一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜   作:苦悩

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ジョブ談義

「あのー」「すいません」

 

「……ええ、はい、如何なさいました?」

 

とりあえず隣の席で優雅に本を読みながら紅茶を嗜んでいた老婦人に声をかけてみる。

こちらを向いた老婦人は僅かに不機嫌そうに眉をひそめていたので、ここはあまり警戒を持たれそうにない「女性」体で対応することにする。

 

「今日から始めて分からないことだらけなので、少し、質問してもよろしいでしょうか?」

 

「今日から始める……?少し、意図が読めませんが、事情があるのでしょう?時間はたっぷりあるのですから、遠慮せずに聞きなさいな」

 

……流石は我が美顔を女性的に変換しただけはある。本当に困った風を装って(本当に困ってる)声をかけただけで、かなり警戒を緩めた。

 

「実はじぶ……私たち、こういうものでして……」

 

取り敢えず、チェシャの言うことが本当なら、この左手の紋章はプレイヤー……マスターである証明なのだろう。

なら、ティアンに見せれば自ずと事情を察してくれるかもしれない。

 

そう考えて自分は2体同時に左手の紋章を──ブレて歪んで見える人型の紋章を老婦人に見せる。

 

「……あら、まあ、これは……」

 

「お察しの通り、私たちはマスターなのですが……今日この地に来たばかりでして……」

 

困ってるので控えめに、でも聞きたいことは聞く態度で質問すれば、老婦人は先程とは違う、困ったような顔をしながら眉を顰めた。

 

……ていうか、自分がイメージするーーーの自分の喋りで喋ってみてるけど……これはやばい。

そばで寡黙──そう──に腕を組んでいる自分の耳から聞こえる音で…………。

 

……気をとりなおそう。

 

「実はジョブにつきたいのですが、生憎その方法が分からなくて、困っていたところなんです。どうか、教えてくださいませんか?」

 

「……あら……。あら、そう、なの?でも……あなた達は、マスター……なのですか?」

 

「えぇ、まあ、はい。そう、ですね。」

 

「あらあら、本当に、《真偽判定》にも引っかからないなんて……噂でしか聞いたことがなかったのですが、初めてマスターにお会いしました」

 

「そう……なんですか?」

 

「ええ、今までは御伽噺の存在でした。ですが今日、私の目の前にはマスターが、それも2人もいらっしゃる。死んだお爺さんにいい土産話が出来ました」

 

驚いたかと思えば、少し悲しそうな顔をしながら老婦人は呟く。

……少し、いや、本当に、人間なのかと思ってしまう。

所詮はシステムが演算したAIに過ぎないと思っていながら、これまで話をしたティアンを思い浮かべても人間としか認識できない自分の頭に困惑してしまう。

 

「あ、それでジョブのことについてなんですが……」

 

思わず、困惑を振り払うように老婦人に声をかけてしまった。

老婦人は自分を見てからふっと微笑むと、笑みを浮かべながら何かを懐かしむように語り出した。

 

「ええ、はい。ジョブについて、ですね。ジョブは至る所にある《クリスタル》で就くことが出来ます。この街だと……ここらからあちらの方にあります」

 

指さした方向は、自分がこの世界に降り立った場所だった。

 

「その《クリスタル》は世界のあちこちにありますが、必ずしも全てで同じジョブに就ける訳ではありません。その国独自のジョブならば基本的にその国にある《クリスタル》でしか就けませんし、東方のジョブが西方にあるこの国のクリスタルで就ける訳ではありません。逆もまた然りです。ですか、何処でも就けるようなジョブならば、どこの《クリスタル》でも就くことは出来ますが」

 

老婦人は紅茶を1口飲むと、お茶請けのクッキーを自分たちにも差し出してくる。

 

「どうぞ。このお店のクッキーは私のお気に入りなの。甘すぎず、しっとりとしていて、それでいてこの紅茶によく合う」

 

本当に好きなのだろう、目を細めながら微笑んでこちらに渡してきて、無下に断ることも出来ない。

取り敢えず、「女性」体の方で一つつまみ、食してみる。

 

「っ「あ、美味しい……」……!」

 

その味に、思わずどちらのアバターからも声が出そうになってしまい、スレスレで取り繕う。

まだ制御が慣れてはいない証拠だ、もっと頑張らなければ2つ体がある利点が潰えてしまう。

 

「……?」

 

少し、違和感を持たれてしまったようだが、数秒もすれば気のせいだと思うことにしたようでまた紅茶を一口飲んでから話始めた。

 

「ジョブは前提として就職条件というものがあります。そのうち、条件が軽かったり、そもそも無いものを下級職、厳しい条件を達成した者だけが就くことが出来る上級職、そして……」

 

保持していたカップをソーサーに戻して、言う。

 

「先着1名。ひと握りの、難関な条件を達成した者だけが就くことを許され、その希少さと条件の難関さ故に強大な力を持つジョブ。即ち、超級職。この3つが大まかなジョブの分類です」

 

それを語る老婦人の目はどこか……遠くを見つめて、悲しそうだった。

 

「……あら、私としたことが、少し、感傷に浸ってしまいましたね。すみません、話の腰を折ってしまって」

 

「あぁ、いえ……気にしないでください」

 

「……ありがとう。……あなた達は、今日、この世界にやってきて、ここで私の話を聞いています。ということは、勿論ジョブレベルは0。そうですね?」

 

静かに、そして何かを期待するかのように少し弾んだ声音で半ば確信している問いを掛けてくる。

何かを誤魔化したかのような不自然さはあるものの、それはこちらも一緒だ。

そして、この質問には嘘を吐いたり、誤魔化したりする必要は無い。

何せ、老婦人が言っているようにジョブについて聞いた時点でそれは透けて見えてしまうのだから。

 

「そうです。私たちは共にレベル0。ここに来る時に聞いた話で、ジョブを選ぶと聞いていたので、もしかしたらジョブにつかないとレベルは上がらないんじゃないかと思っていたんです」

 

「ええ、その通りです。ジョブに就かなければレベルは上がらない。常識なのだけれど、あなたたちは違うのでしょう?そして、どのジョブに就いたらいいかわからなくて私に相談してる」

 

「はい……いえ、すいません、出来れば魔法が使えるジョブとかに就きたいなーって思っていまして……」

 

「あらそう、正直者は好きですよ。でしたらこちらをサービスしてあげましょう」

 

上機嫌に老婦人は左手指さし指に着けた指輪に触れると、一冊の本が机の上に出てくる。

察するに、指輪型のアイテムボックス……だろうか?

今はまだ自分はポーチしかないからだけど、恐らくとても高価なものなんだろう。

自分が手に入れることが出来るのは一体いつになるか……

 

益体のないことを考えていると、老婦人は本を片手に悪戯な笑顔で口を開く。

 

「【適職診断カタログ】〜〜〜」

 

何故か、妙に間延びしたダミ声で。

 

「「……へ?」」

 

今度こそ、どっちの体からも声が出てしまったが、どうやらこれに関しては不審に思われなかったらしい。

多分、こういう反応になるとは思っていなかったのか、少し頬を染めながらアタフタとしている。

 

「あぁいえ、その、マスターなら、分かるのではないでしょうか?その昔、【猫神】ドラモン・キャットというマスターが同じ口調で腹部のポケットから取り出して、仲間にこのアイテムを使用させたという伝承があるのですが」

 

「「ぶふっ!」」

 

いやこれは吹き出して当たり前だ。

ていうか、少し視界の端に写った人物も同じように反応してるので、多分聞き耳を立ててたんだろう……まあ、いいけど。

 

「え、ええと……と、とにかく!このアイテムを使用すれば、いま貴女に合うジョブを選んでくれます!そちらの貴方は貴女の親族でしょう?一緒に選んでいてください。私は少し、席を外しますので」

 

「「は、はぁ……」」

 

矢継ぎ早にそう告げると、老婦人は少し小走りでどこかに行ってしまった。

残されたのは目の前にある【適職診断カタログ】。

思わず自分自身で鏡を見るように目を合わせてから、頷いて取り敢えず「女性」体の方から使ってみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました。どうでしたか?何かいいジョブは見つかりましたか?」

 

10分後、席に戻ってきた老婦人はまるで先程のことを覚えてないかのように優雅に席に座った。

見れば、それとは分からないほどだけど頬の化粧が濃くなっている。

多分これで赤くなってしまった頬を隠して、同じことがあっても余裕をとり繕えるようにしたのだろう。

 

と、それで、いい感じのジョブはと言うと……。

 

「ええと……私が【魔術師(メイジ)】と【従魔師(テイマー)】」

「……自分が【獣戦士(ジャガーマン)】と【従魔師(テイマー)】」

 

そして

 

「あら、やっぱり兄妹……いえ、貴女の方がお姉さん?やっぱり家族なのね。【従魔師(テイマー)】が一緒ってことは、あなたたち家族はその才能がある一家──」

 

「「そして【死兵(デス・ソルジャー)】」」

 

そう告げた時の老婦人の……いや、周りでも思わずと言ったように反応してしまった人達の表情は、なんというか……「へ?」って感じで、ぽかん、とした顔だった。

 

 

 

 

 

 

「悪いことは言いません、【死兵(デス・ソルジャー)】はやめておきなさい」

 

真剣な目で語りかけて来る老婦人と、うんうんと頷く周りのティアン。

ここまでやめろと言われると、逆に興味が湧いてくるが、質問するよりも早く老婦人が話し始める。

 

「いいですか?【死兵】とは、大昔に犯罪者の刑罰用として使われていました。汎用下級職なので、誰でも就くことが出来、それを利用して爆弾を抱えたまま敵陣に突撃する者が就いた……いえ、就かされたジョブです。今でもこのジョブはそのような見方があるので、もし自分から【死兵】だと名乗ればそれこそ良い目で見られることは無いでしょう。そもそもこのジョブは、『死ぬ事が前提』のスキルが一つだけあるだけです。寧ろ、『死んだあと』の方が余計にタチが悪い。スキルの効果で、例え矢に串刺しにされようとも、脳髄が爆散しようとも、全身が千々になろうとも……死ねない。苦痛を味わいながら、死ぬ事が許されない。死をも超える痛みを味わいながらもそのスキル、《ラスト・コマンド》の効果で、死んだ後も動き続けることを強制される……あなた達マスターからすれば、死とは別の世界への移動になるのでしょうが、私たちにとって死とは終わりなのです。そのため、このジョブを取ることはお勧めしません。もし就きたいのであれば、周りの視線を少し気にしながら生きなければいけないでしょう」

 

まるで先生に説教を受けている気分だと思いながらも、その創り込まれた世界観に思わず瞠目する。

 

だってこの老婦人の語り口調は、『実際にあったこと』を喋るような口ぶりだから。

 

「とはいえ……あなたたちは、就くのでしょうね……。どれだけ言葉を尽くしても、どれだけ先延ばしにしても……いつかは就く。就いてしまう。なら、細かいお説教はここまでにしましょう」

 

先程も見た悲しそうな目で自分を見ながら話す老婦人は、何処か疲れているように見える。

原因は恐らく自分にあるのだろうが……それ以外にも、まるで実感の籠った言葉にどこか違和感を覚えてしまう。

 

「……話はここまでです。ジョブについては教えましたし、3つほど下級職が見繕えているので暫くは大丈夫でしょう。代金は私が持ちます。ですので、午後のお茶会はここまでで、あなた達はジョブに就いてきなさい。私は……もう少し、ここの紅茶を楽しんでから帰りますので」

 

……言外に「出ていけ」って言われているようなもんだ。

自分は何か、この老婦人にとっての逆鱗に触れてしまった。

それは多分【死兵】のジョブ。

偶然とはいえ、地雷を踏み抜いてしまった自分がこれ以上この人と話をするのは、自分はともかく老婦人にとって苦痛だろう。

 

ここは言われた通り、出ていくのが正解で、自分もそう思って会釈してから無言で立ち上がる。

そうしてふたつの体を少しずつ慣れてきた同時操作で動かして……

 

「リリエル・M(メルス)・シナーシャハ」

 

4つの耳で、老婦人の声を聞いた。

一瞬立ち止まり、考える。

 

「【死兵《デス・ソルジャー》】」「ペル・ナルシー」

 

一言呟いて、また歩き出す。

 

今度は、声は聞こえなかった。

 

 




深夜テンションに任せてるので、投稿遅いですし、はっちゃけ過ぎてるところもあります。お気になさらず。
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