◆ 43、雨 ◆
ドザーーー・・・・・・・・・バチバチバチバチ・・・。
夜明けごろ、雨が降り出した。
ビュウ、ビュウ、グゴオオオ・・・!
風が吼える。
飛行塔が、揺れる。
<浮鬼、ケガをしているところ、申し訳ないのですが。伐採を頼めますか>
弐ノ塔のおふくろさん。チラーニどんの手の中で、しゃべった。
・・・なんで手の中かって? そりゃ、アレじゃ。おふくろさん、宙に浮いとるで、塔が揺れたら壁にぶつかるからじゃ。ほじゃけ、でっかいコップみたいにチラーニどんの手に収まっとるんじゃ。
<降りるんはええが。木のことァわからんぞ>と浮鬼。
<ソラ、浮鬼の弓手席に着け。木の選定をせよ>
「木?」
「デカい木があると、コケるから」とチーニャ。
<着陸する場所の木、切って>とチラーニ。
「なるほど。わかったわい!」
浮鬼(ソラトバン)とドリナラーニ(無人)、雨の中を飛び降りる。
ドリナラーニどんが、でっかいランタン掲げて周囲を照らす。
ドザーーーッ・・・。
雨が邪魔じゃ!
「切るのは、古木にしときたいとこじゃが・・・」
<平坦なとこにせえよ。崩れたら、えらいコトやぞ>
「土砂崩れまではわからんぞ!」
必死こいて見極めるあいだにも、雨風が強くなる。結構焦ったわい。
「ここにしよう」
<よっしゃ>
浮鬼どんが猿みたいに右手ついて、左手で巨大なメイス(金属製の棍棒じゃ)をブン回し、木を叩き折る。樵としては、もちっと綺麗に切りたいとこじゃが・・・。
ドリナラーニどんが倒した木を除去するあいだに、次の木へ。
取り急ぎ7本、叩き折ったところで、風が強くなった。雷鳴も聞こえてきた。
飛行塔が降りてくる。
刈り切れんかった木が、抵抗する・・・が、塔の下部(でっかいコマみたいな形しとる)が、勝った。
飛行塔、着陸。
クマがタライに座ったみたいに、尻だけ森に隠れた状態となった。
「任務完了じゃ!」
<オウ!>
玄関が開いた。雨と風と浮鬼とドリナラーニが、格納庫に入ってきた。
ボタボタボタ・・・大量の水を滴らせる浮鬼を、整備班のドリノンたちが引っ張る。
玄関が閉まった。雨と風は締め出された。
「おつかれさんじゃ」ソラトバン、格納庫に降りる。
<オウ! オツカレ!>
<おつかれや。・・・いやー、今日は疲れたわホンマ>
「手空きのやつ! 2人の拭き取り作業でござる!」
「ワオーン!」
コボルド整備員が、浮鬼とドリナラーニに群がって、水を拭き取る。
ちなみに、このコボルド整備員たち。
帰投したチラーニを見たときには、激怒したもんである。「ドロドロでござる!」「なんでこんなにした!」「サラピンでござったのに!」と、帽子をペタンと床に叩きつけた。ソラトバンはたいそう恐縮した。
ヤドカリチャリオットも、彼らが回収した。こちらは、亡骸(なきがら)だが。尼僧院を守って戦った勇者を、ハーフダークエルフの女・ディルーネと一緒に綺麗にしたのだ。それが、1刻(約2時間)ほど前の話である。
・・・あ、もひとつちなみに。
トンボは、この格納庫には居らん。本塔に運び込まれとるそうじゃ。
本格的に直さにゃいかんので、おふくろさんが構造の確認をしとるそうな。
<ご苦労>
ふわ~ん・・・。おふくろ。チラーニの手から、降りてきた。
<お風呂の用意はできてますよ>
「おお。助かるわい!」
早速向かおうとして、ソラトバン、足を止める。「・・・いま、誰か入っとらんじゃろうな?」
<さっきチーニャが入りましたね>
「・・・姐御は、なんじゃ。その、ハダカ見せる趣味でもあるんか?」
<本人に訊いてみては?>
「訊けるか!」
ゴウゴウゴウ。バチバチバチバチ・・・
激しく叩きつけてくる、雨。
<ああ・・・水が入る。ああ、錆びる。ネズミが増える>
「穴あいとるもんのう」
壁に、穴3つ。応急修理の麻布がヒューヒュー鳴いておる。
「今日は大変じゃったのう」
<うむ。久しぶりにイラッとさせられたわい>おふくろさん、素の口調となる。
「そういや、おふくろさん」
<なんじゃ?>
「お国言葉、わしのと、一緒じゃな?」
<そうじゃな。私のコレは、巨人言葉じゃ>
「おお! 鬼械人のお国言葉なんか、これ!」ソラ、喜ぶ。
<ちがうんじゃ>
「ちがうんか」
<目がひとつしかない巨人のほうじゃ。鬼械人じゃのうて>
「チラーニどんも、おふくろも、目ェひとつじゃが?」
<ちがうんじゃ>
おふくろさん、ひとつしかない目で、こっちを見下ろしてきた。
<私の生みの親が、巨人でのう。ほじゃけ、うちの鬼械人は、ひとつ目っぽい感じにしとるんじゃ>
「へえ~! おふくろさんにも、親が居るんか」
<そりゃ居るじゃろ>
「その、いまはどうしとるんじゃ。親御さんは」
<もう居らん。巨人は、滅びてしもうた>
「え」
おふくろさんの声に、動揺はなかった。
じゃが・・・
自分の造り手が、滅びてしもうたっちゅうのは・・・
親が死んだとかじゃなく、種族が滅んだっちゅうことじゃろ? それは・・・
「そりゃ、さびしい話じゃのう・・・」
<ま、大昔の話じゃけぇ>
「そうか」
<昔と言えば、巨人がまだ生きとったころ、王様が、>
「王様」
<巨人の王様じゃ>
「へえ」
<巨人の王様が、『1人だけどっか行った』っちゅうとったのう>
「どっか行った」
<穴堀りが好きな巨人だったらしい>
「モグラみたいじゃな」
<うむ。ヒマさえあれば、穴を掘る。あっちこっち、穴だらけ。とうとう、巨人の王が落っこちた>
「危ないじゃないか」
<まさにということじゃ。巨人の王は、怒った。したら、そいつ、なんと言うたと思う>
「謝ったんかのう。いや、『穴掘って何が悪い』とか言いそうじゃな」
<惜しい。『すまんことじゃ。今度から、もっと深いトコ掘るようにするわい』>
「わっはっは!」
ソラトバン、楽しい気分となる。
「懲りん(こりん)ヤツじゃ。しょうのないヤツじゃ」
<実際に、深いトコを掘るようになり、落っこちることはなくなった。なので、巨人の王も、放っとくことにした>
「放っといたらアカン気がするぞ。その男は」
<うむ。気が付いたときには、そいつはどっか行ってしもうとった。どこに行ったか、誰にもわからぬ>
「ほれ見たことか」
ソラトバン、ため息をつく。
「そういう男は、放っといたらアカンのじゃ。夢中になって、危ないことをしでかす」
<よくわかっとるじゃないか>
ソラトバンとおふくろさん、目を合わせる。
「よう! 何の話してんの?」
チーニャがやってきた。
湯上がりの美貌、ほかほかしておる。
<放っといたらアカン男の話じゃ>
「なんだそれ?」
「あ、わし、風呂行ってくるわい。面白い話じゃけ、姐御も聞くとええぞ!」
「はぁ」
・・・話を聞いたチーニャ、感想を一言。
「ソラみたいだな」
<同感じゃ>
◆ 44、属州政府の元文官 ◆
雨の中、男は、桟橋(さんばし)へ急いでいた。
ハポノ人の男である。名はマジャター・オンダットー。ふだんはマンダットーと呼ばれておる。
職業は、無職。
元文官である。先月までは、ショラン・ギサンチ属州政府の、食料事務官であった。
だが。
『麦の暴騰(ぼうとう)の原因がわかりました』
と、室長に報告をしたのがきっかけで、クビにされてしもうたんである。
職を失い、妻には逃げられた。このままでは食い詰める・・・。
ひとまず、親元へ逃げ帰ることにした。
河船を予約して、いよいよ出発という、その未明。
州都ラスカリューミヤが、反乱の炎に呑み込まれた。
赤々と燃え上がる空。悲鳴。絶叫。建物が崩れ落ちる音。ときおり、窓の外に火の粉がチラチラと飛んでくる。
マンダットーは生きた心地もせず、夜明けを待った。
「おお、ジャスティス。『仲裁』のルーンの所有者たる女神よ」
太陽の女神の娘とされるジャスティスに、祈りを捧げる。
「どうか私に、公平な運命を。私は真面目に生きてきました。悲惨な運命から、私を守りたまえ」
夜明け。
雨が降り出したときは、祈りが通じたのだと思った。
びしょ濡れになって走りながら、マンダットーは女神ジャスティスに感謝した。
火事は下火になり、視界も悪くなって暴徒どもに見つからずに済む。
無事、桟橋にたどり着いた。
河船に乗る。
切符を見せて、「どうぞ」と通され、木の板を渡しただけの席に着く。
屋根のある河船は、多少の雨なら運行してくれる。こんな騒乱のときにも運行してくれる船長に感謝した。
「何のために、文官になったのだ・・・」
マンダットーが、ため息をついておると。
「おや? 旦那。久しぶりですな」
ショラン・ギサンチ人の男が、隣に座った。
文官時代の顔見知りである。地元の大きな貿易商人で、食料の輸出入もやっている男であった。
その貿易商は、周囲を見回してから、低い声で聞いた。
「・・・お噂、聞きましたよ。残念です。あなたは、いいハポノ人だったのに」
「・・・ありがとうございます」
「何があったのか、訊いてもよろしいか?」
「属州政府を告発した文が、ゾイバットー総督の手に渡ってしまいまして・・・」
「なんと! もしかして、早馬ですか?」
「ええ」
「やっぱり。早馬はダメなんですよ。馬宿の夜逃げがひどくて」
「そうでしたか・・・。いや、室長──上司が報告を受け取ってくれなかったので、焦ってしまって」
「口封じされる前に告発を、というわけですな」
「そうです」
「・・・麦の暴騰の件ですか?」
「・・・ええ。重税、談合、買い占めと密輸、の3点ですね」
「重税といえば、麦収穫税と、家畜の頭数税?」
「まさにそうです。農家が潰れ、運搬業が潰れ、農作物全体の価格が押し上げられている」
「談合は、これはもう、麦問屋の談合ですよね」
「はい。ゾイバットー総督になってから、ショラン・ギサンチ人の問屋が追い出され・・・」
「ハポノ人の問屋ばかりになって、露骨に価格操作が始まった」
「摘発の準備はされていたのですが・・・」
「おお」
「直前に、担当者が飛ばされた。証拠品は『所在を確認中』」
「あなたと同じですか」
「そう。買い占めと密輸もね。担当者異動、証拠品は『所在を確認中』だ」
「私どもが外国麦を安く仕入れても、ハポノ貴族が買い占めてしまうんですからなぁ」
「しかも、その麦を『ショラン・ギサンチ産だ』と偽って、密輸出する。何倍もの価格で、税も払わずに」
「買い占めの資金が尽きないわけですよ」
「まったく・・・」
マンダットーは、またため息をついた。
「・・・貴重な証言を、生かすことができませんでした。本当に、申し訳ない」
「私の証言、取り上げてくださったんですな」貿易商はほほえんだ。
「お名前は伏せていますよ。誰にも教えてません」
「信頼しています。だが、私だって、覚悟して証言したのだ」
「立派です」
マンダットーは深くうなずく。
「それに引き換え、ハポノ貴族は・・・主食である麦の転売、密輸、脱税とは。なにが貴族だ。ハポノの恥部ですよ」
そのとき。
乗船口のあたりで、騒ぎが起こった。
「乗せろ! いますぐ、私たちを乗せろ!」
「切符を見せてください」
「うるさい! 緊急事態だぞ! どけ、乗せろ、船を出せ。私はハポノ貴族だぞ!」
「切符を!」
ハポノ貴族と船員が、押し合っておる。
その、ハポノ貴族の後ろから・・・
暴徒どもが・・・!
手に手に、武器を持って・・・
船に、迫ってきて・・・
「麦問屋め! ハポノのブタめ!」「逃がさんぞ!」「殺せ! ハポノ人は殺せ!」「ハポノのブタどもを殺せ!」
船に、雪崩込んできた・・・
◆ 45、ゾイバットー総督の死 ◆
そのころ、属州総督邸でも。
「総督を、殺せぇーーーッ!!!」「ゾイバットーの首を、切り落とせーーーッ!!!」
暴徒が館を取り囲み、絶叫していた。
「い、一体、どうなっておる。守備兵は・・・」
ショラン・ギサンチ属州総督ゾイバットー。
小さな目をした大男。
右往左往しておった。
ほんの数刻前まで、その顔は深酒で真っ赤だったのだが・・・
いまは、真っ青である。
「守備兵はどこだ!!」
「守備兵には連絡がつきませぬ、総督閣下」と、守備隊長。
「もう一度伝令を出せ!」
「殺されるだけです。外は暴徒で一杯だ」
「いいから出せ! 伝令を出せぇッ!」
守備隊長は若い兵士を呼び、伝令を命じた。
その兵は「はい!」と元気よく返事をして、走り去った──そして、物陰でよろいかぶとを脱ぎ捨てて、逃走した。
総督はそんなことも知らず、次の手を打とうとする。
「バッツワーノだ! あいつにも伝令を出せ。蒸気械人で鎮圧させろ!」
「トントバッツワーノのオーガ討伐軍は、昨夜、州都を出ました」
「なんだと!?」
「閣下ご自身が、『州都から退去せよ』と命じられたのです。お忘れですかな?」
「そ・・・そんなことは、わかっておる!」
ゾイバットー総督は、怒鳴り散らした。
「だがまだ夜明けだ! 命令を出したのは昨夜、日没後だぞ?! そ、そのへんに、居るであろう!」
「いえ。城壁外に全機退去したこと、我が部下が確認しております」
「ば、馬鹿な・・・。で、では、州軍・・・いや、ショラン・ギサンチの土民なぞ信頼ならぬ。ええと、ええと」
どーん! どーん! どーん!
重いものが、叩きつけられる音がした。正門から。そして、裏門から。
「ほ──報告! ナンガラック、ナンガラックです!」伝令が駆け込んできた。「正門と裏門に、ナンガラックが!!」
「なッ・・・が・・・!?」総督は倒れそうになる。「なぜ、なぜ土民が?」
「城壁の守備兵がやられた、ということでしょうな・・・」と守備隊長。
ドバギィィン・・・!!! ガゴォォン!
正門が、破壊される音がした。裏門が吹っ飛ぶ音も。
「どうすれば。おい、どうすればよいのだ」
「事ここに至っては、どうしようもありませぬ」守備隊長は兜を脱いだ。「投降するしか」
「冗談ではない! 殺されてしまう!」
「ウオーッ!!!」暴徒の声が、狭ってくる。「殺せ!」「殺せ!」「ハポノのブタどもを殺せーーーッ!!!」
「ひ・・・ひいっ・・・!」兵士の1人が、逃げ出した。
「もうごめんだ、こんな仕事!」また逃げた。
総崩れとなる。守備隊長以外、全員が逃げ散ってしまう。
「待て! おい、待たんか!」
叫ぶゾイバットー。
その目に、逃げる兵と、迫る暴徒の姿が、入ってきた・・・
属州総督ゾイバットーは、殺された。
大勢のハポノ人が、貴族も平民も、悪徳の者も善良な者も、殺された。
その中には、元文官の男も含まれていた。
公平な運命など、ここには存在せんかったんである。
◆ 46、晴れ ◆
青空が戻ってきた。
弐ノ塔は、この1日を、修理と休息にあてることにした。
「大丈夫かのう? また襲われたら・・・」と、ソラトバンは心配したが、
「休め」と、姐御になだめられた。「ママとチラーニがタコ飛ばしてる。オマエは休め。オレも休む」
大丈夫かのう・・・
軽く寝て、様子見に一回起きるか・・・
などと、いっちょまえに心配したソラトバンであったが。
ベットに入ったら、コテンと寝てしまい、夕飯まで目が覚めんかった。
「姐御が正解じゃったわい。起きるどころじゃなかった」
「だろ? 初陣だもんな。私も経験したさ」
美人の姐御と並んで飯食っとると、コボルドの娘がやってきた。「チーサーネ」
「なに? ルディモ」
「尼僧院の方々が、お礼を申し上げたいと。食事のあと、応接室で」
「わかった。応接室ね。ソラと清雅も?」
「いえ、弐ノ塔ママが『チーニャだけで』と」
コボルドの娘は礼をして去った。
「・・・尼僧だからかな? おまえが助けたのにな」
「わしゃ、気──ング」ソラトバン、呑み込む。「気にしとらんぞ。尼さん助けたんは、数鬼どんじゃし」
「おまえだよ」チーニャ、苦笑する。「私、反対したのになw」
で、食後。
ソラトバンが部屋でゴロゴロしておると、チーニャがやってきた。
ドッキリである。
わ、わしの家に、美人のお姉さんが訊ねて来たぞ・・・!
生まれて初めてじゃ・・・!
「あ・・・姐御・・・あのその」
「なに動揺しとんねんソラァ~」
「うおっ!?」
「期待しとったやろ今ァwww」姐御の後ろから生えてきた清雅。満面の笑みである。「助平ェ~」
「いや、ちがう。ちょちょっとそれより、歩いて大丈夫なんか? 清雅」
「たぶんな。おジャスさまが治癒(ちゆ)かけてくれたしな」
「あの御方、治癒もできるんか・・・!」
「・・・あー、ソ、ソラ?」姐御が話を戻す。「ディルーネって女が、ちょっと面白い話をしててな」
「トンボに関わる話やねんけどな」
「行く!」
応接室。
茶色の肌したディルーネ。ハーフダークエルフ・オーガの女が、ワイン呑んでくつろいでおった。
弐ノ塔のおふくろさんが相手をしておる。あと、おふくろさんの頭にタコ。
「あ、色男」
「は?」ソラトバン、また初めての経験である。
<ディルーネが、ユーン洞に案内できると言うのです、ソラ>
「ゆーんどう」
「幽霊の、空の雲の、洞窟や」と清雅。
「『力の筒』買いに来たんやろ? 案内するよ──って話」
と、ディルーネ。
「ウチ、幽雲洞の生まれでね。父はあっちで働いとんねん。母は死んだけど、ヤドカリチャリオットの技術者やったんよ」
「ああ。それで、ヤドカリどんと仲良くしとったんか」
「うん」
ディルーネは、ワインをちょっと呑んだ。
「州都があんな騒ぎになったし、いったん帰ろう思うとったとこやから、ついでにどう?」
「なるほどのう」
「なんか質問しろ、ソラ」と姐御。
「え? えーと。そうじゃな・・・」
ヤドカリチャリオットって、しゃべれるんか? とか訊きそうになったソラトバンである。
しかし、さすがに思い直した。今は、『この女は信用できると思うか?』ちゅう場面じゃろうと。
「・・・もう誰か訊いたじゃろうが、なんで案内する気になったんじゃ?」
「いま言うたやん」
「場所、秘密じゃないんか? バレたら、帝国に攻められるじゃろ?」
「あー、うん。助けてもろたお礼──じゃアカン?」
ディルーネ、上目づかいでこっち見てきた。おっぱい強調しておる。
あ、こいつ胡散臭いぞ。
ソラトバン、警戒度アップ。・・・それはそれとして、おっぱいは見るけどもが。
「あんたに何の得があるんじゃ? っちゅう話じゃが」
「あれ? 意外とマトモやん」
「意外て何や」と清雅。
「いや、可愛い女の子2人も侍らせとる(はべらせとる)から・・・」
「ウチは鬼術師や。舐めとったら冥界送りにすんぞオマエ」
「・・・鬼術師なん? えらい若いねぇ」
<本当ですよ>
「お見逸れしました。ごめんなさい、鬼術師さま」
「フン」
「まあ私もねぇ──」
「で、何の得があるんだ?」とチーニャ。
「あー、えーとね。まあ、州都がアレやん? ウチ、正直、不安なんよ。この塔は信頼できそうやから、繋がっときたいなーと」
「人が良さそうじゃから、利用したろうっちゅうことか」
「そこまでやないよ。感謝しとるのはホンマ」
「それで全部か?」と清雅。
「まー・・・、自分の得点稼ぎもあるかな? どうせ行くんやろ? ほんなら、自分も一枚噛みたいなって」
「ほんで、案内する代わりに、何を要求する気じゃ?」
ディルーネは清雅を見た。
「アカン」清雅が即答した。「ウチの蘇生術は、六間洞のモンや。六間洞の決定なしに使うことはせん」
「そっかー・・・」
<では、少し相談します。ディルーネ、ありがとう>
「はーい。ほんならね」
ワインのグラスを持って、ディルーネは立ち去った。
「・・・アレめんどくさい女やぞ。ソラ、オマエあんま接触せんほうがええぞアレ」
「そうするわい。胡散臭いしのう」
「気付いとったんか」
「子供の頃、ずいぶん女にからかわれたからのう。空飛ばん空飛ばんっちゅうて」
「・・・そうか」
「ほじゃけど、情はあるんじゃないか? 『ヤドカリ蘇生してくれ』って清雅に頼もうとしたじゃろ?」
「たぶんそうやな。オカン(お母)かも知れんけど」
<1人ずつ意見を聞きましょう。清雅は、どう思いますか?>
「乗ってええと思う。念のため、チー姉とチラ兄は待機で」
<チーニャは>
「ソラに交渉させる気か? 清雅と私が行って、ソラはチラーニで待機させたほうがいい」
<ソラ>
「えっと。トンボどんを直したいとか言い出したのは、わしじゃ。危険があるなら、わしが行くのが筋かと思う」
「余計なお世話だよ」とチーニャ。
「いや、姐御の実力はわかっとる。言い出した責任じゃ」
<3人とも、話に乗る方向ですか>
<オレの意見は?>おふくろさんの声玉から、チラーニの声がした。
<居ったんか。ほじゃ、どうぞ>
<オレも、ソラに行かせるのが筋だと思うね。清雅がいれば、無礼は控えるでしょ、向こうも>
<では、話に乗るとしましょう。清雅とソラトバン、それに私が出ます>
「え?」「え?」「え?」<え?>
<私も出る。ヤドカリチャリオットを見て、確かめたいことができたんじゃ>
解散。
「・・・清雅、蘇生術って、そんな大変なモンじゃったんか」
「アレぁ嘘や」
「え」
「六間洞の許可とかはいらん。ウチが自分で決める」
「貴重なのはホントだからな?」とチーニャ。「勘違いするなよ」
「そうなんか」
「まあな。1回使うたら、月が巡るまで次使われへん」
「・・・やっぱり大変なモンじゃないか。なんでわしに?」
「蘇生したらアカンのかいや」
「いや、アカンことはないが・・・」
ソラトバン、改めて考える。
蘇生されたときは、『現世でやりたいことなんかない』みたいなこと、抜かしたが。
いやいやそんなことはない。あった。やりたいこと。いっぱい。
「・・・うん。メッチャ感謝しとる。蘇生してもろて、良かったわい」
「ならそれが理由や」清雅、ニヤリとする。「ノシつけて返してもらうから覚悟しとけw」
「うへ。まあ、うむ。・・・しかし、おまえさん、えらい人だったんじゃな」
「えらいんは鬼術師や。私やない」
「同じじゃないか」
「ちゃうわ」
「ちゃうんか」
「ちゃうんや」
◆ 47、空の旅 ◆
翌日。
弐ノ塔は、青空に向かって、浮上した。
ディルーネの案内で、幽雲洞へ向かうのである。
ソラトバン。この朝は、じゃがいも当番。調理室に入る。
すると、先客がいた。
若い尼僧が1人。コボルドのおかみさんに見守られて、じゃがいもの皮剥きしておる。
「ありゃ?」
「新入り!」と、コボルドのおかみさん。「何しに来たのです!」
「何しにて、じゃがいも当番じゃが」
「?」コボルド、小首傾げる(かしげる)。「今日は、尼さんです。新入りは、いりませぬ!」
「さようか」
立ち去りかけたところで。
尼僧がチラッとこっちを見た。
それで、気が付いた。
「あれ? あんた、あの時に居ったお嬢さんじゃないか?」
「はい?」尼僧、怪訝な顔。
「レッケンサーニさまが、覆面の賊に襲われた」
間違いない。鳶色の髪、どよ~んとした瞳。見覚えがある。
「・・・。」尼僧、しばらく黙り込んで、「・・・・・・・・・はい。それが、なにか?」
「え? いや、なにって」
「これ! 新入り! 尼さんを口説いてはなりませぬ!」
「いや口説いとるわけじゃ」
「出ておいき!」
追い出された。
「・・・っちゅうことがあったんじゃが」
応接室にやって来たソラトバン。
そこに居った女たちに、話をした。
女たちとは・・・
<尼さんな。降ろすつもりだったんじゃがのう>おふくろさん。
「いま降ろしたら、何人死ぬかわからぬえ」スカルドのハル。灰色髪のお嬢さん(?)。
「うむ」おジャスさま。金髪ポニーテイル。
「アホやなオマエぇ~」清雅と、
「コボルドは忘れっぽいからなー」チーニャの姐御。
・・・の、5人である。
「わし、じゃがいも剥かんでええんかのう」
「なに残念そうにしとんねんジャガイモ男ォ~」
「おまえさんも食うとるじゃろ! ジャガイモ! いらんのか!」
「いるw」
ここで、おジャスさまが立ち上がった。
「ちょうどよい。いま、褒美を授けておこう」
「うかがいたいのですが・・・」チーニャが問いかけた。「何に対しての褒美ですか?」
「覆面の賊どもから、太陽の信者を守ったこと」おジャス、人指し指立てた。
「レッk──あの若い尼僧さんたちが、巻き込まれたヤツじゃな」
「うむ。してまた、火付け強盗から、太陽の尼僧たちを救い出したこともある」中指立てた。
「館は燃えてしもうたが・・・」
「ええのえ」とハル。「そなたら来てくれなんだら、これまた、何人死んだことやら」
「なぜ、あなたが?」チーニャが重ねて訊いた。
「我は太陽の縁者なれば。親類を助けてもろうたゆえ、礼をするっちゅうことやえ」
「なるほど、わかりました」
チーニャは納得したようである。
ソラトバンは、おふくろさんを気にした。すると、
<ハルさまと知っていたら、疑いはしなかったのですが・・・>
ということであった。
<疑ってすみませんでした>
「ええのえ。会えてよかったえ」とハル。
「──ええかに? して、最後に、」
おジャス。手をクルッとひっくり返して、親指を出した。
「そなたが気に入った。ソラトバン」
「わし?」
「うむ。そなたに2つ。清雅・チーニャ・チラーニには1つずつ、褒美を授けん」
この、褒美なるもの。
にわかには、信じがたい内容であったのだが・・・
ともあれ、格納庫へ移動となる。おふくろさんは、ここで離脱した。
「まずは、ソラに。『光』のルーンの技、『鷹の目』を授ける」
「???」
「ルーンっちゅうのは、魔法の文字やえ」ハルが解説。「技は、その知識やコツみたいなもの」
「ん」
おジャスさまが、右手を出してくる。
手? 何も持っとらんのじゃが。どうせよと?
「・・・手ェ出しなえ」とハル。「目に見えん、手にも触れんものを、受け取るつもりで。こう」
「こうかのう?」
両手を出すと、おジャスさま、その手に右手をちょんと乗せた。「はい」
「・・・お礼言いなえ」
「あ、はい。ありがとうございますじゃ」ソラトバン、敬語下手。変な言葉づかいになる。
「チーニャには、太陽の神殿が伝える治癒の術を」
「・・・ありがとうございます」
「清雅は、治癒などの技には詳しかろう?」
「いえ」清雅、うやうやしく頭下げる。「日の御手(ひのみて)にくらべれば、とてもとても・・・」
「ふっふっふ」おジャス、にやける。「ま、そやから、『仲裁』のルーンの技、『取り持つ』を授けよう」
「ありがとうございます」
清雅、深々とお礼をして、キリッとした表情で礼を言うた。
「六間洞の鬼術師・清雅。この栄誉を穢さぬよう、勤めまする」
「オマエ誰じゃ!?」
仰天すると、ふくらはぎ蹴っ飛ばされた。良かった。中身はいつもの清雅じゃ。
「人当たりのよい鬼械人よ、そなたには──よいしょ」
おジャス、ひらりと飛んで、チラーニのお腹のとこまで上がった。
「『恩寵(おんちょう)』のルーンの技、『見守る』を授けん」
<ありがとうございます>
チラーニどん、でっかい手ェ出して、おジャスさまの小さな手を迎える。
「うむ!」おジャス様、舞い降りる。「さて、ソラトバン。そなたには、もうひとつやると言うたが──」
「──うん。いまひとつは、私から贈りたいと思いまする」ハルが前に出て来た。
「ははあー」ソラトバン、頭下げる。
「・・・なんで私のときよりうやうやしいんかに?」おジャス、すねる。
「『闇』のルーンの技、『夜目』を、勇敢な乗り手に。暗い時代にも、先を見通せますように」
「あ、ありがとうございますじゃ」
なんかもらった──らしいんじゃが。
訳がわからぬ。清雅は納得しとるようじゃが、わしらはわからぬ。
困惑しておると・・・
「どっか暗いとこ見てみなえ」ハルさんが言うてきた。
「暗いとこ・・・」清雅に目ェふさがれた。「なにしよるんじゃ」
「それじゃアカンえw ふつうに暗いとこ」
そのとき、ちょうどコボルドが休憩に入った。「休憩するでござる!」「ワンワン!」
修理中の壁の穴、一時放置される。
外側は昨日ふさいで、今日は内側をやっとったのだが。暗い内部が見える状態のまま・・・
「あ、ちょうどええわい」
頭突っ込んでみた。
「・・・見えるぞ! 暗いのに!」
見えた。
壁の暗がりの、すみずみまで。
月明かりに照らされたがごとく、詳細が見えたんじゃ!
なんと。
本当に、不思議な力を授かったようである!
「魔法じゃ! 神通力じゃ! うおおお!」
「なあソラ、おい、ちょっと怪我してみてくれ」姐御が物騒なこと言う。
「アホな使い方したら取り上げるえw」
「『取り持つ』っちゅうのは、初めて聞くんやけど・・・どないして使うんです?」
<『見守る』も、使い方わかんないや>
「自分で見出すべし」
「教えたったらええのに」ハルは勧めるが、
「自分で見出すべし」おジャス、譲歩せぬ。
◆ 48、ソラトバンの贈ったもの ◆
「あ! そうじゃ、おジャスさま」
ソラトバン、突然思い出す。あわてて立ち上がった。
「なにえ。急に」
「あ、話しかけたらアカンのじゃった」
「もうえええ! その設定! ほんでなにえ」
「いや、助けて頂いたお礼じゃ。わしが誘拐されたときの。応接室で待っとってくださらんか?」
ソラトバン。自分の部屋まで走った。
大事にしまっといた贈り物を、取り出す。
ふたたび走って、応接室へ。
「ハァハァ・・・これじゃ」
「お。酒かに?」
「死んだ父が、祭で手に入れたモンじゃ。結構ええ酒じゃそうなが・・・」
「ふむふむ」
ラベルを眺めて。
おジャス、笑う。
「そなたという男は。ショラン・ギサンチの空で、ショラン・ギサンチの酒贈るとは」
「え」
「ほらココ」
「・・・わし、字ィ読めんのじゃ」
「見せてみ」と清雅。「──コムワカ帝献上品! ショラン・ギサンチ銘酒 “ユーンの気付け薬”」
「え!!!」ハルが飛び上がった。
「ひっ」おジャス、びびる。「な、なにえ」
「ちょ、ちょっと、ちょっと見せてたもう!」
ハル、ラベル眺め、ひっくり返して裏眺め、光に透かして黄金に輝く酒眺め・・・
「レゾニカ! レゾニカはどこえ?」騒ぎ出した。
「なにえ・・・」
「いかがなさいました? ハルさま」
尼僧院長のレゾニカ先生。お付きの尼僧1人と一緒に、やって来た。
「これ見て、これ!」
酒瓶を渡すと・・・
「おお! これは」
老尼僧。その場に膝をつき、泣き出してしもうた。
「最後の年の。あの人の。おお・・・!」
「──あのお酒、レゾニカの旦那さんの、蒸留所のヤツやったのえ」
ハル。
老尼が引き揚げたあとで、みなに説明。
「尼僧院が、その建物やったに。燃えてしもうて」
「・・・蒸留所を、尼僧院にしたのですか?」とチーニャ。
「建物丸ごと寄付した、っちゅう建前らしいえ。まあ、税を逃れて、蒸留設備を残したかったのやろ」
「日月(じつげつ)の修道院は、酒好きやし・・・」と、おジャス。「帝国に対し、強い反感があるとも聞く」
「なるほど」
「その大切な建物がのう・・・」
「そう──これは、最後の年の出荷分」
ハル。
しなやかな手で、ウイスキーを捧げ持つ。
「生みの親、もはや、この世になし。あるのは、この子のみ」
ほほえむ。
「これは、そういう贈り物やえ」
◆ 49、幽雲洞へ! ◆
≪目的地まで、四半刻。交渉担当者は、格納庫に集合せよ≫
全塔アナウンスが入った。
清雅が立ち上がる。「行こか、ソラ」
「もうそんな時間か。おジャスさま、ハルさま、わしら仕事じゃで」
「ほな、その仕事明けたら、この酒開けるべし」おジャスとハルも、立ち上がる。「頑張ってきなえ」
「ありがとさんじゃ!」
格納庫には、いつもの鬼械人。
チラーニと、その手の中のおふくろさん。浮鬼。
そして、ヤドカリチャリオットの亡骸に座っておる、案内人のディルーネ。
飛行塔が少しずつ速度を落として、停止。青空に、張りついた。
浮鬼どんに乗り込む。
チーニャの姐御が、わざわざ上まで見送りに来てくれた。「気を付けてな」
「大丈夫じゃ。おふくろさんが一緒じゃし、」
「いまのは『余計なことしゃべんな』っちゅう意味やぞォ~?」
「それもあるけどさぁw」チーニャの姐御、ソラトバンの腕を優しく叩く。「・・・気を付けて、新入り」
「了解じゃ。チーニャの姐御」
<では、降りるとしましょう>
「鬼械人・浮鬼、発進や」
<了解じゃ。そーれ!>
突き出し扉床を、蹴り離し。
浮鬼どんは、空中へ!
修理したばっかりの右ヒザ。ちょっとぎこちないかな? と感じたソラトバンであったが──
もうそれどころではない!
「うううひぃぃぃ~~~!!!」
「ウキキ! いつンなったら慣れんねんソラァ~!」
乗り手席に、清雅。ケタケタ笑っておる。
右弓手席に、ソラトバン。
左に、ディルーネ。その膝に抱っこされとる、おふくろさんである。
クソでっかい猫抱えたみたいな感じだが・・・重たくはないのか、ディルーネ、ニコニコしておる。
<あなたは、落ち着いていますね>
「子供ン頃は、幽雲洞に住んどったからね。上がったり下りたりは、慣れたモンよ」
大河ギミラス・ハバヒロイの上流は、深い谷になっておる。
その暗がり目掛けて、浮鬼は落ちていった。
地上に近付く。
それっぽい構造物は、見当たらんのだが・・・
≪浮来中の、六腕ロボ! 止まれ!≫
・・・警告だけが、飛んできた。
いまのソラトバンには、その声が鬼械人の外部放送だとわかる。声玉に特有の響きが。
≪おう!≫
清雅が返し、鐙を操作。浮鬼止まる。ソラトバン「ぐへえ」となる。
≪止まったぞォ~!≫
≪どこの誰や。名乗れ≫
≪こんな大声で言えるかァ~! 伝令寄越せやー≫
≪ちょっと待っとれ≫
しばらくして・・・
≪六腕ロボ上げるからな! 撃つなよ!≫
・・・赤い鬼械人が、谷間から浮上してきた。
大きな谷の中に、ゴマ粒みたいなモンが現われたと思ったら。
グングン近付いて、浮鬼と同じ姿となる。
「速い!」と清雅。
<くッ! この浮鬼が負けるとはのう・・・!>
「浮鬼どん、やっぱり、浮上は得意じゃったんか」
<いや別に>「どノーマルや」
「なんなんじゃ」
茶番やっとるあいだに、伝令の六腕ロボが停止した。
互いに肩砲(4門)を真上に向けての対面である。
浮鬼が、先にハッチを開いた。
≪・・・ディルーネ?≫
相手も開いた。乗り手席にゴブリン。右弓手席にダークエルフの男。こっちが『えー?』っちゅう顔しておる。
「お久しぶりです」とディルーネ。
「弐ノ塔の使いで来た」と清雅。「ウチは、六間洞の鬼術師・清雅。右が、弐ノ塔の乗り手・ソラトバンや」
すると、ダークエルフの背筋がピッと伸びた。
「あいわかりました! すぐ言うてきますんで、お待ちを!」
◆ 50、幽雲洞との接触 ◆
幽雲洞との接触は、ソラトバンが心配しとったより、あっさりしたもんであった。
≪貴鬼の寄洞(きどう)を認める≫
と、声が響いて・・・
浮鬼が谷前へ降りてゆくと(ひぃぃぃ~!)、洞窟の入り口があった。
一見、天然の岩の裂け目のように見えたが、そこには──
巨大格納庫が隠れておったんである!
「ごっついとこじゃ・・・!」
高い天井。広々とした空間。
こんな広い空間を、柱ナシで・・・
まさに『秘密基地』といった光景である。
壁にズラリと並んだ、六腕ロボ!
ほとんどは浮鬼と同型だが、たまに改造版みたいなんが居る。チラーニみたいな浮上筒を背中に一本背負っとるのは、先ほど上がってきた伝令役。他に、でっかい筒を手に持っとるヤツも居る(手持ちでブッ放す大砲だそうである)。
そして、ヤドカリチャリオット。
荷物を引っ張っておる。よく見れば、荷台に浮上ユニットがついておる。なるほどね。
ゴブリンとダークエルフの整備士。ゴブリンの数がとても多い。
そして・・・
「弐ノ塔の使いと聞いたが?」
赤い巨人が、登場!
ソラトバンの2倍ぐらい、デカい!
額の左右に、ねじれたツノ! そして、キバ!
「・・・オーガの男や」と清雅。
「・・・これが!」
「・・・あんまジロジロ見んな。『ケンカしようぜ』の意味ンなるから」
「・・・なんじゃと」
≪いかにも!≫
おふくろさんが、応じた。
外部放送によって、名乗りを上げた。
その音量。格納庫に、響き渡った。
≪空飛ぶ台の末子(まっし)、分霊(わけみたま)の弐とは、この私のことじゃ!≫
整備員ども、ざわめく。
「弐ノ塔・・・」「あれが?」「生きとったんか・・・」「小っちゃいのう」「阿呆。ありゃ代理鬼や」
<・・・で、誰何する(すいかする)そなたは何者じゃ>
「失礼した。幽雲洞の防衛隊長、コッキじゃ。克己の鬼と書く。弐ノ塔様、さ、お入り下され」
と、こんな感じで、奥へ入れてくれた。
「・・・おふくろさんって、すごい人だったんじゃな」
「・・・なんやいまさら」
「いや、うん」
<オーガに伝わっとるのは、分霊前の武勇伝じゃけぇ・・・>
おふくろさんが、ヒソヒソ話に参加してきた。
「わけみたま」
<私の本体は、自分を分割して、あちこちで同時に活動できたんじゃ>
「チラーニどんがタコ飛ばすみたいな感じかのう?」
<まあそうじゃ。あの子より私のが、ず~・・・っと、強力じゃがのう>
「はぁ」
<私ァ、そのまま本体と別れて、独立した女じゃけぇ・・・神話の空飛ぶ塔は、親戚ぐらいの感じじゃ>
「・・・。」
困惑するソラトバンである。
なんか・・・『大したことないよ』みたいに言うとるけど・・・
要するに、神話に出とる御方っちゅうことじゃろ?
「なにビビっとんねん」
「びび、びびっとらんぞ」
「『樵に戻りたいわい・・・』みたいなカオしとる」
「しとらんぞ」
洞窟の通路を歩き、階段を降り・・・
また通路を歩いて、階段を降り・・・
でっかい洞窟を、下ってゆく。
まさに、地底都市! の規模である。なんせ、浮鬼が一緒に歩けるんであるから。
──そう。浮鬼が、一緒に歩いとるんである。
「浮鬼殿に来てもらわな、降りられへんからねぇ」とディルーネ。
「・・・降りるて、どこへじゃ」
「お楽しみや」
「では、ここから下は、ディルーネに任せる」
最下層についたところで、克鬼がそう言った。
◆ 51、降りて、上がって ◆
「ほな、乗ろか。ハッチは開けといてね」
浮鬼に乗り込む。
ハッチ開けたまま、突き当たりの大扉を抜けた。
そこは、工房であった。
大きな工房である。
赤々と火が灯り、ゴブリンとダークエルフが働いておる。
「おお! ここが・・・」ソラトバンは感動しかけたが、
「これダミーな」
「だみー」
「パチモン。ここで鬼械人の仕事しとるんですわ! ──と見せかけて、新人研修しとるだけ」
「なんじゃと・・・」
「下りるから、開けてー」
ディルーネが呼びかけると、ダークエルフたちが反応した。
大きな作業机をスライドさせ、スペースを開ける。
ガッと、床を踏む。するとそこに、把手がピョコンとハネ上がった。
でっかい把手である。
「どうぞ!」ダークエルフ、壁際へ退避。
「浮鬼殿、あれ引っ張って開けてくれる?」
<おっしゃ>
「開けたらいきなり穴になっとるから、落っこちんように気ィつけてね」
<落っこちんなら任しとけ>
「落っこちんな言うとんねん」
ハッチは閉じて、
がぱっ。
見るからに重そうな、鉄のはねあげ戸を、持ち上げる。
深淵が、口を開けた。
いまや『夜目』持つソラトバンにも、見通すことのできぬ──深い深い、闇の口を。
「ほな、ぶつからんように気ィつけて、どうぞ」
縦穴にダイブ。ソラトバン絶叫タイム。
「・・・ほんで、あれ誰や」
「なにが?」とディルーネ。
「克鬼殿や」
「防衛隊長や言うたやん」
「おまえの誰や」
「パパ」
「・・・あんたもすごい人じゃったんか」
「オーガの防衛隊長の娘が、人間の都で流れ者のフリしとったんか?」
「・・・。」ディルーネ、猫みたいにニヤーッとする。
「密偵やなオマエ」
「あー・・・詮索されたら、生命助けてもろた恩、忘れてしまいそうやなァー」
「ア?」
「はい! この話は終わり!」ディルーネ、手ェ叩く。「誰にでも秘密はあるやろ?」
「ウチにはない」
「うわー、嘘つき」
だいぶ落ちたところで・・・
「あ、もうすぐ横穴あるから」
<ホイ来た。コレか?>
・・・トンネルに、浮鬼が飛び込んだ。
「こ・・・こりゃ、防衛には有利な地形じゃのう・・・」
「不便やけどね」
不便どころではない。ハシゴなし階段なし、ツルッツルの縦穴である。
さて。
すぐにトンネルは終わって、また別の縦穴に出た。
「また飛び降りるんか・・・」
<よっしゃ任しとけ>
「ちゃうちゃう。今度は上や」
<上がるんか>
浮鬼、浮上する。
「壁蹴ってええか」と清雅。
「アカン」
清雅、貧乏ゆすりしだした。短気なヤツじゃw
上のほうに、トンネルが見えた。
「あそこかのう?」
「・・・アンタよう見えんな? ダークエルフの血入っとる?」
「あ、いや」
いかん。無意識に『夜目』使うとった。
清雅がジロッとこっち見てきた。『いらんこと言うなボケェ~』のサインじゃな!
<お、ホンマにトンネルあるやんけ。入っとくか?>浮鬼が誤魔化してくれた。
「アカン。ウチの言うとこ以外入ったらアカン。死ぬで」
<そら面白そうや。入ってみるか>
「あほう」
<ウキキ>
トンネル何本か素通り。
鎧を着たダークエルフが見張りに立っとる穴もあったが・・・
「ダミーや」とディルーネ。「新人のダークエルフの訓練で──ココ!」
<ホイっと>
「手が込んどるのう・・・」
「ユーンさまはねぇ、穴掘るの、大ッ好きやねん」
そうしてたどり着いたのは、洞窟のベランダ。
小さく突き出したベランダの向こうは、大きな大きな、闇である。
その小さなベランダに、浮鬼がチョコチョコと出てゆくと・・・
「待っておったぞ。弐ノ塔とやら」
闇の中から、目がひとつしかない巨人が、話しかけてきたのであった!
※このページの修正記録
2025/03/24
44、属州政府の元文官
マンダットーと貿易商の会話を修正。
中身は同じですが、↓のような矛盾を直し、わかりやすくしました。
> 室長に報告をしたのがきっかけで、クビにされてしもうた
> :
> 「いえ、室長は伏せてくれたのです」