ロッドとラナは孤児院を後にした。しかし、塀の前で誰かがうずくまっているのを見て足を止める。
「パル……?」
ロッドが声をかけると、そこには疲れ切った表情のパルリーネがいた。彼女は顔を上げる気力もないのか、そのまま地面に座り込んでいる。
「ごめん、パル。俺たちが調子に乗りすぎたせいで、酷い目に合わせちゃったよな」
ロッドが申し訳なさそうに頭を下げる。
「ほら、ラナも謝れよ」
ラナはわざとらしく咳払いしながら、パルリーネに顔を向けた。
「パル、ごめんなさい。もうあんなラブラブ夫婦ごっことかさせないからさ、許してくれる?」
「お前、反省してないだろ!」
ロッドが即座にツッコむと、ラナは舌を出しながら笑う。
二人の軽口を聞いていたパルリーネは、ようやくふらつきながら立ち上がった。
「ギルドに戻るんだろう……?」
その言葉には疲労がにじみ出ている。
「あ、ああ、そうだな……」
ロッドは困惑気味に返事をしつつ、彼女のやつれた様子に目を細めた。
一方のラナは、そんな空気をお構いなしに手を叩く。
「よし、さっさとギルドに戻って報酬もらおう! 今日は豪華ディナーが食べたいしね!」
「パルはまともに昼食も取れなかったのに……」
ロッドが呆れたようにぼやきながらも、二人でパルリーネの両脇を支えるように抱きかかえ、ギルドへと向かった。
―――
ギルドの受付で、ロッドたちは報酬を受け取ることになった。しかし、予想通りその金額は大幅に減額されている。ジョバンニが守ってくれていた廃屋敷を買い取る費用を差し引かれた結果だ。
ラナが受付で渡された袋を開けると、中から三百ルーピアコインが手のひらに山盛りになって出てきた。
「ちょっと、これだけ? 本当だったら、この三倍はもらえるはずだったんだよね?」
ラナは文句を言いながらも、コインを手のひらでジャラジャラと鳴らす。
「減った分は俺が二人の分まで体を張って取り戻すよ。それに、あの子どもたちの笑顔を見たらさ……元気もらった気がするしな」
ロッドは苦笑しながらも、どこか満足げに話す。
「それ言うなら、私が一番元気もらってたんだけどね!」
ラナは軽くウィンクしながら、笑顔でコインをポケットに突っ込んだ。
ギルドで報酬を受け取り、軽く肩の荷を下ろしたロッドとラナ。二人が次の行き先を相談している横で、パルリーネは何かを言いたげに小さく口を開いた。しかし、声にならない。
それに気づいたロッドがパルリーネに向き直る。
「パルはこれからどうするんだ?俺たちと一緒に来てくれるなら嬉しい。でも、もしまだ悩んでるって言うなら、無理に誘ったりはしないからさ」
「ロッド……私は……」
パルリーネはロッドの真っ直ぐな目に一瞬たじろぎ、視線を落とす。言葉が続かない彼女を見て、ラナが軽い調子で口を挟んだ。
「まだ答えを出せないなら、それでもいいじゃん?冒険しながら答えを探すっていうのも悪くないと思うけどね?」
「ラナ……」
ラナの明るい言葉に、パルリーネは少し驚いたような顔をする。気がつけばその瞳には、わずかに涙が滲んでいた。
そんな二人を見ていたロッドは、大げさに手を叩いて話題を変えた。
「よし! それじゃあパル、これからレストランにでも行かないか?俺とパル、お昼はほとんど何も食べてないしな」
ラナはお腹が空いていない素振りをしながらも、パルリーネの腕を引き寄せて笑う。
「せっかく新米冒険者が初めて手にしたお金で、ご飯のお誘いしてるんだよ?当然、パルも来るよね!」
ラナの無邪気な振る舞いに、自然とパルリーネの表情がほころぶ。
「……ああ、わかった」
彼女の小さな返事にロッドも微笑み、三人はギルドを後にした。
目的地は、少し高めのレストラン。店内に入ると、少し緊張した面持ちのパルリーネをラナが軽くつつきながら話しかける。
「そんな顔しなくても大丈夫だって。こういうところは、雰囲気を楽しむのがコツなんだから!」
「雰囲気か……」
パルリーネは苦笑しながら窓際のテーブルに向かった。
レストランで席についた三人は、それぞれ食べたいものを注文した。料理が運ばれてくると、ラナは早速自分の皿に盛られた料理を小皿に分け始めた。そして、その小皿を何の気なしにロッドの方へ滑らせる。
不思議そうにその様子を眺めていたパルリーネが、口を開く。
「ラナ、それ……ダイエットでもしてるのか?」
ラナは笑いながらフォークをひらひら振りつつ、さらっと答えた。
「私ね、パルと違って筋肉つきにくいから、太りやすいんだよね!」
その言葉に、ロッドは箸を置き、顔をしかめて憤慨する。
「お前、嘘つくならもっとマシな言い訳をしろ。ちんちくりんみたいな体型とパルを比較するな。それに普段からお前、そんなに食べないだろうが。だから俺がこうやっていつも食ってやってるんだろ?」
ロッドの的確な指摘に、ラナは頬をぷくっと膨らませる。
「ちんちくりんって何よ! 私だってこれでも食べるときは食べるんだから!」
ラナの抗議を無視して、ロッドはそのままラナから押し付けられた料理を淡々と食べ続ける。
その頃、パルリーネの料理も運ばれてきた。彼女が選んだのは魚介パスタだ。しかし、皿を覗き込んだ瞬間、パルリーネは眉を寄せて頭を抱え始める。
「……どうした?」
ロッドがその様子に気づいて声をかけた。パルリーネは気まずそうに目をそらしながら答える。
「いや……自分で頼んでおいてアレなんだが、貝類が苦手なんだ……」
その発言に、ラナは口に含んでいた水を噴き出しそうになり、慌てて飲み込む。
「パル……天然にも程があるよ。魚介パスタって名前の時点で察するでしょ……」
それでも哀れに思ったのか、ラナはロッドに提案した。
「ロディ、ここはパルに『間違い隠し』使ってあげたら?」
「『間違い隠し』……?」
パルリーネは、ロッドが以前廃屋敷でその力を使ったときの記憶を思い出す。
ロッドがフォークを置きながら、あらためて説明を始めた。
「そういえば、あのとき細かい説明はしてなかったな。『間違い隠し』には二つの能力がある。一つ目は、壊れていたり汚れていたりするものを一日だけ元の状態に戻すってやつだ。鍵を治したときのこと、覚えてるだろ?」
パルリーネは小さく頷く。
「で、もう一つの能力は――その人が苦手にしているものや心が不安定になってるときの影響を一時的に取り除くことができる。たとえば、今みたいな場合にもな」
そう言ってロッドは静かに右手で自分の右目を覆い、左目をパルリーネに向けた。その途端、パルリーネは思わず肩をビクッと震わせ、目をそらしてしまう。
「ダメだよ、パル。ちゃんとロディの目を見て」
ラナが軽く笑いながら促すと、パルリーネは小さく息を吐き、恐る恐るロッドの左目を見つめた。
数秒間が経過したが、パルリーネは不思議そうな顔をして首を傾げる。
「……これといった変化は感じないが……」
そう言いながらも、彼女は意を決してフォークにアサリを乗せて口に運ぼうとする。しかし――スプーンを口元まで持ち上げた瞬間、手が止まった。
「……ダメだ。味と食感を想像すると、体が拒否して動かない……」
パルリーネが皿の中のアサリとにらみ合っている姿を見て、ラナは口元に薄く笑みを浮かべた。その瞳には、どこか悪知恵を思いついたような輝きが宿っている。
「ねえ、パル。目を瞑ってロディに食べさせてもらったらどう?」
唐突な提案に、パルリーネはスプーンに乗せていたアサリを盛大に落とした。彼女の顔には困惑が浮かび上がる。一方、ロッドはラナの揺さぶりに微塵も動じない様子でフォークを置いた。
「そんなことで食べられるなら、パルも苦労してないだろ。それに、そんなことしたら人目が気になって余計に食べられなくなるだけだ」
ロッドの冷静な指摘に、ラナは「チッ」と舌打ちをしつつも諦める気配を見せない。
「でもさ、パル。一度は試してみたいでしょ?こんな機会、滅多にないんだから。苦手なものを克服できるチャンスかもしれないよ?」
ラナの論点をずらした説得に、パルリーネの顔がじわじわと赤く染まっていく。その視線はロッドに向けられ、微かに揺れている。
「ロッドが嫌じゃないなら……私は、構わない……」
その返事を聞いた瞬間、ラナはニヤリと笑みを浮かべた。その顔はどこか底意地の悪さを感じさせるものだった。
「ほらね、ロディ。パルもまんざらじゃないみたいだし、やってあげれば?」
渋々ながら観念したロッドは、パルリーネのスプーンを手に取り、アサリを一つすくった。
「仕方ない。じゃあ、いくぞ」
ロッドがスプーンをパルリーネの口元に差し出すと、彼女は一瞬ためらったものの、目をぎゅっと瞑り、覚悟を決めて口を開いた。
アサリが口の中に入った瞬間、パルリーネの表情は苦悶に歪む。しかし、徐々に咀嚼を続けるうちに、その顔から緊張が消えていった。
「……食べられる。味も食感も、不快感がない……」
その言葉に、ロッドは満足そうに頷いた。
「そっか。それなら良かった。でも、これ一日しかもたないからな。また苦手なものがあったら教えてくれ」
そう言い残すと、ロッドは席を立ち、トイレに向かって歩き出した。その後ろ姿を見送るラナは、口元に含み笑いを浮かべながらパルリーネに顔を寄せる。
「ねえ、パル。さっきのあれ、本当はちょっと嬉しかったんじゃない?」
「なっ……い、いきなり何を言い出すんだ!?」
慌てて否定しようとするパルリーネの顔は、真っ赤になっている。ラナはそれを見て、さらにニヤニヤしながら追い打ちをかける。
「それにパルってロディと一緒にいるとき、顔が柔らかくなるんだよね。私が気づいてないとでも思った?」
「そ、そんなこと……!」
必死に否定しようとするパルリーネだが、その言葉はどこか弱々しい。それを見たラナは満足そうに笑みを浮かべ、席に戻ってきたロッドにバレないよう、こっそりとウインクして見せた。
食事を終え、ラナが会計をしている間、ロッドとパルリーネは外で待っていた。夕暮れに染まる通りには、柔らかなオレンジ色の光が降り注いでいる。しかし、二人の間にはどこか気まずい空気が漂っていた。
しばらく沈黙が続いた後、ロッドがゆっくりと口を開いた。
「その……パルに謝らなきゃと思ってたんだ。孤児院のこととか、さっきのアサリのこととかさ」
ロッドの声には珍しく、ためらいが混じっている。そんな彼を見つめながら、パルリーネは静かに首を横に振った。
「ロッドが気にする必要はない。孤児院の子どもたちの声に惹かれたのは、そもそも私の意志だ。それに、ラナも悪気がないことくらいわかっている……多少、調子に乗りすぎな部分は否めないがな」
最後の言葉に、ロッドは苦笑を漏らした。
「やっぱりちょっとやり過ぎだったよな。昔からお転婆ぶりに振り回されてきたから、パルの気持ちは痛いほどわかるよ。ラナには後できつく言っとく」
すると、不意にパルリーネが問いかける。
「ロッドは……子どもが好きか?」
思いがけない質問に、ロッドは目を丸くして一瞬考え込むが、すぐに照れ臭そうに笑った。
「えっ?ああ、好きだよ。俺も家庭を持ったら、あんな元気で笑顔が眩しい子どもが欲しいなぁ、なんて想像しちゃったりして」
その言葉に、パルリーネはふと目を伏せる。何かを言おうと口を開きかけたが、結局言葉は飲み込まれた。そして、小さく息を吐き出しながら、静かに呟く。
「……そうか。ロッドならきっと――」
パルリーネの声がかすかに震えたその瞬間、空気を引き裂くように大きな声が響いた。
「ねぇ!」
ラナだ。ロッドとパルリーネは同時に驚き、振り返る。
「うわっ!?急に大声出すなよ!」
ロッドは慌てて一歩引き、パルリーネも少し眉をひそめた。
「ラナ、いつからそこに?……もしかして、さっきの話を――」
「それよりさ!」
ラナはパルリーネの言葉を遮り、勢いよく二人の間に割り込むと、指を一本立ててある方向を指した。
「あそこの電柱の影!手鏡を持ってこっちを見てる女の人がいるの、わかる?」
ラナが指差す先を見たロッドは、思わずため息をつく。そこには、どこか漆黒の魔法使いのような風変わりな出で立ちをした女が、手鏡をこちらに向けて何やら覗き見している姿があった。
「あんなバレバレな尾行、初めて見たぞ……」
呆れたように額に手を当てるロッド。しかし、その横でパルリーネの表情が険しく変わっていく。
「……ネビア」
その名前を口にした瞬間、空気がピリリと張り詰めた。パルリーネの鋭い眼差しが電柱の影に突き刺さる。ラナが驚いたように目を丸くし、ロッドも「知り合いなのか?」と言いたげに首をかしげる。
手鏡を持った女――ネビアは敵意を隠そうともせず、静かに三人へと歩み寄ってきた。彼女の赤い瞳は、まるで獲物を睨みつける猛禽のようだ。
「こんなところで何をしているんだい?パルリーネ」
その挑発的な声に、パルリーネの瞳が鋭く細められる。
「ネビア・ブランカ……『カリバーン』の小手先の魔法使いと呼ばれる女だ」
その言葉に、ネビアの表情が一気に険しくなった。
「その呼び方はおよしって言わなかったかい!」
そのやり取りを横で聞いていたロッドとラナが、同時に反応する。
「『カリバーン』だって?」
ロッドは眉をひそめて考え込むが、ラナの反応はそれとは真逆だった。
「カリバーンって、あの指名手配されてる冒険者パーティーだよね?じゃあ、この女をギルドに引き渡せば報奨金がもらえちゃうんじゃないの?」
ラナは名案を思いついたとでも言わんばかりに満面の笑みを浮かべる。しかし、次の瞬間、パルリーネの冷静な声がその提案を簡単にひっくり返した。
「ネビアが『カリバーン』に加入したのは五年前だ。だが、ゴルガノン一家の事件が起きたのは十年前――つまり、ネビアが事件に関与している可能性はない」
「フン……相変わらず堅苦しい女だね」
ネビアは舌打ちをしながら不機嫌そうに顔をしかめた。そして、挑発的な口調で続ける。
「あんたらのせいで、私たちの動きがどれだけ制限されたと思ってるんだい。モルドなんて、追っ手から隠れながら生活のアテを探す羽目になったんだからね。指名手配の原因を作ったあんたらに、モルドがどれだけ復讐したがってるか――わかるかい?」
その言葉にロッドが眉をひそめ、低い声で返す。
「それって逆恨みってやつだろ。それにゴルガノンの事件に関与してないなら、自分たちで身の潔白を証明すればいい話じゃないか」
「そうだよ!」
ラナがロッドに同調し、拳を握り締めて意気込む。
「それに私たちの冒険を邪魔するなんて、絶対に許さない!ねっ、パル!」
勢いよくパルリーネに同意を求めるラナ。しかし、パルリーネは黙ったまま硬い表情を浮かべていた。その様子を見たネビアは、冷笑を浮かべるとさらに言葉を重ねる。
「あんたら、知らないのかい?」
「やめろ、ネビア!」
パルリーネが鋭い声を上げるが、ネビアは構わず続けた。
「この女ね、あたいたちのパーティーにいた頃、山賊の嘘にまんまと騙されて、パーティー全滅の一歩手前まで追い詰められたんだよ。モルドがいなけりゃ、あたいたちはとっくにこの世からおさらばしていたとこだったのさ。だからモルドはそこの騎士様を追い出してやったんだ」
その暴露にロッドは驚きと困惑が入り混じった表情で、パルリーネを見つめた。
「パルは『カリバーン』を追い出されたってことなのか?でも、パルは自分からパーティーを抜けたって――」
パルリーネは唇を噛み締めるだけで、何も言い返せない。それを見て取ったネビアが、追い打ちをかけるように嘲笑を浮かべた。
「あんた、このいたいけな少年少女を騙してパーティーを組んでるのかい?相変わらずの性悪女だね」
その言葉に、パルリーネの肩が震える。そして、声を押し殺すように低く呟いた。
「……黙れ」
ネビアは怒気を含んだ言葉を、まるで矢のように次々と放ってきた。
「それにこの女はね、モルドに片思いしていたのさ。だから、あんたらも気をつけな。その女は守護剣なんて生易しいもんじゃないよ。パーティーなんかに加えたら、諸刃の剣でしかないね」
パルリーネはその言葉に硬直した。ロッドとラナも驚愕し、パルリーネの顔を見ることができなかった。まるで突然、彼女の知らなかった一面を暴かれたような気持ちだ。
パルリーネは一歩後ろに下がり、逃げるようにロッドとラナに背を向けた。
その時、ロッドが冷静な声で言い放つ。
「パルが大きな失敗した時、ネビアたちは誰も擁護しなかったが?」
「できるわけないだろ」
ネビアは冷笑を浮かべながら答える。
「任務は失敗して報酬はもらえなかったばかりか、険悪な雰囲気で擁護の言葉を口にするのも憚られたさ。しかもあたいたちは、そこの負け犬女のせいで死にかけたんだからね」
その言葉にロッドの眉がピクリと動く。
「擁護することができなかったのは、最初からパルを信用してなかったからだろ?」
ネビアが驚愕の表情を浮かべる。
「……なんだって?」
「パルはパーティーの足を引っ張らないことを最優先に行動する人だ。それを理解していなかったネビアたちにも落ち度はあるんじゃないか?」
ロッドの言葉に、ネビアは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに反論を試みる。
「フン……あんた、何もわかっちゃいないね。その女は鈍臭くて不器用。そのくせ頑固でね、散々あたいたちの足を引っ張ってきたんだ」
「仲間の足りない部分は周りで補うのがパーティーだろ」
ロッドが冷静に反論する。
「それを理解しようともせず、仲間の失敗を一人に押し付けるなんて、ネビアたちのやっていることは助け合いなんかじゃない。責任のなすりつけ合いだ」
「ぐっ……言うじゃないか」
ロッドは無表情で言い放つ。
「俺はパルを仲間だと思ってるし、心から信頼してる。最強の冒険者パーティーだかなんだか知らないけど、ネビアたちのパーティーより俺たちといる方がパルはたくさん笑顔を見せてくれるんだ。これからもそうであってほしい。だってパーティーってそういうもんだろ?」
その言葉を聞いて、ネビアは少しだけ顔をゆがめた。
「そんな小っ恥ずかしいこと、よく言えたもんだね……まあ、今日はこれぐらいしとこうか」
ネビアは鼻で笑うと、最後に鋭い視線をロッドたちに投げつけ、言った。
「次会う時は、首洗って待ってるんだね」
そう言い残し、ネビアは悔しそうにその場を去って行った。風が彼女の後ろ髪を揺らし、静かな空気が再び戻る。パルリーネはまだその場に立ち尽くしていた。
ロッドは一息つくと、パルリーネに向かって優しく言った。
「ネビアの言うことなんて、俺は気にしてない。俺とラナはパルのこと、信じてるからさ」
ロッドの言葉が、パルリーネの胸に響いた。彼女はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「騎士団にいた私がモルドに誘われ、カリバーンに所属したのは、モルドの信頼と期待を裏切りたくなかったからだ」
パルリーネの声には、どこかしんみりとした思いが込められていた。
「私は少しでもモルドの役に立つのなら、どんな責任も背負うつもりだった。でも、それは大きな間違いだったんだな。ロッドの言葉に気づかされたよ。馬鹿だったのは私だって」
ロッドはその言葉に苦笑いを浮かべると、真剣な表情で言った。
「パルがどんな決断をしても、間違ってたら俺とラナが支えるよ。だって、白銀の守護剣なんだろ?」
パルリーネはその言葉に胸が熱くなる。彼女の目が少し潤んだ。
「ロッド、ラナ……私、冒険がしたいんだ。こんな私でも役に立つかな?」
ラナがすぐに反応して、元気よく言った。
「もちろん!なっ、ラナ?」
ロッドは頷きながら、にっこりと笑う。
「当たり前でしょ!でも、改めてよろしくね!守護剣様?」
「……ああ、こちらこそ」
パルリーネは照れくさくも微笑んだ。
その瞬間、三人は無言でお互いを見つめ合い、そしてしっかりと握手を交わす。これが新たな冒険の始まりだと、彼らは感じていた。
日が暮れ、薄暗くなった空を見上げながら、三人は廃屋敷に戻ろうと歩き出した。しかし、ラナがにやりと笑いながら言った。
「ロッドのパルに対する熱い思い、ひしひしと伝わってきたよ!」
ラナがパルリーネに視線を向け、同意を促すようににっこりと微笑んだ。
パルリーネは少し驚いた顔をしたが、すぐににっこりと答えた。
「ああ、かっこよかった」
二人の視線を受けて、ロッドは真っ赤になり、顔を手で隠しながら照れ隠しをする。その姿に、ラナとパルリーネは顔を見合わせて、思わずクスッと笑いがこぼれた。
「ふふ、ロッド、そんなに照れなくてもいいじゃん」
「うるさいな、ラナ」
パルリーネは笑顔を見せながら、ロッドに軽く言った。
「でも、本当に、ありがとう。私、頑張るよ」
その言葉に、ロッドとラナは顔を合わせ、そして再び笑顔で歩き出す。三人の新しい冒険が、今まさに始まったのだった。