◆ 64、おそろしいところじゃ ◆
三つ首の魔犬!
ソラトバンと幽雲(小っちゃい)の前に、立ちふさがる!
「「「お珍そ、しっ巨いち人取のかり浮?合かわん久せどしやるぶなんり?はや、な誰。や?」」」
三つの首で、同時に吼える(ほえる)!
「なんて言うたんじゃ?」と、ソラトバン。
「わからん」と、幽雲。
「「「鬼大人術し起師たこかこしっととてやい訊あていらなとへんんんやね。・ん・。・。」」」
全然わからん。
2人が、ひとつしかない首をひねっておると・・・
「まいどー。鬼術師の清雅です~。ちょっと冥界行ってきますわ」
黄色い服ヒラヒラさせて、清雅がスーッと通り抜けた。
すると。
「おう」「清雅ちゃんか」「行ってらっしゃい」
三つの首が、順番に、しゃべった。
「ふつうにしゃべりよった」
「なんで最初からそうせんのじゃ」
2人がブツクサ言うと、
「「「なななんんにじかブゃ文ツワ句クレあサ!ん言のうかと!んじゃ!」」」
また一斉に吼えてきよる。
「いや・・・なんじゃ。寝とるとこ、失礼した。三つ首のお犬様」
ソラトバン。適当に、相手をなだめる。
「清雅に案内されて、ちと冥界行くんじゃ。騒がしくして、すまんことじゃ」
「「「・わ殊・か勝・れなうばこむえと。えやけなど。な。」」」
魔犬。
しばらくソラトバンと浮かんどる弐ノ塔を見比べておったが、やがて地面に『伏せ』の姿勢となり、
「「「ぐすぐうやお・・ー・・・・・・。。・。」」」
イビキをかいて、眠りに落ちるのであった。
「なんじゃアレは・・・」
「ケルベロスさまァ、アレや、」
先に進みつつ。
案内人・清雅様に、解説を求めると。
「外から入ってくるヤツは素通しやから、あんま気にせんでも大丈夫や」
とのことであった。
「わしら、立ちふさがられたんじゃが」
「オマエが騒がしくしたからや」
「すまんことじゃ」「すまんことじゃ」
「幽雲様はええんです。アカンのはソラや」
「なんでわしだけ」
「外からは素通しとして、中からじゃと、どうなる?」と幽雲どん。
「止められます。死人が外出るのはアカンねん」
「あれ? ほじゃ、わしら、出れんじゃないか」
「ウチらァ、歩いて出るわけやない。術解除したら、本体に戻るんや」
「はぁ・・・」
訳のわからん話じゃ。
「あの人なー、気ィ向いたら丁寧にしゃべってくれんねんけどなー」
「あの人」
「ケルベロスさま」
「ああ。清雅には、ふつうにしゃべっとったのう。気に入られとるんか」
「スケベ犬やからなー」
「なんちゅうこと言うんじゃ」
と、しゃべりながら歩いておると。
ヒョイ!
ソラトバンの横を、白骨がすり抜けた。「おっと、ごめんなさいよ」
「おお、すまんことじゃ。よそ見して」
「いえいえ。冥界旅行ですか?」
「あ、はあ。そうなんじゃ」
「よい旅行を」白骨は、頭を下げた。
「こりゃどうも」ソラトバンも、頭を下げた。
「ほな、私はこれで」
歩み去らんとする白骨。上げた頭が、弐ノ塔にぶつかった。
かこーん! からん、ころん・・・。
しゃれこうべ、すっ飛ぶ。暗闇の中へと、転がった。
「うわー。頭が落ちてしもうた」
「ソラ、そっち行ったぞ」
「おおう! 任せよ」
ソラトバン、『夜目』を発動。
暗がりに転がり込んだしゃれこうべを拾って、頭のない白骨に、返してやった。
「いやー、こらどうも、すんません」
「いえいえ。ウチの塔が、すまんことじゃ」<なんで私が>
「いえいえ。どうもどうも。ほな」
白骨。今度こそ、歩み去った。
ソラトバン、その背中を見送って・・・、
・・・・・・・・・、
「しゃれこうべじゃ!!!」びっくり仰天した。「骨が、立って歩いておる!!!」
「反応遅いわ」
「恐ろしいところじゃ、冥界・・・」
「まったくじゃ」
◆ 65、冥界の大洞窟 ◆
やがて、坂道を下り切って。
ほらあなは、巨大な空間へと、接続された。
その空間。
広いことといったら!
「外に出たんか?」と、ソラトバンが錯覚する(さっかくする)ほど。
「いや。洞窟じゃ」幽雲どんが、すぐさま見抜いた。「ほれ、壁が内側に湾曲しておる」
「なるほど! さすがは、幽雲どん」
「なーに」
「穴掘って行方不明になるだけのことはあるわい」
「・・・バカにしとるのか?」
一行は、その広い広い、巨大洞窟へと、足を踏み出した。
すると。
にょきにょきにょき・・・・・・・・・
幽雲どんが、入道雲のごとく、伸び上がった!
ぐい~~~ん・・・・・・
弐ノ塔のおふくろさん(本塔状態)が、本塔の大きさに、ふくらんだ!
「おお! 2人が、でっかくなった!」
「便利やろ?」と清雅。
「便利っちゅうか・・・!」
びっくりするソラトバン。
彼以上にびっくりし、感動しておったのは、幽雲どんであった。
「おお! おおう!」
涙を流さんばかりに感動しておる。
ちと、おおげさじゃな。変じゃぞ。これ絶対、なんかいらんこと考えとるぞ。
そう思うたソラトバン。訊いてみた。
「どうしたんじゃ? 幽雲どん」
「ソラトバンよ。わしはやっぱり、穴を掘るぞ!」地面を掘り出した。
「なんでじゃ」
「ええから、見ておれ!」
幽雲どん。
巨大な手で、ガッパガッパと穴掘ったかと思うと・・・
ピョーン!
ジャンプして、そこに飛び込んだ!
シュルシュルシュルル・・・・・・・・・
幽雲どん、見る見るうちに、小っちゃくなって!
穴の中に・・・スッポリ!
土ン中から顔を出す、野ウサギのごとく、穴の中に収まった!
「ドウジャ!」
「おおう!」
「コンナ小サナ穴ニデモ、入ッテミルコトガ、デキル・・・!」
小っちゃな幽雲どん。
喜びに、うち震え・・・
「コンナ楽シイコトガ、他ニアルカ?! ワシャ、モウ、冥界デ暮ラスゾ!」
キィキィと、叫んだかと思うと・・・、
さらに穴を堀って、地面の下へと、消えてしもうた!
「あれ」
「止めんかい」
「なんでわしが」
「オマエが止めんかったら誰も止められへんやろ・・・」
清雅、ため息つく。
しばらく、空っぽになった穴を見て・・・
「ま、ええわ」切り替えた。
「ええんかい」
「もともと、ウチら2人のつもりやったんや。オマケが消えても問題ない」
≪オマケじゃと≫
「とっとと行くぞ。あんま時間かけたら、ウチらの本体が衰弱する(すいじゃくする)」
「そりゃいかん。急ごう。幽雲どんは?」
「知らん。遊ばせとけ」
「ひどい扱いじゃ!」
「面倒見切れん」清雅、首をコキコキした。「急ぐぞ。冥界は広いんや」
歩き出そうとしたところで。
≪なんで、歩く≫
弐ノ塔のおふくろさんが、響き渡る声で、2人を呼び止めた。
≪わしに乗らんか≫
ぷしゅー・・・。
空気の抜ける音立てて、おふくろさんの入り口が開いた。
「あ、そうか。元のサイズに戻ったんじゃものな」
乗りかけたソラトバン。
突然、足止めた。清雅がぶつかる。「ふぎゃ!」
「すまん。・・・乗っとる最中におふくろさんが縮んだら、わしら、死なんか?」
「わからへんけど、」
「やめとこ」
「わからへんけど、ここで死んでも術解けて戻るだけや。本体は死なんぞ」
「ほじゃ、乗ろか」
入り口へ、よじ登る。
・・・なんせ、鬼械人サイズの入り口ですからね。『玄関』が、2階ぐらいの高さのとこにあるのだ。
清雅はヒョヒョイ上がってゆくが、ソラトバンはちょっと苦労した。
「樵(きこり)やのに、登るんヘタクソやな」
「そんな毎日木ィ登っとるワケじゃないけぇ・・・おまえさんは、器用じゃな」
「オーガやからな。洞窟みたいなモンや」
「なるほど」
2人、本塔に入る。玄関が背後で閉じた。
「弐ノ塔ママ、行き先わかります?」
≪いま、身内に連絡を取っておる≫
「あ、そうじゃ!」
「なんや」
「死んでも死なんのじゃろ? ほじゃ、屋上行ってもええんじゃないか? どうじゃ、おふくろさん」
≪まあ、そうじゃな。ええじゃろ≫
「よし、行くぞ!」
◆ 66、冥界の空 ◆
ソラトバンと、清雅。
エレベーターに乗って、屋上へ。
そこは、あの屋上──ショラン・ギサンチ州へ出発する前に、ソラトバンの歓迎式をやった、あの屋上である。
広々とした、鉄板・・・
歩くと、ゴォン、ゴォンと音がする。
ふだんは、禁止なのだ。空飛んどるときに、屋上に出るのは。
だからこそ、一回やってみたいと思っておった。
「やったぞ!」
「おおー!」清雅も、喜んでおる。
遥かに見渡せる、冥界の景色。
陽光のごとき光が降り注ぎ、広大な空間、光り輝いておる。
波打つような麦畑。
緑の森。
湖もあり、川まである。
街らしきものもある。いろんな時代、いろんな国の建物が、あっちこっちに群れておる・・・
そんな光景が、ゆったりと、眼下を流れゆく。
空を飛ぶ塔の上からしか味わえん、この景色・・・
「ホンマに広いのう。なんじゃこれ!」
「そやろ?!」
清雅は、端っこまでテケテケ走ってって、空に足投げ出して、座った。
「おい、危ないぞ。落ちるぞ」と言うと、
「そんときゃ、オマエも道連れや」とズボン掴んできた。
「冗談じゃないぞ。放せ」
「ウキキ」
空をゆく本塔。
しばらくすると、左手に宮殿みたいな建物が見えてきた。
「お城があるわい」
「冥界神の宮殿やな」
「めいかいしん」
「鬼神さまや」
「きしん・・・オーガの神様か」
「そうや。六腕三眼、冥界神」
「りくわんさんがん・・・ああ、それでか!」
「なんや?」
「再鬼の兄貴、『六腕ロボ』に、こだわっとるじゃないか。あれ、神様にちなんでの名前なんじゃな」
「ンあー・・・」
「ちゃうんか?」
「・・・いや。ま、男はヘンなトコこだわるからな」
「おまえさんは、こだわらんのか」
「アレどう見ても二腕ロボやろ」
「じゃよな」
「浮鬼や兄鬼の前では言うなよ。キレるぞ。アホやからな」
「・・・うむ」手遅れじゃ。「もう言うてしもた」
「アホ」
・・・このようにして、弐ノ塔が飛び去って。
半刻(約1時間)ほど後の、大洞窟入り口では。
「アレ?」
幽雲どんが、ヒョッコリ顔を出して、左右を見回しておった。
「アレレ? オーイ、ソラトバン。ドコ行ッタンジャ?」
◆ 67、トンボの元へ ◆
弐ノ塔に乗って空飛んでおると、彼方からこっち目掛けて何かが飛んできた。
「1、2・・・3台飛んでくるぞ。丸っこいのじゃ」
「警備隊かな」
飛んできたもの。
赤くて丸っこい・・・カブトムシみたいな・・・いや、カナブンみたいな・・・
羽開かずに飛んでおるので、虫ではないんじゃろうが・・・
不思議な物体であった。
一体なんじゃ? と、見ておると・・・
2台が、クルッとUターン。
元来たほうへ、飛び去った。
1台だけ、近寄ってきて、屋上の周囲を大きく旋回する。
まこと、不思議な飛行物体であった。
大きな三日月のような頭をしておる。そのカブトに守られるように、四角い台がある。人間が何人も乗れそうな、でっかい台である。把手みたいなもんもあるから、どうやら乗り物らしい。だが、人は乗っとらん。座席もないし。
して、その台のお尻のところに、シッポがある。長い、剣みたいにスマートな・・・ただし、竹みたいに節のある、シッポである。
「鬼械人か? いや、それにしては、関節がないぞ」
「あー!」清雅はポンと手を打った。「空飛ぶ台!」
≪そうじゃ≫と、おふくろさん。
「なんじゃ? そらとぶだい?」
「鬼械人のご先祖さまみたいなもんや」
「なんじゃと!?」
≪トンボのところまで、案内してくれるそうじゃ≫
「いつ話したんじゃ? 何も聞こえんかったが」
≪わしら、声出さんでも話はできるけぇ≫
「あちらさんも、鬼械人なんか?」
「空飛ぶ台や」
≪彼は、弐号(にごう)という。わしの兄貴みたいなもんじゃ≫
「なんと」
≪わしと番号が同じじゃで、彼が案内してくれるんじゃと≫
「そ・・・そうか?」
なんだかわからんが。
ソラトバン、とりあえず、手ェ振って・・・
「おーい、弐号どん。案内ありがとさんじゃ!」
あいさつしてみた。
すると。
ぶわっさ!
と、音を立てて(翼はついとらん。どっからともなく、そんな音がしたんじゃ)。
グリグリグリ!
空飛ぶ赤い台。進行方向を軸に、回転(ロール)した!
「おおう!」
グリグリグリ・・・錐(きり)のようにねじれながら、グルングルンと塔の周囲を飛び回る。
ものすごい運動性能である。のだが。
しばらくそれをやって、目が回ったのか。本塔のほうへ、フラーッと、近付いてきた。
「うわあ!」
「あぶな」
2人の頭上を、すっ飛んでいく。風で、ソラトバンの髪がグシャッとなった。
≪あぶないわ!≫
おふくろさんが、ちょっとキレた。
ぶわっさ! ピョーンとハネるようにして、空飛ぶ台は距離を開けた。
「ごっつい機敏じゃのう」
≪うむ≫
「チラーニどんも、ああいうの、できるんか?」
ソラトバン。
チラーニがぐりぐりねじれながら飛ぶところを想像する。
・・・中乗っとったら、死にそうじゃ。
≪いや、できん。浮上筒に、あんな力はない≫
しゃべっとるのが聞こえたか。
弐号。
空中でデングリ返りしたり、宙返りしたり、後ろ向きに飛んで見せたりと、ムチャクチャしだした。
「わはは。わかったわかった。あんたはすごい。弐号の兄貴」
≪もうええから、ふつうに飛んでくれ。弐兄ィ≫
ぶわっさ。
「・・・ご先祖さまには、鬼械人にできんことができるんじゃな」
≪いや≫
おふくろさんは、少し声を落とした。
≪トンボたちは、できたそうじゃ≫
しばらくして。
空飛ぶ台・弐号。
赤いボディが、急降下。前方の地面で、ぐるーんぐるーん・・・と、円を描き始めた。
≪あそこのようじゃな。2人は、席につけ≫
「了解じゃ」
弐ノ塔は減速し、サインされた位置の真上で止まって、ゆっくりと、降下した。
ずずーーーん・・・。
塔の中に、着地の震動が伝わってきた。
≪着地完了じゃ。動いてええぞ≫
と、おふくろさんが言うのを待って。
立ち上がった2人は、玄関に向かって、駆け出した。
「不思議なもんじゃな!」
「なにが」
「冥界じゃのに、ズズーンって、現実みたいで」
「ああw」
ぷしゅー・・・。
玄関の扉が開いて、突き出し扉床となって。
そのすぐ先に、
<おう。ソラトバンと、清雅か。よう来たのう>
鬼械人・トンボが、立っておった。
◆ 68、トンボ、飛ぶ ◆
うっすら黄金に輝く、スマートなボディ。
背中には、透き通る4枚の羽。
鬼械人・トンボ。
スラッとした姿で、立っておる。
デカい。
チラーニよりは小柄なトンボだが、やはり・・・デカい。
突き出し扉床から、トンボの頭部を見上げる、ソラトバンと清雅であった。
「お・・・おおう・・・!」
ソラトバンは、言葉が出せんかった。
清雅のほうが、先んじる。
「初めまして。トンボ様。六間洞(りっけんどう)の鬼術師・清雅です」
「あ、ソ、ソラトバンじゃ。弐ノ塔の乗り手のじゃ」
<うむ>
トンボはうなずいた。
<ワシが、トンボじゃ。話があるそうじゃな? 来てやったぞ>
「お、おう。あの、呼び出してすまなんだ。ええと・・・」
ソラトバン。
動揺する。
いきなりこんな、目の前に、動いてしゃべるトンボどんが出て来ると思っておらんから。
ずーっと前に(百年も前じゃったか?)死んだという、トンボが・・・
筒を引っこ抜かれ、スカスカした無惨な姿にされておった、あの鬼械人が・・・
<わっはっは。落ち着け、ソラトバンよ>
などと、笑ったりするのだから・・・!
「・・・すまんことじゃ」やっと、落ち着いた。「どっか、落ち着いて話せるとこはあるかのう?」
<うむ。今日は、特に予定もない。おまえたちの術の時間ぐらいか>
「術はまだ。半刻も経ってませんので」と清雅。
<そうか。ほじゃ、ちと、飛ぶか>
「とぶ?」
<ワシがどういう鬼械人か。自己紹介するには、これが一番じゃ。よいしょ>
かぱ。
トンボどん、手を伸ばして、自分でハッチを開いた。中に、2つの座席が見える。
<飛ぶのが嫌いでなければ、ホレ、乗った乗った>
「大好きー!」
清雅がハッチに飛びついた。後ろの席に座る。おそらく、そこは弓手(ゆんで)席であろう。手元のレバーの位置を確認したりして、ニコニコしておる。
ソラトバンも、もちろん・・・
ガチガチに緊張して、乗せてもろうた・・・
のであるが・・・
<ほじゃ、飛ぶぞ>
トンボどんが、冥界の空に、舞い上がると・・・
「ウキキ!」
<トンボよ、ちょっと待て。ついて行けん>
<そこで見とれ。すぐ戻ってくるで。──飛ばすぞ!>
「キャーーー!!!」
はしゃぐ清雅の歓声。
通信する弐ノ塔の声。
小さな覗き窓の外で、グルングルンと回転する世界。
そんな、周囲の動きに、反応する余裕もなく・・・
ソラトバンは・・・
なんじゃこれ? なんじゃこれ?
いま、わし、どうなっとるんじゃ?
落ちとるのか? 上がっとるのか?
曲がっておるのか? 錐揉み(きりもみ)か?
「ウキャーーーー!」
清雅の楽しそうな声を、聞きながら・・・
なにがどうなっとるのか、わからん!
ソラトバンは、内心、そう叫び続けるのであった。
・・・やがて。
<トンボより、弐ノ塔へ。ワシの着艦を許可されたし>
<勝手なヤツじゃ。屋上でええんか?>
<ええぞ>
<屋上への着塔を許可する>
という、やりとりがあって。
ズシーーン・・・。
トンボは、浮遊しておる弐ノ塔の屋上へ、見事に空中着艦してみせたのであった。
◆ 69、ソラトバン、泣く ◆
<いやー、久しぶりに、人を乗せたわい!>
「面白かった!」
<そうかそうか。そんなに楽しかったか>
「何ッ回でも、飛びたいぐらいですわ」
<そりゃあ、良かったわい>
トンボどんと清雅。楽しそうに会話しておる。
<昔は、清雅みたいな子がいっぱい来たんじゃが。最近は、誰も来んのじゃ。あきられたんかのう>
「あきるかなぁ? 遠慮しとんちゃいます?」
<そうかのう>
そんな楽しそうな2人の横で。
ソラトバンは。
「・・・。」
ちょっと、うつむいておった。
ぽた、ぽた。床に、涙が落ちる。
「ソラ。どないしたんや?」
「なんでも・・・ないわい」
「・・・そうか。ほな、先降りるわ」
清雅はサッサと降りて、弐ノ塔の中へ引っ込んだ。
<どうした>と、トンボどん。
「う・・・うむ・・・」
ソラトバン。
顔をこするが、滴がポタポタ、床に落ちる。
「すまん。すまんことじゃ」
<なにがすまんのじゃ>
「いや・・・見苦しいところを・・・」
<大したことはない。じゃが、なんで泣く>
「わし、ずっと、憧れとって」
<・・・。>
「それじゃのに・・・楽しむこともできず。こ、声も出せず・・・」
若き樵は、拳を握り締めた。
「わしゃ、やっぱり・・・ソラトバンなんじゃと・・・!」
<どういう意味じゃ?>
「み、みんなに言われた通り・・・空なんぞ、飛べん男なんじゃと・・・!」
声を殺して、泣く。
「すまん。も、もう、出るで・・・」
<ソラトバンよ>
「・・・。」
<おまえさん、飛んだじゃないか。いま、まさに>
「飛んだのは、トンボどんじゃ。わしゃ、なんもしとらんで」
<当然じゃろ。人間なんじゃから>
「・・・。」
<失神でもしたんなら、追い返すつもりじゃったが、>
「・・・は?」
<『オマエには無理じゃ!』とか言うてな。意外に、粘ったのう>
トンボは、あぐらをかいた。
ハッチ開けたまま、ゆっくりと弐ノ塔の屋上に座り込んだのである。
ブーン・・・・・・・・・
羽音であろうか? トンボどんの背中で、音がした。
<ワシも、衰えた(おとろえた)。たかが人間に、『飛んだウチに入らん』みたいなコト、言われるとは>
「そんなこと言うとらん」
<言うたじゃろ。飛ばんかったと>
「くそ。そうか。すまんことじゃ」
ソラトバン。
やっと立ち直って、ベルトを外した。
涙を拭いて、シャキッとする。
「いまのはナシじゃ。飛ばせてくれて、ありがとさんじゃ。ほじゃ、降りるぞ」
<うむ>
弐ノ塔の屋上に降りて、トンボに向き合う。
「あらためて! 弐ノ塔のソラトバンじゃ」
<おう。冥界の、トンボじゃ>
◆ 70、ソラトバン、トンボと交渉す ◆
弐ノ塔のおふくろさんを呼んで。清雅を呼び出してもらって。
ソラトバンは、トンボとの交渉を開始した。
「トンボどん。あんたの遺体が強奪されたことは、知っとるか?」
<知っとる。帝国の部隊長に、かっさらわれたそうじゃな>
「帝国の部隊長?」と清雅。
<おや、知らんのか?>
「・・・うむ、知らなんだ」とソラトバン。「バッツワーノ隊長かのう?」
<そいつじゃ。鬼械人部隊長、トントバッツワーノ。ヤツの顔を知っとるゴブリンが、現場を目撃した>
「そのゴブリンはどうなったんじゃ?」
「殺されたに決まっとるやろ」
<うむ。冥界に落ちて来てな。えらい悔しそうに、ワシんトコに来たわい>
「そうか・・・」
<奪還してくれたこと、ありがとさんじゃ。そのゴブリンも喜ぶじゃろ。──ほんで?>
「うむ。ほれでじゃがな・・・」
ソラトバンは、説明をした。
トンボどんの『力の筒』が、みーんな引っこ抜かれておったこと。
その姿を見て、修理をしようと決めたこと。幽雲どんの協力。
そして、完全には直せんかったということ。
「・・・ひとつだけ、わしらじゃ直せんトコがあるんじゃ。なあ、おふくろさん?」
≪うむ。呪文版じゃ。あれが、手に負えん≫
<なるほどのう>
トンボはうなずいた。
<ワシのは、『結ぶ』のルーンで造られた合金じゃ。直すにも、ルーンがいるハズじゃ>
≪やっぱりか≫
「そういうワケでじゃ。トンボどんの遺体を完全に直すことは、できなんだ。すまんことじゃ」
<なにを。謝ることじゃないわい>
「あんたの遺体については以上じゃ」
当の本人に向かって、遺体の話をする。まこと、奇妙な一幕であった。
「で、ここからは、わしのワガママなんじゃが」
<なんじゃ>
「わしゃ、トンボどんがもう一度、空を飛ぶところを見たい」
<フーン>
「トンボどんは、どうしたい?」
<・・・うん?>
「現世に戻りたいか? なら、わしらは蘇生をする。この清雅がやってくれるわい」
「うむ。六間洞の清雅がやりますで!」
「あるいは、冥界で静かに暮らしたいか? なら、わしらは葬式をする。あんたを、きちんと、見送ろう」
<・・・筒は、買うたんじゃないのか?>
≪買うた≫と、おふくろさん。≪3セットな≫
<じゃろ? 高かったハズじゃ>
トンボは、首をひねった。
<・・・取引にしては、そうした条件が出とらんようじゃが?>
「取引のつもりはない」
ソラトバン。
若者ならではの、無欲なおしゃべりをした。
「わしが憧れとった空飛ぶ巨人に、遺体のことを伝えに来たんじゃ」
<さっき、『空飛べ』とか言うたじゃないか>
「いや、そりゃあ、わしを乗せて飛んでくれたらなぁ・・・と、思ってはおったぞ」
<じゃろ?>
「じゃが、その夢は、さっき果たしてくれたし・・・」
空を見上げる。
冥界の空は、昼下がり。眠たくなるような陽気であった。
「・・・来てみたら、ええトコじゃしのう。冥界」
<なんのこっちゃ>
トンボは、少し呆れたようである。
<ワシを戦に利用するつもりかと思うたら>
「全然ちがう」
<ワシが蘇ったら、そうなるぞ?>
「・・・まあ、無事には済まんじゃろうが、利用するつもりはないんじゃ」
<どんなつもりだろうが、現実には、ワシは戦うハメになる>
「むむ・・・」
ソラトバン、少し反省した。
「・・・わかった。ほじゃ、戦士として、きちんと待遇の交渉をしよう。これでどうじゃ?」
<ふむ>
「条件が折り合わんときは、蘇生はナシ。──六間洞は、これでええか?」
「ま、ええやろ」清雅、ちょっぴり、満足げであった。
<『言うこと聞かなんだら、蘇生はせんぞ』っちゅうワケか?>
「そんなんじゃない。トンボどん次第っちゅう意味じゃ。『撃竜界に返せ』と言うなら、そうするし」
≪その場合、費用はキッチリ頂くがな≫すかさず、おふくろさん。
「六間洞とも再交渉してもらうぞ」清雅も口を挟んだ。
「あ、はい・・・」
<ふむ>
トンボどんは、ソラトバンを、じーっと見た(目はないですがね。雰囲気)。
そのあとで・・・
<弐ノ塔よ>
≪なんじゃ?≫
<この男、交渉役には向いとらんようじゃが>
と、言い出した。
◆ 71、トンボ、結論す ◆
「うぐっ」
ソラトバン、よろめく。
おふくろさんのメンツ、つぶしてしもうた! と、ショックを受ける。
じゃが、そんなことには、お構いなく・・・
2人の鬼械人の会話は、始まった。
≪余計なお世話じゃ≫
<なんで交渉をさせた>
≪これは交渉じゃない。取引じゃないと、ソラが言うたじゃろ≫
<わかったわかった。言い直す。なんで、この男に任せた?>
≪──ソラが、私たちを引っ張ったからじゃ≫
<引っ張った?>
≪ソラは、おぬしを見つけ、奪還に加わり、遺体をどうするか? のとき、私を驚かせた>
<・・・?>
≪私はな、トンボよ。帝国に怒りを感じておる。なぜだか、わかるか?≫
<なんじゃ、急に。『弐ノ塔は、人間もオーガも嫌っとる』とは聞いたが>
≪与太(よた)を飛ばすんじゃない。──帝国は、鬼械人を生き物と思っとらん。それが理由じゃ≫
<ふむ>
≪その私にしてからが、遺体をどうするか? のとき、『どう処理しようか』などと、考えた≫
<まあ、鬼械人だからな。部品取りとか、研究とかだろう? それがどうした>
≪ソラは、『トンボどんに訊こう』と言うたんじゃ≫
<・・・なるほど>
トンボどんは、しばらく、色々と考えるようじゃった。
ほじゃけ・・・
ソラトバンは、こっそりと・・・
「・・・おふくろさん。あんた、人間嫌いなんか。やっぱり」
≪やっぱりとはなんじゃ!?≫
「いや、人と関わっとらんし。尼にも冷たかったし」
≪帝国と関わらんのは、危険だから。尼は余所モン(よそもの)だからじゃ≫
「オーガも嫌いやったん?」
≪清雅よ、そなたのことは可愛く思っておる≫
「ありがとう。ウチも。そやけど、撃竜界には冷たかったですよね?」
≪撃竜界は、私を武器として使おうとした。甘んじれば、禍根(かこん)となる。破談にせざるを得んかった≫
「なるほど」
「わしら、邪魔じゃないんじゃな。姐御は」
≪チーニャは、私の娘じゃ。同胞じゃ。私の一部じゃ≫
「そうか」
≪ソラよ、おまえもじゃ≫
「そ、そうか」
そこで、トンボが頭を上げた。内緒話は終わりじゃな。・・・ま、トンボどんには聞こえとったろうが。
<──ソラトバンよ。何か、言うておくことはあるか?>
ありゃ?
交渉打ち切られそうな気配じゃ。
しもた。やっぱり、わしじゃダメか? なんとか挽回(ばんかい)できんか?
──などと、一瞬考えたソラトバンであったが。
すぐに、肩の力を抜いた。
そうじゃないじゃろ・・・
弐ノ塔のおふくろさんが、自分に話をさせたのは・・・
『上手に交渉しろ』とか、そういうことじゃないじゃろ・・・
と、思い直して・・・
「・・・いやー、じつは、わしも一回殺されてのう。清雅に蘇生してもろたんじゃが」
<何の話じゃ>
「蘇生の話じゃ」
<はぁ>
「蘇生したいか? とか言われて、『え?』となる気持ちは、わかるんじゃが──」
「オイちょォ待てや!!!」清雅がキレた。「トンボ様はオーガの英雄やぞ! オマエとはちゃう(違う)んじゃ!」
「そういう意味じゃないわい」
「『蘇生されんの、イヤやろ?』みたいに言うたやろ今ァ~~~」
「言うとらんわい。最後まで聞k──ちょ、やめんか。掴むな。引っ張るな」
「蘇生術けなされて黙っとれるかボケェ~!」
<おいおい。やめんか。ケンカするんじゃない。弐ノ塔も、なだめんか>
≪いま小回り利かんけぇ、私≫
<くそ。・・・わかったから。どっちの言うことも、当たっとる。ほじゃけ、殴り合いはやめよ>
「殴ってへん!」
「わしゃ一方的に殴られただけじゃ」
「殴ってへんって言うとるや・・・ろ!」蹴っ飛ばす清雅。
「ほれ見ろ! これじゃ!」
<はいはい。わかったわかった。よしよし。・・・で、何の話じゃ?>
「つまりじゃ、」
ソラトバン、まだ清雅に襟首掴まれたまま、話を戻した。
「──トンボどん。現世でやりたいこと、ないんか?」
清雅が手を離した。「・・・パクリやん」
ソラトバンは口に指当てて、「・・・しー。静かにしとれ。いてっ」また蹴られた。
<現世でやりたいこと、のう>
「そうじゃ。ええとな、つまりじゃな、」
ソラトバン。
しばらく、自分で自分の言いたいことを整理して・・・
「自由に、好きなだけ、空飛ぶとか」
すると。
キラーン!
トンボの羽が、輝いた。
トンボ・・・
居住まいを、正して・・・まあ、あぐらかいたままじゃが・・・
グッと、ソラトバンを睨んで(にらんで)・・・
<空なんぞ飛んで、なんとする?>
「面白いじゃろ。空飛ぶの」
<なにが面白いんじゃ>
「アホなこと抜かすんじゃないわ。こーんなでっかい・・・」
ソラトバン、両腕を空へと、ブン回す。
「・・・大空を飛ぶの、楽しいに決まっとる」
<ただ飛ぶだけじゃないか>
「それがええんじゃないか」
<危ない>
「危ないが、楽しいんじゃ」
<何の役に立つ>
「知ったことじゃない」
<利用法も考えとらんのか>
「そんなモンは、ケチくさいヤツらが企むことじゃ」
<ワシらは、バカでええっちゅうんか>
「逆じゃ」
<逆とな>
「バカは、他人を利用するぐらいしかできん。空飛ぶのは、トンボどんにしかできんことじゃ」
<ふんw>
ソラトバンは、手を出した。「空飛ぼう。鬼械人よ」
トンボどんも、手を合わせた。<おう。いざ空飛ばん、人間よ>