一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜   作:苦悩

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〈エンブリオ〉

「くっそあのクソ猫まじ許さん絶許えんがちょ」

 

高速で落下したあと……何事もなく地面に着地した瞬間、どこかでなにかの袋が千切れる音が聞こえた。

 

また会える可能性は低くとも、絶対探し出して1発殴る。

絶対そうするって決めた。

 

そのためには……まず、強くなるのが一番か。

ジョブ制で、多種多様な組み合わせがあるって言ってたから、まずは自分に合う組み合わせを見つけなければ……

 

「おい、兄ちゃん……いや、姉ちゃんか?まあどっちでもいいが、あんた、急に空から落ちてきてどうしたんだ?どっかの超級職に遊ばれでもしたのか?」

 

「オッケーおじさんちょいまちな、俺は男だそこ間違えんな処すぞ」

 

母似で女顔で趣味で髪を伸ばしているから女に見えるのは認めるが、それはそれとして間違われると酷くイラつく。

 

「っは、レベル0の雑魚に俺がやられるかよバカが、こちとら知る人ぞ知るレベル500カンストの【獣戦鬼(ビーストオーガ)】エード様だぞ」

 

「っは、始めたばっかで何ホラ吹いてんだよおっさん、幾ら三倍速だからって言っても、レベル10くらいが限度だろうが、着くならもっとましな嘘つけや」

 

もしくは開始早々チーターが紛れ込んだか、だ。

 

……嫌だなぁ……チート使ったクソイモスナイパー……死ね。

 

「まあでも、聞きたいことはある。【獣戦鬼】ってまじであるヤツ?だったらまずそれやってみたい……あぁでも、さっき魔法からやってみたいなって思ってたからなぁ……どっちからやるか……」

 

いやほんと、興味を引きそうなこと言わないで欲しい。

名前からすると戦士系とかなんだろうけど、まずやろうとしてた魔法使い系から真逆の方面だし……あー、どうしよ……

 

「突然殺気が無くなったかと思えば、どこ見てるかもわかんねぇ遠い目なんかしやがって……変なやつだな……。【獣戦鬼】っつーのは、【獣戦士】系統の上級職だな。従属キャパシティのモンスターの1体のステータスを自分のステータスに上乗せして戦う……まあ、相棒との絆が力になるジョブだな」

 

「え何それ面白いし強い」

 

実質二人分以上のステータスを持ってるってことじゃん。

え、強くね?

 

「そう、強いんだよこのジョブは。ただ、どいつもこいつも分かっちゃあいねぇんだよ。やれ戦闘系の中でも下位だ、やれモンスターが強いとはいえ所詮純竜レベル、やれモンスターに寄生する人間(笑)やらうるせぇんだよ」

 

……ん?

 

「え、もしかして、結構強いモンスターって使役できない系?」

 

「あ”あ”?俺のピーチちゃんは最強に決まってるだろうが!」

 

……ぴーちちゃん

このおっさん、結構ガタイいいくせしてネーミングセンス……

 

「まあ、うん、強く生きるといいよ?自分は取り敢えず魔法使い系になるから」

 

「うっせぇし、魔法使い系だァ?ありゃあ、適性がなけりゃ就けなかったような気が……あん?オメェさん……マスター、か?」

 

マスター?

 

「なんだそれ、なんかの用語か?」

 

それこそ、適性がマスター(網羅)、とか。

ないか。

 

「いや、左手の甲にその宝石……紋章になる前ってのは、確かその形になるんだったな……それじゃあおめぇさん、本当にマスター……〈エンブリオ〉のマスターなのか?」

 

「いや、どっからどう見てもそうに決まってるだろ?あんたと同じプレイヤーだ……ろ?おっさんあんた、え?もしかして、NPC?」

 

いやんなばかな。でも今ちらっと見た左手に、紋章も今自分の手に着いている卵のような宝石もない。

てことはこのおっさんは……

 

「エヌピーシー?どこの言葉か知らんが、俺はティアンだ。ああ、もしかしておめぇさん、この世界に来たばっかなのか?……大事件じゃねぇかよクソ! 」

 

「何がだよ!?1から教えろよおっさん!」

 

「おめぇさんの存在自体が大事件だっつってんだよボケが!マスターがこの世界に来るって、何年ぶりだと思ってんだ?!」

 

「知らねぇよ!ていうか自分が希少みたいに言うけどなぁ、自分以外のマスターだったか?はあと1000人くらい……」

 

「ひぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 

自分とおっさんが怒鳴りあっているすぐ横。

既視感のある光景(新しいプレイヤーが落ちてくる光景)が今度は客観的に観察できた。

 

「……」

「……」

「……お見苦しいところを……」

 

「……」

「……おっさん」

「……なんだ?」

「……また今度【獣戦鬼】について教えてくれ」

「……俺に会いたいならレベル50を超えてから闘技場に来い、可愛がってやる」

 

そう言っておっさんは立ち去って行った。

何処か毒気を抜かされたかのような背中を揺らしながら、街の中心部へと向かっていく。

……取り敢えず、もっかの目標は決まったか。

 

「まずは、レベル50、か」

 

【クエスト【達成──レベル50 難易度:3】が発生しました】

 

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

っとぉ?

 

「え、いまのもしかしてチュートリアル的な……?」

 

なお、今落ちてきたプレイヤーは何も見なかったことにしたようで、どこかに行くところだった。

 

 

 

 

 

 

 

「で、ジョブってどうやって探せばいいのかなーっと」

 

ということで街ゆくNPC(ティアン)に聞くことにした。

 

思えば、落ちた地点から10歩も動いていない。

それがあのおっさんのせいだとすると……まあ、クエストを受けれたからトントン、か?

 

「ま、いっか。とりあえずは魔法系の何かをきたえよっかなぁ……」

 

とか言いつつ、1歩踏み出した……

 

 

体を2つ動かした(・・・・・・・・)

 

「「……っは?」」

 

声を2つ出した(・・・・・・・)

 

耳が2つ同じ音を聞いた(・・・・・・・・・・・)

 

「「……」」

 

風が肌を撫でる感触が2つ感じられる(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「「なる……ほど?」」

 

2つの頭で理解した(・・・・・・・・・)

 

「これが───」

「───自分の───」

「「エンブリオ」」

 

 

 

【並列分体 カゲノワズライ】

 

 TYPE:ボディ

 

 到達形態:Ⅰ

 

 

 

 ステータス補正

 

 HP補正:F

 

 MP補正:F

 

 SP補正:F

 

 STR補正:F

 

 END補正:F

 

 DEX補正:F

 

 AGI補正:F

 

 LUC補正:-G

 

《生命増躰》LV.1

 

《性別転換》LV.1

 

 

これが自分の〈エンブリオ〉【並列分体 カゲノワズライ】。

ツッコミどころはいくつかある。

まず、type:ボディって何ってこと。

これはヘルプを見たら載っていたのだけど、曰く、『通常のtype:アームズのように肉体の一部部位を置換するのではなく、肉体全てを置換する〈エンブリオ〉』とのこと。

まあ要は、レア中のレアカテゴリーだって事が書いてあった。

……アームズって、肉体の置き換えまでその範囲に入ってるのか……。

 

次のツッコミどころとしては、マイナス補正って何ってこと。

これまたヘルプによれば、『ステータスの成長率の負債。本来ならばレベルアップ時に積算され加算されるべき数値がその分を減算されて成長する。減少率は補正ランクによって変化する』

つまり、-Gってことは、本来ならGの補正で入るはずのステータスが、そっくりそのまま減ってしまうって訳だろう。

……幸運値……多分ドロップ率とかだから金策が少し難しくなるだろうけど……逆に、これだからこそ助かったのかもしれない。

もし全部の補正値がマイナスだったなら、多分自分はやっていけないだろう。

人並みに頑張ってもそれ以上にやらないといけないなんて、少し、疲れるから。

……クリティカル率(あるか分からないけど)だったらどうしよう……

 

……あえてその懸念は無視して次……はもっとやばいから飛ばして、最後。

2番目に頬をヒクつかせるようなツッコミどころ満載の、スキル《性別転換》。

 

効果は、『性別を変更する。

変更先は「男性」「女性」「両性」「無性」の4つであり、変更すると任意でステータス補正の傾向が変化する。

変化傾向はそれぞれ

「男性」STRが1ランクアップ、MPが1ランクダウン

「女性」MPが1ランクアップ、STRが1ランクダウン

「両性」HPが1ランクアップ、DEXが1ランクダウン

「無性」AGIが1ランクアップ、ENDが1ランクダウン』

 

っていう感じ。

常にステータスの偏りができてたら少しめんどくさかったかもしれないけど、任意で変更できるから助かる。

しかも、最後のひとつのスキル効果がこれから期待できそうだから、将来的に化けるかもしれないスキルかも。

例えば、どれかひとつのステータスが超強化されるとか。

何が問題かといえば……うん。

 

チラリと、自分と自分の(・・・・)正面を見て……うん。

 

……で、問題児筆頭、兼、自分の〈エンブリオ〉の象徴、と呼べるかもしれないスキル。

名を、《生命増躰》。

 

『自身のアバターを増やす。

増加したアバターはマスター自身であり、元からあるアバターもまたマスター自身である。

そのため、全てのアバターが破壊されない限りにおいてマスターは死亡判定を受けない。

全ての体がマスターであるため、このアバターはそれぞれがジョブ適性を有し、制限はあるがそれぞれ別のジョブに着くことが可能。

全てのアバターは人間範疇生物であるが、種族は「ドッペルゲンガー」に変化し、従属キャパシティ「1」のモンスターとして扱う。

*全てのアバターはマスターのマニュアル操作である。

*破壊されたアバターは〈Infinite Dendrogram〉内時間3日で復活する。

*1つ共有のジョブを所有しなければならず、最初に取得したアバター以外そのジョブでステータスが成長しない。(スキルは共有する)

*スキルレベルに応じて性能変化・増加数アップ』

 

「「……まじでこれどうすんだよ」」

 

NP……ティアンに、少々苦労しながら(・・・・・・・・)5000リル以内で寛げる喫茶店を紹介してもらって、そこのテーブルで頭を抱える。

頭を悩ませる内容は、デスペナが入りにくくなったとか、本来の倍以上取れることが確定しているとか、いつの間にか人間をやめていたとか───実際に簡易ウィンドウを見てみると、種族:ドッペルゲンガーになっていた───、少し(・・)操作が難しいとか……

 

そういうものでは無く(・・・・・・・・・・)

 

チラリと、正面を見る。

 

「「……」」

 

さっと、目を逸らす。

二重になった認識で視えた2つの顔が揃って目を逸らしたのが視えた。

 

「「……あー」」

 

もう一度、視線を戻して、改めて今度は逸らさずに顔を見つめる。

どちらも自分だという認識があり、実際にその身体を自分でどちらも動かし、さっき飲んだ紅茶も普通にどちらも感じられて、互いに触れ合った感覚もどっちも自分で自分を触ったという実感がある。

そして目に映るのは、方や現実での自分の顔、方やスキル《性別転換》で「女性」体へと転じた自分の顔。

元々中性的ではあったけど、それを更に女性的に傾けて……でも確かに自分だと認識できるその顔。

そしてその目に映る、本来の自分の顔。

 

「「……これは……やばい……」」

 

まだ(・・)意識してない動作はシンクロしてしまうから、まるでエコーがかかったように耳に聞こえる声。

ひとつは自分の声だとわかるし、もうひとつも自分の声だと実感できるけど、明らかに、「女性」体的な声だと分かる。

 

「「……」」

 

もう一度、今度は意識して体を操作し、両方から自分を見つめる。

……やばい。

 

「「取り敢えず……現状維持で」」

 

案の定(・・・)な結果は取り敢えず棚に上げて、これからどうするかを考えることにするかな。

 

まずはこの喫茶店の中にいるティアンに、ジョブの就き方を教えてもらうところからかな。

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