一般通過レジェンダリアンの〈超級〉〜指名手配を添えて〜 作:苦悩
ま、まあ、少し変えればいいだけだしぃ?
ところ変わって、闘技場の舞台。
これでも決闘10位だったおっさんの強権が発動した形だ。
これでこの後2時間くらいの間、この闘技場は使いたい放題。自分は既にレベル50を超えてるから、結界を透過することもない。
「さて、あの時も言ったが、【
「うい」
おっさんに貰ったクエスト報酬、それがこの個人レッスンだ。
自分個人の戦闘技術がまだ奇襲からのスキル適当連打位しかないので、長年の蘊蓄を得られるこの報酬は実に美味い。
こちとら素人同然、格闘技すらかじる程度しかやった事がない身分だからなぁ。
「まあつっても、【獣戦士】のスキルなんて《獣心憑依》くらいだから必然、それを生かすやり方になるわな」
そう、【獣戦士】はスキルがひとつしかないジョブ。自分も就いてみて疑問に思ったことだ。
もしかしたらレベルアップした時とか、特殊な条件を達成した時に解放されるのかと思っていたけど……この口調だと、無いみたいだ。
「まず《獣心憑依》、これはお前と最初に会った時も言ったように、従魔のステータスをスキルレベルに応じた割合で【獣戦士】所持者に上乗せするスキルだ」
さっき試した時にそれは実感してる。
だから今の「男性」体はステータスが1割増強されてる。
「レベル1で10%の上乗せ、で、最大レベルの10まで行けば60%の上乗せになる」
「レベル10で60%?100%じゃなくて?」
普通に考えればレベル×10%っぽい計算式だと思うんだけど。
「いや、それは超級職、【
超級職
それは、特別な条件を達成した先着1名が就くことが出来るジョブ。
違いは上級職まであったレベル上限の撤廃に、レベルアップ時のステータス補正、何より、一線を画す奥義と呼ばれるスキル群。
「因みに、あと少しで俺は条件を満たす。大体あと
そんな特別なジョブに、あろうことかこのおっさんは成れると言いった。
「あぁ、案外すごい人だったんだね、おっさん。で、条件は?」
「だぁれがただでさえレベルアップが早くて万能のジョブ適性持ちのマスターに教えるかよ、先越されたんじゃたまったもんじゃねえ。それと、案外は余計だ」
そりゃまたご最も。
「話を戻すぞ。確かに《獣心憑依》は強力なスキルだ。何せ、最大で純竜級のステータスが上乗せされんだからな」
確かに、強力だ。
純竜級、つまり、ティアン6人カンストフルパーティーと同等の単体戦力の力を手に入れるってことだから。
「だが、こんだけ強力なスキルなんだ、当然制限も付いてくる」
「それは?」
「大きく2つ」
言って、おっさんは指を2本立てる。
そのうち中指を一旦折り曲げて、言う。
「1つ目はやっぱり、上乗せできるステータス自体の問題だな」
「ん?さっきと言ってること矛盾してない?」
「いや、してない。確かに、純竜級のステータスが上乗せされると考えれば強力だ。だが──」
おっさんは、そこで1呼吸おいて……
「あくまでも、
何か操作したかと思えば、自分の目の前に簡易ウィンドウが表示された。
おもむろに見れば、それは《獣心憑依》のスキル説明で、そこにはこう書かれている。
『《獣心憑依》Lv.10
スキルレベルに応じて、従属キャパシティ内のモンスター1体の元々のステータスを自身のステータスに加える。Lv.10では60%』
「……分かるか?」
それは、自分もさっき見た説明文。
特に変な所は無い。強いて言えば、本当にレベル10なら60%になってるな、くらいだ。
「……いや、分からない」
「そうか。まあ、従魔もお前自身も低レベルの内はそうだろうな。」
その説明だと、まるで高レベルになった時に問題が出るみたいな言い方だけど……。
「注目して欲しいのは、説明文の真ん中辺り、『元々のステータス』ってところだ」
「……ぁ、あぁ?そういう?」
もしかして、だけど……
「そう、このスキルで上乗せできるステータスってのはな、そのモンスターが持ってるステータスその物でしかない。つまりだな、」
「《魔物強化》スキルに類するスキルで強化された分は……乗らない?」
「そういうこった」
おっさんはため息を吐きながら肯定してくる。
「従魔ってのは、【従魔師】系統のジョブに就いたやつが色々と強化スキルを積み立てていくことで強くなる。だから、同じモンスター相手でも勝ちを拾える」
だけど、【獣戦士】の《獣心憑依》には、それが考慮されてない、と。
「所詮純竜級一体分のステータス。上級職カンストフルパーティ、もっと言えば、竜王を相手にするような超級職連中にとっちゃあ取るに足らん相手でしかねぇ」
それが1つ目の問題だと、おっさんは言う。
確かにそれは……問題だろう。
「つまり、折りよく【獣王】になったとしても、そのままだと他の超級職より圧倒的に弱い、と」
「そういうこった。だからこそ、【獣王】自体は戦闘系超級職でも下位のもの、ってのが世間の認識だ」
そう宣ったおっさんは、しかし然程その事実を重く受け止めていない。むしろ、歯を剥き出しにして笑っているほどだ。
「だが、俺は──俺と、ピーチちゃんはそうじゃねえ!必ずだ、必ず、その評価、覆してみせる……!」
相当自信に溢れているし、何より雰囲気がそれを真実だと教えてくれる。
だけど……
「盛り上がってるとこ悪いけど、2つ目は?」
冷水をぶっかけるみたいで心苦しいけど、2時間しか時間が取れてないんだ。外でもできる話で時間を無駄にして欲しくない。
「っと……悪い。で2つ目だったな。これは」
「いや、何となくわかった。キャパシティ、これが答えでしょ?」
自分は同時に「両性」体で【従魔師】にも就いたから実感は薄いけど、【獣戦士】単体で見てみると分かる。
このジョブ、スキルの強力さとキャパシティの多さが見合ってない。
少なすぎる。
それも、レベル1の時点ではっきりと分かるほど……だから多分、上級職の【獣戦士】になってもそれは同じ。
「……そうだ、異様に少ないキャパシティ。それが2つ目の問題にして、1つ目の問題と合わせて最悪の問題点だ」
「《獣心憑依》は、あくまで『キャパシティ』内のモンスター、って条件指定してることから考えると……」
「あぁ……例え純竜級モンスターを使役できたとして、【獣戦鬼】単体運用だとキャパシティ内に収まらねぇ」
でもそれなら……
「【従魔師】の上級職を入れれば解決する問題、じゃだめなの?」
「それも正解のひとつではあるだろうさ。ただ、それだと《魔物強化》のスキルが殆ど死ぬ。それに、本人のステータスも中距離戦闘系でしか伸びねぇ。いざ【獣王】になってもそれじゃあ中途半端も中途半端、精々が純竜を単体討伐できる程度だろうさ」
ジョブは自分のような例外を除いて、基本上級職が2つと下級職が6つの計8つ。
貴重な上級職の枠を1つ消費して【従魔師】の上級職に就いたとして……キャパシティ以外の意味が無いなら、逆に弱体化してしまう。
「逆に近接戦闘系のジョブを入れてしまうと、キャパシティが不足して満足に《獣心憑依》の効果を活かせない……」
「ま、そういうこった」
「でもさ、おっさん。あんた、なんでそれでも笑ってるの?」
おっさんは2つの問題を語る時、余裕の表情で、常に笑っていた。
それは……自信に溢れた、歯を剥き出しにした笑みだ。
「……俺はなぁ、昔、ある〈UBM〉を討伐して特典武具を入手してんだよ……あぁ、〈UBM〉のことは知ってるか?」
「いや、生憎聞いたことがない」
「そうか。ま、今は〈UBM〉が超強力なモンスター、そいつを倒せば手に入るのが特典武具だと思っとけばいい」
言って、いつもおっさんが耳に付けているアクセサリーを見せてくる。
それはウサギの耳を模したピアスで、質感もどこか生物らしさがある。
「それが?」
「あぁ、【従輪繁殖 ハードラヴィ】。
「……名前からして嫌な予感がするんだけど……詳細な効果は?」
「
「……」
「な、だからさっきのアレは俺自身の強化のためだからな?」
「………」
「な、な?」
肩組んでこようとするので、サッと避ける。
「……聞くけど」
「な、なんだ……」
「それ、入手した時点でどの位キャパシティ増えたの?」
「……に、」
「にぃ?」
目、泳ぎまくっるぞおっさん。
「1000です!」
「うっわ」
うっわ。
「し、仕方ねぇだろ!闘士なんかやってっと溜まって溜まって仕方ねぇんだよ!」
「……まあ、自分が感知しない範囲なら全然いいんだけどね」
あと自分を狙わなければそれでいい。
このおっさんがどこの誰とイタそうが、関係の無い話だから。
「じゃあおっさん、さっさとトレーニング始めてくれ。時間が勿体ない」
「お、おう……加減はしねぇから死ぬ気で覚えろよ畜生が!」
「大人気ないなぁ!」
なお、言った瞬間に結界の復元能力が作動して早くも1敗取られた。
……やってやんよこのクソ野郎が!
「さっきからの恨みじゃぁ!ハッハッハァ!」
■
【
「「ぁんの、クソ野郎……」」
闘技場の中とはいえ、自分が殺されるってのはあんまりいい気分じゃない。
それが不意打ちの一撃ともなれば尚更。
「クッソ……」「このストレス」「この森の」「モンスターで」「「償え」」
便利な便利な水魔法の《ウォーターボール》で水責めにしていたティールウルフの群れを、解き放つ。
窒息ギリギリのところで解き放たれたせいで荒い息を吐きながら、それでもなおこちらに敵意を向けるモンスター。
純粋な殺意に恨みを載せた視線は少しの恐怖を感じていたのだが、それもつい先程までた。
「受けた理不尽は」「別のところで」「理不尽になる」
何せ、このティールウルフ共……詰んでるのだから。
唸り声を上げながら自分を包囲してぐるぐる迷ってはいるけど、それ、逆効果。
「「バイバイ」」
唸り声を上げてグルグルしてたまだ元気だったはずのティールウルフが、突然苦しげな悲鳴をあげたかと思うとそのまま倒れ伏し、光の粒に変わる。
その1匹を皮切りに、1匹、また1匹と光の粒に変わるティールウルフ達。
残されたのはドロップアイテムと経験値。
そして少量の
「ゲームでも」「窒息判定は」「現実基準」「いい発見だね」
やったのは簡単。
肺に少し水を入れた、ただそれだけ。
生物の体ってのは面白いもので、その少しの水を呼び水に、勝手に肺に水を溜め込んでしまう。
哺乳類は水から酸素を取り出すような作りになっていないから、たったこれだけで殺せる。
ちょっと不安だったけど、現実同様の感覚に呼吸もしてるとなれば、当然内臓も作り込まれているはずだという推論は当たった。
「まあ、無機物系には」「効果ないだろうけど」
それはしょうがない感じだと思うし、もし《サンド・ゴーレム》とか《サンド・エレメンタル》とか居れば、ただ水を出すだけでいいからもっと楽になる……かな?
モンスターの弱点なんて想像でしかないけど。
「「お?」」
とか思ってると、急に開けた場所に出た。
しかも気味の悪いことに、中心から同心円状に一定の距離に枯れようとしてる木が……あ、枯れた。
「なんかの」「イベント?」
とか呟いてる間に、今度は地面の雑草が枯れた。
取り敢えずうだうだ此処で待っててもあれだから、ちょっと近づいてみるか。
「んーじゃあ
特に理由は無いけど、木が枯れるってことは明らかに水が不足してるんだろう。
周囲の雑草も枯れて、砂漠っぽくなってるし。
水をぶち撒ければ、なんかのトリガー踏んでイベント進行したりしないかなー、とか。
「おじゃましまー……す?」
1歩、砂漠っぽくなってる地面に足を踏み入れて……
《ラスト・コマンド》発動
「女性」体は
「「は?」」
慌ててHPを確認してみるも、そこには燦然と輝く0の文字が。
「いやいやいやいや」「なんで?」
負けイベ?即死イベ?ギミック付きの即死フィールド?
……いや、明らかに砂漠の侵食スピードの速さに対して範囲が狭い。
精々、発生したのは10分前かそこらだ。
あ、アクシデントサークル……?
でも徐々に砂漠化する魔法……?どんだけMP使うんだよ……。
取り敢えず、おっさんに聞いてみるか。
いや、【カゲノワズライ】を話さないと説明面倒だし、でもできるだけ秘匿したいし……どうすっかなあ。
「あ」「やべ」
《ラスト・コマンド》、発動
気づけば「両性」体が死んでた。
……
「いやいやいやいや」「砂漠の範囲に入ってないよ?!」
周囲の気も枯れてなければ、雑草も枯れてない。
これじゃあまるで……
「「もしかしてモンスター……!?」」
いや、これおっさんに聞かないとやばい案件じゃね?
うん、【契約書】書いてもらおう、そうしよう。
あーあ、「女性」体と「両性」体死んじゃったなぁ……アレ?
これ、まさかレベル0からやり直しなんてならないよね?
面倒臭いんだけど?……いやいや、自分の〈エンブリオ〉を信じよう、そうしよう、うん。
「「……あん?」」
ふと、周囲を見渡していると、ふたつの体に同時に違和感。
何かが急激に
へ?
「なんだ」「この」「「
出てた簡易ステータスウィンドウに映る異常。
バグ?
バグだろうな、だって
「HP0/412
MP9900000/1022」
幾らMPに優れた「女性」体だからといって、こんな限界突破したみたいなMPがある訳ない。
やっぱあったんだなあ、バグ。
とりあえず現実戻ったら報告してみるかな。
ん?なんだあれ。なんか光……あ、上に名前出た。
……
「は?〈UBM〉?何それおっさ──」
あ、ていうか、1000万行っ──
瞬間
大爆発
あ、【ハードラヴィ】はウサギ型の〈UBM〉で、繁殖力で大群を作るタイプの〈UBM〉でした。
……【ロボータ】よりも弱い群れ(本体含み)を大量展開するタイプでした。