私には何もなかった
今まで生きていて全力で物事を成し遂げた事もなければ、心血を注いで打ち込める趣味や遊びも持たなかった
子供の頃はそれでも良かったのだろう。だが成長するに従い、その生き方は私を退屈させた
生きている実感が無い、とはまさにこの事。
親からは普通の人生を歩みなさいと言われ続けてきて、言われた通りに、ただ目の前の課題だけをこなしていったのに。
大人になってから好きな事を見つけるというのは非常に難しく、またそんな余裕も時間もなかった。
だから、ただ流されるまま生きている。
それが悪い事だとは思わない。だが心残りが無いと言えば嘘になる。
私は何のために生まれてきたのか。この人生に意味はあるのか?
そんな疑問が頭の中にこびりついていた。
SNSとかを見ていると、私以外の皆がキラキラと宝石のように輝いて見えた。
皆、好きな事ややりたい事があって羨ましい。
スマホを覗きながら、そのまま今日も仕事終わりのつまらない帰り道を歩く。
いつもの道。何の変哲もない商店街の通り。
のはずなのだが、ふと目の前に見た事のない店が現れた。
あれ?こんな所なんてあったっけ。
いわゆる、骨董品を扱う店なのだろうか。
ショーウィンドウには年季の入った置物や宝石が並べられている。
なぜか私は好奇心にそそられ、中を見てみる事にした。
特に、飾られている宝石がなぜか気になって仕方がないのだ。今まで宝石なんかに興味を示したことは無いというのに。
「いらっしゃい」
店内に入ると、落ち着いた雰囲気の男性が声を掛けてきた。私はすかさず、ショーウィンドウに飾られている宝石を見たい、とお願いしていた。
「ええ、了解致しました」
男性は手袋をはめると、その宝石を取り出し間近で見せてくれた。
それは、何とも美しく輝きを放つ宝石。その輝きに私は目を奪われた。
今まで見た事も無いような、まるで生きているかのような光。
色は深い赤色をしているが、よく見ると光の当たり方によって輝きを変える不思議な石だった。
「こういうお色がお好きなのですね」
男性からそう言われるが、否定する。
「いえ、私、宝石とか興味が無かったんです。でもどうしてかな、なぜかこの色にすごく惹かれて」
「こちらは、ある遺跡から発掘された物でして。まるで生きているかのように輝きを変える不思議な宝石なんです」
「へえ」
確かに言われた通り、この石からは生命力を感じる気がする。それは、つまらない人生を送っている自分なんかよりも生命の輝きに溢れている、そんな気がした。
「この宝石は生きているんですよ」
「え?」
「不思議にお思いでしょうが、真実なのです」
一見おかしい事を言っているように思えるが、その言葉をすんなりと受け入れる事が出来た。
そして同時に思う。自分はどうなのだろうかと。
私はこの宝石のように輝いた人生を歩めているのだろうか。
いや、輝いてなどいない。私の人生は。
「よろしければそちら、お持ちになりますか?」
男性は突然そう言い出し、私は驚く。
「え?!いやいや、私そんなお金持ってないですし」
「いいえ、お金は頂きません。条件はありますが」
「条件?」
気が付くと私は自分の家の前にいた。
さっきのは夢?そう思いつつ手を見ると、そこには赤い不思議な宝石が握られているのだった。
さっき店の男性から言われた、この宝石を手にする条件。
この宝石を生涯大切にし、そして。
自分の人生が終わりを迎えた時、この宝石となる事。
意味は分かるようで分からない。