいのかまるで分からんくてですね……」

「ん、ちゃんと秘伝書の中身は読んだ? やり方は全部そこに書いてあるから、ちゃんと読んだら分からないなんてことはないハズ」

「いや、師匠。読みはしたんですよ、読みは。でもね……肝心の内容が分かり辛くてしゃあないんですわ」

 

 “ちゃんと内容を読んだのか”というルピナスにカナタは顔をしかめて反論する。

 事実、カナタはちゃんと渡された秘伝書に目を通していた。だが、肝心のその内容がカナタにとってはあまりにも難解に過ぎたのである。

 例えば、“月”のバーストわざの発動方法として書かれていた内容はこのようなものであった。

 

 

 

 

 

 

 ──ガッと受けたら、グッと堪えて、キュピン! バキン! ドカーン!

 

 

 

 

 

 擬音。

 圧倒的、擬音。

 

 どうやら先代は感覚派であったらしい。

 渡された秘伝書は全編に渡ってこんな調子で書かれていた。

 

「──これで何をどう理解しろってんですか」

「? これ以上なく分かりやすく書かれてると思うけれど」

「同類だったかあ……」

 

 擬音だらけの難解極まりない内容を切実に訴えるカナタであるが、それを聞いてもルピナスは“これ以上なく分かりやすい”と不思議そうな表情を浮かべるばかり。

 どうやらルピナスもまた先代と同じ感性の持ち主だったらしい。そういえば修行の際も説明は最低限で後は体で覚えろが基本姿勢だったことを思い出し、カナタは頭は抱えた。

 

 これだから天才というヤツは。大した説明がなくとも理解できる師匠(ルピナス)たちとは違い、自分(カナタ)の才能は──ゲームの知識で下駄を履いてはいるが──平々凡々なのだ。これで理解しろというのは流石に無理がある。

 

「内容についてはアレコレ言ってももうどうしようもないっスけど……! せめて解説の一つでもお願いできないですかねぇ……!」

「ん、仕方がない」

 

 “内容についてはもう仕方がないからせめて解説を”と切実に訴えるカナタに、ルピナスは“仕方がない”と一つ頷くと、すっと立ち上がってこう言った。

 

「じゃあ、(実戦で)教えるから構えて」

「デスヨネー」

 

 分からなければとりあえず実践(体で覚えろ)。それが『奔狼の氷原(ほんろうのひょうげん)』の伝統である。

 まあ師匠(ルピナス)に解説を頼んだらこうなるだろうな、とは予期しつつ、本当にその通りの結果となったことに遠い目をしながらカナタはボールを構えるのであった。

 

 

 この後無茶苦茶ボコボコにされた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、時はさらに過ぎて翌日。

 『鳴神の霊峰』を目指して一路邁進するカナタたち。気が付けば道は緩やかな登坂に、周囲の景色も岩と地衣の荒野から青々とした下草の繁る高原へと変わっていた。

 前方には天を支えるかのように聳える台形の山体。あれこそが英雄行路(チャンピオンロード)第一の目的地、『鳴神の霊峰』に他ならない。

 目的地はもう目と鼻の先。逸る気持ちでカナタがバッフロンに先を急がせようとした──その時である。

 

「ぐめえー!」

「ブモッフ!?」

「おわっ!?」

 

 道脇の茂みからバッフロンの鼻先に突如白い影が躍り出る。

 飛び出した影に驚き咄嗟に急停止するバッフロン。おかげで何とか轢かずに済んだものの、代わりにカナタは思い切りつんのめる羽目になった。

 

「ンモッフ!」

「あっぶねぇ、落っこちるとこだった……一体なんだってんだ」

 

 あわや地面に激突するところだった事実に冷や汗を流しつつ、体勢を立て直したカナタ。

 一体なんだったのかと視線を横へ遣れば、白い“モコモコ”したポケモンが何やら慌てた様子で転がり去っていくのが見えた。

 

「……ウールー?」

 

【ウールー ひつじポケモン タイプ:ノーマル】

 

 後ろ姿を見るにあれは間違いなく【ひつじポケモン】ウールーだろう。

 師匠(ルピナス)は確か、『霊峰』一帯はウールーの放牧地であると言っていた。

 ならば道端よりウールーが突然に飛び出したとして不思議ではない。

 ──ない、のだが。

 

「アイツ、何であんなに焦ってたんだ……?」

 

 脇目も振らず一目散に転がるウールーの姿にカナタは妙な違和感を覚えた。

 

「うーん……? 何か思い出せそうな……って、おわー!?

 

 カナタの脳裏を刺激する何かの記憶。

 どうにか思い出そうとカナタが頭を捻ったところで……更なる異変が彼を襲う。

 

「んめー!」

「ぐめめー!」

「べええええええ!!」

 

「な、なんじゃこりゃー!?」

 

 横合いより押し寄せる白いモコモコの群れ。

 道を覆い尽くすほどのウールーたちが現れたのだ。

 

 さながら白い川が眼前に出現したかのような光景に、思わずとして叫ぶカナタ。

 だがそんなカナタには目もくれずウールーたちは先の一匹と同様、押し合いへし合い一目散にカナタの目の前を横切っていく。

 

 まるで恐慌をきたしたかのように転がるウールーたちの姿。それを目の当たりにしてようやく引っかかっていた記憶を思い出した。

 

(……転がってる? 確かウールーが転がるのは──)

 

 ──“敵から逃げる時”だった筈。

 

(──!! まさか!!)

 

 ウールーは()()()()()()()()()()()()、転がって移動する生態を持つ。

 ならば逆説的にウールーが転がっている時は──その近くにウールーたちを脅かす「外敵」が存在していることに他ならない。

 

 そして、カナタがその事実に気が付いた瞬間、まるで図ったかの如く……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ぐるぁぐるぁあっ!!」

 

 

「……ッ!! 今のは──!!」

 

 大気を震わせ響き渡った、心胆を寒からしめる不気味な雄たけび。

 弾かれたように声の聞こえた方を見れば、極光揺らめく空の彼方に小さな黒い()が二つ。

 こちらへと近づいているのか、二つの点は見る見る内に大きくなっていき、ほどなくしてカナタはその姿を捉えることに成功した。

 

「あれは……師匠!?」

 

 点の内一つは、カナタもよく見知ったもの。

 黒光りする鋼の双翼。偵察に出ていた師匠(ルピナス)とアーマーガアに他ならない。

 

 そして──もう一方。

 アーマーガアとルピナスを追うように飛ぶもう一つの影は──。

 

「ぐるぁあう!!」

 

 鬼気迫る雄たけびとともに、悠然と空を舞う大鳥。

 力強く羽ばたく黒と白の二色の翼。刃物のように鋭い鉤爪を備えた鮮やかな黄色の両脚。

 猛禽の如き鋭い嘴に、ふさふさとした白い羽冠。額には紫炎と目玉を思わせる羽根飾り。

 そして何より、全身から迸る極光を思わせる輝き(オルタナオーラ)──間違いない。

 

「ヒスイウォーグル……!?」

 

 

【ウォーグル(ヒスイのすがた)<ぬし個体> おたけびポケモン タイプ:エスパー・ひこう】

 

 

 ヒスイの姿のウォーグル、その“ぬし”個体に他ならなかった。

 

 “なぜ「ヒスイの姿」のポケモンが遠く離れたこのユールの地に居るのか”、と一瞬脳裏に疑問が過るカナタであったが、すぐさまにヒスイウォーグルの生態を思い出し氷解する。

 ヒスイウォーグルは冬季にヒスイより北方の地から飛来する渡り鳥ポケモン。ならばシンオウ(ヒスイ)より遥か極北に位置するユールに、この(ヒスイの)姿のウォーグルが生息していてもおかしくはない。

 

 と、そこまで考えたところでカナタは思考を切り替える。現代まで生き延びたヒスイのリージョンフォームの存在は興味深いが今はそれどころではない。

 何せ──カナタの眼前では、自らの師(ルピナス)が明確な危機に陥っていたのだから。

 

 

「ぐるおおおおおあっ!!」

 

 

 ルピナスたちの背後にピタリと張り付きながら、まるで狙いを定めるかのように飛ぶウォーグル。その双翼に極光色のオーラが収束し──

 

 

【ウォーグルの “オーラウイング”!】

 

 

 ──刹那、無数の斬撃となって解き放たれた。

 

「マズッ……師匠!」

 

 サイコパワーによって圧縮された風の刃がルピナスたちに殺到する。

 オルタナエナジーの影響で極光(オーロラ)色に輝く千刃は、見た目の美しさと裏腹に凶悪なまでの威力を有している。僅かでも掠れば墜落は免れないだろう。

 対しルピナスは、その場をアーマーガアを急旋回。曲芸染みた機動(マニューバ)で迫りくる刃の群れを躱していく。

 げに恐ろしきはその技量。オルタナの力を持たずともキャプテン代理にまで昇りつめた実力は伊達ではないということか。

 かくて常人ならば秒と立たず血煙となっていたであろう【オーラウイング】の嵐を、ルピナスは見事紙一重で凌いだのであった。

 

 ……だがそれほどの技量を以てなお、戦場の優勢は“ぬし”にある。

 

 

「ぐるおぐぎゅるあっ!!」

 

 

 【オーラウイング】のために足を止めていた“ぬし”ウォーグルが翼を羽ばたかせ再びアーマーガアを追い始める。

 再開される追いかけっこ。だが、そこには先とは明確に違う点が一つある。

 

【ウォーグルの素早さが上がった!】

 

 飛翔する“ぬし”ウォーグルの速度が()()()()()()()()()()()

 ──【オーラウイング】という技には使用したポケモンの“すばやさ”を一段階上げる追加効果がある。

 “ぬし”ウォーグルの加速は恐らくそれに由るものであろう。おかげで明らかに全速力で飛んでいるにもかかわらず、ルピナスたちは“ぬし”を振り切ることができないようであった。

 “ぬし”とアーマーガア(ルピナス)の距離は少しづつ、しかし着実に狭まっている。このままでは追いつかれるのは時間の問題だ。

 いかに実力があろうともオルタナストーンを持たない師匠(ルピナス)では“ぬし”に有効打は与えられない。捉われれば即ち一巻の終わりである。

 

 師に迫る紛れもなき危機。

 ならば対抗手段を持つ者(カナタ)がすべきことは──。

 

「──(師匠(ルピナス)からアイツを引き剥がす!)バッフロン、荷物頼んだ!」

「ブッフ!」

 

 判断は、刹那。

 そう言い残して騎乗していたバッフロンより飛び降りると、カナタは同時に腰元より抜き放ったボールを地面目がけて投擲、何よりも信頼する自らの相棒へと呼びかけた。

 

「いくぞ、相棒(イワンコ)ォ!」

「ぐわんぬ!」

 

 呼びかけに応えるようにボールから飛び出たのは茶色の毛皮に身を包む岩狼子(イワンコ)。その身は幼なかれどしかし狼王の血をしかと引く……この場において唯一“ぬし”を打倒しうる存在である。

 軽やかな着地をきめたイワンコは、漂う気配を察してかすぐさまに空を見上げ唸り声を上げる。

 キングの(すえ)たるイワンコにとり、“ぬし”とは己が継ぐべき領土(なわばり)を侵さんとする禽獣夷狄の輩。目の当たりにするだけで虫酸の走る、不快な極まりない存在だ。

 

 “目障りな夷狄の輩め、この場にて叩きのめしてやる”、とでも言うかのようにイワンコは全身に闘志を漲らせ、天に向かって気炎を上げる。

 そしてまさしく()る気満々といった様子の相棒を見遣り、カナタは叫んだ。

 

アイツ(ウォーグル)の注意をコッチに引き付ける! 相棒、“オルタナバースト”だ!」

「ガオッ!」

 

 “応とも”とでも言うような相棒の雄たけびを聞きながら、手首のオルタナストーンへ掌を翳すカナタ。

 瞬間、二人の意思に呼応するようにストーンから極光の輝きが溢れ出す。

 

 

【二人の絆とオルタナストーンが共鳴する……!】

 

 

「ガルルルウオオオオオオン!!」

 

 

【イワンコの オルタナバースト!】

【イワンコはオーラをまとい 全ての能力が上がった!】

 

 

 極彩色のオーラがイワンコへと吸い込まれ、その力を“ぬし”に比肩するものへと押し上げる。

 膨れ上がる存在感。狼王に由来する覇王の威が周囲へとまき散らされた。

 

「──!! ぐぎゃるぐるおおお!!」

 

 果たして効果は覿面であった。

 立ち昇るオルタナオーラ、放たれる覇王(キング)の“威”。己を脅かす「外敵」の出現を感知した“ぬし”ウォーグルはすぐさまに意識の矛先を目の前の獲物(ルピナスたち)から排除すべき敵手(カナタたち)へと変えた。

 

「ぐるおぅおら!!」

 

 

【ウォーグルの “オーラウイング”!】

 

 

 先手必勝とばかりに地上目がけ放たれた極光の刃群。圧倒的な破壊力が込められたソレが標的(イワンコ)を粉砕せんと殺到する。

 次の瞬間、無数の【オーラウイング】が大地に着弾。衝撃に土壌が捲き上がり、辺りは濛々とした土煙に覆われた。

 

「ぐぅるるお……!」

 

 “仕留めたか”。

 土煙に覆われ一寸先も見通せなくなった地上を眺めながら、ウォーグルは独り言ちる。

 突如として感じた己を脅かす強大な(キング)の気配。故に初手より全力で仕留めにかかった。

 必勝を期して放った一撃、いかに(キング)とて只では済まない筈。

 そう思いつつ、効かぬ視界の代わりに己がサイコパワーで以て地上を探ったウォーグルは……次の瞬間、驚愕する。

 

 サイコパワーが告げた結果。

 それは敵手が未だ健在であることと、そして──。

 

「ガルルルオオオオオオ!!」

 

 ──既に敵手が自らのすぐ傍まで迫っていること。

 刹那、弾かれたように顔を上げたウォーグルの目に、地上より駆け上る虹色の軌跡が映った。

 

「──ぐぎゅら!?」

 

 土煙を切り裂き、流星のごとく現れたイワンコ。

 そのまま驚愕で動きを止めるウォーグルの背を蹴飛ばし、さらに跳躍。次いで中空にて身を翻し、眼下にウォーグルを捉えると──

 

「撃ち落とせ! “いわなだれ”!!」

「グルルルルワ!!」

 

【イワンコの “いわなだれ”!】

 

 ──七色に輝く無数の岩塊を叩きつけた。

 

「ぐるるぐるお!?」

 

 背面へと降り注ぐ“いわ”タイプの質量弾。同じオルタナの力を帯びるが故に加護を貫通して叩きつけられた効果抜群の一撃に、“ぬし”ウォーグルの体へ無視しえぬダメージが刻まれる。

 同時に無数の岩塊による衝撃によってバランスを崩し、ウォーグルの体がフラフラと落下していく。

 

 

「ガルルウワオオオオン!!」

 

 

 そして、地へ堕ちんとするウォーグル目がけトドメとばかりにイワンコは特大の岩塊を叩き込んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャアオラァ! 流石だぜ、相棒!」

「がるるわ!」

 

 上空からひらりと身軽に着地した相棒(イワンコ)へ、カナタは惜しみない賛辞の言葉を送る。

 あの嵐の如き【オーラウイング】を掻い潜るのみならず、まさか強敵たる“ぬし”を一方的に叩きのめしてみせるとは。

 先の“ぬしツンベアー”との戦いから相棒は各段の成長を遂げていた。進化前ながらにこれほどの強さに至るその才覚。これもその身に流れる王の血ゆえか、それとも貪欲に勝利を求める本ポケの気質か、あるいはその両方か。

 ともあれカナタにとっての最大の寄る辺が比類なき強さを得つつあることは素直に喜ばしい。

 果たしてそんなカナタの気持ちを察してか、イワンコもまた嬉し気な鳴き声を上げるのであった。

 

「……さて、アイツは」

 

 と、そこでカナタは視線を前方の岩塊の山へと移す。

 表層を覆う緑を消し飛ばされ、むき出しとなった地面に鎮座する、無数の岩が積み重なった塊。イワンコの【いわなだれ】によって作り出されたその下には“ぬし”ウォーグルが埋まっている。

 数多の岩に圧し潰されたウォーグルの姿はここからでは伺えない。だが岩塊は先より完全に沈黙し、僅かな動きすらも見せていない。恐らくは戦闘不能で意識を失った(ひんし状態となった)とみて間違いはないだろう。

 

「ふぅ……終わっかァ。っと、師匠の方は……うん、無事みてーだな」

 

 見上げた空に旋回するアーマーガアの姿を見つけ、ホッと胸を撫でおろすカナタ。

 カナタたちが“ぬし”の気を引いたおかげか、どうやらルピナスたちも無事であったらしい。

 

「よーし、ちっと手当して先に進むぞ。相棒、こっちに来な」

「わっふ!」

 

 “ぬし”の襲撃という予想外の事態に遭ったが、どうにか乗り切った。

 状況からそう判断し、カナタは戦闘で負っただろう傷を治療するため相棒を呼び寄せる。

 対し、呼びかけられたイワンコもカナタの下へ一直線に駆け寄り──

 

「──!! ぬわん!!」

「ぐへっ!?」

 

 ──瞬間、カナタの体を勢いよく突き飛ばした。

 

()ででで……いきなり何を──」

 

 突き飛ばされた衝撃で無様に地面を転がるカナタ。

 相棒の突然の行動に驚きつつ、“いきなり何をするのか”、と顔を上げた……その時。

 

 

【ウォーグルの “サイコキネシス”!】

 

 

 眼前の空間が()()()()()()

 つい先ほどまでカナタの体があった位置、そこがまるで見えない巨大な掌に掴まれたように歪み……地面ごと粉砕される。

 

「────ッッッ!?」

 

 ゾッとカナタの背筋に悪寒が走る。

 あの時、相棒に突き飛ばされていなければ、あの力場に巻き込まれてミンチとなっていただろう。

 相棒の行動はこれを察してのことだったのだ。

 

「ま、さか……」

 

 ──では、これを為した下手人は何者か。

 答えは、決まっていた。

 

 直感の示すまま、視線を再び岩塊へと遣るカナタ。

 瞬間、彼の目の前で岩塊が全て吹き飛んだ。

 

 

「ぐるおぐぎゅるあっ!!」

 

 

 怖気立つ叫びと共に再びその姿を露にした“ぬし”ウォーグル。

 身体のあちらこちらは傷つき、満身創痍といった様相──にもかかわらず、その威圧は未だ健在。

 全身から激しく極光を吹き出させ、爛々と輝く瞳でこちらを見据えるその姿は正しく怪物(モンスター)のソレであった。

 

「嘘だろ……あんだけズタボロだってのにまだ動けんのかよ……!」

 

 オルタナの加護なしで効果抜群の攻撃を散々に受け、一度は意識を飛ばしながらそれでもなお沈まぬ“ぬし”のタフネスに、カナタは驚愕とともに歯噛みする。

 

(クソッタレ、やっぱ“バーストわざ”が無いと“ぬし”にゃあ勝てねえってのか……!)

 

 秘伝書に記された“バーストわざ”は先のルピナスの指導を受けて、ようやく朧気な感覚を掴んだばかり。未だ形となってはおらず、とても“わざ”として出せる状態ではない。

 

 いかに力を付けようとも、通常技では“ぬし”には届かない。

 彼我の間に横たわる厳然とした力の差。ユールの支配者たる自然の猛威を前に自分たちが如何に未熟であるかを思い知る。

 

「ぎぃ、ぐう……!」

「──!! 相棒!?」

 

 ──同時にそれが齎した結果も、また。

 

 カナタの耳に届いた苦痛の呻き。慌てて視線を飛ばせばそこには宙吊りとなった相棒の姿があった。

 何ゆえにイワンコはこうなったのか。原因は先の一件。突き飛ばしたカナタの身代わりとなって“サイコキネシス”の力場に捕らわれてしまったのだ。

 人よりも遥かに頑健なポケモンの身、そして未だ纏っていたオルタナオーラの加護によりどうにか“ひんし”は避けられた。

 だが、与えられたダメージは深刻。おまけに制限時間を過ぎたために“オルタナバースト”は解除されてしまっている。

 

「ぐるるる……ぎゅるるおおお!!」

「ぎゃ……わぅ……」

「相棒!! クソッ!!」

 

 先の屈辱を晴らすが如く締め上げる力を強めるウォーグル。

 ますますとして苦痛に顔を歪める相棒の姿に、カナタは悲鳴のような叫びをあげた。

 

 ──このままでは相棒(イワンコ)の命が危ない。

 

(こうなりゃバッフロンで突喊するっきゃねえ──!)

 

 オルタナの加護なき自分とバッフロンでは“ぬし”に痛打を与えられない。だが、それで一瞬でも相棒から意識を逸らせれば。

 パートナーの命の危機にカナタが破れかぶれの突喊を決意した……その時である。

 

 

 

 

 

 

 

【???の “エレキチャージ”!】

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゅるわい!?」

「んな!?」

 

 稲妻を纏う突撃(チャージ)がウォーグルの横腹に突き刺さる。

 意識の外、横合いからの殴り込みに対応できず、マトモに攻撃を受けて横倒しとなるウォーグル。

 同時に集中が途切れたか、“サイコキネシス”の力場が消失し、締め上げられていた相棒(イワンコ)の体が落下する。

 

「ッ、相棒!!」

 

 重力に引かれ落下する相棒の下へ慌てて駆け寄るカナタ。

 その体が地面へ叩きつけられる寸前、どうにか抱き留めることに成功する。

 

「しっかりしろ、相棒! 大丈夫か!?」

「けへっけへっ……! ぐぅ……わん……!」

 

 自らの腕の中で苦し気に咳き込む相棒の姿に、カナタは一瞬手遅れだったかと焦るも、イワンコがすぐさま“大丈夫だ”とでも言うように鳴き返したことでホッと胸を撫でおろす。

 

「無事だったか……よかった……! ……それにしても、さっきのは一体なんだ……?」

 

 相棒が無事であったことを確認したところで、次に思い浮かんだのはウォーグルに襲撃をかけた謎の存在のこと。

 一体何なのかと視線を向ければ──そこにいたのは(おお)いなる(いかづち)の化身であった。

 

 

「バールゴオォーーン!!」

 

 

 視線の先、総身に極光の輝きを纏い(オルタナバーストし)ながら、ウォーグルの抵抗を物ともせずその身体を踏みつける一頭のポケモン。

 “ぬし”の巨体を軽々と抑え込む、逞しい白黒の四肢。首筋から尾の先までを覆うふさふさとした若草色の毛皮。頭部より伸びる黄金の角。

 

(──ゴーゴート?)

 

 カナタの記憶が正しければ目の前のポケモンは【ライドポケモン】ゴーゴート、その色違いに酷似していた。

 だが、しかし。目の前のゴーゴートらしきポケモンは、記憶にある姿と()()()()()()()()()もまた備えていた。

 

 ()()()()()()首から背中、尾にかけて生えていた“くさのけがわ”は胴の半ばにまで達するほど長く伸び。ハンドル状だった角はまるで戦槌のように分厚く、ねじ曲がって伸びていた。

 だが何よりも目を引いたのは、ポケモンの体が極光と共に稲妻を帯びていたことである。

 黄金の双角とこれまた同色の黄金の蹄からバチバチと音を立て放電を起こす様は、このポケモンが本来のタイプのみならず、“でんき”の力をもまた有していることを示していた。

 

 ゴーゴートに酷似していながら、しかしあり得ざる特徴を備えたその姿。

 事前に師匠(ルピナス)より聞き及んでいた情報が正しければ、このポケモンの正体は──。

 

(リージョンフォーム……ユールの姿のゴーゴート! “雷王”オオイカヅチの眷属か!)

 

 

【ゴーゴート(ユールのすがた) らいていポケモン タイプ:くさ・でんき】

 

 

 即ち、不毛と酷寒、そして極光輝くユールの地に適応したゴーゴートの異なる姿。ユール五王が一角、『霊峰(れいほう)キング』の血を引く眷属たる存在である。

 

「ぎゅるる……ぎゅるるわいい!!」

 

 天を駆ける自らが無様に地面を転がり、剰え忌々しきキングの眷属に足蹴にされる。

 その事実に“ぬし”としてのプライドを傷つけられたか、怒り心頭の様子で拘束を解かんとするウォーグル。

 だがそんな抵抗を意に介さず、ゴーゴートは小動(こゆるぎ)すらすることなく悠然と屹立し続ける。

 

「バルルル……」

「ぐるぎゅわ!?」

 

 大勢は決した。既に勝負はゴーゴートの勝利で揺るがない。

 それでもなお抵抗を辞めないウォーグルに対し、ゴーゴートはまるで付き合うのも飽きたとばかり黄金の雷角を振り上げ──。

 

 

「ゴウラアアイ!!」

 

 

【ゴーゴートの ”サンダーハンマー”!】

 

 

 ──一息に、打ち下ろした。

 瞬間、視界を覆い尽くす眩い閃光。一拍の間をおいて雷鳴の如き轟音が周囲に響き渡る。

 

(──ッ゛! 何つー威力だ……!)

 

 まるで至近距離に雷が落ちたようなビリビリとした感覚。

 放たれた閃光に目を細めながら、感じ取った破壊力にカナタは戦慄すら覚えた。

 

 まさしく古の神話に語られし雷神の鉄槌が如き一撃。

 果たしてそれを真正面から受けて、既に満身創痍であったウォーグルが耐えられる筈もなく。

 

 

「ぐりゅい……げえ……」

 

【効果はばつぐんだ!】

【ウォーグルは倒れた!】

 

 

 閃光が収まった後、そこあったのは黒焦げで完全に“ひんし”となったウォーグルの姿であった。

 

「すげえ……“ぬし”をあんなにアッサリと……」

 

 いかに満身創痍であったとはいえ、“ぬし”ポケモンを“バーストわざ”を使わず一撃で倒す。

 相棒と同じ「キングの眷属」といえど、未熟な自分たちとはレベルが違う。これぞまさしく覇王(キング)の後継。自然の猛威より人界を護る、守護者の力なのだ。

 

 相棒(イワンコ)が未だ至らぬ領域に座す強者。それを前にしたカナタの体に震えが走る。

 それはいずれ相対するであろう敵手への恐怖か、はてまた挑むべき高き壁を前にした武者震いか。

 だが、カナタがそれを認識する前に──突如響いた叫びによって思考は中断されることとなった。

 

 

「ガァーーハッハッハッハッハァ!!」

 

 

 遮るもののない高原に響く呵呵大笑。

 やたらと野太く、テンションの高いその声にカナタは聞き覚えがあった。

 

「この声……確か、“ラクサさん”だったっけ」

 

 思い起こすのは先の全島集会(アルシング)で邂逅したキャプテンの一人。

 筋骨隆々とした体躯とやたらとデカい声、そしてそれに見合った豪快な性格の男であった。

 

 彼は他ならぬここ、『鳴神の霊峰』を守護するキャプテン。そしてこの場にキングの眷属たるゴーゴートが居る以上、相棒たる彼もすぐ近くに居るのは当然である。

 キャプテンの役割の一つが“ぬし”ポケモンの討伐であることを鑑みれば、恐らく“ぬし”ウォーグルの出現に急ぎ駆けつけたといったところか。

 

(……もっと早く来てれりゃあ、相棒も傷つかずに済んだんだがなあ)

 

 苦痛に喘ぐ相棒の姿を思い出し、ほんの僅かそう思うカナタであったが、しかし“まあ、今更か”と頭を振って思考切り替える。

 

(いずれにしろ、ゴーゴートが駆けつけてくれたおかげで俺たちは助かったんだ。感謝こそすれ、不満に思うのはお角違いだろ)

 

 と、カナタがそう思ったところで、“トウッ!”という叫びとともに目の前で赤毛の巨漢が見事な三点着地を決める。

 

「おおう、おおう! ご苦労であったな我が相棒よ! 我輩の足では間に合わぬ故、急ぎ先行してもらったが……うんむ! キッチリと片付けたようであるな!!」

「バルゴーイ」

「ええと、すんません。ラクサさん、危ないところを救けてもらっ……て……」

 

 全島集会(アルシング)の時と変わらぬ声量で己が相棒を労うラクサ。

 そんな彼にカナタは礼を述べようとして──思わずビシリと固まった。

 

「おお! そこに見えるはカナタ青年ではないか! なるほど! 先のぬしと戦っていたのは貴方であったか!! いやはや、救援が遅れてすまんである!」

「……へ」

 

 だが、それもいた仕方のないことだろう。

 何せ、朗らかな表情でこちらに近づくラクサは──。

 

 

「変態だーーーー!!!!」

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()

*1
魚の切り身の干物。ユールでは主にミガルーサの切り身で作られる。癖の強いものが多いユール伝統食の中では比較的癖がなく、異邦人であるカナタも素直に美味しいと思える味である。

*2
ヨーグルトの一種。味はどちらかといえばチーズに近い

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