ソラトバン、鬼械人   作:min(みならい)

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ソラトバン、蘇生され、巨人の秘密を知る。
空飛ぶ巨人、ソラトバン


◆ 1、空飛ぶ巨人、ソラトバン ◆

 

 ソラトバンは、若い樵(きこり)であった。

 子供のころ、夜中に目が覚めて空を見たら、巨人がふわ~ん・・・と飛んでおったので、

「わし、空飛ぶ巨人を見たんじゃ!」

 と、大人たちに言うて回ったところ、

「夢でも見たんじゃろ」「巨人はな、空なんぞ飛ばんのじゃ」「そうじゃそうじゃ。空飛ばん、空飛ばん」

 と、笑われ、ソラトバンと呼ばれておった。

 

 ソラトバンは、今年で18歳。独り身である。

 おっ父とおっ母は、2年前に死んだ。流行り病にかかり、どんどん弱って、そのまま死んだ。

 大工のユーノックおやじは、

「帝国のせいじゃ」

 と、くやしがった。

「新しい王さんになってから、税がひどい。麦は2倍の値段になった。食うモンが足らんから、病気が治らんのじゃ」

「帝国が悪いんか?」

「外で言うんじゃないぞ。告げ口されたら、連れてかれるからのう」

 

 毎日森に入っては枝を払い、道をふさぐ木があれば切り倒して、乾かす。ちゃんと乾いたら、薪や木材として村へ持っていき、食べモンと交換する。ユーノックおやじも良くしてくれたので、なんとか暮らしておった。

 麦の値段は、3倍になった。

 

 ある日のこと。

 いつもより、ちょっと奥まで、森に入ったソラトバン。

「巨人は居らんかのう?」

 と、空を見上げて、ため息をついた。

「あの綺麗な巨人。お月さん色にキラキラと光って、でっかい羽がついとって、ふわ~んと空に上がってゆく・・・」

 子供のときに見た夜空を思い出そうとしてみる。

 しかし、なんか、ぼやけてしもうて、よく思い出せなんだ。

「はぁ・・・やっぱり、わしの見間違いじゃったんかのう?」

 落ち込む。

「帰ろ」

 斧かつぎ、枝の入ったカゴを持ち上げた、そのとき。

 ズシン・・・。

 ドシン・・・。

 と、低い地響きが聞こえてきた。

「なんじゃ?」

 ソラトバン。音のするほうへ行ってみる。

 すると。

 

 ズシン!

 

 森の木々のあいだに、羽の生えた巨人が、現われたのであった!

 

◆ 2、ソラトバン、死ぬ ◆

 

「巨人じゃ!」

 ソラトバン、腰を抜かした。

 深い森の中。足元が急激に落ち込んで、小さな崖みたいになったとこ。

 木の生えとらん、なだらかなガレ場の上を・・・

 ズシン!

 ズシン!

 ・・・身の丈3尋(人間3人分)は優に超える、羽ついた巨人が、歩いてきたのであった!

「あの巨人じゃ。子供ンときに、見たやつじゃ!」

 

 うっすらと黄金色に輝く、その巨体。

 大きくて丸いボディに、ほっそりした腰。長い足。長い腕。

 そして、背中には、4枚の羽根。

 誇り高く、空に向けて伸びておる。

 その羽根の、美しいこと! オニヤンマのごとし!

 長く薄く、まっすぐに、透き通って。

 

 それは、あの夜、ソラトバンが見た巨人。

 記憶の中にある──すっかり薄れつつあった──空飛ぶ巨人に間違いなかった。

「おお! 夢じゃなかったんじゃ! おおい、巨人よ、聞こえるか?」

 

 ・・・だが。

 巨人のほうは、ソラトバンに会えたことを、喜んではくれなんだ。

 

「見たな?」

 巨人の中から、鋭い声がしたかと思うと・・・

 こっちに近い腕が──

 巨人の左腕が、持ち上がった。

 しゅううう・・・。

 笛のような音を立てながら、指先が、こちらに狙いを定める。

 巨人の二の腕に、木でできたごつい弓がついておるのに、ソラトバンは気付いた。

「え・・・?」

「見られては、困るのだ。若者よ──死ね」

 ばん! 弓が跳ねた。

 衝撃。

 ソラトバンはブッ倒れ、何が何だかわからんようになって、気を失った。

 

「隊長。コガネムシが現われました」

「よし。作戦開始」

「こいつは?」

「目撃者だ。矢だけ回収しておけ」

「隠蔽(いんぺい)は?」

「あとにしろ。コガネムシが先だ」

 

 暗闇の中、最後に聞こえたのは、そんな会話だった。

 

◆ 3、白いキバの娘っ子 ◆

 

「・・・うう」

 ソラトバンは、目を開けた。

 頭を起こす。

 周囲は真っ暗であった。が、目が慣れてくると、壁が見えた。

 右に壁。左に壁。上には天井。すべて、ゴツゴツした岩壁である。

「ほらあなか?」

 ソラトバンは、手で胸を押さえた。

 胸を、ドカン! とぶん殴られた気がしたのだが・・・?

 よくわからぬ。

 何が起きたのか?

 ここは、どこなのか?

 とにかく、起き上がる。

 ほらあなは、下り坂になっておった。

 壁際には、小川が流れておる。下り坂の先のほうから、こちらに向かって・・・下から上へ・・・

 ぼーっとしたまま、ソラトバンは坂道を下り始め──

 

「おい! オマエ!」

 

「え」

 ソラトバン。振り向く。

 そこには、若い娘が立っておった。

 目にも鮮やかな黄色の絹の衣着て、茶色の髪房、尖った耳に掛け回し。

 ギラギラ輝く黄色の目をして、唇の端には白いキバを覗かせて・・・

 坂道の上から、睨むように、見下ろしてきおる。

「な、なんじゃ? どこのどなたじゃ」ソラトバンは訊いた。

「帰りたないか?」

「は?」

「『は?』やないわ」

 黄色の絹衣のキバ娘。美しい顔に苛立ち浮かべ、ふたたび、怒鳴ってきた。

「現世に戻りたないかって訊いとんねや!」

「うるさ・・・」

 ソラトバン、耳ふさぐ。

 ほらあなの中ゆえ、反響して、うるさいのだ。

「そう怒鳴るんじゃないわ。現世て、なんじゃ? ここは、どこじゃ?」

「フー・・・」

 娘。白いキバ剥いて、息を吐く。ひと呼吸ぶん、黙ってから、

「・・・ここは、黄泉路(よみじ)。んで、」下り坂の先を指して「そっち降りてったら、冥界に入ってまうねん」

「めいかい」

「んで、」娘は、自分の背後を指差した。上り坂の先に、光が見える。「こっちが、現世」

「・・・わし、死んだんか?」

 娘、うなずく。うなずいて上目づかいにこっち見てくる。鋭い目付き。猫みたいで、可愛い。

「おおむね。九割九分ぐらい。いまんとこ」

「はぁ」

「現世に帰りたぁないんか?」

「え・・・」

「やりたいことないんか? やり残したことは?」

「いや・・・」

 

 帰って、何するんじゃ? と、ソラトバンは考えてしもうた。

 親はもう死んどる。嫁はまだ居らん。家に帰っても、ひとりぼっち。

 樵の仕事がイヤっちゅうことはないが・・・『やり残したこと』ではないわな。

 

「なんやねん! ハッキリせえや」

 娘、またイライラしだした。

「おまえ、まだ若いやろ? 何歳よ」

「18じゃが」

「やろ? ほんなら、なんかあるやろ。嫁が欲しいとか、金持ちになりたいとか」

「いやぁ・・・」

 ソラトバン、頭を掻いた。

「・・・嫁なんかもろても、食わせてやれんのじゃ」

「・・・生活、苦しいんか?」

「うん」

「まあ、食いモンの値段、バカスカ上がっとるもんなぁ」娘、ため息つく。「兄 鬼 も言うとったわ」

「兄貴が居るんか」

「おう。3人な」

「ごっついのう」

「まあな」

 4人兄妹。

 そんだけ育てれる家っちゅうことである。たしかにな。ええ服着とるしのう。

「おまえは? 兄弟」

「わしゃ1人じゃ。親も死んだ」

「あー、そっか・・・」娘は表情を和らげた。「ほんなら、現世で泣いてくれる人も、居らんのか」

「あ、いや、大工のユーノックおやじは泣いてくれるかもわからんが、」

 

 でも、おやじさんも、空飛ぶ巨人のことは信じてくれんかったのう・・・と、考えて。

 ソラトバンは、とても大事なことを思い出した。

 

「ほじゃほじゃ! あったわい。現世でやりたいこと」

「あン?」

「空飛ぶ巨人じゃ! わし、空飛ぶ巨人の正体が知りたいんじゃ」

「あァ? 空飛ぶ巨人?」

「ほじゃ。こう、でっかい、丸いカラダしとって、」

「はぁ」

「肌はツルツルで、身の丈っちゅうたら、わしの3倍はあって、」

「へぇ」

「背中にトンボの羽根が生えとって、」

「──トンボの羽根?」

 娘がギロリとこっちを見てきた。

 両手をバッと後ろに伸ばして、「こんなんか?」

「そう、そんなんじゃ。4枚じゃ。ホンマにトンボみたいなんじゃ。透き通った、綺麗な羽根でのう」

「トンボや」

 娘。

 突如、掴みかかってきた。

「うわ」

 ソラトバン、びっくり!

 肩に喰い込む娘の指の、細いくせに、強いことといったら! 大工のユーノックおやじと変わらんぞ?!

「おおう。痛い」

「そいつの話、聞かせろ。しゃべれ」

「待たんか。ちょっと。痛い」

 ソラトバンは抗議するが、娘は聞いとらん。

「早うせぇ! 時間ないねや。術の時間──あ、そや。アカン。もう時間ないわ!」

 ぐいぐい!

 ソラトバン、引っ張られる。

「いててて」

「ジタバタすんな。もう時間ないんや。ホラ行くぞオイ」

「なんでそんな力あるんじゃ。おまえさん」

 ソラトバン、ジタバタする。だが娘は放してくれん。

 いったい何者なのか?

 見た目は、そんなごつい女でもないのに。むしろほっそりしとるのに。

 ・・・あれ?

 そう言えば、この娘っ子。キバがあったような・・・?

「お、おまえ、誰じゃ? 人間ちゃうんか?」

「あア? ──現世帰ったら教えたるわ」

「現世って」

「ええから歩け」

「いてて」

 

 謎の娘っ子に引っ張られて。

 ソラトバンは、坂道の上へ・・・うっすら輝くほらあなの出口へと、たどり着く。

 

「通るで。気ィしっかり持ちや!」

「は?」

 

 ばちん!

 

 顔面を引っぱたかれるようなショックがあって。

 ソラトバンは、また、何が何やらわからんようになった・・・。

 

◆ 4、蘇生成功や! ◆

 

「起きろ」

「うう・・・」

「とっとと起きろっちゅーんじゃ!」

 ガクンガクン揺さぶられて、目を開ける。

 

 森の中である。

 真上に、美しい娘っ子が覆い被さっておる。

 ・・・やっぱり、キバがあるわい。この娘。

 

「よっしゃ! 蘇生成功や!」

「ううう」

「ほら、はよ起きィ。あいつら戻ってきたら、おまえまた殺されんぞ」

「おおお」

 呻きながら、ソラトバンは起き上がった。

 胸がびっしょり濡れて、えらい冷たい。すーすーする。

 見れば──胸元は、血で真っ赤である!

「うわあ。死ぬ。死んでまう」

「やかましわ。傷口なら、もうふさいであるっちゅうねん」

「え」

 胸、触ってみる。

 ・・・たしかに、どこも痛くない。血でびしょ濡れだが、もうどっこも出血はしとらん。

「どうなっとるんじゃ」

「蘇生術や、蘇生術」

 娘が立ち上がる。

「ウチは、鬼術師」

「きじゅつし」

「名はセイガ。おまえの生命の恩人や。覚えとき」

「せいが」

「きよらか、みやびと書いて、清雅や」

 娘に手引っ張られて、立ち上がる。

 ちょっと立ちくらみがした。

 並んで立つと、娘──清雅は、ソラトバンよりちょっと小っちゃかった。

 とは言え、女としてはデカい部類。村の女より、5寸──親指と人指し指を広げたぐらい──は高いか。

 手足長く、肩幅広く、腰細く、スラッとした体型をしておるが、全体的にまろやかで、女らしい。

 そして、美人である。

 あらためて見ても・・・目付き鋭く、キバあり、耳は尖っとるけれども・・・美人である。

 顔立ちは整っておるし、なんともいえん気品があって、ついつい見惚れてしまう。

「・・・なんや」

「あ、いや、すまんことじゃ」

 ソラトバン、あわてて目をそらす。

 ずっと1人で仕事をしてきたので・・・こんな綺麗な娘に、すぐそばに立たれると。

 緊張して、うまくしゃべれん。

 周囲を見るフリして、誤魔化した。

 ちょうど、そのとき。

 ガサリ。

 ソラトバンが見とった藪(やぶ)から、赤いモンが飛び出してきた。

「蘇生成功?」その赤いのがしゃべった。

「ンあ」清雅がうなずく。「こいつ、トンボを見たらしい」

「・・・ホンマかいな」

 赤いの。

 こっちを、見上げてきた。

 目が合うた。

 

 そいつは、ソラトバンの半分ぐらいしか背丈のない、小男であった。

 赤い肌をした・・・

 おでこの左右に、ねじれたツノの生えた・・・

 唇の端っこに、キバのある・・・

 

「ゴブリンじゃ!」ソラトバンは、跳び上がった。

 

◆ 5、ゴブリンの、サイキ ◆

 

 ゴブリン。小鬼である。

 人間とは交わらず、地底に都市を築いて暮らしておる。

 帝国と仲が悪く、いくら言われても絶対に税を収めようとせず、殺し合いをしておる・・・

 オーガという、恐ろしい巨大鬼も、ゴブリンと一緒に住んでおって、帝国の男たちを殺して喰ってしまうとか・・・

 

「ゴ、ゴ、ゴブリンじゃ。そうじゃろ?」

「如何にも然様(いかにもさよう)」

 赤いやつ。ゴブリンの男。うなずく。

「我が名はサイキ」

「ふたたび、おに、で再鬼や」と清雅。

「で、俺をゴブリン呼ばわりするオマエは何モンや?」

「わ・・・わしは、ソラトバンと呼ばれとる」

「何歳じゃ?」

「18じゃが」

 ソラトバン、なんとかとりつくろおうとする。

 逃げるスキを探しつつ・・・とりあえず、相手の話に合わせておこう。

「えーと、そうじゃな。坊やは、何歳なんじゃ?」

「23や」

「・・・え?」

「ウチの兄鬼や」清雅が、明らかに不機嫌な声で言った。「オマエのが歳下や」

「なんじゃと」

「謝れや」清雅がキレた。

「お、おう・・・その、すまんことじゃ」

 スキを探すどころではない。ソラトバンはうろたえ、頭を下げた。

「初めて見たもんで。年齢を勘違いして。その、なんじゃ。失礼した」

「以後気ィ付けェ」サイキは言った。「次からは、しばく(叩く)」

「わかった」

「ほな、行こか。アイツら戻ってきたらヤバい」

 清雅が、またソラトバンの肩を掴んできた。

「痛いがな」

「おまえトロいからアカンねん」

 

 連れて行かれたのは、森の広場であった。

 大きな樫の根元に、他の木の生えとらん空間ができた、天然の広場。

 左右に覆い被さるように巨木が立ち、広場の外はほとんど見えぬ。

 

 そこに、巨人と黒髪の女が、待っておった。

 

◆ 6、第二の巨人 ◆

 

「巨人じゃ・・・」ソラトバン、呆気に取られる。「さっきとちがうやつじゃ」

 

 今度の巨人は、ずんぐりむっくりしておった。

 上半身は『丁』の形。肩のところが左右に張り出しておる。そこから、腕がぶら下がる感じに生えておる。

 下半身は『只』の形。丸くてでっかい腹に、短い足が生えとるんである。

 合わせると・・・ええと・・・

 天秤みたいな感じ?

 そこまで肩が広いわけではないが、まあ、そんな感じの、上半身のデカい巨人であった。

 また、殺されるんじゃなかろうか?

 一瞬ビビったソラトバンであったが。

 今度の巨人は、ぴくりとも動かなんだ。

 歩きもせんし、こちらに指を向けたりもせぬ。音も声も、まったくせんかった。

 

「誰だそいつは」

 と、声がしたので、ソラトバンは巨人の足元を見た。

 黒髪の女。

 男物の上着とズボンを着ておる。髪は後ろで束ねて短く垂らしてあり、見事な艶を放っておる。

 白い肌と切れ長の目が、その黒髪によく似合った。

 そして・・・

 胸が、すごく・・・

 上着の前を開けておるのだが、その合間から、鋭い山のようにシャツが突き出しておる。乳の峰である。

 腰から下はスマートなのに、胸だけ・・・

 なんともその・・・目を合わせづらい女であった。

「ソラトバン」清雅が答えた。「トンボ見たらしいねん」

「・・・なに?」

「それで、口封じに殺されたみたいでな」

 黒髪の女は、ソラトバンの胸の血を見た。「蘇生したのか?」

「ンう」

「はぁ。また母上に怒られるぞ」

「チー姉の知ったこっちゃないやろ」

「まあそうだが」

「話聞いたほうがええと思ってな。連れてってええ?」

「アカンが」

 黒髪の、目を合わせづらい女は、ソラトバンを見た。

「・・・アカンのだが、どうせ見られた以上は、タダで帰すのもな」

「そやろ?」

「よし。乗ってよし。サイキ殿は?」

「問題ない。弟どもと帰る」

「気を付けてな」

「御身こそ」

「あとでな、サイ兄」

「おう」

 赤い小男──ゴブリンのサイキは、ガサッと藪の中に姿を消した。

 清雅は、巨人のところへゆく。

 そして、巨人のひざに手をかけたかと思うと、ヒョイ、ヒョイとよじ登ってひざの外側に立ち、またヒョイヒョイとよじ登って、腰の前に立った。

 ・・・えーと。ちょっと微妙な位置である。巨人の、その、股間の前に、娘が立っとるというのは。

 失礼じゃないんか? 怒らんのか? 巨人さんは。

 ソラトバンは巨人の様子を窺うが、何の変化もない。動きもせず、音も立てぬ。

「おまえも、とっとと乗れ」目を合わせづらい女に言われた。

「え? ほじゃけど、」

 ソラトバンは、やっと疑問を口にする機会を得た。

「ほじゃけどその、怒らんのか? その、巨人どんは。そんな、身体をよじ登ったりして」

「へ?」

 黒髪の女はちょっと驚いて、のけ反って(乳が冗談みたいに揺れた)、それからこう言うた。

「・・・キカイジンを知らんのか?」

「きかいじん?」

「そう。鬼の機械の人と書いて、『鬼械人』だ」

 黒髪の女はそう言うと、先に登った清雅と同じようにして(胸の揺れは全然ちがった)、巨人の腰までよじ登った。

「開けるぞ」

「おう」清雅、頭を下げる。

 ガチャリ。

 黒髪の女、腹のあたりにあるレバーを引っ張った。

 かぱ。

 巨人の胸んとこが、割れて、開いた。

「ひぇ・・・!?」

 ソラトバン、つい、悲鳴を上げる。

「なにオンナみたいな悲鳴上げとんねん」と、清雅。

「い、いや、じゃって、わし、巨人じゃと思うとったから。それ。生きものじゃと」

 巨人──鬼械人か。

 鬼械人のことは、大きな人間みたいなもんだと思うとったのだ。

 その胸がいきなりガバッと割れて持ち上がったら、そりゃあ、びびるわい。

「ただの、箱なんか? 幌馬車みたいなもんじゃな? それならわかるわい。ああ、びっくりしt──」

「いや、生きものだが?」

「え?」

「鬼械人は、生きものだ。我々とはちがう意味でだが、生きていて・・・」

 黒髪の女は説明しながら、『鬼械人』の胸の中に入った。

 そこには、人間がすっぽりと収まれるほどの空洞がある。

 空洞の中には、椅子があった。

 そこに座る。で、改めてこちらを見る。

「・・・乗り手と協力して、活動する。鎧であり、戦士であり──神の友でもある」

「・・・。」

「乗れ。時間がもったいない。乗ったら教えてやる」

「乗る・・・」

「私は山賊じゃないからな。おまえを誘拐はせん。帝国のクズ役人でもないから、連行もせぬ──」

 黒髪の女は、ソラトバンを見ている。

 キバある清雅も、ソラトバンを見ていた。

「──知りたければ乗れ。乗らないなら話は終わりだ。帰れ」

「乗ったら、あの巨人のことも教えてくれるんか?」

 ソラトバンは、全身にぞわぞわと予感が走るのを感じながら、訊いた。

「トンボの羽根ついたやつ。見たんじゃ。9年・・・いや、8年前か? 夜、空を飛ぶのを」

「8年・・・ああ」と黒髪。「ああ。ある程度はな。教えてやる」

「ウチらも知らんことあるしな」と清雅。「けど、オマエよりゃ詳しいで?」

 

 ソラトバンは息を呑み、そして、こう答えた。「乗る!」





【挿絵表示】



※このページの修正記録
2025/03/24
3、白いキバの娘っ子
 行の最後が意味不明だったので修正。文章修正したときの消し忘れかな・・・・・・。↓ココね
 > 壁際には、小川が流れておる。下り坂の先のほうから、こちらに向かって・・・小川があった。
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