一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜 作:苦悩
あ、前回のあとがきに少しだけ【ハードラヴィ】についての小ネタを補足しました。
あまり本編と関係ないですので、読まなくても大丈夫です。
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【
「はぁ……はぁ……おっさん」
「なんだ?手加減はしねぇぞ?」
「いや……そうじゃ……なくて……」
これ、戦ってる最中に気づいたことだから一応伝えようと思うんだけど……
「【獣王】……取るの……急いだ方……いいよ……」
「……なんだと?」
おっと、少し顔色変わったな。
「多分……マスター……取りやすい」
「あ?」
驚愕の顔したおっさんに、自分が得て体感してる情報を料金代わりに提示しようと思う。
「エンブリオの……〈ガードナー〉って……コスト───」
「あん、どうした?〈エンブリオ〉がどうしたって?」
おっさんに聞かないとヤバい案件じゃんこれ。
「なぁ……おっさん……森……砂漠化……してんだけど……」
「はぁ?」
いや、それはそれとしておっさんの鍛錬キツすぎ……。
精神的には大丈夫なんだけど、肉体的にやばい。
「とりあえず避けろ、受けろ、慣れろ」ってなんだよ、こちとらサンドバッグじゃないってのに……。
「いきなり話しとんだと思ったら砂漠ぅ?カルディナにでも意識飛んでんのか?」
「いや……そこの……森……アクシデント、サークル……かも……」
「あー、まじかぁ。最悪なアクシデントサークル発生しやがったか……てかお前、よく分かるな」
「そういう……〈エンブリオ〉だ、から……」
〈エンブリオ〉に関しては、出来るだけ秘匿しときたいから、《真偽判定》に引っかからない範囲で情報を明かす。
そのうえで、決闘で結構強者なおっさんに協力を──
「そして……死んだ……」
「あ?何が死んだって?」
「やばいな……モンスターかも……。明らかに……砂漠化の範囲……合ってない」
やばい、これはやばい。
初見殺し極まれり、やばいぞこれ……。
「すー、はー……よし。〈エンブリオ〉で別行動してたんだが、そこで派遣してた一体……いや、二体死んだ」
出来るだけ【カゲノワズライ】の効果が分からないよう早口。
切羽詰まってるから、あまり早口なのは気にされないだろう。
「……砂漠化と関係あるのか?」
「大ありだ。一体目が砂漠化した範囲に入ったら即死……HPが0になった」
「はぁ?!」
「しかも、二体目に関しては砂漠化した範囲に入ってないのに死んだ。多分、狙い撃ちされてる」
「……ヤベェじゃねえか……砂漠化っつうと、水を吸収するやつか……?」
「いや、どっちもカラカラに乾涸びてない。だから、多分HP直接攻撃とかだと思う」
それに、急にHPがゼロになった点からしてもそうとしか思えない。
「固定ダメージ……おい、その〈エンブリオ〉、死んだ瞬間に粉々に砕け散ったか?」
「……?いや、五体満足のまま」
「固定ダメージじゃねぇ……特殊条件下での即死……?おい、その砂漠化した範囲に何か──」
「なんだこれ」
「女性」体と「両性」体のステータス、バグってる。
「おい、今度はどうした」
「あ、いや……バグった」
「はぁ?」
おっさんのアホ面は少し見飽きたけど、流石にシステムバグっぽいやつなんて説明しても……ん?なんだあれ?
「【魔枯蓄精 サーラエレギー】……?なんか、おっさんのソレに似て……」
「〈UBM〉じゃねぇかよ畜生が!!」
「は?〈U───」
瞬間
大爆発
「……はぁ?」
「なんの音だ!」
森からはるかに離れたはずの闘技場にも、二つ重なった爆発音が届いた。
凄い音量だな……。
「おっさん、さっき、死んだ〈エンブリオ〉爆発した」
「爆発!さっきのか!そういう機能でもあんのかお前の〈エンブリオ〉!」
「いや、無い。そんなスキル積んでないし、元ネタからすれば全然合わない」
「最悪だ……。最低でも砂漠化とHP直接攻撃、しかも爆発能力持ちと来たもんだ、伝説級よりも上じゃねぇのか?!」
「伝説……?」
いや、それよりも……。
まだ《ラスト・コマンド》発動してて、視界が気持ち悪い。
多分、目玉も粉々なってぐちゃぐちゃの風景見てる感じか……。
良かった、痛覚オフで……これは流石に、痛い所じゃない。
うぇ。
「おい……おい、ペル・ナルシー!」
「う……ん?」
あ、?おっさん、どったの?ちょいまち、もうそろそろ効果が……よし、切れた。
「顔色悪くしてっとこ悪いが、着いてこい。重要参考人として状況説明しろ」
「うい、了解」
「よし、こっちだ」
駆け出したおっさんについて行く。
……街の傍にあんなモンスターが出るなんて、普通に異常事態だよね……。
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「で、報告は間違いないんだな?」
「あ、はい。見たままを伝えました」
「そうか……」
おっさんが連れて行った先は、闘技場の会議室。
そこにはおっさんの呼び掛けに応答して、明らかに強いと分かる人が集まって来た。
自分はさっきまで、第一発見者ということでこの人たちの代表っぽい人(いちばん強そうな人)から事情聴取されてた。
「恐らく、HPが0になった攻撃というのは吸収攻撃、一部のサキュバスなどが使ってくる攻撃だ。砂漠化も土地のHP……生命力が吸われたと考えれば辻褄が合う」
「そして死体の爆発か……もう一度聞くが、お前の〈エンブリオ〉はお前のスキルを共有出来て、《ラスト・コマンド》を共有していたからこそ即死したことに気づけたのだな?」
自分の〈エンブリオ〉、そういうことにしといた。
『単独行動できて、視覚を繋げることが出来て、スキルを今のところジョブ1つ分なら共有できて、【死兵】を共有していた』。
嘘は言ってない、嘘は。
「あ、はい」
「他に異常は?」
「特には……あ、ステータスが少しバグってたくらいかな?まあ、《ラスト・コマンド》を〈エンブリオ〉を通して発動させるのは初めてだから、なにか不具合とかあったんじゃないかな?」
「……いや、それも〈UBM〉が起こした現象だろう。何があったか説明しろ」
あー、でも自分でも言われて気づいたけど、明らかにMPが増えて、1000万いったら爆発したんだった。
じゃあ、これバグじゃない?
「えーと、まずMPが1000万まで増えました」
「む……1000万?魔法系超級職平均の10倍はあるが、見間違いではなくか?」
あ、魔法系超級職ってMP100万くらいあるのか……え、1000万ってやばない?
じゃないじゃない。
「あ、はい。で、多分1000万いって1秒もしないうちに爆発しました」
「MPの増えるスピードは?」
えーと……たしか……
「1秒もしないで……10万は増えてた。多分、もっと早く増えると思います」
そう考えると凄いな、〈UBM〉。
100万なんてものの数秒じゃん。
「そうか、分かった」
強そうなお兄さんでも、この表情。
自分が思うよりも状況は悪いっぽい。
「あ、あと、何かが流し込まれてる感覚がありました。多分、MPだと思います」
「だろうな、その状況で流し込まれているものなど、MP位しか……」
突然、言葉の途中で黙り込んでしまったお兄さん。
一瞬「え、俺またなんかやっちゃいました?」的展開だと思ったけど、違う。
めちゃくちゃ苦々しい顔をしてるし、まだこのゲームを始めて少ししか経ってない自分では思いつかないようなことを思いついたんだろう。
「……分かった、ありがとう。……座っててくれ」
「あ、はい」
とりあえず言われた通りに自分の席に……入口近くの席に座る。
それまでの間中、ずっと何かを苦悶の表情で考え込んでいたお兄さんだが、自分が座ったのを確認すると重々しく口を開いた。
「恐らく……この〈UBM〉は2種類の吸収を使い熟す手合いだろう。HPとMPの吸収、そして吸収したMPを利用した爆発……猛者揃いの君らなら、いかに状況が最悪か……理解できるな?」
生憎、自分は分からないが周りの人達、特におっさんが分かったような顔をしてるのを見ると、少し微妙な気分になる。
「……自然魔力の吸収か」
……あ、そっか。ここ、
「そうだ。魔法を引き起こすほどに濃い魔力を吸っている可能性が……いや、1000万のMPを考えると確実だと思った方がいいだろう」
「だとすると……こいつの生態が少しは見えるな」
「あぁ、基本的にHPとMPの吸収を自然相手にしているんだろう。その方が効率いいからな、数が限られた人間範疇生物や、非人間範疇生物に使うよりもな」
「で、人間が近づいた時はそいつからHPを吸収。もし死なずに動く様なら、死体に貯めていたMPを爆発させる……か」
……ん?あれ、少し違和感が……
「あとは情報提供者の話だと、そいつは光の玉のような姿だったらしい。つまり、エレメンタル系のモンスターである可能性が高い」
「なら、俺っちたちの出番、ってことでいいんっすか?」
声のした方を向くと、実年齢では多分自分よりも年下の少年たちがいた。
声を上げたのはその内の1人、特にいちばん年下に見える少年だった。
装備は至ってシンプルなものなんだけど、1点だけ。
その肩にかけた大鎌だけが異彩を放っている。
多分アレは、……〈エンブリオ〉、ということは、彼はマスター、なんだろう。
「あぁ、イット。俺からもお前に声をかけようとしていたところだ」
「いひひ、いいってことっすよー。俺っちの【霊魂狩刈 エンマ】は《全霊特攻》があるっすからねー、むしろこーなること見越して俺っちたち呼んだんでしょー?」
……なんとタイムリーな……。
「そうだ。初めに外見を聞いていた時点で、精霊か霊魂系の〈UBM〉なのはほぼ真確定だったからな。お前の〈エンブリオ〉なら、精霊からの干渉を最低限にして高殺傷能力のその鎌を当てられるだろう」
「いっひひ、それじゃあもう待ちきれねぇっすから、行ってもいいっすか?みんなももう初めてのイベントでワクワクしっぱなしなんすよ」
改めて彼のパーティーを見てみると、確かに心ここに在らずと言った風に外を見ている。
早くこのゲーム初めてのイベント……それも、世界中探しても一体しかいないモンスターを討伐する趣旨のものをやり込みたいと言う気持ちは痛いほどわかる。
しかも、もし成功すれば特典武具というオンリーワンな武具が手に入るのだ、燃えないわけが無い。
「あぁ、行ってこい。あの森はこの街の収入源のひとつだからな、むしろさっさと終わらせて欲しいくらいだ」
「あいあーい!そんじゃま!いっちょ行ってきますーっと!……あぁ、そこのマスターの人!」
「……なにか?」
「いやーすまねぇっすねぇ!こんな美味しいイベントのフラグ立てといて、俺っちたちが横からしゃしゃりでて奪っちゃって!でもま、仕方ねぇっすよ!なんせこの世界の主人公は俺っち!かなーり時間かかったキャラメイクだったっぽいすけど、やっぱり運命は騙されねぇってことっすよ!あの猫も言ってたから間違いないっす!じゃ、あざっした!また美味しいイベントあったら誘って欲しいっす!あ、もしかしたら今後はこんなめんどくさい脇役のオニィサン経由じゃなくて、俺っち自ら立てちまうかも知んねぇっすけど!ま、その時はその時で俺っちの方から誘うっすよ!オニィサンの〈エンブリオ〉、索敵特化なんっしょ?なら斥候して欲しいんすよね!ほら?俺っちってば主人公だから?いつ暗殺者が命を狙ってくるか分かんないっしょ?というわけで、いずれ誘うっすよ、カナリア役としてっすけど!それじゃあバイバーイ!今度会う時は英雄の1歩を踏み出した俺っちのオーラに気圧されないようにするっすよー!」
「……?」
意気揚々と出ていった彼らを見送りつつ、瞼を瞬かせる。
「……??」
そっと、彼らを知っているであろうお兄さんと目を合わせると、サッと目をそらされた。
「……???」
え、なにあいつ、頭湧いてる?
ストックしてるの早く放出したい……