一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜   作:苦悩

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……♪


ローファンタジー

「……まあ、なんだ、その……元気出せよ」

 

「いや、うん。別に大丈夫。あの〈UBM〉と自分は相性悪いって分かってるし。なら、天敵に近いあの人達に任せた方が……」

 

おっさんが、肩に手を乗せてくる。

咄嗟に振り払おうとしたけど……無理だった。

 

単純にSTRが足りない、とかじゃなく。

暗に、自分でも早口になって、何かを誤魔化そうとしてると感じるほどに、心の中で叫ぶ声を無視できないから。

そしてそれを察してくれるおっさんの手が……重かったから。

 

「すまんな、だが、此方としても思惑があったのだ。許せ」

 

声をかけてきたのは、お兄さん。

街で見かけて話してはいなかった耳が長い人……まあ、エルフ。

さっきから司会をしてることからわかる通り、今この霊都アムニールの中で1番素早く動けて、かつ実力がある人だ。

 

そしてその人が言う思惑とは……まあ、察しは着く。

 

「マスターの信用性を確かめたかったとか?」

 

エルフのお兄さんは、少しだけ笑みを浮かべて首肯してくる。

どうやら合っていたらしいけど、それなら尚更文句を言う訳にはいくまい。

 

「君たちマスターは1週間と少し前のある日を境に増え始めた。……増え続けている、と表現するのが正しいか。なにせ、今日も今日とて幾人も空から落ちてくるのを見かけた」

 

それはそうだ。

なにせ、流星の如く現れた超技術としか言いようのないVRゲームだ。

話題性は抜群で、店頭では連日品切れが続出、転売に次ぐ転売によって値段が吊り上がり、それでも求めるものが後を絶たない。

そして、このゲームをするのは人間だ。人間だから、色々と内面が違う。

 

もし極度に破壊衝動だったり殺戮衝動だったり、そういうのを持つ人が〈エンブリオ〉を得たら……考えたくもない。

 

「そのような状況で、偶発的に現れた〈UBM〉が、偶然俺と知己だったマスターの〈エンブリオ〉と相性が良かった。と、なれば試金石(・・・)にする他ないと判断した……性格はともかく、な」

 

「そして、何か面白半分で事態を悪化させるようなら、この街……いや、国のマスターへの印象は払拭が難しくなる、と」

 

そしてそのためのモデルとしては、変にこのゲームに入れ込まずにいるマスターの中でも、特にゲーム的思考で楽しんでいるあの人らのようなのが最適。

 

「〈エンブリオ〉を殺された恨みはあるだろう 。強力な特典武具を入手出来る機会が他人に掻っ攫われる不快感もあるだろう。だが、堪忍して欲しい」

 

……頭まで下げられると、此方としては何も言えない。

しかもかなりの実力者だろう、この人。周りの人達が目を見開いて頬を引き攣らせている。

 

「……大丈夫です、自分の損害としては大したことありませんし、〈エンブリオ〉の効果で3日もすれば回復します……〈UBM〉がかなりやばいモンスターってのも理解したので」

 

でもやっぱり……悔しいもんは、悔しい、かな。

 

「じゃあ自分……宿に戻って少し寝ます」

 

やるせないし、ここにいてもできることは無いだろうから。それに……

 

「……分かった。ゆっくり休むといい」

 

「はい……じゃあまた」

 

あぁ、この人、《真偽判定》持ってる感じか。

見ればおっさんも微妙な表情で見てきていた。

 

「おっさん」

 

「お、おぉ、何だ?」

 

「また、特訓に付き合ってくれないかな」

 

「……そのくらいなら、何時でも来い」

 

「ありがと……では、また」

 

自分のとった宿は闘技場から近いところにある。

来ようと思えばいつでも来れるし、今の精神状態を考えれば休ませてやろうと言った感じだろうか?

 

 

この後、誰にも引き止められることなく、宿に着くことが出来た。

 

そして、ウィンドウを開く。

簡易ステータスとフレンドとかの機能、そしてログアウトの文字があった。

自分はそのひとつに触れ────

 

 

 

 

 

 

 

 

・〈彼〉、若しくは---……或いはペル・ナルシー

 

〈彼〉は、至って平凡な家庭で産まれ、人並みの幸せを得ながら育ってきた。

親に恵まれ、友にも恵まれ、何より環境にも恵まれた。

 

人並みに愛されながら育ち、やがて妹が産まれ、家族に向ける愛情の種類を知った。

顔立ちの良さから幼少期より異性に好意を持たれ、時に初対面の同性から異性と勘違いされてもきた。

やがてできる親友からはゲームを、友からはカードや読書、釣りなど、娯楽を教わり、共有した。

 

時に褒められ、時に怒られ、時に祝われ、時に暴言を吐かれ、時に喧嘩し、時に悲しみ、時に苦しみ、時に笑う。

自身の容姿が優れていたことはすぐに理解したし、それでも務めてそれを誇示しようとは考えもしない。

 

ごくごく普通の人生。ごくごく普通の道行。

〈彼〉は「普通」に満たされていた。

 

 

故、普通では無い(・・・・・・)〈彼〉は満たされることが無い。

 

それは〈彼〉本人は自覚していないだろう。

なにせ、産まれた瞬間から始まる「普通」の海。

「普通」の価値観を育まれ、良くも悪くも「普通」の中で育った。

 

だからこそ(・・・・・)、無意識下では常にストレスを感じ、その影響か若白髪も多い。

 

そしてそれが爆発した結果こそ……〈Infinite Dendrogram〉を始める直前に叫んだ言葉になる。

 

『時間が足りない』、ああそうだろう。

『やりたいことが多すぎる』、ああそうだろ。

『1日が24時間しかない』、ああそうだろう。

『1時間なんてすぐ消える』、ああそうだろう。

『1日48時間欲しい』、ああそうだろう。

 

 

 

『自分が足りない』……あぁ、そうだろう。

 

 

 

宇宙人(SF)機械生命体(SF)幽霊(ホラー)……それらと肩を並べられる存在にとって。

 

ジャンル違い(・・・・・・)」の、正確なジャンルで表すならばローファンタジー(・・・・・・・・)の住人である〈彼〉にとって。

 

「普通」の世界は、生きづらいだろう。

 

 

 

だからこそ、いや、運命、必然の類か。

〈彼〉は〈Infinite Dendrogram〉に出会い、この世界に入り浸っている。

なにせ、これは〈彼〉の理想。

 

【カゲノワズライ】によって別行動できる「自分」。

 

それこそが〈彼〉の求めていたもの。

 

本来ならば(・・・・・)6の自我を持つ(・・・・・・・)「ジャンル違い」の〈彼〉が、求めていたもの。

 

まあ尤も、幸か不幸か〈彼〉自体はそれを自覚できない。

自覚しないからこそ、6の自我は最初に設計された性能から逸脱した。

 

自覚し得ないからこそ、6の自我は「普通」に育つ。

 

本来ならば多重人格的なものになるはずだった自我。

が、「1人」の人間として育てられ、そのための環境にも恵まれた。

 

6の自我は、「6の同じ自我」を有するカタチへと変貌した。してしまった。

 

外から見るだけでは分からない。

完全に一人の人間に見えるから。

 

同じジャンル違いとして、頭の中を覗いてもそれは同じだろう。

同じ意思で統一され、同じ思考を吐き出し続けているから。

 

だが、今なら……〈Infinite Dendrogram〉を始めた〈彼〉の中身を見るなら、分かるはずだ。

【カゲノワズライ】によって動かせる「自分」。

 

まるで今まで忘れられてきた生得器官を動かすように、最初は拙く。

されど今では昔からあったかのように動かせる。

 

それぞれを、それぞれの自我が動かすために、ようやく〈彼〉のジャンル違いとしての力は産声を上げたのだ。

 

「……」

 

そして、認識出来ていなかったものであろうと、〈彼〉の中にある(・・)のは変わらなかった。

 

産まれた瞬間からあるものだったから自分では違和感を感じられず。

しかし、無意識下での利用方(・・・)は、感覚として理解出来ていた。

 

「…………」

 

そして(・・)は、【魔枯蓄精 サーラエレギー】によって【カゲノワズライ】による「別の自分」は破壊された。

つまり、今〈彼〉は現実と同じ状態に戻った……訳では無い(・・・・・)

 

3人の「自分」として活動した時間は、加速された状態で1週間。

大学をサボり、食事とトイレ、風呂以外はずっとログインした〈彼〉。

 

──ジャンル違いの力が馴染むのには、充分過ぎる。

 

「…………」

 

だから、今〈彼〉が行っているのはその応用。

 

並列で活動する自我を直列(・・)に繋ぐ。

普段は外界に対して影響を与える自我。

それが今は、自身の内面を……行動を、全てコントロールする。

 

5の自我で五体を手繰り、僅かな違和感すら見逃さぬように制御する。

複数の体を動かすのに比べれば……簡単なことだ。

 

そして残る1の自我は、探る。

自身の内面を、体内を、アバターという仮初の体を隈なく探る。

 

「……」

 

時折ステータス画面を睨み、変動が無いことを確認する。

そしてまた探る。

 

探る、探り、探る。

 

外なる万能(MP)を、内より探る。

 

「……なるほど」

 

そして、

 

「──これじゃあダメなんだね?」

 

認識できても手にかからない感覚から、少しの諦観を滲ませ、

 

「──じゃあ、こうする」

 

スキル《性別転換》で「女性」体へとアバターを作り直す。

 

MPに優れた「女性」体へと。

 

「……」

 

そして、同じアバターになった上で思い起こすのは、あの感覚。

 

MPを無理矢理捩じ込まれ、無理矢理爆散へと方向性を、舵を取られ……自身の内(・・・・)で直接操作され、爆散という現象へと成り代わった(・・・・・・)、あの感覚。

 

補助輪(・・・)は、計2回。

 

その時にMPの存在は感じ取れている。

自分(アバター)の死、という強烈な経験とともに、〈彼〉に刻み込まれた。

1000万という、途方もないエネルギーと共に。

 

さすがに、このアバターに宿るMPは常識の範囲内。膨大であるために感じ取れたものも微かにしか感じ取れない。

 

だが逆に、微かにであれば感じ取れるのだ。

STRに優れ、MPに劣る「男性」体の状態で、だ。

 

《性別転換》した瞬間にMPが増大する「女性」体になり、操れなければ「男性」体へ戻る。

 

〈エンブリオ〉の補正値にして2ランク分の最大MPが上下する。

突然現れるMPに消えるMP。

 

その差異での感覚調整。

 

「……」

 

そして集中を続けながら、現実(・・)時間で10時間程経った頃。

 

いつの間にか出ていた【尿意】【空腹】のアナウンスにも、外から響いた爆発音(・・・)にも気を散らすことなく、MPの手綱を制御し、必死に握ろうとし続ける。

 

「……ぁ……」

 

幾度の試行錯誤を経て、ついに成った。

スキルを介さない、MPの直接操作。

 

一部の魔法系超級職や【神】シリーズに至る才人が至る領域、その前段階。

 

「こう…やって……ぐるぐる……」

 

掴んだ感覚を忘れないよう、補助輪の記憶を失わないうちに、そのままMPを操作する。

 

「たしか……ぎゅっ、として……ぐわっと……」

 

再現するのは、【魔枯蓄精 サーラエレギー】が行い、アバター(自分)を死に追いやった大爆発。

 

〈彼〉の感覚として、アレは属性のない、MPだけで引き起こされた現象に感じられた。

根拠は、【魔術師(メイジ)】として活動した〈彼〉──若しくは〈彼女〉──自身が属性スキルを使用した所感から。

 

その感覚に従うならば、アレは技術で再現出来る筈のモノ。

そしてそれは正しく、【魔枯蓄精 サーラエレギー】の引き起こす爆発は、スキルによるものでは無い(・・・・・・・・・・・・)

 

要は、高度な身体操作に類するもので……6の自我で体を制御できる〈彼〉にとって、やってできない部類では無い。

 

「……そして……こう……!」

 

【サーラエレギー】が行った爆発は、1000万のMPを、長年の研鑽から高効率での変換が行われた末に森林一帯を吹き飛ばす威力に至った。

本来の使い途ではない(・・・・・・・・・・)からこその威力減少(・・)

それを再現した所で、遥かに少ないMPから大した威力どころかHPを削る程度すらできない。

 

だが、それでも再現は再現。

MPを直接操作した現象の出力。

 

詰まる所、《スキル》の開発である。

 

「……!《魔力自壊》!」

 

名前は〈彼〉がこれを完成させる際の感触(・・)をそのまま流用した。

 

発動されたスキルは、〈彼〉が編んだ結果に沿って、超低効率な上、本家本元よりも少ないMPで発動する。

 

〈彼〉の目の前で起こった、爆竹よりも尚小さな爆発。

使われたMPはおよそ50、その9割が無駄に垂れ流されていると考えても尚小さな小さな……産声(・・)

 

「は……ははっ……!」

 

それでも、〈彼〉は掴んだ。

「普通」の海に沈んだ「ジャンル違い」たる〈彼〉の、本来の在り方を。

この世界(・・・・)における【■■(■・■■)】の条件の一端を。

 

何より、分かってしまった。

この《魔力自壊》という、感覚から導き出した名前の意味することを。

 

「あはは……ははは、はははははは!」

 

しかし今は……それすら忘れた。

なにせ〈彼〉が〈彼〉足りうる第一歩を刻んだ瞬間だ。

笑いが……溢れて止まらない。

まるで産まれたばかりの赤子が、初めての呼吸を求めて泣くように。

 

「ははは!《魔力自壊》!《魔力自壊》!《魔力自壊》ィ!」

 

目の前で幾度として起こる小規模爆発。

新しい玩具を手に入れた子供のごとく繰り返されるスキルの行使は、システムに沿うことなく、〈彼〉自身が操作して引き起こされる。

1度行使される度、効率は上がり、消費するMPは減少する。

 

「はは、はははははは!」

 

遂には無言で、極小のMPで、《魔力自壊》を引き起こす。

爆発威力は変わらず、しかし効率は未だ未熟。

成長性を残したまま、〈彼〉は一旦スキル行使を取りやめる。

 

MPが少なくなったのもあるが、何よりもう補助の必要がなくなった5の自我が思ったのだ。

このままでは、まずいことになる、と。

 

「……行く、かな」

 

〈彼〉は1つ溜息を吐くと、歩み始めた。

向かう先は闘技場の会議室。

 

そして、今なおMPを吸収してるであろう【サーラエレギー】のいる森林だ。

 

 

 

 




これがやりたかったのだ!!
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