最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~   作:野傘

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第3話:“そらをとぶ”って考えたらかなり怖くね

「へー“ユール地方”……いや、ドコだよそれ!?」

 

 

 【悲報】ポケモン世界に転移したと思ったらまるで知らん地方だった件。

 

 

 ルピナスから告げられた聞き覚えの無い地方名にカナタは思わず“どこだよ”と零す。

 “ユール地方”──それがカナタの転移させられたこの地の名前らしい。

 どうやらカナタは既存のいかなる地方とも異なる、まるで未知の地方へ放り込まれてしまったようであった。

 

 一方のルピナスは自分達たちが今まさに居る地方の名を知らない様子のカナタに、怪訝な表情を浮かべる。

 

「ユール地方を知らない? さっきポケモンが創作物として語られてる世界から来たって言ってたのに?」

「いやあ、語られてるっつっても世界の全部が明らかになってる訳じゃないというか……」

「……よく分からないけど、とりあえずあなたがこの地方のことを何も知らないのは分かった。じゃあ、簡単に教えてあげる」

 

 そうしてルピナスが語ったところに曰く。

 ユール地方はガラル地方の遥か北方、北極圏に位置する島である。

 島の大半は極寒の凍土と不毛の溶岩原に覆われており、そこには強力なポケモンたちが闊歩する原始の自然が広がっている。

 そして人間たちはそんな過酷な環境で生き延びるべく、“キング”と呼ばれる5体の強力なポケモンと協力関係を結んでいる……とのことであった。

 

「そんなキングが治める“キング場”の一つが、他ならぬここ『奔狼の氷原』。で、わたしはキャプテン代理としてその管理を任されているというわけ」

「はあ、なるほど」

 

 ルピナスからユール地方の概要を聞き及び、なるほどと相槌を打つカナタ。

 正直、彼のお粗末な頭脳では彼女の説明を全て理解することは出来かねたが、とりあえずこの地方がとにかく過酷な地方であることだけは分かった。

 

(北極圏の島、溶岩と氷……モデルはアイスランドってところか? しっかし、“キング”に“キャプテン”……ねえ。ポケモンが脅威と思われてることといい、まるでヒスイみたいだ、な……ッ!?)

 

 その時、何の気なしに彼女の姿を眺めていたカナタの視線がとある一点に釘付けとなる。

 

「おいおいおい、マジかよ……」

 

 カナタの視線を捉え離さぬもの、それは彼女の腰元にぶら下がるソフトボール大の球体。

 

「ん、どうしたの?」

「いや……あんたが腰からぶら下げてるそれって……」

「? “モンスターボール”のこと?」

 

 突如と驚愕の表情を浮かべたカナタに首を傾げつつ、その名を答えるルピナス。

 なるほど確かに彼女の腰にぶら下がる上面が赤く塗られた球体……それは間違いなくモンスターボールだ。

 だがしかし、“只の”モンスターボールではなかった。

 

 現代のモンスターボールと異なる木目の浮かんだ下部に、パッチン錠型の開閉スイッチ、頂点部分にハトメが取り付けられた古めかしい形式。カナタの記憶が正しければ、ああ、それは紛れもなく。

 

「ヒスイボールじゃねえか!!」

「うわっ」

 

 遥か昔、シンオウ地方がヒスイ地方と呼ばれていた時代のモンスターボールに他ならなかった。

 

「……びっくりした。いきなり大声出してどうしたの?」

「あ、ああ。すまねえ、ちっと驚いちまってよ。……えと、つかぬ事聞くんだけども。アンタそのモンスターボールって一体どこで手に入れたんだ? 俺の知ってる限り、かなり古いタイプのモンスターボールの筈なんだが……」

「ん、そういえばユール外の人間にとってはこのボールは珍しいんだった」

 

 カナタの突然の叫びに驚き、“一体どうしたのか”と問うたルピナス。そこでカナタの疑問を聞き及ぶと、なるほどと一つ頷きその疑問に答えた。

 

「ユール地方では電子機器が使えない、だからボールも電子部品を組み込まれていないこの形式のボールが主流なの」

「電子機器が使えない? ……何で?」

「ん、詳しい理由はわたしも知らない。何でも“オルタナの(とばり)”……あなたも見ただろうあのオーロラが影響してるんだって」

 

 “知り合いの学者が言ってた”、とルピナスは締める。

 果たして彼女の発言を裏付けるように、小屋にあるのは確かに前近代的な器具ばかり。電化製品の類はまるで見受けられなかった。

 そして彼女に曰く、その原因はカナタも見たあの極光(オーロラ)──“オルタナの(とばり)”と呼ばれるもの──らしい。とはいえ、なぜ使えないのかという詳細な理由はルピナスも知らないようであったが。

 まあ、仮に知っていて教わったところでカナタにそれが理解できたかと言えば……答えはNOだろう。何せこのカナタという青年、自身の興味のあることについては貪欲なものの、興味のないことはとことん頭に入らない性質だ。詳しく説明されたところで内容は秒でどっかいっていたに違いない。ホントどうしようもねえな。

 

 と、ルピナスのざっくりした説明で“そういうもんか”とぼんやり納得していたカナタ。そんな彼にルピナスより再度声がかかる。

 

「……ところでカナタ、あなたこれからどうするつもり?」

「──へ?」

 

 ルピナスから放たれた“これからどうするつもりなのか”という問い。その意図が掴めず、カナタは思わず間抜けな声を上げた。

 

「どう、とは……?」

「ん、そのまんまの意味。見ての通りこの小屋は狭いし、食料だって基本的にわたしの分しか用意がない。あなたを長居させる余裕はないの。それにそもそも“キング場”は一般人立ち入り禁止の場所。今回は緊急事態だったから仕方ないけれど、可能な限り早くここを離れた方が良い。──で、ちょうど明日人里に買い出しに行く予定だったから、その時一緒に送っていってあげようかなと思っていたんだけど……その後にどこか行く当てはあるのかなって」

「あー……」

 

 確かにルピナスの言うことは尤もである。

 いかに誤解が解けたとはいえ、カナタは正式な手続きを経てこの場に居る訳ではないのだ。

 彼女の言う通りスペースも食料も限られる以上、長期の滞在はご法度。目途が立ち次第速やかに離れるのが当然であろう。

 それに元の世界に帰る手立てを考えるにしろ、この世界を見て回るにしろ、こんな大自然のど真ん中では取れる手段も限られる。何をするにも人里の方がずっと効率がよいだろう。当のルピナスも人里まで送ると言っているのだ。ならば、ここは素直に彼女に従って人里へ向かうが吉である。

 そう、ルピナスに従い人里まで赴く……そこまでは問題ない。

 ──問題なのは、その後。

 

「……行く当て、ないです」

 

 人里に着いてからの行く当てが何もないということである。

 何せカナタは異世界から着の身着のままこの世界に放り出された身の上。そんなものある筈がなかった。

 若干涙目となりながら“行く当てないです”と言うカナタ。そのあまりの情けなさに、憐れと思ったかルピナスから救いの手が差し伸べられた。

 

「……流石に野垂れ死なれるのも寝覚めが悪いし、人里に行ったら知り合いの学者を紹介してあげる」

「ホントか!?」

「うん。異世界の研究をしてるって言ってたし、きっとカナタの力にもなってくれるハズ……実験台にされるかもだけど

実験台

 

 なお、差し伸べられた手は無茶苦茶怪しかった模様。

 なぜだろう。知り合いの学者を紹介するというものの、漏れ聞こえた情報が不穏すぎる。

 というかどう考えてもマッドサイエンティストの類である。そんな奴に力を借りるなどしては何をされるのか分かったものではない。

 どうにか研究者行きを回避しようとカナタは必死に無い知恵を絞る。

 

「あ……そうだ、ポケセン! ポケモンセンターで宿を借りれば……!」

「無理。そもそもユールのポケモンセンターは首都の一つだけ。人里にはない」

打つ手なしかあ

 

 尤も、必死になってようやく絞り出したアイデアは一秒で却下されてしまったが。

 かくて彼の運命はマッドな学者の実験台と定まってしまったのであった。憐れ。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 明くる日。

 

「起きて」

「んが……」

 

 体が揺さぶられる感覚とともにカナタの意識が覚醒する。

 固い椅子で寝ていた所為だろうか、全身に凝っているような感覚が残っている。凝りをほぐすように思い切り伸びをすれば、バキバキと小気味いい音が関節から鳴った。

 

「んだあ……もう朝かあ……」

「ん、おはよう。すぐに出発するからこれ着て外に出て」

「うへえい」

 

 と、起き抜けのぼんやりした彼にルピナスから分厚い防寒着が手渡される。

 確か今日は人里に向かうと言っていたが、もう出発するのであろうか。

 流石に朝早すぎるのではと疑問に思いつつ、カナタは素直に渡された防寒着に袖を通す。防寒着は昨日今日で用意されたものでない筈だが、不思議とサイズはぴったりであった。

 そのままルピナスの後に続いて小屋を出たカナタ。途端に強烈な寒さが襲い掛かり、思わずブルリと身を震わせる。だが身を包む防寒着のおかげか感じる寒さは昨日と雲泥の差。加え、目に飛び込んだ景色によってすぐさまにそのようなこと気にならなくなった。

 

「すげえ……」

 

 カナタの目に映るのは夜明け前のユールの空。揺らめく極光が照らし出す、色彩の空であった。

 文字通り全天を覆い尽くす極彩色のカーテン。それが刻一刻と彩りを変えて揺らめく様は、カナタをして思わず息を呑むほどに美しい。

 自然の作り出す絶景に圧倒され、しばしその景色に見とれるカナタ。しかし、そんなカナタの行動は横より掛けられたルピナスの声によって中断される。

 

「ん、ボーっとしてないで早くこっち来て。モタモタしてると人里に着くのが遅れる」

「お、おお……悪い悪い」

 

 ルピナスに急かされカナタは慌てて彼女の傍らに向かう。

 そうしてカナタが側に着くや、ルピナスは腰から下げたボールを一つ取り出し、軽く放った。

 

「出てきて、アーマーガア」

 

 

「ガアーア!!」

 

 

【アーマーガア カラスポケモン タイプ:ひこう/はがね】

 

「おおおお!!」

 

 ボールより飛び出し雪の地面に着地したのは、黒鉄の鎧を纏うカラスのようなポケモン……アーマーガアであった。

 

「すっげえ……本物のアーマーガアだ!!」

 

 目の前に現れた本物のポケモンの姿に大興奮するカナタ。昨日は色々ありすぎてそんな余裕はなかったが、そもそも彼は謎の声に“ポケモンの世界に行きたい”と躊躇なく願うポケモン大好き人間である。夢にまで見た()()を前にして、興奮するなというのは土台無理な話であった。

 そのまま“ウッヒョー!”と、どこぞの歴史教師のような奇声を上げてアーマーガアへと駆け寄るカナタ。

 が、しかし。

 

アホー(なんだこいつキショ)

 

【アーマーガアの はがねのつばさ!】

 

「──あべしっ!?」

 

 その姿を気色悪がられたアーマーガアに硬質化した翼ではたかれ、降り積もった雪に頭から突っ込むことになったのであった。憐れ。

 

「……何してるの」

 

 一方、一部始終を見届けたルピナスはどこぞのホラー映画のようなポーズで雪に埋もれたカナタを呆れ顔で引っ張りだす。

 

「う、うぅ……なんでだ……俺はただ、アーマーガアを間近で愛でようとしただけなのに」

「当たり前、奇声を上げた不審者が自分に突撃してきたら誰だって反撃する」

 

 突然の攻撃に“どうして”と嘆くカナタ。対し、ルピナスは奇声を上げた不審者が突撃してきたのだから反撃するのは当たり前であると返す。ぐうの音もでない正論であった。

 と、嘆くカナタにルピナスが一本の紐を差し出す。

 

「バカなことやってないで、さっさとこれを付けて」

「え、ナニコレ……紐?」

「ん、命綱。身に着けないとアーマーガア(ポケモン)に乗るとき危ない」

「え、ポケモンに乗れんの!? 着けます着けます今すぐ着けますポケモンライドじゃわっほい!!」

 

 手渡されたのはルピナス曰く、命綱とのこと。何でもポケモンライドする際は身に着けないと危ないらしい。なお危険であると言う割には紐一本しかないようであったが。

 しかしながら初めてのポケモンライドにウッキウキのカナタがそんなこと気が付くはずもなく。ルピナスに指示されるまま命綱をしっかりと体に結び付ける。

 

「はいはいはい!! 結びました!!」

「ん、大丈夫そう。じゃあそこで少し待ってて」

「はい!!」

 

 結び目を幾度か引っ張り解けないことを確認したルピナス。そのままカナタにその場で待つよう言うと結んだ命綱のもう一方を持ち、アーマーガアに近づいていく。

 

「これでよし」

「──うん?」

 

 そして、手にした命綱をアーマーガアの足に括り付けたのであった。

 次いでルピナスは手慣れた様子でアーマーガアの背に乗り込むと、一言。

 

「アーマーガア、出発」

「あの、ルピナスさん。俺まだ乗ってな──」

「アホー」

「──あああいいぃぃやああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

 

 トレーナーの指示に応え、黒鉄の翼を羽ばたかせアーマーガアは飛び立つ。

 風を切り裂き、極光の空に漆黒のシルエットを浮き上がらせ、人里目掛け一直線に。

 

 ……その足に、絶叫する憐れな青年をぶら下げながら。

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