最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~   作:野傘

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第22話:『鳴神の試練』

 ──さて、時はカナタの全裸晒し事件の翌日。

 

 カナタとルピナスは晴天の『鳴神の霊峰(なるかみのれいほう)』を連れ立って歩いていた。

 目的地は『霊峰』の一角。そこで“英雄行路(チャンピオンロード)“最初の試練が執り行われるのだ。

 ちなみにお相手であるラクサは“試練の前に軽く準備運動をしてくるである!“と言って朝早くに飛び出して行ったためここにはいない。

 時間的に考えれば恐らくは既に試練の場にてカナタたちを待っているのだろう。勝手に飛び出していったとはいえ、あまり待たせるのもマズイ。

 という訳でカナタたちは準備もそこそこ、さっそく試練の場に向かっているのであった。

 

「ん、本当にびっくりした。てっきりあなたもラクサと同じ趣味(脱衣癖)の持ち主なのかと思った」

「いやホントもうマジでスンマセンした」

 

 むっつりとした顔で先を歩むルピナスに、カナタはゲッソリとした声でそう返す。

 

 実際、この件に関しては知らなかったとはいえ屋外で露出したカナタが全面的に悪い。

 異性であるカナタが入浴中にもかからわず近づいたルピナスにも非があるように思えるが、そもそもユールの温泉文化では水着着用と男女混浴が一般的。つまり彼女はごく常識的な行動をとったに過ぎない。

 一方のカナタはそんな文化が主流の地に拘わらず屋外で全裸を晒したのである。これでは変態の誹りを受けるのもむべなるかな。

 生憎カナタには年下の女子に“変態”と罵られて喜ぶ癖はない。むしろ普通に傷つく。というか身近な人間に特殊(アブノーマル)な性癖持ちと思われるなど死にたくなるレベルだ。

 幸い、全身全霊の説得(いいわけ)で何とか誤解を解くことには成功したが、危うく人生の危機である。こんなところで社会的に死ぬなど勘弁願いたい。

 

 と、憔悴した顔で謝罪を続けるカナタを見て少々罪悪感を覚えたか。ルピナスはため息を一つ吐き、こう返した。

 

「ハア……でもまあ、あなたがこっち(ユール)の常識に疎いのは知ってるし、それをうっかり忘れてたわたしも悪い。だからこの件はもう気にしなくていい。──でも、次からは本当に気を付けるべき。街中でやったら大問題になりかねないから」

「ウッス、肝に銘じまっス」

「ん、そうして……それで話は変わるけれど」

 

 そう言って、ルピナスは僅かに首を傾げながら問うた。

 

「試練の方は大丈夫なの? ラクサには勝てそう?」

「正直に言えばキツイっスね……でも、始まる前から負けるつもりはないっスよ」

 

 “ラクサに勝てるのか?”というルピナスからの問いに、正直に自らの所感を答えるカナタ。

 ラクサは能力、経験、力量凡そあらゆる要素において自身を上回るトレーナー。それを相手取って“絶対勝てる”などとは口が裂けても言えない。

 だが、勝負において絶対はない。“絶対勝てる”がありえないのと同じくらいに、“絶対負ける”こともまたありえないのだ。

 故に負けるつもりは毛頭ない。いかに絶望的な戦いであろうとも、カナタは全力で勝ちにいく所存であった。

 

「──そう」

「ウッス、それに一応奥の手だって無いわけじゃ──」

「おおう! そこに見えるはカナタ青年にキャプテン・ルピナス! ようやっと参られたか!! 待ちくたびれたであるぞ!!」

 

 

 と、カナタがそこまで話したところで、突如として遠雷のような声が二人の元へと届く。

 どうやら話に夢中になっているうちに、いつの間にか目的地まで到着していたらしい。

 顔を上げ声のする方へと目をやると、そこにはもはや見慣れた赤毛の巨漢が立っていた。

 

 

 ──なぜかブリーフパンツ(水着)一枚で。

 

 

「えぇ……何でパンイチ……」

 

 カナタの記憶が正しければ、確か小屋から出ていく時は普通の恰好をしていた筈。だが目の前のラクサは何故だかブリーフ一枚。一体何があったというのか。

 というか、寒くないのだろうか。もうすぐ夏が近いとはいえ、『鳴神の霊峰(なるかみのれいほう)』は標高が比較的高く、風が強いため普通に上着が必要なくらいなのだが。

 

 昨日の全裸と比べればまだマシだが、それでも明らかに場違いな服装を見てカナタは困惑の声を上げる。

 

「ん、また脱いでる……」

「何で脱いでるんスかアンタ。出てく時は普通の恰好のしてたでしょうが」

「ガッハッハッ! うんむ! 試練前に軽く準備運動のつもりで相棒と力比べをしていたのだが……ついつい熱が入ってしまってな! 電撃が直撃して使い物にならなくなってしまったのだ!」

「何してんだアンタ」

 

 大事な試練の前にいったい何をやっているのか。

 というか力比べで電撃が直撃して服がダメになるなど一体何をどうしたらそうなるのだ。まさか生身でポケモンと角力(すもう)をとっていた訳でもあるまいに。

 

「うむ、然り! とっていたのは角力(すもう)ではなくグリマ(レスリング)である!」

「とってんのかよ」

 

 とっていたらしい。

 

 何でポケモンと生身でレスリングしてるのだ。意味が分からない。

 そしてなぜ電撃を喰らってそうピンピンしてるのだ。訳が分からない。

 普通、人間は電撃を喰らえば怪我するし、最悪の場合は死ぬ。なのに何で服だけボロボロになる程度で済んでいるのだ。

 

「鍛えておるからな!!」

「鍛えただけで人間を超越するのやめてくれません?」

 

 どこぞのマサラ人を思わせるラクサの耐久力に、カナタはドン引きする。

 ポケモンじゃないのだ。鍛えれば(レベルアップすれば)電撃も平気になるとかありえないだろう。

 

 ──いや、よくよく考えればこの(ポケモン)世界の“ニンゲン”がカナタの(現実)世界の人間と同一の種族とは限らないのではなかろうか。

 この世界には現実世界の動物の代わりに“ポケモン”がいる。現実世界において人間もまた動物の一種。ならば、この世界における人間も“ニンゲン”という名のポケモンの一種なのでは? つまり鍛えれ(レベルアップすれ)ば電撃を浴びても傷一つ付かなくなるというラクサの理論もあながち間違いではないのないのでは……。

 

「ん、カナタ落ち着いて。単にラクサがおかしいだけだから」

「あっはい」

 

 と、漏れ聞こえた言葉に対するルピナスのツッコミでカナタは我に返る。

 流石にラクサがおかしいだけだったらしい。そりゃそうだ。

 

「ラクサも、バカなこと言ってないでさっさと試練を始めて。じゃないとまた全裸になってたって奥さんにチクるよ」

それだけは勘弁して欲しいである

 

 ルピナスの一言に、先の豪快な態度から一転、ラクサは真顔で勘弁して欲しいと告げた。

 相棒からの攻撃には耐えられても、嫁さんの怒りには弱いらしい。どうやら尻に敷かれているようである。

 

 次いでカナタたちに“案内する”と呼びかけ、そさくさと歩き出したラクサ。

 その後に続いて歩きながら、彼の態度が気になったカナタは声を潜めて話しかけた。

 

「そんなに奥さんが怖いんスか……」

「うんむ、我が妻の怒りはキングの次に恐ろしいゆえ……。おイタをし過ぎたことがバレたら吾輩は……ちょん切られてしまうである……

「ヒエッ」

 

 なにそれこわい。

 小声ながらも重々しいラクサの言葉に、カナタは小さく悲鳴を上げた。

 同時に下腹部辺りに若干の寒気を感じ──何をとは言わないが──思わずとして縮み上がる。

 

 一体何をちょん切られてしまうのだろう。想像するだに恐ろしい。

 もしも会うことになったら絶対に変な真似はしないようにしよう。カナタは密かにそう誓うのであった。

 

 ──と。まあ、そんな益体もないことはさて置いておいて。

 ラクサに連れられたカナタたちが辿り着いたのは、『霊峰』の一角にあるだだっ広い草地。

 緑の牧草から大小無数の岩が顔を覗かせるそこには、よくよく目を凝らせば何やら草に紛れて線のような模様が見て取れた。

 長方形の中心に円のような模様が配された図形。カナタはすぐさまにそれがポケモン勝負に使用するバトルコートのそれであることに気が付いた。

 なるほどここが試練の舞台ということらしい。

 

 次いでラクサは、カナタにバトルコートの片端へ進むよう促すと、自らもまた円を挟んだ反対側の端へと立つ。

 そしてカナタが定められた位置に立ったのを見るや、咳払いを一つして──徐に口を開いた。

 

「うんむ! では少々時間が経ってしまったが……これより“英雄行路(チャンピオンロード)“の第一、『鳴神(なるかみ)試練(しれん)』を始めるである!!

「──!」

 

 その一言で場の空気が、変わる。

 弛緩した雰囲気はその一切が消え去り、代わって満ちたのは──戦の前の猛烈な重圧(プレッシャー)

 眼前の戦士(ラクサ)から放たれるひりつくような闘気にカナタは無意識の内に身構える。

 これこそが真なるキャプテン。ユールの支配者(キング)より己が嗣子を託された神官にして、“ぬし”の脅威より人界を護る守護者の「威」であった。

 

「先にも述べた通り、我が試練は相棒(けんぞく)同士の一対一。いかにキングに認められたとはいえ、人界を護る藩屏に弱兵は不要。故、カナタ青年が真に我が同胞に相応しき実力を持つか……見定めさせてもらうである」

 

 果たして、眼前の若者が己の背を預ける同胞たり得るのか。

 それを見定めんとするキャプテンの冷徹な視線を受けて──カナタはそれを真っ向から睨み返す。

 

「上等。俺と相棒の力、存分に見せてやりますんで──精々見定めてみてくださいよ」

「──ガーハッハッハァ!! その意気や良し!!」

 

 圧倒的な強者を前にしてなおも啖呵を切って見せるカナタに、ラクサは愉快気に呵々と笑う。

 

 威勢がよいことこの上ない。若者らしい無鉄砲。ああ、そうでなくてはならぬ。

 例え今の実力が未熟であっても、この青年はきっと良きトレーナーとなるだろう。

 

 ──だからこそ手は抜かない。

 

「しからばこれ以上の会話は不要!! 戦士の言葉は即ち刃!! 戦士の語らいは即ち刃を交わすことよ!! さあ、若き戦士(トレーナー)よ!! 狼王に見い出されし最も新しきキャプテンよ!! 存分に語り合(しあ)おうぞ!!」

 

 一触即発の気配が戦場に満ちる。

 草地の只中に設えられたバトルコートで向き合う両者。己が得物(モンスターボール)を手に構え、どちらともなく視線を交わす。

 “目と目があったらポケモン勝負”。勝負の前に視線を交わし、互いの戦意を確かめ合う戦士(トレーナー)同士の決闘の作法。

 

 そして、互いの戦意を確かめ合ったならば──

 

「いけ! 相棒(イワンコ)!」

「粉砕せよ! ゴーゴート!」

 

 ──いざ尋常に勝負開始。

 

 

 

【キャプテンの ラクサが 勝負をしかけてきた!】
 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「ぐわんぬ!」

「バーバリゴート!」

 

 投げ放たれたボールが開き、内より二匹のポケモンがバトルコートへと飛び出す。

 片や、狼王の眷属。シナトマカミの嗣子たる岩狼子(イワンコ)

 片や、雷王の眷属。オオイカヅチの後継たる雷山羊(ゴーゴート)

 戦場に着地しお互いを視界を捉えた両者。すぐさま牙を剥きだし威嚇するイワンコに、泰然たる面持ちで佇むゴーゴート。一見すれば対照的な二体、しかしどちらもがその瞳の奥にごうごうたる闘志を燃やしていた。

 

 互いの闘志を察し合い、双方己が肉体に力を込める。

 戦場に生じる一瞬の均衡。刹那、それは背後より響いた相棒(トレーナー)の声で崩れ去った。

 

「相棒、“かげぶんしん”だ!」

「がるるわ!!」

 

 先手を打ったのは、挑戦者(チャレンジャー)たるカナタの方。

 発された指示は“かげぶんしん”。“まずは相手の出方を伺う”、そう思ったが故の指示である。

 果たして信頼する相棒の声に応えんとイワンコはその身を無数に分裂させる──

 

 

「様子見などとは笑止千万! その思惑ごと粉砕せよ、“グラススライダー”!!」

「バ・リリゴート!!」

 

 

 

【ゴーゴートの “グラススライダー”!】

 

 

 

 ──よりも速く、眼前にゴーゴートの巨体が迫っていた。

 

「──わふっ!?」

「マッズ──避けろ、相棒(イワンコ)!!」

 

 蹄に稲妻閃かせ、滑るかのように草原を疾駆するゴーゴート。その速度は雷光が如く。瞬く間に敵手の懐へ肉薄する。

 一方のイワンコは迫りくる若草色の巨躯を前に、すぐさま“わざ”を中断。代わって横合いに勢いよく飛び退り、ギリギリのところで“グラススライダー”の射程より逃れ得る。

 

「──避けるか! だがしかし!」

「バルルル!!」

 

 しかしながら、ラクサのゴーゴートは歴戦の強者(つわもの)

 敵手(イワンコ)が“グラススライダー”の射程から逃れたのを見て取るや、自らの角に稲妻を纏わせ──思い切り振り抜いた。

 

 

【ゴーゴートの “サンダーハンマー”!】

 

 

 果たして“グラススライダー”の勢いのまま放たれた雷槌は、その軌跡に沿って無数の電撃を形跡、疑似的な“でんきショック”となってイワンコへと殺到した。

 

「ぎゃう!?」

 

 放たれた電撃をなんとか避けんと慌てて身を捩るイワンコ。しかし中空にあっては満足に身動きが取れず、一条の雷光にしたたかに身を貫かれてしまう。

 

「相棒、大丈夫か!?」

「……ぐ、いわんぬ!」

 

 電熱に焼かれ、煙を上げて地面に転がる相棒(イワンコ)に“無事か”と呼びかけるカナタ。

 対し、イワンコは痛みに顔を顰めつつも“大事ない”とばかりに吠える。

 

 見る限り若干のダメージは負ってはいるものの戦闘に支障はなさそうだ。どうやら先の電撃は“わざ”によって生じた余波のようなもの。見た目に反し威力はそれほどないようである。

 

 健在な相棒の姿に安堵しつつ、次いでカナタが思うのは先の攻防こと。

 あの時、ゴーゴートは相棒が“かげぶんしん”を発動させるよりも速く“わざ”を繰り出していた。

 素早さ自慢の相棒よりも速い“わざ”の行使。恐らくは“グラススライダー”の持つ“グラスフィールド状態”下において相手より先に繰り出すことができる(先制技)性質を利用したものだろう。それ自体は疑う余地はない。

 

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(相棒に“かげぶんしん”を指示したのは勝負を始めてすぐ(1ターン目)だった。そしてあのゴーゴートが相棒より素早いとは思えねえ……つまりはアイツは“わざ”以外の方法で“グラスフィールド”を展開した)

 

 相手が“かげぶんしん”に先制したということは、即ちカナタが指示を出す前に既にグラスフィールドは展開されていたということ。

 ならば必然、展開したタイミングは試合開始後すぐ、ボールから飛び出た直後となる。

 そしてカナタの記憶が正しければ、そのような芸当が行えるものは──ただ一つ。

 

「とくせい……“グラスメイカー”か!」

「然り! 我が相棒の踏みしめし地は、常に草花が()(いづ)る! これぞキングより受け継し豊穣の力よ!!」

 

 とくせい・“グラスメイカー”。ボールから出た直後、場にグラスフィールドを展開するポケモンの“とくせい”の一つ。

 実機(ゲーム)にあっては第9世代現在において、カプ・ブルル(伝説のポケモン)ゴリランダー(草御三家)系統しか持ちえない極めて強力な“とくせい”である。

 

(クソッタレ、“グラスメイカー”にグラスラのコンボとかどこぞのゴリラみてーな真似してやがって!! あんなもん“いわ”タイプの相棒が喰らえば一発でお陀仏だぞ!?)

 

 先制攻撃のからくりを看破しつつ、しかしその顔に浮かぶのは焦燥の色。

 ただでさえ低耐久のイワンコでは耐えられるかも怪しい一撃。それが素早さに関係なく先制で放たれるというあまりにも不利な状況を前に、カナタの頬へ冷や汗が伝う。

 

(ここで“ひんし”状態になっちまったら作戦も何もあったもんじゃあねえ……!)

 

 か細い勝機をものにすべく、無い知恵を絞って必死に考えた末に見出した策。

 だが、それもこんなところでひんし状態となっては何も意味がない。どうにかこれを凌がなければ策を打つこともできないのだ。

 

(幸い、グラスフィールドの効果にゃあ制限時間がある……それまで、何とか避け続ければ)

 

 ──まだ、勝ち目はある。

 

 判断は一瞬。

 瞬間、カナタは相棒へ向かって叫んだ。

 

「──“グラススライダー”の動きは直線的だ! 相棒、全力で避け続けろ! “グラスフィールド”の効果時間が過ぎれば、もう先制はできねえ!」

「! ぐわん!」

「我が相棒の“とくせい”効果を知悉していたか! しかし、知られたところでやることは変わらぬ! ゴーゴート、“グラススライダー”である!!」

「バルル・ゴー!!」

 

 “グラスフィールド”の効果が切れるまで時間稼ぎを目論むカナタ。

 それを知ってなお、やることは変わらぬと攻勢を命ずるラクサ。

 そして各々がトレーナーの指示を受け、再び動き出さんとするポケモンたち。

 

 ──かくて『試練(しょうぶ)』は第二ラウンドへと移行する。

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