◆ 47、にっこりの目 ◆
朝。
飛行塔内、ソラトバンの部屋。
「・・・おはよう」
「おはようさんじゃ」
チーニャは、まだベット(ベッド)でムニャムニャしておる。
ソラトバンはそっと部屋を出て、食堂へ。熱いお茶を、もらいに行った。
今日は移動日である。
目的地は、ラスカリューミヤ。
ショラン・ギサンチの州都──あるいは、『ギサンチ独立国』の首都──である。
到着は午後の予定で、午前中、恋人たちに仕事はなかった。
「なあ、チーニャ」
「なーに?」
「弐ノ塔のおふくろさんっちゅうのは、どういう人なんじゃ?」
昨日。
助けたゴブリンどもが、弐ノ塔のおふくろさんを『キチガイ塔』などと呼びおった。
なんでそんな言われ方をせにゃならんのじゃ? と、思っておったのだ。
「昔は、『死ね』とか暴言吐く人だったらしいぜ」
「なんじゃそりゃ・・・」
「神竜(じんりゅう)の戦いでね。気に喰わん人物が妙雅様に乗って、指揮をした」
「気に喰わん人物」
「ハイエルフの英雄さ。その人に『死ね』って言った」
「意味がわからんのじゃが・・・?」
「若かったんだろ」チーニャ、お茶啜る(すする)。
「それだけかのう」
ソラトバン、納得できぬ。
ふたりで食堂へ。
朝ごはん。カラス麦の粥(かゆ)と、ひき肉入りオムレツ。これはうまい。
どってんどってん。レモンちゃんが現れた。鼻唄歌っとる。彼女の後ろには、コボルド、ゾロゾロ。鼻唄に聞き惚れておる。重傷。
で。
食べ終えて、出ようとしたところで・・・
ふわ~ん・・・。
おふくろさんが、廊下を浮遊してきた。
二叉フォークの手で、ホウキを握っておる。お掃除タイムか?
・・・どうしよう。訊いたら怒るじゃろうか?
しばし考えたソラトバン。結局、ストレートに訊いてみることにした。
「おふくろさん」
<なんじゃ>
「むかし、指揮官に暴言吐いたことがある──っちゅうウワサ、本当か?」
<なんじゃ。いきなり。誰に訊いた>
「あー・・・、ゴブリンに。昨日のアレで」
ソラトバン、ごまかした。
背後のチーニャから鋭い視線が飛んできた気がしたので。
<ふむ>おふくろさん、チーニャをチラッと見てから、<言うたが?>
「いまのおふくろさんからは、想像がつかんのじゃが。なんで、『死ね』とか言うたんじゃ?」
<あの時の私は、狂っとったんじゃ>
「ホンマかいな」
<たぶん>
「・・・にしてもじゃ。そこまでの段階があるじゃろ?」
<言い訳は好かんのじゃが>
おふくろさん、うつむく。
ホウキを手の中で、グリ、グリ、と、ねじった。
<その司令は、『勝てばよし』っちゅう男じゃった。また、以前に戦った相手でもあった>
「戦争した相手を、司令にしたんか?」
<うむ。神竜という、大いなる災いを前にしてな>
「そうか・・・でも、それで勝ったわけじゃろ?」
<そこじゃ>
ビシッ!
おふくろさん、ホウキの柄を、ソラトバンに向けた。
「どこじゃ」
<勝てば、それでええんか? 倫理はどうなる>
「りんり」
ソラトバン、言葉の意味はわからぬ。
だが、想像はできた。
「勝つためなら、爆鬼使うてもええんか? ──みたいな話か?」
<まあそうじゃ。その司令は、虐殺するようなクズではなかったが>
「ふむ」
<倫理を守るっちゅう点では、私には強い自負があった>
おふくろさん、宙を見る。
<じゃが妙雅は・・・神竜を前にして、あっさりと、妥協をした>
「それが気に喰わんかったんか。勝つために、倫理をゆるめたと」
<うむ>
「抗議はしたんか」
<した。じゃが、外部に伝えてもらえなんだ>
「外部?」
「声玉が使えなかった──ってコト?」とチーニャ。
<声だけじゃない。分霊である我らは、見るも聞くも話すも、1人ではできなんだ>
「チラーニの中に閉じ込められて、出れない──みたいな状態?」
<まさに、そういう状態じゃ>
「ああ・・・!」
ソラトバンは、理解した。
「・・・昔のドリナラーニどんみたいな状態じゃないか! そりゃ、腹も立つわい!」
<わかってくれたか>おふくろさん、シャキッとした。
「うむ。ま、いきなり『死ね』は言い過ぎじゃが、」
<・・・はい>おふくろさん、(´・ω・`)となった。
「じゃが、」
にっこり。ソラトバン。笑顔の目で、おふくろさんを見た。
「独立できて、よかったな」
<うむ>
◆ 48、正義の目 ◆
その頃。
ラスカリューミヤ近郊では。
森の中に、鬼械人の一隊が、隠れ潜んでおった。
対鬼ナンガラック、5鬼。四角くてノッポの重装甲蒸気械人。
蒸気械弩砲、2鬼。平たくて四脚の、歩く弩砲。
そして──帆布をかぶった巨大な鬼械人が、1鬼である。
その、帆布の下から。
ルクジッコが出てきた。
バッツワーノの腹心の魔術師である。13歳の娘を持つ父親でもある。
その魔術士官ルクジッコ。
「・・・。」
ため息をついた。
胸元に手を入れ、ノロノロと、紐を引っ張りだす。
出てきたのは、首飾りである。
手作り。大麦の粒ほどの宝石に、糸を通してまとめた──ビーズの首飾り。
不必要にたくさんの色が混ざった、色彩豊かすぎる品であった。
描かれておるのは・・・
太陽と。
目と。
地面に刺さった剣。
『正義の目』。女神ジャスティスの紋章である。
太陽はすべてを照らし、すべてを見、裁きの剣をお下しになる──との、意味がある。
帝国では、巡回裁判所だとか・・・処刑場の、シンボルであった。
ルクジッコは、苦い表情でそれを眺めた。
愛娘は・・・
父が、悪を成敗することを信じて、贈ってくれたのであろうか・・・?
ルクジッコは、うなだれる。
首飾りを元に戻す。その顔は、歪んでいた。まるで、灼けた鉄板を胸に入れるかのようであった。
ナゾの鬼械人を見上げる。
「ダブマダック」
呟く。
「こいつが量産できていれば・・・」
巨大な鬼械人。
正式名、ダブマダック。
帝国に1鬼しかない、ルクジッコ専用の実験鬼であった。
前後に非常に長いのは、蒸気械弩砲を背中合わせに連結したため。
背が高いのは、指揮官向けに高い管制塔を構築したため。
高所から戦場を見下ろし、高い火力で敵を蹴散らす。
そういう設計であり、それが結実した鬼体なのだ。
帆布をかぶった姿は、馬のようにも見える。
八本脚の馬──ハポノ人が神馬とみなす『牙馬(きば)』に、よく似ておった。
「ルクジッコ班長」
部下がやってきた。
「意見があって参った。いま、よろしいか?」
7人。全員、乗り手である。整備士や料理人は含まれておらぬ。
「・・・聞こう。なにかな」
「バッツワーノ隊長のことを、どうお考えか、聞かせて頂きたい」
「・・・どうとは」
「バッツワーノは、信用できません」
先頭の部下が口火を切った。次々に、他の6人も声を上げる。
「ハツラノッツのことが、ウワサになっております・・・」
「先代市長と、密約を結んでおったとか・・・」
「それも、反乱の密約を!」
「密約がバレそうになったので、当代市長を、ダークエルフもろとも、爆殺したと」
「ウワサが事実なら、バッツワーノは謀反人(むほんにん)」
「白黒ハッキリしてもらわねば、これ以上、命令を聞くことはできませんぞ!」
黙れ! ──と叱り飛ばすことは、ルクジッコには、できなんだ。
この7人は、蒸気械人の乗り手。つまり、ハポノ貴族である。
ただの軍人ではないのだ。
叱り飛ばすようなことをすれば、離反する。
首都へ走って、バッツワーノを謀反人として吊るし上げるであろう。
腹心であるルクジッコも処刑される。家は取りつぶされ・・・愛娘のルカツァーネも、無事では済むまい。
「諸君の懸念(けねん)、もっともである」
ルクジッコは。
真っ赤なウソを、述べ立てた。
「だが、安心してもらいたい。現在の作戦は、まったくもって、麦供給の安定が目的である」
「爆弾で女子供を殺すことの、どこが麦の安定に繋がるのだ?」
「ハツラノッツの爆発は、オーガのしわざだ」
「我々が騙されると思っておいでか」
「おや、帝国の公式発表だが? 帝国を疑うというのかね?」
謀反人と7人の貴族は、睨み合った。
「女神ジャスティスに誓って、」
謀反人は、ダメ押しをする。
「この私、帝国の忠臣ルクジッコは、帝国に刃を向ける者だけを敵としよう。女子供を虐殺したりは、決して、せぬ」
「その誓い、偽り(いつわり)ないでしょうな」
「ない」
「ふむ・・・」
「そして、考えてみてもらいたい。
ショラン・ギサンチを奪還したとき、首都にどれほどの喜びがあふれるか。
勝利と、正義と、あふれんばかりの麦を手に、諸君が凱旋(がいせん)したとき──
どれほどの歓声と名誉が、諸君を迎えるかをな」
「・・・。」
7人は、顔を見合わせて、うなずいた。
「あなたの言葉を信じましょう。ルクジッコ班長」
「・・・危ないのは、3人だな」
引き揚げる彼らの顔を観察して。
ルクジッコは、胸元を押さえながら、帆布の中に戻るのであった。
◆ 49、ドリナラーニで降りる ◆
ふたたび、飛行塔。
お昼前である。
ソラトバンが、じゃがいもの皮むき(久しぶり)をやっておると・・・
≪呼び出しで~す≫
チラーニから、全艦放送がかかった。
≪チラーニ飛行班、格納庫に集合せよ≫
「なんじゃ?」
立ち上がるソラトバン。ナイフを洗って、出て行こうとすると・・・
「どこへ行くのです!」
コボルドのおかみさんに、怒られた。
「いま呼び出されたがな。放送で」
「あ、そうですか」
格納庫に着くと、いつもの仲間に加えて、ディルーネが立っとった。
愛しのチーニャが、ソラトバンを見て、うなずく。
「コイツの同族を回収することになった」
「ダークエルフ? オーガのほうか?」
「両方」とディルーネ。「ハツラノッツから逃げた子らよ」
「あの爆発の生き残りか!」
「・・・。」ディルーネは、黙って首を振った。「爆発の前に出国しとった子」
「そうか・・・」
「幽雲洞(ユーンどう)まで船で行く予定やってんけど、バッツワーノ隊が現れたやん?」
「ラスカリューミヤも、当然ダメだろう」とチーニャ。「つまり、もう船は降りるしかない」
「都の手前で降りて、飛行塔に乗る──っちゅうワケか」
<そういうワケさ~>とチラーニ。
「私がコイツを連れて、」チーニャはディルーネの肩を叩いた。「ドリナラーニで降りる。ソラは待機だ」
「了解──待て。ドリナラーニっちゅったか?」
「うん」
「ナンガラックで飛び下りる気か?!」
<そうだよ~>
「おい! チーニャを殺す気か!?」
「きゃーw」ディルーネがチーニャを叩く。
「痛いよ・・・w」チーニャ、ニヤケる。
<落ち着けよ色男~。浮上筒(ふじょうづつ)使うに決まってんだろ~?>
ズシーン。ズシーン。
格納庫の奥から、ドリナラーニどんが姿を現わした。
歩くたびに、飛行塔が上下に揺れる。
重量級。
四角いボディ。
チラーニと同じように、浮上筒を2本背負っておる。
してまた、前面にも浮上筒を2本抱えておる。
──浮上筒サンドイッチ状態!
「苦しくないんか? ドリナラーニどん」
<著シク(イチジルシク)、邪魔>
「じゃろうな」
前は乗り手席の覗き窓をふさいどるし・・・
後ろは中央蓄熱塔に干渉しそうだし・・・
<はいはい、チーニャとディルーネは乗った乗った。ソラはトンボで待機ね>
ソラトバン、トンボどんに上がる。
「大丈夫じゃろうか・・・」
<心配しすぎじゃろ>
「じゃがトンボどん。人間は簡単に死ぬんじゃぞ」
<はっはっは! おまえが言うと説得力あるのう!>
<ドリナラーニは、上手くやるさ>とチラーニ。
ドリナラーニどんは、うまくやった。
まず、自重を打ち消して・・・
突き出し扉床をそーっと蹴って、空中に歩み出て・・・
前方の樹木に手をついて、静止。
そして、ゆーっくり、降下。
ズシーン・・・!
<着陸成功>
チーニャから通信が入った。
「はぁ・・・」
ソラトバン、ホッと息をつく。
ぐったり・・・。乗り手席に沈んだ。
<やれやれ。仲がええのも、善し悪し(よしあし)じゃな>
ドリナラーニは丘を降り、大河ギミラス・ハバヒロイへ。
河船や漁師たちがビックリ仰天する中、突っ立って待つ。
やがて、その船がやってきた。
ディルーネが顔を出して──手で、信号を送る。
船のほうからも、ダークエルフが手信号を返してきた。
任務完了である。
ドリナラーニは、ヨチヨチと丘を登って、飛行塔に帰ってきた。
飛行塔は離陸。ソラトバンの待機も解除となった。
「回収するんじゃなかったのか?」
「後でな」とディルーネ。
「そのときは、頼むぜ」とチーニャ。「上空を飛んで、警戒してもらうことになる」
◆ 50、無限魔弾、ダブマダック! ◆
夕方。トンボとソラトバンは、上空へ。
雲に近い高さを跳びつつ、『鷹の目』で下界を監視する。
「合流地点の上空。鬼械人の姿はナシじゃ」
<んじゃ~、ラスカリューミヤを偵察してね~>
というわけで。
合流地点の警戒はチラーニたちに任せて、ソラ&トンボは都へ移動した。
──はたして。鬼械人の姿があった。
大河があって。
その西岸に、ラスカリューミヤが広がっておって。
そのさらに西に、鬼械人部隊が展開しておる。
対鬼ナンガラック、5鬼。
蒸気械弩砲、2鬼。
そして、巨大鬼械人ダブマダックが、1鬼である。
巨大鬼械人は、もう帆布をかぶっておらぬ。
その姿、夕陽の中に、あらわになっておった。
「怪体な(けったいな)鬼械人が居るわい」
<こちらチーニャ。どんな形だ?>
「8本足の怪物じゃ。土台は蒸気械弩砲をくっつけた感じじゃな。胴体はナンガラック。腕はナシ。ケツに蓄熱塔が2つ」
<聞いたことないや>とチラーニ。
<武装は?>
「頭に弩砲がひとつ。形がふつうのとちがう。あと、魔法の印みたいなんが描かれとる」
<攻撃方法は?>
「攻撃はしとらん。立っとるだけじゃ。背中に荷物を積んどるが、布で覆われとって、詳細不明じゃ」
<防衛側の反応は?>
「えーとじゃな・・・」
ラスカリューミヤは、無抵抗ではなかった。
鬼械人を出して、城壁前に移動させておる。
「1、2、3・・・7鬼じゃ。通常のナンガラックが出てきた」
<8対7か。ふつうなら防衛側有利だが><新型次第だね~>
「なんて呼べばええかのう」
<8本足なら、牙馬だろう>
ハポノ商人の娘・チーニャが即答した。
<“蒸牙馬(じょうきば)”でいいんじゃないか?>
<じゃ、それで>とチラーニ。
“蒸牙馬”ダブマダックは、静観の構え。
防衛側はナンガラックを前進させた。1列になって、街道を歩き始める。
弩砲に撃たれるが、腕を上げて中央蓄熱塔を守り、ノーダメージ。黙々と前進する。
<チラーニより全員へ。間もなく合流地点。着陸態勢に入る。──ソラ&トンボへ。爆鬼はないんだよね?>
<トンボじゃ。爆鬼らしき通信はなし。『探索』は射程外じゃ>
<レモンちゃんも『何も聞こえない』って言ってるしな~・・・>
静かな時間が過ぎてゆく。
変化があったのは、双方の距離が1町を切った時であった。
“蒸牙馬”が、黒い光を放った。
黒々とした光が──闇が、伸びてゆく。
ウネウネとうねって・・・
防衛側ナンガラックの膝に、命中した。
被弾したナンガラックは・・・
バランスを失って、街道から転がり落ちた!
「なんじゃ、いまのは。黒いヘビみたいな」
<蛇魔弾じゃな>と、トンボどん。
「じゃまだん」
<ハイエルフの魔術師が好む呪文のひとつじゃ。避けれん、受けれん、痛いと、3拍子揃っとる>
「強そうじゃな」
<そのぶん、マナの散り方が激しいで、連発はできんのじゃが・・・>
転がり落ちるナンガラックが、止まるよりも早く。
次弾、発射。
“蒸牙馬”が放つ闇のヘビが、2鬼目のナンガラックの膝を撃って、同じように街道から転落させた。
「連発しとるんじゃが?」
<うむ。しかも、ただの蛇魔弾じゃないな。増強されとる>
「増強」
<『大蛇弾(おろちだん)』っちゅうヤツじゃ。ドラゴンなんかのウロコを、噛み砕くヤツじゃ>
「トンボどんでもヤバいんか?」
<装甲なら問題ない。じゃが『力の筒』に喰らうと、密封が破れるわな>
「爆発か」
<うむ。その関節はダメになるな>
防衛側のナンガラック。
7鬼すべてが、街道脇に転がり落ちた。ピクリとも動かぬ。
「全滅しよった」
<弱いのう>
<まだ手は出すなよ>とチーニャ。<こっちは乗艦作業中だ。チラーニが忙しい>
「了解じゃ」
傍観する(ぼうかんする)ソラトバン。
眼下で、ラスカリューミヤが陥落してゆく。
防衛側は、市内の防衛塔に上がって、固定式の弩砲を撃ち始めた。
巨大な槍を2人がかりで装填し、3人目が汗だくになってウインチを回して弦を引き絞る。
撃つ。・・・ハズレ。
着弾点を見て、砲の角度を調整。また2人がかりで装填して、巻き上げて。
撃つ。・・・少し、敵に近いところに落ちた。
スタスタ。敵が歩いて、位置を変えた。照準やり直し。
こんな状態である。
そして、敵の弩砲は、動けない防衛塔を狙い撃ちにしてくる。
巨槍が直撃。弩砲が壊れる。予備の槍がハネ飛ばされ、兵士が地面に転落する。
西に向いた防衛塔3基は、こうして沈黙した。
それを見て、攻城側が前進。
対鬼ナンガラックが、街道をゆく。
1列ではなく、2列で。当たり前のように足並みを揃え、ぴったり同じタイミングで左右に揺れながら、進軍する。
<敵ながら天晴れじゃ>
「うむ。扱いづらい鬼体じゃのにな」
“蒸牙馬”たち8鬼は、悠然とラスカリューミヤに迫った。
歩兵が出てくる。
だが・・・
“蒸牙馬”が、また黒い弾を放ち、数十人の歩兵をまとめてなぎ倒してしもうた。
「また『オロチ弾』か」
<『八岐蛇魔弾』じゃな。いまのは>
「やまたじゃまだん」
<うむ。大軍勢を一掃するヤツじゃ。これも、ふつうなら連発はできんのじゃが>
車が出て来た。
乗用馬車、荷馬車、大八車、など。
石や丸太を積んで、突撃する。ナンガラックの足を止めようという、決死の作戦である。
だが・・・
“蒸牙馬”の『八岐蛇魔弾』。車を押す戦士がまとめて倒れた。
対鬼ナンガラックの鎖鉤手。馬車が吊り上げられ、ポーンと投げ飛ばされた。防衛のための車が、防衛隊を殺す砲弾となる。
まさに、蹂躙(じゅうりん)であった。
「なんちゅう手練(てだれ)じゃ。円陣組んだまま、街ン中をスイスイ進んでいきよる」
<隊長よ。援軍するなら早ゥせんと、手遅れになるぞ>
<手出しは控えてください。動くときは連絡します>
<いや、勝手に始めやせんが・・・人死にが増えとる。幽雲洞の立場が、悪くなるじゃろ?>
<はい。おっしゃる通りです。それでも、まだダメです>
「おふくろさん。攻撃塔で“蒸牙馬”を落とせんか?」
<ダメじゃ。倫理的に>
「倫理じゃと」
<相手が爆鬼を出さんのなら、こちらも列電魔旋弾や飛行ユニットは出さぬ>
「・・・そんなコト言うたら、トンボどん、何もできんじゃないか」
<偵察しとるじゃろ>
「言い訳はやめんか! 人が死んどるのに!」
<偵察も、立派な仕事じゃと言うておる。そして、作戦はいまも進行中じゃ>
「作戦じゃと」
<うむ。幽雲洞・六間洞(りっけんどう)の合同援軍じゃ。いま少し、辛抱せよ>
「清雅が出るんか」
<蘇生術師を前線に出すヤツがあるか。正鬼(しょうき)と弟じゃ。攻撃塔で飛ばしておる>
「先に言うとけっちゅうんじゃ・・・作戦があるんなら・・・」
<ギリギリまで調整しとったんじゃ>
「ちぇっ。・・・わかったわい。すまんかった。偵察を続ける。手出しはせん」
<うむ>
<いい子だ>
ガマンの時間、蹂躙の時間が過ぎて・・・
夕焼けの空の向こうに・・・
攻撃塔と、屋上にしがみつく六腕ロボの姿が、浮かび上がった。
◆ 51、オーガとゴブリン、連携戦術 ◆
<こちらっ・・・浮鬼・正鬼(うっきー・しょうき)っ・・・!>
なんか必死そうな声で通信が入る。
<いま・・・降りるっ・・・援護っ・・・してくれ・・・!>
「え? わしら、手ェ出すな言われとるんじゃが」
<なにっ・・・? 降りる・・・!>
「待たんかい」
ぽーん。
浮鬼が、攻撃塔から、はがれ落ちた。
クルクル回って、落ちてゆく。
「あ」
<ぬ、お、お、お、お・・・!><うむう!>正鬼と数鬼(すーき)のうめき声。
「正鬼どん! 大丈夫か!」
<心配すんな。じきに、制っ・・・制御っ・・・ぬおおお・・・!>浮鬼どんのうめき声。
「何やっとんじゃ」
<ジャイロが狂ったか>
「トンボどん、行くぞ!」
トンボ、急加速。
飛行ユニットの圧倒的な速度でもって、回転・落下する六腕ロボ・浮鬼に近付いた。
「掴めるか?」
<この速度なら・・・うおっ! 危なっ! なんで斧なんかブラ下げとんじゃ!>
浮鬼、腰にでっかい斧を装着しておる。
それが、ブウンブウンとうなりを上げて、危ない。トンボどん、少し手こずる。
<ええい!>
ガキィィィン!
トンボどん、強行手段。
手の甲(の神竜甲)で斧をブロックしてから、浮鬼の足をキャッチした。
一気に止めることはせず、少しずつ回転をいなす形で、仰向けに停止させる。
「大丈夫か! おい!」
<死ぬかおもた・・・>浮鬼どんが返事した。
「正鬼どんたちは大丈夫なんか?」
<いま目ェ覚ました。ま、大丈夫やろ>
「ならええが」
<何をやっとるんじゃ>と、トンボどん。
<降下ですわ>
<あんな降り方があるか>
<攻撃塔が、速すぎるんですわ>浮鬼、文句言う。<あんな竜巻みたいな風喰ろうたら、浮上筒じゃどないもなりませんわ>
<そうか>
<トンボ様、ソラ、助かったわ。ありがとさん。ほな、降りますんで、手ェ離してくだされ>
<おう>
トンボどん。浮鬼を押し退けるようにして、手を離した。
浮鬼は、ふわ~ん・・・と落下してゆく。
トンボは、突然、墜落し始めた。
「うおっ」
<『浮遊』系はコレが危ないんじゃ。──飛ぶぞ>
クルリと回転、飛び始める。
降下する浮鬼と入れ違いに、上空へ戻った。
浮鬼の赤いボディは夕焼けの中を落ちてゆく。
それを見送りつつ、ソラトバンは取り急ぎ、通信をした。
「おふくろ! 話が行き違っとるぞ!」
<なにがじゃ>
「浮鬼どんは、わしらの援護をアテにしとるじゃないか。わしらには『手出しするな』言うといて!」
<偵察で支援せんか・・・>おふくろさん、ちょっとうんざりした声になる。
「1鬼で行かすんかい!」
<連携はしとるわい。北門を見てみよ>
「む」
街の北門を見てみれば。
六腕ロボが、3鬼!
あっちにも、3鬼!
こっちにも、3鬼!
3方面に分かれて、合計9鬼、姿を現わしておった!
そして、さらに・・・
オーガの戦士が!
地上を疾駆する丸っこい鬼械人に引っ張られて、突撃しておる!
こちらは6台!
「ヤドカリチャリオットか!」
<幽雲洞の援軍じゃ。『ギサンチ独立国』とも連携しとると聞いたが・・・門はどうじゃ?>
「・・・いま、開くところじゃ」
街の北門が、開いてゆく。
突撃するオーガを、待ちわびていたかのように。
6台のヤドカリチャリオットが、速度をゆるめず、門をくぐる!
3鬼x3組の六腕ロボが、こちらは門の上空を飛び越して、展開する!
市内では、先に中央に降りた浮鬼が、果敢にも単独で砲撃を開始しておった。
けむりだまを右肩砲から1発、また1発撃って、先頭の対鬼ナンガラックを煙に巻く。
次いで左肩砲からは単発の弾を撃ち込んだ。これはナンガラックの装甲に弾かれたが、相手は嫌がった。覗き窓の至近に命中したからである。
ナンガラックは、吊り上げた馬車を、浮鬼に投げつけた。
浮鬼、ペタンと地面に伏せて、これをかわす。そのままゴキブリのように素早く斜めに移動して、別の路地に回り込み、今度は最後尾のナンガラックにけむりだま2発。して、また覗き窓に至近弾。
敵は明らかに怒って、浮鬼をターゲットした。
そこに、オーガが突っ込んだ。
疾駆するヤドカリ!
引っ張られるチャリオット(二輪戦車)!
そこに立つ、オーガの戦士!
黒々と輝く鋼鉄の甲冑(かっちゅう)!
そのサイズ、もはや『小型鬼械人』と呼ぶべきレベル!
浮鬼が作った煙幕の中を、平然と駆け抜けて・・・
グオン! バキィィィン!!
バカでかい金属の棍棒を、叩きつけた!
ナンガラックの足首を支える、2本の魔蒸気筒。
外側の1本が、破砕された!
ボオン!
蒸気を噴き上げ、筒、破裂! ナンガラックが傾いた!
流れるように追撃する、5台のヤドカリチャリオッツ!
右足に、左足に、煙を突っ切って突撃し・・・
グオン! バキィィン! グオオン! ガン、ドン、ボオォン!!
もんのすごい打撃音を響かせて、魔蒸気筒を破砕! 粉砕!
対鬼ナンガラックは・・・
横倒しに倒れていって・・・
反乱のときに焼け落ちた、黒焦げの建物に突っ込み・・・
木材と石材を巻き込みながら・・・
大転倒した!
「対鬼ナンガラック、先頭の1鬼、ヤドカリオーガが撃破じゃ!」
<やるのう>
ヤドカリチャリオッツ、6方向に分かれて路地に逃げ込む。
“蒸牙馬”の砲塔──魔術の印の刻まれた弩砲が、その背中を狙った。
「大蛇弾来るぞ! ヤドカリを狙っておる!」
<させん>
ゴブリン兄貴の声がして、浮鬼が肩砲を撃つ。
“蒸牙馬”の、覗き窓付近に、けむりだまが命中! ブワッと白い煙が広がった。
いまにも放たれそうに見えた弩砲が、そのまま凍りついたように動かなくなり・・・
ヤドカリチャリオッツは、敵の視界から逃げ切った!
<これが俺らの連携戦術や>
「見事じゃ! 正鬼どん」
<数鬼や>
「すまんことじゃ」
戦況はどんどん変化してゆく。
援軍の六腕ロボ3x3が“蒸牙馬”を射程に捉え、けむりだまを一斉砲撃した。
もんのすごい白煙が、市街地を包み込む。“蒸牙馬”も対鬼ナンガラックも、しばし、立ちすくむ。
「次はどうするんじゃ。このまま攻撃を続けるんか?」
<通用するんなら、当然そうするが、>と、正鬼どんか数鬼どん。
<いや。隠れよう>と、数鬼どんか正鬼どん。
浮鬼が、スッ・・・とスライドした(浮上筒らしいアクションである)。
焼け焦げた邸宅の中に身を潜める。
「なんで隠れたんじゃ?」
<敵は手練や。なんもせんハズがない>
その直後であった。
白い煙に包まれた“蒸牙馬”から・・・
青白く燃える亡霊が、飛び出したのは!
「オバケじゃ!」
<あれは・・・霊炎魔(れいえんま)か? 初めて見たわい>
◆ 52、霊炎魔、トンボをおびやかす ◆
「れいえんま? 知っとんのか、トンボどん」
<うむ。魔術人形の一種じゃ。ただし、非常に高級で、大魔術師でもなけりゃ、召喚はおろか──>
「待った。こっちに来とる」
青白い亡霊──魔術人形? が、上昇してくる。
徐々に暗くなってゆく地上に対し、燃える姿は、くっきりと明るい。
顔・・・は、あるかないか、わからんが。
その頭部が、こちらを向いとるのは、わかった。
「わしら、狙われとるぞ」
<かわすか>
トンボは軽々と加速して、青白い亡霊を振り切った。
十分に距離を開けてから旋回し、相手を確認する。
青白い亡霊は・・・
少し、首をかしげてから・・・
≪光よ、まどろみを去らしめよ。神の目覚めよ、我が身にきたれ──『神速』≫
呪文を唱えた!
そして、ふたたび、こちらに向かって飛行するが・・・
その速度が、速い!
<ぬ!>
トンボ、また加速しようとする。
だがその前に。
敵が連続的に、呪文を詠唱!
<ここを、そこにする──『空間転送』。今日の炎は燃え尽きる──『霊炎解放!』>
突如。
霊炎魔が、トンボの目の前にテレポートした。
「な!?」
<バカな!>
そして。
白い炎を放って、自爆した。
ハッチに炎が襲いかかる。
トンボはとっさにハッチを守った。
炎が、トンボの右肘を、左肘を、直撃する。
妙雅式の『力の筒』──外周の八角柱が、溶けた。
密封された粒子が、噴出。
爆発。
続けて左肘の筒も、爆発。
<くそっ!>
トンボ、バランスを崩す。
まるで倒れるナンガラックみたいに、空中で横転した。
<こちらトンボ。腕をやられた。両肘じゃ。まともに飛べん。離脱する!>
<ソラは!?>
「・・・わしじゃ。目が見えん。たぶん、身体は無傷じゃと思う」
ソラトバン。
完全に眩まされた(くらまされた)目を閉じて、暗闇の中から答える。
視界を奪われた状態で、トンボどんが不安定に揺れながら飛ぶため、非常に気分が悪い。吐きそうである。
「れいえんまっちゅう・・・オバケが飛んできて。爆発した。ごっつい光で・・・頭が痛くなるほどの光じゃ。なんも見えん」
<ハッチは無事じゃ。じゃが、覗き窓が溶けておる。もう一発は耐えれん。今日はもうダメじゃ!>
<えらいこっちゃ>
浮鬼の内部。
トンボがやられるのを見た浮鬼が、ぼやいた。
<トンボ様やから肘で済んだが、あれ俺が喰ろうたら装甲ベロベロになるぞ>
「“蒸牙馬”に、凄腕の魔術師が乗っとるようやな、弟よ」と正鬼。
「うむ」と数鬼。
「誰かが仕留めなアカンな」
「うむ」
「ほな、やるか。弟よ、浮鬼よ」
「うむ」
<そやな>
◆ 53、六間洞、名を上げる ◆
「左右肩砲、全弾けむりだま」数鬼が命令した。
<4発けむりだま、再装填開始>
「兄鬼。1発目撃ったら突っ込んでくれ」
「了解じゃ」
<装填完了>
ぽん。
けむりだま発砲。“蒸牙馬”の足元に煙が発生。浮鬼、突進する。
幽雲洞の六腕ロボも、砲撃は続けとるが・・・明らかに、動揺が見えた。
『撃竜界の英雄』が退却した──この事実が、士気をガタ落ちにしたんである。
<おふくろさん、英雄の出し所がわかっとらんのう>
「後にせえ、浮鬼」
<おう・・・>
浮鬼は、敵陣に突っ込んだ。
倒れた対鬼ナンガラックをひょいと飛び越え、こちらに側面向けとるナンガラックの背後をすり抜ける。
白煙の中、浮遊ダッシュする浮鬼を、敵は捉え切れない。足音が小さいためである。
ナンガラックが鎖鉤手を出してきたが、その動きは遠慮がちであった。
煙幕があり、味方が近いので、同士討ちを恐れとるんである。
重心が低くスケートのうまい浮鬼。余裕でかわす。
ぽん。
けむりだま発砲。今度は“蒸牙馬”のボディに。
布に包まれた荷物に命中、硬い音を立ててはね返った。
≪いてっ! 何しよんじゃ、ダボ!≫
荷物が罵倒してきた。
「荷物がしゃべりよった」
「砲撃来るぞ兄ィ」
“蒸牙馬”が抵抗を見せた。
頭上の弩砲が、轟音を放ち・・・
ドゴォォォン・・・!!
紫の極光を、撃ってきた!
ドデカい魔弾が、3発!
横に広がりながら、浮鬼にせまる!
正鬼は無言で握りを弾いた。浮鬼、真横にスライドする。
正鬼は右の握りを前に倒した。浮鬼、右手を伸ばし、“蒸牙馬”の右2番脚を掴む。
大回転!
鉄棒で大回転する体操のように、敵の脚で回転し・・・
ひょーい・・・! 胴体後部に、舞い上がった!
「煙があれば、蛇魔弾は撃てんか」
<相手が見えてなアカンからな、あの手の追尾呪文は>
「荷物、剥く(むく)か?」
「そやな」
<ほーれ!>
浮鬼。
胴体後部に着地する勢いで、でっかい布をむしり取った。
中から現れたのは・・・
鬼械人であった。
浮鬼と、同型の。
「六腕ロボやないか」
<鹵獲(ろかく)されたか>
ぽん。
3発目のけむりだま。
“蒸牙馬”の前部、高い位置にある乗り手席目掛けて。
至近距離なので、自分たちも煙に巻かれるが・・・どちらかといえば、得するのはこっちである。
「仕上げや。カチ割ったれ」
<ホイ来た!>
浮鬼。
腰にブラ下げとった斧を、抜いた!
“蒸牙馬”の後部には、中央蓄熱塔が2本、横並びに収められておる。
そこに。
真上から、斧を叩き込む。
薪割りアタック!
中央蓄熱塔1、真っ二つ!
飛び下りて逃げる!
大爆発!!!
中央蓄熱塔1、火を噴いて、バラッバラに!
破片が中央蓄熱塔2に突き刺さり・・・
大爆発!!!
中央蓄熱塔2も、バラッバラに!
「一丁上がりや」
<お仲間、死んでへんやろな>
「運次第や」
<鹵獲されるヤツの運かァ>
ぽん。
最後のけむりだま撃って、浮鬼は逃走した。
“蒸牙馬”からは、反撃はなかった。爆発の際に大きく揺れたので、中はそれどころではないのであろう・・・
「六間洞・浮鬼! “蒸牙馬”の蓄熱塔、カチ割ったり!」
正鬼が、名乗りを上げた。
<よくやった!>
幽雲洞の援軍隊長から、応答があった。
六間洞のゴブリン兄弟。
その名を上げた瞬間であった。
◆ 54、六腕ロボ、脱出 ◆
「ここまでだ。おまえたちは脱出しろ」
ルクジッコはベルトを外し、乗り手席から立ち上がった。
フラつきながらハッチに移動し、ロックを外す。
「どちらへ」
血に濡れた助手が、左弓手席から立ち上がりながら訊いてきた。
ルクジッコは、一瞬だけ彼を見る。
この助手は、貴族ではない。奴隷であった。
「いままで、よく務めてくれたな。万が一の時は──娘に『譲渡』の文書を預けてある」
奴隷の譲渡。
主人が死んだら巻き添えで死刑になる奴隷を、『生前に譲渡してました!』として救うインチキである。
「旦那様・・・」
「そんな顔をするな。私も、ここで死ぬつもりはない」
ルクジッコは、ハッチを開ける。
ゴオッ・・・!
熱気が、吹き込んできた。
燃え上がる蓄熱塔。
火に炙られる六腕ロボ。
「生きているか? ダッダニーロ。目を覚ませ」
≪・・・生きてはおるがのう≫
六腕ロボが答えた。
「よろしい。──『浮遊!』」
ルクジッコは呪文を唱えて、飛び下りた。
ハッチから、六腕ロボの肩まで・・・
身長の3倍はある落差を、ふわ~ん・・・と、浮遊してゆく。
少し行き過ぎたのを、六腕ロボのボディを掴んで引き戻す。ふわふわしたまま、胸元のハッチに降りて、素早く中へ。
乗り手席に着いて、発進を命じる。
<起動準備してへんねんけど・・・>
「命令だ。即時、浮上せよ」
<準備運動はじっくりやる主義や>
「だが、逆らうことはできまい? 帝国式の、蒸気械人束縛呪文──おまえにも、有効なはずだ」
<ダボが・・・>
煙の中から、六腕ロボが浮上する。
幽雲洞の六腕ロボは、この鬼体が誰なのか、迷ったようである。
「甘い。右上筒、爆伸槍(ばくしんそう)!」
ルクジッコの六腕ロボが、肩砲を撃った。
──いや。それは、肩砲ではなかった。
肩砲の位置に取り付けられていたのは・・・
魔蒸気筒!
蒸気械人の筒が、六腕ロボに後付けされておって・・・
背中に後付けされた、小型の中央蓄熱塔から、熱を受け取って・・・
筒内に、火薬を追加噴射して・・・
ドゴォォォン!!!
爆伸!
猛烈な勢いで、槍が撃ち出された!
蒸気械弩砲の槍とはちがう──鋼鉄の槍が!
幽雲洞の六腕ロボの1体に、突き刺さる! 右股関節を貫いた!
≪ぐわー! 股間が!≫
六腕ロボ、右股関節の球状関節を、脱臼! ケンケンで逃げてゆく!
ルクジッコ鬼は、発射の反動で大きく後ろにすべった。
これで、けむりだまの大半を回避。そのまま空中へ逃げる。
鬼体を斜め下方に向けたルクジッコは、続けて・・・
「左下筒、爆伸槍!」
大爆発。
中央蓄熱塔を射抜かれた対鬼ナンガラックが、燃え上がった。
<味方ちゃうんか!? なんで撃ったんや>
反動で斜め上方に大きくすべりながら、ダッダニーロが文句を言う。
「不幸な事故、というヤツだ・・・戦場など、こんなものだろう?」
ルクジッコの意図を理解した対鬼ナンガラックが、鎖鉤手を飛ばしてきた。
「右下筒、爆伸槍!」
その覗き窓を、ルクジッコは射抜いた。
相手の鎖鉤手は、届かない。爆伸槍の反動で、ルクジッコ鬼は大きく上空へ退避している。
「・・・これでよし」
ルクジッコは、2人の乗り手を始末した。
先ほど戦闘中に転倒した乗り手と合わせ、3人。
バッツワーノ隊長を真っ先に訴えそうなヤツらを、この世から追い出したのだ。
≪そこの六腕ロボ。止まれ。降参すれば、生命は助けてやる≫
六腕ロボたちが追いかけてくる。
「左下筒、爆伸槍! ──中央蓄熱塔、切り離し!」
ルクジッコは最後の槍を放つ。これはハズレ。
だが、この一発で作った時間のあいだに、背中の蓄熱塔が切り離されて、落ちてゆく。
地面に激突して・・・
爆発!
さらに・・・
ドッパァン! ドドドドドドパパパァァン・・・!!!
四方八方に──けむりだまが、乱れ飛んだ!
<けむりだま仕込んどったんか>
「そうさ。暴発させるのは得意でね」
白煙に包まれる街を、六腕ロボで脱出する。
単鬼、ひた走る。
目指すは、隊長であるバッツワーノの元──では、なかった。
「カーネ」
「・・・父上」
「父は、負けたよ。首都に、報告に戻らねばならん」
ルクジッコは、娘のところに逃げ戻ったのである。
◆ 55、ルクジッコの最期 ◆
「・・・そうですか」
「カーネ?」
自治都市ハツラノッツ、郊外。
海を見下ろす断崖絶壁に、父娘は立っておった。
「なぜ、こんな場所に? そこは危ない。こちらに来なさい」
「・・・父上」
六腕ロボで逃げ延びたルクジッコは、一切休息を取らず、ハツラノッツまで走った。
寮に戻ると、門番に「娘さんなら、お友達と連れ立って出かけましたよ」と言われた。
だが、街のどこにも娘はいない。
やっと見つけた娘は、なぜか、郊外。崖っぷちギリギリのところに、立っておった。
『友達』の姿は、どこにもなく・・・
「カーネ? こちらへおいで」
「・・・父上」
・・・受け答えも、明らかにおかしい。
ルクジッコは、ベルトの『魔泉の杖』に左手をしっかり当てて、ゆっくり前進した。
徹夜と疲労で倒れる寸前のルクジッコ。もはや、どんなに簡単な呪文も、唱える余力はない。
だが、この杖があれば。
左手を絶対離さないよう意識しつつ、右手を胸元に入れる。
「ほら。カーネがくれた首飾りだ。役に立ったよ。ありがとう」
「・・・そうですか」
「友達は、どこにいる? お名前は、なんというのだね?」
「・・・父上」
ルクジッコは奥歯を噛みしめた。
娘は、何かをされたのだ。
呪文か。薬物か。
とにかく、崖から引き戻さなければならない。
飛び下りられる恐れもあるが・・・ルクジッコには、そうなっても、娘を守れる魔術があった。
「カーネ! 目を覚ましなさい!」
「・・・父上」
身体に残る気力を振り絞って、娘に飛びつく。
捕まえた!
娘は──何をされたにせよ──飛び下りようとはしなかった!
これでもう、安心・・・
≪崩れよ≫
眼下。海のほうから、響き渡る声がした。
ルクジッコの足元の大地が、崩れた。
「なに!?」
娘と共に、転落する。
下は、岩礁。岩と海の入り組んだ地形。
岩に落ちれば、即死。
海に落ちても、いずれは死──岩と岩のあいだに潜り込むか、波によって岩に叩きつけられるかして。
「死なせて、たまるか──『浮遊』!」
まず、娘に。
ふわ~ん・・・。
娘の落下が、穏やかになる。
そのシャツを掴んで、沖のほうへ、投げ飛ばしてやった。
これで、岩礁に落ちるのだけは避けられた。
あとは自分も『浮遊』して、娘を海から引き揚げるだけ──
≪岩の手よ。突き出せ。その杖、我が元に≫
また声が響き渡り──
崖から突き出した岩に、ルクジッコは激突した。
杖が飛ぶ。
首飾りの紐が千切れる。
意識が消える寸前に、ルクジッコは2つのことを見た。
クルクルと回って飛んだ杖を、海の上に上半身だけ出した女が、キャッチしたこと。
『正義の目』が、輝きながら、こちらを見つめていたこと。
そして、ルクジッコの意識は消えた。
二度と現世に戻ることはなかった。
◆ 56、清雅の目 ◆
ソラトバンが目を開けると、そこにはチーニャがいた。
見慣れん部屋である。
「・・・チーニャ」
「大丈夫か?」
「ここは」
「医務室さ」
「初めて入ったわい」
「ベッドが小さいだろ。コボルド用でさ」
「ほんとじゃな」
「まず、目の検査をしようか」
──幸い、ソラトバンの視力に問題はなかった。身体も無傷である。
となれば、気になるのは味方のことであった。
「トンボどんは?」
「肘の筒の交換。それと、熱のダメージの検査だ。時間がかかるってさ」
チーニャが、髪を撫でてきた。
気持ちいい・・・。
ソラトバンは、頭を起こすのをやめた。
枕に沈んで、チーニャの手を受け入れる。
「正鬼どんたちは、どうじゃった?」
「大手柄だぜ。“蒸牙馬”を破って、戦功一位だとさ!」
「そりゃすごい。今回は完全に負けてしもうたのう」
「英雄が逃げたんで、士気が下がったわ! って、怒ってたぜw」
「はっはっは」
「でも、無事でよかった」
チーニャが抱き着いてくる。
髪の香り・・・
おっぱい・・・
ぬくもり・・・
ソラトバン。幸せな気分で抱き返しつつ・・・
こりゃ、正鬼どんたちに見られちゃまずいぞ・・・と、考える。
その考えが、形になったかのように。
ゴブリン三兄弟と、清雅が。
医務室の入り口に、現われた。
ニヤーーーッ・・・と笑う、清雅の目に。
こりゃ、しばらくからかわれるぞ・・・と、覚悟するソラトバンであった。
※このページの修正記録
2025/09/22
「50、無限魔弾、ダブマダック!」
説明ナシで『八岐蛇魔弾』が登場していたのを修正。
↓この会話を追加しました。
> 「また『オロチ弾』か」
> <『八岐蛇魔弾』じゃな。いまのは>
> 「やまたじゃまだん」
> <うむ。大軍勢を一掃するヤツじゃ。これも、ふつうなら連発はできんのじゃが>