冒険者になりたい俺の特技は『間違い探し』   作:公私混同侍

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間違い隠し?

 

ラナと分断されたロッドとパルリーネは、廃屋敷の不気味な空気に包まれながらも探索を続けていた。しかし、パルリーネの呼吸は明らかに乱れ、緊張感が全身から伝わってくる。

 

「大丈夫か、パル?無理そうなら俺一人で調べるから、ここで待っててくれ」

 

ロッドが心配そうに振り返ると、パルリーネは無理に笑顔を作りながら首を振った。

 

「いや、大丈夫だ。少し驚いただけだ……」

 

そう言って深呼吸をしたその直後――奇怪な現象が二人を襲った。

 

バリン――!

 

棚から皿が床に落ちて割れる音が響き渡り、天井から吊り下がったシャンデリアが激しく揺れる。そして、壁に立てかけられていた古びた絵画や写真が次々と床に落ちていく。

 

「なんだ!?」

 

ロッドが状況を把握する暇もなく、突然ナイフが皿から飛び出し、一直線に彼の顔を狙ってきた。

 

「っ!」

 

ロッドは反射的に身を引き、ナイフは彼の耳元を掠めて壁に突き刺さる。だが、この突然の出来事にパルリーネの限界が訪れた。

 

「うっ……!」

 

パルリーネはその場に座り込むと、肩を震わせながら荒い息を吐いた。

 

「ごめん、パル……俺たちがこんな場所に来たせいで、辛い思いさせちゃったな」

 

ロッドは申し訳なさそうに言いながら、彼女に歩み寄る。

 

「腰が砕けて……立てない……」

 

パルリーネはうつむいたまま弱々しく答える。その姿にロッドは少し考えた後、静かに提案した。

 

「パルはここで待ってて。ラナが外で助けを呼んでくれるかもしれないし――」

 

「待って……こんな場所で一人にしないで……」

 

パルリーネがロッドの袖をぎゅっと掴んだ。その瞳には今にも涙が溢れそうなほどの不安が宿っている。

 

ロッドはしばらく彼女を見つめた後、そっと手を差し出した。

 

「迷子にならないように、手を握ってて」

 

その一言で、パルリーネの表情が少し和らぐ。

 

彼女の手を引いて立ち上がらせると、二人は老朽化した階段を慎重に上がっていった。パルリーネはロッドに密着し、まるで周囲のすべてが敵であるかのように警戒し続けている。

 

やがて、寝室らしき扉の前にたどり着くと、パルリーネがぽつりと呟いた。

 

「ロッドは……怖くないのか?」

 

ロッドは軽く肩をすくめ、振り返る。

 

「怖いよ。でも、不思議とパルがいてくれると安心する」

 

「こんな状況でも軽口を叩けるのか……」

 

パルリーネは呆れたように眉を下げるが、すぐに真剣な表情に戻る。

 

「もし幽霊が現れたら……剣や魔法が通じるとは限らない。私だって冷静な判断ができないかもしれない。そうなったら、ロッドを危険に曝してしまうかもしれないんだ……」

 

ロッドはその言葉を聞いて一瞬目を見開くが、すぐに柔らかく微笑む。そして、パルリーネの手を再びしっかりと握りしめた。

 

「その気持ちだけで十分だよ。だから、ちゃんと手を握ってて」

 

ロッドの温かい手が、パルリーネの不安を少しだけ和らげた。そして二人は、慎重に扉を開け、寝室の中へと足を踏み入れた。

 

寝室に足を踏み入れたロッドとパルリーネは、鼻をつく異臭に眉をしかめた。室内にはボロボロの二人分のベッド、化粧台、机と椅子が乱雑に置かれている。どれも時の流れを感じさせるほどに老朽化しており、使い物になる気配はまるでなかった。

 

ふと、ロッドの視線が机の上の写真立てに止まる。埃にまみれたそれを手に取り、ガラス越しの写真を見つめると、彼は小さく息を飲んだ。

 

「どうした?」

 

パルリーネが背後から覗き込み、小さな声で問いかける。

 

「その写真に見覚えでもあるのか?」

 

ロッドは首を振るが、どこか戸惑ったような表情を浮かべた。

 

「いや……初めて見たはずなんだ。でも……なんだろう。この写真……凄く懐かしい気がする」

 

写真には、口髭を生やした壮年の男性が赤ん坊に優しい笑みを向けている姿が映っていた。ロッドはそれをじっと見つめた後、そっと元の場所に置き、本棚へと目を向ける。そして、埃を払いながら一冊の日記を取り出した。

 

「……『愛息アッシュ・ゴルガノンの記録』?」

 

ロッドが表紙を読み上げると、ページをめくりながら内容に目を通す。

 

「赤ん坊の成長記録か……記録は生後三ヶ月で終わってる。父親の名前は……クリストフ・ゴルガノン……」

 

その名前を口にした瞬間――。

 

バンッ!

 

突如、窓ガラスが大きく開き、部屋中に不気味な声が響き渡る。

 

「そこにいるのは誰だ……! 許可なく……立ち入る者は……何人たりとも……このジョバンニ・ゴルガノンが討ち取ってくれる……!」

 

声と共に現れたのは、一人の青年だった。彼は廃屋敷には似つかわしくないほど整った顔立ちをしていたが、その目には敵意が宿っていた。まるで廃屋敷そのものが彼の領域であるかのように、威圧的な雰囲気を漂わせている。

 

「待ってくれ、俺たちはこの屋敷について――」

 

ロッドが弁明しようとするが、それを遮るように青年は手のひらを上げた。

 

「問答無用……物欲の塊の如き輩め……僕の力を思い知れ!」

 

「っ!?」

 

突如として放たれた衝撃波が二人を襲う。ロッドはとっさにパルリーネを抱き寄せて身を低くしたが、衝撃の勢いは強烈だった。寝室の扉を突き破り、さらに外壁までも粉砕して二人を外へと吹き飛ばす。

 

地面に叩きつけられたロッドとパルリーネは、瓦礫の中で痛みに呻きながら身を起こそうとするが、簡単には動けない。

 

その時――。

 

「何してんの! 大丈夫なの!?」

 

草をむしっていじけていたのか、手が真っ黒のラナが、二人のもとに駆け寄ってきた。

 

「ラナ……? よかった、無事だったか……」

 

地面に倒れ込んでいたロッドとパルリーネの前に駆け寄ったラナは、二人の手がしっかりと握り合っているのに気づいた瞬間、目を輝かせた。

 

「あっ! やっぱりお化けが怖くて、ロディと手を握ってるじゃん!」

 

楽しそうに指摘するラナに、ロッドは額に手を当て、ため息をついた。

 

「最初に言うべきことじゃないだろ。まず俺たちのことを心配しろよ……」

 

一方のパルリーネは、ゆっくりと体を起こしたものの、まだ放心状態のままだった。

 

「パルはもう無理そうだね~。じゃあ今度はロディと私で屋敷を調べに行こっか!」

 

屈託のない笑顔で提案するラナに、ロッドは少し考え込んだ後、頷く。

 

「そうだな。俺たちが戻るまでの間、パルはここで休んでてくれ」

 

「はっ!? ま、待て!」

 

ロッドの言葉を聞いた瞬間、パルリーネは我に返り、大声を上げた。

 

「私をこんな薄ら寒い場所に置いていく気か!?」

 

結局、三人は揃って再び廃屋敷の玄関扉の前に立つことに。しかし、そこには新たな問題が待ち受けていた。

 

「……開かない」

 

ロッドが扉を押し引きしながら眉をひそめる。鍵が壊れたのか、扉は完全に閉ざされてしまっていた。

 

「私がやろう」

 

パルリーネが代わりに力任せに扉を叩いてみるが、びくともしない。

 

「ねえ、ロディ?」

 

その様子を見ていたラナが得意げな表情を浮かべた。

 

「アレの出番じゃない?」

 

「……だな。この目を使うしかないか」

 

ロッドは静かに言うと、右手を軽く挙げた。その言葉に、パルリーネは顔をしかめる。

 

「右目の力を使うのか?だが、扉の弱点を調べたところで――」

 

「違うんだなぁ~」

 

ラナが不敵な笑みを浮かべ、パルリーネの言葉を遮る。

 

「今回は左目を使うんだよ。名付けて『間違い隠し』!」

 

「……間違い隠し?」

 

パルリーネは怪訝な顔をした。

 

「間違い探しではないのか?」

 

その疑念に対し、ロッドは肩をすくめながら説明を始めた。

 

「『間違い隠し』は壊れたものや汚れたものを、一日だけ元の状態に戻せるんだ。それに、その人が苦手としているものや負の感情で引き起こされている異常も治せる。細かい話は後にして――」

 

ロッドは右目を手で覆い、左目を静かに開く。その瞬間、左目は淡い光を帯び、不思議な力が周囲に広がるように感じられた。

 

「ちなみに、『間違い隠し』も名付けたのはワタシなんだよ!」

 

ラナが胸を張って自慢げに言うが、ロッドはその言葉を流しつつ、じっと扉を見つめ続けた。

 

数秒後――。

 

「……動いた!」

 

止まったままだった歯車が再び回転を始めるように、扉がゆっくりと元の状態に戻っていった。壊れていた鍵も自然と機能を取り戻し、カチリと開錠音が響く。

 

「さあ、これで中に入れるぞ」

 

ロッドが左目の光を消し、扉を押し開けると、パルリーネは未だ半信半疑な様子で問いかけた。

 

「……あの力、いったいどうなってるんだ?」

 

「だから、細かい話はあとだって」

 

ロッドはニヤリと笑うと、再び屋敷の中へと足を踏み入れた。背後では、ラナが得意げな顔でパルリーネを促す。

 

「さあ、中に入ろう!ロディの力があれば幽霊だって怖くないでしょ!」

 

階段の上で不敵な微笑を浮かべる青年が三人を見下ろしていた。ロッドは一瞬でその視線の主が誰かを理解する。

 

「またお前たちか?」

 

青年――ジョバンニは足を組み、興味なさげに続ける。

 

「何度足を踏み入れようと、僕の力の前には如何なる武器も魔法も無力だ。死にたくなければ、即刻立ち去れ」

 

ロッドは一歩前に出ると、冷静な声で問いかけた。

 

「あなたは本当に魔法使いなのか?」

 

ジョバンニは目を細め、わずかに表情を歪めた。

 

「答えるまでもない。僕はゴルガノン家の養子だが、義兄であるクリストフを支えるため、今しがた留守を預かっているだけのことだ」

 

その発言に、パルリーネが驚きの色を浮かべる。彼女はロッドとラナを見やり、低く囁いた。

 

「ゴルガノン家……。おかしい。彼らは十年前にこの世を去っているはずだ。なのに、あのジョバンニという男、まるで屋敷の主が帰ってくるのを待っているかのようだ……」

 

パルリーネの言葉に、ジョバンニは軽蔑するように鼻で笑った。

 

「世迷言を吐くな。義兄クリストフはユゼフのギルド創設者であり、ギルドマスター。そして最強の冒険者パーティー『カリバーン』のリーダーだぞ。お前たち、無知を晒して恥ずかしくないのか?」

 

「カリバーン……」

 

その単語に、パルリーネは凍り付いた。彼女の顔が青ざめ、身体が震え出す。

 

「パル?」

 

ロッドがその異変に気づき、心配そうに彼女を見た。

 

「何か思い当たることでもあるのか?」

 

「……カリバーン……それは……」

 

パルリーネは唇を噛み締めた後、言葉を絞り出すように続けた。

 

「私がかつて一年間所属していたパーティーだ……」

 

その告白にロッドとラナは目を見開いた。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

ラナが混乱したように手を振る。

 

「でもゴルガノン家って十年前に死んじゃったんじゃなかった?『カリバーン』のリーダーだって生きてるはずないよね?」

 

ラナの疑問に、ジョバンニは鋭い眼光を向けた。

 

「十年前?兄が死んでいる?」

 

彼の声は冷たく低い。

 

「……くだらない嘘で僕を欺こうとしているのか?そんな小細工が通じるとでも?」

 

ジョバンニの冷酷な視線に、ロッドは右目に手を当てた。そして、低く呟く。

 

「それじゃあ……ジョバンニ、あなたの正体を見破らせてもらう」

 

右目が淡い光を帯びた瞬間、周囲の空間が歪むような感覚に襲われる。ロッドの目が捉えたのは、ジョバンニが目撃したはずのなかった光景――彼自身が血まみれで倒れ、その命を刈り取られる瞬間だった。

 

ロッドの声が低く響く。

 

「……そうか……ジョバンニ、あなたはもうこの世の存在じゃないんだ」

 

「なに……?」

 

ジョバンニの表情が凍りつく。

 

「あなたはすでに死んでいる。そして、自分が死んでいることに気づいていないだけなんだ……」

 

ロッドの言葉に、ジョバンニは立ち尽くす。その冷たい瞳に迷いが生じ、どこか人間らしい恐怖が滲んでいた。

 

廃屋敷の淀んだ空気の中、ジョバンニの声が震えていた。

 

「僕が……死んでいるだって……?」

 

その顔は狼狽し、現実を受け入れることを拒絶している。ロッドは静かに、しかし確信を持った声で応じる。

 

「そうだ。これは事実だ、ジョバンニ。あなたはもう――この世の人間ではない」

 

「嘘だ……そんなデタラメ、僕は信じないぞ!」

 

ジョバンニは激しく首を振り、ロッドを睨みつける。だが、ロッドは冷静だった。背中のバッグから依頼書を取り出し、彼の目の前に突きつける。

 

「これはギルドからの依頼書だ。ここには、ゴルガノン家が十年前に謎の死を遂げたと記されている。あなたはその時、家族を守るために命を落としたんだ――その結果、こうして怨念としてこの場所に囚われてしまった」

 

ジョバンニの表情が歪み、歯を軋ませる音が廃屋の中に響く。

 

「うるさい……」

 

「えっ?」

 

「黙れ黙れ!お前たちにゴルガノン家の役目が理解できるはずがない!」

 

ジョバンニの叫びとともに、周囲の空間が一変する。古びた家具や食器が宙を舞い、鋭利な凶器となって三人に襲いかかった。

 

「来る!」

 

ロッドが叫び、素早くラナとパルリーネの前に立つ。

 

「このままでは、ロッドが……!」

 

パルリーネが焦りの声を上げる中、ロッドの左目が淡い光を放ち始めた。途端、ジョバンニの操る食器や家具は力を失い、音を立てて床に落ちる。

 

「な、なぜだ……なぜ僕の魔法が効かない?」

 

ジョバンニは呆然とした表情で自分の手を見つめた。

 

ロッドは鋭い眼差しを向け、低く告げる。

 

「あなたは魔法使いなんかじゃない。これは、あなた自身の強い怨念が引き起こした心霊現象だ。それを()()()()()()()()んだよ。自分を責める気持ちや家族への想い――それが形を成しただけなんだ」

 

「僕の……怨念……?」

 

ジョバンニの力が明らかになるにつれ、その表情は次第に穏やかさを取り戻していく。そして、ふと優しい微笑みを浮かべた。

 

「そうか……やっとわかったよ」

 

だが次の瞬間、彼の言葉はロッドの意表を突くものだった。

 

「お前がアッシュなんだね。こんなに大きくなって……僕は自分のことのように嬉しいよ」

 

「……はぁ?」

 

ロッドは眉をひそめた。唐突な発言に理解が追いつかない。

 

ラナが不審そうに囁く。

 

「ロディ……あの人、誰かと勘違いしてない?」

 

だがジョバンニは毅然とした態度で言葉を続ける。

 

「僕の目は確かだ。その両目に宿る力――それはゴルガノンの家系にしか存在しないものだ。兄クリストフも同じ力を持っていた。お前がその力を受け継いでいるのは間違いない」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

ロッドが困惑を隠せず声を上げる。

 

「俺がゴルガノン家の人間だなんて、そんなこといきなり言われても……信じられるわけがないだろ!」

 

「当然だろうね」

 

ジョバンニは静かに頷いた。

 

「だが聞いてくれ。十五年前のことだ――アッシュが生まれた直後、兄クリストフはカリバーンのメンバーから命を狙われていることを察した。そして僕に頼んできたんだ。お前を守るため、里親に出すしかないと」

 

ロッドは目を見開いた。

 

「そんな……ジョバンニたちが俺を捨てたっていうのか?」

 

「違う!」

 

ジョバンニは強く否定する。

 

「お前を守るための決断だった。だが……すまなかった。お前には何の罪もないのに、大人の都合で振り回してしまった。僕にできることは――お前の仇討ちに協力することだけだ」

 

「仇討ち……?」

 

ロッドの目の色が変わる。その言葉は彼の中の何かを刺激した。

 

「そうだ。お前の父を死に追いやった賊どもを探し出し、死という裁きを与えてやる。それこそがアッシュ、お前に課せられたゴルガノンの血を引く者の使命だ!」

 

ジョバンニの言葉に、ロッドは眉をひそめた。隣でラナが心配そうに袖を掴む。

 

「ロディ……やめて、そんなこと聞き流してよ」

 

ロッドは優しくラナの手を外し、ジョバンニに向き直る。

 

「心配いらないよ、ラナ。俺は復讐なんて興味ない」

 

ジョバンニの顔が苦渋に満ちる。

 

「アッシュ……お前は悔しくないのか?実の父を殺した奴らに、何もせず済ませるつもりか?この手で裁きを下すべきだ!」

 

ロッドは肩をすくめ、ジョバンニを静かに見つめた。

 

「ジョバンニ、あなたがどれだけ辛い思いを抱えてきたのか……俺にはすべて理解できない。だけど、俺には復讐よりももっと大事なものがある。俺にとっては、この二人――ラナとパルと一緒に旅を続けることが、今の生きがいなんだ」

 

「アッシュ……どうして……」

 

「ごめん。でも俺には仇討ちはできない」

 

ジョバンニは肩を落とし、頭を抱え込んだ。

 

「これから僕は……どうすればいいんだ……」

 

ロッドは一瞬考え、ふと思いついたように提案した。

 

「じゃあさ、ジョバンニ。この屋敷、俺たちにくれないか?」

 

唐突すぎる提案に、ラナとパルリーネは顔を見合わせて目を丸くした。驚愕を隠せないパルリーネが、声を上げる。

 

「幽霊屋敷に住むだって!?君は正気なのか!?」

 

しかし、ジョバンニは意外にもすんなりとうなずいた。

 

「もちろんだ。アッシュ、お前はゴルガノン家の正統な後継者なんだ。この屋敷はお前のものだよ。好きに使えばいい。僕にできることがあれば、何でも言ってくれ」

 

ロッドがにこりと笑い、ラナが困惑気味に口を開く。

 

「ロディ、本当に言ってるの?この屋敷で寝泊まりするなんて、パルには絶対無理だよ」

 

その言葉に、パルリーネがすぐさま同意した。

 

「そ、そうだ!私は絶対に嫌だ!こんな淀んだ空気の中で過ごすなんて耐えられない。野宿のほうがまだましだ!」

 

ラナがため息をつき、ロッドの袖を引っ張る。

 

「ロディ、もう一度説明したほうがいいかも」

 

「ああ、そうだな」

 

ロッドは小さく笑いながら左目を指差した。

 

「俺の左目の力、忘れた?」

 

パルリーネははっとして立ち止まった。

 

「左目……まさか……」

 

「そうだよ」

 

ラナが補足する。

 

「ロディの左目には、壊れたものや汚れたものを一日だけ元の状態に戻す力がある。この屋敷もきれいに戻せるってことだよ」

 

「でも……そんな魔法みたいな話……本当に……?」

 

「試してみようか?」

 

ロッドはそう言いながら、左目の光を宿し、手近な崩れた椅子に力を向けた。瞬間、椅子はきれいな彫刻の施された豪華なものへと変わった。

 

「……これで安心だろ?」

 

呆然とするパルリーネを横目に、ロッドは満足げに笑った。

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