一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜 作:苦悩
「……」
少年が、椅子に座りながら目を閉じている。
「ほ、報告します!」
「……ん」
「予定通り、
「……んー、訂正」
目を閉じ、深く椅子に腰かける少年は、報告に1点誤情報が混じっていることを感じ取る。
「は、はい」
「あの研究所はアトゥーム所有、じゃないよ。その配下所有。どっちの、という問いには、
「はい!失礼しました!」
部下は、勢いよく頭を下げる。
「いいよ、許す。……良かったね、今日の
「は、はい、それは、その……」
「……うん、君もだいぶキツそうだね、下がっていいよ」
「は、はい……失礼しました!」
部下の男は、身長200に達する巨躯に筋肉の鎧を纏うかなりの手練。
そんな人物が恐れる相手が、ただの少年のようにも見える人でしかないのには、いささか違和感を覚えるだろう。
だが、彼は既に知っているのだ。
この少年の皮を被った悪魔が、真実”人外”であることを。
だから、逆らわない。
逆らえば……考えたくもない。
一瞬頭に浮かんだ馬鹿な考えを振り払い、男は退出する。
その目に浮かぶのは、怯え。
猫に追い詰められたネズミが浮かべるものと、まるっきり同一のものだった。
「……行ったね」
ひとりきりになった部屋に、程なくして声がポツリと響く。
最低限のデスク。ハッキング防止のためにネットワークから切断されたスパコンと、モニターとしてのPCモニター。
あとは彼が座る椅子で……全部だ。
故に、声がよく響く。
「分かってはいたけど、”界獣”でも彼女は止められなかったか」
部下からの報告資料と、それに付随した映像を見ながら彼は呟く。
中東で発見した”界獣”、それを敢えて見逃し、捕獲目標に回収させた。
彼女の戦力を評価するための試金石として。
「でも……予想外だったかな。まさか太平洋まで、ただのパンチで吹き飛ばすなんて」
普通もうちょっと実現可能な方法で対処するもんだ、などと続けながら、映像の一部を拡大する。
「……さて、
拡大したのは、彼女……名前に鳥と数字が入り、中学生のような体躯をした女。
その、顔。
「過去の接触で、遺伝子パターンは記録した。今回のコレで、顔の形は概ね把握した。過去の渡航記録、活動実績、その他諸々から住所も凡そ特定した。加えて、確保していた予知能力者から兄弟の存在も判明したし、兄の方は有名だったから、既に確保している」
そこまで言って、彼は再び目を閉じ、深く椅子に背もたれる。
「”界獣”の構造から、ヒトガタを作ることには成功している。……もう、少し」
意識を、自分の中へと向ける。
深く、深く潜れば、やがて六席の円卓に座る自分へと、意識が移った。
そこには彼と同じ顔、同じ姿、同じ魂を持つ5人が彼を待っている。
「待たせたね、最後のピースが揃った」
「ようやくかー」
「ようやく、じゃあない。いよいよなんだよ、計画の大詰めがな」
「早いとこ、こんな狭いところから抜け出したいものだね」
「そぉんな事ぉ言うもぉんじゃねぇよぉ。おれらぁの体ぁだろぉ?」
「……zzz」
ふふっと彼……先程入ってきた”彼”は微笑む。
6の人格の内屈指の人格者、”青”と呼ばれる人格は、各々が好き放題叫ぶ様をニコニコと聞く。
そこには先程の男を恐怖させた威圧など微塵も感じられず、穏やかな空気を纏っていた。
「さて、じゃあ、すり合わせでもしようか。プロジェクト【人格適合体】について」
「っていぃってもぉ、そんなのぉ今までなぁんかいもぉやってきただぁろぉ?」
「”黄”ー、そーゆー事言わないのー。”青”がしんけーしつなのは昔から知ってるでしょー?」
「っは、”白”よぉ……庇うように見せかけて毒を吐く。お前の悪い癖だよな?」
「いやいや、
「……”赤”うるさい」
『……?!”黒”が起きた?!』
ガヤガヤ、ガヤガヤと、賑やかしい円卓。
そこにじゃれ合いや弄りはあれど、嫌な雰囲気は一切流れない。
なぜなら、全てが”自分”である故に。
互いに自分の急所は、分かっている。
「さて、話を戻そう。【人格適合体】についてだ」
プロジェクト【人格適合体】
これは、「ジャンル違い」たる
「第1段階として、各々が
ジャンルをさらに踏み外す。
言葉にすれば簡単だが、それには越えられない壁が……ここでもやはり「ジャンル」という高い壁がある。
「第2段階は適合体を捕獲すること。これは8割方完了と言っていい。”
そこで休憩を摂るように”青”と呼ばれた人格は溜息をつき、円卓上にマックスコーヒーを
それはここに限ってはいつもの光景なのだが、5つの人格は揃って心の底から嫌な顔を浮かべる。
「”青”……体の方でソレ飲んでねぇだろうな?」
「もちろんだよ、”黄”。流石に”青”以外からやめろって言われれば是非もないさ」
だから
「さて、最後に一番の難題、第3段階。はっきり言って、本当にこれは難しい。何せ、
「それ……
「何度も言われたし、何度も検証したし、何度も結論を言うと、寿命を遥かに越えることになるけど可能だよ」
具体的には223年後と付け加えると、露骨に『知ってた』という顔をする。
「ま、体はひとつなんだ。死ぬ時は皆まとめて死ぬ。これが自然の摂理で、それに抗おうって言ってるんだから寧ろリスクは低い方だよ」
「呪術師ぃはぁ、裏切ぃらないかなぁ?」
「いくら機械と薬物で制御してても、不安は残る。ただ、ここまで来たんだからやるしかないってのが本音かな?」
「例のゲームを使うって案はどうなったんだ?」
「あぁ、あれね……弾かれた」
”青”は既に例のゲーム……〈Infinite Dendrograma〉内の技術を流用することで最大の問題を解決しようとはしていた。
だが、かすかに希望を抱いてログインした先にいたのは……”ドラム缶”だった。
「要約すると、『もし無理やりにでも”この先”に来るようなら、例えどんな結果になろうと力づくで追い出す。貴様は我々が求める人間では無い』だって」
思えばアレも、今のような……それこそ”青”一つ分だったら通らせてくれたのかもしれないが、そんな仮定を想像しても意味が無い。
そう言って空想を切り捨て、現実的な案を採用するしか道はないと言う。
「空想的な手段が現実的って、昔から理想家なの変わらないね」
「”白”シャラップ」
「まあ、しょうが無いさ。僕らのジャンルからしてもさらにジャンルが違う。……いや、元々のフラットな、バニラと呼べるようなジャンルからすれば全部等価値で違うのかもしれないけど」
「……zzz」
ワイワイガヤガヤ。
同じ体を有するからか言葉なくしても意図が曖昧ながらに伝わり、1度として
それでも、仲違いすることは無い。
同じ自分で争うことの不毛さ、愚かさを十分に理解してるから。
「さて!……残るは、あと10歩くらい。ここが頑張りどころだ、一つ一つ解決していこう」
「うい」
「はいよ」
「わかってぇます」
「了解」
「……おーけー……」
「じゃ、”自分”はまだ確認とかあるから、戻るね。明日の順番は”黒”だよ……今度は、誰彼構わず『喰い』荒らさないでね、後片付けでお鉢が回るのは”
「……zzz」
「……はぁ、ま、いいけどね」
彼女の上の弟が捕縛された経緯ですが、ゼロではない可能性を全て先回りして潰して、彼女の無意識の行動で波及したバタフライ現象も利用して何とか捕縛しました。
ペル君、「普通」に育ってよかったねって話
思いつきました。
わかる人にだけ分かるように言えば、「虚空」の「カグラ=アカシック」の「アカシックレコード」による、未来への布石に近いです。