一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜 作:苦悩
「キャハハ!怒った!」
「《投擲》!いっぱい!」
「《ポイズン・バレット》!今度は苦痛茸の胞子だよ!アハハハ!」
「《ペイン・デュアリ》!たくさん泣いていいからね!」
……厄介。そう、厄介、これに尽きる。若しくは面倒でもいい。
さっきから何度も何度も、同じことの繰り返し。
投げられる葉はスキルで動かされてるだけで、元は周りにある木の葉っぱだし、ばら撒かれたり弾丸になる毒は邪妖精の一体が手に持っている茸から発生している。
つまりはどれも物質由来の攻撃だから、《希望の盾》も《
簡易ステータスに表示された【痛覚過敏】は名前の通り、痛みがより大きくなるんだろうけど、肌を撫でる風が強く感じられた瞬間にアバターの痛覚は切っておいた。
どう考えても、普通は考えつかないような痛みに襲われることは確実だし、それで死んだら情けなさ過ぎる。
せめてもの救いとして、葉も毒も、避けようと思えば避けられる速度しか出てないことかな。
1体は支援職なのか攻撃してこない。
だからまだ被弾は無いし、デバフもマスター相手だと無力になる類のものだった。
だから、自分が死ぬことは無い。
けど、自分が邪妖精を殺せるか、と言うと、少し難しい。
さっきからずっと攻撃し続けているんだけど、不思議なことに
《魔弾の射手》は設置型、つまり場所が分かればあとは発射タイミングを見切るだけで、簡単に防がれる。多分、フィガロはそうやって防いだんだと思う。
明らかに設置場所が見えてない邪妖精共なら問題は無いけど……うーん……。
《飛翔魔剣》は今の環境だと《魔弾の射手》より分かりやすくなっている。
どうしても邪妖精を切るには周りの笹っぽい植物を切らない訳にはいかないから、必然《魔剣》の場所がバレる。
《
ま、葉を切るくらいはできるけど。
あとは……そう、【妖精女王】から学び取った魔法。これに関しては、まだ理解が追いついてないから少し難しい。
総合すると、環境が悪い。
と、言えれば簡単だったんだけどね……。
不可解なのが、邪妖精共は反応出来てないのに、何故か躱せているということ。
数打ちゃ当たるとも言うけど、何度も何度も攻撃すればそれだけ試行回数が積み重なって確信が持てる軌道も多くなる。
当然と言えば当然なのだけど、普通マッハ6の速さに対応する事は出来ないってのもあるし。
だから邪妖精に絶対当たるルートだった《飛翔魔剣》が、周りの
ノーコンとか言われたし、何かデバフを使ったとかではなかったから、少なくとも自分は干渉されていないことは確定。妙なリソースの流れもないし。
ただ、それだとさらに訳が分からなくなる。
幻影を見てる訳でもないし──寧ろそれを使ってくれてれば楽だった──スキルで逸らされてる訳でもない。
《魔弾の射手》で狙った先にいた邪妖精が、
《飛翔魔剣》でハサミのように断ち切ろうとしたら、
考え無しに突撃して《
「本っ当に、
……本当に……?
……運?
運が、悪い?
「あ」「もしかして」「アイツらのLUCって」「自分よりも遥かに高い?」
……いやいや、そんな訳が無い。
邪妖精はLUCが元々高い種族、なんてwikiには載ってなかったし、真妖精も同様だった。
そも、LUCがいくら高くてもここまであからさまに不都合が全部避けてくなんて、有り得るはずがない。
もしこれがLUCの引き起こす現象なら、このゲームで最強なのはLUCが1番高い人になる。
補正値が-F……30%の減算を受けてるとはいえ、幾らなんでも自分と邪妖精共の間に膨大なLUCの差があるはずが無い。
拮抗できている時点で、ステータス的にはそこまで大差がないのは一目瞭然なんだから。
でも現実は、倒せない筈がないのに、倒せない。
いくらやっても千日手。
互いにMPやSPといったリソースは減り続けているんだから、無限にこの状況が続く訳では無いってのは馬鹿でも理解出来る。
でも、何回も何回も、不毛な争いを続けていると飽きてくるし、原因が分からない謎現象に付き合ってると気が滅入ってくる。
いつミスが起きるか分からないんだから、出来れば早めにケリを付けたいってのが本当のところ。
でも、それが出来ればこんなに辟易とした状況になってない。
だから、次はこうする。
「《陣》」「《圧》」
広範囲攻撃……猿頭を吹っ飛ばした《圧》を《陣》で増幅して打ち出してみる。
これまでは対象選択した上での単体攻撃だったから防がれた可能性があるって考えて、今度は対象無し、全方位弱攻撃(威力可変)に切り替える。
《圧》は自分を中心に、360°の球状膜を形成して膨らませる魔法。
当たった生物は拡大の勢いに押され、ダメージを受ける。その時に抵抗は出来るけど、それは自分のMP操作力を上回るナニカを持ってないといけない。
そして自分を上回るMPがあればそもそも効果を受けず、それどころか膜を破って《圧》を強制終了させてくる。
さて、邪妖精共は自分と同じくらいのステータス、《圧》の……それも《陣》を通して強化した《圧》で弾かれないとおかしい。
自分の予想としては、4体のうち何もしてない1体が鍵だと思ってる。あいつ、本当に口が悪いだけで何もしてこないから。
何か特殊な……それこそ特典武具とか持っててもおかしくない筈。
例えば、同じ形状のモノなら、別のナニカに置換できる、とか。
「なにしてるの〜?キャハ!」
「効かなーい、効かなーい!」
「バーカ、当たるわけないじゃーん!」
「アハハ!アハハハハ!オヤカタ様サイコー!」
結果は……効果なし。
魔力膜が拡大して、邪妖精共に触れる一瞬前。やっぱり
これは予め予想出来ていたことだから驚きは少ないけど、それでも思わず嫌な顔を浮かべてしまった。
それにしても……
「効かない」「当たらない」「……当たるわけが無い」「それに、オヤカタ様、ねぇ……」
成程、成程……。
「お前ら」「何もしてないな?」
間違っていた、考えてすらいなかった。
リソースの流れが全く無いし、目の前にいる敵に集中していたから見過ごしていた。
そこにあるモノが別の何かに変わって、妨害してるのだと思っていたのも良くなかったね。
そういうスキルだと思ったし、考えれば考えるほどにドツボにハマる感じでそうだと思い込んじゃったし。
置換するにしろ、そうじゃなくても何かしらスキルを使ったにしろ、MPかSPの流れはあって然るべき。
なのに、無い。
なら、なぜ無いのか。
「効かないのも」「当たるわけが無いのも」「当然だね」「ここは掌の上」
オヤカタ様、と言うのが何なのか知らないけど、十中八九この事態を引き起こしたのはそいつだと分かる。
そして、スキルを使う上で必須のモノが使われてないのに、現実としてスキルによる入れ替え……それも自分に違和感を悟られないほど自然な行使がされた。
……だったら良かったけど、違う。
もし隠蔽されていて、未だ低レベルの各種《隠蔽看破》スキルに反応されなかったとしても、そこに在るなら、視れば分かる。
特にさっきのトレントは目の前に居たんだから、リソース移動があれば絶対に分かった。
なら、話は簡単。
別の場所でコストを支払って、ここで発動してるだけ。
そして、あんなにピンポイントに発動させてるなら、オヤカタ様とかいうのが自分を
……遠隔で視れる、とすれば……。
「あれれ〜?もしかして、バレちゃった系?」
「ヤバいんじゃない?」
「オヤカタ様ー!バラしたのはこいつだよー!」
「お前もバラしてるじゃん!アハハ!」
聴く事も出来る……早くここから逃げよう。
最初っから、ここはオヤカタ様のテリトリー。
遠慮なく活動できるようになるなら、さっきみたいな手加減する必要なんて無いんだから。
あ、
「まずっ」「知ってたけど」「ほんとに不意打ち」「知ったからには」「許さない」「ってことかな?」「自分から」「バラしたくせにね」
今までに無いほどに大量の葉の嵐が襲いかかって来た。
もう隠す必要はないという意思表示かこれ……。ちょっと、いや、かなり絶望的なんだけど……。
見てよこれ、笑っちゃうくらい隙間がない。正に壁、それも一つ一つの攻撃力は低いけど、数で解決するタイプ。《
しかもこれ、邪妖精共のと一緒で物質にスキルで効果を付加した攻撃だから純魔力属性で防げない。
つくづく便利だけど面倒な属性だよね。
最大MPが格下ならあっさりと効くんだけど、こうして物理で殴られると本っ当に弱い。
まあ、普通の生物相手なら割と勝てるんだけど。
……さて、思考速度マッハ6の視界で見ても割と早く迫ってくる葉の壁だけど、ホントにどうやって対処しよう。
と言っても、こういった葉っぱの対処法として良くある選択肢はそう多くない。
壁を作るか、枯らすか、散らすか……或いは燃やすか。
「「「「構築開始」」」」
幸いなことに、自分にはそのうちの一つに心当たりがあるし、割と構築が簡単な方だからギリギリ壁がぶつかるまでに発動出来る。
「キャハハ!させるかー!」
「……《
知ってた。
だって、不審なMPが動いてるのが見えたし。
妨害があるって考えるのは当然。
そしてコレを発動しても、偶然……いや、オヤカタ様とやらが妨害してきて1ダメージも受けないのも知ってる。
案の定、見えない手が邪妖精の首根っこを引っ張って強引にどかしてきた。
てかこんにゃろ、バレたのをいい事に直接干渉してきやがった。さっきの、面倒になって遠隔コスト消費しなかっただろ。
ま、いいや。ここでイラついても頭のスペースの無駄、なんの得にもなんないし。
それよりも重要なのは、さっきので一手相手に使わせたこと。
これで、必要な時間は確保出来た。
構築も……完了。
「「「《ユニゾン・マジック》《クリムゾン・スフィア》」」」
4日前に
完全同一、同量MP、3体発動による、3倍以上威力の超火力。
属性変換したことで純魔力属性の利点と縛りが無くなって、現象として確立した魔法。
どれだけ葉の壁が後ろに続いていようと……。
「「「ドッカーン、てね」」」「《ウォーター・ベール》」
吹き飛ばすには十分すぎる火力。
前方に火力を集中するよう調整したから綺麗に一直線の道ができたし、発生した熱で邪妖精も暫くは近づけない。
自分の方に来る熱は水の守りで熱ダメージを軽減する。
「「「「走れー!」」」」
僅かに出来た隙、それを見逃さないように走る!
流石にもうヤダ、面倒臭い!
攻撃は当たんないし好き勝手害悪スキル使って来るし!
逃げるが勝ち!古事記にも書いてある!
【サーラエレギー】の道から逸れるけど仕方がない。今は逃げる方が先決、後でもう1回見つければいいだけの話だよ!
「キャハハ!」
「アハハ!」
「逃げた!アッチに逃げた!」
「オヤカタ様!アッチ行ったよ!」
■
「シジイ、いい加減、俺の話を聞きやがれ!」
「そうは言ってもな、ソラーファ……」
額の宝玉を撫でる。
たったそれだけで、俺の魔力を満たしたジジイには尊敬の念が湧き上がるが、それとこれとは別問題だ。
「だが……!」
「分かっている。お前がこの村のことを何より想っていることも、この村を必死に護ろうとしていることも」
っ……だったら、だったら……!
「何でだよ、なんで、俺が……俺は……!」
「ソラーファ……すまぬな」
クソッ……!
「そんな顔をするで無い……お前は、この村の未来だ。幾ら
「畜生が!ジジイ、テメェはそうまでして実の孫を殺したいのか!?」
そんな訳が無い。
ジジィの顔を見ろ、この、苦痛に歪んだ顔を。
それを隠そうとして必死に手を握りしめてる、この小さくもデケェジジィを。
「なあ、ソラ───」
「───ソラーファ?」
「……エンジ……」
小さなノックとともに空いた扉。そこに居たのは、俺の幼馴染で、妹分。
このジジィの孫娘で、現村長の娘。
村の皆に愛され、秘境としてはかなり高度な教育を受け、大事に育てられてきた。
産まれた時から保有する多量の魔力は村で一番の美しさと可憐さ、そして光を放つ
正に、天に愛された少女。
そんな彼女は……。
「……大丈夫だよ、ラーフ。私……しっかり、やり遂げるから」
自分の未来を……既に潰えている未来を知りながら、儚く笑いかけてきた。