「冬寺シンタロウ?何だお前、財布に名前書いたタグ付けてんのか?」
「あ、えっと、そうすればお金盗られた後でも、財布だけ交番に戻ってたりするから」
「ブフッ、あらかじめ財布盗られた時の想定してる奴なんざ初めて見たぜ!!」
ここは、ミレニアムサイエンススクールのとある郊外。
人目のつかない場所で1対3という数的不利のもと、僕はカツアゲをされていた。
もっとも相手は女学生3人なのだが、3人とも力が強くてとてもじゃないが適わない。
別に喧嘩に自信があるわけではないのだが、まさかこんなにも一方的になってしまうとは……。
「へっ、しけてんなあ。まあいい、素直に渡してくれた親切心に免じてこれでおさらばしてやるよ」
「ははははっ!せいぜい気を付けるんだなあ!銃も無いくせにここらをぶらついてたら、流れ弾で即死だぜ?」
掴まれていた胸倉を離されると、そのまま僕の財布を僕の前に投げ捨てられる。
もちろん、中身はすべて抜き取られていた。
よれよれになってしまった服を直してから遠くにいる三人組のヤンキーたちをみる。
僕のお金を理不尽に奪ったくせにのうのうと笑って歩いている姿に心が荒む。
いてもたってもいられなくなって、ふと近くにあった空き缶を思いのままに勢いよく蹴る。
すると、その空き缶はまるで意志でも持っているかのように何度か跳ね返った後に、例の三人組の一人の後頭部に当たる。
「えっ」
「ってえなあ……何だ、根性あるじゃんお前、なあ?」
「い、いや、今のはたまたま蹴ったら跳ね返ってそっちの方へ」
「言い訳してんじゃねえよ!!」
その後、こっぴどくリンチに遭ってしまった。
「はあ……なんだってこんな……」
窓ガラスから自分の容姿を確認する。
いつも通りの黒髪黒目の特に特徴もないような青年、だがその唇は切れ、血が垂れていた。
応急処置ができるほど持ち物もないので、手で強引に拭っておく。
にしても訳も分からずここに迷い込んで、初めに起こったイベントがカツアゲだなんて。
それにあの不良3人組、本当にただの人間なのか?
女の子なのに力が強いし、なんなら背中に銃を背負っていたのだが。
「ん?」
ふと目の前に落ちていたものを拾い上げる。
そこにあったのはキーホルダーだった。
キラキラ輝いていて、どこか目を惹く。
そういえばどこかで見たような気が……
「あっ、さっきの子の」
不幸にも僕が蹴った空き缶が当たった女の子がカバンに付けていた。
殴られながらでも妙に目が惹かれて記憶に残っていたようだ。
キーホルダーをよく見ると、所々年季が入っているのが分かる。
大事なものなのだろう。
今頃気づいてこのあたりを探しまわってるかもしれない。
何であれ、さっさと交番に渡すのが安牌だろう。
たとえそれがカツアゲされた人のであろうとも。
そうしていざ交番を探しに散策しようかなと思っていたところだった。
「よう、あんちゃん。ちょっといいか?」
頭上に声がして上を向くと、そこには燃えるような真っ赤な髪の毛と目、スカジャンにメイド服を着た女の子がビルの屋上から見下ろしていた。
その子はまるでパルクールのように建物の上階からこちらへと軽快な足取りでやってくる。
……やっぱりここの女の子たちは僕の固定観念に当てはめてはいけないんだなと改めて思った。
「君は?」
「あたしを知らねえのか?美甘ネル、一応C&Cのリーダーをやってる」
「C&C?」
「ん?よく見りゃここらじゃ見ない顔だ。あんた外の人だったか。そりゃあたしを知らねえのも納得か」
どうやらネルはここらでは有名人的な扱いらしい。
ヤンキーの次に会う人物にしてはこちらも少しはツキがまわってきたかもしれない。
その場でいろいろ話をして、とりあえず交番まで案内をしてくれることになり、それまでにキヴォトスやネルのことについて教えてくれることになった。
「それにしても案内を買って出てくれてありがとう。でもそっちは用事があったんじゃないの?」
「気にすんなよ、用事はさっき済んだらしいからな」
「そうなの?」
どういうことか聞いてみれば、どうやらC&Cという部活に所属している彼女はエージェントとして日々さまざまな任務に取り組んでいるそうで、今回は逃げたターゲットの確保だったらしい。
あのとき僕に話しかけたのはその人探しが原因らしい。
それで僕と話している間に仲間がターゲットを見つけたらしいので、こうして付き合ってくれている。
「んで、シンタロウはどうしてキヴォトスにやってきたんだ?」
「うーん、ちょっと説明が難しいんだけど……一応人探し、みたいなものかな」
「へえ、キヴォトスは広いからなあ。探すとなると大変だぜ?」
少しぼかして説明をする。
ちょっとばかし事情が複雑だからかなり雑な説明になってしまった。
今度機会があればまたその時に話せればいいな。
「あ、そこを右にいった方が近道だな」
「じゃあそっちでいこう」
右に曲がって路地に入る。
どうやらここからは人気がないようで建物も古く寂れているようだった。
「にしてもここの学生はみんなたくましいね、力も強いし背中に銃を背負っているし」
「ハハハッキヴォトスでは銃を持つのが常識なんだ、銃弾が当たってもかすり傷で済むくらいには頑丈だからな」
「それはすごいね……!」
「だから銃も持たないシンタロウはカモにされちまうんだよ、それになんかなよなよしいし」
「うっ……やっぱりそんな風に見える?」
「自覚があるなら直せるさ、ほらもっと元気出せよ!」
ばしっと背中を叩かれるが、やはりそこはキヴォトス。背中がすごいひりひりする。
僕もここで生まれていればもっと男前になれたのかな……?
なんていう風に話していると、少し先の廃屋から一人の女の子がのそりと幽鬼のようにでてくる。
背中や足に白い砂をこぼしながら。
「ああ?何だあいつ……」
よく見ると、先ほど僕にカツアゲしてきた女の子の一人だった。
それもキーホルダーを失くした方の女の子。
今すぐその例のキーホルダーを渡してあげたいのは山々だが、どうやら事態は一刻を争うようだった。
「返せ……返せ……」
ぶつぶつと独り言をつぶやきながらこちらへと向かってくる。
ネルが「下がりな」と一言言ってから両手にサブマシンガンを構えるが、その時だった。
突如、零れている砂があふれ出すとそこから蝙蝠を模した人型の怪人が現れた。
「なっ、お前は!?」
「イマジンか……!」
「ほう、イマジンを知っているのか。邪魔されるのも面倒だ。ここで消えてもらおう!」
実体化してすぐだというのに、背中の翼をはためかせると、衝撃波が放たれる。
「危ねえ!」
咄嗟にネルが僕を抱きかかえ、縦になるが衝撃波をもろに喰らい、苦悶の表情をもらす。
負けじとネルがサブマシンガンをもって特攻するが、イマジン相手に銃は効かず、煩わしそうにイマジンがネルを一振りで衝撃波を放ち、遠くへと吹き飛ばす。
「ネル!」
ミレニアム最強の戦闘能力だと豪語していた彼女が太刀打ちできずに飛ばされてしまった。
事態は一刻を争う。
どうやらもう腹を括るしかないようだった。
「やめろ!」
追撃とばかりに彼女の方へ向かおうとするイマジンに待ったをかける。
振り向いたイマジン。
そうだ、優先すべきはイマジンのことを知っている僕だろう。
かといって僕もただでやられるつもりはない。
ポケットからライダーパスを取り出す。
「貴様、まさかそれは」
呼び出したベルトを装着する。
そしてライダーパスをセタッチして宣言する。
「変身」
白色透明の粒子がベルトを中心に周囲に散乱してから、それらが自身の体へと集約する。
白と黒を基調とした、電王の素体にあたる形態。
プラットフォームへと変身する。
「電王……そうか、イマジンを知っているわけだ」
「く、来るなら来い!」
ファイティングポーズをして相手を睨みつける。
デンガッシャー、本来の電王なら使えるはずの武器は使えない。
というのも僕は変身はできるものの、デンガッシャーが使えるほどのエネルギーがない。
でも、だからってなにもしないで指をくわえてみるだけなんてできない。
イマジンが素早くこちらへと距離を詰める。
そしていきなり体を掴まれると抵抗も虚しく一気に上空へと滑空、その後に廃屋に向かって一気に急降下をする。
「うわあああああああっ!!」
何をすることもできず、受け身も取れないままイマジンから手を離されて落下する。
派手な音を響かせて廃屋の屋根にぶつかり、経年劣化による老朽化なのかあっさり突き破って、中に入ってもう一度今度は床にぶつかる。
「ぐっ……ううっ……」
だ、ダメだ。
やっぱり僕じゃイマジンには勝てない。
一体どうすればいいんだろうか……?
その場で痛みに耐えきれずに蹲っていると、遠くで声が響く。
「おい、大丈夫か!!」
「ネ、ネル……」
足を引きずりながら彼女がこちらへと近づいてくる。
どうやらお互い満身創痍のようだ。
そんな僕たちのまえに先ほどのイマジンがやってくる。
傷一つない状態でゆっくり一歩ずつじりじりとこちらへ向かう。
確実に僕たちを始末したいのだろうがために、まだ僕たちを警戒しているのだろう。
「クソ、どうすりゃあいいんだよ、あの怪人……」
「ネル……一つ、考えがあるんだけど」
「本当か?何でもいい、言ってくれ」
正直言ってもうこれしか選択肢がない。
あのイマジンを倒すにはもうこれしか……
「僕と契約してくれない?」
「…………内容は?」
「僕と……最後まで一緒に戦ってくれる……?」
「……」
数秒の沈黙。
そこに水を差すようにイマジンが衝撃波をこちらに向かって放ってくるが、それをネルが
間一髪で僕を引っ張って範囲外へと逃れる。
そこで彼女はこちらを向くと好戦的な笑みを浮かべる。
「いいぜ、その契約。聞き入れたぜ」
「無駄なことを!」
追い打ちをかけるようにイマジンこちらへと駆ける。
それを待ち受けるように僕は起き上がってから、ベルトの赤いボタンを押す。
待機音が流れ、すぐにパスでベルトをセタッチする。
『SWORD FORM』
途端、隣に立っていたネルが消えると、赤いオーラとなって僕の体の中に入る。
頭上にネルのヘイローが宿ると、自身を囲うように周囲に赤いアーマーが出現し自身に装着される。
そして、最後に自身の頭部に赤いマスクが上から下へと装着され、桃が割れるように真ん中で割れる。
直後、イマジンが襲い掛かるものの寸でのところで受け流して蹴り飛ばす。
「あたし、参上!!」
仮面ライダー電王、ソードフォームへと変身する。
ネルの神秘がシンタロウの足りないエネルギーの代用としてうまく作用した……?
そしてどうやら今はネルが僕の体の主導権を持った状態になっているらしい。
「貴様ァ!」
イマジンが起き上がるとこちらに向かって襲いかかってくる。
それに合わせてネルはベルトの側面に付属しているデンガッシャーの二番と三番を結合させてから上に投げる。
そして、繰り出されたイマジンの攻撃をまた受け流してから、デンガッシャーの一番と四番を掴み、上に投げた二番、三番を挟み込む。
すると、先端部分に赤い刃が出現し、それをもって勢いよく切りつける。
「オラァ!!」
小気味よい音ともにイマジンに攻撃が通る。
通用することをネルが確信すれば、イマジン相手にひたすらに切って、切って、切りまくる。
「オラオラオラオラァ!!!」
先ほどまでがウソのように一方的な展開が続く。
イマジンも反撃を繰り出そうとするが、その前にネルの剣劇が邪魔をする。
「がああっ!?くそっ何故だ!何故貴様のような存在が!!」
「ごちゃごちゃうるせえ」
パスをベルトにセタッチする。
『FULL CHARGE』
パスを放り投げてからデンガッシャーを構える。
エネルギーが迸り、デンガッシャーへと集約されると、赤い刃が勢いよく飛んでいく。
「ゴミは掃除しなくちゃなあ!!」
デンガッシャーを横に振ると、連動するように赤い刃も横に動き、イマジンに向かって攻撃する。
そして逃がさないようもう一度、今度は反対方向から赤い刃を動かし攻撃を喰らわす。
最後に、とどめとばかりに上から下に向かって振り下ろす。
赤い刃がイマジンに向かって両断するかのように会心の一撃を落とす。
「がああああああああああああっ!!」
爆発とともにイマジンは姿を消す。
周囲の廃屋なども巻き込むほどの爆発具合だ。
恐らくあの蝙蝠野郎は生きていないだろう。
赤い刃がデンガッシャーのもとへ戻ってから、一件落着とばかりにデンガッシャーを肩に担ぐ。
「ハッ、決まったな」
ベルトを取ると、赤い粒子となって変身は解除される。
「ふう……あれ……おいっ、これはどうなってんだ!?」
付近にあった窓ガラスを見てみるとベースは冬木シンタロウだが、その頭上にはネルのヘイローがあり、髪の毛の一部分は彼女と同じ髪色となっていた。
『多分一時的に今僕の体をネルが憑依している感じ……なのかな』
「いやいやいや……あのときはノリと勢いでやったが、冷静に考えてみてなんでこんなことになってるんだよ!?というか、あたしはこれ元に戻れるのか……?」
『さあ……?』
「さあじゃねえんだよ!!どうすればいいんだよこれ!!?」