最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~   作:野傘

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第26話:温泉回にサービスシーンは付き物

 さて時はカナタが『鳴神の試練』を終えた、少し後。

 ラクサからの誘いにより──半強制的に──共に温泉に浸かることとなったカナタは、キング場のほど近くに湧く天然温泉へとやってきていた。

 黄昏色の空の下、揺らめくオーロラを眺めながら大自然の只中にある秘湯に浸かる……本来であればどんな疲れも癒されること間違いなしのシチュエーション。

 ──にもかかわらずカナタは現在進行形で疲労が蓄積していた。

 

 

「ガーハッハッハァ!! この身に溜まった疲労が洗い流される感覚!! やはり試合の後のひと風呂は格別であるな!! キャプテン・カナタもそうは思わぬか!!?」

「アッハイソッスネ」

 

 

 ──圧が、凄い。

 圧倒的な筋肉の持ち主から圧倒的な声量に圧され、カナタは思わず内心でそう独り言ちる。

 

 原因はカナタのすぐ傍らにて呵々大笑する巨漢、ラクサ。この筋骨隆々の男が延々と話しかけてくるおかげでカナタは大変に気疲れしているのであった。

 ……誤解なきように言っておくが、別にカナタがラクサのことを嫌っているという訳ではない。むしろ豪放磊落できっぷのいい様には好感を覚えているくらいだ。

 ただ、それはそれとしてだ。決して大きくない温泉の中でゴーリキーもかくやのマッチョにバクオングみてえな声で話しかけられ続ける。しかも当のマッチョとはそれほど親しくもないという状況(シチュエーション)である。

 こんなん一般人であっても気疲れする。ましてや陰キャの気があるカナタにとっては言わずもがなであった。

 

「……」

「わふ?」

 

 癒しを求めるようにカナタは温泉で泳ぎまわっていた相棒(イワンコ)を抱き寄せ、無言で撫でる。

 突然のカナタの行動に不思議そうな顔を浮かべるイワンコであったが、すぐに心地よさげな顔で目を細めた。

 

(癒される)

 

 やはり相棒との触れ合い(ポケリフレ)は最高の癒しだ。

 これをやればどんなに辛い目にあっても耐えることができる。

 ポケリフレは万病に効く。今はまだ効かないが、いずれ状態異常にも効くようになる。

 

 腕の中で相棒(イワンコ)をモフり倒し、現実より逃避するカナタ。

 そんな彼の心情を知って知らずか、その時ラクサからカナタへ一つの質問が飛んだ。

 

「ところで唐突なのだがキャプテン・カナタ、其方ルピナス嬢のことをどう思っているのだ?」

「本当に唐突っスね」

 

 何の脈絡もなく放たれたラクサからの言葉に、意図が掴めずカナタは首を傾げる。

 果たして当惑した様子のカナタを見たラクサは“ならば”と、もっと()()()()()()()()()()()()()()

 

「うむ。端的に言えばな……キャプテン・カナタ、其方ルピナス嬢を妻として娶るつもりはあるか?

「──ぶっふぉお!!」

「……ケッ!」

 

 ラクサの口から飛び出した、トンデモナイ爆弾発言にカナタは思わずとして吹き出す。

 同時に彼の腕に抱かれていたイワンコは露骨に不機嫌な顔となった。

 

「ゲッホ! ゲッホ! いきなりなんちゅーこと言い出してんですかアンタ!? 師匠(ルピナス)と結婚……って冗談じゃねえっすよマジで!?」

「む、そうなのであるか? 一つ屋根の下で共に暮らしていると聞き、吾輩としてはてっきりお互い憎からず思ってるものと思っていたのだが」

「いや、ねーっスから。まかり間違っても師匠とだけは絶ッッッ対にありねーっスから」

 

 ルピナスと自分が憎からぬ間柄などというラクサの世迷言に即座に否定を返すカナタ。

 さもありなん。余人であればいざ知らず、お相手はルピナス。あのちんちくりんで真っ平の、愛らしい見た目の癖して血も涙もない鬼畜ロリータである。

 自らへの態度がもうツンデレどころかツンドラレベルの相手に、どうして“憎からず”などということが言えようか。

 むしろ少しでも好感度を稼ぐ方法があればこちらが知りたいくらいなのに。

 

 ましてやそんな相手との結婚など、それこそ天地がひっくり返ってもありえない。

 よしんばカナタがトチ狂ってプロポーズなどしても、帰って来るのは冷たい視線か、罵倒か、あるいは鉄拳であろう。

 生憎カナタには童女にしばかれて喜ぶ趣味はない。身心ともにボコボコにされるのは普通にゴメンである。

 

「つーわけで現状結婚する可能性はゼロっスね。仮に俺がOKしても師匠の方が確実にNG出しますわ」

「そうであったか。うーむ、ならば残念であるが仕方がない。結婚話についてはこれで終いとしよう。吾輩としてはお似合いだと思うが、双方が望まぬ結婚など不幸しか齎さんからな」

「そうして貰えるとありがてぇっス。……にしても、何でいきなりこんな話を?」

 

 カナタの熱心な説得の甲斐もあり──すこぶる残念そうな様子であったものの──結婚話を引っ込めるラクサ。

 色々な意味で人生終了の危機が去ったことに安堵しつつ、カナタはラクサへ何ゆえいきなりこのような話を切り出したのか問うた。

 

「うんむ。まあ、結婚については吾輩としても少々端折り過ぎたが……簡単に言えば其方とルピナス嬢の今後の身の振り方を決めた方が良いと思ったのである」

()()()()()?」

「然り。『鳴神(なるかみ)試練(しれん)』を突破しオオイカヅチよりその実力を認められた以上、もはやキャプテン・カナタを半人前とは言えぬ。押しも押されぬ立派な一人前のキャプテンよ。……となれば、次にやってくるのは嫁取り話であろう」

 

 “とりわけキャプテン・カナタは異郷の出故な”。先ほどまでの快活さとは打って変わった真剣な顔でラクサは言う。

 

「キャプテンとはキングと人界とを結ぶ架け橋となるべき存在。その有無が“ユール地方”の安全保障に直結する重職中の重職であり、故に任じられし者は己が命を懸けてユールを護る役目がある。ならばこそユールとの繋がりが弱い余所者が選ばれたのならば、伴侶をあてがい身内に取り込もうとするのは当然のことよ」

「おおう……政略結婚……」

「吾輩から見ても些かに前時代的であることは否めん。しかし、そうして無理やりにでも外来の優秀な者を繋ぎ留めねば、この過酷なる“最果ての地”にて人界を護ることなどとても出来なかったであろう。なれば一概に悪弊と断ずることもできんである」

「あー……」

 

 渋面を浮かべたラクサの言葉に、カナタは非常に納得する。

 ユール地方の環境は極めて過酷だ。周囲を取り囲むのは極北の荒海。土地の大半は不毛の溶岩原と氷河。内陸には強大な野生ポケモンが(ひしめ)く一方、”オルタナの帳”によって文明の利器はそのほとんどが使い物にならない……と、ぶっちゃけ人間が暮らすには不適当としか言いようがない。

 そんな環境で外来の優秀な人材を繋ぎ留めようとすれば、それこそ身内に取り込むしか方法がなかったのであろう。それは理解できた。

 ──尤も理解は出来ると言っても、受け入れるかどうかは話が別だが。

 

 何せ結婚である。俗に“人生の墓場”などと喩えられる、一生の内の重大イベントである。

 彼女いない歴=年齢で恋愛経験皆無のカナタにとって人生において最も縁遠い代物だ。

 しかも勧められているのは恋愛もへったくれもない、前時代的な政略結婚である。

 現代日本の価値観が染みついたカナタに取り、受け入れ難く思うのも当然のことであった。

 

「いずれにせよ、キャプテン・カナタの嫁取り話は不可避。ならば名も知れぬ娘御が宛がわれるよりは先んじて顔見知りと婚姻を結んだ方がよい、と。そう思ったのである」

「だから師匠を、と」

「うんむ。何よりルピナス嬢は代々“氷原”のキャプテンを輩出してきた『狼』の一族の生まれにして、先代キャプテン(ラッセル殿)の孫娘。血筋の面においても、正当性という面においてもこれ以上に相応しい相手はおるまい」

「そりゃまあ……そうなんでしょうけども……」

「それに吾輩としても()()()()()()今のあの()に、現役のキャプテンという後ろ盾ができれば一安心だったのであるが……」

「……ん?」

 

 その時、至極残念そうな様子で呟かれたラクサの言葉にカナタはふと違和感を覚えた。

 カナタの耳が正しければラクサはルピナスに“身寄りがない”と、確かにそう言った。

 だがそれはおかしい。ルピナスは先代キャプテンの“孫娘”であり、氷原のキャプテンを輩出してきた『狼』の“一族”の生まれ。ならば両親や他の親族がいてしかるべきの筈である。

 だというのにラクサの物言いは、まるで彼女が天涯孤独であるかのよう。これはいったいどういった訳であろうか。

 

「あの、ラクサさん? 今、師匠に“身寄りがない”って……」

「む? 何だ、ルピナス嬢より伝えられなんだが? ……いや、そうさな。確かに好き好んで話すようなことでもあるまいか」

 

 そんなカナタの疑問に対し怪訝な表情を浮かべたラクサであったが、すぐさま納得したように頷いた。

 

「ならば知っておいた方がよかろう。あの娘には“身寄りがない”。先代殿があの娘にとって唯一の親しい肉親であり、先代殿亡き今は天涯孤独の身の上よ」

「!!」

「そも、ルピナス嬢はユールの血を引くものの生まれは海外……幼き頃に両親を亡くし、養護施設にいたところを唯一の親族であった先代殿に引き取られたと聞く。つまりは、あの娘には地縁がないのである」

 

 果たしてラクサの語った言葉は正しくカナタの予想通り。

 キャプテン代理という立場にありながら、ルピナスには頼れる親戚がいない。それどころか先代が唯一の親族であり、半ば孤児のような存在だという。

 

「先代殿が亡くなった時、吾輩は一度ルピナス嬢を引き取ろうと申し出たのである。しかしあの娘はそれを拒絶した……一族の誇りにかけて他のキャプテンの風下には立たぬ、とな。そして自らの実力で他のキャプテンを打倒し、キャプテン代理の立場を勝ち取ったのだ」

 

 “それほどまでにあの娘の「“氷原”のキャプテン」に対する思いは強い”。そう言って、ラクサは深いため息を吐いた。

 

「今のルピナス嬢の立場は“キャプテン代理”であるがためのもの、故にキャプテン代理でなくなればあの娘は本当に行く当てがなくなってしまう。だが、例え行く当てをなくしたとしても、ルピナス嬢が吾輩の──他のキャプテンの手を取ることはあるまい。施しを受けるくらいなら飢えて死ぬ、あの娘はそういう子だ」

「……ッ」

「先に聞き及んだルピナス嬢のキャプテン・カナタに対する態度も恐らくはその「キャプテン」に対する思いがゆえのこと。決して自らの意思でキャプテンとなった訳ではないキャプテン・カナタにとっては理不尽極まりなかろうが、それでも……」

 

 そして、ラクサはこれまでにない程に真剣な瞳でカナタを見つめ──。

 

「ルピナス嬢を忌避するのは構わぬ。だが、どうか彼女を()()()()()でやってくれぬか」

 

 ──そう、頭を下げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 ──気に入らない。

 

 頭を下げる雷王のキャプテン(筋肉)我が相棒(カナタ)がしどろもどろで返事をする様を眺めながら、(イワンコ)が抱いたのはそのような感情だった。

 ニンゲンならざる我には彼らの鳴き声を完全に理解することは出来ぬ。しかしながら凡その意味合いであれば推測することであれば可能である。

 故に、雷王のキャプテン(筋肉)があの小娘について口にした途端、我の気分は途轍もなく不機嫌なものとなった。

 

 我が相棒との心地よき触れ合い(リフレ)との最中であったというのに。よりにもよってあの小娘の存在を思い出させるとは……全くもって腹立たしいことこの上無い。

 

 小娘──個体としての名をルピナスというあのニンゲン。

 キング(マカミ)が語ったところに曰く、あれは元々我が相棒(カナタ)の先代が次代のキャプテン候補として我らの縄張りまで連れてきたもの。しかし、キングとの間に結ばれし盟約を犯しその資格を失ったと、そう言っていた。

 

 本来であれば、盟約の反故は死を以て償うが当然。しかしながらキングはあれの命を奪わず、資格のはく奪のみで済ませた。

 なんでも先代が自らキャプテンの地位とオルタナストーンを返上することで代償を支払ったからだそうだ。

 

 ……まあ、あれの過去についてはどうでもよい。

 問題なのは我が相棒(カナタ)があれを妙に気に入っているということだ。

 なにせ散々に敵意を向けられているにもかかわらず、あの小娘を追い出す素振りも見せない程である。

 もしや自らの(つがい)とでもするつもりなのだろうか。ニンゲンの美醜についてはよく分からぬ我であるが、にしたってあの小娘は少々貧相に過ぎると思うのだが。

 

 それに何よりもだ。あれはあまりにも「死」の臭いが染みつき過ぎている。

 特にここ最近は酷い。漂う死の気配に鼻が曲がりそうになる程だ。あれではもはや半分死体のようなものではないか。

 あんなものが我が相棒の(つがい)になるなど絶対にゴメンだ。むしろ一刻も早く引き剥がして然るべきだろう。

 

 そもキング曰く、あれは()()()()()()()()()

 災厄(ラグナロク)を呼び寄せる()()()()()というではないか。

 

 何故キングはそのような危険物を放置し、我が相棒(己がキャプテン)と共に在ることを許しているのか。

 あまつさえ、我ら眷属にあれを排除することを禁ずるなど。全くもって訳が分からぬ。

 

 まあ、いい。元より我はあれにさして興味などない。

 目障り故に何処かへ消え去れば御の字であるが、我が相棒(カナタ)が望むのならば傍に在ることくらいは許してやろう。

 

 ……だが我が相棒(カナタ)がいかに許そうとも、あの小娘が我が相棒(カナタ)を害そうとするなら話は別だ。

 

 カナタ。我が相棒。我が爪と牙を預けると決めた唯一のニンゲン。

 

 例え相手が誰であろうとも、我は我が半身(カナタ)を傷つける者を許さない。

 カナタは命を賭して我を救った。故に我は己が命を賭けてカナタを護ると決めた。

 即ち、我と相棒(カナタ)は一心同体。なれば我が相棒(カナタ)に仇なすことは我に仇なすことと同じである。

 

 故にもしも、あの小娘が我が半身にも等しき相棒を傷つけ、その手にかけんとしたならば──我は一切の躊躇なく、あの小娘へと牙を突き立てよう。

 

 

 

 ──その結末が例え、取返しのつかぬ破局であろうとも。

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