◆ 65、ヤドカリチャリオット vs 対鬼ナンガラック ◆
ヤドカリチャリオットが、大地を走る。
巨大な爪で地を掻いて、大きな2輪の車を引いて、黒雨の中を、突っ走る。
2輪の戦車に立っておるのは・・・
オーガの戦士。
身の丈10尺。
生身の巨人である。
鋼鉄の黒鎧に身を包んで・・・
黒雨を弾いて、走る。
黒々とした金棒を、軽々と担いで。
──その数、30台。2列の波となって、打ち寄せた。
ドドォン! ドン、ドン、ドンドンドン・・・!
オーガの後方。六腕ロボが、砲撃を開始した。
ひょろろろろ・・・と、風を切って飛んだ砲弾。
オーガを飛び越し、丘の中腹に着弾する。
けむりだま! 白い煙がカーテンとなって、突撃を支援する。
逆に、敵陣からは槍の束が降ってくる。
丘の向こうから。曲線を描いて。
帝国の蒸気械弩砲が放った、投げ槍の束であった。
歩兵用の槍を束ねて、撃ち出す。空中でばらけて、槍の雨になるのだ。
この槍に、オーガの1人が貫かれた。チャリオットから落ちる。人形のように、ゴロンゴロンと地面を転がった。
残り、29台。
ヤドカリチャリオットは、ひるまない。全力で走る。
丘の麓(ふもと)に達した。
斜面を這い登る。爪が地面をえぐり、ガキンと音を立てて石ころを噛み砕く。
雨に、地面がぬかるみ始めた。ヤドカリの爪が、徐々に滑り始める。だが、登り切った。
目の前に、防柵。
木の杭を地面に撃ち込み、ワイヤーを張り巡らせたもの。対鬼械人用の巨大柵!
「私に任せよ!!!」
1人のオーガが叫んで突出。金棒をヤドカリの頭の前に出して、ワイヤーに挑んだ。接触と同時に、金棒をカチ上げる。チャリオットが軋み(きしみ)、地面に腹をこすりつけた。車軸が歪んで、いまにも車輪が外れそう。
「ぬおお!!!」
丸太の杭が、浮き上がった。ワイヤーがゆるむ。ヤドカリがその下をくぐり抜けた。
しかし、オーガ自身はワイヤーに引っ掛かった。金棒もろとも弾かれ、ぐるんと回って地面に落ちる。
同様にして、3つの穴をこじ開ける。
残り、26台。
チャリオットは、流れ込んだ。
迎撃に出てきたのは、対鬼ナンガラック!
前面ラメラー装甲、鎖鉤手(くさりかぎて)の、重装甲蒸気械人!
全部で12鬼。すべて精鋭であった。
「鬼どもめ! 通さん!」
握りと鐙(あぶみ)で巧みに巨体を操り、鎖鉤手を横薙ぎにブン回してくる。
オーガの胴体ほどもある鉤手が、うなりを上げて地面を払う!
地上ほんの1尺ほどの高さを飛んできた鉤が、ヤドカリの前面の穴(足が生えとるとこ)を、引っ掛けた!
釣り上げる!
ヤドカリチャリオットの一本釣り!
「ヌワーーー!!!」
高々と宙を舞うヤドカリ! こぼれ落ちるオーガ!
さらに腕を振り回すナンガラック。
鉤から逃れる術のないヤドカリ。哀れグルングルン振り回されて・・・味方ヤドカリに、激突!
ヤドカリの甲羅砕け、オーガは声もなく、黒く濡れた地面に果てる。
さらに、後続のオーガがそれを避けようとして、横転した。
残り、23台。
ナンガラックの足元に、肉迫する。
狙うは、足首。スネと足の角度を制御する、2本の魔蒸気筒。
金棒で、ブッ叩く!
爆発!
筒が破裂し、蒸気が噴出する。
足首の力が抜けたナンガラック、自重を支え切れず、倒れる!
だが倒れざまに腕を伸ばし、通り過ぎるオーガを道連れにした!
残り、22台。
黒い雨は降り続く。
地面はどんどんぬかるんでゆく。
ヤドカリは動き回るが・・・その速度は、落ちてゆく。
ナンガラックは、大差なし。もともと待ち受ける側であり、走り回る必要がないからだ。
さらに。
敵味方入り乱れる戦場に、槍の束が降ってくる。
ただの投げ槍であってみれば、ナンガラックには何の害もない。だがオーガには命取りとなる。
乱戦のうちに、3台のオーガが槍にやられた。
残りはついに20台を割って、19台・・・
「──ぬう!! 不覚!!!」
乗駆鬼(ジョッキー)というオーガ。
泥まみれで、立ち上がった。
彼。
先ほどチャリオットから転落して、徒歩になっておった。
「無理を言うて乗せてもろうたのに・・・これでは、格好がつかぬ!! 手柄を立てねば!!」
目の前に、蒸気械人の背中があった。
攻撃中であった。
右手の鎖鉤手を伸ばし・・・
バランスを取るために、左手を、こっちへ突き出してきた。
鉤手が、ぶらーん・・・と・・・
乗駆鬼の目の前に、やってきた。
「チャンスじゃ! そーれ!!!」
乗駆鬼は、飛びついた!
◆ 66、乗駆鬼、乗り手となる ◆
鉤手から、腕へとジャンプ! しがみつく!
動きが止まるのを待って・・・
よじ登る!
肘へ! 肩へ!
魔蒸気筒に、手が潰されそうになる──
関節部に、足が巻き込まれそうになる──
そんな危険を・・・
若い身体の反射と、一瞬先を読む勘と、幸運によって、乗り越えて・・・
乗駆鬼は、やり遂げた!
肩から乗り込み口に、飛び移ったんである!
ナンガラックのハッチは、左側面にある。
ハシゴで登らねばならんほど高い位置だが。
この屈強なオーガの若者は、腕をよじ登って、そこまで行ったんである!
「ようし!!」
乗駆鬼。
ハッチを、引き開けた。
「え?」
乗り手、驚愕である。
その首根っ子を、引っ掴み・・・
「このナンガラック!! 撃竜界・乗駆鬼が、頂くことにした!!!」
「ぐえっ」
・・・外へ、ブン投げた。
ナンガラックが、停止した。
帝国の蒸気械人は、乗り手が居らん状態では、動くことができんのだ。
加えて、乗り手を見分けて操作を拒絶することも、できぬ。
だからして・・・
「さあ、ゆくぞ!」
・・・乗駆鬼は、ナンガラックを、駆ることができた!
土砂降りの黒雨。
覗き窓から、吹き込んでくる。
「ガラスぐらい付けんか。野蛮な人間どもめ!」
六腕ロボとくらべて、あまりにも野蛮。
あまりにも、ローテク。
「こんなヘッポコ鬼械人で、よくも我が撃竜界を落としたな。逆に感心するわ!!」
さて。
乗駆鬼がこうして、ナンガラックを奪っておるあいだに。
戦闘は、一段落しておった。
ヤドカリが、ナンガラックの足元を駆け抜けて、距離が開いたのだ。
「・・・弩砲を狙いに行くのか?」
乗駆鬼は、そう理解した。
「損害が大きすぎるようだが。幽雲洞があきらめん以上、私が逃げるワケにも行かんな!!」
というわけで。
少し距離を開けて、ついていった。
やがて。
機会が訪れた。
第二の丘で、ヤドカリチャリオット部隊が、ナンガラックに追いつかれたのだ。
理由は、第二の丘に仕掛けられた罠であった・・・
「丸太落とせ!」
「おう!」
敵歩兵が、丘の頂上にまとめてあった丸太の、ロープを切った。
丸太が・・・
急斜面を・・・
転がり落ちてきた!
ヤドカリ先頭の3台が弾き飛ばされ、後続5台が押し戻されて、転倒。
残り、11台。
前は急な上り坂。後ろはナンガラック。
絶体絶命である。
「よし!! ここじゃ!!」
乗駆鬼、動く。
こちらに背を向けとるナンガラックに・・・
左右の鉤手を、振り下ろした!
右の鉤手、クリティカルヒット! ナンガラック背面の中央蓄熱塔に、突き刺さる! 爆発炎上!!
左の鉤手、カスヒット。腰の部分にある回廊みたいなとこに、引っ掛かった。
「戦功頂き!! そーーーれ!!」
握りを引っ張る。ナンガラックが、鎖鉤手を引っ張った。
敵はバランスを崩し、こちらに傾いてきた。
乗駆鬼は、自鬼の上半身をグルッと回転させて、倒れてくる相手をいなす。
ドンバッチャーーーン・・・!
仰向けに倒れる音が、爆発炎上の音に重なって聞こえた。
「あと、6鬼!!! 皆殺しにしてくれる!!!」
初めて乗るナンガラックでの、格闘戦。
すでに乗駆鬼は汗だくであった。
次のナンガラックの中央蓄熱塔を狙うが──
敵は、精鋭!
いま爆発が起きた、その直後にはすでに、半数がこちらを振り向いておった。
速すぎて、乗駆鬼の第二撃が間に合わぬ。
鉤手を振り下ろすが・・・
敵が振り上げた鉤手に、ブロックされた!
鉤手同士が、ガッチリ噛み合う!
すかさず引っ張られた。態勢を崩されてしまう!
「ぬう!!」
乗駆鬼。
鬼械人戦闘の経験、皆無である。
同じ鬼体で精鋭に勝つなど、無理な話であった。
「──ならば! 道連れにしてくれるわ!!!」
残る左手で敵の膝を狙う。
これも敵にブロックされたが・・・鉤手がブウンと回って、膝に噛みついてくれた。
敵は膝をすくわれ、ズッこける。乗駆鬼はその上に、浴びせ倒しの形で、一緒にコケた。
ドゴッガキョオオン・・・ォゴォォーン!!
もんのすごい音を立てて、ナンガラックが2鬼、泥中に転がる。
「ぬごっ!!!」
まことに愚かなことに・・・
ベルトをしておらなんだ、乗駆鬼は・・・
座席から放り出され、覗き窓付近の壁に、叩きつけられた。
そして、意識を失ってしもうたのであった。
◆ 67、上空のソラトバン ◆
「ムチャクチャになっとる・・・」
下界を見下ろすソラトバン。
ヤドカリチャリオット隊の苦戦を見て、ため息をついた。
そこに通信が入る。
<こちらチラーニ・チーニャ。いま到着した。戦場の南西に降下する。状況どうだ?>
「ヤドカリが不利じゃ。2つ目の丘で足止めされて、ナンガラックに背中から殴られとる」
<回り込んでる部隊はいるか? 側面から近付くような姿は>
「ない」
<了解>
トンボは、攻撃塔の屋上である。手出しはしておらぬ。
浮鬼も同じ。2鬼揃って、見とるだけである。
「・・・。」
<克鬼(コッキ)閣下は、爆鬼が来ると見てる>
「・・・ふむ」
<そのときのために、切り札は置いておく、という考えだ>
「トンボどんは、切り札か」
<最高速のな>
「なるほど」
納得したような、もどかしいような。
歯痒さ(はがゆさ)に、ソラトバンが耐えておると・・・
<こちらチラーニ・ウミドラーニでござる。敵弩砲、移動中。砲撃をやめて、後退してござる>
と、通信が入った。
海鳥型鬼械人・ウミドラーニ。
彼、今回、チラーニに乗っておる。背の手席。タコ操作担当なのだ。
「ナンガラックもじゃな。背中向けて逃げ出したぞ」
ヤドカリが追撃する。1鬼倒し、2鬼沈め──結局、ナンガラック3鬼を仕留めた。
オーガどもは、停止。勝鬨(かちどき)を上げたようである。
「勝ったか」
<みんな、油断するな。ここからだぞ>
「ここから?」
<脆すぎる(もろすぎる)。敵陣に、何か仕掛けがあると見た>
◆ 68、敵陣に、筒あり ◆
「敵陣には近付くな!! 負傷者を六腕ロボへ!!!」
ヤドカリ隊長が、もんのすごい大声で、仲間に指示をする。
円を描いて走り回り、部隊をまとめる。乗り手を失ったヤドカリも、自分の判断で集まってきた。
「敵ナンガラック乗りに注意せえ!! ルーン魔術を撃とうとしたら、殺せ!!!」
隊伍を組み直したところに、死傷者の報告が上がってくる。
「──撃竜界の若殿が、行方不明じゃと?」
「はい。仲間の転倒に巻き込まれ・・・その後、行方知れずに」
「・・・そうか」
つづいて、ゴブリンの一班が駆け寄ってきた。
「ゴブリン偵察、ここにあり!」
「うむ!! 敵陣を調べよ。『力の筒』があったら、この砲を空に撃て!」
「了解!」
ゴブリン偵察隊。
第二の丘に向かった。
急斜面をヒョイヒョイとハネ上がり、広く散開して、敵陣に入る。
極めて簡易な野戦陣地であった。
木の樽と箱が積み上げられておる。丸太とワイヤーの防柵が張り巡らされておる。
それだけ。
テント、ナシ。鬼械人の整備スペース、ナシ。
「バッツワーノ隊は、足が速いと聞くが・・・なるほど、速度優先の陣じゃな」
偵察隊長は、陣地を見回して。
「樽(たる)、箱、袋! すべて開けて、中を確認せよ! 爆鬼があるかも知れん!」
と、命令した。
「足元にも目を配るんじゃ! 爆鬼が埋めてあるかもわからんぞ!」
ゴブリン偵察、陣地に散らばる。
そして、すぐに。
「『力の筒』、発見! こちらの樽に、筒1本あり!! 爆鬼の恐れ!! 爆鬼の恐れ!!」
隊長、駆け寄る。
樽の中を覗く。
『力の筒』。
トンボ型。八角柱で覆われたタイプ。
「退却ッ!! たいきゃーーーく!!」
偵察隊長、絶叫。
手に持った砲を、空に向けて撃つ。
ドパン! ヒョロロロロ・・・・・・・・・ドーーーン・・・!
鋭い風切り音の後で、赤いけむりだまが、空に広がった。
ゴブリン偵察、丘を下る。
ヤドカリ部隊のところへ戻ると、オーガたちが手を伸ばして、ヤドカリへ引っ張り上げてくれた。
「敵陣に、筒あり! 爆鬼の恐れ!!」
「退却じゃあ!!!」
ヤドカリ部隊は、疾走した。
黒い雨の中、ぬかるむ地面を掻き回して。
回収できただけの負傷者と、ゴブリン偵察を連れて・・・
だが、死者と行方不明者を探す余裕はないままに。
それから、ほんの少し後。
バタン。
横転したナンガラックのハッチが、ハネ上げられた。
にょっきり。
凹んだ兜が、顔を出す。
「・・・見えぬ」
兜を脱ぐ。出てきた顔は。
乗駆鬼というオーガの、デカいツラであった。
周囲を見回して・・・
「誰も、居らぬ」
天を向いたハッチから、外に出る。
「戦闘は、終わったのか?」
黒い雨降る空見れば、細い塔が飛んでおる。
「・・・フン。ええ御身分だのう。人の生き死にを、空から見下ろして」
◆ 69、第二の爆鬼 ◆
<こちらチーニャ。全員、下がれ! 爆鬼警報だ! 赤いけむりだまは、爆鬼警報! 下がれ、下がれ!>
<こちらおふくろ。第一攻撃塔、後退する。トンボ、浮鬼、捕まっとれよ>
「了解じゃ! ・・・んん!?」
攻撃塔が動き始める瞬間。
ソラトバンの『鷹の目』が、クリティカルな情報を発見した。
「乗駆鬼じゃ。ナンガラックから出てきた」
攻撃塔が動き始めた。
「待っ──いや、ええわ! そのまま退却してくれ。トンボどん、降りるぞ!」
ソラトバン、握りと鐙を操作する。
<おい、待たんか>
トンボどんは文句を言うたが、操作には従った。
攻撃塔から手を離して、空中へ。攻撃塔がフワッと浮き上がる。
<なんじゃ? 何をした>
「乗駆鬼が取り残されとんじゃ! 拾いにゆく。おふくろはそのまま逃げろ!」
<またか!>チーニャがキレる。<オマエってヤツは!>
「いや、わしのせいじゃ──ぐえっ」
トンボどん、急加速。
もんのすごい加速である。これまでに体験した最強のよりも、さらに一段上の加速であった。
乗り手甲が首を支えてくれるが・・・それでも、苦しい。視界が暗くなる。血の気が引く。
かと思うと、次は急減速である。身体が一気に前にすべる。手足を突っ張るが、こらえきれん。身体が座席に吊られる形となる。
「ほげえ・・・」
ズドーン!!
地面に突き刺さるように、トンボどんが着地した。
ナンガラックは、目の前。
乗駆鬼がビビっとる。
≪爆鬼じゃ! 乗れ!≫
トンボどんが自分でしゃべった。手を出す。
乗駆鬼は一瞬「えっ?」となった。
だが、直後に、跳んだ。ナンガラックのボディから、トンボの手へ。
手の指にしがみつき、凹んだ兜をかぶり直す。
「ええぞ!!! 飛んでくれい!!!」
≪おう!≫
トンボは、泥を蹴って走り、背中の四枚羽をぶーん・・・とうならせ・・・
低空飛行を開始した。
上昇はしない。地形を這うように飛ぶ。
左へ、わずかに舵を切る。直後、ヤドカリ部隊が右後方へすっ飛んでいった。
そして。
敵陣で、爆鬼が炸裂した。
第二の丘を砕き、逃げおくれたナンガラックを溶かし、第一の丘を削り・・・
爆風が広がる。
黒い泥の壁が押し寄せて・・・・・・・・・引き波となって戻ってゆく!
竜巻がねじり上がり、キノコ雲が雨天を貫く。
トンボは、逃げ切った。
攻撃塔に着陸する。乗駆鬼も無事であった。
・・・だが、追い抜いたヤドカリ部隊の姿は、地上のどこにも、なくなっておった。
◆ 70、バッツワーノのひとりごと ◆
「・・・よし!」
バッツワーノは、快哉(かいさい)を叫ぶ。
「ここからが、勝負だ」
彼はいま、赤い色した鬼械人の肩に乗っておった。
ピンガデオスではない。ナンガラックでもない。
ずんぐりむっくりとしたボディ。
長い腕。
おでこに第三の眼のような宝石がついておる。
両肩には、肩砲。帝国式には見られない装備。それも、上下二連。
──六腕ロボであった。
森の中。
他の鬼械人の姿はない。六腕ロボ、単鬼である。
「・・・あれが、『力の筒』の爆鬼ですか」
足元から女の声がした。
バッツワーノは、下をジロッと見た。
ハッチから顔を出しとるのは、オーガの女。鬼術師──奴隷のレイサーネであった。
「そうだ。幽雲洞のオーガ部隊は、いまので全滅だ!」
「・・・そうですか」
「席に戻れ。間もなく移動だ」
「はい」
レイサーネ、引っ込む。
バッツワーノ、短い杖を取り出す。『魔泉の杖』。
空飛ぶ塔を睨む。その上にいるトンボを。
「キルも、ルクジッコも、やられたようだが・・・今日は、そうは行かん」
つぶやきつつ・・・
巻物を取り出した。
羊皮紙のスクロール。
片手で器用にそれを開く。
「悪いクセだぞ、キル、敵を見下すのは。トンボの肘の焼け跡は、おまえか? ルクジッコ、惜しかったな・・・」
情報は、伝わっておらぬ。キルビンナックとルクジッコの敗北の知らせは。
だが、トンボの姿を見ればわかることであった。
バッツワーノは首を振って、長い独り言をつぶやいた。
「あの森が、分かれ目であった。
あそこでトンボを失ったことが、俺たちの。
そして──このショラン・ギサンチは、帝国の分かれ目となるだろう。
愚かな首都よ。
俺は、もはや、貴様らに何の期待もせぬ。
報告もせぬ。指示も聞かぬ。許しも乞わぬ。
俺のやりたいことをする。
空飛ぶ塔を落とし、幽雲洞をひれ伏させ、貴様らを皆殺しにして──
鬼械人の力で、この世を支配する!
それが俺のやりたいことだ」
そして。
「・・・使わせてもらうぞ、ルクジッコ」
巻物の文面に、杖を当てる。
ルクジッコの遺品を、バッツワーノは使った。
「魔術を究めた博士の御霊よ。炎となって蘇れ。魔力を肉に、ふたたびこの世に現れよ──『霊炎再燃』」
ゴウッ・・・!
青白い炎が渦巻いた。バッツワーノの眼前に、亡霊のごとき姿が浮かび上がる。
宙に浮かぶ青炎。雨が蒸気となって立ちのぼる。
バッツワーノは『力の筒』を差し出した。「暴走の手順は?」
「承知している」青い炎の亡霊は、筒を受け取った。「標的は?」
「あの塔の上にいる。四枚羽の、黄金の鬼械人」
「撃竜界の、トンボ」
「その通りだ」
「承知した。大物だな」
「この『魔泉の杖』も使え。残り少ないが、使い捨ててかまわぬ」
「ありがたく」
「ゆけ。ルクジッコの最良の友よ。オーガの英雄を、冥界へ送り返してやれ!」
「必ずや」
『魔泉の杖』を左手に、『力の筒』を右手に・・・
霊炎魔は、舞い上がった。
森の上空に出て・・・
「ここを、そこにする──『空間転送』」
・・・テレポートした。
攻撃塔の上。
伏せておるトンボの、真上に。
◆ 71、爆鬼霊炎魔 ◆
<ソラっ! 上やっ!>
「!!!」
数鬼の声。
ソラトバン、即座に反応。
左握りを、外回りに、手前へ回し引く。
トンボは。
左手で、背後・上空をチョップした!
バン。
・・・軽い衝突音がした。
<ソラ、どうした>
チーニャの声が響いたときには。
トンボの左チョップが、背後に出現した霊炎魔を打ち砕いておった。
だがまだ、決着ではない。
「爆ッ・・・鬼ッ!!」
ソラトバンは、叫んだ。
急激にねじれる鬼体の中で・・・
かろうじて、覗き窓から目を離さず・・・
クルクルと宙に飛んだ、筒を、見逃さず・・・
右握りで、その方向を、トンボに示した。
トンボが塔の屋上を蹴る。空中に飛び出した。回転する筒を掴む。筒はすでに、白く光っておる。
ドゴン!
トンボの右肩、一寸砲が火を噴いた。
徹甲弾が射出され、八角柱をした粒子封入筒に激突。穴を開けた。
筒にかかっておった魔術──『粒子操作』の呪文が停止。
対消滅反応を始めていた粒子と反粒子のうち、反粒子が速やかに崩壊、この世から姿を消した。
反応は、もはや、起こり得なくなった。
じゅっ!
・・・と、雨を蒸発させる音がした。それだけであった。
「す・・・数鬼どん! 感謝するぞ。いまのは、危ないトコロじゃった!」
ソラトバン。汗を拭う。
「こちらトンボ・ソラトバン。霊炎魔に不意打ちされた。爆鬼つきじゃ」
<なに?>とチーニャ。
「前回やられたオバケじゃ。今回は、爆鬼持って来よった」
<ハイエルフの博士級の転送呪文じゃ>と、トンボどん。<視界内・距離無制限で飛んでくるんじゃ>
<距離無制限ですか?>
<そうじゃ。こちらの姿が見えておれば、どんな遠くからでも転送できる>
<了解。ソラは攻撃塔から離れろ。敵を探せ。浮鬼はそのまま。速度の低い浮上筒では、危険な相手だ>
「了解じゃ!」
トンボ、ふたたび空へ。
攻撃塔は、逃げた。
なお、その攻撃塔にしがみつく、浮鬼の中では・・・
「狭い」
・・・と、数鬼が文句を言うておった。
「すまぬ」
謝ったのは、乗駆鬼である。
オーガの身体。デカすぎて、隣の数鬼を席から弾き出しそうになっておる。
また、手足も長すぎて、前の席の正鬼を押し潰すみたいにもなっておる。
「手足、収めれんか?」
「無理じゃ・・・」
「そうか・・・」
ただでさえ苦しい、うつ伏せ移動に、さらに面倒が増した正鬼と数鬼であった。
◆ 72、爆鬼砲、出撃命令 ◆
「・・・かわしやがった!」
バッツワーノは、望遠鏡を下ろした。
「本当に素人なのか? オイ! ソラトバンよ!」
羊皮紙の巻物を投げ捨てる。
黒く焦げた文面。もはや読むことはできぬ。一発限りの、使い捨ての巻物なのだ。
「だが、『次』を恐れんワケには行くまい?」
この一発限りで、霊炎魔は打ち止め──という事実は、弐ノ塔にはわからぬ。
第二・第三の霊炎魔を警戒せざるを得ぬ。
その結果。
弐ノ塔は、岩山の向こうへ退却した。
太陽が沈むがごとく、岩山と岩山の間に、身を沈めたのである。
「よし、よし! 運が向いてきた」
バッツワーノは、笑った。
「『空飛ぶ塔』を落とす日が来たぞ!」
そして。
ヒラリと、ハッチに飛び込んだ。
「ひぇぇ」レイサーネが悲鳴を上げる。
「動くぞ。通信開け」
「はいな」<・・・はいよ>
「こちら、バッツワーノ。我が部下よ──勇敢なる蒸気械人どもよ!」
「・・・!」レイサーネが眉を上げた。
「おまえたち、爆鬼砲の出番だ。1から3号。全鬼出撃。作戦通り、空飛ぶ塔を攻撃せよ!」
<爆鬼砲1、了解><爆鬼砲2、了解><爆鬼砲3、了解>
ぎこちない発音で、3人──3鬼の、返答があった。
「よろしい。ゆけ! 我らが蒸気械人よ! 神話の亡霊を駆逐せよ! 新たな時代の礎(いしずえ)となるのだ」
通信終わり。
バッツワーノは右弓手席に着いた。
「幽雲洞に接近しろ。森からは、出るなよ」
「・・・はい」
レイサーネ。
鐙を踏み込み、六腕ロボを歩かせる。
浮上筒を起動して、半分宙に浮いた状態での移動である。なめらかで、軽い。
「コイツを鹵獲(ろかく)できたのは幸運だったが、」
バッツワーノはパイプを取り出した。
咥えた。咥えただけである。火はつけない。
「──おまえが乗り手だったのも、幸運だったな? ええ?」
「乗り手やありません。子供ン時に、乗って遊んどっただけです」
「鬼械人のことなど、知らんと言ってたよな」
「ホンマです。筒の仕組みとかは何も知りません。ウチがわかるん、コレとコレだけ」
レイサーネは握りと鐙を示した。
「退役した六腕ロボに子供が乗るんは、撃竜界では普通なんです。そやけど、仕組みは部外秘で」
「それも初耳だぜ?」
「・・・。」
「フンw 女狐(めぎつね)め。よく裏切らずについて来たもんだ」
「そらもう・・・」
六腕ロボは、森の中を滑走した。
そして。
「止めろ」
バッツワーノが、席を立った。
背負い袋を持ち上げる。ゴツン、ゴツン。金属の筒がぶつかる音がした。
「・・・筒ですか?」
「・・・。」
「まさか、自爆する気ですか? ちょ!」レイサーネは取り乱した。「イヤですよ!? 私! 巻き添え処刑は!」
「ガタガタうるせえ。俺が戻るまで、ここで待ってろ」
「戻るまでて、いつまでです?」
「戻るまでだ」バッツワーノは、ハッチを開けた。
「戻らへんかったら?」
「ずっと待ってろ」飛び降りる。「オーガにでも見つけてもらえ! そのほうが、得だろ?」
バッツワーノは。
断崖に向かって、歩み去った。
──幽雲洞の入り口のある、断崖に向かって。
<・・・なあ>六腕ロボが口を開いた。
「なに?」
ハッチにもたれたレイサーネ。ため息混じりに、反応。
<帝国軍人は、鬼械人とはしゃべらんと聞いたんやが>
「普通はそうよ」
<そやんな>
沈黙。
<・・・なあ>
「なに?」
<さっきのん、『逃げてもええぞ』っちゅう意味に聞こえたんやが>
「そやね」
<そやろ>
「けど、ウチだけ逃げてもなぁ・・・」
<人質か>
「一人息子がね。帝国の『養子』にされとんねん」
<ほな、逃げられへんやないか>
「そうなんよね・・・」
◆ 73、弐ノ塔、砲撃さる! ◆
幽雲洞の北西。
岩山にて。
低く伏せていた蒸気械弩砲が、1鬼。4本の足を動かして、立ち上がった。
同じ岩山の、離れた地点で、1鬼。
さらにまた、離れた地点で、1鬼。
合計3鬼の蒸気械弩砲が、同時に立ち上がり、歩き始めた。
険しい岩山を、斜めになって、歩く。
空から降りてくる、3連の塔に向かって。
本塔、飛行塔、攻撃塔──清雅たちが乗る弐ノ塔の本体に、攻撃を仕掛けるために。
これを発見したのは、ウミドラーニであった。
岩山に身を隠したチラーニから、3機のタコを広範囲に飛ばしておったウミドラーニ。
うち1機。弐ノ塔の退却スペースを監視しとったタコが、弩砲を発見したのだ。
<本塔付近に、危険な弩砲を発見したでござる!>
「なに?」チーニャが半分だけ振り向く。
<装填中の矢玉に、『力の筒』がくっついてござる。爆鬼砲弾の疑いあり>
「映像出せ」
チーニャの手元の『タコ千里玉』に、映像が出た。
蒸気械弩砲。崖っぷちを斜めになって歩いておる。あたかも、クモが壁を這うがごとし。
弩砲には、大きな槍がセット済みであるが・・・その槍の、根元に。
『力の筒』。
「チラーニ、ママに警告! 『爆鬼弩砲が接近中』だ。詳細はおまえが伝えろ。ソラに通信ひらけ!」
<開いた>
「こちらチーニャ。ソラ、本塔付近に弩砲が現れた。爆鬼を、撃つつもりのようだ」
<なんじゃと!?>
「本塔に向かえ。弩砲を撃ち抜け! ウミドラーニ、位置送れ」
<送ったでござる>
<受け取った>と、トンボ。<急行する!>
「ぬ、ぬ、ぬ・・・」
加速。
ソラトバンの首と背中が、軋む(きしむ)。
耐えながら、タコ千里玉を睨む。
チラーニ側と同じ映像。岩壁を這い進む、弩砲の姿。
「本塔は・・・どうしとんじゃ」
<ドリナラーニが迎撃態勢じゃが、射線が通らんらしい>
「こっちは、撃てるか?」
<空中では無理じゃが。着艦して撃つわい>
「よし」
ソラトバン、少し落ち着く。
なんといっても、こちらには列電魔旋砲がある。
1鬼だけなら、対処できる──との、自信があった。
「・・・1鬼だけか?」
ソラトバン、予感する。
予感──いや、これは、類推(るいすい)。
「チーニャに通信」
<開いたぞ>
「チーニャ。1鬼だけとは思えん。エッサーミヤと同じなら、3鬼は居るぞ!」
<わかった、ママに伝える>
<着艦するぞ!>
トンボはそう言うや否や、急減速した。頭を起こし、腰の後ろの列電魔旋砲を取り外す。
ソラトバンの肩に、ズシリと慣性が乗る。
ガキィィン・・・!
トンボの足が、攻撃塔の屋上を捉えた。着艦。
左足で屋上を、右足で壁を踏むという、斜めの着地姿勢。
壁に立つがごとき姿勢を、背の羽うならせ、わずかな時間だけ、維持する。
その寸秒のうちに・・・
列電魔旋砲を構えて・・・
ドッ・・・・・・ゴォォォン!!!
ブッ放した。
ソラトバンの耳が、遠くなる。
やはり、ダメか。耳がやられたか。と、思ったが・・・
<・・・弩砲1、仕留めたぞ!>
トンボどんの声が聞こえてきた。
いける。乗り手甲のおかげで、耳は大丈夫のようである。
タコ千里玉を確認。
蒸気械弩砲が、バラバラになって、谷底へ落ちてゆくところであった。
<こちらおふくろ。2鬼目を発見した。また、さらに別の方向から、射撃を受けておる>
「やはり、3鬼か!」
<そのようじゃ。2鬼目はドリナラーニに撃たす。3鬼目を頼む。位置送る>
<もらった>
トンボ、1発でカラになった『力の筒』を取り外し、屋上の薬莢(やっきょう)入れに突っ込む。
砲弾ケースから新品の『力の筒』を引っこ抜き、砲にセット。
<離艦する!>
屋上を蹴って、空中へ。加速しながら砲弾を装填。これで発砲可能となった。
入れ違いに槍が飛んできて・・・飛行塔に突き刺さった!
「あっ! 槍が」
ソラトバン、思わず握りを引いてしもうたが・・・
<撃墜が先じゃ>
・・・トンボは、その操作を黙殺した。
舞い降りる。
眼下には、砲撃をくり返す弩砲が居る。
岩肌に強引に着地! 衝撃に耐えかねて岩が崩れる。トンボは意に介さず、砲撃姿勢を取った。
弩砲はこちらを見向きもせず、弐ノ塔への砲撃を続けておる。
ドッゴォォォン!!!
トンボは、その弩砲を脳天から貫いて、粉砕した。
「こちらソラトバン。3鬼目は潰した」
<了解>と、おふくろさん。<後はこちらでやる。戦場に戻れ>
「じゃが・・・」
<命令じゃ。戦場へ戻れ>
「・・・了解じゃ」
トンボは岩を蹴った。ふたたび空中の巨人となる。
「わしらだけでも逃がす──とか、そんなんじゃったら、恨むぞ」
<弐ノ塔を信じろ>
トンボはそう答えた。
<あれァ、神竜戦の経験者じゃ。ワシなんかより修羅場(しゅらば)踏んどるわ>
◆ 74、『見守る』 ◆
さて、その弐ノ塔では。
「1本刺さったでござる!」
「こっちにも飛んできたでござる!!」
「ウワー! 槍が、槍が!」
コボルドが、悲鳴を上げて逃げ惑っておった。
<修羅場じゃな>
おふくろさんの、雑務ユニット。
壁のホルダー(たいまつ差し込み口みたいなやつ)から、よっこらせ・・・と、這い出して。
ふわ~ん・・・と、宙に浮いた。
≪砲弾を見つけたものは、付近の壁を叩いて知らせよ。私が対処するけぇ、触るな。壁を叩いて位置を知らせよ≫
全艦放送で、指示をすると・・・
カンカンカンカン・・・!
あっちこっちで、壁を叩く音が鳴り始めた。
「弐ノ塔ママさん。私も手伝いますで」
清雅が申し出てきた。
<『呪文破壊』と『粒子操作』が必要じゃが?>
「できへん。けど、『見守る』がある」
<うん?>
「チラ兄ィに通信を」
カンカンカン・・・!
壁が打ち鳴らされる音がつづく。
清雅、走る。
すぐ前を、タコが飛ぶ。おふくろさんが操作するタコである。その案内で、手近な爆鬼槍に到達した。
「清雅様!? ダメでござる! ここは!」
壁叩いとるコボルドが、飛び上がった。
「逃げてくだされ! 危険でござる。爆鬼でござる」
「心配御無用。そのために来たんや」
清雅。コボルドをなだめる。お気に入りの『魔泉の杖』を取り出した。
「どうなさるおつもりで!?」
「こうするんや──チラ兄ィ、おふくろさん。『見守る』やって!」
ブンブ ー ン ・・・。タコ、上下した。
<えっと・・・『恩寵』のルーン、『見守る』! ママに、『見守る』を与える>
離れた所に居るチラーニが、そう唱え・・・
<同じく、『見守る』。清雅に『呪文破壊』と『粒子操作』を与える>
やはり清雅からは少し離れた、本塔側のおふくろさんが、そう唱え・・・
「よっしゃ!」
清雅が、自信たっぷりにうなずいたかと思うと・・・
知識がないハズの、ルーン魔術の呪文を、唱え始めた!
「文字よ欠けよ、文よ乱れよ、呪文よ崩壊せよ──『呪文破壊』。
封じ込まれた対の粒、いまこのままに、凍りつけ──『粒子操作・凍結』」
「・・・どうなったんでござるか?」
「・・・成功や」
「なんと?」
「コイツはもう爆発せえへん。見張り頼む。おふくろさん来るまで、誰にも、指一本、さわらせんな」
「りょ、了解! 指一本触れず、見張っとくでござる!」
清雅は立ち上がった。
「チラ兄ィ、ママさん、行けますわ! ドリノンにもやったって! 手数増やして!」
ブンブ ー ン ・・・。
タコ上下。そして、飛び始める。次の被害地点へ。
清雅は後を追う。
走りながら、つぶやいた。「問題は、ハズレの方や・・・」
しばし後。
岩山と岩山の間に、凄まじい大爆発が噴き上がった。
降りしきる黒雨が、消えた。
──いや、吹き飛ばされたのだ。下から上に、重力に逆らって。
半径1里どころか、2里・3里にも渡って。
硬い岩の峰がヒビ割れ、折れる。
岩の破片が天まで舞い上がり・・・・・・・・・、巨大な雨となって降ってくる。
そのような大爆発である。
遠く離れたところから見れば、天空から黒い山が生えたように見えたであろう。
空に向かって広がる巨大な三角錘が、このとき、幽雲洞の近くに生まれたのである。
だがそれも、一瞬のこと。
次にその山は収縮し、うねくる巨大な竜となって、天を脅かした。
雨雲を吹き飛ばしてキノコ雲となり・・・・・・・・・、最後は、雨雲と混ざり合って、叩きつけるような豪雨をもたらした。
弐ノ塔の居った岩山は、完全に、呑み込まれた。
土砂降りであった黒雨に、岩が混ざる。
チラーニは急斜面に張りついて、落下物を避ける。ドカドカ降り注ぐ岩が、彼の膝まで降り積もった。
腕を上げ、膝をついて、乗り手を守る姿勢を取ったチラーニ。その腕に岩がブチ当たり、装甲がボロボロになる。
トンボも緊急着陸。崖の上で防御姿勢を取った。
神竜甲は岩を弾き返したが、その衝撃は、片膝ついた状態でも、鬼体が大きく揺れるほどであった。
「お・・・おふくろ。おふくろっ!! 清雅!! 再鬼どん!!」
ソラトバンは通信に呼びかける。
応答はない。
<しばし待て>と、トンボどん。<空気が良くない。通信ができん状態じゃ>
そして。
片膝をついて見守るトンボの、黒い雨に汚れた覗き窓を通して・・・
崩れかけの岩山の向こう・・・
泥沼のごとき空気の中から・・・
黒く汚れた連塔が、現れた。
穴が空き、凹み、塔の一部は大きく欠けて、内部の構造が見える状態。
だが、浮いてはおる。塔の数も、足りておる。
「おふくろ! おふくろ!」
<こち──ザザッ──くろ。ザザッ──生存者h──ザザッ──告せよ>
「おふくろ! おふくろか? 無事か!?」
<チラーニ・チ──ザザッ──ミドラーニ、負傷なし>
<ザザッ──鬼・数鬼・乗駆鬼、負傷なしや>
「お・・・おお! トンボ・ソラトバン、負傷なしじゃ」
<了解。死者はナシじゃな>
と、弐ノ塔。
<こちらは負傷者多数。塔が激しk──ザザッ──損傷もある。じゃが、飛行は可能。退避先を選定中じゃ>
弐ノ塔は。
死の砲撃を、乗り切ったようであった。
「いったいどうなったんじゃ?」
<塔に刺さった槍は、対処した。じゃが・・・>
と、おふくろさん。
<・・・谷底に落ちた槍がな。『力の筒探索』も届かん、数も不明で、逃げるしかなかった>
「この爆発は、ハズレの槍の分か」
<そうじゃ>
<凹ミ多数>
「おう。ドリナラーニどんも、負傷したか」
<それにしてもじゃ>
「なんじゃ」
<タダで筒が手に入ったぞ。幽雲に売りつけるか>
「冗談言うとる場合か」
ソラトバン、涙が出るほどホッとした。
「しかし・・・そんな簡単に対処できるんなら、教えてくれ。トンボどんも、その方法で」
<簡単やない>
「清雅! 無事か?」
<タンコブできた>
「おお・・・」
<簡単やないねん。チラ兄ィには、かなり負担になったハズや。どう?>
<つかれたね~・・・>
「そうか。ほで、どうやったんじゃ?」
<それはな、>
「それは?」
<次回のお楽しみや!>