ソラトバン、鬼械人   作:min(みならい)

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領主、暗殺さる ◇ レモノーノ、飛行塔に乗る

◆ 23、快感じゃ! ◆

 

 翌朝。

 ソラトバンは、1人で、トンボどんに乗っておった。

 

「配置を変えよう」

 と、チーニャの姐御が言い出したのだ。

「これまで弐ノ塔は、帝国の兵器を恐れる必要がなかった。だが、今後はちがう」

「『力の筒』の自爆じゃな」とソラトバン。

「そう。トンボ様に従って『爆鬼特攻』と呼ぶことにするが・・・」

<うむ。アレぁ重大な脅威じゃ>

≪脅威ジャ!≫

 トンボどん、ドリナラーニどん(この時はドリノンに入っとった)も、賛成した。

「だから、飛行塔の守備も考えて、」<再配置しようというワケさ~>

 

 結果。組み合わせは、こうなった。

 

 トンボ ・・・前衛

  ┗乗り手:ソラトバン

 チラーニ ・・・指揮

  ┗乗り手:チーニャ

 ドリナラーニ ・・・屋上砲(列電魔旋砲)

  ┗乗り手:なし

 

 『チラーニ飛行隊』の、新体制である。

 

 で。

 新体制の試験を兼ねて、トンボ・ソラが偵察に出ることになった──っちゅうワケである。

 

<今日は~、>と、チラーニ。<ハツラノッツ近郊のダークエルフ洞を偵察してもらいます>

「ダークエルフ洞・・・」

<ディルーネが言ってただろ>と、これはチーニャ。<領主がダークエルフを攻めるって>

「・・・じゃったかのう」

<しっかりしろよ~? 色男。──爆鬼が使われる恐れがある。距離1里以内への接近は避けること>

「1里以上を保つ。了解じゃ」

<君たちの安全が1位で、>

「情報は3位、じゃな」

 

 格納庫に隣接する大型エレベーターで、屋上に出る。

 トンボいわく<玄関から飛ぶんは、危険じゃ。やりとうない>とのこと。

 

「乗り手席よし。トンボどん、起動準備じゃ」

<おう。トンボ、起動準備開始じゃ>

 

 ブーーーン・・・。

 飛行ユニットが動き始める音が、背中に伝わってきた。

 

 ソラトバン。

 小さな覗き窓から、前を見た。

 森が、海のようにうねりながら広がっておる。その緑の波が尽きるところに、本物の海がある。

 昨日の実験島は、遠い。『鷹の目』を使っても小さいままじゃ。爆鬼特攻を警戒して、飛行塔をだいぶ下げたからのう。もう、あの港町に歩いてゆくこともできん。・・・残念じゃ。

 ま、しょうがない。

 弓手席に手を伸ばす。

 覗き鏡(のぞきかがみ)を掴んで、引っ張った。

 シュルシュルッ・・・筒が伸びて、乗り手席からでも覗けるようになる。

 覗く。

 飛行塔の屋上が見えた。

 ぐりぐり・・・。弓手席の握りを、ねじる。鏡の中の光景が、ぐりぐり・・・と、回った。

 ナンガラックの姿が見えた。ペターンと足投げ出して座って、でっかい鉄砲抱えておる。座っとるのに、トンボどんと同じぐらい、デカい。

 ぐりぐり・・・。さっきの光景に戻ってきた。

「覗き鏡よし」

<起動準備、完了じゃ>

「ほじゃ、行くか」

 

 トンボどんが、走り出した。

 ガァン! ガァン! ガァン! ・・・細い足で、飛行塔の甲板を蹴って・・・

 大の字になって・・・

 空へ、飛び込む!

 ソラトバンの髪の毛が、ブワッと逆立った。

 浮遊感に、耐えながら・・・

 握りと鐙を『閉じる』。握り・鐙を、中央へ寄せた。

 その意図は。

<『増速』じゃな>

「うむ。行ってくれい!」

 

 ズシン!

 目に見えぬ力が、頭と肩に、ぶつかった。

 

 腕と足が、猛烈な力で押し下げられる。

 握りと鐙を動かさんように、耐える。樵パワーじゃ!

 窓の中の景色。すっ飛んでゆく。眼下の森、あっちゅう間に、足の方へ。

 なんちゅう速さか!

 

「・・・ふはは!」

<お、いまので平気か>

「うむ! へっちゃらじゃ!」

<頑丈なヤツじゃ>

「トンボどん。清雅がはしゃいだ気持ち、やっと、わかったぞ」

<ほう?>

「この加速は──快感じゃ!」

<おお、そうか>

 

 ソラトバン。

 正直言うて・・・

 残念じゃ・・・

 という、邪念があったのだ。

 いやあ・・・ホラ・・・

 チーニャの姐御と、一緒に飛べるとばっかり、思うとったけぇ・・・。

 なんせ、その・・・

 生まれて初めて、女と夜を過ごして・・・

「やった! わしも、男になったぞ!」

 ・・・という気持ち、すごく、あったから。

 別行動かぁ・・・という。

 いや、わかるんじゃ。

 前回チラーニどんに1人で指揮させたら、ちょっとミスをした。ほじゃけ、補助に入る。まこと、ええ女じゃ。

 また、『戦闘は避ける』方針じゃけぇ、弓手は空席でもかまわん。

 わかるんじゃが。

 一緒に乗りたかったのう・・・っちゅう甘えと。あとは・・・

 

 爆鬼特攻で、飛行塔が──わしの女が──やられたら? っちゅう、恐怖がな。

 

 じゃが、そんな邪念を振り払うほどの、これは、快感じゃ。

 身体が燃える。頭が冴える。

 『守れんかったらどうしよう』が、『守ってみせる』に、なってゆく。

 

「生きとって、良かったわい!」

<そうか!>

 

◆ 24、ハツラノッツ領主と、ダークエルフ洞 ◆

 

「こちらトンボ・ソラトバンじゃ。いま、岩山が見えた」

<こちらチラーニ・チーニャ。ダークエルフ洞は確認できるか?>

「さて・・・」

 ソラトバンは、『鷹の目』を使うた。

 首を伸ばして小さな窓にへばりつき、地上を睨む。

 

 地上には、軍隊がいる。

 数百人。ニョニョロと、大蛇のようになって、山道を進んでおる。

 

<ダークエルフか?>

「いや、人間じゃ。全部歩兵じゃな。鬼械人はナシ。騎兵もナシじゃ」

<数は>

「数な。ちょい待ち・・・ざっと300」

<300か。──速いな。どうやって数えた?>

「四半分の、」

<しはんぶん>

「四つに割って」

<ああ>

「そのまた四半分を数えたら、19人じゃった。20弱の、4倍の4倍で、ざっと300じゃ」

<了解>

 と、言ってから、チーニャは私信をした。

<おまえさ、数には強いんだな?>

「大工のユーノックおやじに、教えてもろたんじゃ。大工は数字に強いでな」

<樵って数字使うか?>

「薪売るとき、インチキされたんじゃ。おっ父が死んだあと。それが悔しゅうてな」

<そっか。──数に強い男、好きだぜ。チーニャ以上>

「うへへ。ありがとさんじゃ」

 デレデレしたら、

<男は、シャキッとしとれ!>トンボどんに、怒られた。

 

 300人の軍団は、山道を登り切って、岩山の前で止まった。

 岩山に、洞窟の入り口がある。それをふさぐ形で、布陣したのだ。

 ・・・ただ、攻め込む気配はない。

 しばらくして、洞窟からダークエルフが出て来た。頭を下げて、なにか、話す。

 軍団からは、貴族らしき若者が前に出た。

 

<ハツラノッツの領主、モトハ・オケーチョだろう>

「領主さんか」

<元は王家だったそうだ>

「へぇ」

<当代は、ダークエルフと恋仲だった、ってウワサがあったよな>

「・・・?」

<おい!? オマエが『港で聞いた』って言ったんだぞ?>

 

 そうじゃったっけ?

 えー・・・。

 覚えとらん。

 姐御との夜が、あまりにも、素晴らしくて。

 それ以外、どうでもよくて・・・などと、姐御には言えんが。

 

<色ボケめが>トンボどんには、見抜かれたわい。

「すまんことじゃ」

 

 やがて。

 領主モトハは、護衛を1隊だけ連れて、洞窟へ入っていった。

 

<馬鹿か>

「どうじゃろ。ダークエルフ側も礼儀を尽くしとる様子じゃったけぇ・・・」

<恋愛は継続中ってワケか>

「人死に(ひとじに)はナシで済みそうじゃな」

 ソラトバンは安心したが・・・

 

<どうかな。私は、イヤな予感がするぜ>チーニャは声をゆるめなかった。

 

◆ 25、モトハとリシレン ◆

 

 このとき、ハツラノッツの領主、モトハ・オケーチョは。

 広い洞窟に案内されて、立ち止まったところであった。

 

 洞窟に、待ち人がある。

 ピンクの肌をした乙女。

 美しく、か弱い、エルフの乙女が、人間の領主に頭を下げた。

 

 娘は、『ピンクのダークエルフ』と呼ばれる、ダークエルフの一種であった。

 日光に極めて弱く、直射日光を浴びると簡単に火傷をする。ひどいと死んでしまうこともある。

 それ以外は、地上を闊歩する(かっぽする)『茶のダークエルフ』と同じである。

 

 そのピンクのダークエルフの乙女が、深々と、頭を下げたのである。

 白い髪が、乳液のようにトロリと流れ落ちる。

「領主閣下。寛大なお裁き、このハサレル・ダッケードの民は、心から感謝しております」

「リシレン・・・」

「失礼いたします、姫」護衛が歩み寄った。

「どうぞ」

 ボディチェック。

 問題なし。

 護衛たちは2人に礼をして、引き下がった。通路まで後退して、完全に2人きりにしたのである。

「おお、リシレン!」

「モトハ様。ウチ・・・もう・・・!」

 領主とダークエルフの姫──男と女は、駆け寄って、抱き締め合った。

「あなたやのうて、帝国軍がやってきたら、どないしょうかと・・・」

「私もだ。どんなに心配したことか。無理して脱出して、陽光に焼かれてはおらんかと・・・!」

 2人は見つめ合い、口づけをして、また抱き合った。

 それから。

 声を落として、密談を始めた。

「・・・オーガは?」

「・・・全員、脱出させました。誓って、1人も残ってません」

「アズダーションの巫女様が?」

「はい。クェルデンチャーネ様が、舟用意して、セイレーンに先導させて」

「ふっ・・・ふふふw」モトハは笑った。「船乗りを破滅させるセイレーンに、舟を先導させるとはなあ!」

「ちょっとw」リシレンも笑った。「恐いこと言わんといてください」

「すまんすまん。若い巫女様が、不思議な人脈をお持ちだなと、面白くなってな」

「そうですね。・・・もう、心配せんでもええんですね」

「うむ。帝国の追及はかわせるだろう」

 男は、女の背中を優しく叩いた。

 女はしばらく甘えていたが、「・・・モトハ様」

「なんだ?」

「実験島の爆発は・・・やはり、バッツワーノ?」

「ああ。街の近くではやるなと言ったのに、強行しおった」

「口出しなさったんですか?」

「ああ」

「御父君が入れ込んだ相手やのに」

「父は、惑わされたのだ。ハツラノッツの独立を求めるあまり、密約など結んで」

「これまでは、それで、うまく」

「ああ。我が領が資金援助をし、ヤツは帝国を崩してゆく。確かに、うまく行っていた──去年まではな」

「景気、悪ぅなってますもんね」

「麦の暴騰のせいでな。加えて、密輸も野放しだ。関税収入はガタ落ちさ」

「資金援助できへんハツラノッツは、用済み・・・」

「密約を知る私を、消そうとするだろうな」

「ああ・・・!」

「聞いてくれ、リシレン。私の考えを」

 領主モトハは、自分の考えを語った・・・

 

 「民こそ、ハツラノッツだ。

  君たちダークエルフも含めて、民こそ国なのだ。

  民を、食わせてやり、子を生ませてやり、安らかに眠らせてやる──

  それが領主の使命だ。

  この使命の、いかに難しいことか!

  気付かせてくれたのは、君だ。

  私と君が、食卓を囲み、子を育て、共に眠ることの、なんと難しいことか!

  そのことに気が付いたとき、私は本物の領主に──男になったのだ」

 

 ・・・そして、リシレン姫の腕を、両手で支えた。

「私を支えてくれ。私の妻は、そなたしか居らぬのだから」

「モトハ様・・・」

「私は君を守る。守ってみせる。いつか現世に誕生する、私と君の子供もな」

「はい」

「これまで通り、オーガと連絡を。特に、幽雲洞はしっかり頼む」

「はい。もちろん」

 モトハは、もう一度、リシレンにキスをした。

「そろそろ戻る」

「・・・。」

「そんな顔をするな。君を1人にはしないさ」

「・・・はい」

 

 そこに。

 終わりの時が、やってきた。

 

「閣下! お届け物です」

「こんな山中に? 誰からだ」

「バッツワーノ隊長です」

「・・・通せ」

 大きな木箱を抱えて、ハポノ人の伝令が入って来た。

「伝令! 速やかな平定を祈って。願わくば、ダークエルフと分かち合われんことを。──以上!」

「・・・酒でも贈ってきたのか?」

 モトハは、護衛に木箱を開けさせた。

 プツリ。

 フタに付いていた細い糸が、切れた。

 だが、カブトをかぶっている護衛は気付かない。

 中にはワラが詰まっていた。籠手(こて)を外して、ワラをどけると・・・

「・・・筒?」

 

 中に入っていたのは、八角柱の、金属筒であった。

 

 その筒が。

 光った。

 

 終わりの時である。

 

◆ 26、領主、暗殺さる ◆

 

 岩山が、ジャンプして、クシャミした。

 

 ──そんな風に、ソラトバンには見えた。

 

 岩山全体がハネ上がり、ブワッ!!! と、土煙を上げたのだ。

 

<・・・構えよ!>トンボが叫んだ。

「なに?」

 

 ドン!!!!!

 衝撃。ソラトバンの心臓が止まるほどの! トンボの神竜甲(じんりゅうこう)が、ガイイイン・・・と、鳴り響く!

 

<掴まっとれ!!! 離脱する!>

 ソラトバンの手の中で、握りが勝手に動いた。足が、鐙に引っ張られた。

 右の握り・鐙が、右に開く。トンボが右へ急ターンした。

 握り・鐙が閉じた。

 ソラトバンはとっさに首と肩に力を入れた──それで正解!

 

 加速!!!!!

 

 ダンゴムシみたいに、身体が、丸められる!

 見えない力を・・・頭のてっぺんで・・・支えねば、ならない・・・!

「ぬぐうううう・・・!」

<しばらく辛抱せよ。爆h──>

 

 岩山が、噴火した。

 

 炎と爆煙と数えきれない岩の礫(つぶて)が・・・

 

 ・・・洞窟の入り口から、噴き出した。

 あたかも、荒れ狂う大河が堤(つつみ)を破るように──ゴウゴウと唸っておった濁流が、次第に力を増し、ついには堤を打ち破り、叫びながら白く泡立ち、轟きながら黒く巻いて、行く手にあるものを喰らい尽くす──あたかもそのように、洞窟の口から噴き出して、300人の戦士を呑み込み、1人残らず吹き飛ばした。

 

 ・・・山の中腹から、噴き上がった。

 こちらはバケツの水をぶちまけるよう。ビュッと伸びて、ノロノロと太くなる。あたかもそのように。

 だがノロノロと見えるその速度は、じつは、トンボに追いつくほど! 神竜甲のスネを呑み込み、腰を呑み込み、ソラトバンを守る卵形の胴体に──届く前に、失速した。未練がましく絡みつくも、トンボは追従を許さない。一瞬で、振り切った。

 今回も逃げ切ったのだ。

 トンボは。

 

 そして。

 岩山が、膝を屈した。

 ベシャッ。

 足の萎えた(なえた)老人が地面に落ちるように、潰れた。

 

<・・・大丈夫か。ソラん坊>

「・・・うむ。わしはな」

<なら、通信をするか>

「・・・。」

 ソラトバンは、のろのろと覗き窓に近付いた。

<待て。待つんじゃソラトバン>

「ええんじゃ。わしゃ、偵察じゃけぇ」

 

 『鷹の目』で、下界を見る。

 洞窟の入口・・・の、あった場所を。

「生存者、ナシじゃ」チーニャに、報告をして。

 それから、吐いた。

 

「誰が・・・やったんじゃ! こんな! 人間とも、思えんようなこと・・・!」

<バッツワーノだろうな>

 チーニャが言った。

<領主、暗殺さる──というワケだ>

 

◆ 27、バッツワーノの、悪巧み ◆

 

 ──そのとき、バッツワーノは。

 岩山から3里ほど離れた森に、潜んでおった。

 バッツワーノ、副官キルビンナック、魔術師ルクジッコ。

 全員、徒歩である。蒸気械人はナシ。護衛は連れて来たが、いまは遠ざけてある。

 

「どうだ」とバッツワーノ。

「トンボ、健在」ルクジッコが答えた。

 

 地平線あたりに、噴煙を上げる岩山の頂上が見える。

 トンボの姿は判別できない。人間の目では、無理である。

 だが、ルーン魔術師のルクジッコには、その姿が見えていた。

 『鷹の目』という、呪文によって。

 

「上空から偵察をしとる様子です」

「岩山はどうだ。生き残りはいるか?」

「全滅でしょう。山はつぶれ、入り口付近も、木々が吹き飛ぶほどです」

「よし」

「快勝ですな」と、副官のキルビンナック。「若造の火遊びもここまで。密約で刺される恐れもなくなった」

「おいおい・・・お優しい領主閣下を悪く言うんじゃないぜ、キル?」

 バッツワーノは肩をすくめた。

「悪いのは、爆弾を届けた連中さ」

「クックック、確かに!」

「にしてもだ・・・、」

 バッツワーノはパイプを取り出し、火は付けず、草も入れず、ただ、咥えた。

「ソラトバンめ、意外と賢いな? 正義の味方を気取って突っ込んでくれると思ったものを」

「知らなかったんじゃないですかね」とキル。

「『力の筒』に、気付かなかったと?」

「ええ。──回避が遅かったと言ったな? ルクジッコ」

「・・・はい。伝令が近付いても反応はなく・・・爆発が起こってから、あわてて逃げた様子でした」

「なぜだ?」

「なぜとは」

「なぜ、呪文を使わん? 『力の筒探索』を」

「射程外であったかと」

「ふむ」

「どのみち、呪文なんか使えやしませんよ」キルは、鼻で笑った。「タダの素人だ」

「素人、な」バッツワーノは、パイプを噛みしめた。

「それで、次はどうします?」

「決戦だ」バッツワーノは歩き出した。「例のスカルドに、仕事をくれてやれ」

「何をさせるんで?」

「ヤツが『力の筒』を探知できんのなら──次に使う場所を、教えてやるのさ」

 

◆ 28、でたらめスカルド、重大発表 ◆

 

 翌日。ハツラノッツ中心部、四つ辻にて。

 

「寄ってらっしゃい! 皆の衆。

 さあ聞きなされ! 真実を」

 

 でたらめスカルドが、『重大発表』を、吹き散らしておった。

 

「おお! ハツラノッツの、若き獅子!

 知恵ある領主。民にも慕われていたものを。

 オーガどもめ!

 オーガどもめが、やりおった!

 領主が、洞窟に入ったところ・・・

 あの爆発で、殺したのだ!

 300人の、戦士と共に・・・

 オーガどもが、暗殺したのだ! ハツラノッツの、若き獅子を・・・」

 

「なんだと?」「領主さまが」「そんな馬鹿な」

 集まった人々が、騒ぎ始める。

 でたらめスカルドは。両手を高~く差し上げて、拳を握って、こう叫ぶ。

 

「おお! ショラン・ギサンチの、鬼どもめ!

 見ておれ、いまに鉄槌を、

 ハツラノッツの民のため、

 義を重んじる、帝国が、

 おまえたちに、下すであろう!

 悪逆非道(あくぎゃくひどう)の鬼どもめ! 次の朝日は、拝めぬぞ!」

 

「・・・悪逆非道の鬼、ねぇ」

 この『重大発表』を、ダークエルフも聞いていた。

 茶色の肌したダークエルフ。

 シレッと混ざる、部外者も。

「こらもう潮時やね」

 ディルーネ。

 ハーフダークエルフ・オーガの女。見た目はダークエルフ。ちょっと耳が短いか?

 幽雲洞の誇る(?)密偵は。

 散りゆくダークエルフに混ざり込み、下町へ、裏門へ、街の外へと、すべり出る。

 人目が絶えた、そのあとに・・・

 空仰ぎ、「おーい」「おーい」と、手を振って・・・

「ウミちゃ~ん。来て来てぇ~」

 すると空から8本足の、

 ぶ~ん・・・

 とうなる物体が、彼女のそばに降りてきた。

 チラーニたちが使うタコ。偵察機がやってきた。

「えっと、ウミちゃん? 昨日・今日の街の話、聞きたない?」

 すると。

 ばさばさばさ・・・と。

 海のほうからヨレヨレと。

 目がひとつしかない海鳥(?)が。

 ボテ。と、地面に落っこちて、

<拙者、任務中なんでござるが・・・>

 海鳥型の鬼械人、ウミドラーニ、参上である!

「重要情報あんねん。全部教えるから、中継させてくれへん?」

 ディルーネが提案したところ。

<わかった>

 ウミドラーニの声玉から、チーニャの姐御の声がした。

<情報が先だ。周囲に注意しろよ>

「ありがとー。ほな、ウミちゃん、抱っこ」

<え。なんで抱かれねばならんのでござるか・・・>

「いま恐いお姉ちゃんが言うとったやん? 周囲に注意しろて」

<私のコトじゃないよな?>

「うーん。はいはい、抱っこ抱っこ」

<ぐえ・・・>

 

◆ 29、簡単な仕事 ◆

 

 ディルーネから、『重大発表』を聞いたチラーニ飛行隊。

 

「・・・『次はショラン・ギサンチを吹っ飛ばす』っちゅう意味かのう」

 少しやつれたソラトバン。元気のない声でしゃべる。

「じゃとしたら、姐御。わしゃ・・・」

<はいストップ~>

 チラーニが止めた。

 いつものごとく、上半身どーんと出して、上半身整備室(実質、会議室)を占拠しておる。

<ママから情報がありま~す>

<おふくろじゃ>

 チラーニの声玉の声が変わった。

 弐ノ塔のおふくろさんの声である。

<まず、幽雲洞からの情報じゃ。スカルドの宣伝通り、バッツワーノ隊が動き出したそうじゃ>

「うん? ディルーネさんの話じゃと・・・」

<別の密偵じゃ>

「何人も居るんか・・・」

「ま、そうだろうな」

 言いながら、チーニャはソラトバンの隣に座ってきた。

 ぐったりしとるソラトバンに、ぴったり身体をくっつけ、腕を回して、支えてくれる。

「・・・すまん」

「気にすんな」

<それでじゃ。幽雲洞が、同盟を打診してきた>

「どうめいをだしん」

「守ってくれってコトだろ?」

<いまの状況ではそうなる。チラーニ飛行隊は、一足先に飛べ>

「ショラン・ギサンチに?」チーニャ。

<ショラン・ギサンチに>

<ママはど~すんの?>

<六間洞と調整をし、補助塔の改造をする。終わったら、同盟を結んで、合流する>

 ここで、おふくろさん、少し低い声になった。

<──今度は、こちらが待ち受ける番じゃ>

「あ、それなんだけどね、ママ」<スカルドの話、おかしいと思うんだよね~>

<どこが>

「・・・『領主が、洞窟に入った』っちゅうトコかのう?」

<見とったん、ワシらだけじゃもんのう>

 ソラ&トンボが、言い当てた。チーニャ、うなずく。

「その通り! これは、挑発──いや、罠だと思うんだ」

<罠とな>

「トンボとソラを誘き出す罠さ。『出て来い。次はショラン・ギサンチだぞ』──まさにいま、ソラが引っ掛かったろ?」

「わしを狙って?」

「おまえ、スカルドとケンカしたろ? あれが伝わったんだと思うぜ。こう言えば出て来る、って読まれてんのさ」

<なるほどな。わかった。警戒しよう>

「・・・わしは、軽率な男じゃ」ソラトバン、落ち込む。「『嘘は許さん』などと、いきり立って」

<しょげる必要はないわい>と、おふくろさん。

「そうかのう?」

<そうじゃ。そなたが失敗するのは、計算に入っとるし>

「え」

<密偵としてはバカじゃが、気持ちは正しいし>

「・・・じゃが、わし、失敗ばっかりで。危険を招いて」

「オレたちが援護するさ」チーニャ、ソラトバンの背を叩く。「仲間だろ?」

<ソウジャ!>

<そうじゃそうじゃ。危険なんぞ、屁でもないわ。何のためのトンボ様じゃと思うておる>

「空飛ぶためじゃと思うとった」

<オマエが落としてどうするんじゃ>

「ははは・・・」

 ソラトバン、左手でチーニャを、右手でドリノンを抱いた。

「すまん。どうも、悪い方にばっかり考えてしもうて」

<うむ>とトンボ。<1日・・・2人を、休ませたほうがええんじゃないか?>

<そうじゃな。1日なら、休んでも問題あるまい。そうせよ>

<了解ぁ~い>

<ただし、チーニャ。ソラと休む前に、1つ仕事じゃ>

「なに?」

<ディリシトルーネを拾え>

「は? なんであんなヤツ」

<幽雲に頼まれた。料金も請求しておる。簡単な仕事じゃろ。拾ってやれ>

 

 ところがどっこい。

 この『簡単な仕事』が、意外な騒ぎに発展したんじゃ・・・

 

◆ 30、山賊ナンガラック ◆

 

<助けてぇ~~~!>

<なんで山賊がナンガラック持ってんだよ>

<拙者も! わからんで! ござる!>

 

 通信が飛び交っておる。

 ソラトバンは、聞くだけであった。

 みんなに『おまえは休め』と言われて、上半身会議室でそのまま休んどるのだ。

 ただし、飛行塔が移動中なので、身体はベルトで縛りつけられておる。ゆっくり休める状態ではない。

 

「大丈夫なんか? チーニャ・・・の姐御は」

<誰に向かって口利いとんじゃ!>トンボどんが怒った。<おまえワシのコト舐め過ぎじゃろ>

「いや、状況がわからんで」

<こっちは大丈夫。危ないのはウミドラーニだけさ>

<ウチも! ウチも『危ない』に入れてくれる?!>

<おまえオーガなんだからさぁ、殴り倒せよ。ナンガラックぐらい>

<アホなん???>

「なんか大丈夫そうじゃな」

<大丈夫ちゃうっちゅうねん! 料金取っといてこの扱いはなくない?!>

<間もなく現場。おい密偵、10からゼロまで数えるから、ゼロで伏せろ。いいな? ゼロで伏せろよ>

<わかった! ゼロで、伏せる!>

<じゅ~~~う~~~・・・、きゅ~~~う~~~・・・>

<早ぅしてぇ!!!>

<ソラさ~、いま、チーニャを呼び捨てにしたね? うまく行ってるみたいじゃ~ん>

「か、からかうんじゃないわい。・・・うへへw」

 

 戦っとるんか遊んどるんかわからん。

 それにしても・・・

 

「・・・もどかしいモンじゃな。通信聞くだけっちゅうのは」

<ま~ね。でも、指揮はやり甲斐あるよ>

「ほー」

<3、2、1、ゼロ!>

<うぅっぷ! ・・・ええよ! 撃って!>

<左肩砲、けむりだま発射><けむりだま発射じゃ!><よし。ディルーネをかばう><了解じゃ>

<げぇっほげほげほ! な゛んで・・・私を・・・入れ゛ッ・・・えほえほ>

<おまえを守るためだ>

<ウゾや・・・かばうんなら、けむ゛り撃つ意味、な゛い・・・>

<チッ。そうだよ。トンボ様を隠すためさ。──カバーした。いいぞ、チラーニ!>

<ドリナラーニ、列電魔旋弾。目標、山賊ナンガラック。胴体下部を狙え>

<了解ジャ>

 

 ドリナラーニ。

 いま、ナンガラックのほうに入って、屋上にある。

 自分を鎖で固定して、列電魔旋砲構えとるらしい。

 ・・・そう言えば、どうやって撃っとるんじゃろな? ナンガラックって、鉤手じゃのに。

 

<3、2、1、発砲ジャ!>

 

 ドガン!!!

 ・・・飛行塔の屋上から、全艦に響くほどの音がした。

 

 ぐらーり・・・。飛行塔が、起き上がり小法師(おきあがりこぼし)みたいに、揺れた。

<お~っとっと~>

「ごっつい反動じゃな」

<オチカケタ>

「大丈夫かいな」

<恐怖>

<命中>とチーニャ。<ナンガラック停止。山賊逃亡。荷車を鹵獲。ロバが2頭。荷物は、未確認>

<ロバはいらないね~。荷物は確認して。帝国の手の者かも知れないし>

<了解。仲間が隠れてたら面倒だ。屋根は引っ剥がすぞ><おう>

「ナンガラックに、ロバ2頭じゃと? 山賊が?」

<ぜいたくな・・・山賊よね。ゲッホ! あ゛~・・・>

<ディルーネさ~ん>

<な゛に~? チラーニちゃん>

<ナンガラックがどこのヤツか、判別できる?>

<見てみるわ・・・>

<屋根を剥がした。仲間は居らんが、袋──え、なんだコレ>

「どうしたんじゃ」

<セイレーンだ>

 

◆ 31、レモノーノ、飛行塔に乗る ◆

 

 ズズーン・・・・・・。

 飛行塔が、着陸した。

 

≪動いていいよ~≫

「行くでござる!」

「ほいほい」

 コボルドの整備士たちと一緒に走るソラトバン。

 ロック解除された扉から、玄関=格納庫へ駆け込む。

「扉開け!」「ドリノン2鬼!」「浮上ユニット搬出準備!」

 コボルドたちがサーッと分かれて走り回る。

 ソラトバンは、チラーニどんに乗り込んだ。

<大丈夫? ソラ>

「大丈夫じゃ。疲れはあるが、意識はハッキリしとる」

 玄関の扉が、表へ倒れる。

 チラーニは繋留(けいりゅう)から解き放たれ、その扉をくぐった。

 突き出した扉=床から、ふわ~ん・・・と、飛び降りる。優しい浮遊感。いまのソラトバンには、ありがたい。

 ズシン。

 地面に着いた。

 トンボが、こっちに背ェ向けて立っておる。足元には、山賊の荷車。

 その向こうに、擱座した(かくざした)ナンガラック。いま、ディルーネが取りついて調べておる。彼女の足元にウミドラーニ。ずっと抱っこして走っとったらしい。力持ちじゃなディルーネ。ハーフオーガだけあるわい。

 チラーニは荷車に近付いて、立ち止まった。

 ソラトバン、座席を離れてハッチを開ける。

「おーい! 大丈夫か?」

「あっ! ソラ・トゥー・バーン!」

 セイレーンの娘が手を振ってきた。

 

 なんと、それは。

 実験島の爆発実験から助け出した、あの娘──マテレーニャ・レモノーノであった!

 

「レモンちゃん。なんでこんなトコに居るんじゃ」

「仕事が終わってー、好きにしていいよって言われてー、人間を見てー、『おいで』って言われてー、縛られた」

「捕まったんか」

「つかまった」

「知らん人間に、ついてっちゃいかんぞ」

「うーん? ・・・誰にもついてけなくならない?」

 レモン、足ヒレでベタンベタンと、荷車を叩く。不満のジェスチャーか?

 で、なんか知らん、歌い出した。

「♪最初は、みんな、知らんヒト~。ソラにだってー、ついてけなーい」

「こりゃ一本取られたわい」

 トンボ・チーニャがやってきた。こっちもハッチを開けて、「ソラ! 積み込みやるぞ」

「わかったわい」

「・・・行っちゃうの?」

「仕事じゃ。終わったら戻って来るけぇ。これでも舐めて待っとってくれ」

「なにこれ?」

「飴ちゃんじゃ」

「ふーん・・・ガリボリバリ」

「噛むんじゃない」

 

 荷車。

 金銀と食料がいくらか。それに歩兵用の武器(安物)があった。

 荷車ごとチラーニどんで持ち上げて、飛行塔に入れる。

 安モンの武器なんぞいらんのじゃが。置いとくと、また山賊の得物(えもの)になるで。

 

 ロバ2頭。

 いらん。ウンコの世話が面倒じゃ。解放。自分で街まで帰るじゃろ。

 

 擱座したナンガラック。

 ディルーネによれば、

「これ、ショラン・ギサンチのナンガラックやわー! ラスカリューミヤ防衛隊の紋章入っとるー」

 コボルド整備士によれば、

「骨盤(こつばん)大破、歩行不能!」「中央蓄熱塔、損傷なし!」「呪文版、損傷なし!」「『生命探索』反応あり。修復可能でござる!」

≪んじゃ~、積み込んじゃお~≫

 これは大作業であった。

 浮上ユニットを、てんこ盛りに取り付ける(整備コボルドが大騒ぎして作業した)。

 屋上から、ドリナラーニどんが鎖を垂らして、クレーンの役目をする。

 最後に、トンボどん・チラーニどんの2鬼が<せーの!>で持ち上げて、やっとこさ、玄関に入れることができた。

「大変じゃな」

<重いからね~、ナンガラック>

「ドリナラーニどんのときは、どうやって入れたんじゃ?」

<オレが押した~。浮上ユニット付けて、丸太でコロ造って>

「玄関には、どうやって上げたんじゃ?」

<崖っぷちに飛行塔止めて、地面と入り口の段差をなくしたのさ>

<恐怖>とドリナラーニどん。<コケカケタ>

「おおう・・・」

 崖っぷちでナンガラックには乗りたくないな、と思ったソラトバンであった。

 

 ディルーネ。乗せる。

 

 マテレーニャ・レモノーノ。

 どうしよう。

「レモンちゃんは・・・ええと、お家はどこじゃ?」

「セイレヒーム。海の向こー。さんごしょー」

「どこじゃろ。1人で帰れるか?」

「海どっち?」

「あっちじゃが」

「見えない」

「無理じゃないか?」とチーニャ。「また捕まるぞ」

「・・・。」

 ソラトバン。チーニャを見る。

 チーニャ、空仰ぐ。「子供がネコ拾ってきた母親の気持ちがわかった」

 

 乗せた。

 

 やっとこさ、作業完了じゃ。日が暮れてしもうたわい。

 ヘトヘトになって、風呂にゆくと・・・

 

「~~~♪」

「なんじゃ・・・この歌は・・・?」

 美しい歌が、響いておる。聞いとるうちに、たまらなく切なくなってくる。

「おお・・・! 飛び込まずには、おれんわい!」

 どぼーん。

 飛び込んだソラトバン! 床で頭を、ごっつんこ。

 水中に沈んだことにより、歌が聞こえんようになり、正気を取り戻した。

「ぶはー!」立ち上がる。「一体なんじゃ!? この、怪しげなる歌は」

 周囲を見回す。

「あれ! 女が浮かんでおる!」

 褐色の肌した姉ちゃんが、お尻ぷかーんと浮かべてただよっておる。

 あわてて抱き起こしてみれば、ディルーネであった。おっぱいが波に揺られてぷるんぷるんしておる。

「なんでこの風呂、やたらに鉢合わせるんじゃ」

 ソラトバン、ガクッとなる。

「いやそれよりもじゃ。おい! しっかりせい。・・・おおーい!!! 誰か、誰か来てくれえ!」

 と、ここで。

 今度は・・・

「ソラ~~~♪」

「ぐわー」

 セイレーンが、飛びついてきた!

 上半身、素っ裸。初々しい娘の裸体。バッシャバッシャ足ヒレ動かして、『絶対逃がさん!』の勢いで、しがみついてくる。

「レ、レモンちゃん。どこに居ったんじゃ」

「潜ってた」

 で。

 最後に・・・

 

「・・・ソラ?」

 騒ぎを聞きつけてやってきたチーニャに、肩をギュッと、掴まれた・・・。

 

 ・・・と、まあ、こんな騒ぎになったワケじゃ。

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