一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜 作:苦悩
「そもそも、私が【気絶】させたのは傷つけても問題のない奴らばかり。アナタとは違ってね」
いやでも、自分は1人に対して貴女は10人以上気絶させてますよね?
死屍累々させたのって、やはり貴女では?
「ん?……あの、つかぬ事をお聞きしますが……」
「何なりと聞くがいいわ」
「そこで伸びてるガマガエ……じゃなくて、デブf……でもなくて、エルフの人なんですけど……」
自分と違って、傷つけてもいい奴ら。
逆説的に言えば……?
な、なんか血の気が……汗が……。
あ、手が震えて……おえ、ちょっと気持ち悪くなってきたかも……。
「アンタ、意外とハッキリ物言う子ね……。まあ、予想の通り。コイツ、ハイエルフ部族長の親戚筋の一人息子なのよ。甘やかされて育てられた、ね?」
f○ck!
「まあ、どれだけ罪を軽くできても、普通に指名手配、”監獄”行きだわさ」
「いや、あのー……自分、反撃しただけなんですけど……」
「関係ないわ。私に決定権はないから。多分都合よくストーリーが作られるんじゃない?例えば、そうね……。『超級職になりたてのアナタが万能感に酔いしれスキルを乱発。果敢に止めようとした部族長の親戚筋の一人息子が当たり所悪く重症に』、とかかしら?」
えぇ……そんなことするの?
流石にそれはゲームバランス的にどうなんだろ……
「因みにここレジェンダリアでは、今日までに104人のマスターが”監獄”に送られてるわ」
へぇー……初日にログインした自分みたいな奇特な人が、大体1万人くらいとすると……大体1%?
あれからもっと増えてるから、そうなると小数点以下数パーセントくらいかぁ……
「なにゆえ?!」
普通に多いよ!?
「?禁足地に入ったからに決まってるでしょ?」
「なにそれ知らない」
てかそんな重要なことを、目の前の【妖精女王】は当然の常識のように……?
「……ねえ、嫌な予感するんだけど……」
「…………奇遇ね、同感よ」
「禁足地って、なにか目印とかは……」
「無いわ。だって、レジェンダリア民なら分かるもの」
そっかぁ、そっかぁ……
「盲点ね。子供の頃から言って聞かされるから、私たちにとっては常識なのよ」
それで侵入者が多かったのかなどと呟いているけど、気がついてて欲しかった……!
でも、しょうがないことではあるのかな……。日本人になんで元朝参りするのって聞いても、由来を答えられない人は多いし。
「まあ、アナタは指名手配されるのが殆ど確定しているのだし、有志からの情報として受け取っておくのよ」
「それで情状酌量されたりとかは……」
「あると思うの?」
「無いんですね……」
……てか、腹立って来たんだけど。
自分、ただ正当防衛しただけだよね?
蝦蟇デブフが【魅了】何ぞ使ってくるから、そっちの方に飛ばしただけだよね……?
……あ、やばい、久々に
「ふむ、そういう事なら、吾輩が救いの手を差し伸べてあげようでは無いか」
「あんた……」
……さも助けに来ました風を装って、さっきまで下品な目線をくれやがってきたクソ野郎が出てきた。
ご丁寧に、【妖精女王】が指定手配を確実とした上で、劇的になるような状況で、だ。
あ、コイツ、嫌い。無理、生理的に。
「
「下品な感情くらい隠しながら来いや。バレバレなんだよ、目線がな」
仕切りに顔と胸と股間と足を行ったり来たりすれば、嫌でもわかるってんだ。
「あ、あー……」
そしてクソ野郎を吹き飛ばした時点で、【妖精女王】が呆れた目で見てくる。
……もしかして。
「……やっちゃった?」
「……はぁ……みんなー!突発ライブ、始まるよー♪!」
「え?」
『うぉおおおお!』
え、何これ。
【妖精女王】って、こんなキャラだったの?
いや、そうじゃなくて……。
「突発ライブ?」
「今日の
『SHI・KE・I!SHI・KE・I!』
「あのー、話……あ、聞いてくんない、そうですか」
「大正解ー!!!そう!悪い事したマスターは、さっさと殺して”監獄”にぶち込まないとね!それじゃあ行くよー!突発ライブ、すたーとー!」
『FUUUUUUUUU⤴︎⤴︎』
何がなにやらだったけど、取り敢えず、シンプルに考えよう。
【妖精女王】は自分を殺しに来て、助けは来ない孤軍奮闘状態。
ログアウトは30秒非接触状態である必要性から、選択肢に入れられない。
あれ、これ詰んだ?……いやいや、おっさんがいるジャマイカ。
そっと視線を送ると、すっと逸らされた。
……神は死んだ。自分、【
うわ、気づけば”【妖精女王】♡Love!”の人達が起き上がって、すっごい綺麗にシンクロしたオタ芸してる……てか、サイリウムなんて何処にあったの?
「〜〜〜♪♪̊̈♪̆̈」
『わぁあぁぁぁあ!』
『【妖精女王】さまぁーー!』
『踏んでくれぇーーー!』
『こっち向いてぇ!』
『罵ってくれぇーーー!』
『ペットにしてくれぇーーー!』
「五月蝿いのよHENTAIども!」
『WHOOOOOOOOO!!!』
……えぇ……何これ、何見せられてるの……?
取り敢えず、今のうちに
「〜〜〜*¨*•.¸¸♬︎」
幸い、【妖精女王】は歌ってるだけ。
すごい美声だから、思わず聞き惚れそうになるけど、そんなことをしてたら何時やられるかわかんない。
なら、逃げるが勝ちってええええ!
『BOOOOOOO!!!』
一瞬。そう、一瞬抱いた違和感に従って、右に避けた。
そしたら、自分の体と同じ大きさの火の玉が左をすり抜けてって……
やば!
右!左!上!しゃがんで後退!前転して遠心力でジャンプ!って!
目の前に見えないけど視える風の刃?!
「っ《希望のた……だめだ!」
込められたMPが違う!勝てる訳が無い!
ちくしょう、一手無駄に……動け!
「根性ぉ!」
AGIじゃなくて、STRを意識した踏み込みで強引に避ける。
良かった、「男性」体にしといて。雀の涙だけどちゃんと補正がある。
反動で床に罅が入るけど、気にしない。それどころじゃない。
でも、これですこし距離が空いた。
今のうちに……!
「足が……!《魔力自壊》!」
気づけば足が沼に……《魔法隠蔽》で隠されていたか!
まるで底なし沼みたいに足が動かない。しょうがないから、足の裏で《魔力自壊》して多少の負傷と引き替えに爆風で抜け出す。
フィガロがやっていたことの真似だ。MPが下のフィガロで出来たんだ、自分に出来ない道理はない。
咄嗟の発動で威力調整が効かなかったから、【欠損】は無いにしても、少し高い。
もう、少し……。離れて……。
「グフッ……」
何も無い空中で、何かにぶつかって……
ちくしょう、《魔法隠蔽》が厄介すぎる。
「捕まえた」
「これは……風の、繭?」
幾重にも張り巡らされた糸のような風が、複雑に絡み合って自分の手足を拘束している。
込められたMPは当然自分よりも上、破壊するには……手札はあるけど、1回だけ。
そして、それを切るにはまだ少し近い。
せめて、もうちょっと、離れないと……。
「ちょこまかと動き回って……少し面倒だったわ。でも、これで終わり」
「……!」
声、出ない?!あ、なるほど、逆振動ね……。
「……!、……!」
待って、もうちょい……もうちょい……
「それじゃ、”監獄”に行って頭を冷やしてきなさいな」
今度こそ自分を仕留める為の闇の柱が迫ってくる。
速度はかなり遅い。処刑ショーも兼ねてるからかな?とはいえ、都合がいい。
あと
……もうちょい、もうちょい……もうちょいやもう無理!
「《魔堕命》からの《
展開するのは、
純魔力属性は、攻撃に使うなら最大MPの差で判定の有無が決まり、防御なら込められたMPが攻防の末を決める。
この魔法は、1粒に込めるMPこそ2程度しかない。だから純魔力属性の性質上、防御できないと感じるけど、実際はそうならない。
何故なら、発動している魔法は《
複数個か一度に発動するタイプの魔法だからか、1つの魔法として問題なく作用してくれる。
自分のこの《
ま、人体に当てればそのまま攻撃魔法になるけど、いまはその点は重要じゃない。
重要なのは、溜め込んだMP……それも圧縮したMPと《魔堕命》で絞り出したMPが、【妖精女王】の魔法をかすかに上回ったということ。
なら、壊せる。削れる。
「よし、今──」
「甘い」
─っ、目の前に、光の槍が……!避けられない……!
「あ」
『UWOOOOOOO!!!』
「〜〜〜♬࿐⋆*……それじゃ。今日のライブはここでおしまい!また今度ね!」
『YES, Mom!!!』
光の槍が貫いて、《ラスト・コマンド》の効果時間中だったからそこまでは聞こえた。
その後は光の槍が体内で千々に分裂して、身体中が破壊されてしまったから聞こえない。
こうなると、もう何もできることは無いんだよなぁ……
素直に光の粒になるのを待つくらいしかできないのがこのゲームの悪いとこだと思う。
まあ、世界観の設定的にその方がいいのかもしれないけど。
……【妖精女王】の魔法、かなり参考になる構成だったから、収支は若干プラス、って所かな?
負けたものは仕方ないし、それよりも魔法の構成情報ってだけで値千金だから。
……っと、もうそろそろ《ラスト・コマンド》も切れる頃合いだね。
幸い保険の方には気づいてないっぽいから、この分なら無事に逃げら───
■
【
「無事に逃げられるって寸法」
ま、
あの時、【妖精女王】が周囲に意識を払った瞬間。
《生命増躰》と《性別転換》でちょっと離れた位置に「無性」体アバターをだして、そのまま人混みに紛れ込んでそそくさと逃げた。
「無性」体にしたのは、自分にしては随分と
AGIに優れた「無性」体はそれを伸ばすようにジョブを取っている。だから、マイナス補正でも普通程度には足が早い。
「でも、惜しいかな……【
折角取ったばっかりなのに……しかも、「女性」体が一番MPが多かったんだから、その分ほかの自分が使える量が減る。
今はせっせと《生命増躰》アバター総動員で自然魔力から圧縮MPを生産してるけど、それでも身体がひとつ足りない分効率は少し悪い。
……
それでもさっき、折角貯めてた分を全放出しないといけなかったから、最低でもそれ位は貯めないといけない。
いつ【妖精女王】が再来するか分からないし、最低でも一発凌げるくらいのMPは確保しときたい。
「……街には多分もう暫くは入れない、かな?」
ほとぼりが冷めるまで、霊都アムニールには近寄らない方が懸命。
【妖精女王】が殺した筈なのに、何故か同じ顔の人物がいたら怪しいどころじゃない。自分の場合、《性別転換》しても顔がほんの僅かにしか変わらないから、最悪〈エンブリオ〉のスキルバレまでする可能性がある。
さすがにそれは死活問題だから、なるべく避けるとなると、やっぱり街に近づかない方がいい。
「……やっぱり、
目の前にある、【サーラエレギー】の痕跡。
「アイツがどこから来たのかも、興味あるし。チェインイベント的なのもあるかもしれないし……」
ま、このゲームは始めたばっかりだし、多少のトラブルがあっても面白いから辞めようとは思わない。
もうちょっとすれば2ヶ月間の夏休みに入るし、のんびりとやっていこう。
□
clear──The first episode ”START&WANTED”
next──The second episode ”SECRET& STAMPEDE&KINGDOM”
──to be continued.
何度でも言います。口調、及び周囲の反応は全て想像です。
追記
【戦奏者】の超級職、【妖精女王】の試製なのかなーって。