ソラトバン、鬼械人   作:min(みならい)

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幽雲洞の、はぐれ巨人

◆ 52、はなしがはやい ◆

 

 目がひとつしかない、巨人。

 ヌーーー・・・ッと、佇んで(たたずんで)おる。

 闇の中。

 なんともはや。

 鬼械人・浮鬼をも、遥かに上から見下ろしてくる、そのデカさ!

 威圧感、たっぷり! 見上げるだけで、息苦しくなってくる!

 

 そんな巨人に向かって・・・

 

<やはり、生きとったんじゃな。穴堀りの巨人よ>

 おふくろさんは、フツーに、話しかけた。

「ほう?」

 巨人は、モジャモジャッと、ヒゲ(髪かも?)を動かした。

 口を動かしたのであろうが・・・ヒゲ(髪かも)がモッジャモジャで、わからぬ。

 白っぽい髪がモジャモジャ動く様子は、なんか・・・

 滝とか、入道雲とか・・・

 そんなものを、連想させた。

「わしを知っておると申すか?」

<面識はない。じゃが、ウワサは聞いたわい。巨人の王からな>

「では、わしの名も知っておろう?」

<引っ掛けようったって、そうは行かん。巨人に名はないっちゅうこと、私は、ちゃーんと知っておる>

「ふむ」

 巨人は、ちょっと、背を伸ばした。

 ぐーーーん・・・と頭が高くなって、見上げるのがしんどいほどの角度となる。

「弐ノ塔──これが、そなたの名か?」

<元は、妙雅(みょうが)。じゃが、私は独立したけぇ、弐ノ塔と名乗っておる>

「あいわかった」

 巨人はうなずいた。

「確認は以上じゃ」

<では、取引じゃが。トンボ用の『力の筒』を3体分──150本、売ってほしい。可能か?>

「可能じゃが、トンボは死んだと聞いたが?」

<うむ。死んだ。遺体は帝国に盗まれ、筒は抜き取られた>

「なんじゃと。またか。帝国め。盗っ人め。ドブネズミめ」

<それを、ウチの戦士が奪還した。私らで、遺体を直して差し上げよう・・・と、こういうわけじゃ>

「なるほど。じゃが、なんで3体分いる」

<トンボが『復活したい』と言うた時のため>

「なんじゃと。これはたまげた」

 巨人は眉を持ち上げた。ひとつしかない目が大きくなった。

「ぜいたくな話じゃ。して、支払いはどうする」

<ウチには、磁力銀と磁力銅の鉱脈がある。延べ棒で渡そう>

「支払いはできそうじゃな。じゃが、まだ足らんものがある」

<なんじゃ>

「信用じゃ」

<信用か。モノは造れるんじゃな?>

「うむ。撃竜界に売る予定じゃった古いのと、新品と、混ぜこぜになるが」

<よかろう>

 2人はうなずき合った。

 どうやら、商談はほぼ成立したようである。

 

「・・・話が早いのう」

「・・・巨人は話早いらしいで」とディルーネ。

 そのディルーネの腕の中で、おふくろさんが身じろぎした。

 

<──で、信用っちゅうのは、どうすりゃええんじゃ?>

 

◆ 53、幽雲洞の、はぐれ巨人 ◆

 

「まず、泥棒じゃ」

<泥棒とな>

「帝国には、ずいぶん筒を盗まれた。これ以上は、もう、ごめんじゃ」

<筒の流出を恐れとるのか? 誓って(ちかって)、売ったりはせんぞ>

「売らんでも、奪われることはある。技や知識が盗まれることはな」

 ジロリ。

 幽雲。

 ここで、ソラトバンを睨んできた。

<ソラトバンは、ウチの乗り手じゃ。密偵じゃないぞ>

「ふん。口では何とでも言えるわい」

 巨人は難しい顔をした。

「人間には、さんざんに、騙された。わしゃ、人間は、キライじゃ」

「・・・。」清雅が手を上げた。

「なんじゃ。鬼の娘よ。言うてみよ」

「コイツは、トンボを盗んだ帝国のヤツらに殺されたんや。ウチが蘇生せんかったら、ここには居らん」

「蘇生じゃと。そなた、蘇生術師か?」

「六間洞の鬼術師・清雅や。初めまして」

「初めましてじゃ」

 巨人、律儀に(りちぎに)頭を下げた。ゴオオオ・・・風が渦巻いた。

「わしは、幽雲(ユーン)と呼ばれておる。本来は名はないのじゃが、ま、ここではな」

「よろしゅう。──そういうわけやから、コイツが密偵っちゅうのは考えられへん」

「ふむ」

 幽雲は顔を下ろしてきた。浮鬼の正面に、ひとつしかない目がやってきた。

「本当か?」

 

 ソラトバン。

 正直に言うと・・・

『喰われる!』と、なった。

 じゃが、なんとかガマンした。

 ヒザはガクガクしたが、声は出さずにこらえたわい。

 

「ほ、ほ、本当じゃ」

「本当に、密偵ではないのか?」

「ち・・・ちがうぞ。わしゃ、たたた、タダの、樵じゃ」

「ただの樵が、なんで弐ノ塔と一緒に居る」

「それは──」

 ソラトバン。

 もう一度、弐ノ塔に入ったときの話を、くり返す。

「トンボどんが、空飛ぶとこを、見たんじゃ。子供ン時に」

「ほう」

「あれを、もう一度見たい。ずっとそう思ってきた。ほんで、アレコレあって、弐ノ塔に入ることになった」

「・・・そなた、空を飛びたいのか?」

「巨人が空飛ぶとこを見たい。一緒に飛べりゃええが、そうでなくてもじゃ」

「ほう」

 幽雲。

 面白がるような顔をした。

「──なんで、そんなつまらんことに、夢中になる」

「つまらんじゃと」

 

 ソラトバン。愕然とする。

 いまどんな状況かも忘れて、言い返した。

 

「巨人が空飛ぶんじゃぞ! メチャクチャ面白いじゃろうが!?」

「わしにはわからん」

「なんでわからんのじゃ。馬鹿言うんじゃないわ! こんな面白いことが、世の中にあるか」

 

 すると。

 

「ふわっはっは!!!!!」

 幽雲、笑いだした。

 空気がビリビリ鳴った。洞窟が、グラグラ揺れた。

「な、なにがおかしいんじゃ!」

 ソラトバン、まだカッとなっておる。巨人に噛みついた。

 すると幽雲は笑うのをやめた。

 そして、こう言うた。「あいわかった。信用しよう」

「は?」

「しかしじゃ。150本ともなると、1週間は、もらいたい」

<1週間で、できるんか?>

「できる。さっき言うたように、新旧混ぜこぜになるが」

<そうか>

「その間、幽雲洞の仕事を手伝ってもらえたら、ありがたいんじゃが」

<吝かではない(やぶさかではない)。じゃが、タダでは働かんぞ>

「もちろんじゃ。鉄、軽鉄、金、銀、銅がある。延べ棒で払おう」

<乗った>

 

 まこと、話の早い2人である。

 ソラトバンは、ついて行けんかったが・・・話は、どんどん先へゆく。

 

「この先が、工房じゃ。見てゆくがよい」

 幽雲。

 大きな手を伸ばし、ベランダの左手の壁を、つまんだ。

 引っ張った。

 ズゴゴゴゴ。

 壁が、飛び出してきた──その奥に、通路があった!

 引き出し!

 巨大な引き出しを抜いたら、中が通路になっておる! そんな仕掛け!

 

「・・・まったく、なんでわからんのじゃろうな。こんなに面白いのに」

 幽雲のつぶやきを背後に、浮鬼は通路に入った。

 

◆ 54、つつつくるつつ ◆

 

 その先の工房は、こぢんまりしたものであった。

 

 ──いや、感覚が狂っとった。小さくはなかった。

 工房には何十人もの技師が行き来しており、大きな鬼械があった。

 鉄を叩く台。

 金型同士をブシューッとくっつける台。

 ギィィィーンと音高く鉄板に穴開ける台。

 ・・・この工房を『小さい』と言うたら、世の中ほとんどのもの、アリンコのごとく小さいと言わねばならん。

 幽雲の洞窟を見た直後じゃったから。あれとくらべると、なんでも小さいからのう。

 

 そしてここには、ずんぐりむっくりした小人が居った。

 筋骨逞しい(きんこつたくましい)大男──を、縦に半分に押しつぶしたみたいな、小人である。

 幽雲とよく似た感じにヒゲもじゃで、髪と髭の区別がつきづらい。

 その他の点では、人間とよく似ておる。目はふたつあるし、耳もあるようだ。

「ドワーフな」とディルーネ。

「どわーふ」

「初めて見た」と清雅。

「おまえさんも知らんのか」

「名前は聞いたことあるけどな。見るんは初めてや」

<ドワーフっちゅうたら・・・>と浮鬼。<神竜(じんりゅう)の死体に湧いたっちゅう、アレか?>

「ウジみたいに言いなや」ディルーネが軽く怒った。「ほな、いったん降りよっか」

 

 ゾロゾロ。みんなで降りた。

 ふわ~ん・・・。おふくろさん、久しぶりに自分で浮遊する。ちょっとのけ反ったりうつむいたり、腕伸ばしたりしとるのは・・・もしかして、伸びしとるんか?

 

「幽雲さまの案内や。ちょっと見ていくで」とディルーネ。

「なんじゃ。うるさいのが来よったわい」と、近くに居ったドワーフ。「作業中じゃ。寄って来るな。シッシッ」

「幽雲さまの案内っちゅうとるやろ。どけどけ」

 ドワーフの行き来する中をかき分けるようにして、工房に入る。

 押しのけられたドワーフども。ガヤガヤする。「なんじゃ」「よそモンじゃ」「何しに来た」「邪魔じゃ」「カエレ」

「ソラトバン語やな」と清雅。

「は?」

「お国言葉が一緒や」

「巨人語らしいぞ。これ」<そうじゃ。巨人語じゃ>

「へー」

 

 大きな鬼械の前に来た。

 『力の筒』で動いとるので、機械ではなく『鬼』械である。

 2本の腕。左手が鉄板を押さえ、右手が鎚(つち)を振るって、ガンガンと叩き延ばす。

 そんな作業を、鬼械の腕でやっておる。

「おお」ソラトバン、感心した。「こりゃ、便利そうじゃ。この台も鬼械人なんかのう?」

「ア!?」

 ドワーフがクソでっかい声で訊き返してきた。

「なんじゃ坊主!! なんか文句あるんか!」

「文句はないが」

「ア!?」

「文句はないが!!! 筒造る筒か、これも鬼械人かと、感心しとった、だけじゃ!!」

「ああ」ドワーフ、ふつうの声になる。「そうじゃ。鬼械人じゃ」

「ふつうにしゃべれるんかい」

<オウ、よそ者>鬼械もしゃべった。

「初めましてじゃ、鬼械どん」

<寄って来るんじゃないぞ。危ないからのう>

「わかったわい。声玉ついとるんじゃな」

<そりゃそうじゃろ。しゃべれんかったら、やりとりできんじゃろが>

「なるほどのう」

「おまえさん、この深度じゃ見ん顔じゃが」とドワーフ。

「わしゃ、よそモンじゃけぇ」

「はぁ、そうか。そっちの浮いとるのは、誰じゃ」

<わしゃ弐ノ塔じゃ。むかーしむかし、巨人の王様に造られたモンじゃ>

「おお! 本体か?」

<代理じゃ>

「なんじゃ。つまらん。で、何の用じゃ?」

「いや、『力の筒』を買いに来たで、ついでに見せてもろとるだけじゃ」

「ああ。お客さんじゃったか。ほじゃ見ていけ」

「そうするわい」

 

 一行は鬼械を見てゆく。

 見てゆく順番で、だんだん『力の筒』が出来上がってゆく・・・なかなか、面白い体験であった。

 たまにドワーフが話しかけてくる。

 どいつもこいつも、「ア?!!」とか言いよる。

 じゃが、ソラトバンが応対すると「ほじゃ見ていけ」となった。

「話しやすそうやな」と清雅。

「実家に帰って来た気分じゃ」

<同感じゃ>

 

 工房は、いたるところ鬼械化されておった。

 材料の運び込みはヤドカリチャリオットがやっとるし・・・

 それを取り上げて加工するのは鬼械台だし・・・

 ドワーフの技師は、職人というより、何でも屋であった。筒の組み立て・検品もするが、ヤドカリや鬼械台の整備士でもある。重要なのは整備士の仕事のようであった。

 ソラトバンが言うた通り、『力の筒』でもって、『力の筒』を造る──そういう工房であったのだ。

 

<なるほど>

「なんじゃ? おふくろさん」

<筒が売れんと困る理由はこれか、とな>

「は?」

「ああ」清雅、わかったらしい。「撃竜界落ちたもんな」

<そういうことじゃ>

「どういうことじゃ」

<ちっとは自分で考えんかい>

「え。・・・はい」

 

 ソラトバン。自分で考えた。

 筒が売れんと困る理由・・・

 単に、客が減ったとか──では、ないわな。そんなんなら、工房見るまでもなくわかる。

 工房を見て、初めてわかること。

 いたるところに、筒が使われておる、っちゅうことか?

 『力の筒』・・・浮鬼どんのと、同じタイプのようじゃが・・・

 六腕ロボの筒造るときに、一緒に造っとるんじゃろうな・・・

 注文が入ったときに、ちょっと余分に造って、それを回すとか・・・

 

 あ、そうか。

 

「筒が売れんで、工房が止まると、鬼械台の筒までなくなってしまうんか」

<そうじゃ。いきなり閉鎖にはならんとしても、>

「費用が上がるわな」

「ひよう」

「カネや。この場合、筒1本あたりの手間ヒマや」

 清雅様の解説である。

「筒の生産数が減ると、鬼械台の筒が高ゥつく。その分、次の筒が高ァなる」

「悪い方にグルグル回るわけか」

「そや。逆もそや」

「筒が売れりゃ、鬼械台の筒も安く上げれる。その分だけ、次の筒は安くできる。すると鬼械台の筒もまた安くなって・・・」

「そうそう。ええ方にも悪いほうにも加速がつく生産体制やコレ」

<その通り>

「ごっつい工房じゃと思うたが、そんな落とし穴があるんか・・・」

 

 ソラトバン、さらに考える。

 筒がたくさん売れれば、この工房で造る筒はどんどん安くなる。

 工房は大きくなるじゃろうし、ドワーフも鬼械台もヤドカリも、みんな喜ぶであろう。

 じゃが、筒がたくさん売れる状況とは、つまり・・・

 

「・・・鬼械人が次々にブッ壊れとる、っちゅうことじゃろ?」

「ア?」

「いやホラ、筒がたくさん売れる状況」

「ンあー。そっか。戦か」

「うん。戦が起これば、筒は売れる。じゃが・・・」

<そうじゃ>

 おふくろさん、うなずく。

<幽雲が見せたかったのは、それか──と、思うたワケじゃ>

「なるほど」

 

◆ 55、お手伝い ◆

 

 ソラトバンたち。

 1週間ほど、滞在した。

 ただし、飛行塔は近付けない。1里(約4km)ほど離れた川岸に着陸させた。

 尼僧やコボルドには「チラーニの修理中」とだけ伝え、幽雲洞のことは教えんかった。

 

「コボルドは秘密守れんからのう」再鬼どん。

「尼もな」数鬼どん。

 ゴブリン兄弟、森の中を移動中。

「あいつら、おしゃべりじゃからな」ついて行くソラトバン。

「うむ」

「しかし、湿気た森やな」と、再鬼どん。「下ジュクジュクやないか」

「まったくじゃ。ブーツに水しみて、冷たくてかなわん」

「うむ」

 3人の男ども。

 冷たい泥に難儀しながら、歩く。

 なんで、こんな森ン中を歩いとるのか? それは、こう頼まれたからである──

 

 「最近、帝国の偵察が、ウロウロしとる。

  この森を抜けられると、幽雲洞は、目と鼻の先じゃ。

  なるべく、時間を稼ぎたい。ゴブリンが偵察に勝てる森にしてくれ」

 

 ──樵にゃ無理な相談であるが。

 再鬼どんと数鬼どんが、引き受けたんである。

「ゴブリン道や」と、数鬼どん。

「ゴブリンでないと歩けんような、低いトンネルみたいな獣道・・・っちゅうことか?」

「そや」

「幽雲洞のゴブリンには使いやすく、人間には使いづらい。そういう道をつけとるわけじゃな」

「そや」

「あとは、トンネルポイントを探す」と再鬼どん。

「とんねるぽいんと」

「ここなら穴掘って隠れれるぞ、っちゅう場所や」

「なるほど」

「しかし、こうジュクジュクではな」

 ゴブリン兄弟は、ベチャベチャと、藪(やぶ)ン中を歩いてゆく。

 わしは・・・

 人間じゃけぇ・・・

 中腰になったり、四つん這いになったりで・・・

 ・・・しんどいんじゃが?

「わし、いる?」

「いる」と数鬼どん。

「おまえが簡単についてこれる道は、使えん。ハァハァ言うとる道を使う」

「そんな理由で! ハァハァ」

「あとは、人間の目ェふさぐ苗木、あったら言うてくれ」

「目の高さに枝葉が繁る(しげる)木・・・ちゅうことか?」

「そうや」

「ああ、任してくれ。毎日のように刈っとったヤツらじゃ。──こいつとか」

「よっしゃ。ほな、それはココに移植してくれ」

「ああ、ゴブリン道の入り口を隠すわけじゃな?」

「そういうことや」

 

 というような仕事で、数日を使ったり・・・

 

「うわあ! 姐御!」

「もう・・・またオマエかぁ・・・」

 お風呂で、白い裸体と出くわして。

 泡を喰って、言い訳したり・・・

「ち、ちがうんじゃ。ちゃんと訊いたんじゃ。ルディーニャちゃんに。姐御どこじゃ? って──」

 ルディーニャっちゅうのは、コボルドじゃ。

 姐御の侍女みたいな仕事をしとる。今年7歳。そろそろ結婚っちゅう年頃らしい。

「──そしたら『もう寝た』っちゅうから」

「あー。『もう寝るわ』とは言ったけどさぁ」

 チーニャの姐御。頬を染めて、横向いた。

 美人。びっしょり濡れて、とても色っぽい。

「寝る前に風呂入るの、知ってるハズなんだけどなぁ」

「いや、すまん。ホンマにすまん」

「出なくていいって」

「いや、出るわい」

「冷えるだろ。入ってけよ」

「は、はぁ」ドキドキして困る。話をそらそう。「あー、そうじゃ、姐御」

「なに・・・?」

 姐御、こっち振り向く。

 いや見とらん。見とらんぞ? ちゃんと背中向けた。ほじゃけど、振り向いた気配だけで・・・

 ・・・ちゅうか姐御。あんた結構わしの背中ジロジロ見とらんか?

「先日は、すまなんだ。火付け強盗を止めに行くっちゅうたときじゃ。姐御の言うこと聞かんで」

「ああ。まあ、いいさ」

「ええんか」

「オレたちは、乗り手だから」

 姐御、びっくりするぐらい白いお尻を、ソラトバンの視界の端っこに残して・・・

「──鬼械人とウマが合うってのが、大事なコトさ」

 

<ソラさー、オレのコト忘れてない?>

「すまんことじゃ。仕事で引っ張り回されて」

 チラーニどんに文句を言われたり・・・

<チーニャとは一緒に風呂入ったんだろ?>

「いやいやいや!」

<ちょっとでっかいからって、みんなでオレをのけ者にしてさー>

「しとらん、しとらん」

<してるしてる>

「なんじゃまったく。ほじゃ、チラーニどんも風呂入るか? ああン?」

<検討しとく>

「・・・入れるんか?」

<ドリノンに移ればいいだろ>

「そこまでして!?」

 

「おう、ドロドロ汚しん坊! 何か用か!」

「あー・・・、親方。これ、差し入れじゃ。ドロドロのお詫び」

 整備員のオヤジに、好物じゃというオヤツを差し入れたり・・・

「ヘッヘッヘッ! な、なんでござるか! さ、差し入れとはヘッヘッ」

「お肉のパイの匂いでござる!」「親方、ずるいでござる!」「拙者も! 拙者も!」

「皆さん、この前はすまんかった。差し入れじゃ」

「許す!」「許す!」「ゆ、許してやるでござる、新入り! ヘッヘッ、はぐはぐはぐ!」

 コボルドども、気ィ狂ったみたいになって、パイに喰らいつく。

 ・・・変なモン入っとるんじゃなかろうな?

 と、姐御に訊いてみたら、

「いや。ただの、お肉パイだ。コボルド用ってだけ」

「匂いキッツイねんアレ」と清雅。「オマエ平気やったんか?」

「うむ。村にもあったしのう。家畜潰すときに、なるべく全部使い切るみたいな。そういう料理じゃろ?」

「あー、うん、そういう感じだな」

「行けるんかアレ・・・」

「肉っちゅうだけで、ぜいたくじゃったからのう」

「あー・・・」

 

「ソラトバンよ。先日、わしは、『人間は嫌いじゃ』と言うたが、」

「言うとったのう」

「これでも、巨人の中では、人間と親しいほうじゃと思うておる」

「そうなんか」

 幽雲洞に呼ばれて、幽雲どんの話し相手をしたり・・・

「じゃがのう。人間は、ちょっと珍しいモンがあると、それを欲しがる」

「はぁ」

「知識も技術も、なんもかんも、自分のモンにしようとする」

「好奇心旺盛(おうせい)っちゅうことか? 質問攻めにしたり」

「訊いてくるなら、ええんじゃ。ヤツら、訊かんから」

「訊かんとは」

「ニコニコして『友好』『友好』と唱えながら、こっそり情報を盗みよる」

「あー・・・」

 ハルさまみたいな。

 おだてたり、楽しい音楽やったりして、人の気をゆるませておいて──情報を抜き取る。

 スカルドの手口というか。

 おジャスさまみたいにストレートに訊いてくるほうが、マシじゃと。

「・・・なるほど」

「覚えがあるか」

「ちょっとあるわい」

「後になって、もしかして、わし、探られた? と気付いたときの、悔しさ」

「真面目に応対した自分が馬鹿みたいじゃ」

「まさにということじゃ!」

 

 などと、やっとるあいだに・・・

 

 工房で着々と造られた『力の筒』が・・・

 150本。

 注文しただけ、きっちり。

 おふくろさんが検査して<問題ナシじゃ!>と喜ぶほどのモンが、できあがってきたのであった。

 

◆ 56、ゆくぞ、冥界へ ◆

 

 受け渡しの日がやってきた。

 弐ノ塔は、予備飛行塔を秘かに飛ばして、珍しい金属の延べ棒を運び入れた。

 幽雲洞からは、『力の筒』と、鉄などの延べ棒が積み込まれる。

 夜中に作業して、朝がくる前に予備飛行塔は飛び去った。

 朝がやって来た。出発の準備は整った。

 

 ──ところがである。

 

「わしも、冥界へゆきたい」

 幽雲が、そんなことを言い出した。

<冥界じゃと?>

「さっき、清雅から聞いた。わしも連れてってくれ」

<なんでじゃ>

「行く理由がある」

<なんで最終日に言い出す>

「さっき知って、いま決めた」

<行き当たりばったりな! 巨人とは思えぬ!>

「わしゃ、変わり者じゃけぇ」

<・・・行く理由とは?>

「約束をした」

<誰とじゃ>

「おまえさんの本体と」

<・・・なに?>

「ずーっとむかし、約束をしたんじゃ」

<どんな約束じゃ>

「飛行ユニットの造り方を教える、と」

 幽雲がそう言った途端。

<飛行ユニットじゃと!!!>

 おふくろさん、1尺ほど飛び上がって、

 

<ならば私も、ゆくぞ! 冥界へ!>

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