最果てのサーガ ~夢のポケモン世界に転移したんだが、転移先があまりにも過酷すぎる件~ 作:野傘
眩き
キングの力を宿すオーラが、未だ幼きその身を“ぬし”に比肩する存在へと押し上げる。
これこそがキングに選ばれし真なるキャプテンにのみ許された御業。
「相棒!
「ガルルルルウワオオオオ!!」
相棒の身に比類なき力が宿るのを見ながら、鋭い声で指示を飛ばすカナタ。
イワンコもまた委細承知とばかりに咆哮を上げるや、溢れるエネルギーを四肢へと集約。ボスゴドラ目がけ弾丸の如き勢いで駆け出した。
先のゴーゴートとの死闘を経て、イワンコはオルタナの力の扱いに更なる磨きをかけている。その速度はもはや以前とは別物と言ってもよい。
眩い極光を身に纏い、目にも留まらぬ速さでボスゴドラへと肉薄するイワンコ。対するボスゴドラもまた、これを迎撃せんと両腕を振りかぶるが……。
「げあっ!?」
次の瞬間、イワンコの体から一際に眩い輝きが発され、その姿が忽然と掻き消えたことで空振りに終わる。
文字通り一瞬で姿を消したイワンコに、どこへ行ったのかと左右を見渡すボスゴドラ。されど四方を見渡そうともその影を捉えることはできなかった。
「ボスゴドラ、落ち着いて」
標的を見失い僅かに動揺を見せるボスゴドラに、ルピナスは落ち着くよう呼びかける。果たして築き上げた信頼関係の賜物か、ボスゴドラはすぐさまに冷静さを取り戻したようであった。
己が手持ちを落ち着かせた後、ルピナスはその視線を相対するカナタへと飛ばす。怒りの炎に理性を焦がされても、戦術眼に濁り無し。鍛え抜かれたその瞳でもって彼女は既に敵の狙いを喝破していた。
イワンコが覚えている“わざ”とボスゴドラのタイプ、そしてカナタの癖。それらの要素を鑑みれば結論は一つ。
「“あなをほる”による奇襲」
「──ッ! 流石、師匠っスね……! もう気が付きましたか……!」
「相手の弱点タイプを突いてなるべく一撃で倒そうとするのがオマエの癖。大方、わたしの不意を突こうとしたんだろうけど、バレバレ。これでわたしをどうにかしようなんてお笑い草」
「……んなこたぁこっちだって承知の上っスよ!」
僅かな間で自らの策を喝破され、内心で冷や汗を書きつつもカナタは“承知の上だ”と返す。
これほどまでの速さで見破られたのは予想外であったが、元よりバレることは想定の内。
何せこれまでカナタを指導してきたのはルピナスなのだ。当然のごとく、カナタの手の内など全て読まれているに決まっている。
ならばどうすべきか? カナタの回答は
「分かっていても対処できなけりゃ問題ねえ!! やれ、相棒!!
そう。相手にこちらの手の内を読まれているならば、読まれても問題ない攻撃を繰り出せばよい。
──果たしてカナタからの指示に応えるように、地面から輝く無数のイワンコが飛び出した。
「ガルルルルオオオオオォォォォ!!」
【イワンコの “あなをほる”!】
ボスゴドラの周囲、四方八方を分裂したイワンコが隙間なく取り囲む。
膨大なオルタナエナジーによって形成されたそれらは最早単なる虚像に非ず。一つ一つが“じめん”のエネルギーを帯びた弾丸ともいうべき代物であった。
異なるわざ同士を組み合わせ、一つの攻撃として昇華させる技法。
この世界においては高等技術に分類されるものなれど、しかし今のイワンコはそれを可能とするだけの力量を備えていた。
これこそが打倒ルピナスのために考案したカナタたちの策。
物量による回避不能の包囲攻撃。例え事前に分かっていようと無数の数で囲んでしまえば避けることも、カウンターを決めることも難しい。
そして繰り出された“あなをほる”はオルタナバーストにより超強化が施されている。4倍弱点であることも鑑みれば、いかにルピナスのエースと言えども耐えることは叶わないだろう。
よしんば耐えられたとてこちらのバーストは未だ継続中。その力があればひんし寸前のボスゴドラなど一方的に押し切れる筈だ。
(コレでどうにか──!!)
とりわけ恐ろしいのはその戦術眼であろう。僅か数手でこちらの狙いを喝破し、その悉くを潰してくるのだ。
下手に勝負を長引かせても、いずれ詰みに追い込まれるのは目に見えている。故に初めから全力で奇襲をかけ、対応する前に仕留め切るほか勝利の手立てはない。
かつての相棒では無理だった。
だが、試練を乗り越え成長を果たした相棒ならばあるいは。
「──それで?」
刹那、“ゾク”と背中に氷柱を突き刺されたかのような感覚がカナタを襲った。
「……ッ!?」
冷たい目だ。
どこまでも冷酷で、冷徹で、冷厳な……排除すべき“敵”を目の前にした、恐ろしい程に冷え切った瞳。
逃げ場のない“殺し間”に囚われたにもかかわらず、その瞳に動揺の類は一切なく。
見て取れたのはただ、稚拙な戦法に対する“蔑み”のみであった。
「見え見えの奇襲でわたしをどうにか出来るとでも? ……ボスゴドラ」
ルピナスが平坦な声で自らのエースへと指示を飛ばす。
果たして彼女が己の全てを注いで鍛え上げた
「ワザプラス──“アイアンテール”」
「げえええん!!」
【ボスゴドラの
わざを繰り出す際に過剰なエネルギーを注ぎ込み、その性質を変化させる戦闘技術。
ユールにおいては、かつて“ヒスイ”と呼ばれし地より伝わるも一度は廃れ──“ぬし”への対抗手段を欲したルピナスによって再び興された技術であった。
ボスゴドラの鉄尾が鋼色の輝きを帯び、鞭のように周囲を一閃する。
“すばやさ”のステータスなど知ったことかとばかりに、恐るべき速度で振るわれた鉄棍は迫り来る群狼の虚像を薙ぎ払い、
「ぎゃうッ!?」
「相棒ッ!? 嘘だろ……!? 何であれに対応できるんだよ!?」
「わざの構成が甘い。習熟が伴ってないから、わざを同時発動させたところで単なる大道芸にしかなってない。こうやって収束させた力をぶつけてやれば簡単に掻き消せる。……で、攻撃はこれで終わり? じゃあ──」
“今度はこっちから行く”。ルピナスがそう呟いた刹那、体勢を崩したイワンコ目がけボスゴドラが猛然と突進を開始した。
「げええいらあんす!!」
「マッズ! 避けろ、相棒!」
「いぬ……ぐわんぬ!」
先の一閃にて
対するイワンコも
「ワザプラス──“がんせきふうじ”」
「げえい!」
──が、ルピナスはそれすらもお見通しだった。
【ボスゴドラの
「ぬわんッ!?」
「相棒ッ!?」
回避のためにイワンコが大地を蹴り出した刹那、その身に高速で投擲された岩塊が突き刺さる。
不意の一撃にバランスを崩し、イワンコは勢い余って思わず倒れ込んでしまう。
「捕らえた、ボスゴドラ」
「げあああ!!」
回避に失敗し多大な隙を晒したイワンコ。
再び体勢を取り戻さんと藻掻くものの、既にボスゴドラは目と鼻の先まで迫っていた。
「ワザプラス──」
(──ダメだ、避けらんねえ!)
視線の先、ボスゴドラはもう攻撃態勢に移っている。
相棒が避けることは不可能だ。
(──だったら!)
ならば、とカナタはここで決断を下した。
「避けられねえなら……敢えて受ける!! 相棒、バーストわざだ!!」
「! わう!」
相手の攻撃が避けられないということは即ち、裏を返せば相手も攻撃を取り止めることができないということだ──ならばそれを逆手に取る。
カウンターによる一撃必殺。いかなルピナスといえども、既に攻撃態勢に入ったボスゴドラを止めることはできない筈。
カナタは腕輪に嵌めたオルタナストーンへ手を翳し、精神を集中させる。
次の瞬間、オルタナストーンより眩い輝きが発され、イワンコの帯びたオーラが
「ガルルルオオオオオオ!!」
イワンコの前方、迫るボスゴドラの鼻先に輝く銀の鏡が展開される。
これなるはあらゆる攻撃を己が力に換え、相手へと打ち返す
「これでッ……!!」
ボスゴドラの意表を突き、刹那の間で以て展開された
“バーストわざ”としてはピーキーな性能であるが──それ故に嵌れば格上すら仕留める凶悪な力を秘めていた。
鍛え抜かれた
展開された月の
「──“ほえる”」
だが、ルピナスはその期待をあっけなく打ち崩してみせた。
【ボスゴドラの
「ギエアアアアアアアアアアアア!!」
周囲四方に響き渡る耳を
過剰なまでのエネルギーを注ぎこまれ、超強化された“ほえる”が轟音となってカナタたちに襲いかかった。
「~~~~ッ!!」
そのあまりの音圧に、カナタは思わずその場で耳を抑えうずくまってしまう。
バトルフィールドから距離のあったカナタでさえ動けなくなるほどの圧力。無論、それを至近で受けたイワンコは言わずもがな。
「わ……うぅ……」
叩きつけられた音波により平衡感覚を失ったのか、身体をフラつかせその場から動くことさえできない様子であった。
加え先ほどまで展開されていた筈の
しかしそれもまた当然のこと。いかに破壊的な威力を持とうとも、“ほえる”はあくまで
いかなる攻撃を撥ね返す満月鏡も、こうなってしまっては
そして“バーストわざ”は己がオルタナオーラを全て注ぎ込むことで一度限り発動できる大技。一たび使えばバースト状態は解除されてしまう。
即ちバーストわざが不発に終わり、オルタナオーラを失ったイワンコは丸裸も同然。加え先の咆哮によって碌に動けない状態となったことも合わさり──絶体絶命の
「これでおしまい。ボスゴドラ、ワザプラス──“ヘビーボンバー”」
「げえああ!!」
そしてルピナスは倒すべき敵と見定めた相手の隙をむざむざ見逃すような手合いではない。
イワンコが動きを止めたのを見た刹那、流れるようにボスゴドラへと指示を飛ばすルピナス。
指示を受けたボスゴドラは地面を勢いよく踏みつけ跳躍、無防備なイワンコを圧し潰しにかかった。
(マズイ……相棒!)
ボスゴドラの鋼の巨体が相棒目がけ勢いよく落下する。
“ヘビーボンバー”は発動者の「おもさ」が相手より重いほど威力を増す“わざ”。そしてボスゴドラの平均的な「おもさ」は360kg……9.2kgの
さらに“いわ”タイプの相棒には“はがね”タイプの“ヘビーボンバー”は“こうかばつぐん”。バースト状態が解除された相棒にこれを耐えられる筈がない。
「避け──!」
咄嗟に“避けろ”と指示を出したカナタであったが、先の“ほえる”によって前後不覚のイワンコにそれが届くことはなく。
【ボスゴドラの
【こうかはばつぐんだ!】
瞬間、
震動が止み、ひび割れた地面から
ヘビーボンバーの炸裂した大地は深く陥没し、黒々とした穴が穿たれていた。
「ボスゴドラ、戻って」
穿たれた穴の奥底には力無く倒れ伏す
あの一撃で完全に力尽きたのだろう、ピクリとも動く様子はなかった。
「──わたしの勝ち」
「相変わらず指示は拙いし遅い。策を打つのはいいけど、次善の策を用意していないから失敗するとすぐに後手に回る。だから結局追い詰められて、通じるかどうかも分からない“バーストわざ”で一か八かの賭けに出ることになるの」
「……ッ」
「何より“
わたしの言葉に
そんなアイツの無様な姿を見て、わたしの心に昏い優越感と安堵が湧き上がった。
「分かったでしょう? これがわたしの力。『奔狼の氷原』、キャプテン代理の力。他のキャプテンにも、眷属にだって負けない力」
わたしはオマエよりも強い──だから、わたしの方がキャプテンに相応しい。
わたしはオマエよりもずっと強い──だから、わたしはまだキャプテンでいられる。
わたしはオマエなんかよりずっと強い──だから、わたしは
「オマエの助けなんかいらない。誰の助けも、わたしには必要ないんだ」
わたしのことを何も知らない癖に、憐れむな。
同情するな、心配するな、慮るな。
とってつけたような感情で、わたしのことを見下すな。
うだるような不快な熱がわたしの内側を満たしていく。
心の奥底がじりじりと焼き焦がされ、押し込めていた黒いモノが徐々にせりあがってくる。
吐き気を齎すようなそれを振り払うように、わたしはアイツへ言葉を投げようとした──。
「分かったなら、もう二度とわたしを──」
──その時だ。
「……ぐ、うゥゥ……!」
「……相棒!?」
陥没した穴底から低い唸り声が響く。
見れば“ひんし”状態となった筈の
「……ありえない」
目の前で起きたありえざる事象を前に、わたしは呆然として呟く。
オルタナオーラを引き剥がした上で、最大威力の“ヘビーボンバー”を叩き込んだのだ。イワンコの耐久力であれば、“ひんし”になっていなければおかしい。
あるいは
つまり
【イワンコは カナタを悲しませまいともちこたえた!】
「…………どうして」
分からない。理解が出来ない。
わたしは本気で戦った。これ以上ないほどに力の差を見せつけた。
眷属だって、今の力ではわたしに勝てないことなんてとっくに理解している筈だ。
なのに、なぜ。
どうしてまだ立ち上がる──。
「……ぎぃ、ぐ、がるぅぅぅ……!!」
そんなわたしの疑問は──眼前で唸り声を上げる眷属の瞳を見てすぐさまに氷解する。
傷だらけの体を震える四肢で支えながら、しかし瞳には燃えるような敵意を宿して──真っ直ぐに
そう。
最初から
わたしだ。
わたしにはポケモンの言葉は分からない。
それでもその強い視線に込められた意図は理解できる。
──お前だけは、認めない。
それはこの上なく明白な──“拒絶”の意思だ。
眷属の意思は
そしてキングの意思とは即ち、
それはつまり。
わたしという存在が、ユールそのものから拒絶されたことを示す……この上ない証拠だった。
「──────ぁ」
それを認識した瞬間、わたしの中で何かが壊れた。
心の奥深く、封じ込めていた筈の黒いモノが堰を切ったように溢れ出る。
まるで煮えたぎったマグマのようなドロドロとした感情がわたしの内を塗りつぶし、「わたし」という存在を黒く黒く焼き焦がしていく。
──いけない。
自らの内に荒れ狂う激情に、僅かに残った理性が警告を発する。
それは身を任せれば最後、きっと何かもが壊れてしまうと。
だからわたしはいつものように、流れ出る「黒」を抑え込もうとした。
──わたしは『奔狼の氷原』のキャプテン。
──お前はもうキャプテンじゃない。
だけども、そう言い聞かせるわたしの声に聞き覚えのないよく知ってる声が紛れこむ。
──わたしはもう二度と過ちを繰り返さない。
──お前は何度も過ちを犯した。
知らない。
知らない。
こんな声、わたしは知らない。
──わたしは自分の役目を、果たして……。
──誰もお前を必要としていない。
なのに、どうして。
こんなにわたしの中に響くの。
──わたしは、この、ユールを……。
──ユールはお前を拒絶した。
やめて、やめて。
それ以上言わないで。
それはダメ。それだけはダメなの。
それを自覚してしまったら、わたしは。
──わたし、は。
──お前の居場所はもうどこにもない。
……ああ、そうだ。
キャプテンでないわたしに、価値はない。
価値のないものは、必要とされない。
必要とされないものに、居場所はない。
わたしの 居場所は どこにもない。
──ならば、いっそのこと。
価値がないなら。
必要とされないなら。
居場所がないなら。
なにもかも壊れてしまえ