一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜 作:苦悩
指名手配犯は今
「……もう一度言って」
「は、はい。4日前、超級職を取った直後に指名手配し、【妖精女王】様が直接引導を叩きつけた彼、なのですが……。他のマスターからの証言により、”監獄”に入っていないようなのです」
その報告に、眉を顰めながらこめかみを押さえる。
あの時、確実に仕留めたのは確認した。【死兵】に着いていたようで、死体は1分程残ったが、それでも光の粒になって消滅したのはこの目で見ている。
マスターは殺されると、〈エンブリオ〉の力によって別世界に逃げ果たす。
不定期に別の世界に赴き、時に帰ってこないこともあるマスター達。
普段はマスターの意思だから特にペナルティ等はないが、死亡して強制的にこの世界から弾かれるなら話は別。
マスターは死んでも死なないが、それでも死んでしまうと3日はこの世界に訪れることは出来ない。
そして3日が経つと、各地にある〈セーブポイント〉に降り立ち、活動を再開する。
「……セーブポイントは禁止したはず」
「足取りを追ったところ、他国に赴いた記録もありません」
登録したセーブポイントが犯罪行為などで国から使用不可にされた場合、マスターは”監獄”へと送られる。
これはこの世界に降り立つ際、自動で”監獄”のセーブポイントが設定されているためである。
各国の何処のセーブポイントも使えない状況の際は、最後に残る”監獄”のセーブポイントしか使えない。
そして国が設定した刑期が明けるまで、”監獄”以外のセーブポイントは使えない。
「……マスターの〈エンブリオ〉。それがもし死亡を誤魔化す類のモノだった場合……」
それこそ、【司教】の奥義、《リザクレション》を一定時間ごとに、かつ別の場所で復活させるようなものもあるかもしれない。
もし、何らかの事情でまだこの世界に来ていないだけなら、構わない。
だが、常に最悪の想定はしておくべき。
まだ生きている可能性がある以上、多少の対策はしておかなければいけない。
「あのマスターを指名手配、ついでに〈DIN〉から目撃証言を募っておいて」
「畏まりました」
「ついでに
脳裏に1人の人物を思い浮かべながら、【妖精女王】は指示を出す。
長年の経験から、何処か嫌な予感が湧いてきているのに気づきつつ。
■
【
「……飽きた……」
霊都アムニールを追い出されてからリアルで1日ちょい、デンドロ内で4日が経った。
相変わらず時間加速は最高だけど、その分目まぐるしく出来事が動くなって思う。
まず、自分の指名手配がネットで話題になってた。
きっかけは、あの場にいたマスターの内動画を投稿していた人達。
話題のゲームで、プレイヤーが衆目の中あんな派手な演出を起こしたら晒したくなるのが人の習性。
その後の【妖精女王】の突発ライブ、その前座的な扱いだったけど、それでも自分の顔は広く世間に知れ渡り、デジタルタトゥー化した。主に『おとこの娘』ジャンル検索トレンド入りしたせいで。
しかも自分の場合、素顔プレイだから知り合いから連絡が来るわ来るわ……。お陰でちょっと大変だった。
超級職とったのもティアンからの情報でバレバレだし。なんの超級職かはいくら金を積まれようと言わないけど。
その時点では指名手配されてなかったんだけど、さすがにバレたのか今日の朝、晴れて指名手配犯だ。
次に、フィガロが王国所属になった。
元々寝る前に個人ブログ回りはしてたんだけど、とある決闘初心者がヤベー奴見っけた、って載せてたのを見かけてね。
これを最初に見た時、思わず2度見して目が覚めたよ。
だってここから王国までどれだけ距離があると思ってるんだか……瞬間移動でもしたんじゃないかって考えてしまうスピード。
で、そこまで考えて気づいた。そういえば、おっさんが話したアクシデント・サークル、その中に特に危険、として転移系のものあったなって。
それで一応納得したっちゃぁしたけど……もし国家対抗戦争イベントとかあって、それでフィガロと、しかも成長した奴と闘うって考えたら……あ、寒気が。
だってフィガロ、下級職一職目カンストしてないのにマッハ6の小さな弾丸弾けるんだよ……?もしそれでAGI偏重超級職なんか取っちゃったら……やばいんじゃない?
【術神】の場合、残念ながらAGIは平均的な上級職程度の伸び率だから、あまり期待できない。代わりにMP、若しくはSPの成長性がいいけど。
……
奥義スキル、それは上級職から解禁される要素で、大抵のものが強力。
勿論超級職たる【
【術神】の常時発動型奥義、《魂魔一体》。
説明はシンプル、つまり効果の方も超シンプル。
『MPとSPを統合する』。これだけ。
いや便利だよ?MPだけ多くてSPは普通以下だった自分にとってはかなり嬉しいスキルだよ?
しかも《魔堕命》で実質HPもMPにできるから、滅茶苦茶便利なのは素直に嬉しいんだけど……。
肝心な事に、MPの方は良くてもSPの方のスキル作成感覚がいまいち掴めない。
MPの方は【サーラエレギー】の特大自爆っていうシンプルなお手本があったから良かった。莫大なMPのお陰で、流れが分かりやすかったし。
ただ、SPの方は……。
取得してるスキルの消費量が少ないせいで、まだ感覚が掴めてない。
いくら使ってもあの時みたく分かり易すぎる感覚なんてないし、MPの時みたいに集中しようにも安全な場所がない。
視認して操作するだけなら、いくらでも出来るんだけど……。
「んー……《
偶然通り掛かった《ランス・ボア》(♀)に向かって使ってみるけど、全く効果なし。
実際に自分に何度も使われたせいで、客観的な効果と動きが分かってて、それでも出来ない。
なんか……それこそ、痒いところに手が届いてくれないもどかしさがある。
動きの模倣は完璧。システム頼りじゃなく、完全手動操作ならジョブのシナジーをある程度無視できるのも確認済み。流石に【生贄】みたくシステム的に封じられると無理だったけど、【術神】に限ってはそういうことには無らない。
なら何が問題なのかが……分からないからこうして自然魔力の吸収もせず、歩きながら考えてる。
《
リアルの専門wikiで見たし、自分に効果が全くなかったから【魅了】のスキルなのは間違いない。
何が問題……?
不意に、違和感を感じた。
考えてることに違和感を感じるなんて不思議な感覚だけど、実際に感じてるんだからなにか見落としがある?
でも、《
ん、んん??
「何だろ……《雄性の誘惑》……《雄性のゆ》……《雄性》……?」
あ。
「これ……」「……男性専用の」「スキルだったり?」「そんな馬鹿な……」
……試しに「男性」体から「女性」体に向かって《雄性の誘惑》……。
「……」「……」「……」「……」
……性別制限あるスキルって、あったんだね……。
「……ここをこうして……ひゅっとしてひょっ、とすれば……こうかな、《
試しに構築法式の前半部分と後半部分を逆にして、その上でなんかいい感じに繋がるようにして発動してみた。
「「「「……うん……うん……」」」」
はい。
完全に、コツ掴みました。
……なんか、凄い簡単なことなのに1日迷走したなぁ……。
「ふーむ……そうなると」「これはこうで……」「発動、成功っと」「ちくわ大明神……うし、書けた」
1回発動しちゃえば、あとはこっちのもん。
取り敢えず感覚を忘れないうちに各アバターでスキルのシステム頼り打ち。
その後に随時要所要所を少しずつ手動に切り替えれば……うん。
少し時間がかかったし、なんならモンスターに襲撃されたりもしたけど、完成。
あとは少しずつ応用して、完全新規のスキルを完成させるだけかな。
「あ、そうだ」「
やろうやろうと思ってすっかり忘れてたことを思い出した。
これが出来れば、今まで少し不自由してた事も出来て、自分にとってかなり都合が良くなる。
ちょうどいいタイミングでモンスターも来てくれた事だし、実験体にでもしよう。
「取り敢えず」「死ねぇ!」「「「《飛翔魔剣》!」」」
笹に似た植物の中から出てきたモンスターを瞬殺して、あるスキルを……【術神】内包《昇力眼》《昇力感知》《昇力操作》を使用する。
『昇力』。ヘルプによれば、『器を昇華させる力』、つまり経験値とのこと。
そして経験値を視て、感じて、あまつさえ操作できる、ていうスキルがあることからわかる通り……
「うん、入ってる」
こんなことも出来る。
やったのは単純で、経験値の流れを変えたってだけ。
さっきの戦闘、敢えて「男性」体アバターは戦闘していない。
理由はこの実験……経験値を操作できるなら、戦闘に参加しなくてもレベル上げできるよね、って考えを証明するため。
これが自分本人だからできるのか、はたまた赤の他人にも出来るのかは分からない。
けど、分からない、と、出来るけどやらない、では大違い。少なくとも、自分にはできるのがわかったんだから今はそれでいい。
ここで大事なのは、経験値が実際のエネルギーとして、空間を飛び回った、という点。
『モンスターを倒せば経験値が入ってレベルアップ』。それがこの世界の常識だから疑問は持ってない。実際そうだし。
でも、ちゃんとこうした過程を経て経験値が入ってる、って考えると……中々に悪用が出来そうな気してならない。
例えば、自分は【術神】の《魔力眼》を持つ前からMPを視れたし、《魔力操作》がなくても操れた。
人によっては、SPを視て操れるかもしれない。
それは経験値にも言えること。もし視えるなら、操れるのが道理で、よしんばそこまで行かずとも干渉はできる。
そして世界は広いもので、こうして考えつくようなことって、殆ど有るんだよね。
特にマスターの〈エンブリオ〉。これならどんな異常も簡単に引き起こせるから。
自分の今の大目標は、”監獄”に行かないよう、デスペナしないこと。
その為には、デスペナしないように対策しなければ行けなくて、その為にはレベルを上げてジョブチェンジしないといけない。
で、ジョブチェンジには【クリスタル】が必要になってくる。
そうすると、何処か【クリスタル】がある村か街を見つけて、出来ればカンストするまでバレずに滞在したい。
流石に街はヤバいだろうけど、村なら自分の顔写真は出回ってないだろうっていう淡い期待があったりする。こんなんでも、指名手配犯だからね。
で、出来れば人里離れた辺鄙な村が好ましいかなって思ってずっと【サーラエレギー】の痕跡を辿ってたんだけど……。
「……やっぱり、さすがに飽きた」
寝ても醒めても夢の中でも森森森。
植生はチョットずつ違ってくるからその辺は見て楽しめるんだけど、言ってしまえばそれだけ。
これが4日前からずっっと続いてるんだ。
気晴らしにスキル開発とかしてたけど、それも長続きしない。
「変化が……変化が欲しい……!」
そう、出来れば、突発イベントが起こるとか……!
「ヤバ」「フラグ立てた!」
SPを感じて脊髄反射で避ける、滅茶苦茶ナイス判断。
さっきまで横にあった笹の茂みは一直線に切り裂かれ、先を見れば1枚の葉が木に突き刺さっている。
特別鋭くもない、普通の葉。なのにそれが凶器になるほどの貫通性と切断力を持っていた。
「アハ!避けた!」
「今度はいっぱい投げるね!」
「僕はキノコ使うからね!」
「彼奴らどんな声で泣くのかな!すっごい気になる!」
声の方を見てみれば、そこには妖精が……いや。
【妖精女王】と比較すれば劣るのは分かる。
でも、それ以上に、なんというか、
どう汚いのかって言われれば返答に困るけど、強いて言うなら
視えてるのも、感じてるのも普通のものだし、《魂力隠蔽看破》にも反応は無い。
でも、何となく。アイツらは、純粋なまま汚れきっているって感じる。
「……なるほど……」「これが、邪妖精」「想像以上に想像以下」「見てるだけで気持ち悪い……」
何より、アイツらは自分に攻撃を仕掛けてきた。殺す気で。弄ぶ気で。
なら、自分から攻撃しても……殺されても、文句は言えないよね?
「《陣》投影」「《魔弾の射手》展開」「《
さあ……狩りと行こうか、
こちとら理不尽に指名手配されて気が立ってんだ。
クレジット
読者一同さま
この小説は、皆様の誤字報告によって成り立っております
追記2/26
現在、仕事がクソ忙しいです。
具体的に、朝は1時間早めの出勤、昼は食ったら即作業、帰りは30分ほどオーバー、その後あれやこれや。
暇がないためプロット煮詰めてます、お待ちください。