一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜 作:苦悩
「勢いでここまで来たが……もう1回確認するぞ?本当に、超級職の条件満たしたんだな?」
戸惑いつつも【ジョブクリスタル】まで着いてきたおっさんに問われる。
けど、自分だって混乱してるんだ、未だに本当に満たしたのか心配になる。
けど……【カゲノワズライ】がシステム的にどう判定されてるか、少し解った。
「……アナウンスが正しければ……全部やってる」
まず、全部の条件に付随していた前提条件、『【魔術師】を含む下級職3職に就いていている』の部分。
これは「女性」体がそうだ。
【魔術師】【生贄】【死兵】の3つで、且つ下級職。
次に最初の条件、『MPの直接操作』は当然の様にできている。むしろ、このあと2つの前提条件な気がしてきた。
で、次に『オリジナルの魔法スキル10個』。
さっき《魔力供給》を作った時点で、きっかり10個。多分1番最初に満たす想定の条件だと思うけど、自分は最後にクリア。
かなり簡単な部類だと思ったんだけど……超級職の条件になっていた、って考えると、冷や汗が流れる。
これ、かなりオープンにしてる情報なんだけど……。
……嫌な予想は後で考えようそうしよう。
最後の条件、『MP操作だけで与えたダメージ合計が1000万』。
一瞬戸惑うくらいのダメージだけど、心当たりがあるのは【サーラエレギー】。
あの時の爆発で1000万のダメージが出ていたかは、正直分からない。
自分はただ、【サーラエレギー】のMPを爆発させて、巻き散らかされたMPを爆発させただけ。
それで条件を達成してたなら、そうなのかって言うしかないくらい実感が無い。
考えれば考えただけ、条件を達成しているのが理解出来る。
狙っていた訳じゃないから戸惑いは大きいけど、全プレイヤー中1番ってのはなかなかにそそられる話。嬉しくないわけが無い。
でも……おかしな点がある。
【サーラエレギー】を討伐した時、「女性」体は殺されていた。
直後の【カゲノワズライ】が進化した事もあって、【獣戦士】「女性」体が削った後に「無性」体でトドメを刺すことが出来た。
ここで大事なのは、あくまでダメージを与えたのは【獣戦士】「女性」体……「男性」体と「無性」体たということ。
だから、「女性」体で1000万のダメージを出すことはまず不可能。
そのあとだって、たった2日ちょいでそんなダメージなんて、とても出すことは出来ない。
だから【サーラエレギー】で1000万ダメージを出したのは確実。
でもそうなると、ダメージの発生源が「男性」体と「無性」体にしかないから、「女性」体が条件達成は不可能。
ただ、ここで注目したのが従属キャパシティのウィンドウ。
いくら【従魔師】の《従属拡張》があっても、ここまではいかない。
だから考えられる可能性があるとすれば……ステータスの一部が、既に統合されてる部分がある?
そう考えれば、心当たりがあるのは経験値。
普通パーティーを組んでも、得られる経験値は余り変わらない。なのに自分は、《生命増躰》で増えたアバターとパーティーを組んでも、組んだ人数で割った量しか入らなかった。
もし。もし、獲得した経験値が、人数分で分割された、のではなく。
自分一人分だから、キャパシティはひとつになるし、経験値はアバター分で割られていたし、何より超級職の条件も、どれかのアバターが達成すれば、自分全部の条件として加算できる。
ていうかそう考えなければ納得がいかない。
でもこの考えが正しいのだとすると……他にも、何か統合されている何かがあるかもしれない。
……若干の不安はあるけど、プラスに考えよう……。
という訳で、超級職……名前からして【
たがら、就けるのなら喜んで就く気ではある。
ただ、ひとつ、問題があるとすれば……。
「……」
「ん、どうした?怖気付いたか?」
おっさんがいると、ちょっとした問題があるということ。
この超級職は、【魔術師】が前提としてある。
絶対MPが上がるし、なんならスキル特化超級職だから絶対魔法関係スキルが入手出来るはず。
だから、できるなら【魔術師】「女性」体で取りたい。
そのためには。
「おっさん」
背に腹はかえられない。
「何も言わず、これにサインして」
取り出したのは、【契約書】。
なんだかんだ〈エンブリオ〉の偽装には成功してたので、使うことの無かった無用の長物。
でも、これからすることを考えると、絶対に必要になる物。
「……また借金か?」
「いや……読んでくれれば分かる」
既に1回【契約書】で大失敗したおっさんだ。
あの時とは違い、真剣に、穴が空くほど【契約書】を読み進めるおっさん。
その顔色が二転三転していくのを見ながら、
「おい……おい、おい!何だこの契約内容は!?」
数分で読み終わったおっさんが自分に詰め寄ってくるけど、予め予想出来ていたこと。
「読んだとおりだよ、おっさん。それは【契約書】……を知り合いの〈エンブリオ〉で強化した【誓約書モドキ】。効果を発揮する条件は、自分の〈エンブリオ〉に関する情報を、自分が許可した範囲以上に話すこと。許可は口頭でのみ。既に出ている情報はノーカン。明らかな虚偽情報に対しても訂正せず、《真偽判定》に引っかからない範囲で聞き流すこと。それに対して、自分からは自分に対しての心身損害賠償金の【契約書】を破棄する。
以上が【誓約書モドキ】に書いた条約。
さすがに対象の死を望むのは【誓約書モドキ】では無理だけど、それに準ずるレベルで、直接的なものじゃなければいけた。
将来的に【獣王】に就く気でいるおっさんにとって、レベル500ならギリ払える範囲。寧ろいい発破になると信じて、盛り込んだ。
「……確かにお前の〈エンブリオ〉は、ジョブをひとつ共有できて、自立行動型のものだとしか聞いていない。そしてお前がここまで隠そうとするってことは……」
「うん、超級職に……【サーラエレギー】にも関わること」
「そうか……」
さすがに発したのか、おっさんは深刻そうな顔をして……
サラサラっとサインした。
「つまり、俺の借金はチャラってことだな?ん?」
……あ(察し)。ちらりと、【誓約書モドキ】の写しを見る。……うん。
「ん、あー……。そうだね。てか、良かったの?そんな簡単にサインして」
「要は、お前の〈エンブリオ〉を話さなけりゃいいし、欺瞞情報に反応しなければいい。ただそれだけだろ」
言って、ニカッと笑うおっさん。
そこには、500レベルの喪失……普通に死ぬって、ある文献に書いてあったことに一切物怖じしてないようだった。
「おっさん……ありがと」
「……珍しく、デレたな……顔がいいから絵になる」
「……《魔眼》」
「照れ隠しか?」
うっせ。
……《魔眼》、改造しようかな……?目からビームとか……。
「取り敢えず!」
パンっと手を叩いて、強引に話題を変える。
と、同時に……。
《粒廻探知》、発動。
《
……うん。
「今は珍しく人もいないし、おっさんもサインしてくれた……じゃあ、やるね」
「おう……何をだ?」
「「これ」」
《生命増躰》、裏ワザ。
その名も、瞬間転移。
一旦《生命増躰》を解除、4つのうちどれかを消して、他のアバターの近くで再構築する。
すると、傍目には瞬間的に別の場所に出てくるし、明らかに同じ効果のある【従魔師】の《キャスリング》の強化版にしか見えないはず。
それを見たおっさんは、わかりやすいほどびっくりして、ちょっと後ずさってる。
そりゃそうだ、ほぼ同じ顔した人間が、突然2人になれば。……あ、自分の種族、「ドッペルゲンガー」だった。
まあ、いいや。
「な、なん、てか、お前、あの時の……」
「あ、そっか、おっさん」「一回会ってるもんね」
そういえば2日目にあって、粉かけようとしてたっけ……。
……。
……殺……
「「と、とと……」」
あぶな、またやるとこだった……仕方ないけど。
「……わかった、
「「そうだけど、違う」」「自分の〈エンブリオ〉」「【並列分体 カゲノワズライ】」「効果は、『自分を増やす』」「それから、『性別を変える』」
そう告げると、おっさんは、すごく微妙な顔をして……。
「なあ、その話し方、やめてくれ……ちょっと怖い」
一瞬なんのことかと思ったけど、あぁ、と思い直す。
「「集合体恐怖症?」」
「集……なんだって?」
「「同じものが、大量にあったりするのがこわい人」」
「「だから、こうやって増えると、さらに怖いはずだよ?」」
少し面白くなって、もう2つのアバターも出してみた。
そしたらおっさん、少し顔が青くなって筋肉が硬直している。
「「あ、」」「「やっぱり?」」
「う、うっせぇ!俺にも苦手なもんの一つや二つあるってだけだろうが!」
声を荒らげながらおっさんが行ってくるけど、それを見てケラケラ同時に笑ってみせる。
「う、え……」
それを見ると、おっさんはさらに顔を白くして後ずさる。
「ごめんごめん、ちょっとやりすぎたね」
さすがにまずいから、一旦《生命増躰》を解除。
「……やりすぎだ……あそこまでになると……怖いっつか不気味なんだよ……」
「あー、ゴメン。まさかそこまで効くとは思わなかった……」
「……いい、許す……けど決闘であれやんなよ?絶対だぞ?!」
「あ、はい」
……まあ、そもそも出す気のない〈エンブリオ〉だから別にいいんだけども。
「はぁ……で、緊張は解けたか?」
「……バレてた?」
「いつも以上に分かりやすいんだよ、さっきから」
あー、やっぱり、おっさんには敵わないなぁ……。
「……うん、割と解れたよ、ありがと」
「おう、ならいいんだ……さっさと行け」
指の指し示す先には、光を放つ【ジョブクリスタル】がある。
……行くか……。
「行ってくる」
「おう」
短い返事に頷くと、案外軽い足を進めながら【クリスタル】の前に立つ。
足が軽いのも、緊張してるのも、原因は分かってる。
現実では1番になれない自分が、1番になれる機会を得られたから。
心がふわふわして、何処か現実味なかったからだ。
でも、大丈夫。
さらに楽しいゲームライフのために……ちょっと早いお一人様限定のエンドコンテンツ。
「いざ、貰ってきます……!」
さっき《生命増躰》を解除したとき、ついでに《性別転換》で「男性」体にして、【魔術師】専門体以外を消した。
おっさんが気づかないくらいの早業。スキルの扱いにも慣れてきたもんだね。
そんな益体もないことを考えて。
【ジョブクリスタル】に触れ───
【転職の試練に挑みますか?Yes/No】
「勿論、Yesだ……あ、待って」
【生贄】、念の為にサブの方に回しとかないと……。
■
《試練の間》
【新たな魔法系スキルを開発せよ】
【属性は純魔力属性に限定する】
【制限時間は、目の前にある石の塔に触れた瞬間から30分である】
【成功すれば、次代の【
【失敗すれば、次に試練を受けられるのは一か月後である】
「へぇ……なるほど……」
空は高いが雲一つなく、空の色は青ではなく白一色の空間。
前後左右の奥行きは、地平線までただ1つ以外何もないし、果てがあるかすら分からない。
そしてそのただひとつは、自分の背の高さ程度の、石を積上げた塔。
さっきのアナウンスが流れたタイミングで自分がこの空間に
それで、この石の塔が試練の開始スイッチ。
石の塔なのはなにか意味があるのかと思うけど……まあ、考えてもわかんないんだから気にする意味は無いね。
ちょっとだけ覚えておく程度でいいかな。
この為に、おっさんを借金漬けにしておく必要が、あったんですね。