冒険者になりたい俺の特技は『間違い探し』   作:公私混同侍

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冒険の始まり

 

ロッドとラナは、パルリーネから受け取った合格証を手に、ついに大国ルーピアの中心部、ユゼフへ向かうことになった。鉄道の揺れに身を任せながら、二人は一つの弁当を分け合って食べていた。

 

「なぁ、俺何歳になるまでラナの分け前を食べ続けなきゃいけないんだ?」

 

ロッドがしみじみと呟いた。

 

「だって、ご飯の量、多いんだもん。足りないなら、もう一つ買えば良かったじゃん」

 

ラナは無邪気に答えるが、その笑顔にはどこかいたずらっぽいものが含まれていた。

 

「俺たち、これから冒険に出るんだぞ?お金のことも考えないと、食い扶持に困ったとき、『お金がなくて冒険を続けられなくなった』って母さんと父さんに言い訳することになるんだからな」

 

ロッドは真剣な顔つきで言った。お金の心配が頭をよぎるのも無理はない。

 

「お金に困ったら、ロディの目を使って『占い師』でもやればよくない?『あなたの心、見通します!』みたいな」

 

ラナはにやっと笑った。

 

「嘘しか見分けられない占い師ってなんだよ。それに俺の目は商売道具じゃない」

 

ロッドは困惑した顔をして頭をかいた。

 

「まったく、先が思いやられるな」

 

ラナはひとしきり笑った後、しばらく黙って景色を見つめていた。そうしているうちに、列車はゆっくりと冒険者の町ユゼフに到着した。

 

鉄道を降りた二人は、まだ少し実感が湧かない様子で街を歩き始める。大きな門をくぐり、賑やかな広場に出ると、周囲には商人や冒険者、旅人たちが行き交っていた。活気に満ちたこの町で、新たな冒険が待っていることを感じながら、二人はこれからの未来に胸を膨らませた。

 

「さあ、行こうか」

 

ロッドがラナに向かって微笑むと、ラナもまた元気に返事をした。

 

「うん、行こう!私たちの冒険、始まるんだね!」

 

二人は手を取り合って、冒険者としての第一歩を踏み出すのだった。

 

初めて訪れる大都市ユゼフ。その広大さに圧倒されながらも、ロッドとラナは脇目も振らずギルドを目指していた。

街の中心部にそびえ立つギルドの建物は一際目立つ存在で、その豪華な外観に冒険者たちが次々と吸い込まれるように入っていく。

 

「すごい……あんなに人がいるなんて!」

 

ラナが目を輝かせながら、ロッドより一足先に駆け込んだ。

 

受付は混雑していたが、二人は特に問題もなく新米冒険者としての登録を済ませた。ロッドが登録証を見つめながら呟く。

 

「これで俺たちも正式に冒険者、か……よし、まずは仕事探しだな!」

 

早速、二人はギルド内の掲示板へ向かった。壁一面に張り出された数えきれないほどの依頼書に、ロッドは思わず息を飲む。

 

「ホントにいろんな仕事があるんだな……。『行商人の護衛』に『超危険地帯での鉱物採掘作業』、それに『火山周辺でのビースト討伐』まで。どれも雰囲気が全然違う」

 

ラナは横で難易度の低そうな依頼を見つけようと、真剣な表情で探していた。

 

「こっちには『幼稚園の草むしり』、『対ビースト用薬剤の散布』、『赤ちゃんのお守り』ってのもあるよ。冒険というよりアルバイトって感じだね」

 

二人が掲示板を舐めるように見渡していると、壁の一角でふと目を引く人物がいた。

腰まで伸びる美しい髪と、全身を覆う真っ白な鎧。それが女性だと気づいたラナが、驚いたようにロッドの袖を引っ張る。

 

「ねえロディ、あそこにいる人って……ワタシたち、最近すっごくお世話になったよね?」

 

「……お世話になった人?」

 

ロッドは眉をひそめ、鎧の女性をちらりと見る。

 

「思い当たるのは一人しかいないけど、いや、さすがにそれはないだろ。あんな真っ白な鎧を着てるんだ。きっと仲間を待ってるとかそういう……」

 

「ロディ、気づいてるくせに」

 

ラナが少し呆れたような顔で言う。

 

「……まさか、パルがこんなところまで来るわけないだろ。会社勤めで、冒険をする暇もないくらい忙しいって言ってたじゃないか」

 

だが、ロッドの声には少しばかりの不安が滲んでいた。あの後ろ姿、あの佇まい、そしてどこか懐かしい空気――否定したいはずなのに、頭の片隅で確信している自分がいた。

 

ラナが意地悪そうに微笑みながら囁く。

 

「だったら、声かけて確かめたら?」

 

「……本当にパルだったら、なんて言えばいいんだよ」

 

ロッドがぼそっと呟くと、ラナは楽しそうに肩をすくめた。

 

「何も考えないで突撃するのがロディのいいところじゃない?」

 

ロッドは仕方なくため息をつくと、意を決して女性に近づいていった――。

 

「本当にパルなのか?」

 

ロッドが戸惑いながらも問いかける横で、痺れを切らしたラナが一歩前に出た。

 

「すみませーん、パルリーネさんですよね!」

 

大きな声で白々しく呼びかけると、白銀の鎧を纏った女性がぎこちなく振り向く。

 

「私に何か用か?」

 

あたかも他人のフリをするパルリーネ。その態度にロッドが眉をひそめた。

 

「ホントにパルなんだよな?どうしてこんなとこにいるんだ?それに、仕事を抜け出してきて大丈夫なのか?」

 

矢継ぎ早に質問を投げかけるロッド。パルリーネは一瞬口ごもったが、すぐに背筋を伸ばし、厳かな声で名乗りを上げた。

 

「……今の私は君たちの知るパルリーネ・フィルナインではない。天使の翼を束ねた鎧を纏いし――白銀の守護剣だ」

 

その場にいる全員が数秒間、沈黙した。すると、ラナが呆れたようにロッドに顔を向ける。

 

「ねぇ、ロディ?」

「なんだよ?」

「パルってさ、こんな面倒くさい人だったっけ?」

「俺に聞くなよ。パルも人間だから、仕事を休んで羽を伸ばしたくなることもあるんじゃないか?」

 

そのやり取りに、パルリーネが咳払いをして割り込んだ。

 

「私がここにいるのは正直、君たちだけで冒険に出ることに一抹の不安を抱いたからだ。それに私は今、長期休暇を利用している。君たちが案ずるような事情を抱えているわけではない」

 

言い切ったパルリーネをじっと見つめるラナ。しかし、その目はどこか疑念に満ちていた。

 

「ロディ、パルが嘘をついてないか、調べてみようよ」

 

「……やだよ」

 

ロッドは呆れたように首を振る。

 

「俺はパルを信じる。それに、無闇に使ってパルを傷つけるようなことはしたくない」

 

その言葉を聞いたパルリーネの表情が少しだけ柔らかくなり、安堵の色が浮かぶ。

 

「ロッド……ありがとう」

 

ロッドが肩をすくめて微笑む。その穏やかなやり取りにラナが苦笑しながら呟いた。

 

「まぁ、これでパルが監視役ってことがバレバレになったけどね」

 

「そ、そんなことはない!」

 

パルリーネの声が、ユゼフのギルドに響き渡った。

 

「パルがついてきてくれるなら心強いんだけどな」

 

ロッドの何気ない一言に、パルリーネは視線をそらした。

 

「……私は君たちにできることなどない」

 

言葉を選ぶようなパルリーネの様子に、ラナは一歩踏み込む。

 

「じゃあ何しに来たの?ただ見に来ただけ?」

 

その棘のある問いかけに、ロッドが声を荒げる。

 

「そんな言い方ないだろ!パルは本気で俺たちのことを心配してくれてるんだ!」

 

しかし、ラナは納得しない。

 

「でもさ、わざわざそんな目立つ鎧まで着てギルドに来たのに、『ただ会いに来た』だけっておかしくない?パル、本当は何をしに来たの?」

 

その核心を突く一言に、ロッドも返す言葉を失う。そして沈黙の中、パルリーネがぽつりと呟いた。

 

「……私は、もうあんな辛い思いをしたくない」

 

その声の震えに、ロッドが思わず聞き返す。

 

「ギルドを辞めた時のことか?」

 

パルリーネは小さく頷いた。

 

「私の失敗で仲間に迷惑をかけてしまうんじゃないか……そう考えると、足が竦んでしまうんだ。前に進もうとしても、誰にも声をかけられない。でも……誰かの役に立ちたい。その矛盾が私を苦しめるんだ」

 

その告白に、ラナの表情が和らぐ。

 

「つまり、パルがギルドに通ってるのは、新しいパーティーを組みたいからってことだよね?」

 

「……わからない、でも……」

 

ロッドは一つ一つ言葉を選ぶように、

 

「パルの過去に何があったかはわからない。でも苦しいことや辛いことは分かち合えると思うんだ。三回も検定の担当を務めてくれたんだ。きっと俺たちの出会いは偶然なんかじゃない。俺たちにできることは限られてるけど、パルの心が少しでも軽くなるなら、俺とラナが支えになるよ」

 

ラナもそれに続く。

 

「それなら話は簡単だよ。パル、一緒に私たちと冒険に行こうよ」

 

二人のまっすぐな言葉に、パルリーネの瞳が潤む。

 

「……すぐには決められない。もう少しだけ時間をくれないか?」

 

そう言ってパルリーネは微笑んだ。

 

パルリーネはギルドに再登録を申請し、三人は即席のパーティーを結成した。早速仕事探しを始めることに。

ロッドの視線がギルドの掲示板で目を引いたのは、一枚だけぽつんと貼られた古びた依頼書だった。紙は黄ばんでおり、ところどころ文字が霞んで読みにくい。ロッドは手に取り、声に出して内容を読み上げた。

 

「……『十年前にゴルガノン一家が謎の死を遂げた廃屋敷で起こる心霊現象の実態を解明せよ』?要するに幽霊退治ってことか?」

 

ラナとパルリーネが近寄ると、依頼書を覗き込んだラナが顔をしかめる。

 

「うわっ、なにこれ?ロディ、まさかこんな仕事に興味があるの?」

 

「いや、ただ目を引いただけだよ。ほら、なんかミステリアスな感じがするだろ?」

 

そんなロッドの言い訳を聞き流し、ラナは依頼書に記された報酬額を目にして態度を一変させた。

 

「ちょ、見て!これ、報酬が千ルーピアコインだって!」

 

「千ルーピアコイン!?それって平均月収の……三倍くらいか?」

 

報酬額に目を輝かせる二人とは対照的に、パルリーネは会話に参加しようとせず、一歩引いて無言で立っていた。ラナはそれに気づき、意地悪く口元を歪める。

 

「ねぇ、パル。もしかしてお化けが怖いんじゃないの?」

 

パルリーネは瞬時に顔を赤くしながら反論する。

 

「な、何を言い出すんだ!私はたかが幽霊などに怯えるような人間ではない!」

 

しかし、その声にはどこか自信が欠けている。そんな様子にロッドは眉をひそめた。

 

「パルが嫌なら、他の依頼を探そう。冒険は楽しくやるもんだろ?」

 

その優しい言葉にパルリーネは反応したが、同情されたと思ったのか意地を張るように声を張り上げた。

 

「……君たちの判断に従う。幽霊だろうが鬼だろうが、私の目の前に立ちはだかるのであれば、斬り捨てるだけだ!」

 

だが、その声には微妙な震えが混じっていた。ラナはそんなパルリーネの態度に少し笑みを浮かべながら提案する。

 

「じゃあ決まりだね。とりあえず受付で詳しい話を聞いてみよう!」

 

ロッドは依頼書を掲示板から剥がし取り、三人で受付へ向かった。

 

 

―――

 

受付で情報を尋ねると、スタッフが事件の詳細を教えてくれた。

 

「十年前、この廃屋敷では一家の変死体が見つかるという痛ましい事件が起きています。それ以降、不気味な現象が頻発し、新たな所有者も定住できない状態が続いています。最近では、夜な夜な現れる男の幽霊が訪問者を脅かすという噂が絶えません」

 

その話を聞くたびに、パルリーネは恐怖に身を震わせ、ロッドとラナから距離を取って耳を傾けていた。

 

「大丈夫か、パル?」

 

心配そうに尋ねるロッドに、パルリーネは小さく頷きながら返す。

 

「問題ない。私はただ、状況を冷静に見極めているだけだ」

 

ラナは彼女の態度にニヤリと笑い、わざとらしく肩をすくめた。

 

「ふーん、そっか。でも本当に大丈夫?私たちを守る騎士さんなんだから、頼りにしてるよ?」

 

そのからかうような言葉に、パルリーネは顔を赤らめながら反論しようとしたが、言葉にならなかった。

 

 

―――

 

 

真夜中、ロッド、ラナ、そしてパルリーネは郊外から少し離れた森の奥にあるゴルガノン家の廃屋敷にたどり着いた。その屋敷は長年の風雨に晒され、見るからに不気味な佇まいをしている。

 

「ここが噂の廃屋敷か……見た目通り、不気味な雰囲気だな」

 

ロッドがそう呟きながら門の前に立つと、ラナが軽くため息をついた。

 

「うぅ……本当にここに入るの?今なら引き返せるけど?」

 

「今さら怖気づいたなんて言わせないぞ。報酬が目当てなんだろ?」

 

「うっ……それはそうだけどさ!」

 

ラナがバツが悪そうな顔で答える中、パルリーネだけは声を出さなかった。その手が握る剣は、かすかに震えていた。

 

門はレールが錆びていてまともに開閉できず、三人は隙間から一人ずつ体をねじ込むようにして侵入することに。

 

「ちょっ……鎧が引っかかって――痛っ!」

 

パルリーネが苦戦する様子を見て、ロッドとラナが両側から力任せに引きずり出す。ガリッ、と嫌な音がして鎧に傷がついてしまったが、パルリーネは鎧についた泥を軽く払いながら小さく微笑む。

 

「二人とも、ありがとう。大丈夫だ、気にするな」

 

廃屋敷の扉の前に立つ三人。目の前には古びた鉄製の扉が鈍い光を放っている。その場に漂う異様な雰囲気に、誰もが無意識に息を詰めていた。

 

「じゃあ……開けるぞ」

 

ロッドが扉を恐る恐る引くと、ギィィィと耳障りな音を立てて重い扉が開いた。中を覗き込むと、そこには荒れ果てた光景が広がっていた。

 

床には皿の破片やガラス片が散乱し、まるで侵入者を拒んでいるかのようだ。棚は傾き、開けっ放しの引き出しからは埃まみれの書類が零れ落ちている。天井から吊り下がったシャンデリアは今にも崩れ落ちそうなほど老朽化し、振り子時計は止まったままだった。

 

「……これ、本当に人が住んでたのか?」

 

ロッドが声を漏らしながら一歩足を踏み入れる。しかし――。

 

「あれ?服が植木鉢に引っかかって取れないよぉ!」

 

後ろからラナの困り声が聞こえ、二人が振り返ると、玄関前でラナが服を引っ張っていた。

 

「何やってんだよ……仕方ない、助けに行くか」

 

パルリーネが手伝おうと玄関に向かいかけたその時だった。

 

バタン――!

扉が突如勢いよく閉まり、錆びた音を立てながら鍵が施錠されてしまった。

 

「なっ……!」

 

「えっ、ちょっと待って!ロディ!パル!入れないんだけど!?」

 

外で大声を上げるラナ。中にいるロッドとパルリーネは顔を見合わせた。

 

「どうする!?外にラナを置き去りにして、このまま先に進むわけには……!」

 

「焦るな、まずは冷静に状況を確認しよう」

 

パルリーネが震える声を押し殺しながら言ったものの、その表情は明らかに不安を隠し切れていなかった。

 

こうして、三人は早くも分断されてしまった――不気味な廃屋敷の中で。

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