前回、帝国の話をしたのですが、帝王の代が間違ってました(修正済み)。
今後も出てくる話題なので、改めて訂正しておきます。
× 「第五代、ウシャーニ帝さ」
○ 「第四代、・・・
◆ 37、爆鬼の≪声≫ ◆
「・・・?」
セイレーンのレモンちゃんが、突然、宙を見上げた。
ボーッとした表情で、目に見えん何かを追いかけておる。
読み書きの勉強しとったソラトバンが、「どうしたんじゃ?」と訊くと・・・
きょとんとした顔で、こっちを見て・・・
「≪声≫がする」
「声じゃと?」
「クルナ。筒。死」
ソラトバンとチーニャ。顔を見合わせた。
「──爆鬼(ばっき)!!」
≪ソラ・トンボ、発進準備。屋上へ回れ。ドリナラーニは屋上で待機、列電魔旋砲をトンボに渡せ≫
チラーニの指示が流れる。
ソラトバンは、飛行中の塔内を走った。
空飛ぶ塔は、船のようにゆっくり上下に揺れておる。走ると、たまに身体がフワッと浮く。わりと危ない。だが、もう慣れた。ちょっと壁にぶつかったが大事ない(だいじない)。
格納庫に入った。
すでに担当コボルド2人が、移動式階段を出してくれておる。固定を確認。駆け上がる。最後だけ慎重に、ハッチをまたいで・・・
トンボの胸の奥、乗り手席へ。
「どこからか、わかったか?」
<ワシらには聞こえんのじゃ>
「ん?」
<レモン以外、誰も声を聞いとらんのじゃ>トンボは説明した。<聞き間違いじゃないんか?>
「それならええんじゃが」
<確認は必要だからね~>とチラーニ。
<レモンによれば、方角は北北西だそうだ>とチーニャ。
「了解じゃ」
ソラトバンはベルトを留めた。
トンボはすでに、発進準備を始めておる。ぶーーーん・・・と、飛行ユニットの震動が伝わってくる。
コボルドは移動式階段を片づけ、壁へ走り、自分たちの身体を壁に固定した。
「こちらトンボ・ソラトバン。発進準備完了じゃ」
<んじゃ、屋上行ってね~>
トンボが、歩き出した。
ゴガァン・・・ゴガァン・・・!
足音が轟く。
トンボには浮上能力がない。チラーニのように猫足で歩くことはできん。
雷鳴のごとき足音をまとって、エレベーターへ。片膝をつき、鬼械人用の把手を握った。
「ええぞ、チラーニどん。上げてくれ」
≪格納庫エレベーター、上に参りま~す≫
屋上に出た。
砲塔にナンガラックが座っておる。ドリナラーニである。
<オウ!>
と言うて、でっかい砲を手渡してきた。
列電魔旋弾──を撃ち出す専用砲である。
トンボどん、それを受け取る。腰の後ろに回した。
ガチッ!
腰の2叉フォーク×2が、大砲を挟み込んで、固定した。
<トンボじゃ。列電魔旋砲、受領したぞ>
<じゃ、発進。北北西へ!>
トンボは太陽に背を向けて、青空へと、走った。
下界に飛び降りて──
ぐわん!!! と、加速する。
「ぬ、ぐ、ぐ・・・」ソラトバン、加重に耐えながら、「ほ・・・北北西、には、何か、あるんかのう?」
<エッサーミヤだな>とチーニャ。<以前、尼さんを降ろしただろ? あのへん>
「あそこか・・・結構な都じゃったよな」
<うん。河港があって、麦の輸出の中継点になってる>
<『ギサンチ独立国』に加入したらしいぜ>
「独立したんか?」
<幽雲洞は独立を承認した。帝国は完全否定して『反乱』と呼んでる>
独立を承認──とかいう言葉は、ソラトバンにはよくわからん。
だがこれだけはわかる。
「いやな予感がするのう」
<そうだな>
◆ 38、爆弾を止める方法 ◆
トンボどんは、青空を突っ切った。
ごっついスピードじゃ!
見る見るうちに地平線の向こうへと、大地を飛び越してゆく。
スクロール(巻物)をクルクル巻き取るようじゃ! ギサンチの大地が、流れゆくわい!
鮮やかな黄緑の大海は、麦畑。
暗い茶色の岩礁は、羊飼いの住む岩山。
──綺麗な巻き絵じゃ。
その巻き絵に、巨大な蛇が出てきたぞ。キラキラと陽光を反射する、大きな河じゃ。
「えーと・・・ギミラス・ハバヒロイ河じゃったな」
<そうじゃな>
<勉強の成果が出たな>とチーニャ。
「まあな。先生が優秀じゃけぇ」
<うふふ>
<惚気(のろけ)はいらんぞ>
トンボに冷やかされた。
<まず、カウントダウンがあるなら、10で絶対に離脱して>とチラーニ。
「10まではええんか?」
<良くはないけど。10から逃げ始めても、トンボ様なら逃げ切れるからね>
<そうじゃな>
「トンボどんは、筒、止めれんのか? ふだん自分が使うとるヤツじゃろ」
爆鬼には、『力の筒』が使われておる。
トンボどんの身体に入っとるのと同じ型の『力の筒』じゃ。
この型の筒は、非常に長持ちするが、簡単に暴走してしまうらしい。
<ふだんの筒なら、操作はできるがな>
<妨害する魔術がかかってたら?>とチーニャ。
<そうよ。ワシが心配しとるのは、まさにそれよ。チーニャ>
「なるほど」
<ママに確認してみました~>
<こちら、おふくろ。確実な手が、ひとつある>
「なんじゃ」
<密封を解けばええんじゃ。八角柱の部分を壊すか、穴空けるかせよ>
「・・・それ、爆発はせんのか?」
<するが、>
「ダメじゃないか!」
<ちょっとママ! ソラを死なす気?!>
ソラトバンとチーニャ、騒ぐ。
<馬鹿言え。──爆発はするが、小規模じゃ。トンボなら大丈夫じゃろ>
「ホンマか?」
<私が保証する。実験はしとらんが>
<ワシに穴空いたら、チラーニに同じ穴開けるからな>
<なんでオレ?!>
<おまえさん、ワシのコト蹴ったじゃろ。ワシが死んどるときに>
<オレじゃない。チーニャの命令で><おいコラ>
「トンボどん、根に持つタイプじゃな・・・」
<──問題は、>おふくろさんが、話を戻す。<筒の捜索のほうじゃろ>
<ワシ『探索』できるぞ>
「なんじゃそれ」
<呪文じゃ。『力の筒探索』っちゅうて、筒の場所を透視するルーン魔術じゃ>
「それ唱えりゃ、筒の場所がわかるんか?」
<わかるぞ>
「おお!」
<じゃが、距離の問題があるじゃろ>
<うむ。1町まで近付かにゃならん>
「え」
爆鬼の有効半径は、1里。つまり36町じゃ。
1町まで近付いたら・・・
「距離ゼロも同然じゃないか」
<そうなる>とおふくろさん。<ほじゃけ、チラーニ隊長の方針に、私は賛成する>
「カウント10で全速離脱、じゃな」
<そうじゃ。10になったら 絶 対 に 離脱せよ>
「了解じゃ」<了解じゃ>
話し合いも終わって。
気持ちよく空飛んでおると。
大河の西岸に、城壁が見えてきた。エッサーミヤの市街地じゃ。
城壁に囲まれて、高層住宅が建ち並んでおる。都会じゃ!
大河の中まで壁が伸びて、堤防になっとるわい。
街の周囲は、地平線まで、ずーーー・・・っと、麦畑じゃ。点在する農村が、パンにくっついた菜種(なたね)のごとしじゃ。
・・・と、このとき。トンボが声を出した。
<聞こえたぞ! 『クルナ。筒。死』──例の通信じゃ!>
「ホンマにあったんか!」
<位置は・・・街の西の、あの丘のあたりじゃ。正確な位置は、上空を通ってみんとわからん>
「ほじゃ、行こう」
<危険じゃぞ>
「街に対して爆鬼使うなぞ、狂人のすることじゃ。止めにゃならん」
トンボどんが、街の真上を突っ切ってゆく──
まさにそのとき! 3つの出来事が、ほぼ同時に発生した!
まずはソラトバンが、『鷹の目』で、城壁が砕けるのを見た。
「砲撃じゃ! でっかい槍──蒸気械弩砲(じょうきかいどほう)か!」
人間よりもデカい槍。
城壁に、ズシーン! ガシーン! と命中し、少しずつ壁を削っておる。
「あんまり利いとらんようじゃが」
<爆鬼が近付くまでの援護っちゅうとこかのう?>
次に、トンボの耳が。
<通信が増えたぞ!? 爆鬼が・・・3体に!>
「なんじゃと!?」
<しかも全員カウントダウン開始しおった!>
<キュウジュウハチ・・・、退避。筒。死。キュウジュウナナ・・・、退避。筒。死>
<やはり、罠だ>チーニャの苦い声。<オマエが来たのを見て、カウントを開始したんだ、ソラ>
「くそっ」
そして、最後に。
ふたたびソラトバンの『鷹の目』が──
「コローネちゃん!?」
──正門に逃げ込む、若い尼僧の姿を発見したんじゃ。
◆ 39、コローネ、ピンチになる ◆
コローネ──太陽の女神に仕える修道女・ココロッツバーネは、ピンチであった。
どがーん! がごぉぉぉん・・・! ずーん! がらがらがら・・・
逃げ込んだトンネルに、ものすごい音が響いてくる。地面まで揺れておる。
トンネル。
城壁の正門を抜けるアーチ状のトンネルである。これをくぐって市内に入るのだ。
コローネとしても、そのようにしたいところであるが──落し格子が、行く手をふさいでおる。
入れないのなら、外へ引き返したいところであるが──落し格子が、逃げ道もふさいでおる。
2枚の落し格子に、前後をふさがれて。
コローネは、トンネルの中に閉じ込められとるんである。
同行しておった修道騎士の男と、2人だけで・・・。
──どうして、こんなことに?
コローネは、焦げ茶色の目をパチクリした。
今日は、いい日だったのだ。
太陽の神殿で大きな儀式があって、その参列者に選ばれた。
「あなたは、礼儀作法に間違いがないから」と、院長先生に言われて。
名誉なことである。
天気もよく、郊外の尼僧院から街へ歩くのも、ちょっとした旅行のようであった。
しかも! 同じ太陽神殿の修道騎士(みんな男である)が、護衛をしてくれる。
貴族の娘に戻ったような気分であった。
いい日だったのだ。
望みもしない修道生活に囚われていたコローネには、夢のように、いい日だったのだ・・・
──それが、どうして、こんなことに?
「おい! 誰か居らんのか! 落し格子を上げよ!」
一緒に閉じ込められた修道騎士が、美しい声を響かせる。
ハーフエルフだそうで、耳が長い。美男子で、足も速かった。
コローネも、尼僧の中では健脚なほう。
自然と2人が先頭を歩く形になって──それが、裏目に出た。
最初にトンネルに入った2人だけが、閉じ込められてしもうたんである。
頭の上に格子が落ちてきて・・・
修道騎士がとっさに引っ張ってくれなかったら、潰されるところであった。
「エッサーミヤの門番の、練度の低さよ!」
修道騎士が、嘆いておる。
「落とし格子の管理もできぬとは。『ギサンチ独立国』が聞いて呆れるえ」
どがーん! がごぉぉぉん・・・! ずーん! ずずーん、がらんがらん・・・!
あっちこっちで、何か壊れる音がする。
トンネルからは見えない太陽を見上げて、コローネは、問いかけた。
──女神さま。私、なにか悪いコトしました?
答えがあるとは、思っていなかったが・・・
まるで、彼女に答えるように・・・
空から巨人が振ってきた。
ドッ、ガガガガガッ・・・ザザザザッ・・・!!!
大地を揺るがし、もうもうと土煙を巻き上げて、正門トンネルの外を、巨人がふさいだ。
ガキィィィン!!
硬いものが、重いものを、弾き飛ばす音がした。
「ひっ!?」
「おお、危ないところであった」と修道騎士。「ご覧あれ。巨人が槍を弾いてくれましたぞ」
巨大な木の槍が、トンネル入り口に転がっておる。
トンネルに飛び込もうとしたこの巨槍を、巨人が、足でブロックしてくれたらしい。
淡い黄金色した、巨人の足!
トンネルからでは、膝しか見えぬ!
八角柱の不思議な筒が、グッと伸びて、膝が上昇していくのを、見ることしかできぬ!
見たことも聞いたこともない金属の肌した魔術の巨人が・・・
≪コローネちゃん! 無事か!?≫
「え」
・・・聞いたことある男の声で、しゃべった。
◆ 40、筒を破る ◆
正門前に滑り込んだソラ&トンボ。
トンネル内の2人を、トンボの足で守りつつ・・・迫る敵を、確認した。
先頭を歩くのは、爆鬼。
蒸気械弩砲の、弩砲を外したヤツ。
・・・なのだが。
ゴブリンが7人、随伴(ずいはん)しておる。
それも、フンドシ一丁で。武器も盾も、何も持たずに。
「なんじゃありゃ」
<人間の盾じゃろ>
「にんげんの盾・・・」
<ワシらが爆鬼を撃てんようにしとるんじゃ>
「馬鹿な」
<もう一つある>とチーニャ。<ゴブリンが自爆攻撃をした、と宣伝するのさ>
「ゴブリンを悪者にするんか・・・」
ソラトバンの頭に、清雅の兄貴たちの顔が浮かんだ。
昔のソラトバンなら、彼らと仲良くすることは、絶対に、なかったであろう。
オーガとゴブリンは人喰い鬼じゃ──と、思い込んでおったから。
帝国が、そう言ったから。
「・・・まさか、幽雲洞を孤立させるためか!? そのために、捕虜に濡れ衣(ぬれぎぬ)かぶせて殺すんか!」
<ご明察>
「クズめが!!!」
ゴブリン7人と爆鬼から3町ほど向こうに、丘がある。
そこにも蒸気械人が隠れとるのはわかっとるが──いまは、互いに視線が通らん状態である。
蒸気械弩砲の槍は、丘を越えて飛んで来とるけれども。
<ハチジュウロク・・・、退避。筒。死。ハチジュウゴ・・・>
「トンボどん、格子持ち上げてやってくれ」
<おう>
トンボの手が、落し格子を掴んで、無理やり持ち上げた。バキバキ! どっか壊れる音がした。
修道騎士とコローネが外に出て、トンボの足元を駆け抜けていった。
これで、正門を守る必要はなくなったが・・・
「どうすりゃええんじゃ。3つは厳しいぞ」
<退却しろ>チーニャの声。
「それはできん」
<ソラ!>
「トンボどん。正面の爆鬼から片付けるぞ」
<トンボ様、退却して。ソラを連れて帰って!>
<こらこら>トンボどんが怒った。<バラバラな命令をするんじゃない。チラーニ! 掌握(しょうあく)せんか>
<は~い。ソラ、オマエが判断しろ。ただし『10で離脱』は絶対に守れ>
「了解じゃ」
<チラーニ!>
<チーニャ、お黙り>
<・・・だ、だって。ソラが>チーニャが弱々しい声を出した。<万が一。やだ。ダメだよ。他人のコトなんか、関わr──>
<通信切りま~す>
チラーニの容赦ない声。チーニャの声は聞こえなくなった。
<オレの速度じゃ、間に合わない。ソラ、任せたぜ>
「・・・了解じゃ」
<ナナジュウヨン・・・、退避。筒。死>
ソラトバン。足元の物体を拾う──という動作をした。
トンボどんがそれを理解して、実行する。
拾い上げたのは、巨槍。
弩砲が撃ち込んでくる矢弾である。
「突っ込むぞ!」
<おう!>
ぶうん!!!
背中の羽を震わせて。
ソラトバンの首がきしむほどの加速で。
突撃!
一気に距離を詰めて──
爆鬼の、中央蓄熱塔(ちゅうおうちくねつとう)に、ブチ当てた!
蒸気械人の、最大の弱点!
起動中は超高温、破壊されれば爆発する、危険構造物!
そこに、巨槍を突き刺した!
バゴォン!
熱が弾けた! 空に向けて、灼熱の炎が噴き上がる!
「うわー!」「熱い!」「爆発する!」「一大危機!」
ゴブリンどもが騒いでおるが、気を回す余裕はない。
中央蓄熱塔が火を噴いた、爆鬼。
蓄えておった熱が、失われ・・・
関節の筒に、熱を送ることができんようになり・・・
膝カックン状態となる!
すべての関節から、力が抜けて・・・
爆鬼1、擱座(かくざ)である!
<『力の筒探索』じゃ!>
トンボどんは、呪文を唱えた!
<筒、見つけたり! 乗り手席のあたりじゃ!>
場所を特定したかと思うと・・・
蒸気械弩砲の、顔(?)を・・・
ガガッ!
両手で鷲掴み(わしづかみ)・・・
<肩砲じゃ!>
ドゴッドゴン!!
至近距離から、左右の肩砲をぶっ放した!
砕ける前面装甲!
バラバラになる乗り手席!
その座席の下に、縄で縛られた八角柱が見えた!
ソラトバン、さっと握りを動かして、その発見をトンボどんに伝える。
トンボどんが、同期する。右手を伸ばした。
宙を舞う筒を、掴む!
そして──
「撃つか?」
<装填(そうてん)の時間も惜しい。こうすりゃええんじゃ!>
がつーん!
近くの岩に、叩きつけた!
・・・割れん。
「おい!? 割れんじゃないか」
<無駄に頑丈なんじゃ! この筒は! この! この!>
ブン回してぶつける!
縦にぶつける!
斜めにぶつけてみる!
割れた!
穴がちょっとだけ空いて、そこからプシューッと空気が洩r──
どうん!!!
爆発した。
「ぬわー」
全身を衝撃に貫かれたソラトバン。びっくりして、叫ぶ。これでおしまいか。
いや。我に返って全身見たが、生きとった。
ゴブリンどもは?
引っくり返っておる。死んだか。
いや。ハネ起きてキョロキョロしだした。生きとった。
<1本目、処理完了じゃ!>
「よし」ソラトバンは、汗を拭った。「次じゃ!」
だが。敵も止まっていたわけではない。
筒を壊すまでのあいだに、動き始めておった。
対鬼ナンガラックと、“鉄拳”が。
丘の向こうから姿を表わしたのだ・・・
◆ 41、トンボ、奮戦す ◆
<ゴジュウサン・・・、退避。筒。死>
爆鬼は、まだ2鬼残っておる。ゆえに、カウントダウンは当然続いておる。
そっちを優先したいところだが、近接部隊がグングン近付いてくる。
重装甲の対鬼ナンガラック、3鬼。
指揮官用のピンガデオス、1鬼。
「爆鬼と一緒に突っ込む気か? 自爆部隊っちゅうコトか?」
<いや。爆鬼は別じゃ>
「なに?」
<北と、南じゃ。2手に分かれて街を挟むと見た>
「正面の部隊は、時間稼ぎか」
<じゃろうな。どうするソラ?>
ソラトバンは直観で決めた。
「・・・目の前のを片付けよう。列電魔旋弾で、一気にやるんじゃ」
<コイツは装填が長いぞ? 乱戦にゃ向いとらんが>
言い返しつつも、トンボは腰に手をやって、列電魔旋弾の砲身を構える。
ぶうん・・・! 振り回される大砲の影が、正門を舐めた。
「分けて撃つんじゃ。『力』を小出しにするっちゅうヤツ」
<照準が狂うが>
「近付きゃ当たるじゃろ」
<その手があったか!>
列電魔旋弾に、弾を装填。
ダーツの矢みたいな形した弾を、砲身上の穴からセット。ガチッとフタを閉め、ロック。
トンボの指はなめらかに、素早く動いた。
「撃つ方は任せるわい」
<おう!>
トンボ、突進!
地面を蹴って、走る。
石畳の街道が、トンボの重量に負けて、砕ける!
ときおり宙に浮かび上がって、短距離飛行する。
突風に煽られて、麦の海原に波が立つ!
対鬼ナンガラックに、肉迫(にくはく)。
ここからは速度を下げる。高速移動中にナンガラックの鎖鉤手(くさりかぎて)を引っ掛けられたら、トンボは無事でもソラが死ぬ。よって、減速してからエンゲージ。
列電魔旋砲を槍のように構えて・・・
<耳ィ、ふさいどけよ!>
「おう!」
対鬼ナンガラックが腕を振り、鎖鉤手を飛ばしてくる。右、左。2本!
トンボは身を屈めて右の1本を回避、左肘を張って左の1本を弾く。
そのまま片膝ついて、低い低い姿勢となり・・・
ドッ!! ガォオン!!!
至近距離から、ナンガラックの腰を、撃ち抜いた!
対鬼ナンガラック1、大破して、転倒!
左のナンガラック2は、外れた鎖鉤手を横にスイング。トンボの背中の羽を狙った。
ソラトバンは、左の把手を外に振る。トンボは左手を砲から放し、大きく振って、鉤手を弾いた。
ナンガラック3が右から出てくる。そちらにサッと砲を向け、牽制が利いたのを見て・・・
<いったん離脱じゃ!>
トンボは、逃げ出した!
敵に背を向け、走り出し、鎖鉤手の射程を抜ける。
地面を蹴る。
ぶーーーん・・・!
飛行ユニット起動!
街道から横に飛び、麦畑を飛び抜ける。煽られた麦が、ざああっ・・・と、ひれ伏した!
<南の爆鬼、見えたぞ!>
飛びながら、列電魔旋弾を装填しながら、複数の地点で通信を聞いて、発生源を推定する。
高速飛行中に並列作業──地味だけれども、はなれわざ!
まさに鬼械人の英雄!
その姿を見て、ソラトバンは・・・
<・・・おいソラ、聞いとるか? 爆鬼見えたぞ。どうしたソラ!>
(耳が、聞こえんのじゃ!)
耳を指差し、口パクパクするソラトバン。声も、なんかおかしくなっておる。
(トンボどんが、何言うとるか、全然わからん!)
<鼓膜がやられたか! じゃが──悪いが、あと1発は撃たせてもらうぞ>
トンボは、今度は街道に直角に突進した。丘の上から、岩だらけの不整地を駆け下りる。
高所を確保でき、ナンガラックが1列になるので、鎖鉤手が1本しか飛んで来ない──そういうルートである!
しかも、動きの鈍い相手は、トンボどんに側面を晒しておる!
ドガオオォン!!!
中央蓄熱塔を、撃ち抜いた! ナンガラック2は、大爆発!
炎と煙で、ナンガラック3の視界がふさがれる。
そこにソラトバンが突っ込んだ。握りを前へ、鐙(あぶみ)も前へ。
ナンガラック3の肩を掴んで押しやりながら、膝を足で押し蹴った!
ずっ・・・・・・・・・でえーーーん!!!
ナンガラック3、コケる!
街道をメチャクチャにしつつ、重装甲のヘビー級、ナンガラックが転がり落ちる!
麦畑に突っ込んだ! ごめんなさい農家さん!
しかしこれにてナンガラック、3鬼撃破完了である!
残るは1鬼! ピンガデオスのみ!
このピンガデオスが、前に戦ったものとは少しちがうことに、ソラトバンは気が付いておった。
(背中に槍。肘に・・・鉄球?)
背中の槍は、まだわかる。だが、肘の・・・トゲ付き鉄球は?
武器──というには、少しおかしい。肘につけるより、拳につけたほうが良さそうである。
盾──にもなっとらん。むしろ受ける自分も肘が壊れそうである。
(鉄拳ならぬ“鉄球”っちゅうワケか。こりゃ、なんかあるぞ?)
トンボは煙に紛れて後退、列電魔旋弾を装填するが──
さすがは、指揮官機。
相手も煙を利用してきた!
装填が終わり、さあ砲を構えようかという、まさにそのとき!
“鉄球”ピンガデオスが、煙の中から突進してきた!
ソラトバン。
相変わらず耳が聞こえん状態だが。
クイクイッ・・・と、握りが動くのに、気が付いた。
(掴め)
と、言われとるようである。
掴んだ。
前を見る。
“鉄球”の正面、覗き窓が、ちょうど目の前に来ておった。
敵の覗き窓は、ただの穴であった。ガラスも何もハマっとらん。単なる隙間である。
その穴の奥に。
敵手の顔が、はっきり、見えた。
キルビンナック。
ソラトバンは、その男の名は知らぬ。
だが、その目には見覚えがあった。
ナイフを突き付けて、弐ノ塔の情報をしゃべれと脅してきた、覆面の誘拐犯──
(おまえじゃな! あのとき、わしを殺そうとしたのは!)
相手の口が、こう動くのが見えた──『死ね』『素人め』。
そして、必殺のパンチが飛んできた。
「ピンガデオス、爆伸三連(ばくしんさんれん)!」
◆ 42、トンボ vs “鉄球”ピンガデオス ◆
ピンガデオスの右肩関節の筒に、火薬が注入された。
中央蓄熱塔から、『全液沸騰』級の熱が送り込まれた。
沸点の異なる魔蒸気液のすべてが、一気に蒸発した。
筒内の圧力が限界まで上昇。
さらに、発火の魔術が筒内に投射される。先ほど噴射された火薬に、火がついた。
筒内の圧力が、さらに上昇。
ピストンが爆伸。
『魔蒸気筒』の出力を遥かに越えた力で、右肩がハネ上がる。
──代償として、この筒は破損、二度と動かせなくなるのだが。
ほぼ同時に、右肘も爆伸。
必殺ストレートが、敵に向けて飛ぶ。
直後に上半身を旋回させて、左肩・左肘を爆伸。
必殺ストレートの2発目が飛んだ──
ソラトバンは、どうしたか?
じつは、ソラトバン。『爆伸』のことは頭にあった。
以前バッツワーノ鬼と戦ったとき、チラーニどんの浮上筒を壊されたことを、忘れてはおらなんだ。
ずーっと覚えておって・・・
どうやってかわしてやろうかと・・・
頭ン中で、想像をくり返しておったんである!
それが、いま、日の目を見た。
右へステップ──
両手の握りを右に倒し、左の鐙を踏ん張って、右の鐙を持ち上げる。
直後、左の握りだけをチョンと戻す。
──このように、指示を出した。
トンボどんは、どうしたか?
右手で列電魔旋弾を撃とうとしておったトンボどん。
弾を込めるのは間に合った。だが砲を相手に向けるのが間に合わなんだ。砲口は上を向いておった。
一瞬、トンボどんは迷ったそうである。相手の攻撃を無視して砲を構えようか、と思ったらしい。
だがそこに、ソラトバンの指示が入った。
『右へステップせよ』。
トンボは──即座に従った。
右へステップ。
正解: 右の爆伸パンチを回避できた。
『左手をチョンとせよ』
これにも従った。左手を、軽く拝む感じで、チョンと顔の前に出す。
正解: 左の爆伸パンチが、本来なら顔面に直撃するところ、左手に当たって、逸れた(それた)。
ソラトバンの乗り手席が、激しく揺れた。
左手の握りがハネ狂った。トンボの左手に大きな打撃が入ったという通知であった。
だが直撃はしとらん。
かわした。
──と思った瞬間、ソラトバンは、ゾッとした。
『鷹の目』のおかげかも知れん。
黒い飛来物が見えたのは。
とっさに、左の握りを手前に引き寄せ、右の握りを突き出す。
(かわせ!)
叫んだ。
トンボどんが応える。
上半身を、半身に。
左肩を引いて右肩を出し、列電魔旋砲の銃床でもって、ピンガデオスの顔面をブン殴る。
正解: 鉄球が、2つとも、外れた。
(なんじゃ!?)
<こやつ、フレイル(殻竿)仕込んでおる!>
──このピンガデオス“鉄球”は、肘の鉄球を、解放できるのだ。
肘に固定されとる鉄球は、そのままでも打撃武器として使える。
だがパンチと同時に解き放つことで、ナンガラックの鎖鉤手のように、リーチの長い捕縛武器として使うこともできた。
鉄球が当たれば大ダメージ。外れても鎖が絡みつく。
なんとしても近接戦に持ち込む──六腕ロボやチラーニのような肩砲を持たない帝国軍の、苦肉の策とも言える隠し技であった。
トンボも、これには引っ掛かった。
鉄球はかわせたが、鎖が左手に絡まってしもうたんである。
突然の、チェーンデスマッチ状態!
<ぬう! これで、時間を稼ぐつもりか!>
トンボはそのように解釈したが・・・
“鉄球”のキルビンナックは、時間を稼ぐつもりなどなかった。
「なんとしても、貴様を仕留める!」
乗り手席で叫ぶキルビンナック。
彼は、ここで決着するつもりだったんである。
操縦桿(そうじゅうかん)を、前に倒す。
ピンガデオスの頭(=上半身)を、トンボの胸に押しつけた。
乗り手席のある上半身をぶつけたのだから、凄まじい衝撃が襲いかかってくる。
一瞬意識が飛びそうになるほど──だが、キルビンナックは意識を保ち、攻撃を続行した。
「勝つのは、帝国だ──爆伸槍(ばくしんそう)!!!」
第三の『爆伸』機構が発動。
“鉄球”が背負っておった巨槍が、爆伸した!
<ぬうッ!?>
トンボ、硬直。
完全に、虚を衝かれた(きょをつかれた)。
そのとき!
(撃つんじゃ!!!)
ソラトバンが、弓手席(ゆんでせき)のレバーを叩いた。
右肩砲を操作するレバーである。
いま肩砲を撃ったところで、胸元に潜り込んどるピンガデオスには当たらない。
なんの意味もない操作であった──形式通りに判断すれば。
トンボは。
ドッ!!! ガオオォン!!!
列電魔旋弾を、撃った。砲口は上を向いたまま、相手に向ける余裕もないままに。
──衝撃!!!
2鬼の上半身に、巨岩のごとき空気が、ぶつかった!
トンボはのけ反り、その上半身はほとんど仰向けとなる。
ピンガデオスは・・・持ちこたえた! ボディが凹むほどの衝撃を受けながら、踏みとどまった!
勝負あり。
<・・・踏みとどまっちゃいかんぞ、蒸気械人よ>
トンボが、上体を起こす。
ピンガデオスは、動かない。壊れたから──ではない。
<覗き窓も、そんな無防備では・・・>
乗り手が死んだら。
帝国の蒸気械人は、動くことができんからである。
<・・・人間は、衝撃波でも、死ぬんじゃから>
◆ 43、北の1鬼は、間に合わず ◆
危機は終わらない。
<ジュウキュウ・・・、退避。筒。死。ジュウハチ・・・、退避、筒、死>
爆鬼が、まだ2鬼、残っておる。
「くそっ! 時間がない!!!」
ソラ&トンボ。
先ほど特定した、南の爆鬼に急行。
ギッチョンギッチョン・・・と歩く、蒸気械弩砲(弩砲ナシ)を捕まえて。
『力の筒探索』で筒を発見して。
もはや時間がないので、相手の覗き窓(これまたタダの穴である)に肩砲突っ込んで。
<破れよ!>
ブッ放した。
幸い、筒は一発で破れ、暴走は停止した。
だが。
<ジュウニ・・・、退避。筒。死>
爆鬼は、まだ、1鬼残っておる。
「おおお!!!」
<あきらめるんじゃ、ソラん坊。もう無理じゃ>
「せめて・・・せめて、あの子を・・・かばおう!」
<かばったって、熱風と窒息で死ぬわい!>
「あああああ!」
叫ぶソラトバンに、この時ばかりは、トンボも従わなんだ。
操作を無視して走り、飛び上がり、全速力で離脱する。
「すまん! コローネちゃん! ゴブリンどん! わしゃ──チーニャのほうが大事じゃ!」
断腸(だんちょう)の思いで逃げ出したのだが・・・
<それを聞いて安心したわい>
「・・・え? おふくろ?」
<うむ>
ゴォォォオン・・・ォォォン・・・ォォン・・・
残響が聞こえた。
「爆発は?」
起こっとらん。
北の空を、見てみれば・・・
小さな塔が、飛んでおった。
「攻撃塔?」
<いかにも>
それは、弐ノ塔の一部。
分厚い装甲と砲塔を備え、弾薬以外は何も積んどらん、戦闘専用の飛行塔。
それが・・・
トンボに並ぶ速度で、シャーーーッ・・・と、カッ飛ばしておる。
<えらい早くなっとらんか?>トンボが真顔で訊いた。
<うむ!>
おふくろさんの、声が。
自信作を、人に見せびらかすときの、声になる。
<ユニットを併設したんじゃ>
「へいせつした」
<浮上ユニットと、飛行ユニットをな>
「・・・チラーニどんのやつと、トンボどんのやつを、並べたっちゅうことか?」
<そうじゃ>
「そんなことできたんか・・・」
<困難じゃった。自分を褒めてやりたい気分じゃ>
「はぁ」
ソラトバンの手の中で、握りがクイクイッと動いた。
『褒めてやれ』と言われとるようである。・・・自分で褒めんかい。
「さすが、おふくろさんじゃ」
<なんじゃ。トンボに『褒めろ』と言われたか>
「いやいや・・・いや、いつの間に?」
<おまえさんがチーニャを口説いとる間にじゃ>
「はぁ」
<造るのがじつに面倒でな。今朝までかかってしもうたが、>
攻撃塔。
トンボの目の前を、ツイーーーッ・・・と、飛んで。
<ギリギリ、間に合うたようじゃな?>
◆ 44、ゴブリンどもの話 ◆
ソラ&トンボは、一度、現場に戻った。
『力の筒』が残っとったらまずいからである。
幸い、その心配はなかった。この地の爆鬼は、あの3鬼で終わりである。
丘の陰で砲撃しとった弩砲もチェックした。
こちらは意外な収穫があった。中に、ゴブリンの女子供が囚われておったんである。
解放してやると、ゴブリンの女子供は、爆鬼1のところへ走っていった。
フンドシ一丁のゴブリンと、抱き合う。
「撃竜界の英雄よ!」「オーガの守護神よ!」「我らの妻子を、救ってくださった!」「ウオオオ! トンボ! トンボ!」
熱狂である。
トンボどん。
ゴブリンどもに近付いて、膝をついた。
≪いかにも、そのトンボじゃ。じゃが、いまは弐ノ塔のトンボじゃ。このこと、しっかり頼むぞ≫
「弐ノ塔ですと?」
ゴブリンどもは、空を見上げ、ツイーッと飛ぶ塔に気が付いた。
「おお! 空飛ぶ塔!」「大昔、妙雅様に盾突いたという・・・」「キチガイ塔と言われる、あの弐ノ塔か!」
「・・・いまの、おふくろさんに通信するんじゃないぞ」
<せんわい。言われんでも>
「・・・しかし、ホンマなんか? キチガイ塔て」
<それは通信するぞ>
「やめんかい!」
「──我ら、バッツワーノに負けましてな」
ゴブリンども。
この近くのオーガの小国の戦士だという。六腕ロボの乗り手であったらしい。
「この面子(めんつ)で偵察をしておったところ、バッツワーノ隊に見つかり・・・」
「ボコボコにされ・・・」
「妻子まで捕まって、人質に取られ・・・」
「肉の盾となるように、命じられたんじゃ・・・」
「やれやれ。良かったのう」
<まったくじゃ。こういうのも、何もかも、消し飛ばされるところじゃった>
と、2人で和んで(なごんで)おると・・・
「──ソラトバン殿! ソラトバン殿でしょう?」
今度は、コローネちゃんが走ってきた。
◆ 45、コローネの話 ◆
「わし、ちょっとだけ話すわい」
<急げよ。街から人が出て来とるけぇ>
「やっぱり、ソラトバン殿!」
ハッチを開けると、若い尼僧はパッと笑顔になった。
ソラトバン、顔だけ出して、手を振る。
「やあ。コローネちゃん。お久しぶりじゃ。時間がないで。上から失礼するが」
「はい!」
「皆さん、お元気かのう?」
「ええ。あなたのおかげで! ──また新しい鬼械人ですね?」
「うむ。まあ、新しいっちゅうか、古いっちゅうか」
<失礼なヤツじゃ>
「ゴブリンに襲われて、もうダメかと・・・本当に、ありがとうございました」
「うん?」
「いえ、ですから、あのゴブリンどもに・・・」
コローネちゃん。
声を低くして、ゴブリンどもを指差す。
「・・・帝国の蒸気械人を略奪して、ああやって、悪事に使っているのでしょう? ハツラノッツでも、人殺しを・・・」
「全然ちがうぞ!?」
「ひっ!?」
「・・・いや、すまん。コローネちゃん。ハツラノッツの虐殺はのう、オーガじゃない。帝国のしわざなんじゃ」
「は?」
<ソラ。街の人が来とる>
「くそ。もう行かにゃならん。とにかく・・・無事で何よりじゃった」
「は、はい」
「そこのゴブリンどんは、捕虜じゃ。敵じゃないからな? 頼むぞ」
「???」
話が全然伝わっとらん様子。ソラトバン、ちょっと、困る。
そこに、助け舟がやってきた。
「正義の鬼械人乗りよ」
エルフの修道騎士である。
「失礼ながら、話は聞かせて頂いた。そちらのゴブリンは、帝国の捕虜であったと、こういうことですな?」
「そうじゃ。男は捕虜、妻子は人質にされとったそうじゃ」
「かしこまりました。ニカンカイノックの修道騎士、ジョーレンタラーニが、間違いなくそう伝えましょう」
「助かるわい。ほじゃ、わしはこれで」
「陽光のあらんことを」
「コローネちゃんも、気を付けてな。もうこんなことに巻き込まれんことをじゃ」
「は・・・はい。ええっと・・・あなたも、ソラ・・・」
「わっはっは! わしゃ完全に巻き込まれ済みじゃ! ほじゃな」
ハッチを閉めて、座席に着く。
ベルトを締めて握りに手をかけるや否や、トンボどんが地面を蹴った。
「そこの鬼械人! 止まれ!」「こちらはギサンチ独立国、エッサーミヤ防衛隊である!」「逃がさんぞ」
などと、叫ぶ声が聞こえるが・・・
<フン>トンボどんは、笑った。<遅いわ。腑抜け(ふぬけ)>
そして、青空めがけ、駆けのぼった。
◆ 46、チーニャ、ちょっと、引きこもる ◆
チラーニ飛行塔に帰還したソラ&トンボ。
エレベーターで格納庫に戻り、コボルドどもに迎えられる。
<ソラ>
「おう、チラーニどん!」
<あのさ・・・チーニャ、部屋に引きこもっちゃった>
「なんじゃと」
<ごめん>
チーニャの部屋を訊ねると。
コボルドのルディーニャちゃんが、部屋の前に立っておった。
「ソラトバーニ。お引き取り下さい」
「なんと?」
「チーサーネは、誰にも会いたくないそうです」
「むむ・・・。わしが来たことだけ、伝えてみてくれんか?」
「うーん?」
ルディーニャちゃん。
しばらく悩んだが、中に入って伝言してくれた。
返答は。
「『ごめん。いまは無理。後で』だそうです」
「そうか・・・『こっちこそすまんかった。後でな』と伝えといてくれ。ほじゃな」
「はい」
<オレのせいだ>
「いやいや、わしのせいじゃ」
チラーニどんの中で。
2人して、落ち込む。
<どうしよう>
「わからん」
と、途方に暮れておると・・・
<あ、清雅から通信が来たよ>
「なんじゃ? まあ、ええけどもが」
<つなぐね>
「うむ」
通信をつないだ途端、
<すまん! コローネちゃん! わしゃ──チーニャのほうが大事じゃあああ!>
「うおっ。清雅。なんじゃいきなり」
<ソラぁ~~~?>
「な、なんじゃ」
<ちょっと目ェ離しとるウチに熱いセリフ吐くようになったやんけオマエぇ~>
「う、うるさいわい。わしゃ、真剣に、チーニャのことが・・・ことで、悩んどるっちゅうのに」
<勝ったんやから、悩む必要ないやろ>
清雅はカラッとしておる。
<負けてみ? オマエは死んで、チー姉は他の男に取られるんやぞ>
「む・・・」
<あ、すまん。オマエ死んだことあったな。ウヒャヒャwww>
「うるさいわいwww 鬼っ子めが!」
清雅とやり合って、ちょっと元気になったソラトバン。
「はぁ・・・まあ、『後で』っちゅうとったし、後で会うてくれるのを楽しみにするわい」
<そやな。万が一ン時は、清雅様に頼みに来いや>
「はいはい。頼りにしとるわい。ほじゃな」
<おう。ほなな>
「はぁ・・・ほじゃ、チラーニどん。わしゃもうヘトヘトじゃけぇ、また明日・・・」
<あ、ソラ。あの、>
ハッチを開ける。
チャッ。・・・あれ? 妙に軽い感触。
下見ると、チーニャが立っておった。・・・真っ赤な顔しとるんじゃが?
<あの、>申し訳なさそうに、チラーニ。<ハッチ、半開きだったみたいでさ~>
「は?」
<んじゃ、また明日ねぇ~>バタン。今度はちゃんとハッチ閉じる。
「おい」
階段を降りる。
「つ・・・通信で、あんなコト叫んだのか・・・」
チーニャはますます赤くなって、そう言うてきた。
「聞いとったんか」
「聞ッ、聞こえたんだよ!」
モジモジしておる。
可愛い。
ソラトバン、元気になった。
「うむ。言うた。アレが本音じゃ」
「そ、そう? ・・・いやちがう、バカ。ダメだろオマエ。ダメにすんな」
「なに言うとるんじゃ」
「うるさい。もー!」チーニャ、頭をソラトバンの胸に、ごっつんこ。「・・・私の身にもなれ」
「そうじゃな」
コボルド整備士どもがニヤニヤする中を。
くっついたまま引き揚げる、ふたりであった。
※このページの修正記録
2025/06/01
「41、トンボ、奮戦す」
鉄球の説明が脱落していました・・・説明を6行追加しました。以下の行から始まるトコです。
> このピンガデオスが、前に戦ったものとは少しちがうことに、ソラトバンは気が付いておった。