一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜 作:苦悩
新年度初めてというわけで、初投稿です。
「今日も平和ですよー、っと」
時たまモンスターは来るけど。
ま、この辺りに生息してるモンスターなんて、俺が倒せる程度の雑魚だから、なんの問題もない。
出る時はいつも一体だけ、知能も低いエレメンタルが大抵だし、他のやつだってゴブリンとかそういう雑魚モンスターだからな。
才能が無くて下級3職が限界だった俺が雑魚扱いできんだから、御館様とか坊主とかなら鼻息だけで一掃できんだろうなぁ……。
ま、そんなことさせるなんて、出来やしねぇ。さすがに恐れ多いからな。
寧ろお勤めを邪魔する方が、モンスターの襲撃よりも怖いこと怖いこと。
「にしても、今日は暑いな」
いつもこの時期は過ごしやすい気温だった記憶しかないから、かなり違和感があるな。
季節の変わり目なんだから暑かったり寒かったり、色々あるのは知ってんだけど、長年の積み重ねがあるからどうしてもな……。
まあ、しょうがない。今日の当番は俺なんだし、少しばかり
風邪さえ引かなきゃいいんだが……なったらなったで【薬師】のババ様のとこに行けばいいだけだな。
「風邪……お嬢は平気かねぇ。病弱なあの子の事だし、これ以上暑くなるようなら間違いなく体調崩すだろ」
最近は特に朝方冷えてたからなぁ……急にこんな暑くなってくると、心配にもなる。
何よりあの子は巫女、何かあってからだと取り返しがつかねぇ。お淑やかにしてくれてりゃあいいけど……いや、あのお転婆娘に限って、お淑やかとか似合わねぇな。
是非ともあのままでいて貰いたいもんだ。
「ま、叶わぬ希望、ってヤツかねぇ……」
あの子、何だかんだちゃんとしてるし。
巫女としての御役目を考えればこそ、年々大人びていく彼女の成長を見詰めるのは、もう既に年嵩の俺の楽しみだ。
子供もいないから、つい実の娘のような気持ちで見守っちまう。
俺は才能が無さすぎるから、掟で結婚こそ出来ない。だが、言うならばそれだけで、扱いとしてはそう悪いものじゃない。
食料はこうして門番の仕事をしてれば十分に貰えるし、家だって小さい小屋だがちゃんとある。
近場の村を見てみれば、才なしに甘すぎるとも言える。
そういう奴は、隣村の【奴隷商人】が態々【奴隷】にする為に足を運ぶ。自分で言うのもなんだが、希少種族だからな。売れば金になるし、ただ労働力にするだけでも使える。
売られれば売られたで悲惨なのは聞いてるが……実際に見える分、労働力として使われる方が、俺としては嫌だ。
寝床はあれど、畜生と同じ屋根の下で糞尿に塗れた部屋の中、藁に包まりながらの僅かな時間の睡眠。
運が良ければ【農民】のジョブを取れて、優遇される奴もいるが、基本関係なく日中夜過酷な畑の開墾作業。
もし女ならそっちの目的で使われて、若くして死ぬから基本男しかいない。
うちの村も大昔はそんな感じだったらしいんだが、いつの間にやら今の状況になってたんだと。
ま、十中八九巫女様御子様がまかり間違ってそんな目に遭わないようにするため、だろうがな。
流石に御役目を果たせなくなるって考えっと、関係が薄い俺ですらビビっからなぁ。
てか、そういえば坊ちゃんも
もし坊ちゃんが御子になってれば、割と長いこの村の歴史の中でも5回目。
「ふぁーあ……平和すぎて退屈だ」
毎日毎日、時には雨の日風の日ここに立ち続けて、はや15年。
色々あった。スライムの軍団が柵を溶かしながら侵攻してきた年は死んだと思ったな。
結局、御館様の力で何とかなった訳だが、あれほど恐ろしい体験はもうしたくない。
「……ん?」
ふと、道に違和感。目測で150メテルくらい先。
何かが動いたような……?
「いや……違う」
違う、そう、あれは違う。
動いてなどいない。動いたように見えるだけ。
空気が、揺らめいている。
まるで竈の周りのように、
「クソ……モンスターか!?」
だとしたら最悪だ、あの範囲にあの火力を出せるモンスターなんぞ、1度として見たことも聞いたことも無い。
まだ向こうだからいいものを、村に近づきなんかしたら家どころか人すら燃えちまうんじゃねえか?!
当然の様に俺なんか燃やしてってなぁ!
なんの抵抗もできずに死ぬのはゴメンだ、速ぇとこ坊ちゃん、いや、御館様に……!
「……あ?人……!?まず」
畜生、なぁんで
いや違う、逆だ!アイツ、あの熱波のモンスターに追いかけられてやがったのか!?なんっつうことを……!
「……ッ!くそ、おいアンタ、こっちだ!こっちに来い!」
「……!」
気づいたか、ならさっさと逃げて来い!
なに、あれだけの熱が発生して、俺の方でも暑く感じるくらいなんだ。今頃俺の叫びが聞こえた奴らも合わさって御館様なりを呼んでくれてる頃合だ。最悪坊ちゃんでもいい。
御館様ならどんなモンスターだろうと、間違いなく対処してくれる。
だから、早く……早く!
「
「あ?何だって、もう1回言え、いやまず、逃げろ!」
おいおいおいおい、アイツ、何やってんだよ!
まさか、戦うつもりか?
今まさに、逃げていたヤツと?
「無茶だ!大人しく、おやか───」
「
チロリ。
そんな音が聞こえた気がした。
実際は音なんてなってないが、そうとしか思えない光景だった。
属性は、天属性内包火属性。効果は……熱?熱だと……?
あ、と見て気づいた。
アイツの視線の先、アイツが出て来た道から、大量のナニカが……ザアザアと、今度はちゃんと音を立てながら飛び出してくる。
黒いのもあれば赤いのもあり、茶、黄、緑と色鮮やかで、形も一定じゃない……葉。
葉が、木の葉も花の葉も草の葉も枯れ葉も関係なく、ザアザア、ザアザアと、耳障りな音を立てながら迫って来やがった。
それはまるで目があるかのようにアイツを追いかけ、瞬く間にあと少しの所まで迫って……。
ダメだ、そう思った。
流石にあの量、幾ら御館様だとしても、スキル1つで対処なんて……!
そう思った俺は、間違いじゃないだろう。だって、想像できるか?
近づく端から、一定の距離に入ると一瞬で灰になって散っていくなんて。
壁としか形容できない量の葉が、ひとつ残らず燃やし尽くされていく光景なんて。
「くそ……そういう事か……!」
そして、確信した。
普段より暑い朝、アイツの放った熱、そしてあれだけの量の葉。
ここまで揃ってれば馬鹿でも分かる。
アイツだ。
あの空気の揺らぎはあの葉を燃やすためにアイツが出したモノ。
いつもより暑いのは、その熱が村まで伝わったから。
恐ろしいのは、それだけの熱を出しておきながら、今もこうして長時間その熱を維持して、しかもそれを村まで届かせやがったということ。
多分、アイツの制御下では超高熱が漏れ出ないようになってんだろうが、それを辞めれば周りに放出されるんだろう。
で、それを何度も繰り返した結果が、今日の朝の異常な暑さ、というわけか。
「……化け物か」
俺には到底、同じ人として見ることはできそうにないな。
気候を変えるなんざ、それこそ御館様ですらできるか怪しいもんだ。才なしの俺が対処できる範疇にねぇ。
「ふぅ……」
そしてその化け物はたった今最後の1枚を燃やし尽くし、一息吐いて……制御を手放したな、これは。
一瞬で汗ばむくらいの暑さが俺の方にまで来やがった。
それに合わせて、アイツも近づいてくる。
散歩でもするかのような気楽な足取りで、俺のほうに近寄ってくる。
さっきの殲滅劇を見せられたこっちからすれば今すぐにでも逃げたいが、生憎とそうはいかない。
ここで逃げれば俺は生きている意義が無くなるし、他の村の才無し共と同じ扱いになっちまう。
それだけは、それだけは嫌だ。
なら、俺に出来る選択肢は一つだけ。
ここで門番をし続ける。
そうして決意を固めながら、アイツを見続けているうちに、気づいた。
「(女か)」
歩き方、骨格、何より胸の微かな膨らみ。
そういった要素からアイツの素性を少しでも読み取り、何かあってもいいようにする。
長年の経験がそうさせる。
「(それに……亜人じゃねぇな?)」
ドヴェルグの野郎どもがわざわざ此処に来るわけが無いし、エルフ共のように耳が尖っている事も、獣系亜人のように獣の身体の特徴があったりする訳では無い。
吸血鬼は表舞台に出てくるような奴等じゃねぇからな、必然的に違うことになる。
「(人……それも推定超級職、殲滅傾向)」
参った……御館様と相性、悪ぃな。
もし害意をもって村に近づいてきたら、
それにしたって、絶対に使いたくない一手。使ったら最後、村が滅ぶ手札なんぞ、誰が使うか。
「(……なるべく友好的に、追い払う)」
こういう手合いは関わらないのが1番いい。
特に、あの葉の正体が
「止まってくれ」
もし、短気な奴ならば、これだけで殺されかねない。
強者たる者、時にそいつは独自のルールを持っていて、それに触れた奴には容赦しない。
実際俺の先輩はそうやって殺されたし、殺されたからこそ、俺が門番をやっている。
確か……そうだ、道を遮ったから、殺されたんだったか。
さて……こいつは、どうだ。
もし、同じ価値観を持ってるようなら、俺は死ぬ。
だが、タダでは死なねぇ。1秒だろうが、時間は稼いでみせる。
言葉通りに止まったようだが、これはどっちだ……?
ただ言葉の通りに止まったのか……不快だから、殺そうとしてるのか。
顔全体を隠す仮面なんか付けてるせいで、表情が窺い知れない。
「済まないが、さっきの1幕について、説明を願いたい」
あれがただ1度の襲撃であったなら、ただの不幸で片がつく。
たが、この気温に、2度放たれた熱。
恐らくだがこの女、何度も何度も、襲撃を受けている。
流石にそれは、許容できない。
明らかな強敵に付け狙われているような奴を村に入れて、無駄に人を危険に合わせる訳には行かない。
「そして不躾だが、この
3日後の
お嬢の、巫女としての集大成。それを邪魔される。
考えただけで頭に血が上るし、才能があれば縊り殺したくなってくる。
故に部外者を立ち入らせることは許容できない。
一応とは言え、半月前に知らせは出していたが、さて、こいつは何をしに来たんだ?
あんな熱を放つような奴が、逃げ回るしか出来ないモンスターを連れて。
「さぁ、言ってくれ」
全身冷や汗が出て止まらない。
こんなに緊張しているのは、人生が始まって初めてだ。まあ、ここまでの質問で何かしくじってたら死ぬっつう現実があるからだが。
「……半月……看板が欲しかった」
「……は……?」
まて……こいつ、まさか……!?
「
「マジか……」
「流石に、ここから立ち入り禁止、とか欲しいかも」
それなら、避けながら歩いたのに。
そう呟いたコイツの言葉に、思わず力が……余計に入っていたものも含めて抜けていって、槍に寄り掛かる。
そうか、そうだよな……レジェンダリア人じゃねぇから、そういったことは知らねぇわな……。
「……ごめん、そういう事だったら、すぐに出てくよ……。ただ、2つだけ」
困ったふうな声でそんなことを言いながら、片手で指を2つ立て、もう片方の手で腰元を……アイテムボックスをガサゴソ探っている。
少しその動作に緊張して、思わず握る槍に力が籠った。
だが……こいつに限って、今更道具でどうこうしようだなんて、考えるか?
俺一人を消すぐらいなら、それこそさっきの熱波を使えばいい。このレベルのヤツになってくると拘束手段も普通に備えてるはずだから、余計な手間をかけてまでこんな演技する必要が無い。
それに気づけば、また少し手の力が抜けた気がした。
女はそれに気づかず……いや、見逃されてるのか?どちらとも言えないが、何もする気が無さそうだから別にいい。
とは言え、何を取り出すのかは気になる所。
やがてあったあったと取り出したのは……
「これ。この【宝櫃】。道すがら倒してたモンスターがドロップしたヤツ。大量にあって、ただでさえアイテムボックスがいっぱいなんだ。開封なんかしたらとてもじゃないけど持ちきれない。だから、可能な限りでいいんだけど、買い取ってくれないかな?物々交換でもいいし、多少安くてもいいから」
【亜竜粘体の宝櫃】、【亜竜音精霊の宝櫃】、【硬樹王の宝櫃】、【盗撃猪の宝櫃】、【泉竜の宝櫃】……さらにあるのか……いやまて、純竜だと?!
「……」
「あ、でも
そう言って指さしたのは、【棘竜の宝櫃(劣)】。
……(劣)?
「
いやいや……これも純竜級……てか、やらかすって、何やらかしたんだこの女……
「……バケモンか」
「失礼だね……普通のマスターだよ」
因みに、4針縫う怪我をしました。痛いです、はい。
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