◆ 23、快感じゃ! ◆
翌朝。
ソラトバンは、1人で、トンボどんに乗っておった。
「配置を変えよう」
と、チーニャの姐御が言い出したのだ。
「これまで弐ノ塔は、帝国の兵器を恐れる必要がなかった。だが、今後はちがう」
「『力の筒』の自爆じゃな」とソラトバン。
「そう。トンボ様に従って『爆鬼特攻』と呼ぶことにするが・・・」
<うむ。アレぁ重大な脅威じゃ>
≪脅威ジャ!≫
トンボどん、ドリナラーニどん(この時はドリノンに入っとった)も、賛成した。
「だから、飛行塔の守備も考えて、」<再配置しようというワケさ~>
結果。組み合わせは、こうなった。
トンボ ・・・前衛
┗乗り手:ソラトバン
チラーニ ・・・指揮
┗乗り手:チーニャ
ドリナラーニ ・・・屋上砲(列電魔旋砲)
┗乗り手:なし
『チラーニ飛行隊』の、新体制である。
で。
新体制の試験を兼ねて、トンボ・ソラが偵察に出ることになった──っちゅうワケである。
<今日は~、>と、チラーニ。<ハツラノッツ近郊のダークエルフ洞を偵察してもらいます>
「ダークエルフ洞・・・」
<ディルーネが言ってただろ>と、これはチーニャ。<領主がダークエルフを攻めるって>
「・・・じゃったかのう」
<しっかりしろよ~? 色男。──爆鬼が使われる恐れがある。距離1里以内への接近は避けること>
「1里以上を保つ。了解じゃ」
<君たちの安全が1位で、>
「情報は3位、じゃな」
格納庫に隣接する大型エレベーターで、屋上に出る。
トンボいわく<玄関から飛ぶんは、危険じゃ。やりとうない>とのこと。
「乗り手席よし。トンボどん、起動準備じゃ」
<おう。トンボ、起動準備開始じゃ>
ブーーーン・・・。
飛行ユニットが動き始める音が、背中に伝わってきた。
ソラトバン。
小さな覗き窓から、前を見た。
森が、海のようにうねりながら広がっておる。その緑の波が尽きるところに、本物の海がある。
昨日の実験島は、遠い。『鷹の目』を使っても小さいままじゃ。爆鬼特攻を警戒して、飛行塔をだいぶ下げたからのう。もう、あの港町に歩いてゆくこともできん。・・・残念じゃ。
ま、しょうがない。
弓手席に手を伸ばす。
覗き鏡(のぞきかがみ)を掴んで、引っ張った。
シュルシュルッ・・・筒が伸びて、乗り手席からでも覗けるようになる。
覗く。
飛行塔の屋上が見えた。
ぐりぐり・・・。弓手席の握りを、ねじる。鏡の中の光景が、ぐりぐり・・・と、回った。
ナンガラックの姿が見えた。ペターンと足投げ出して座って、でっかい鉄砲抱えておる。座っとるのに、トンボどんと同じぐらい、デカい。
ぐりぐり・・・。さっきの光景に戻ってきた。
「覗き鏡よし」
<起動準備、完了じゃ>
「ほじゃ、行くか」
トンボどんが、走り出した。
ガァン! ガァン! ガァン! ・・・細い足で、飛行塔の甲板を蹴って・・・
大の字になって・・・
空へ、飛び込む!
ソラトバンの髪の毛が、ブワッと逆立った。
浮遊感に、耐えながら・・・
握りと鐙を『閉じる』。握り・鐙を、中央へ寄せた。
その意図は。
<『増速』じゃな>
「うむ。行ってくれい!」
ズシン!
目に見えぬ力が、頭と肩に、ぶつかった。
腕と足が、猛烈な力で押し下げられる。
握りと鐙を動かさんように、耐える。樵パワーじゃ!
窓の中の景色。すっ飛んでゆく。眼下の森、あっちゅう間に、足の方へ。
なんちゅう速さか!
「・・・ふはは!」
<お、いまので平気か>
「うむ! へっちゃらじゃ!」
<頑丈なヤツじゃ>
「トンボどん。清雅がはしゃいだ気持ち、やっと、わかったぞ」
<ほう?>
「この加速は──快感じゃ!」
<おお、そうか>
ソラトバン。
正直言うて・・・
残念じゃ・・・
という、邪念があったのだ。
いやあ・・・ホラ・・・
チーニャの姐御と、一緒に飛べるとばっかり、思うとったけぇ・・・。
なんせ、その・・・
生まれて初めて、女と夜を過ごして・・・
「やった! わしも、男になったぞ!」
・・・という気持ち、すごく、あったから。
別行動かぁ・・・という。
いや、わかるんじゃ。
前回チラーニどんに1人で指揮させたら、ちょっとミスをした。ほじゃけ、補助に入る。まこと、ええ女じゃ。
また、『戦闘は避ける』方針じゃけぇ、弓手は空席でもかまわん。
わかるんじゃが。
一緒に乗りたかったのう・・・っちゅう甘えと。あとは・・・
爆鬼特攻で、飛行塔が──わしの女が──やられたら? っちゅう、恐怖がな。
じゃが、そんな邪念を振り払うほどの、これは、快感じゃ。
身体が燃える。頭が冴える。
『守れんかったらどうしよう』が、『守ってみせる』に、なってゆく。
「生きとって、良かったわい!」
<そうか!>
◆ 24、ハツラノッツ領主と、ダークエルフ洞 ◆
「こちらトンボ・ソラトバンじゃ。いま、岩山が見えた」
<こちらチラーニ・チーニャ。ダークエルフ洞は確認できるか?>
「さて・・・」
ソラトバンは、『鷹の目』を使うた。
首を伸ばして小さな窓にへばりつき、地上を睨む。
地上には、軍隊がいる。
数百人。ニョニョロと、大蛇のようになって、山道を進んでおる。
<ダークエルフか?>
「いや、人間じゃ。全部歩兵じゃな。鬼械人はナシ。騎兵もナシじゃ」
<数は>
「数な。ちょい待ち・・・ざっと300」
<300か。──速いな。どうやって数えた?>
「四半分の、」
<しはんぶん>
「四つに割って」
<ああ>
「そのまた四半分を数えたら、19人じゃった。20弱の、4倍の4倍で、ざっと300じゃ」
<了解>
と、言ってから、チーニャは私信をした。
<おまえさ、数には強いんだな?>
「大工のユーノックおやじに、教えてもろたんじゃ。大工は数字に強いでな」
<樵って数字使うか?>
「薪売るとき、インチキされたんじゃ。おっ父が死んだあと。それが悔しゅうてな」
<そっか。──数に強い男、好きだぜ。チーニャ以上>
「うへへ。ありがとさんじゃ」
デレデレしたら、
<男は、シャキッとしとれ!>トンボどんに、怒られた。
300人の軍団は、山道を登り切って、岩山の前で止まった。
岩山に、洞窟の入り口がある。それをふさぐ形で、布陣したのだ。
・・・ただ、攻め込む気配はない。
しばらくして、洞窟からダークエルフが出て来た。頭を下げて、なにか、話す。
軍団からは、貴族らしき若者が前に出た。
<ハツラノッツの領主、モトハ・オケーチョだろう>
「領主さんか」
<元は王家だったそうだ>
「へぇ」
<当代は、ダークエルフと恋仲だった、ってウワサがあったよな>
「・・・?」
<おい!? オマエが『港で聞いた』って言ったんだぞ?>
そうじゃったっけ?
えー・・・。
覚えとらん。
姐御との夜が、あまりにも、素晴らしくて。
それ以外、どうでもよくて・・・などと、姐御には言えんが。
<色ボケめが>トンボどんには、見抜かれたわい。
「すまんことじゃ」
やがて。
領主モトハは、護衛を1隊だけ連れて、洞窟へ入っていった。
<馬鹿か>
「どうじゃろ。ダークエルフ側も礼儀を尽くしとる様子じゃったけぇ・・・」
<恋愛は継続中ってワケか>
「人死に(ひとじに)はナシで済みそうじゃな」
ソラトバンは安心したが・・・
<どうかな。私は、イヤな予感がするぜ>チーニャは声をゆるめなかった。
◆ 25、モトハとリシレン ◆
このとき、ハツラノッツの領主、モトハ・オケーチョは。
広い洞窟に案内されて、立ち止まったところであった。
洞窟に、待ち人がある。
ピンクの肌をした乙女。
美しく、か弱い、エルフの乙女が、人間の領主に頭を下げた。
娘は、『ピンクのダークエルフ』と呼ばれる、ダークエルフの一種であった。
日光に極めて弱く、直射日光を浴びると簡単に火傷をする。ひどいと死んでしまうこともある。
それ以外は、地上を闊歩する(かっぽする)『茶のダークエルフ』と同じである。
そのピンクのダークエルフの乙女が、深々と、頭を下げたのである。
白い髪が、乳液のようにトロリと流れ落ちる。
「領主閣下。寛大なお裁き、このハサレル・ダッケードの民は、心から感謝しております」
「リシレン・・・」
「失礼いたします、姫」護衛が歩み寄った。
「どうぞ」
ボディチェック。
問題なし。
護衛たちは2人に礼をして、引き下がった。通路まで後退して、完全に2人きりにしたのである。
「おお、リシレン!」
「モトハ様。ウチ・・・もう・・・!」
領主とダークエルフの姫──男と女は、駆け寄って、抱き締め合った。
「あなたやのうて、帝国軍がやってきたら、どないしょうかと・・・」
「私もだ。どんなに心配したことか。無理して脱出して、陽光に焼かれてはおらんかと・・・!」
2人は見つめ合い、口づけをして、また抱き合った。
それから。
声を落として、密談を始めた。
「・・・オーガは?」
「・・・全員、脱出させました。誓って、1人も残ってません」
「アズダーションの巫女様が?」
「はい。クェルデンチャーネ様が、舟用意して、セイレーンに先導させて」
「ふっ・・・ふふふw」モトハは笑った。「船乗りを破滅させるセイレーンに、舟を先導させるとはなあ!」
「ちょっとw」リシレンも笑った。「恐いこと言わんといてください」
「すまんすまん。若い巫女様が、不思議な人脈をお持ちだなと、面白くなってな」
「そうですね。・・・もう、心配せんでもええんですね」
「うむ。帝国の追及はかわせるだろう」
男は、女の背中を優しく叩いた。
女はしばらく甘えていたが、「・・・モトハ様」
「なんだ?」
「実験島の爆発は・・・やはり、バッツワーノ?」
「ああ。街の近くではやるなと言ったのに、強行しおった」
「口出しなさったんですか?」
「ああ」
「御父君が入れ込んだ相手やのに」
「父は、惑わされたのだ。ハツラノッツの独立を求めるあまり、密約など結んで」
「これまでは、それで、うまく」
「ああ。我が領が資金援助をし、ヤツは帝国を崩してゆく。確かに、うまく行っていた──去年まではな」
「景気、悪ぅなってますもんね」
「麦の暴騰のせいでな。加えて、密輸も野放しだ。関税収入はガタ落ちさ」
「資金援助できへんハツラノッツは、用済み・・・」
「密約を知る私を、消そうとするだろうな」
「ああ・・・!」
「聞いてくれ、リシレン。私の考えを」
領主モトハは、自分の考えを語った・・・
「民こそ、ハツラノッツだ。
君たちダークエルフも含めて、民こそ国なのだ。
民を、食わせてやり、子を生ませてやり、安らかに眠らせてやる──
それが領主の使命だ。
この使命の、いかに難しいことか!
気付かせてくれたのは、君だ。
私と君が、食卓を囲み、子を育て、共に眠ることの、なんと難しいことか!
そのことに気が付いたとき、私は本物の領主に──男になったのだ」
・・・そして、リシレン姫の腕を、両手で支えた。
「私を支えてくれ。私の妻は、そなたしか居らぬのだから」
「モトハ様・・・」
「私は君を守る。守ってみせる。いつか現世に誕生する、私と君の子供もな」
「はい」
「これまで通り、オーガと連絡を。特に、幽雲洞はしっかり頼む」
「はい。もちろん」
モトハは、もう一度、リシレンにキスをした。
「そろそろ戻る」
「・・・。」
「そんな顔をするな。君を1人にはしないさ」
「・・・はい」
そこに。
終わりの時が、やってきた。
「閣下! お届け物です」
「こんな山中に? 誰からだ」
「バッツワーノ隊長です」
「・・・通せ」
大きな木箱を抱えて、ハポノ人の伝令が入って来た。
「伝令! 速やかな平定を祈って。願わくば、ダークエルフと分かち合われんことを。──以上!」
「・・・酒でも贈ってきたのか?」
モトハは、護衛に木箱を開けさせた。
プツリ。
フタに付いていた細い糸が、切れた。
だが、カブトをかぶっている護衛は気付かない。
中にはワラが詰まっていた。籠手(こて)を外して、ワラをどけると・・・
「・・・筒?」
中に入っていたのは、八角柱の、金属筒であった。
その筒が。
光った。
終わりの時である。
◆ 26、領主、暗殺さる ◆
岩山が、ジャンプして、クシャミした。
──そんな風に、ソラトバンには見えた。
岩山全体がハネ上がり、ブワッ!!! と、土煙を上げたのだ。
<・・・構えよ!>トンボが叫んだ。
「なに?」
ドン!!!!!
衝撃。ソラトバンの心臓が止まるほどの! トンボの神竜甲(じんりゅうこう)が、ガイイイン・・・と、鳴り響く!
<掴まっとれ!!! 離脱する!>
ソラトバンの手の中で、握りが勝手に動いた。足が、鐙に引っ張られた。
右の握り・鐙が、右に開く。トンボが右へ急ターンした。
握り・鐙が閉じた。
ソラトバンはとっさに首と肩に力を入れた──それで正解!
加速!!!!!
ダンゴムシみたいに、身体が、丸められる!
見えない力を・・・頭のてっぺんで・・・支えねば、ならない・・・!
「ぬぐうううう・・・!」
<しばらく辛抱せよ。爆h──>
岩山が、噴火した。
炎と爆煙と数えきれない岩の礫(つぶて)が・・・
・・・洞窟の入り口から、噴き出した。
あたかも、荒れ狂う大河が堤(つつみ)を破るように──ゴウゴウと唸っておった濁流が、次第に力を増し、ついには堤を打ち破り、叫びながら白く泡立ち、轟きながら黒く巻いて、行く手にあるものを喰らい尽くす──あたかもそのように、洞窟の口から噴き出して、300人の戦士を呑み込み、1人残らず吹き飛ばした。
・・・山の中腹から、噴き上がった。
こちらはバケツの水をぶちまけるよう。ビュッと伸びて、ノロノロと太くなる。あたかもそのように。
だがノロノロと見えるその速度は、じつは、トンボに追いつくほど! 神竜甲のスネを呑み込み、腰を呑み込み、ソラトバンを守る卵形の胴体に──届く前に、失速した。未練がましく絡みつくも、トンボは追従を許さない。一瞬で、振り切った。
今回も逃げ切ったのだ。
トンボは。
そして。
岩山が、膝を屈した。
ベシャッ。
足の萎えた(なえた)老人が地面に落ちるように、潰れた。
<・・・大丈夫か。ソラん坊>
「・・・うむ。わしはな」
<なら、通信をするか>
「・・・。」
ソラトバンは、のろのろと覗き窓に近付いた。
<待て。待つんじゃソラトバン>
「ええんじゃ。わしゃ、偵察じゃけぇ」
『鷹の目』で、下界を見る。
洞窟の入口・・・の、あった場所を。
「生存者、ナシじゃ」チーニャに、報告をして。
それから、吐いた。
「誰が・・・やったんじゃ! こんな! 人間とも、思えんようなこと・・・!」
<バッツワーノだろうな>
チーニャが言った。
<領主、暗殺さる──というワケだ>
◆ 27、バッツワーノの、悪巧み ◆
──そのとき、バッツワーノは。
岩山から3里ほど離れた森に、潜んでおった。
バッツワーノ、副官キルビンナック、魔術師ルクジッコ。
全員、徒歩である。蒸気械人はナシ。護衛は連れて来たが、いまは遠ざけてある。
「どうだ」とバッツワーノ。
「トンボ、健在」ルクジッコが答えた。
地平線あたりに、噴煙を上げる岩山の頂上が見える。
トンボの姿は判別できない。人間の目では、無理である。
だが、ルーン魔術師のルクジッコには、その姿が見えていた。
『鷹の目』という、呪文によって。
「上空から偵察をしとる様子です」
「岩山はどうだ。生き残りはいるか?」
「全滅でしょう。山はつぶれ、入り口付近も、木々が吹き飛ぶほどです」
「よし」
「快勝ですな」と、副官のキルビンナック。「若造の火遊びもここまで。密約で刺される恐れもなくなった」
「おいおい・・・お優しい領主閣下を悪く言うんじゃないぜ、キル?」
バッツワーノは肩をすくめた。
「悪いのは、爆弾を届けた連中さ」
「クックック、確かに!」
「にしてもだ・・・、」
バッツワーノはパイプを取り出し、火は付けず、草も入れず、ただ、咥えた。
「ソラトバンめ、意外と賢いな? 正義の味方を気取って突っ込んでくれると思ったものを」
「知らなかったんじゃないですかね」とキル。
「『力の筒』に、気付かなかったと?」
「ええ。──回避が遅かったと言ったな? ルクジッコ」
「・・・はい。伝令が近付いても反応はなく・・・爆発が起こってから、あわてて逃げた様子でした」
「なぜだ?」
「なぜとは」
「なぜ、呪文を使わん? 『力の筒探索』を」
「射程外であったかと」
「ふむ」
「どのみち、呪文なんか使えやしませんよ」キルは、鼻で笑った。「タダの素人だ」
「素人、な」バッツワーノは、パイプを噛みしめた。
「それで、次はどうします?」
「決戦だ」バッツワーノは歩き出した。「例のスカルドに、仕事をくれてやれ」
「何をさせるんで?」
「ヤツが『力の筒』を探知できんのなら──次に使う場所を、教えてやるのさ」
◆ 28、でたらめスカルド、重大発表 ◆
翌日。ハツラノッツ中心部、四つ辻にて。
「寄ってらっしゃい! 皆の衆。
さあ聞きなされ! 真実を」
でたらめスカルドが、『重大発表』を、吹き散らしておった。
「おお! ハツラノッツの、若き獅子!
知恵ある領主。民にも慕われていたものを。
オーガどもめ!
オーガどもめが、やりおった!
領主が、洞窟に入ったところ・・・
あの爆発で、殺したのだ!
300人の、戦士と共に・・・
オーガどもが、暗殺したのだ! ハツラノッツの、若き獅子を・・・」
「なんだと?」「領主さまが」「そんな馬鹿な」
集まった人々が、騒ぎ始める。
でたらめスカルドは。両手を高~く差し上げて、拳を握って、こう叫ぶ。
「おお! ショラン・ギサンチの、鬼どもめ!
見ておれ、いまに鉄槌を、
ハツラノッツの民のため、
義を重んじる、帝国が、
おまえたちに、下すであろう!
悪逆非道(あくぎゃくひどう)の鬼どもめ! 次の朝日は、拝めぬぞ!」
「・・・悪逆非道の鬼、ねぇ」
この『重大発表』を、ダークエルフも聞いていた。
茶色の肌したダークエルフ。
シレッと混ざる、部外者も。
「こらもう潮時やね」
ディルーネ。
ハーフダークエルフ・オーガの女。見た目はダークエルフ。ちょっと耳が短いか?
幽雲洞の誇る(?)密偵は。
散りゆくダークエルフに混ざり込み、下町へ、裏門へ、街の外へと、すべり出る。
人目が絶えた、そのあとに・・・
空仰ぎ、「おーい」「おーい」と、手を振って・・・
「ウミちゃ~ん。来て来てぇ~」
すると空から8本足の、
ぶ~ん・・・
とうなる物体が、彼女のそばに降りてきた。
チラーニたちが使うタコ。偵察機がやってきた。
「えっと、ウミちゃん? 昨日・今日の街の話、聞きたない?」
すると。
ばさばさばさ・・・と。
海のほうからヨレヨレと。
目がひとつしかない海鳥(?)が。
ボテ。と、地面に落っこちて、
<拙者、任務中なんでござるが・・・>
海鳥型の鬼械人、ウミドラーニ、参上である!
「重要情報あんねん。全部教えるから、中継させてくれへん?」
ディルーネが提案したところ。
<わかった>
ウミドラーニの声玉から、チーニャの姐御の声がした。
<情報が先だ。周囲に注意しろよ>
「ありがとー。ほな、ウミちゃん、抱っこ」
<え。なんで抱かれねばならんのでござるか・・・>
「いま恐いお姉ちゃんが言うとったやん? 周囲に注意しろて」
<私のコトじゃないよな?>
「うーん。はいはい、抱っこ抱っこ」
<ぐえ・・・>
◆ 29、簡単な仕事 ◆
ディルーネから、『重大発表』を聞いたチラーニ飛行隊。
「・・・『次はショラン・ギサンチを吹っ飛ばす』っちゅう意味かのう」
少しやつれたソラトバン。元気のない声でしゃべる。
「じゃとしたら、姐御。わしゃ・・・」
<はいストップ~>
チラーニが止めた。
いつものごとく、上半身どーんと出して、上半身整備室(実質、会議室)を占拠しておる。
<ママから情報がありま~す>
<おふくろじゃ>
チラーニの声玉の声が変わった。
弐ノ塔のおふくろさんの声である。
<まず、幽雲洞からの情報じゃ。スカルドの宣伝通り、バッツワーノ隊が動き出したそうじゃ>
「うん? ディルーネさんの話じゃと・・・」
<別の密偵じゃ>
「何人も居るんか・・・」
「ま、そうだろうな」
言いながら、チーニャはソラトバンの隣に座ってきた。
ぐったりしとるソラトバンに、ぴったり身体をくっつけ、腕を回して、支えてくれる。
「・・・すまん」
「気にすんな」
<それでじゃ。幽雲洞が、同盟を打診してきた>
「どうめいをだしん」
「守ってくれってコトだろ?」
<いまの状況ではそうなる。チラーニ飛行隊は、一足先に飛べ>
「ショラン・ギサンチに?」チーニャ。
<ショラン・ギサンチに>
<ママはど~すんの?>
<六間洞と調整をし、補助塔の改造をする。終わったら、同盟を結んで、合流する>
ここで、おふくろさん、少し低い声になった。
<──今度は、こちらが待ち受ける番じゃ>
「あ、それなんだけどね、ママ」<スカルドの話、おかしいと思うんだよね~>
<どこが>
「・・・『領主が、洞窟に入った』っちゅうトコかのう?」
<見とったん、ワシらだけじゃもんのう>
ソラ&トンボが、言い当てた。チーニャ、うなずく。
「その通り! これは、挑発──いや、罠だと思うんだ」
<罠とな>
「トンボとソラを誘き出す罠さ。『出て来い。次はショラン・ギサンチだぞ』──まさにいま、ソラが引っ掛かったろ?」
「わしを狙って?」
「おまえ、スカルドとケンカしたろ? あれが伝わったんだと思うぜ。こう言えば出て来る、って読まれてんのさ」
<なるほどな。わかった。警戒しよう>
「・・・わしは、軽率な男じゃ」ソラトバン、落ち込む。「『嘘は許さん』などと、いきり立って」
<しょげる必要はないわい>と、おふくろさん。
「そうかのう?」
<そうじゃ。そなたが失敗するのは、計算に入っとるし>
「え」
<密偵としてはバカじゃが、気持ちは正しいし>
「・・・じゃが、わし、失敗ばっかりで。危険を招いて」
「オレたちが援護するさ」チーニャ、ソラトバンの背を叩く。「仲間だろ?」
<ソウジャ!>
<そうじゃそうじゃ。危険なんぞ、屁でもないわ。何のためのトンボ様じゃと思うておる>
「空飛ぶためじゃと思うとった」
<オマエが落としてどうするんじゃ>
「ははは・・・」
ソラトバン、左手でチーニャを、右手でドリノンを抱いた。
「すまん。どうも、悪い方にばっかり考えてしもうて」
<うむ>とトンボ。<1日・・・2人を、休ませたほうがええんじゃないか?>
<そうじゃな。1日なら、休んでも問題あるまい。そうせよ>
<了解ぁ~い>
<ただし、チーニャ。ソラと休む前に、1つ仕事じゃ>
「なに?」
<ディリシトルーネを拾え>
「は? なんであんなヤツ」
<幽雲に頼まれた。料金も請求しておる。簡単な仕事じゃろ。拾ってやれ>
ところがどっこい。
この『簡単な仕事』が、意外な騒ぎに発展したんじゃ・・・
◆ 30、山賊ナンガラック ◆
<助けてぇ~~~!>
<なんで山賊がナンガラック持ってんだよ>
<拙者も! わからんで! ござる!>
通信が飛び交っておる。
ソラトバンは、聞くだけであった。
みんなに『おまえは休め』と言われて、上半身会議室でそのまま休んどるのだ。
ただし、飛行塔が移動中なので、身体はベルトで縛りつけられておる。ゆっくり休める状態ではない。
「大丈夫なんか? チーニャ・・・の姐御は」
<誰に向かって口利いとんじゃ!>トンボどんが怒った。<おまえワシのコト舐め過ぎじゃろ>
「いや、状況がわからんで」
<こっちは大丈夫。危ないのはウミドラーニだけさ>
<ウチも! ウチも『危ない』に入れてくれる?!>
<おまえオーガなんだからさぁ、殴り倒せよ。ナンガラックぐらい>
<アホなん???>
「なんか大丈夫そうじゃな」
<大丈夫ちゃうっちゅうねん! 料金取っといてこの扱いはなくない?!>
<間もなく現場。おい密偵、10からゼロまで数えるから、ゼロで伏せろ。いいな? ゼロで伏せろよ>
<わかった! ゼロで、伏せる!>
<じゅ~~~う~~~・・・、きゅ~~~う~~~・・・>
<早ぅしてぇ!!!>
<ソラさ~、いま、チーニャを呼び捨てにしたね? うまく行ってるみたいじゃ~ん>
「か、からかうんじゃないわい。・・・うへへw」
戦っとるんか遊んどるんかわからん。
それにしても・・・
「・・・もどかしいモンじゃな。通信聞くだけっちゅうのは」
<ま~ね。でも、指揮はやり甲斐あるよ>
「ほー」
<3、2、1、ゼロ!>
<うぅっぷ! ・・・ええよ! 撃って!>
<左肩砲、けむりだま発射><けむりだま発射じゃ!><よし。ディルーネをかばう><了解じゃ>
<げぇっほげほげほ! な゛んで・・・私を・・・入れ゛ッ・・・えほえほ>
<おまえを守るためだ>
<ウゾや・・・かばうんなら、けむ゛り撃つ意味、な゛い・・・>
<チッ。そうだよ。トンボ様を隠すためさ。──カバーした。いいぞ、チラーニ!>
<ドリナラーニ、列電魔旋弾。目標、山賊ナンガラック。胴体下部を狙え>
<了解ジャ>
ドリナラーニ。
いま、ナンガラックのほうに入って、屋上にある。
自分を鎖で固定して、列電魔旋砲構えとるらしい。
・・・そう言えば、どうやって撃っとるんじゃろな? ナンガラックって、鉤手じゃのに。
<3、2、1、発砲ジャ!>
ドガン!!!
・・・飛行塔の屋上から、全艦に響くほどの音がした。
ぐらーり・・・。飛行塔が、起き上がり小法師(おきあがりこぼし)みたいに、揺れた。
<お~っとっと~>
「ごっつい反動じゃな」
<オチカケタ>
「大丈夫かいな」
<恐怖>
<命中>とチーニャ。<ナンガラック停止。山賊逃亡。荷車を鹵獲。ロバが2頭。荷物は、未確認>
<ロバはいらないね~。荷物は確認して。帝国の手の者かも知れないし>
<了解。仲間が隠れてたら面倒だ。屋根は引っ剥がすぞ><おう>
「ナンガラックに、ロバ2頭じゃと? 山賊が?」
<ぜいたくな・・・山賊よね。ゲッホ! あ゛~・・・>
<ディルーネさ~ん>
<な゛に~? チラーニちゃん>
<ナンガラックがどこのヤツか、判別できる?>
<見てみるわ・・・>
<屋根を剥がした。仲間は居らんが、袋──え、なんだコレ>
「どうしたんじゃ」
<セイレーンだ>
◆ 31、レモノーノ、飛行塔に乗る ◆
ズズーン・・・・・・。
飛行塔が、着陸した。
≪動いていいよ~≫
「行くでござる!」
「ほいほい」
コボルドの整備士たちと一緒に走るソラトバン。
ロック解除された扉から、玄関=格納庫へ駆け込む。
「扉開け!」「ドリノン2鬼!」「浮上ユニット搬出準備!」
コボルドたちがサーッと分かれて走り回る。
ソラトバンは、チラーニどんに乗り込んだ。
<大丈夫? ソラ>
「大丈夫じゃ。疲れはあるが、意識はハッキリしとる」
玄関の扉が、表へ倒れる。
チラーニは繋留(けいりゅう)から解き放たれ、その扉をくぐった。
突き出した扉=床から、ふわ~ん・・・と、飛び降りる。優しい浮遊感。いまのソラトバンには、ありがたい。
ズシン。
地面に着いた。
トンボが、こっちに背ェ向けて立っておる。足元には、山賊の荷車。
その向こうに、擱座した(かくざした)ナンガラック。いま、ディルーネが取りついて調べておる。彼女の足元にウミドラーニ。ずっと抱っこして走っとったらしい。力持ちじゃなディルーネ。ハーフオーガだけあるわい。
チラーニは荷車に近付いて、立ち止まった。
ソラトバン、座席を離れてハッチを開ける。
「おーい! 大丈夫か?」
「あっ! ソラ・トゥー・バーン!」
セイレーンの娘が手を振ってきた。
なんと、それは。
実験島の爆発実験から助け出した、あの娘──マテレーニャ・レモノーノであった!
「レモンちゃん。なんでこんなトコに居るんじゃ」
「仕事が終わってー、好きにしていいよって言われてー、人間を見てー、『おいで』って言われてー、縛られた」
「捕まったんか」
「つかまった」
「知らん人間に、ついてっちゃいかんぞ」
「うーん? ・・・誰にもついてけなくならない?」
レモン、足ヒレでベタンベタンと、荷車を叩く。不満のジェスチャーか?
で、なんか知らん、歌い出した。
「♪最初は、みんな、知らんヒト~。ソラにだってー、ついてけなーい」
「こりゃ一本取られたわい」
トンボ・チーニャがやってきた。こっちもハッチを開けて、「ソラ! 積み込みやるぞ」
「わかったわい」
「・・・行っちゃうの?」
「仕事じゃ。終わったら戻って来るけぇ。これでも舐めて待っとってくれ」
「なにこれ?」
「飴ちゃんじゃ」
「ふーん・・・ガリボリバリ」
「噛むんじゃない」
荷車。
金銀と食料がいくらか。それに歩兵用の武器(安物)があった。
荷車ごとチラーニどんで持ち上げて、飛行塔に入れる。
安モンの武器なんぞいらんのじゃが。置いとくと、また山賊の得物(えもの)になるで。
ロバ2頭。
いらん。ウンコの世話が面倒じゃ。解放。自分で街まで帰るじゃろ。
擱座したナンガラック。
ディルーネによれば、
「これ、ショラン・ギサンチのナンガラックやわー! ラスカリューミヤ防衛隊の紋章入っとるー」
コボルド整備士によれば、
「骨盤(こつばん)大破、歩行不能!」「中央蓄熱塔、損傷なし!」「呪文版、損傷なし!」「『生命探索』反応あり。修復可能でござる!」
≪んじゃ~、積み込んじゃお~≫
これは大作業であった。
浮上ユニットを、てんこ盛りに取り付ける(整備コボルドが大騒ぎして作業した)。
屋上から、ドリナラーニどんが鎖を垂らして、クレーンの役目をする。
最後に、トンボどん・チラーニどんの2鬼が<せーの!>で持ち上げて、やっとこさ、玄関に入れることができた。
「大変じゃな」
<重いからね~、ナンガラック>
「ドリナラーニどんのときは、どうやって入れたんじゃ?」
<オレが押した~。浮上ユニット付けて、丸太でコロ造って>
「玄関には、どうやって上げたんじゃ?」
<崖っぷちに飛行塔止めて、地面と入り口の段差をなくしたのさ>
<恐怖>とドリナラーニどん。<コケカケタ>
「おおう・・・」
崖っぷちでナンガラックには乗りたくないな、と思ったソラトバンであった。
ディルーネ。乗せる。
マテレーニャ・レモノーノ。
どうしよう。
「レモンちゃんは・・・ええと、お家はどこじゃ?」
「セイレヒーム。海の向こー。さんごしょー」
「どこじゃろ。1人で帰れるか?」
「海どっち?」
「あっちじゃが」
「見えない」
「無理じゃないか?」とチーニャ。「また捕まるぞ」
「・・・。」
ソラトバン。チーニャを見る。
チーニャ、空仰ぐ。「子供がネコ拾ってきた母親の気持ちがわかった」
乗せた。
やっとこさ、作業完了じゃ。日が暮れてしもうたわい。
ヘトヘトになって、風呂にゆくと・・・
「~~~♪」
「なんじゃ・・・この歌は・・・?」
美しい歌が、響いておる。聞いとるうちに、たまらなく切なくなってくる。
「おお・・・! 飛び込まずには、おれんわい!」
どぼーん。
飛び込んだソラトバン! 床で頭を、ごっつんこ。
水中に沈んだことにより、歌が聞こえんようになり、正気を取り戻した。
「ぶはー!」立ち上がる。「一体なんじゃ!? この、怪しげなる歌は」
周囲を見回す。
「あれ! 女が浮かんでおる!」
褐色の肌した姉ちゃんが、お尻ぷかーんと浮かべてただよっておる。
あわてて抱き起こしてみれば、ディルーネであった。おっぱいが波に揺られてぷるんぷるんしておる。
「なんでこの風呂、やたらに鉢合わせるんじゃ」
ソラトバン、ガクッとなる。
「いやそれよりもじゃ。おい! しっかりせい。・・・おおーい!!! 誰か、誰か来てくれえ!」
と、ここで。
今度は・・・
「ソラ~~~♪」
「ぐわー」
セイレーンが、飛びついてきた!
上半身、素っ裸。初々しい娘の裸体。バッシャバッシャ足ヒレ動かして、『絶対逃がさん!』の勢いで、しがみついてくる。
「レ、レモンちゃん。どこに居ったんじゃ」
「潜ってた」
で。
最後に・・・
「・・・ソラ?」
騒ぎを聞きつけてやってきたチーニャに、肩をギュッと、掴まれた・・・。
・・・と、まあ、こんな騒ぎになったワケじゃ。