◆ 57、トンボを直せ ◆
さあ、大忙しである。
「間に合うんか。こんなん」
<さ~?>
「ママまで言い出すとはな」
幽雲どんが『わしも冥界行きたい』などと、言い出して。
弐ノ塔のおふくろさんまで、同調した。
つまり。
いったん本拠地に引き返してから、じっくりトンボどんを修復して・・・とは、行かなくなった。
いますぐ、ここで、直さにゃならん。
修復作業、大忙し! っちゅうわけである。
ソラトバンとチーニャ。
チラーニどんに乗って、黒い格納庫に入ってゆく。
規則的に床を照らす、ブルーグリーンの明かりに導かれて。
いつもの飛行塔ではない。ここは、本塔の中心区画。ソラトバンが初めて見るエリアであった。
チラーニどんが引っ張るのは、大きな荷物。
木箱をいくつも積み上げて、ロープで縛って、浮上ユニットで浮かせたもの。
木箱には『幽』のマークが焼き印してある。
「このへんかな」
<止まりま~す。おっとっと・・・>
チラーニ、止まる。浮いた荷物がそのまんま滑って行くのを、ロープ引っ張って止める。
<来たか>
おふくろさんの声がした。
ふわ~ん・・・。
格納庫の奥から、飛行物体が現われた。
八角錐みたいなボディ。ギロリと見てくる一つ目。カニのハサミみたいな手。
床照明に照らされた、その姿。オバケのごとし!
──まあ、いつも見とる雑務ユニットなんじゃが。下から照明当たると、ちょっと恐いんじゃ。
<早速始めるぞ。2人を降ろしてくれ>
<は~い>
かぱ。チーニャの姐御がハッチ開ける。
ガラガラガラ・・・おふくろさんが、移動式の階段押してくる。
「ママありがとー」
「かたじけないことじゃ」
カランカランカラン。階段降りる。
みし・・・黒い床は、足音がほとんどせんかった。
おふくろさんに先導されて、格納庫の奥へ。大きな扉の向こう。隔離された部屋に入った。
そこには、プールがあった。
琥珀(こはく)色の液体がなみなみと満たされた、でっかいプール。
トンボの遺体が、仰向けに沈んでおる。
<保存液じゃ。ウチで鬼械人を造るときは、この状態で造るんじゃ>
「おお・・・!」
琥珀のプールに沈む、黄金色の身体。久しぶりに見る。
トンボどんは、スマートな昆虫みたいじゃ。
なめらかで、美しい。
半透明の羽は、ほとんど透明で、『羽がある』と知らんかったら見過ごしたかもわからん。
丸いヘルメットみたいなパーツに、床照明のブルーグリーンが当たって、影が、まるで目のように見えた。
・・・トンボどんは、頭、あるんじゃな。
いまさらのように気付く。チラーニどんは、頭、ないからな。
「コラぼーっとしてんなソラ」
<箱下ろすよ~>
「おおう、すまんことじゃ」
チーニャの姐御が梱包をほどき、チラーニの兄貴が高い位置の箱を降ろす。
<筒を1本ずつあてがっといてくれ>
「あてがう」
<筒入れる場所に1本ずつ置いてくんじゃ>
「・・・。」
「変なコト考えてんな? プールに入るんじゃないぞ。外周に置くんだよ」
「『飛び込め』言われたんかと」
<言うわけないじゃろ。そこらじゅうベチョベチョになるわ>
「ったくw よいしょ」
手袋したチーニャ。金テコで、木箱をこじ開ける。
中から『力の筒』を取り出した。
「・・・あれ? 形がちがうぞ」
「ホントじゃ。八角しとるじゃないか」
チラーニどんの『力の筒』は、円柱なのだが。
トンボどんのは、八角柱であった。
しかも、太い。チラーニの筒よりひと回り太くて、人間が持つには両手で抱えねばならん。
<それが、妙雅(みょうが)式じゃ>
<へ~。初めて見たや>チラーニ、指を伸ばしてくる。<動かしていい? ちょっとだけ>
すると。
<ダメじゃ! やめろ!!!>
おふくろさんは、雷のように怒鳴ったのであった。
◆ 58、妙雅式『力の筒』 ◆
<え?>
<絶対に、起動するな。妙雅式は、過激なんじゃ。慣れとらん鬼械人が動かすと、事故をする>
「・・・。」
「・・・ちょ、姐御。なんでわしに渡す」
「『危ないときは俺がやる』って言っただろ」
「言うとらん」
「なにビビってんだ? それでも乗り手か?」
「鏡見ろっちゅうんじゃ」
チーニャとソラトバン、筒を押しつけ合う。
<・・・いや、人間には起動できんハズじゃが、>
「なんだ。じゃあ返せ」
「いやじゃ」
<ハズじゃが、危険物ではあるから、慎重に扱ってくれ。わかったな?>
<・・・。>
あれ?
チラーニどんが、目をそらした(顔はないけどもが。上体を、ちょびっと、あっち向きにひねったんじゃ)。
「なんだ? 換装したい(かんそうしたい)のか?」とチーニャ。
<べつに>
「ンだよ」
・・・あ、これ、放っといたらアカンやつじゃないか?
「まあ、アレじゃ。なあ? 姐御」
「ンだよ」
「動かしたくなるじゃろ? こんなモンが目の前にあったら」
八角柱の『力の筒』を、もう一本。
よっこらしょと取り上げて、トンボの肘の横へ。
「チラーニの兄貴にとっちゃ、英雄なんじゃろ。トンボどんは」
<・・・うん>
「じゃろ。動かしてみたくなるのは、当然っちゅうことじゃ」
<・・・だよな?>
「そうじゃ。当然じゃ。わしだって、呪文知っとったら動かs< ダ メ じ ゃ >
「なにがそんなに危ないの? ママ」
チーニャ、次々に木箱開けながら訊く。
開けるのはチーニャ、持って行くのはソラトバンと、分担が決まった。
・・・姐御、筒に触らんことに決めたようじゃ。ズルい女め!
「同じ『力の筒』でしょ?」
<『力の筒』っちゅうのは、粒子を消滅させて力を得る筒のことなんじゃが、>
「りゅうし」とソラトバン。
<目に見えん小さな粒じゃ。その筒ン中にも、たーんと封入されとる>
「音はせんようじゃが」
< 振 る ん じ ゃ な い 。・・・目に見えんほど小さな粒じゃ。音だって、聞こえんわい>
「そんなもん、どうやって入れるんじゃ?」
<ハイエルフのルーン魔術に、粒子操作呪文がある>
「エルフの魔術じゃと!」
<──まあ、そういう筒なんじゃが。これが、ごっっっっっつい力が出る、危険な方式でな>
「へぇ」「はぁ」
<ウチは事前取り出し方式にして、安全を確保しておるが、>
「じぜんとりだし方式」
<私が粒子消滅の作業をして、『力』だけを筒に入れとんじゃ>
「そんなこと、どうやってできるんじゃ?」
<『力』のルーンのはたらきによってじゃ>
「ルーンじゃと!」
「つまり、妙雅式は、使うとき、毎回毎回粒子を消滅させて、力を出すと」
チーニャの姐御が、金テコぎこぎこしながら、まとめる。
「弐ノ塔式は、その作業をあらかじめ済ませて、使いやすくしてある──ってワケでしょ?」
<そうじゃ>
「そんな仕組みじゃったんか・・・」
「で、結局のトコ、事故ったら、どうなるワケ?」チーニャ、八角柱をカンカン叩く。
< 叩 く な >
「爆発したりすんの? 魔蒸気筒みたいに」
<蒸気筒なんかとは、桁がちがう>
「・・・どのぐらいになんの?」
<わからん。反応した粒子の数によるで>
「最悪だと?」
<半径1里(4km弱)、消し飛ぶ>
「・・・。」
「じゃから、なんでわしに渡す」
「『誰にも渡さん俺のモノだ』って言ったろ」
「言うとらん。──おふくろさん。コレ、返品しよう。危険じゃ。触りとうない」
<何をいまさら。この本塔でも日常的にやっとる操作じゃぞ? ・・・なんで逃げる>
「いや別に」「逃げてないよ?」
<・・・そんな危ないのを、トンボは制御できたんだ>とチラーニ。
<うむ。私もな>
<そっか。さすが、トンボだね>
<私もな>
<・・・ドリノンやオレとは、ちがうよね、やっぱ>
チラーニは黙り込んだ。
おふくろさん、かたむく。<チラーニ。おまえには、そのうち伝授するつもりなんじゃが?>
<・・・そうなの?>
<うむ。そのつもりで育ててきた>
<・・・。>
<じゃが、いまはガマンせよ>
<ん。わかった>
納得行ったのか、チラーニは素直に手伝うようになった。
・・・あ、ちなみにじゃが。
指の関節には、筒は使わんそうじゃ。
ハイエルフの魔術で動かしとるらしい。なんでも、『土石人形(どせきにんぎょう)』とかいう、戦う人形を造る呪文があるらしいんじゃが。その呪文をちょっと拝借して(はいしゃくして)、指を操る呪文にしたんじゃそうな。
筒にくらべると、効率は悪い。じゃが、面倒が少ないんじゃ。整備もラクになるしのう。
「その魔術も、チラーニどんが唱えとるんか?」と訊いたら、
<そうだよ>
「すごいのう」
<でしょ? ヘッヘッヘ~>と、調子に乗っておった。
◆ 59、弐ノ塔の秘密・その3 ◆
50本の筒を、プールの周りにぐるっと、並べ終わった。
<では、取り付けにかかる>
「やり方わからんのじゃが」
<うむ。私がやる。じゃが、後学(こうがく)のため、少し見てゆけ>
「わかったわい」
ふわ~ん・・・。
ソラトバンの胴体より小っちゃいぐらいの雑務ユニット、ただよっておる。
特になんかをする様子はない。
「・・・えーと。あの、失礼じゃとは思うが。できるんか?」
<ふっふっふ。ソラには、まだ見せとらんかったのう・・・>
ガショーンガショーンガショーン。
暗闇の中から、なにか小さいものが、這い寄ってきた。
「な、なんじゃ?」
<弐ノ塔の秘密・その3! 私のユニットは、ひとつではない!>
床を這って、現われたのは。
4本の足!
2本の腕!
ギョロリとした、一つ目!
八角柱を短く切り詰めたみたいなボディをした、平たい、虫みたいな鬼械人であった!
それも、1体ではない!
ガショガショガショ・・・。
「うおっ!? ば、化けモン鬼械人が、何匹も!」
<失礼な。私のユニットじゃと言うておる>
「そ、そうか・・・!」
平たい鬼械人は、プールまでやって来た。
2本の腕で『力の筒』を掴み、プールの中に・・・ドボーン! 沈んで、トンボどんの身体に取りつく。そうして、筒の位置を合わせ、取り付け作業を開始した。
ドボーン! ドボーン! ドボーン!
次々に同型のユニットが飛び込んで、てんでんバラバラに取り付け作業を開始する。
複雑精妙、よどみなく、並列作業しておる!
「ごっついのう」
<そうじゃろ>
「ママの本領発揮だな」
「こりゃあ、帝国なんか、敵わんわけじゃ・・・」
・・・と、そのときであった。
ソラトバンが、重大なことに気付いたのは。
「あれ? ちょっと待ってくれ。これ、まずいんじゃないか?」
◆ 60、『力の筒』ですが・・・ ◆
「どれ」
「この危ない筒がじゃ。これが、覆面どもの手に、50本、渡っとるわけじゃろ?」
「・・・そうなるな」
覆面ども。
トンボを強奪した、謎の鬼械人乗り(まあ、バッツワーノ隊長の一派じゃろうが・・・)。
トンボどんの『力の筒』を、すべて取り外しておったのだ。
外された筒は、見つかっとらん。ヤツらの手元にあると思われる。
「そいつを使われたら・・・」
<『力の筒』は、人間には動かせんハズじゃ>
「そうか。なら、ええか?」
「いや、待って」とチーニャ。「粒子を動かすのは、ルーン魔術でできるんでしょ」
<できる>
「筒の中の粒子を消滅させて、事故らせることも」
<できるわな>
沈黙。
<・・・いまは、目の前の仕事に集中しようじゃないか>
「それがいい。そうしよう」
「わかったわい」
<は~い>
──そのころ。
ソラトバンたちとは、全然ちがう場所。とある室内にて。
「隊長。トンボの『力の筒』ですが・・・やはり、魔術師が必要です」
「そうか」
パイプを吹かす、黒ヒゲ隊長──バッツワーノ。
部下の報告を聞いておった。
部下は、やせた男であった。頬がコケており、クマの浮いた目元は不吉な感じがする。
名は、キルビンナック。何を隠そう、ソラトバンを誘拐・脅迫したのは、この男であった。
「ルクジッコを蘇生してください。あいつの魔術の腕なら、進歩があるかも知れません」
「・・・。」
バッツワーノはパイプを口から離した。
「来月まで待て。蘇生術の制限は、おまえも知ってるだろ? キル」
「月に1人だけ、というヤツですか? それはまあ・・・」
キル。
バッツワーノの背後を睨む。
そこに立っとるのは、オーガの女──バッツワーノの奴隷、鬼術師・レイサーネであった。
「・・・おい、レイサーネ」
「はい。なんです?」
「トンボの筒の秘密。おまえなら、知ってるハズだ」
「・・・。」
「・・・知ってるのか?」とバッツワーノ。
「いいえ。知りません。隊長にも、副隊長にも、何度かお伝えしましたけども」
「あの筒の仕組みがわかれば、ピンガデオスより強力な鬼械人が造れる」
と、キル。
「そうすれば、俺たちは勝てる。おまえだって、助かるんだぞ」
「ウチが助かるかどうかは、ご主人様次第やないですかねぇ?」
「チッ! ・・・鬼術師は、貴族みたいなもんだろう。知らんハズがない!」
「オーガには、貴族は居りませんて。鬼術師と、鬼械人鍛冶師は、全然別の系統ですし」
「隊長! コイツを締め上げましょう。絶対に、何か知ってるはずだ」
「やめろ」
「奴隷を甘やかすのも、大概に! ──私がやりましょう」
ぶかー・・・。
パイプを吹かしてから、バッツワーノは口を開いた。「おい、キルビンナック」
「なんです?」
「俺に従ってるヤツは、俺の手駒だ。奴隷だろうが、オーガだろうが」
バッツワーノ。キルを睨み付ける。
「俺のモノに、手出しを、するな」
「はぁ」
キルは悪びれぬ。不満顔のまま、部屋の出口へ向かった。
「・・・ルクジッコは、本当に必要な人材です。どうか最優先で蘇生を」
「わかってる。なーに、次の月は、もうすぐさ。な、レイサーネ?」
「はい、そうですね」
キルは退出した。
「・・・隊長が死んだら、また延びますけどね」
「うるせえ」
◆ 61、直せんところ ◆
<チラーニ。ソラ。作業は終わったぞ>
翌日。
おふくろさんがやってきて、そう言うた。
「おお! 直ったんか!」
<いや>
「直っとらんのか」
<問題があってのう。・・・チラーニの中に入るぞ>
「ほじゃ、姐御呼んで来るわい」
<やめとけ>
「いや、ほじゃけど」
<あの子、いま、風呂じゃで>
「ああ」
チラーニの兄貴の中へ。
乗り手席は、いま姐御用の調整である。なので、座らんと、立っとく。
おふくろさんは、弓手席へ。背もたれにダラーッと寄り掛かって、ナナメになって、こっち見てきよる。
<筒はちゃーんと取り付けた。直せるところは、全部直した。じゃが・・・>
「何が問題なんじゃ?」
<1つだけ、直せんとこがあってのう>
<もしかして、呪文版?>とチラーニ。
<まさにということじゃ>
「じゅもんばん」
<オレたちの脳ミソみたいなモンさ>
<正確には、鬼械人の御霊の召喚具──じゃな>
「はぁ・・・」
<オレたちは、呪文版に呼ばれて、この世に生まれる。呪文版が壊れたら、死ぬのさ>
「っちゅうことは、そこを直せんことには」
<うむ。蘇生、できん>
「おおう・・・!」
ソラトバン、天を仰ぐ。
チラーニどんの天井を見て・・・
ふと、思い出した。初めて乗った日のことを。
「そういや、清雅も言うとったのう。トンボどんは、蘇生できん──と」
<言ってたね~>とチラーニ。<そっか。トンボの死因は、呪文版の損傷か>
<そうなる>
「おふくろさんなら何とかなるじゃろ、と思うとったんじゃがのう」
<うぅ・・・>
おふくろさん、ナナメになったまま、ゴロゴロと軸回転しだした。
なんか、ネコが転がっとるみたいな感じである。
<トンボの呪文版は、ヒイロガネ製でのう。私じゃ、手に負えんのじゃ>
「ひいろがね」
<神竜甲のことだね>
「じんりゅうこう」
<オレの猫爪を弾いた装甲だよ>
「ああ。アレか。ムチャクチャ硬いっちゅう」
<そうそう。加工がすんごく難しいんだ>
<はぁ・・・>
おふくろさん、ため息ついて、グリグリと軸回転する。
<妙雅に造れたモンが、私には直すこともできん。はぁぁ・・・>
なんじゃ・・・
これ・・・
慰めりゃええんか?
「えー、まあ、御愁傷様(ごしゅうしょうさま)じゃ」
<なんじゃ。冷たいのう>
「いや、なんちゅうか、わしゃ樵じゃけぇ、金属のことはようわからんが、」
<ほじゃ、そこらの森で落としてやるけぇ、一生木ィ切っとれ>
「やめてくれ。──金のことはわからんが、なんじゃ。アレじゃ。訊いたらええんじゃないか?」
<妙雅にか?>
「そうじゃ。おふくろさんも、冥界行くんじゃろ?」
<行くが>
「そんとき訊けば」
<プライドが許さん>
「何しに行くんじゃ!」
<妙雅様、どうやって造ったんだろーね?>
<ルーンじゃないか? あやつ、『結ぶ』のルーンの使用権持っとるけぇ>
「うーむ・・・」
ソラトバン、しばらく考えた。
それから結論した。
「ま、しょうがあるまい。素直に、トンボどんに言うてみようじゃないか」
<それでええんか>
「タダでやっとんじゃ。文句言われる筋合いはないわい」
<・・・ま、そうじゃな。ほじゃ、その方向で>
おふくろさん、起き上がった。
「いよいよ行くんか」
<うむ。尼が邪魔じゃが・・・閉じ込めておけばよかろう>
「冷たいのう」
◆ 62、出発進行! 冥界旅行 ◆
日を改めて、幽雲洞へ。
今回も、浮鬼で降りる。
メンバーは、清雅、再鬼どん、ソラトバンに、おふくろさんである。
おふくろさんは、ソラトバンが抱っこしておる。
・・・ちなみに、チラーニ&チーニャは、(またしても)お留守番である。
「チー姉、メッチャ文句言うとったわ」と清雅。
<そら、面白そうやからな>と浮鬼。<俺も行きたいぐらいや>
<一斉に居らんようになると、コボルドが混乱するけぇ・・・>
おふくろさんがしゃべると、振動が伝わってきて、くすぐったかった。
幽雲洞に入り、工房から飛び降り、横穴くぐり、浮上してまた横穴くぐり、幽雲のところへ。
「おおう! やっと来たか!」
大喜びする幽雲どん。
ひとつしかない目をニコニコとさせ、モジャモジャのヒゲを波打たせる。
「どうも。こんにちは」
清雅があいさつをし、指揮を執る(とる)。
「まず、幽雲様ですけども」
「おう! なんじゃ?」
「寝てください」
「寝る?」
「冥界行っとるあいだ、本体、意識なくなるんです。立っとったら、コケますで?」
「そりゃいかん。じゃあ、わしの寝室に行こう」
というわけで、巨大なトンネルくぐって、幽雲どんの寝室へ。
4つの壁すべてに穴が掘ってあり、天井にも穴が開いており、床にもはね上げ戸がある。じつに幽雲どんらしい部屋である。
幽雲どん。横穴のひとつに、潜り込む。なんと、そこがベットなのであった。腹這いになって、こっちを見てくる。
「仰向けで」
「仰向けか」
モゾモゾ。寝返りを打つ。洞窟が揺れた。
「ほな、うちらも。幽雲様から離れた位置に」
「わかったわい」
幽雲どんが寝ボケたら、わしら、死ぬもんな。
浮鬼どんに、部屋の隅でしゃがんでもらい、その側に寝ることにする。
おふくろさんは壁際に転がし、石を噛ませて転がらんようにしといた。
・・・ちなみに、浮鬼&再鬼は、お留守番。冥界には行かん。万が一に備えて、ここで待機するのだ。
「ほな・・・」
清雅が隣に来て、あぐらをかいた。
幽雲どんから借りた毛布をモコモコと自分の周囲に丸めた。
杖を取り出した。『魔泉の杖(ませんのつえ)』──マナめっちゃプールできる杖である。
それを突き上げて、詠唱した。
「現世から、六腕三眼(りくわんさんがん)、冥界神(めいかいしん)の御国まで、旅行をします~。
我は清雅、六間洞(りっけんどう)の鬼術師、冥界神の子孫なり。
幽雲さま、弐ノ塔さま、ソラトバンの3人を、案内して参ります。
冥界の法、いちいち正しく守りますんで、どうぞお認めください~・・・」
詠唱を聞いとるうちに・・・
だんだん、まぶたが重たくなり・・・
「・・・ぐう」ソラトバンは、眠りに落ちた。
気がつけば、真っ暗な洞窟の中。
サラサラと水の流れる小川のそばに立っておった。
「む? 見覚えのある、ほらあなじゃ」
「そらそうやろ」すぐ脇で清雅。
「うおっ!」ソラトバン、ビビる。「あービックリした。ここ、アレじゃな? 冥界の入り口」
「そうや。おまえが行き損なったとこや」
「やっぱりな」
ゴツゴツした岩壁。
壁際には、坂道を登ってくる、不思議な小川。
間違いない。以前殺されたときに見た、あの景色である。
「うむ。『夜目』のおかげで、前よりはっきり見えるわい」
「見るモンあるか?」
「なんもないのう」
しゃべっておると。
ふわ~ん・・・と、八角錐が現われた。
弐ノ塔のおふくろさん・・・の、ようだが。なんか、姿がちがう。
<腕がないんじゃが・・・>
「本来の姿になっとるんですわ」と清雅。
<ああ、そうか。いま、本塔なんか、私>
おふくろさん。
ソラトバンを見、清雅を見、上を見、下を見る。
<にしては、小さいようじゃが・・・>
「そのへんは都合ええようになるんですわ。広いトコ出たら、大きくなりますで」
<ああ、そうか>
しゃべっておると。
ぼや~ん・・・と、ヒゲもじゃの、目がひとつしかない男が現れた。
「なんと! ソラトバン、おまえさん、メチャクチャでっかくなっておる!」
「いや、幽雲どんが萎んどる(しぼんどる)んじゃ」
「なんと!」
「さ、揃いましたね」
清雅は、みんなをまとめた。
坂道の下を指して・・・
「ほな、冥界旅行に、出発進行~」
◆ 63、三つ首の、イヌ ◆
てくてくてく・・・
坂道を下る。
「冥界っちゅうのは、退屈なトコじゃな」と、ソラトバン。
「わしもそう思っとったとこじゃ」と、幽雲どん。「穴掘っちゃいかんか?」
「ここはやめといてください。死んだ人が、みな迷うてまう」
「迷うぐらいのほうが、面白いと思うんじゃが」
「そうは行かんのじゃ。幽雲どん」
「なんでじゃ」
「人間は、幽雲どんほど、洞窟がわからん。迷路っちゅうもんを、楽しみ切れんのじゃ」
「かわいそうにのう」
しばらく歩いておると、行く手から轟音が聞こえてきた。
ぐおー。ぐおー。ぐおー・・・。
「なんじゃ!? 地崩れか!」
「いや、ちがうわい。生き物が居るんじゃないか?」
「生き物じゃと。冥界なのに」
「見てみるとしよう」
ソラトバンと幽雲どん、仲良く駆け出し、下ってゆく。
すると、大きな部屋に行き当たった。
部屋のほとんどを、大きな大きな、黒い毛皮がふさいでおる。
黒い毛皮。
ぐおー、ぐおー、ぐおー・・・と、轟音を立て、ふくらんだりしぼんだりしておった。
「なんじゃ、これは・・・!」
「ケルベロスや」清雅が追いついてきた。
「けるべろすじゃと」
「ケルベロスさま、通りますでー?」
ぐおー、ぐおっ、ぐお・・・?
轟音が止まり、黒い毛皮がモゾモゾっと動いた。
ニョッキリ。
巨大なイヌの頭。
毛皮の中に、立ち上がった!
「うおっ! お化けイヌ!」
ニョッキリ。ニョッキリ。巨大なイヌの頭。さらに2つ、立ち上がった。
「うおっ、3頭も居る」
ヌーーー・・・。
黒い毛皮が、立ち上がった。
3つの頭。
4本の足。
1本のしっぽ。
見上げるほどデカい、真っ黒なイヌである!
・・・ん?
「足の数が合わんようじゃが」
「しっぽの数もじゃ。1本しかない。頭は3つあるのにから」
ソラトバンと幽雲どんが、首をひねっておると。
三つ首のイヌが、ガ・ガ・ガッと、牙を剥き出して・・・
「「「誰死なや者んオややマな。エい何!なの?騒冥ぎ界鬼や行術?く師んかか?!」」」
一斉に、しゃべってきよった!