英雄の蘇生 トンボとレース!
◆ 1、弐ノ塔、帰還す ◆
弐ノ塔(にのとう)は、本拠地に戻った。
カルデラ。
休火山の火口である。
火口といっても、火の気はない。むしろ、水に満ちておる。
いたるところに湧き水が出て、泉となり、湖となる。カエルが鳴き、水鳥が飛び交う。
あっちには野イチゴが群生し、こっちにはコボルドが拓いた野菜畑がある。
向こうの林は果樹園で、こっちの草原には牛と羊が散歩しておる。
──そんな地上の楽園である。
時刻は、夜である。
闇にまぎれて、ゆったりと。
空飛ぶ連塔は高度を下げ、カルデラの中へ沈み込む。
連塔。5基の塔である。
中央に、本塔。巨大な八角柱(はちかくちゅう)の形。下部はすぼまって、八角錘(すい)になっておる。
前後に、飛行塔。本塔よりは小さいが、やはり巨大である。中には、鬼械人を何体も積むことができる。
左右に、小さな補助塔。これは攻撃・防御用の塔らしいが、ソラトバンはまだ詳しいことは聞いとらん。屋上にでっかい砲がついておる。
最後に。この補助塔の屋上、でっかい砲のそばに、鬼械人が立っておった。
丸っこい形をした鬼械人である。上半身はでっかく、腕が長く、脚は短い。クリーム色をしており、あんまり『恐さ』というものを感じさせん外見である。
空中から舞い降りる塔の屋上に立っておるのだが、不安定な様子はない。
よく見れば、その鬼械人の足。ぶっといツメが3本生えて、屋上を走るレールをガッチリと掴んでおった。このツメによって、塔の上に自分を固定しとるようである。
塔は、大きな穴の上へと降りてゆく。鬼械人は、ぴったりとその塔にくっついて、一緒に降下した。
ズズーーーン・・・!
塔が、地面に接触した。
深い穴に本塔の下部を収め、周囲の4塔は地面に突き刺す。
衝撃で多少揺れはしたものの、無事に、地面に落ち着いた。
≪着陸完了。移動を許可する≫
すべての塔にアナウンスが鳴り響いた。
「帰って来たでござる!」「わんわん!」塔の中で、コボルドどもが歓声を上げた。
「問題ないようじゃな」
ソラトバンも、ほっと息をついた。
胸を抑える金属の棒を押し上げようとする。したところ、頭を叩かれた。
「いてっ」
「まだや。『待機』って命令されたやろ」
と、背中のほうから言うてくるのは、清雅(せいが)。オーガの娘である。年頃は、18歳のソラトバンよりも、ちょっと上らしい。美人ではあるのだが・・・
「待機しろ言われたら待機やチョロチョロすんなオマエぁコボルドか」
・・・すごくなめらかにソラトバンを罵ってくるのが、玉にキズである。
「もう大丈夫かと思うたんじゃ」
と、ソラトバンがブツクサ言うと、
<たぶん大丈夫だろうけどね~、>
「そこで油断しないのが、戦士ってモンさ」
チラーニとチーニャの兄妹が、やはり背後から、声をかけてきた。
チラーニは鬼械人。チーニャは人間である。血がつながっとるわけではない。だが本物の兄妹よりも息が合っておる。よく今みたいに2人で1文を分け合ってしゃべり、それがとても自然であった。
チラーニが鬼械人で、ソラトバンたちはそのお腹の中にいるのだ。つまり、チラーニに乗っとるんである。
そしてチラーニは、塔の屋上に、ツメでしがみついて立っておるのであった。
「おまえホンマ急に動くのはアカンぞ? なあ? オイ」
ペチペチ。
清雅が、ソラトバンの肩を叩いてくる。
我らが主人公・ソラトバン。甘んじて叩かれる。
ごもっともじゃ。と、心の中では納得しておるんである・・・
・・・あるんであるが、口ではこう言い返した。
「わしだって、考えて動いとるんじゃぞ。思いつきで動いとるわけじゃない」
「そうかも知らんけどなァ~、いまの場合はな~、待機つづけるとこやろ~?」
「いまの場合」
「弐ノ塔ママとは、いつでも連絡できる状態やろ?」
「そうじゃな」
「ほな、そのうち待機解除の命令来るやろ」
と清雅が言うた、ちょうどそのとき。
<弐ノ塔から通信>
と、チラーニが言った。
「つなげ」チーニャが命じる。
<こちら弐ノ塔>
声玉(こえだま)から、落ち着いた女の声がした。
弐ノ塔のおふくろさんの声──弐ノ塔と名乗る、巨大連塔型鬼械人の、合成音声であった。
<安全を確認した。チラーニ班、待機を解除する>
「チラーニ・チーニャ、了解。待機解除。解散する。お疲れさま、ママ」
<まったくじゃ。今回は、疲れたわい>
「・・・な?」と清雅。
「わかったわい」ソラトバンは、金属の棒を押し上げた。立ち上がる。「連絡ができん場合は、どうするんじゃ?」
「そん時ャ自分で判断せえ。オマエの得意なヤツやろ」
「得意っちゅうワケじゃないが」
<ソラってさ~、樵(きこり)の仕事、1人でやってた?>
「うむ。おっ父が死んでからはな」
<それでじゃない? 自分で決断して、動くクセがついてるんでしょ>
「そうかのう・・・?」
「ま、そのうち慣れるさ」
チーニャの姐御がそう言って、ハッチを開けた。
かぱ・・・。
チラーニどんのお腹、外へと、はね上がる。
夜空が、広がった。
いっぱいの星。輝く月。
冷たい空気が流れ込んできて、3人のいる空間があったかかったことに気付かせてくれる。この瞬間が、ソラトバンは好きであった。
にしても──
高い。
視点が。
地面はほとんど目に入らず、カルデラを形成する峰々と、神々しい夜空だけが、いっぱいに広がっておる。
「んー、いい景色だ」チーニャが伸びをして、外に出た。
「ふわ~ぁ・・・」
清雅は、あくびをした。スルスルと降りてゆく。
ソラトバンも、ハッチから首を出した。下を見る。
高い。
屋上の床まで、2尋(ひろ)以上あるんじゃが・・・
ハッチからぶら下がったとしても、地面まで、身長一つ分はあるワケじゃが・・・
ハシゴもないんかい・・・
おそるおそる、チラーニどんの脚にしがみついて、降りてゆくソラトバンである。
「遅っそいのォ~」
降り切った後で、清雅が文句言うてきた。
「しょうがないじゃろ・・・」
ふつうの人は、ビビるわ!
ここの女どもが、おかしいんじゃ!
とは、言えんので。代わりに、こう言うた。
「・・・慣れとらんのじゃ」
「慣れとけや」
「階段ないんかい。屋上には」
「ない」とチーニャ。「それに、」
<いつでも階段があるワケじゃないからね~>
──ともあれ。
弐ノ塔は、本拠地に帰還したのであった。
「さーて、次ァ、トンボ様の蘇生やな!」
清雅が気合を入れて、塔の中に降りてった。
◆ 2、英雄の蘇生 ◆
翌朝。
ソラトバンは、本塔へ移動した。おふくろさんの呼び出しである。
明るい飛行塔とは打って変わって、本塔は、内装が真っ黒である。どこもかも薄暗い。床から沸き上がるブルーグリーンの光も、なんとなく、おどろおどろしい。
・・・ま、もうこの景色にも、慣れたので。平気でトットコ走ってゆくわけだが。
目的地。
大きな大きな部屋に、到着した。
すでに、昨日の面々が揃っておる。
鬼械人・チラーニ。でっかい。突っ立っとる。
チーニャの姐御。おっぱいでっかい。突っ立っとる。チラーニどんと同じ姿勢である。
清雅。今日は、いつもより豪華な服装で、きらびやかなワンド──魔泉の杖(ませんのつえ)を、胸に抱いておる。マナを貯め込める、貴重な貴重な、魔法の杖らしい。
そして、弐ノ塔。
ふわ~ん・・・と、宙に浮かぶ、八角錘の飛行物体である。目はひとつだけ。細い両手は2叉フォーク。脚はナシ。下半身はコマみたいな形をしておる。これ、弐ノ塔の代理。『雑務(ざつむ)ユニット』であった。
「ありゃ。みんな揃っとる」ソラトバン、あわてた。「すまんことじゃ。遅れてしもうて」
「遅れてはない。が、」<オマエが最後じゃダメだよね?>
チーニャ&チラーニが言うと、弐ノ塔の雑務ユニットも、
<まったくじゃ。おまえが言い出した蘇生じゃのに>
「おっしゃる通りじゃ」ソラトバン、頭を下げる。「すまん。お待たせした」
<では、>
くる~ん・・・。
弐ノ塔のおふくろさんは、向きを変えた。
静かに立っておる清雅に、軽く、お辞儀(?)する。
<六間洞(りっけんどう)の、鬼術師(きじゅつし)よ。蘇生の儀式、お願いいたす>
「承った(うけたまわった)」
清雅は、うなずいて・・・
足音もなく、歩いて・・・
黒いフロアの中央にある、プールのそばに、あぐらをかいた。
プール。
中は、オイルでいっぱい。なめらかに波打っておる。
そのオイルの液面の下に、淡い黄金色した鬼械人が、横たわっておった。
チラーニよりひと回り小さく、細い身体。
背中に生えた4枚の羽。透明で、いまにも折れそうに見える。
隔絶した(かくぜつした)技術によって生み出された、人造の巨人──
鬼械人・トンボの、遺体であった。
「ほな、儀式始めますが・・・ウチ、倒れる可能性あるから、支えてもらえますか」
「ん。私がやろう」
清雅の後ろに、チーニャが座った。背中から抱き着く形で、清雅の胴体を支える。
「ほな、始めますわ~」
清雅は、魔泉の杖を上げて、詠唱した。
「六間洞の鬼術師・清雅が、妙雅(みょうが)の息子・鬼械人トンボを、蘇生する。
冥界(めいかい)の掟に従い、月に一度の定めを守って・・・
お呼び立てに、参りまする・・・」
ふにゃ。
清雅が意識を失って、チーニャの胸にもたれかかった。
・・・沈黙。
ソラトバン、チラーニを見上げ、おふくろさんを見る。
<なんじゃ?>
「あ、しゃべってええんか」
<静かにしとくべきじゃが、なんか用事があるんか?>
「いや。ないんじゃが」
<なんなんじゃ>
「わしの時も、こんな手間かけさせたんかのう・・・と、思うてな」
ソラトバン。
森の中で撃ち殺され、清雅に蘇生されたのだ。
しかも、撃ったのはトンボである。まあ、遺体を操られてのことで、トンボ本人に罪はないのだが。
自分の人生、ヘンテコなことになったのう・・・と、思わずにはおれぬ、ソラトバンであった。
「さあ、」<見てないからね~>と、チーニャ&チラーニ。
<・・・清雅は、弱いモンいじめが嫌いな子じゃけぇ>
と、おふくろさん。
<おまえさん、弩砲で撃たれたんじゃろ?>
「うむ。そうらしい」
<人を弩砲で撃つとは、残酷なことじゃ。『許せん』と思うたんじゃないか>
「清雅・・・!」ソラトバン、感動する。
「蘇生の実験がしたかっただけや。──って言ってたぜ?」
「は?」感動、壊れる。
<あ~あ、言っちゃった。オレ知らないもんね>
「照れ隠しかもね?」チーニャは笑って、清雅の髪を撫でた。
<──いずれにせよ、蘇生はオオゴトじゃ>と、おふくろさん。<『力の筒』買うより、蘇生のが、高くついたぞ>
「そんなにか」
ソラトバン、唸る(うなる)。
「どないして返せばええんじゃ」
「そのうち決めるさ。この子がね」
しばらくして。
清雅が、チーニャの胸から頭を起こした。
「・・・トンボ様、帰ってくるぞ」
「おお! 成功したんか」
「退避、退避や! 入り口まで下がれ」
「な、なんじゃ?」
<オレに任せて、みんなは下がって>
どぷん・・・!
プールが音を立てた。かと思うと、
どっ・・・・・・・・・ぼおおおん・・・!!!
オイルをハネ散らかしながら、鬼械人が、起き上がってきた!
<ぬおおおお! お、溺れる(おぼれる)!!!>
鬼械人が叫ぶ。
ガッコーーーン!!!
振り回された手が、プールのフチにぶつかった。
<おおう! 痛い! なんじゃここは! 狭い!>
「トンボ様ァ~~~!」清雅が怒鳴った。「現世(げんせい)です~~~! 暴れんとってェ~~~!」
<現世じゃと!?>
ツノのついた頭を、ブンブン振り回すトンボ。
左右を見たのか?
だがそのせいで、オイルのかたまりがこっちに飛んできた。
「あっぶな!」清雅、避ける。
「ふぎゃ」チーニャの姐御、まともに喰らって、吹っ飛んだ。
「姐御」
ソラトバン、助け起こす。
姐御、上半身、ドロッドロ。ヌルヌルすべる。べっとりと服が重たくなって、おっぱいのラインが浮かび上が──
「どけアホウ」
「いてっ」
清雅にはたかれて(叩かれて)、ソラトバンは役目交代した。その直後、「う~ん」とチーニャが目を覚ます。替わっといて良かったわい。またおっぱいジロジロ見たのバレるとこじゃった。
「ソラがジロジロ見とったで」バレたわ。
「えっ!?」
チーニャ、一瞬で覚醒(かくせい)。オイルまみれの胸元を抱き締める。
おお・・・!
シャツの襟首に、オイルで輝くおっぱいの谷間が深々と・・・!
「この野郎!」
と、ソラトバンが株を下げとるあいだに・・・
<なにやっとんじゃ、ソラトバン>
「おお、トンボどん。落ち着いたか?」
<うむ。美人に夢中の、間抜けな若者のツラを見てのう>
「・・・。」
・・・鬼械人は、落ち着きを取り戻したようであった。
トンボどん。
プールの中から、上半身だけを起こした。
かぱ。
胸のハッチを開く。
ドバー・・・!
中のオイルを吐き出しながら・・・
<弐ノ塔の面々よ。トンボが、お世話になる。どうぞよろしく使うてくれい>
◆ 3、トンボとレース! ◆
トンボの点検整備には、1週間ほど時間がかけられた。
なんせ、百年死んどった鬼械人であるからして。
『蘇生しました』と言うても、まともに動くかわからん。念入りに点検がされたわけじゃ。
で。
1週間後の、晴れた朝。
ソラトバンたち、みんなして、湖にやってきた。
このカルデラで一番でっかい湖である。人間やコボルドが溺れれる程度には深さもある。魚の姿もチラホラ見える。その魚を味わっておった水鳥が、一斉に飛び立ち、逃げてった。
それも、そのはず。
ズシーン、ズシーン・・・!
地響きを立て、蒸気の煙を上げながら・・・
帝国の蒸気械人(じょうきかいじん)が、歩いてきたのだから!
四角いボディ! 長い腕! 短く太く、ガニマタに開いた脚!
ナンガラック!
帝国軍の誇る工兵型蒸気械人が・・・
弐ノ塔の本拠地を、我が物顔で、歩いてきたんである!
<どうだ? ソラ>
「うおお。ぬおお。メッチャ、揺れるぞ! こんな、揺れる、モンなんか?」
ソラトバンが、通信に応えて叫ぶと・・・
<スマンコトジャ>
ナンガラックが、あやまった。
ソラトバンの手元。新たに追加された声玉を鳴らして。
<ナンガラック、オモイ。コノ・・・コノ・・・地面、困難>
「凸凹しとるもんのう! ぬおお」
ズシーン、ズシーン・・・!
地響きを立て、蒸気の煙を上げながら・・・
ソラトバンを乗せて、ナンガラックが歩く。
「ドリナラーニどん!」
<オウ! ソラトバン>
「一歩ごとに、止まったほうが、ええんじゃないか?」
<無理>
「無理か!」
<止マル、歩ク、困難>
「止まったら、動き出すんが、大変なんか!」
<オウ!>
「了解じゃ! 好きにやってくれい!」
──そのナンガラックは、ドリナラーニどんであった。
元・帝国軍所属の、ドリナラーニどん。
かつては、ごく普通の、どこにでもいる、ナンガラックであった。
目は見えず、口も利けず、誰が自分の乗り手なのかも認識できぬ。そのように制限された、帝国の蒸気械人である。
だが、弐ノ塔に鹵獲されて(ろかくされて)、その運命は一転した。
ふだんは、小型鬼械人・ドリノンの姿で、整備や力仕事を担当しとるのだが・・・
今日は、特別!
元の鬼体に戻って、ナンガラックとして歩いとるっちゅうわけである。
なんで、彼(?)を、元の身体に戻したのかというと・・・
<こちら弐ノ塔。4鬼とも、位置についたか?>
<トンボじゃ。こっちはいつでもええぞ>
<浮鬼(うっきー)・清雅や。ええぞ~!>
「ハァハァ。ド、ドリナラーニ・ソラトバンじゃ。こっちも、位置についたぞ。ハァハァ」
<んじゃ、ママ! 合図頼む>
<了解じゃ。では。よ~~~い、>
ドン!!!
弐ノ塔のおふくろさんが、空砲(くうほう)を撃った。
青空に轟いた、その砲声が・・・
まだ、カルデラにこだましとるうちに・・・
浮鬼が、地面を蹴った。浮かび上がって、走り出す。
チラーニがつづく。湖のまわりに生えた葦(あし)を蹴散らして、浮鬼を追いかける。
浮上能力を持つ2鬼の、半浮上ダッシュである。
追うのは、飛行能力を持つトンボ。
<ふはははは、遅い、遅いわい!>
哄笑して(こうしょうして)、ズシンと地面を蹴った。
空中に舞い上がり、もはや地上には触れることなく、羽をブウンと震わせて、加速する。もんのすごいスピードで、羽が動く。人間の目には、もはや羽の位置が見分けられん。上下に溶けて広がった羽は、キラキラ輝く波のようであった。
<ずるい!>
<やる意味ないやろ、こんなレース!>
文句言うチーニャと清雅──チラーニと浮鬼の頭上を、トンボが飛び越した。
<ぬはははは! お先にじゃ!>
ギューーーン・・・と加速して、円を描き、湖の向こうへ飛んでゆく。
ズシーン、ズシーン・・・!
地響きを立て、蒸気の煙を上げながら・・・
帝国の蒸気械人は、このときようやく、前に進み始めた。
「ハァハァ」
<ハアハア>
「地面、すべるじゃろ! ドリナラーニどん」
<スベル。困難。大困難>
「コケるんじゃないぞ。勝てんのはしょうがない。じゃが、コケるのはダメじゃ」
<了解ジャ! ハアハア>
湖畔は、大騒ぎ。
地面は揺れるわ、湖は波立つわ、観戦に来たコボルドどもは走り回って喜ぶわ。
じつに陽気な、大騒ぎであった。
・・・で。
<第1回・カルデラ杯・鬼械人湖畔レース、結果を発表する>
弐ノ塔のおふくろさんによる、結果発表は・・・
<3位。ドリナラーニ・ソラトバン班>
「ハァハァ・・・おう!」<オウ!>
<2位。チラーニ・チーニャ班>
<ん?><3位じゃなくて?>
<2位じゃ。1位、浮鬼・清雅班! おめでとさんじゃ!>
・・・ということであったが。
<おい! おかしいじゃろ!>
トンボが、騒ぎ出した。
淡い黄金色の腕を振り上げ、羽をブンブン言わせて、あっちのほうに座っとる弐ノ塔に抗議する。
<ワシじゃろ! 1位は! 圧倒的に!>
<おまえさんは失格じゃ>
<失格じゃと!?>
<『湖畔を一周』っちゅうたじゃろ。おまえさん、途中、湖をカットしたじゃないか>
<・・・。>
<反則じゃ。失格>
「なるほど! そういうことか!」
ソラトバンは、おどり上がって、喜んだ。
「わっはっは、やったぞドリナラーニどん。トンボどんに勝ったぞ」
<オウ!>
<いや、ちょ・・・ワシのほうが速いのに・・・>
<トンボよ、おまえさんは確かに速かった。よーくわかった。参考になった。では、次>
弐ノ塔のおふくろさん、クールに競技会を進行する。
<第1回・青空杯・タコ乗っかりバトル!>
◆ 4、タコ乗っかりバトル ◆
ガツン! べちゃ。
・・・タコ千里玉の映像が、真っ暗になった。
<落チタ・・・>
「木にぶつかったようじゃな」
<スマンコトジャ・・・>
ドリナラーニどん、しょげた。
ソラトバン、はげます。
「いや、大丈夫じゃ。この勝負、『乗っかられたら負け』じゃ。落ちたって、問題はない」
だが、そこに。
<トンボカラ、通信!>
「通信? 勝負中じゃぞ? ・・・まあええわ、つないでくれい」
<見つけたぞ~~~。このタコは、ソラトバンじゃな~?>
恨めしげな声!
トンボどんが通信を入れてきた! かと思うと!
<乗ったり!>
勝利宣言されてしもうた。
「は?」
<こちら弐ノ塔。ドリナラーニ・ソラトバン、タコ1は撃墜されたぞ。停止せよ>
「ぬう!? 上に乗られたんか!」
<スマンコトジャ・・・>
<ぬわっはっは! さっきワシを笑ったお返しじゃ!>
「なんじゃと! 小さいコトを言う! それでもタマついとるんか!」ソラトバン、暴言吐いた。
<ついとらんわそんなモン! こちとら鬼械人じゃ。ほ~~~れ、2機目はどこかのう~?>
「くそっ! ドリナラーニどん、通信切れ。うっとうしいわい」
<了解ジャ>
<鬱陶しいじゃと!? 小僧、おまe──>ブツ。通信切れた。
「まだ2機あるんじゃ。最後まで、しぶとく行くぞ」
<オウ!>
タコ乗っかりバトル。
それは、鬼械人たちがそれぞれタコを3機飛ばし、上に乗っかる腕を競う、遠隔操作バトルである!
・・・ちなみに、提案したのはチラーニどんであった。
「チラーニの兄貴め。露骨に自分が得意な勝負を提案しよってからに」
<マッタクジャ!>
タコは弐ノ塔とチラーニの子機である。
チラーニはいっつもタコ飛ばしとるので、手足のごとく扱い慣れておる。
ドリナラーニどんなんぞ、今日初めて、この機能使えるようになったらしい。
こんなモン勝負になるか。
舐めとんのか。
と、文句を言ったら・・・
<戦いってのはさァ~、ドリナラーニ君、>「弾撃つ前に始まってるんだよ、ソラトバン君」
・・・と、兄妹に笑われた。
くそっ! 絶対勝つぞ。
いや負けても、チラーニどんのタコを1機は落としてやる!
こうなったら・・・
トンボどんと、密約じゃ!
あの御方、勝負に汚い性格と見た。密約は可能なハズじゃ!
などと、企んでおったのだが。
その矢先の<見つけたぞ~~~>であった。
「トンボどんとは、組めんようじゃ。もはや誰も頼りにならん! わしらだけで──」
<浮鬼カラ、通信>
「・・・つないでくれ」
<こちら浮鬼・清雅や。なあ、ソラ。話があんねんけどな~>
「フッフッフ、みなまで言うな。清雅よ、どっちをやるんじゃ?」
<ウッキッキ、話が早いのう。やっぱァ、チラ兄ィやろ? 厄介なんは>
「同感じゃ」
<ほなそういうことで>
「トンボどんも結構やるぞ。こっちは1機やられたわい」
<了解や>
清雅と密約を組んだソラトバン。
ときどき通信し、情報を交換しつつ・・・
「低く飛ぶんじゃ、ドリナラーニどん」
<低ク? 不利?>
「うむ。ふつうに考えたらな。この勝負、上を取ったモン勝ちじゃ。じゃが、わしらには清雅が居る」
<?>
「わしらが囮になる。チラーニどんとトンボどんを、釣り出すんじゃ。引っ掛かったら・・・」
<こちら弐ノ塔。チラーニ・チーニャ、タコ1停止じゃ>
<ウソだろウソだろ!?><待ち伏せか? 清雅>
<弱いモンいじめしとるからや! ウキキ!>
「カッコええぞ、清雅さま!」
<そうやろ! オラ次行くぞソラァ!>
<コイツら組んでやがんぞ!><ソラぁ~~~・・・! 覚えてろ~~~!>
「次は森じゃ! 森ン中を飛ぶぞ」
<森・・・困難!>
「わかっとる。こうするんじゃ。1機を木の枝ン中に隠してな・・・」
しばし、無言の探り合いがつづいたのち。
タコ千里玉の映像に・・・
高速で飛んでゆく、敵チームのタコが見えた!
「来たぞ清雅! あの色は、トンボのじゃが・・・」
<かまへん。やる。数減らしゃァ・・・>
<こちら弐ノ塔。ドリナラーニ・ソラトバン、タコ2停止。つづいでトンボ、タコ1停止じゃ>
<ヤラレタ>
「構わん。飛べ、ドリナラーニどん!」
<オウ!>
残るタコは、ドリナラーニは1機のみ。
チラーニとトンボは2機ずつ。
浮鬼だけが、3機すべて健在。
数だけ見れば、ソラトバンたちは敗北寸前であるが・・・
「こっちは最後の1機じゃ。1機だけ操るわしらが、一番有利じゃ! 思い知らせてやるんじゃ!」
<オウ!>
・・・タコは、お手玉のようなもの。
数をたくさん飛ばせば、その分だけ、操作は難しくなる。
つまり、1機しか残っとらんドリナラーニどんが、操作性では最も有利になったわけである。
<アカン。ソラ、助けてくれ。向こうも組んだらしい>
「了解じゃ清雅。上、取るぞ」
<この際や、お互い許可しようや>
「おう!」
浮鬼のタコを追いかけ回すチラーニとトンボのタコ。
それをさらに上から追う、ドリナラーニどんのタコ。
タコの性能に、差はない。1機だけに集中して操作するドリナラーニは、見事、トンボのタコの上空へ滑り込んで・・・
<こちら弐ノ塔。トンボ、タコ2停止じゃ>
「よっしゃあ!!! 1機取ったぞ、ドリナラーニどん!」
<オウ!>
<つづいてチラーニ、タコ2停止>
「清雅か? やったのう!」
<おう。お疲れさんやったな、ソラ、ドリナラーニ>
「え?」
<後はウチらに任せて、ゆっくり休んでくれw>
「ちょっと待て。清雅、おまe──」
かこーん。
タコ千里玉の映像が大きく流れ、クルクル回って、地面に激突した。
「あっ」
<こちら弐ノ塔。ドリナラーニ、タコ3停止で、全滅じゃ>
「・・・せ、清雅ァァァ!!! おまえぇぇぇ!!!」
<ウキキキ! 密約なんぞアテにするからじゃ! ええ勉強になったやろ!>
──と、このような、醜い(みにくい)争いの果てに。
<こちら弐ノ塔。勝負あった! 勝者、チラーニ・チーニャ班じゃ>
勝ったのは、チラーニ&チーニャであった。
ま、順当な結果である。
<ざま見ろソラァ!><密約なんかに負けないもんね~~~>
<裏切ったのに負けたわwww>
「覚えとれよ清雅ぁ・・・!」
経過はひどかったが。
<次、列電魔旋弾の試射会>
「れっでんま・・・なんて?」
<列電魔旋弾>
「れっでんませんだん」
<列に、電魔の力を流して撃つ、旋回しとる、弾丸や>
「清雅、いつも解説ありがとさんじゃ」
お礼を言うソラトバンだが、意味はわかっておらぬ。
「・・・ほで、その弾を? 撃つんか?」
<うむ。本来、固定砲台なんじゃが。今日は特別に、鬼械人に撃たせる試験じゃ>
◆ 5、列電魔旋弾 ◆
出て来たのは、浮鬼の身長ほどもある、長~い長い、大砲であった。
砲身はえらい太いが、穴は砲身とくらべてずいぶん小さく見える。
「口径は二寸。チラーニの肩砲と同じだな」と、チーニャの姐御。
<肩砲からは撃てないけどね、この弾は>
「なんでじゃ?」
<火薬入ってないから>
「?」
<電魔の力で、弾を持続的に加速する方式じゃからな>と、弐ノ塔のおふくろさん。
「???」余計にわからなくなるソラトバンであった。
さて。
この試射会は、カルデラで行なわれた競技会とは、別枠である。
コボルドどもに<仕事に戻れ>と命じた、弐ノ塔のおふくろさん。
試射するチームだけを、飛行塔に乗せた。
カルデラを飛び越して・・・
少し先の、谷まで移動して・・・
そこに、着地した。
<カルデラでこれを撃つと、牛の乳が出んようになるんじゃ>
「音がデカいんか?」
<そういうことじゃ>
まず、チラーニどんが、この砲を構えた。
砲には前後に支えの脚が生えておったが、チラーニは後ろの脚をたたんで、脇に抱えた。前の脚は地面に突き刺して使う。
<チラーニ、準備完了。みんな、中に入った?>
「大丈夫じゃ」
<チーニャ、ちゃんと中にいる?>
「ああ。いるよ」
ソラトバンの後ろに立っとるチーニャが答えた。
チラーニの中に居ると万が一があるっちゅうんで、こっちに移ってきたんである。
「そんなに危ないんか?」ソラトバンは、姐御に訊いた。「その、れっでんません弾っちゅうのは」
「知らん。私も、撃つトコは見たことないんだ」
「なんじゃと」
「屋上砲として備えてあるのは知ってたし、仕組みも聞いてるけどね」
<じゃ、撃ちま~す。10、9、8・・・>
<・・・発砲!>
ドガン!
衝撃が、ナンガラックのボディを揺さぶった。
音ではない。
衝撃である。巨大な怪物が体当たりしてきたみたいな衝撃であった。
外が、パァッと明るくなった。
ゴォォォン・・・ォォォン・・・・・・ォォン・・・。
雷鳴のような音が、こだました。
「なにがなにやら」
「ものすごい威力なのは間違いないな。あそこ見ろよ」
チーニャが指差す方を見ると、ずーっと向こうのほうの崖に、穴が空いとった。
だいたい、チラーニの胴体ぐらいの大きさか。
「・・・いまので空いたんか」
「そうだ。さっきまではなかった」
ボロボロと岩が崩れる崖を見て・・・
「これ、清雅に見せたのは、まずかったんじゃないか? オーガは洞窟に住んどるんじゃろ」
「だから見せたんだろ」
チーニャはソラトバンを見てきた。
「清雅も薄々知ってたと思うからな。爆裂弾より強い武器がある、ってコトはさ」
<狙ったとこに当たったと思う>とチラーニ。
<損傷はないか>と、弐ノ塔。
<右の肩がちょっとおかしい。歪みがあるかも>
<やはりか。ウチの鬼械人では無理があるようじゃ。浮鬼はやめにして・・・>
<いや、やらせてくれ。考えがある>
2番手は、浮鬼。
チラーニより小さなボディの、量産型鬼械人である。
大丈夫なのか? と、みんなが心配して見守る中、カウントダウンした浮鬼は・・・
<発砲じゃ!>
ドガン!
発砲と同時に、後ろにスッ転んで、ゴロリと転がった。
「浮鬼どん!」
<・・・大丈夫や。考えある言うたやろ? 受け身取っただけや>
<命中じゃな。損傷は>
<肩がズレた>
<そうか。うまくいなしたのう>
<うむ。そやけど、これァ、手で撃つ砲やないぞ>
<だよね~>
<うむ>と、おふくろさん。<その確認のために撃っとるんじゃ>
<ほじゃ、次、ワシ、やらせてもらうぞ>
トンボが、砲を受け取った。
<・・・もっとも、これ撃つ機会は、ワシにはないと思うがのう>
「戦に出さん、っちゅう約束じゃもんな」ソラトバン、うなずく。
<いや、ま、そこは、甘くは見とらんのじゃ、ソラよ>
「そうなんか」
<うむ。帝国が戦やめる気がないっちゅうのは、冥界で聞いとるからのう>
「そうか・・・」
<撃つ機会ないっちゅうのはな、コレ空中で撃ったら、失速して墜落するからじゃ。わっはっは>
そんなこと言うとったトンボであったが。
意外にも、撃ったあとの損害がもっとも少ないのは、彼であった。
<損傷なし>
<ナシじゃと? 不具合もか?>
<なし>
<さすが・・・><それでこそ、トンボ様じゃ>チラーニと浮鬼が感心しておる。
<うぅっ・・・!>弐ノ塔のおふくろさんは、悔しそうである。<これが、技術の差>
「ほじゃ、最後は、ドリナラーニどんの番か。がんばってくれい!」
<オウ!>
移動である。
ナンガラックのハッチ(側面にある)を、ガパン! と開けて。
カンカンカンカンとハシゴを降りたソラトバン。
さて、どこに乗せてもらおうか・・・と、思うとったところに。
トンボと、チラーニが、近寄ってきた。
かぱ。チラーニのハッチが開く。「さっさと乗れ」
かぱ。トンボのハッチも開いた。<ほれ、乗せてやる>
「・・・。」
ソラトバン、冷や汗をかく。
「わはは! ここは、その・・・アレじゃ! トンボどんをお招きした責任があるからのう、わはは!」
笑いで誤魔化して、トンボどんのほうへ。
<チッ>
「いま舌打ちした?!」
<ジュー、キュ、ハッチ、ナー・・・>
退避が済んで、ドリナラーニどんがカウントダウンを開始。
<・・・イッチ。発砲ジャ!>
ドゴン。
「む?」
<どうした?>
「いや、さっきより衝撃が弱いっちゅうか。静かっちゅうか」
<ああ。装甲の差じゃろ>
トンボどん。ちょっと、胸を張る。
<神竜甲は、伊達じゃない(だてじゃない)わい>
「じんりゅうこうか・・・」
・・・どうやら。
トンボどんの装甲が、ものすごいので。
列電魔旋弾の発砲時の衝撃も、防いでくれる──っちゅうことらしい。
「アンタ、本当にすごいんじゃな」
<ふははw そんな言い方されるのは、ずいぶん久しぶりじゃ!>
ところで、ドリナラーニどんであるが・・・
彼もまた、ケロッとした顔(?)をして・・・
<損傷、ナシ>
と、報告をした。
<ホンマか?>弐ノ塔、疑う。<砲を置いて、腕を動かしてみよ>
<オウ>
ぐいーーーん・・・
ナンガラックのごっつい腕が、なめらかに動く。
ぷしゅー。蒸気がちょっと噴き出した。
<・・・疲レタ>
<ああ、蒸気圧が下がってきたか。お疲れさんじゃ。不具合はないんか?>
<ナシ>
翌日。
「点検整備の結果発表でござる!」
コボルド整備士の親方が、報告をしてくれた。
「チーササラーニ殿、右肩の臼(うす)に、歪みアリ。交換は不要。なれど、くり返せば破損する恐れアリ!
浮鬼殿、右肩亜脱臼(あだっきゅう)。臼側の関節を交換。実戦ではやめたほうがいいでござる!」
<・・・それだけか?>
おふくろさんが、確認すると。
「あ、ドリナラーニ殿には、オイル差しといたでござる」
<損傷は>
「ドリナラーニ殿・トンボ殿、損傷ナシ!」
<帝国に負けた・・・>
弐ノ塔のおふくろさん。だいぶ、落ち込んだようである。