冒険者になりたい俺の特技は『間違い探し』   作:公私混同侍

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間違い探し!

 

洞窟内は静寂に包まれ、足音とわずかな風の音だけが響いていた。仕掛けられている罠はネズミ捕りやベアトラップといった古典的なものばかりで、目視さえできれば容易に避けられる。だが、地図を片手に夢中になっているパルリーネは、危うく罠に引っかかりそうになる場面が何度もあった。

 

「地図を見ながら歩くなんて、危なくないか?」

 

前を歩くロッドが声をかけるが、パルリーネは軽快な足取りで罠をギリギリで避けながら進んでいく。

 

「大丈夫だ、ちゃんと見てる。地図を確認しているだけだ」

 

「でもさ、もしトラップに足を挟まれたらどうするんだ?俺に治療のスキルはないぞ?」

 

ロッドは冷や汗をかきながら、背後にいるパルリーネを気遣う。

 

「フッ、私を甘く見るな。伊達に登山家の格好をしているわけでは――」

 

言い終わる前に、ゴンッ!と鈍い音が洞窟内に響いた。パルリーネが足元ばかりに気を取られている隙に、天井から突き出た岩に頭をぶつけたのだ。

 

「い、いたぁッ!?」

 

パルリーネが額を押さえながら小さく悲鳴を上げる。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

ロッドは慌てて駆け寄るが、パルリーネは涙目になりながらも地図をしっかり握りしめていた。

 

「だ、大丈夫だ……この程度、登山で鍛えた私には問題ない……」

 

「登山とか関係ないだろ。むしろその格好で頭ぶつけたの恥ずかしくないのか?」

 

ロッドは呆れつつも心配そうに彼女を見やる。

 

「だ、誰にも見られてないからセーフだ!」

 

そう言って顔を赤らめるパルリーネに、ロッドは苦笑しながら肩をすくめた。

 

「俺、見てたけどな」

 

「だ、黙れ!」

 

パルリーネの一喝に、洞窟内に二人の笑い声が響いた。緊張感の中でも、二人の間に流れる妙に温かい空気が、少しだけ不安を和らげた。

 

運よくビーストに出会うこともなく、探索は順調に進んでいた。しかし、洞窟の終盤に差し掛かった頃、ロッドの視線がふと天井に向けられる。暗い洞窟内に不自然に一筋の光が差し込んでいる場所を見つけたのだ。

 

「……天井に穴が空いてる?」

 

ロッドは足を止め、頭上をじっと見つめる。

 

「どうしてこんな場所に穴が?」

 

首を傾げるロッドに、パルリーネが地図をしまいながら説明を始めた。

 

「それは太陽の位置を確認して時間を測るためのものだ。洞窟に時計なんてものは置かれていない。だから探索者はこの穴を利用して時間を推測する。特に太陽が西に傾いて空が茜色に染まったら――」

 

「試験失格、ってことか?」

 

ロッドが顔をしかめながら続けると、パルリーネはうなずく。

 

「そうだ。時間切れになったら試験は失敗だ。だから、ゆっくりしている暇はないと思った方がいい」

 

その言葉を聞いて、ロッドは一気に緊張感を取り戻す。

 

「……そういう大事なことはもっと早く言ってほしかった」

 

「私の地図確認が無ければ、ここまで順調じゃなかっただろう?」

 

パルリーネは胸を張りつつも軽い笑みを浮かべる。その余裕ぶりに、ロッドは半ば呆れながらもすぐに最奥を目指して駆け出した。

 

洞窟の最奥が近づき、緊張感が一層高まる。薄暗い空間の先には、明らかに異質な雰囲気を放つ広間が広がっていた。これまで静寂だった洞窟内に微かに唸るような音が響き渡り、ボス戦が始まることを予感させる。

 

「……いよいよだな」

 

ロッドが静かに呟くと、パルリーネは頷き、剣をしっかりと握り直した。だが、次の瞬間、ロッドはおもむろにバッグを開け、服を取り出し始める。

 

「汗かいたから、ちょっと着替えてもいいか?」

 

その言葉と同時に、パルリーネの返事を待つことなく、ロッドは上着を脱ぎ出した。

 

「ちょ、ちょっと待て!?」

 

パルリーネが慌てて声を上げる。

 

「なぜ今、このタイミングで服を脱ぐ必要がある!?」

 

ロッドはまるで意に介さず、淡々と話す。

 

「何故って、汗でベタベタしてると集中できないし、風邪を引いたら後が大変だろ?」

 

「そ、それはそうかもしれないが……!」

 

パルリーネの視線が微妙に彷徨う。ロッドの引き締まった体が露わになるたび、つい視線をそらしきれず、チラチラと見てしまう。

 

「日頃から鍛えているのか?」

 

意識せずに口から出た問いに、ロッドは軽く肩をすくめながら答えた。

 

「鍛えてるってわけじゃないけど、小さい頃から農作業を手伝ってたからな。結構重労働なんだよ、あれ」

 

「農作業、か……」

 

パルリーネは心の中で感心しつつも、妙に落ち着かない自分に苛立つ。

 

「よし、これで準備完了!」

 

ロッドが勢いよく服を整え、剣を抜いて試練の間に向かう。

 

「さ、行こうか!」

 

ロッドの頼もしい声に、パルリーネは深呼吸をして心を落ち着かせると、その後に続いた。

 

二人の前には、静寂を引き裂くようにボスが姿を現す――その威圧感に、空気が一気に重くなる。試練の間に張り詰めた緊張感が漂う中、ロッドは立ち向かう準備を整えた。

 

洞窟の最奥に辿り着いたロッドとパルリーネ。二人を待ち受けていたのは、異様に鋭い目つきをした二体のネズミ型ビーストだった。

 

「二体も出てくるのかよ……一体でも十分大変だったってのに……」

 

ロッドは思わず顔を引きつらせる。

 

すると、隣のパルリーネが落ち着いた様子で言った。

 

「安心するんだ。二体とも倒す必要はない。どちらか一方に一太刀でも浴びせられれば合格だ。戦い方のおさらいをするか?」

 

「いや、必要ないよ――これがあるから!」

 

ロッドはきっぱりと答え、左目を手で覆った。すると、右目が淡い光を帯び始める。

 

「……おい、その目はなんだ?片目を瞑るなんて、二体のビーストを前にして自らハンデを背負っているようなものだ!」

 

パルリーネは警戒心を隠せないまま問いかけたが、ロッドは答えず目の前のビーストたちに集中している。

 

「耳のあたりに黒い靄が見える……そうか、こいつらの弱点はこれだな」

 

ロッドは呟くと、小石を拾い上げた。そして、左右に向かって小石を投げつける。

 

カツン、カツン、と音が響くと、ビーストたちはキョロキョロと頭を動かしながら音の方向を探し始めた。

 

「分かったぞ……右のビーストは高音に反応し、左のビーストは低音に反応する仕組みだ」

 

「なっ、どうしてそんなことが分かる!?短時間でそこまで見抜くなんて……!」

 

パルリーネは困惑を隠せない。

 

「この力を使うと、その場から動けない。それに片目を瞑らないとそもそも発動自体ができないんだ」

 

ロッドはさらりと言い放つと、ナイフを取り出した。そのまま天井の岩に向かってナイフを投げつける。

 

キィィン――と高音が洞窟内に響き渡る。その音に右側のビーストが反応し、頭を激しく振って音源を探り始めた。

 

その隙を逃さず、ロッドは一気に懐に飛び込む。鋭い動きで剣を抜き放ち、一閃――!

 

「仕留めた……!」

 

一瞬の静寂の後、ビーストが苦しそうにうめき声をあげ、後退する。もう一体のビーストもパルリーネの眼光に怖気づき逃げ去った。ロッドはその場に立ち尽くしながら、ゆっくりと剣を収めた。

 

薄暗い洞窟の中で、ロッドは深呼吸をしながら肩の力を抜いていた。隣ではパルリーネが冷静な目つきで周囲を確認しつつ、彼に向き直る。

 

「検定は合格だ」

 

その一言に、ロッドはようやく緊張を解いたように笑みを浮かべた。

 

「良かった……」

 

だが、パルリーネはそのまま厳しい視線を向け、問いかけた。

 

「だが、あの不思議な力はなんだ?魔法の類か?」

 

ロッドは少し驚いたように眉を上げたが、すぐに口を開いた。

 

「俺の右目には……嘘や弱点を見つける力があるんだ。体の特定の部位に黒い靄がかかるんだよ。どうしてそんな力が身についたのかはわかんないけどさ」

 

「嘘と弱点を見つける……?そんな力、どこかで聞いたことがあるような……」

 

パルリーネは考え込むように視線を落とした。

 

「でも、動きながらだと集中が切れちゃうみたいで、正直使い勝手は良くないんだよ。それに両目を開けてると発動すらしないし」

 

ロッドは少し肩をすくめながら、苦笑いを浮かべた。

 

パルリーネはその説明を聞いて一息つくと、鋭い声で言い放つ。

 

「話はわかった。だが、次のランクを受検する時は私の許可なくその力を使うな」

 

「えっ?なんでだ?」

 

ロッドは思わず声を上げたが、パルリーネは真剣な表情で答えた。

 

「無防備になるからだ!敵の攻撃を防ぐ手だてがない。君はそこまで考えていたのか?」

 

「それは……」

 

ロッドは言葉に詰まる。

 

「君の力は戦闘向きではない。戦闘をサポートするためといった方が無難だ。敵の隙を見抜いて、仲間に指示を出す……そういう形でこそ、その力は活きるだろう」

 

「……わかったよ。次はもっと自分の頭で考えて行動する」

 

「賢明な判断だ」

 

パルリーネは頷いたが、その直後、ロッドは不意に左手を上げ、右目を覆った。

 

「おい、何をしている?」

 

警戒するパルリーネをよそに、ロッドは目を光らせる。

 

「パルって、本当は何者なんだ?」

 

その言葉に、パルリーネの表情が一瞬だけ強張った。

 

「何者……だと?」

 

「ごめん。人の心を覗き見するなんて、品がないよな」

 

ロッドはすぐに手を下ろし、苦笑いを浮かべると話題を切り上げた。

 

パルリーネは少し言葉に詰まるが、やがて合格証を手渡した。

 

「……出口は向こうだ。日が沈む前に帰宅するように」

 

「ありがとう。次の試験も頑張るよ」

 

軽く手を振りながら去っていくロッドを見送るパルリーネ。その目には、ほんの僅かだが複雑な感情が浮かんでいた。

 

「……ロッド、君の瞳に私はどう映っていたんだ?」

 

その呟きは洞窟の闇に溶けていった。

 

ロッドはランクEの合格からわずか一週間後、さらなる高みを目指してランクDの冒険者検定に挑むことを決意した。指定された場所は山岳地帯の麓。険しい山が連なるその風景を目の当たりにしながら、ロッドは思わずため息をつく。

 

「……また体力勝負かよ」

 

そんな彼をからかうように、横で歩くラナが楽しげな声を上げる。

 

「ねぇねぇ、前回の検定、担当者ってどんな人だったの?」

 

「担当者?」

 

ロッドは少し考え込みながら答えた。

 

「洞窟内が暗かったから顔まではよく見えなかったな……まあ、登山家みたいな格好してたけど、綺麗な人だったと思うよ」

 

「ふ~ん登山家かぁ、もしかしてワタシが受けた時と同じ人だったのかもね?」

 

ラナの言葉に、ロッドは鼻で笑うとポケットからチラシを取り出して見せた。

 

「そんなわけない。このチラシにも書いてあるだろ?『担当者は指名できません』ってさ。偶然が重なるなんて、そうあるもんじゃない」

 

「どうだろうね~」

 

ラナは肩をすくめながら小悪魔的な笑みを浮かべる。

 

「ワタシたちが指名できなくても、向こうが選んでる可能性はあるんじゃない?」

 

「ぐっ……た、確かに」

 

思わぬ指摘に返す言葉を失ったロッドを見て、ラナは得意げに笑う。

 

「また美人な担当者だといいね~、ロディくん?」

 

「お前な……!」

 

ロッドは思わず頭を抱えるが、ラナのペースに飲まれている自分に気づいて、さらに溜息を漏らした。

 

「さっきから担当者の話ばっかりじゃないか!試験内容とか、そういう肝心なことを聞けよ!」

 

「はいはい、じゃあ検定頑張ってね~」

 

ラナは軽い口調で言いながら、ロッドの背中をポンと叩く。その言葉に気を引かれているうちに、気づけば二人の前にはそびえ立つ山々が広がっていた。

 

ロッドはその壮大な景色を見上げながら、ふと呟く。

 

「まったく……アイツと一緒にいる方が疲れるかも」

 

彼の言葉が風に流れる中、試験の幕が静かに上がろうとしていた。

 

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