参加者全員悪人のデスゲームに巻き込まれた死に戻り能力者   作:とみたけじろう

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1周目

 

 デスゲーム初回 

 1日目 

 

 目が覚めたら、見知らぬ学校の教室の中にいた。

 寝る前の記憶が物凄く曖昧な上に、着ていた服以外の持ち物は見当たらない。

 更に、首には物々しい首輪が付けられている。

 

 ここで、俺は既視感を覚えた。

 こんな場面、どこかで見た事があるなぁ、と何となく思ったのだ。

 しかし、あくまで既視感止まり。

 馬鹿な俺は、酔った勢いで不法侵入でもやらかしたのか、なんて考えていた。

 ……なら、なぜ首輪がついてんだって話だけど。

 まぁ、俺も混乱していたのだ。

 

 そして、登校してくる生徒やら、勤務してる先生方に見つかる前にとんずらするかと考えた時。

 ピピピッというアラーム音が、机の上に置いてあるスマホから鳴り響く。

 当然、自分のものではない。

 自分のものではないが、半ば反射的に画面をタップしてしまい……俺は目を疑った。

 

 ◇

 

 NO.8

 プレイヤー名:山下(ヤマシタ)康平(コウヘイ)

 所属グループ:「A」

 

 

基本ルール

 

1

10名のプレイヤーは、A・B・C・Dのいずれかのグループに配属される。

グループの内訳はそれぞれ3名だが、Dグループに限っては1名とする。

 

2

獲得条件を満たすことで、他のグループへの移籍権を得られる。

しかし、移籍権を行使しても、Dグループには移籍できない。

取得してから12時間以内に移籍権を行使しなかった場合、当該権利は失効する。

また、移籍権は重複しない。

 

3

ゲームの開催期間は4日。

開催期間内に他のグループを殲滅したグループのプレイヤーを勝利者とし、10億円の賞金を分配する。

開催期間後に、複数のグループが存在していた場合、プレイヤーは全員殺害される。

 

4

ゲームのエリアは予め指定されており、エリア外に出たプレイヤーは殺害される。

また、エリアは日数を経るごとに縮小するが、初日に限って縮小しない。

 

5

ゲーム初日は、戦闘禁止とする。

戦闘行為が発見された場合、当該プレイヤーは殺害される。

 

 

 

 どうして見知らぬスマホに俺の名前が書いてあるのか、だとか。

 そういう疑問よりも先に。

 ここで、さっきの既視感の正体に気づいた。

 ……これは、間違いなくデスゲーム。

 よくよく考えてみると、今の状況はテンプレそのままである。

 悪趣味な殺し合いを強要されたキャラクター達の、極限状態での生き様を描く。

 それこそがデスゲームだが、その中でも様々な種類がある。

 今回のゲームは、プレイヤー同士で命を奪い合う「バトロワ系」と呼ばれるものだろう。

 実を言うと、俺が厨二病を患っていた時、狂ったように読んでいたジャンルである。

 授業中とかに、もしもデスゲームに参加したら……と考えたこともあるが、まさか本当に巻き込まれてしまうとは。

 正直、勘弁願いたいし、今すぐ帰りたい。

 デスゲームなんてのは創作上だから良いのであって、現実だと最悪極まりないからな。

 

 そういうわけで、この時の俺は若干のパニックに陥っていた。

 きっとドッキリに違いないと思い込み、他の人を探すために教室から出て行った。

 よくよく考えると、芸能人でもない一般人を誘拐して行うドッキリなんて、ありえないのにな。

 

「だれかぁ、いませんかー!」

 

 腹から声を出しながら、スマホを片手に校舎内を歩き回る。

 自分でも愚かだとは思うが、とにかく不安で不安で仕方がなかった。

 誰でもいいから人に会って話したいという一心で、他のことを考える余裕など無かったのだ。

 校舎の一階の端から端まで探し回って、中庭に出ようとした瞬間。

 

「あ、あのっ!」

 

 やけに甲高い声に呼び止められる。

 声の主は、学生服を来た少女。

 不安げな表情を浮かべながら俺を見つめるのは、長い黒髪で片目が隠れている女の子だった。

 

「もしかして、貴方も……私と同じように、ここに連れてこられたのですか?」

 

 俺に声をかけた少女の名前は外路(ソトミチ)沙羅(サラ)

 年齢は17歳。

 首輪という共通点から、同じ立場に置かれていることを察した俺と彼女は、簡単な自己紹介を兼ねた情報の交換を行った。

 しかし、有益な情報は0。

 話し合う中で分かったのは、サラちゃんも俺と同様に、ここに来るまでの記憶が曖昧だということ。

 互いに所持していたタブレットに掲載されているルールが全く同じだということくらいで。

 本当にデスゲームに巻き込まれたのかも分からなければ、ドッキリなのかどうかも分からない。

 だが、不幸中の幸いだったのは、俺も彼女も「A」のグループに所属していることだった。

 

 ◇

 

3

ゲームの開催期間は4日。

開催期間内に他のグループを殲滅したグループのプレイヤーを勝利者とし、10億円の賞金を分配する。

開催期間後に、複数のグループが存在していた場合、プレイヤーは全員殺害される。

 

 ◇

 

 3のルールによると、A・B・C・Dの4つのグループのうち、1つのグループのプレイヤーしか生き残れない。

 これは、基本的に同じグループのプレイヤーとは協力できるが、他の色のグループのプレイヤーとは協力できないシステム、という解釈でいいだろう。

 仮に「A」と「B」のグループのプレイヤーがそれぞれ1人ずつ生き残っている場合、最終日である4日目が終わる前にどちらかが死ななければ、双方共に死んでしまうわけだからな。

 上記のルールを信じるのであれば、同じ色のグループであるサラちゃんとは協力できる。

 寧ろ、同じグループのプレイヤーとは積極的に協力するべきだと、この時の俺は考えていたのだ。

 それは彼女も同様なようで、俺と同じグループなのを知って、安心したような表情を見せていた。

 

「もし、コウヘイさんが宜しければ……私達、一緒に行動しませんか?」

 

 その提案を断る理由は微塵も無かった。

 訳わからない状況の中、見ず知らずとはいえど、誰かと行動できるのは心強いし、可愛い子と一緒に行動できるなんてご褒美にも程がある。

 何よりも、サラちゃんは……胸が大きかった。

 それは、もう、ものすごく。

 正に、誰もが目を奪われていく、完璧で究極のおっぱい。

 個人的に、気弱そうなのもグッドポイントであり、俺の好みドストライクであった。

 

「ああ!!! 俺は全然構わないよ!!!!」

 

「え、あっ、ありがとうございます……?」

 

 そうして、俺達はこれからの方針を話し合い、周囲を探索する運びになった。

 戦闘行為が禁止されている初日のうちに、少しでも多くの情報を得たいと考えたのだ。

 もしも、探索の最中に他グループの人と出会っても、暴行される心配なく接触できる上、同じグループの人を探し、仲間にできる可能性もある。

 更に、食料などの物資も集められるため、いいことずくめ……というのは建前で。

 本音を言うと俺は、このデスゲームがドッキリである証拠を何としても掴みたかったのだ。

 

 探索の過程などを書き連ねると長くなるので、結論から書く。

 このデスゲームは……ドッキリでは断じて無い。

 迷路のように入り組んでいる建物の内装に、そこら中に仕掛けられている監視カメラ。

 絶対に外れない首輪や、見たことのないメーカーのスマホ。

 広大すぎるエリアなどなど。

 これらの機材は、明らかにこのゲームを想定して開発されている。

 たかがテレビ番組のドッキリで、ここまでのセットを用意しないだろう。

 そして、最たる根拠となるのは。

 

「これって、もしかして……」

 

 部屋の隅に置かれていた段ボールから出てきたソレは、エアガンとは思えない重量と質感がある。

 黒光りする銃身に、用意された予備のマガジン。

 ミリタリーに明るくない俺でも、本物の自動拳銃であると一目でわかってしまった。

 紛うことなき殺人のための道具。

 それを見てしまった瞬間に、淡い希望は打ち砕かれ、現実を直視せずを得なくなる。

 本物のデスゲームに、巻き込まれたのだと。

 

「あの……大丈夫ですか、コウヘイさん」

 

「……ぜっ、ぜ、全然平気。おおお、おれ、おれは正気を維持している!」

 

「本当に大丈夫ですか……?」

 

 直視したくない現実とご対面した瞬間、茫然自失に近しい状態に陥りかけた。

 死と隣り合わせの状況に置かれているという恐怖は、命の危機とは程遠い生活を送っていた温室育ちの精神を蝕んでいく。

 しかし、めちゃくちゃ好みな美少女の前でダサい姿を見せるわけにはいかない。

 その一心で、正気を保ち続ける。

 外面は取り繕っているものの、内心はビビり散らかしている俺は……デスゲームにおいて、狼に狩られるのを待つ羊同然だった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 モサモサしたカロリーバーを無言で食べる俺達。

 この時点で、ゲーム開始から7時間。

 空は真っ赤に夕焼けており、日付が変わるまでおよそ7時間ほど。

 戦闘禁止とされている初日のうちに、睡眠時間を確保したいため、行動するのは控えたい。

 一日中探索して得た成果は、以下に纏める。

 

 ・少量の食料と水

 ・拳銃と予備マガジン2つ

 ・禁止区域に立ち寄ると、首輪が警告を発するという情報

 ・電子ロックがかかっていて、開けられない黒い箱の発見。

 

 言うまでもなく、成果は少ない。

 電子ロックがかかっている箱は学校の屋上に設置してあったものの、地面に接着していたため、持ち出すことは叶わず。

 結局、脱出の目処は立たなかった上に、他のプレイヤーと会うことも出来なかった。

 マップが無いため、手探りで探索を進めて居たのだが、想定以上にエリアが広い。

 ルール4に記載されていた禁止区域に入らないようにするために、慎重に立ち回っていたことも相まって、他人の気配すら感じられない。

 

 ……あれ?

 もしかして、これ……詰んでね?

 このゲームはマジもんのデスゲームで、俺とサラちゃんはごく普通の一般人。

 拳銃こそあるものの使い方はよく分からないし、有用な情報がなければ、戦闘能力も皆無。

 極めつけに、数時間後には命を賭けた殺し合いが始まってしまうときた。

 今の俺達……もしかしなくても、他のプレイヤーにとって、めっちゃ都合の良いカモじゃないか?

 

「お父さん…お母さん。家に、帰りたいよ……」

 

 実際、サラちゃんはかなりのショックを受けているようだった。

 両腕で自分の体を抱きしめながら、ひたすらに涙を流している。

 これも、至極当然の反応だろう。

 金のためならなんでもする多重債務者だったり、躊躇なく人を殺せるサイコパスだったり。

 そういった人間でない限り、デスゲームを前向きに捉えることなどできないのだから。

 

「泣かないで、サラちゃん」

 

「コウヘイさん……?」

 

「君は、俺が守るよ。何があっても、絶対に」

 

 すかさず側に寄り添った俺が発したのは、アニメの主人公の如き言葉。

 内心死ぬほどビビってる奴の口から飛び出たとは思えないほど、クサい決め台詞である。

 だが、日常の中だと痛すぎる発言も、緊急事態である今ならば。

 

「本当、ですか? コウヘイさんを信じていいんですか……?」

 

 めちゃくちゃぶっ刺さる。

 目を潤ませているサラちゃんは、何かを期待するように俺の顔を見つめ始めた。

 そんな彼女の表情もまた、俺にブッ刺さる。

 控えめに言って、めちゃくちゃ可愛い。

 そう、優しい言葉をかけているのは、純粋な善意からでは決してない。

 吊り橋効果を狙った下心100%であった。

 

「もちろん。2人で力を合わせて、このゲームを生き残ろう」

 

「……はいっ。一緒に頑張りましょう!」

 

 俺とサラちゃんは握手を交わす。

 不安がる彼女に寄り添った事で、出会った時よりも心の距離がぐっと縮まった。

 ……なんで、この状況で女の子を口説いているんだ、と自分でも言いたい。

 楽観視していたか、現実逃避していたのか。

 或いは、ただのバカなのか。

 言うまでもなく後者な俺は、開幕早々に美少女と出会ったから……という理由で、自分を漫画の主人公のように思って。

 可愛い女の子とフラグを立てて、どうにか上手く立ち回ろうとしか、考えてなかった。

 多分生き残れるだろうと希望的観測をして、具体的なプランを立案したりもせず。

 愚鈍で馬鹿で間抜けでお気楽な俺は……デスゲーム、ではなく。

 このゲームのプレイヤー達がどれほど悪意に満ちているのか、考えようともしなかったのだ。

 

 2日目

 

 割とぐっすり眠れた。

 これも、サラちゃんと交代で眠った賜物だ。

 昨日の19時から24時まで俺が見張りを務めてサラちゃんが眠り、今日の0時から6時まで彼女が見張って俺が寝る。

 その間に何者かの気配を感じたら、眠ってる人を起こして逃げる……という作戦だったが、運のいいことに誰も来やしなかった。

 お陰で、体調はバッチリ。

 俺だけ一時間多く寝たため、彼女に申し訳ないくらいである。

 

 因みに、サラちゃんが提案した俺達の行動方針は、とにかく慎重に動いて最終盤で漁夫の利を得る、というもの。

 人と関わるのを避けて消耗を減らし、極力戦うことなく生存を目指す作戦だ。

 まずは、辺りを警戒しながら探索を続けて、武器や食料を手に入れる。

 デスゲームの初期エリアは、かなり広い。

 どれほどの広さなのか、推測すらできない程度には広い上に、詳細が記されたマップもない。

 そのため、他グループの交戦的なプレイヤーが俺やサラちゃんをぶっ殺そうとしても、草木をかき分けて地道に探す他なくなる。

 こんな状態で、身を隠して行動する俺達を発見するのなんて至難の業。

 身体能力がそこそこ高い俺が索敵を行い、サラちゃんが物資の運搬と銃による威嚇を行う。

 完璧な布陣で周囲を警戒すれば、他のプレイヤーとかち合うことなど無いと断言できる。

 

 そうやって、最後の最後まで隠れ続けて……プレイヤーが少なくなった終盤で強襲をかける。

 数多の殺し合いを経て生き残った奴に、この俺が奇襲を仕掛けてやるのだ。

 もちろん、人殺しはしたくないが、しないと死んじまうんだから仕方ない。

 他グループを殲滅しなければ生き残れず、エリアがどんどん狭くなる……というゲームの特性上、落ち着いて行動すれば、必ずチャンスはやってくる。

 戦いまくって消耗した相手と、元気ピンピンで銃を持ってる俺。

 どっちが勝つかは明白。

 無事に勝利した俺と、共に行動してくれたサラちゃんが生存して10億円ゲット。

 極限状態に置かれている吊り橋効果で、2人の中に愛が芽生えてハッピーエンド。

 この作戦は、非の打ち所がないパーフェクトなものであると、この時の俺は本気で考えていた。

 

 残りの期間は3日で、時間は有限。

 ウジウジしてもしょうがないので、早速動き出そうとした刹那。

 ピピピッというアラーム音が、俺とサラちゃんのスマホから鳴り響く。

 それこそ、初日と全く同じように。

 

 

お知らせ

 

右も左も分からないプレイヤー様への贈り物として「トレジャーボックス」の鍵を開錠しました。

ボックスの数には限りがあり、早い者勝ちとなっております。

お宝を探し当て、ゲームを有利に進めましょう。

皆様のご健闘をお祈りします。

 

 

 堅苦しい口調に反して、完全にゲーム感覚の文言。

 これまた、如何にもデスゲームって感じだ。

 しかし、有益なお知らせなのは間違いない。

 

「トレジャーボックス……もしかして、学校に置いてあった黒い箱のことですかね?」

 

 そう呟くサラちゃん。

 丁度、俺も同じことを考えていた。

 恐らく、1日目の時点では開けられなかった黒い箱がトレジャーボックスであり、お知らせの配信と同時に電子ロックを開錠したのだろう。

 幸いにも、俺達はトレジャーボックスの位置を把握している。

 少しでも多くのアドバンテージを得るためにも、回収しに行かない選択肢はない。

 

 てなわけで、俺達はお互いの初期地点でもあった学校へと足を運ぶ。

 4階建ての木造建築。

 一見すると、年季が入ってそうに見えるが、内装も設備も生活感が皆無。

 どの物品も正規の目的で使用された形跡が全く無いため、廃校を流用している訳では無さそうだ。

 見た感じだと、俺達以外の人が踏み入った形跡もないと思う。

 物の配置とか全然覚えてないから、確証は持てないが……汚れ一つない廊下とかを、全く汚さずに入るなんて不可能だろ。

 

「学校といえばさ〜、サラちゃんは部活とか入ってるの? ちな、俺は元陸上部だよ」

 

「あ、えっと……部活には入っていませんが、とある劇団に所属しています」

 

「演劇かぁ。なんか、ちょっと意外かも」

 

「…………意外、ですか。これでも私、次の劇の主役を演じる予定があるんですよ。それなのに、こんなゲームに巻き込まれて……」

 

 発言の途中に涙声になってしまうサラちゃん。

 日常を思い返して辛くなってしまったのか、劇に対して相当の思い入れがあるのか。

 いずれにせよ、心中お察しする。

 同時に、俺が守ってあげなければとも思う。

 このイカれたゲームのプレイヤーの中で、彼女を助けられるのは俺だけなのだから。

 

 内心で決意を新たにしながら歩みを進める。

 そうして、2階へと上がる階段に差し掛かった時、何処となく違和感を感じた。

 人の気配も、人が居る形跡もない。

 なのに、危機が迫ってる気がする。

 ……今すぐ、ここから立ち去ろう。

 

「大人しく引っ掛かっとけや、クソがッ!」

 

 そう思ったのも束の間、階段横の死角から大柄な体躯の男性が現れる。

 矢継ぎ早に、彼は握っている拳銃を発砲し、放たれた弾丸は俺の真横を通り過ぎていった。

 ヤバい。

 逃げないと、殺される。

 呆然とする意識を覚醒させ、即座に足を動かそうとした……その時。

 

「……えっ?」

 

 どん、と突き飛ばされ、バランスが崩れる。

 不意の出来事に対応できない俺は、その場にばたりと倒れ込んでしまいそうになる。

 何故、どうして。

 脳内に抱いた疑問を解消するために、隣に立っていた少女の表情を伺おうとすると。

 ……サラちゃんはこちらに見向きもせず、そそくさと走り去ってしまった。

 

「いぎぁっ!」

 

 けたたましい発砲音が鳴り響くのと同時に、右足のふくらはぎに激痛が走る。

 言うまでもなく、銃を持つ男に撃たれたのだ。

 捕らえた獲物を逃がさないように。

 

「……桐木(キリキ)。本当に、逃げやがった女を追っかけなくていいのかよ?」

 

「ええ。か弱い私一人では、怪我している男性を逃がさないようにするのも一苦労なので」

 

「チッ……使えねぇな。この土壇場で仲間を突き飛ばす性悪女。あいつは殺しとかねぇと、後で面倒な事になりそうなのによ」

 

「あら。それを言うなら、戸坂(トサカ)くんが一発目を外さなければ、女の子を逃さずに済みましたよね」

 

「しゃーねぇだろ、こちとら初めて使ったんだぞ。文句垂れるなら、次からテメェが撃てや」

 

「無理ですね。射撃の反動で、骨と皮しかない腕が吹っ飛んじゃうので」

 

「そりゃ傑作だ。一度は拝んでみたいね」

 

 軽口を叩きながら階段を降りてくる大柄な男と、物陰から姿を表した小柄な女。

 鶏のトサカのようなモヒカン頭に、筋骨隆々な肉体が印象に残る男。

 深層の令嬢の如き雰囲気を纏う、黒髪を一つ結びにしている少女。

 この2人が並び立つ様は、どこからどう見てもアンバランスで現実味が無かった。

 

「おい、お前のグループは?」

 

「いっ、痛い……たしゅ、助けてぇ……」

 

「お前のグループを教えろって言ってんだよ。痛い、助けて……なんてグループはねぇだろうが」

 

 冷たい銃の感触が、額から伝わってくる。

 トサカ頭は、言わなきゃ殺すと言わんばかりに、ぐりぐりと銃口を押し付けてきた。

 痛い、怖い、生きていたい。

 ここで死にたくないから、言うしかない。

 

「A! Aグループです!!!」

 

「ふーん……連れの方は?」

 

「あの子もAですぅ!!!」

 

「残念、どちらもハズレみたいですね」

 

 落胆するようにため息を吐く少女をよそに、トサカ頭は倒れ伏す俺の体を弄り始める。

 シャツの胸ポケットから、ズボンの後ろポケットまで。

 がさがさと中身を確かめた彼は、俺が所持していたスマホを抜き取った。

 

「おまけに、スマホしか持ってないときた。武器も食料も何も無し。ほとんど物資を持って無かったのか、あの女が所持していたのか……」

 

「恐らく、後者でしょう。なにせ、一切の躊躇無しに仲間を捨て駒にする方です。言葉巧みに誘導して、物資を独占してもおかしくありません」

 

「……それでどうなんだ? あのクソ女は、武器や食料を持ってたりするのかよ」

 

「銃と食べ物、飲み物も待ってますっ!」

 

「ふふ、言った通りでしょう?」

 

 小柄な少女が自慢げに微笑む姿は蠱惑的……なんてのは、どうでもいい。

 ……そうだ。

 俺が発見した銃は、サラちゃんに渡していた。

 何故なら、俺が索敵を担当して、彼女が銃で威嚇する手筈だったから。

 食べ物も水も全て渡していた。

 何故なら、あの子が物資を運搬する担当だったから。

 

 それもあれもこれも。

 これらの作戦を考案したのは、他でもないサラちゃんで。

 気弱そうな印象も、俺を信頼してくれた言葉も、共に生き残ろうと誓った握手も。

 今までの全ての言動が、俺を都合よく利用するための演技だったとでも言うのか?

 

「てめーも運がなかったな。性悪クソ女に引っ掛かっちまって。心の底から同情するぜ、俺も似たような立場だからよ」

 

「随分と失礼な物言いですね。一体誰のお陰で、この方を罠に嵌れたと思ってるんです? トレジャーボックスが初期地点近くに配置されている傾向を読み解き、待ち伏せの計画を練ったのは他でもない私。全部、何もかも私の功績です」

 

「な、性悪クソ女だろ?」

 

 内容こそ険悪そうに思えるが、言葉を交わす2人の表情は明るい。

 デスゲーム中で尚且つ、死に体の人間がすぐ近くにいるのにも関わらず。

 自然体で、会話を楽しんでいるのだ。

 即座に他人を切り捨て、簡単に他者の命を脅かし、ゲームに積極的に参加する。

 ……サラちゃんやこいつらは、頭のネジが吹っ飛んでいる異常者。

 俺のような小物が敵う相手ではない。

 

「それで……こいつ、どうするよ」

 

「えっ、えっ?」

 

「殺害するか否か、ですよね。少し、検討します」

 

 その言葉を耳にした途端、冷や汗が全身のありとあらゆるところから流れ出る。

 俺は、まだ死にたくない。

 女の子と付き合ったことすらないのに、イカれた奴らに嵌められて死ぬなんて、絶対に嫌だ!!!

 

「お願いしますっ! 俺にできることなら、なんでもするので殺さないでください!!!」

 

「……貴方は足を負傷していますよね。その体で出来ることはあるのですか?」

 

「そ、その、それはぁ、そのぅ……」

 

「なるほど。やはり、足手纏いになり得る方を連れ歩くリスクは負えませんね」

 

「だってよ。悪りぃな」

 

 俺に対する興味を失った少女の発言。

 それに呼応するように、トサカ頭が自動拳銃の銃口を向けてくる。

 死にたくない一心で紡ごうとした言葉は、無機質な発砲音に掻き消された。

 全身から力が抜け、視界がブラックアウトする。

 こうして、俺の人生は呆気なく終わった。   

 

 

 ⭐︎

 

 

 デスゲーム二回目

 1日目 

 

 目が覚めたら、見知った学校の教室の中にいた。

 先ほどの記憶が物凄く朧げな上に、着ていた服以外の持ち物は見当たらない。

 更に、首には物々しい首輪が付けられている。

 

 ここで、俺は猛烈に既視感を覚えた……が、あくまで既視感止まり。

 馬鹿な俺は、悪い夢でも見ていたのかもしれない、なんて考えていた。

 ……なら、なぜ首輪がついていて、学校で眠りこけてんだって話だけど。

 まぁ、俺は混乱しまくっているのだ。

 

 そして、自分のほっぺでも勢いよく引っ張ってみようか、と考えた時。

 ピピピッというアラーム音が、机の上に置いてあるスマホから鳴り響く。

 当然、自分のものではない。

 自分のものではないが、半ば反射的に画面をタップしてしまい……俺は目を疑った。

 

 ◇

 

 No.8

 プレイヤー名:山下(ヤマシタ)康平(コウヘイ)

 所属グループ:「A」

 

 

基本ルール

 

1

10名のプレイヤーは、A・B・C・Dのいずれかのグループに配属される。

グループの内訳はそれぞれ3名だが、Dグループに限っては1名とする。

 

2

獲得条件を満たすことで、他のグループへの移籍権を得られる。

しかし、移籍権を行使しても、Dグループには移籍できない。

取得してから12時間以内に移籍権を行使しなかった場合、当該権利は失効する。

また、移籍権は重複しない。

 

3

ゲームの開催期間は4日。

開催期間内に他のグループを殲滅したグループのプレイヤーを勝利者とし、10億円の賞金を分配する。

開催期間後に、複数のグループが存在していた場合、プレイヤーは全員殺害される。

 

4

ゲームのエリアは予め指定されており、エリア外に出たプレイヤーは殺害される。

また、エリアは日数を経るごとに縮小するが、初日に限って縮小しない。

 

5

ゲーム初日は、戦闘禁止とする。

戦闘行為が発見された場合、当該プレイヤーは殺害される。

 

 

 

 どうして見知らぬスマホに俺の名前が書いてあるのか、だとか。

 そういう疑問よりも先に。

 ここで、さっきの既視感の正体に気づいた。

 

 ……これは、間違いなくデスゲーム。

 しかし、ただのデスゲームではない。

 訳もわからずに参加した俺が、イカれた奴らに振り回されて呆気なく殺された。

 そんな記憶がある、プレイ済みのゲーム。

 

 こんなのは、おかしい。

 どっからどう考えても、おかしい。

 記憶が正しければ、確かに俺は死んだ。

 トサカ頭の男によって、弾丸を頭にぶち込まれて命を落とした筈なのに。

 どうして……時間が巻き戻っているんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯月×日 

 追記

 

 先述した過程を経て、俺にとって最悪のゲームが幕を開けた。

 馬鹿で間抜けで、すぐに出し抜かれる。

 故に、何度も何度も何度も何度も何度も殺されて……その度に「死に戻る」。

 命を落とす度に、全部無かったことにしてやり直せるタイムリープ能力。

 

 この力を生かし、狂ったデスゲームを破壊する。

 プレイヤー全員を生存させ、みんなの力を合わせて黒幕を打倒し、ハッピーエンドを迎える……ことは決して無い。

 

 何故なら、このゲームに参加しているプレイヤーは、揃いも揃って大悪人。

 自らの思惑のために行動し、他人を蹴落として、容易く命を奪おうとする。

 共存も信頼も、出来やしない。

 最初から最後まで、飽きる事なく殺し合う。

 

 要するに、この日記は……死に戻り能力を得た俺が、参加者全員悪人のデスゲームから生還するまでの過程を描く、備忘録にすぎないのである。





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