突如空から穴が開き、そこから現れるのは赤と白を基調とした一本の電車、デンライナーが現れる。
先頭に線路が作られて、そこをなぞるように走るデンライナーはまっすぐにシンタロウたちのもとへとやってくる。
「今度はなんだよあれは!?電車!!?」
「あれは時をかける列車、デンライナーだよ」
「ハ、ハハッ……もう何が何だか……」
ちなみにぼくに憑依していたネルだったが強く念じれば普通に僕から離れることができたそうだ。
直観的に次からは自分で憑依したり離れたりができそうだとか言っていた。
「とりあえず、いろいろあったからその説明も兼ねて乗ってもらっていい?」
「ああ……もうなんでもシンタロウに任せるわ」
思考放棄気味に僕の後をついてくるネルと一緒にデンライナーへと乗車することにする。
二人がデンライナーに入ると自動でドアが閉まると、走り出す。
入ってきたときと同じように空にあった穴へと入ると、そこはまるで別世界だった。
あらゆる色が入り混じったような空と真っ白な砂。
それだけで構成されただけの殺風景な世界の中、デンライナーは走る。
シンタロウがネルを連れてやってきたのはデンライナーの食堂車、といってもそこには人気がなく、奥の方に一人のおじいちゃんがいるだけだった。
そのおじいちゃんに向けてシンタロウは一礼をしてから話しかける。
「オーナー、少しここにいてもいいかな?」
「ええ、構いませんよ。今の彼女はシンタロウ君とチケットを共有する形となりますからねえ」
空いている席の一つに僕が腰掛けると、相対するようにネルもそこに座る。
どこか落ち着かないようにソワソワしているが、決心がついたのか彼女の方から話しかける。
「なあ、聞いていいんだよな?これまでに起こったいろいろについて」
「うん、じゃあまずはえっと……さっきの怪人、イマジンについて話すよ」
長話になりそうだからコーヒーでもと思ったときだった。
「コーヒーいかがですかー?」
「ナオミさん、じゃあコーヒー二つ」
「はーい♪」
客室乗務員のナオミがひょっこりと現れると、僕たちのコーヒーのために隣接されている調理場のところへ行く。
「イマジンというのは時間の改変を企てる改変者の総称なんだ。彼らは契約を持ちかけて、その相手からイメージをもらい受けることで実体化し過去へと飛ぶ。そこで都合よく改ざんして未来の自分たちを住みよくすることを目的としているんだ」
「さっき倒したあの蝙蝠野郎のことでいいんだよな?」
「うん、最近ここキヴォトスにイマジンの一派が流れ込んでしまって……それで僕がここに来たんだ」
イマジンは主に契約者のイメージから手に入れた姿の武器と身体的特性で戦う。
その中には発火や契約を介さず他者を操るなど超能力のような物を駆使する者たちも存在する。
その上、肉体を得る前の精神体は1体に1人分とは限らず、兄弟や主従などの集合体で構成されることで契約者1人から複数体のイマジンが実体化する系統もいたりする。
「お待たせしました!コーヒー二つです♪」
机に置かれたのは独特なコーヒーだった。
真っ赤なホイップクリームがこれでもかと乗ったオリジナルコーヒーはネルの顔を青くさせるのに十分だったらしい。
「これ、……コーヒー、なのか?」
「まあ……うん、コーヒー、だよ?」
物は試しとしたのか、ゴクリとのどを鳴らしてからネルがコーヒーを飲んだ。
別に何も言わないし、聞かないが、彼女の顔が作った渋面から察してほしい。
「えっと、話を戻すよ?そのイマジンたちを止めるためにやってきたのが僕なんだ。ただ僕だけじゃ電王になったところでイマジンを倒すのは難しかった……だからさっきネルに協力してもらったんだ」
「なるほど……その電王ってやつになるには、シンタロウと私の二人の力を合わせなきゃならなかったわけか」
さっき戦ってみてわかったが、やはりイマジンを倒すには電王の力は必要不可欠ではあるのだ。
ネルが一方的だったところからもキヴォトスにいる人たちでは太刀打ちできない。
「そして電王になるには特異点と呼ばれる時間からの干渉を受けない特異体質でないとなれないんだ」
「それがシンタロウってことか?」
「うん」
「じゃああたしだけで電王に変身してイマジンをぶっ飛ばすことはできねえわけだ」
だからこそあの場でネルと契約してもらったのだ。
正直言ってキヴォトスの人たちの生態が分からないからうまくいくか分からなかった分、賭けではあった。
だが結果的にネルは僕と契約して部分的にイマジンの力を有することができ、憑依することができたのだ。
……仕方がなかったとはいえ、説明もないままにネルをイマジンたちとの戦いに巻き込んでしまったのだ。
本来は僕一人で何とかするはずだったのに。
「本当にごめん、こんなことにネルを巻き込んでしまって」
その場で頭を下げる。
全ては僕が不甲斐ないばかりにこんなことになってしまった。
「……顔を上げろよ」
言われた通りに上げる。
そこにあったネルの表情は笑っていた。
そしてそれはどこか好戦的な肉食動物を思わせるものだった。
「そう気にすんなよ水臭え、別に後悔なんてあたしはしてないし、むしろ楽しかったからな」
「楽しい?」
「ああ、銃を使わない戦闘なんざやって来なかったがあれはなかなか爽快だったぜ」
「ハハッ……変な人だね、ネル」
「まあな、正直いろいろあってまだ理解しきれてねえとこもあるが……あたしも手伝うぜ、イマジン退治」
「ありがとう、これからよろしく」
こうして僕とネルは互いに協力してイマジンとの戦いに臨むことを決意するのだった。
「そのキーホルダーがあの蝙蝠イマジンの契約者が必要なものだって?」
あのあと、デンライナーから出てミレニアムのあたりを歩いているとき、そういえばと思い出したようにポケットから取り出しネルに見せる。
そういえば彼女に返すことなくあの場を離れてしまったんだった。
推測ではあるものの恐らくそうだろう。
あのうつろな形相、イマジンの影響ではあるものの、やはり彼女自身が大切なものだからこそあのようになっていたのだろう。
一瞬だったが返せ返せと呟いてもいたし……
「返してあげないと」
「いいぜ、今日はもうオフにしたし最後までつきあうぜ」
「ありがとう、ネル」
そのときだった。
遠くで悲鳴が聞こえ振り返れば、そこには女生徒を掴み滞空しているあの蝙蝠のイマジンがそこにいた。
カバンの中身を漁り、何かを奪うと用は済んだのかそのまま女生徒を離してしまう。
「危ねえ!!」
咄嗟にネルが飛び出し、女生徒が落ちる直前にクッションになるように受け止めていた。
あの高さだ。
いくらキヴォトスといえどネルが助けに入らなければ大怪我を負っていただろう。
「クソ!あの蝙蝠野郎、生きてやがったのか!」
「あのビルに移動したみたいだ、ネル」
「ああ、行くぜ!」
階段を急ぎ足で駆け上がり、ようやく屋上にたどり着く。
そこではあのイマジンが契約者である不良学生に対してキーホルダーを見せているものだった。
「これか?」
だが見せてきたのは銀色の鈴がついたキーホルダー。
あのとき彼女が身に着けていたキーホルダーとは異なるものであり、現に彼女はゆっくりと首を振っていた。
「チィッ」
キーホルダーをその辺に捨てると、彼女の首根っこを掴んで声を荒げる。
「いい加減にしろ!!一体いつまでこんなことをすればいい!?」
「その手を離せ!!」
追い付いたネルが声を発する。
僕が握りしめていたキーホルダーをとるとイマジンに対して投げつける。
「お目当てはこれだろ!?」
イマジンがつかみ取り、彼女に見せるとわずかに顔が綻んだ。
「ああ、見つけた……」
「フン、礼を言ってやる貴様ら、これで契約完了だ」
そのとき彼女の背中のあたりが縦に割ける。
その間を滑り込むようにイマジンが入り込むとその隙間は閉じてしまう。
「い、今のは!?」
「契約を完了させたイマジンが過去に飛んだんだ。彼らは契約者にとって一番思い出に残った日に飛び、そこで改ざんをする」
急いで彼女のもとに向かい、チケットをかざす。
すると、そこには例の蝙蝠のイマジンと2022/12/24と日付が記録される。
「2022/12/24。この日に何があった?」
問いかけると彼女はぽつりぽつりと話始める。
「……病気の妹の命日だった……最後に顔を合わせたかったのに、その日は友達と馬鹿やってて……後で気づいて急いで戻ったら病室はもぬけの殻で……看護師の人が妹が渡したがってたクリスマスプレゼントってこのキーホルダーを……」
静かに涙を流しながらそれっきり彼女は茫然自失になった。
何もかける言葉は見つからなくて、何もしてあげることはできない。
でも、やらなくちゃいけないことはよくわかってる。
その場で立ち上がり、チケットをパスに入れてからベルトを装着する。
「僕たちも過去に飛んでイマジンを止めなきゃ……ネル」
「……なんだかまだよくわかりきってねえけど、やらなきゃいけないことだけは分かった気がするぜ」
ベルトの赤いボタンを押して、待機音を鳴らす。
それからパスをベルトにセタッチする。
「変身」
『SWORDFORM』
白色透明の粒子がベルトを中心に周囲に散乱してから、それらが自身の体へと集約する。
それからネルの体が消えると、赤いオーラとなって僕の体の中に入る。
頭上にネルのヘイローが宿ると、自身を囲うように周囲に赤いアーマーが出現し自身に装着される。
そして、最後に自身の頭部に赤いマスクが上から下へと装着され、桃が割れるように真ん中で割れる。
「っしゃあ!あたし参上!!」
空からデンライナーがやってくると、その先頭に乗り込む。
車内にあるバイク、マシンデンバードにまたがりパスを装着すると、デンライナーが2022/12/24へと切り替わり、出発をする。
デンライナーは時をかける列車、チケットを使ってその過去に行くことができる。
今回はあの蝙蝠のイマジンが過去へと飛んだため、追いかけるためにこうして移動手段として利用している。
なお電王はあくまで運転資格を持つだけで、車両への全権はオーナーが持っているが、イマジンが関わる出来事においてはこうして任意に利用することができる。
「待ってろよ蝙蝠野郎!!」
デンバードのアクセルを捻って、ネルたちはデンライナーを飛ばしていく。
───2022/12/24
その日、彼女たちはクリスマスイブにも関わらず、いつもと変わらず不良をやっていた。
べつにくだらないことだ。
クリスマスの中、忙しそうにしている車たちを横断歩道の前にギリギリで現れては逃げるというしょうもないチキンレース。
別に彼氏がいるわけでも家族で何かする予定もなかった彼女たちはそんなくだらないことで誰が一番クラクションを鳴らされるかなんて、競い合っていた。
「次はお前の番な!」
「ああ」
そして次は彼女の番。
丁度タイミングよく、トラックが遠くの方で確認できたため、横断歩道を飛び出した。
勢いよく近づいてくるトラック。
さあて、もうちょいで逃げようかなと思っていたその時だった。
───突然、何かに意識が乗っ取られた。
けたたましくならされるクラクション。
だが、彼女は逃げるどころかそのトラックの方へと近づいていった。
「お、おいっ」
そして、衝突する寸前のところで彼女が両手を前にすると、ブレーキが効かずに突っ込んでくるトラックを謎の怪力で止めてしまう。
加えて迷わず彼女がトラックの中にいたアンドロイドをその怪力をもって強引に外へと投げ出すと、そのままトラックを強奪して運転を始める。
過去に飛んだイマジンが契約者の体を乗っ取った末路はいつだって悲惨だ。
彼女は体をいいように使われたままそのトラックでいろいろな建物に突っ込んでは走ってを繰り返させられる。
過去の改ざん。
そのために行われる破壊行為は現代にも影響を受ける。
彼女が衝突させた建物は実際の現代も破壊の痕跡を残し、そこで巻き込まれた人たちも現代では存在しないことになる。
こうしてイマジンは過去へと飛んで、思う通りに破壊の限りを尽くす。
次なる標的を探して大通りから外れたところで、トラックの後方から音が鳴る。
サイドミラーで確認するとそこにはあのデンライナーが空間から現れ、こちらへと並走しようとしているところだった。
だがそんなことをイマジンが許すはずもなく憑依したままにトラックのハンドルを勢いよく回すとそのままデンライナーの車体に体当たりされる。
「この野郎、お構いなしかよ!」
だがそこは時を掛ける列車、トラックの体当たりで倒れるほどのやわな作りでもなく何とか並走することに成功する。
そのままカーチェイスのように相手の体当たりを躱しつつ、何とか被害を失くそうとしていた時だった。
目の前の建物で小さな女の子が泣いていた。
「やべえ!!」
デンライナーを巧みに操作してトラックが前に進まないように接触してからブレーキを掛ける。
だがいきなりの急ブレーキだからか、スピードは減速しきれずに建物に近づいていく。
「うおおおおっ、止まれええ!!」
このままだと衝突の恐れがあると判断し、即座にデンライナーからデンバードを分離させて先頭のコックピットから出ると、そのまま少女を抱きかかえて離脱する。
そして、そのすぐ後にデンライナーは建物と衝突まであと数センチのといったところで停止する。
「ミドリ!」
「お姉ちゃん!」
少女を安全なところで開放してあげると、もう一人の少女が迎えに来て互いに抱きしめ合う。
間一髪で何とかなってよかった、なんて思っているのも束の間。
突如、何者かに体を掴まれるとそのまま上空へと飛ばされる。
「うおおお!?」
こんな芸当ができる相手など一人しかいない。
あの蝙蝠イマジンが電王の体を掴み上げ、滑空しているのだ。
だがこのまま何も指を咥えて見ているだけのつもりはない。
デンガッシャーの二番と三番を結合させてから上に投げ、即座にそれを一番と四番で挟み込む。
出来上がったデンガッシャーに赤い刃が出現すると、そのままイマジンの翼を二回に分けて切り落とす。
翼を失くし、飛ぶ力を失ったことでそのまま近くの道路に互いに墜落する。
「おらぁ!」
即座に電王が起き上がり追撃を加える。
それに対してイマジンは咄嗟に対応できずにそのまま喰らってしまう。
そのまま逃がさないとばかりにイマジンを斬って、斬って、斬りまくる。
「いくぜ」
ベルトにパスをセタッチする。
『FULL CHARGE』
パスを放り投げてから、デンガッシャーを構える。
デンガッシャーから赤い刃が勢いよく飛んでいき、そのままデンガッシャーを下から上に掬いあげるように振ると、デンガッシャーと連動した赤い刃がイマジンを下から上に切りつける。
そして今度は上から下へ勢いよく振り下ろす。
赤い刃がとどめの一撃とばかりにイマジンを縦に真っ二つに切断されるとそのまま爆散する。
「ふう……ん?」
ようやく決着がついたと思えば爆発から塵のような何かが宙に集まっていく。
それは次第にコウモリと鳥の翼に昆虫の腹と複数の生物が混ざったような姿へと変貌する。
完全に形作られたと同時にその巨大化したイマジン、通称ギガンデスは奇怪な鳴き声を上げる。
そして、こちらに向かって腹部からエネルギー弾を発射してくる。
咄嗟に躱して、デンバードを呼び出すと何とか乗り込みギガンデスから逃げる。
「何なんだアイツは!?」
『イメージが暴走してる……デンライナーに乗って!』
どこからかベルトの待機音と同じ音が鳴り響くと、こちらへデンライナーが向かってくる。
デンバードに乗ったままデンライナーに乗り込むと、コックピットの中で連結させる。
デンバードにあるスイッチを押し込んで、戦闘形態へとデンライナーを変える。
5号車以降を分離して、武装を搭載した1~4号車を変形させる。
『ど、どうするの!?』
「なんでもいい、ぶち込むぞ!!」
相対するギガンデスに対して、ひたすらにデンライナーの武装に搭載された大砲やミサイル、ボムなどを矢鱈滅多にぶち込んでいく。
およそ戦略の欠片もない戦いだったが、その圧倒的物量による集中攻撃はギガンデスを追い込み、反撃の隙を与えることなく、そのまま耐え切れずに爆散する。
こうして、初めての過去での戦闘は幕を閉じた
『どこに向かってるの?』
「ん……ちょっとだけな」
変身を解除した後、憑依したままの状態で向かった先はビルの手前で停車してあるトラックだった。
そこにネルが乗り込むと、中にいる少女を背負う。
「ちょっとだけ、だからさ」
「ん……」
目を覚ました時、ここがどこだか分からなかった。
辺りを見渡しても誰もいない……いや、老人が一人端に座っているくらいだ。
その老人はこちらを一瞥した後に部屋から出て行った。
ガタンゴトンとわずかに揺れながらこの部屋は動いている。
その揺れの心地よさからなのかは分からないけど、また眠気がやってきて意識が落ちる。
そして再び目を覚ます。
そのときここは病院の待合室だった。
妹が入院している病院、もう外は夜になっていて私以外にだれもいなかった。
何故ここにいるかは分からない。
でも今はそんなことはどうでもよかった。
なんだか妙な胸騒ぎがして椅子から起き上がり、妹の病室へと駆け出していく。
無我夢中になって走って、妹の病室へとたどり着く。
扉を開けるとそこには個室の中、呼吸器をつけて仰向けにベットに妹はいた。
妹は何かを手にもって震えながら持ち上げる。
それを受け取れば、メリークリスマスと書かれた袋と、その中にキーホルダーが入っていた。
震えるその手を自分の頬に添えてひたすらに涙を流すことしかできなかった。