ソラトバン、鬼械人   作:min(みならい)

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弐ノ塔、砲撃さる!

◆ 65、ヤドカリチャリオット vs 対鬼ナンガラック ◆

 

 ヤドカリチャリオットが、大地を走る。

 巨大な爪で地を掻いて、大きな2輪の車を引いて、黒雨の中を、突っ走る。

 2輪の戦車に立っておるのは・・・

 オーガの戦士。

 身の丈10尺。

 生身の巨人である。

 鋼鉄の黒鎧に身を包んで・・・

 黒雨を弾いて、走る。

 黒々とした金棒を、軽々と担いで。

 ──その数、30台。2列の波となって、打ち寄せた。

 

 ドドォン! ドン、ドン、ドンドンドン・・・!

 オーガの後方。六腕ロボが、砲撃を開始した。

 

 ひょろろろろ・・・と、風を切って飛んだ砲弾。

 オーガを飛び越し、丘の中腹に着弾する。

 けむりだま! 白い煙がカーテンとなって、突撃を支援する。

 

 逆に、敵陣からは槍の束が降ってくる。

 丘の向こうから。曲線を描いて。

 帝国の蒸気械弩砲が放った、投げ槍の束であった。

 歩兵用の槍を束ねて、撃ち出す。空中でばらけて、槍の雨になるのだ。

 この槍に、オーガの1人が貫かれた。チャリオットから落ちる。人形のように、ゴロンゴロンと地面を転がった。

 残り、29台。

 ヤドカリチャリオットは、ひるまない。全力で走る。

 丘の麓(ふもと)に達した。

 斜面を這い登る。爪が地面をえぐり、ガキンと音を立てて石ころを噛み砕く。

 雨に、地面がぬかるみ始めた。ヤドカリの爪が、徐々に滑り始める。だが、登り切った。

 目の前に、防柵。

 木の杭を地面に撃ち込み、ワイヤーを張り巡らせたもの。対鬼械人用の巨大柵!

「私に任せよ!!!」

 1人のオーガが叫んで突出。金棒をヤドカリの頭の前に出して、ワイヤーに挑んだ。接触と同時に、金棒をカチ上げる。チャリオットが軋み(きしみ)、地面に腹をこすりつけた。車軸が歪んで、いまにも車輪が外れそう。

「ぬおお!!!」

 丸太の杭が、浮き上がった。ワイヤーがゆるむ。ヤドカリがその下をくぐり抜けた。

 しかし、オーガ自身はワイヤーに引っ掛かった。金棒もろとも弾かれ、ぐるんと回って地面に落ちる。

 同様にして、3つの穴をこじ開ける。

 残り、26台。

 チャリオットは、流れ込んだ。

 迎撃に出てきたのは、対鬼ナンガラック!

 前面ラメラー装甲、鎖鉤手(くさりかぎて)の、重装甲蒸気械人!

 全部で12鬼。すべて精鋭であった。

「鬼どもめ! 通さん!」

 握りと鐙(あぶみ)で巧みに巨体を操り、鎖鉤手を横薙ぎにブン回してくる。

 オーガの胴体ほどもある鉤手が、うなりを上げて地面を払う!

 地上ほんの1尺ほどの高さを飛んできた鉤が、ヤドカリの前面の穴(足が生えとるとこ)を、引っ掛けた!

 釣り上げる!

 ヤドカリチャリオットの一本釣り!

「ヌワーーー!!!」

 高々と宙を舞うヤドカリ! こぼれ落ちるオーガ!

 さらに腕を振り回すナンガラック。 

 鉤から逃れる術のないヤドカリ。哀れグルングルン振り回されて・・・味方ヤドカリに、激突!

 ヤドカリの甲羅砕け、オーガは声もなく、黒く濡れた地面に果てる。

 さらに、後続のオーガがそれを避けようとして、横転した。

 残り、23台。

 ナンガラックの足元に、肉迫する。

 狙うは、足首。スネと足の角度を制御する、2本の魔蒸気筒。

 金棒で、ブッ叩く!

 爆発!

 筒が破裂し、蒸気が噴出する。

 足首の力が抜けたナンガラック、自重を支え切れず、倒れる!

 だが倒れざまに腕を伸ばし、通り過ぎるオーガを道連れにした!

 残り、22台。

 黒い雨は降り続く。

 地面はどんどんぬかるんでゆく。

 ヤドカリは動き回るが・・・その速度は、落ちてゆく。

 ナンガラックは、大差なし。もともと待ち受ける側であり、走り回る必要がないからだ。

 さらに。

 敵味方入り乱れる戦場に、槍の束が降ってくる。

 ただの投げ槍であってみれば、ナンガラックには何の害もない。だがオーガには命取りとなる。

 乱戦のうちに、3台のオーガが槍にやられた。

 残りはついに20台を割って、19台・・・

 

「──ぬう!! 不覚!!!」

 乗駆鬼(ジョッキー)というオーガ。

 泥まみれで、立ち上がった。

 彼。

 先ほどチャリオットから転落して、徒歩になっておった。

「無理を言うて乗せてもろうたのに・・・これでは、格好がつかぬ!! 手柄を立てねば!!」

 目の前に、蒸気械人の背中があった。

 攻撃中であった。

 右手の鎖鉤手を伸ばし・・・

 バランスを取るために、左手を、こっちへ突き出してきた。

 鉤手が、ぶらーん・・・と・・・

 乗駆鬼の目の前に、やってきた。

「チャンスじゃ! そーれ!!!」

 

 乗駆鬼は、飛びついた!

 

◆ 66、乗駆鬼、乗り手となる ◆

 

 鉤手から、腕へとジャンプ! しがみつく!

 動きが止まるのを待って・・・

 よじ登る!

 肘へ! 肩へ!

 魔蒸気筒に、手が潰されそうになる──

 関節部に、足が巻き込まれそうになる──

 そんな危険を・・・

 若い身体の反射と、一瞬先を読む勘と、幸運によって、乗り越えて・・・

 乗駆鬼は、やり遂げた!

 肩から乗り込み口に、飛び移ったんである!

 ナンガラックのハッチは、左側面にある。

 ハシゴで登らねばならんほど高い位置だが。

 この屈強なオーガの若者は、腕をよじ登って、そこまで行ったんである!

「ようし!!」

 乗駆鬼。

 ハッチを、引き開けた。

「え?」

 乗り手、驚愕である。

 その首根っ子を、引っ掴み・・・

「このナンガラック!! 撃竜界・乗駆鬼が、頂くことにした!!!」

「ぐえっ」

 ・・・外へ、ブン投げた。

 ナンガラックが、停止した。

 帝国の蒸気械人は、乗り手が居らん状態では、動くことができんのだ。

 加えて、乗り手を見分けて操作を拒絶することも、できぬ。

 だからして・・・

「さあ、ゆくぞ!」

 ・・・乗駆鬼は、ナンガラックを、駆ることができた!

 土砂降りの黒雨。

 覗き窓から、吹き込んでくる。

「ガラスぐらい付けんか。野蛮な人間どもめ!」

 六腕ロボとくらべて、あまりにも野蛮。

 あまりにも、ローテク。

「こんなヘッポコ鬼械人で、よくも我が撃竜界を落としたな。逆に感心するわ!!」

 

 さて。

 乗駆鬼がこうして、ナンガラックを奪っておるあいだに。

 戦闘は、一段落しておった。

 ヤドカリが、ナンガラックの足元を駆け抜けて、距離が開いたのだ。

「・・・弩砲を狙いに行くのか?」

 乗駆鬼は、そう理解した。

「損害が大きすぎるようだが。幽雲洞があきらめん以上、私が逃げるワケにも行かんな!!」

 というわけで。

 少し距離を開けて、ついていった。

 やがて。

 機会が訪れた。

 第二の丘で、ヤドカリチャリオット部隊が、ナンガラックに追いつかれたのだ。

 理由は、第二の丘に仕掛けられた罠であった・・・

 

「丸太落とせ!」

「おう!」

 敵歩兵が、丘の頂上にまとめてあった丸太の、ロープを切った。

 丸太が・・・

 急斜面を・・・

 転がり落ちてきた!

 ヤドカリ先頭の3台が弾き飛ばされ、後続5台が押し戻されて、転倒。

 残り、11台。

 前は急な上り坂。後ろはナンガラック。

 絶体絶命である。

 

「よし!! ここじゃ!!」

 乗駆鬼、動く。

 こちらに背を向けとるナンガラックに・・・

 左右の鉤手を、振り下ろした!

 右の鉤手、クリティカルヒット! ナンガラック背面の中央蓄熱塔に、突き刺さる! 爆発炎上!!

 左の鉤手、カスヒット。腰の部分にある回廊みたいなとこに、引っ掛かった。

「戦功頂き!! そーーーれ!!」

 握りを引っ張る。ナンガラックが、鎖鉤手を引っ張った。

 敵はバランスを崩し、こちらに傾いてきた。

 乗駆鬼は、自鬼の上半身をグルッと回転させて、倒れてくる相手をいなす。

 

 ドンバッチャーーーン・・・!

 仰向けに倒れる音が、爆発炎上の音に重なって聞こえた。

 

「あと、6鬼!!! 皆殺しにしてくれる!!!」

 初めて乗るナンガラックでの、格闘戦。

 すでに乗駆鬼は汗だくであった。

 次のナンガラックの中央蓄熱塔を狙うが──

 敵は、精鋭!

 いま爆発が起きた、その直後にはすでに、半数がこちらを振り向いておった。

 速すぎて、乗駆鬼の第二撃が間に合わぬ。

 鉤手を振り下ろすが・・・

 敵が振り上げた鉤手に、ブロックされた!

 鉤手同士が、ガッチリ噛み合う!

 すかさず引っ張られた。態勢を崩されてしまう!

「ぬう!!」

 乗駆鬼。

 鬼械人戦闘の経験、皆無である。

 同じ鬼体で精鋭に勝つなど、無理な話であった。

「──ならば! 道連れにしてくれるわ!!!」

 残る左手で敵の膝を狙う。

 これも敵にブロックされたが・・・鉤手がブウンと回って、膝に噛みついてくれた。

 敵は膝をすくわれ、ズッこける。乗駆鬼はその上に、浴びせ倒しの形で、一緒にコケた。

 

 ドゴッガキョオオン・・・ォゴォォーン!!

 もんのすごい音を立てて、ナンガラックが2鬼、泥中に転がる。

 

「ぬごっ!!!」

 まことに愚かなことに・・・

 ベルトをしておらなんだ、乗駆鬼は・・・

 座席から放り出され、覗き窓付近の壁に、叩きつけられた。

 

 そして、意識を失ってしもうたのであった。

 

◆ 67、上空のソラトバン ◆

 

「ムチャクチャになっとる・・・」

 下界を見下ろすソラトバン。

 ヤドカリチャリオット隊の苦戦を見て、ため息をついた。

 そこに通信が入る。

<こちらチラーニ・チーニャ。いま到着した。戦場の南西に降下する。状況どうだ?>

「ヤドカリが不利じゃ。2つ目の丘で足止めされて、ナンガラックに背中から殴られとる」

<回り込んでる部隊はいるか? 側面から近付くような姿は>

「ない」

<了解>

 トンボは、攻撃塔の屋上である。手出しはしておらぬ。

 浮鬼も同じ。2鬼揃って、見とるだけである。

「・・・。」

<克鬼(コッキ)閣下は、爆鬼が来ると見てる>

「・・・ふむ」

<そのときのために、切り札は置いておく、という考えだ>

「トンボどんは、切り札か」

<最高速のな>

「なるほど」

 納得したような、もどかしいような。

 歯痒さ(はがゆさ)に、ソラトバンが耐えておると・・・

<こちらチラーニ・ウミドラーニでござる。敵弩砲、移動中。砲撃をやめて、後退してござる>

 と、通信が入った。

 

 海鳥型鬼械人・ウミドラーニ。

 彼、今回、チラーニに乗っておる。背の手席。タコ操作担当なのだ。

 

「ナンガラックもじゃな。背中向けて逃げ出したぞ」

 ヤドカリが追撃する。1鬼倒し、2鬼沈め──結局、ナンガラック3鬼を仕留めた。

 オーガどもは、停止。勝鬨(かちどき)を上げたようである。

「勝ったか」

<みんな、油断するな。ここからだぞ>

「ここから?」

<脆すぎる(もろすぎる)。敵陣に、何か仕掛けがあると見た>

 

◆ 68、敵陣に、筒あり ◆

 

「敵陣には近付くな!! 負傷者を六腕ロボへ!!!」

 ヤドカリ隊長が、もんのすごい大声で、仲間に指示をする。

 円を描いて走り回り、部隊をまとめる。乗り手を失ったヤドカリも、自分の判断で集まってきた。

「敵ナンガラック乗りに注意せえ!! ルーン魔術を撃とうとしたら、殺せ!!!」

 隊伍を組み直したところに、死傷者の報告が上がってくる。

「──撃竜界の若殿が、行方不明じゃと?」

「はい。仲間の転倒に巻き込まれ・・・その後、行方知れずに」

「・・・そうか」

 つづいて、ゴブリンの一班が駆け寄ってきた。

「ゴブリン偵察、ここにあり!」

「うむ!! 敵陣を調べよ。『力の筒』があったら、この砲を空に撃て!」

「了解!」

 ゴブリン偵察隊。

 第二の丘に向かった。

 急斜面をヒョイヒョイとハネ上がり、広く散開して、敵陣に入る。

 極めて簡易な野戦陣地であった。

 木の樽と箱が積み上げられておる。丸太とワイヤーの防柵が張り巡らされておる。

 それだけ。

 テント、ナシ。鬼械人の整備スペース、ナシ。

「バッツワーノ隊は、足が速いと聞くが・・・なるほど、速度優先の陣じゃな」

 偵察隊長は、陣地を見回して。

「樽(たる)、箱、袋! すべて開けて、中を確認せよ! 爆鬼があるかも知れん!」

 と、命令した。

「足元にも目を配るんじゃ! 爆鬼が埋めてあるかもわからんぞ!」

 ゴブリン偵察、陣地に散らばる。

 そして、すぐに。

「『力の筒』、発見! こちらの樽に、筒1本あり!! 爆鬼の恐れ!! 爆鬼の恐れ!!」

 隊長、駆け寄る。

 樽の中を覗く。

 『力の筒』。

 トンボ型。八角柱で覆われたタイプ。

「退却ッ!! たいきゃーーーく!!」

 偵察隊長、絶叫。

 手に持った砲を、空に向けて撃つ。

 

 ドパン! ヒョロロロロ・・・・・・・・・ドーーーン・・・!

 鋭い風切り音の後で、赤いけむりだまが、空に広がった。

 

 ゴブリン偵察、丘を下る。

 ヤドカリ部隊のところへ戻ると、オーガたちが手を伸ばして、ヤドカリへ引っ張り上げてくれた。

「敵陣に、筒あり! 爆鬼の恐れ!!」

「退却じゃあ!!!」

 ヤドカリ部隊は、疾走した。

 黒い雨の中、ぬかるむ地面を掻き回して。

 回収できただけの負傷者と、ゴブリン偵察を連れて・・・

 だが、死者と行方不明者を探す余裕はないままに。

 

 それから、ほんの少し後。

 

 バタン。

 横転したナンガラックのハッチが、ハネ上げられた。

 

 にょっきり。

 凹んだ兜が、顔を出す。

「・・・見えぬ」

 兜を脱ぐ。出てきた顔は。

 乗駆鬼というオーガの、デカいツラであった。

 周囲を見回して・・・

「誰も、居らぬ」

 天を向いたハッチから、外に出る。

「戦闘は、終わったのか?」

 黒い雨降る空見れば、細い塔が飛んでおる。

「・・・フン。ええ御身分だのう。人の生き死にを、空から見下ろして」

 

◆ 69、第二の爆鬼 ◆

 

<こちらチーニャ。全員、下がれ! 爆鬼警報だ! 赤いけむりだまは、爆鬼警報! 下がれ、下がれ!>

<こちらおふくろ。第一攻撃塔、後退する。トンボ、浮鬼、捕まっとれよ>

「了解じゃ! ・・・んん!?」

 

 攻撃塔が動き始める瞬間。

 ソラトバンの『鷹の目』が、クリティカルな情報を発見した。

 

「乗駆鬼じゃ。ナンガラックから出てきた」

 攻撃塔が動き始めた。

「待っ──いや、ええわ! そのまま退却してくれ。トンボどん、降りるぞ!」

 ソラトバン、握りと鐙を操作する。

<おい、待たんか>

 トンボどんは文句を言うたが、操作には従った。

 攻撃塔から手を離して、空中へ。攻撃塔がフワッと浮き上がる。

<なんじゃ? 何をした>

「乗駆鬼が取り残されとんじゃ! 拾いにゆく。おふくろはそのまま逃げろ!」

<またか!>チーニャがキレる。<オマエってヤツは!>

「いや、わしのせいじゃ──ぐえっ」

 トンボどん、急加速。

 もんのすごい加速である。これまでに体験した最強のよりも、さらに一段上の加速であった。

 乗り手甲が首を支えてくれるが・・・それでも、苦しい。視界が暗くなる。血の気が引く。

 かと思うと、次は急減速である。身体が一気に前にすべる。手足を突っ張るが、こらえきれん。身体が座席に吊られる形となる。

「ほげえ・・・」

 

 ズドーン!!

 地面に突き刺さるように、トンボどんが着地した。

 

 ナンガラックは、目の前。

 乗駆鬼がビビっとる。

≪爆鬼じゃ! 乗れ!≫

 トンボどんが自分でしゃべった。手を出す。

 乗駆鬼は一瞬「えっ?」となった。

 だが、直後に、跳んだ。ナンガラックのボディから、トンボの手へ。

 手の指にしがみつき、凹んだ兜をかぶり直す。

「ええぞ!!! 飛んでくれい!!!」

≪おう!≫

 トンボは、泥を蹴って走り、背中の四枚羽をぶーん・・・とうならせ・・・

 低空飛行を開始した。

 上昇はしない。地形を這うように飛ぶ。

 左へ、わずかに舵を切る。直後、ヤドカリ部隊が右後方へすっ飛んでいった。

 

 そして。

 

 敵陣で、爆鬼が炸裂した。

 第二の丘を砕き、逃げおくれたナンガラックを溶かし、第一の丘を削り・・・

 爆風が広がる。

 黒い泥の壁が押し寄せて・・・・・・・・・引き波となって戻ってゆく!

 竜巻がねじり上がり、キノコ雲が雨天を貫く。

 

 トンボは、逃げ切った。

 攻撃塔に着陸する。乗駆鬼も無事であった。

 

 ・・・だが、追い抜いたヤドカリ部隊の姿は、地上のどこにも、なくなっておった。

 

◆ 70、バッツワーノのひとりごと ◆

 

「・・・よし!」

 バッツワーノは、快哉(かいさい)を叫ぶ。

「ここからが、勝負だ」

 

 彼はいま、赤い色した鬼械人の肩に乗っておった。

 ピンガデオスではない。ナンガラックでもない。

 ずんぐりむっくりとしたボディ。

 長い腕。

 おでこに第三の眼のような宝石がついておる。

 両肩には、肩砲。帝国式には見られない装備。それも、上下二連。

 ──六腕ロボであった。

 

 森の中。

 他の鬼械人の姿はない。六腕ロボ、単鬼である。

 

「・・・あれが、『力の筒』の爆鬼ですか」

 足元から女の声がした。

 バッツワーノは、下をジロッと見た。

 ハッチから顔を出しとるのは、オーガの女。鬼術師──奴隷のレイサーネであった。

「そうだ。幽雲洞のオーガ部隊は、いまので全滅だ!」

「・・・そうですか」

「席に戻れ。間もなく移動だ」

「はい」

 レイサーネ、引っ込む。

 バッツワーノ、短い杖を取り出す。『魔泉の杖』。

 空飛ぶ塔を睨む。その上にいるトンボを。

「キルも、ルクジッコも、やられたようだが・・・今日は、そうは行かん」

 つぶやきつつ・・・

 巻物を取り出した。

 羊皮紙のスクロール。

 片手で器用にそれを開く。

「悪いクセだぞ、キル、敵を見下すのは。トンボの肘の焼け跡は、おまえか? ルクジッコ、惜しかったな・・・」

 

 情報は、伝わっておらぬ。キルビンナックとルクジッコの敗北の知らせは。

 だが、トンボの姿を見ればわかることであった。

 バッツワーノは首を振って、長い独り言をつぶやいた。

 

 「あの森が、分かれ目であった。

  あそこでトンボを失ったことが、俺たちの。

  そして──このショラン・ギサンチは、帝国の分かれ目となるだろう。

  愚かな首都よ。

  俺は、もはや、貴様らに何の期待もせぬ。

  報告もせぬ。指示も聞かぬ。許しも乞わぬ。

  俺のやりたいことをする。

  空飛ぶ塔を落とし、幽雲洞をひれ伏させ、貴様らを皆殺しにして──

  鬼械人の力で、この世を支配する!

  それが俺のやりたいことだ」

 

 そして。

「・・・使わせてもらうぞ、ルクジッコ」

 巻物の文面に、杖を当てる。

 ルクジッコの遺品を、バッツワーノは使った。

 

「魔術を究めた博士の御霊よ。炎となって蘇れ。魔力を肉に、ふたたびこの世に現れよ──『霊炎再燃』」

 

 ゴウッ・・・!

 青白い炎が渦巻いた。バッツワーノの眼前に、亡霊のごとき姿が浮かび上がる。

 

 宙に浮かぶ青炎。雨が蒸気となって立ちのぼる。

 バッツワーノは『力の筒』を差し出した。「暴走の手順は?」

「承知している」青い炎の亡霊は、筒を受け取った。「標的は?」

「あの塔の上にいる。四枚羽の、黄金の鬼械人」

「撃竜界の、トンボ」

「その通りだ」

「承知した。大物だな」

「この『魔泉の杖』も使え。残り少ないが、使い捨ててかまわぬ」

「ありがたく」

「ゆけ。ルクジッコの最良の友よ。オーガの英雄を、冥界へ送り返してやれ!」

「必ずや」

 『魔泉の杖』を左手に、『力の筒』を右手に・・・

 霊炎魔は、舞い上がった。

 森の上空に出て・・・

「ここを、そこにする──『空間転送』」

 ・・・テレポートした。

 

 攻撃塔の上。

 伏せておるトンボの、真上に。

 

◆ 71、爆鬼霊炎魔 ◆

 

<ソラっ! 上やっ!>

「!!!」

 

 数鬼の声。

 ソラトバン、即座に反応。

 左握りを、外回りに、手前へ回し引く。

 トンボは。

 左手で、背後・上空をチョップした!

 

 バン。

 ・・・軽い衝突音がした。

 

<ソラ、どうした>

 チーニャの声が響いたときには。

 トンボの左チョップが、背後に出現した霊炎魔を打ち砕いておった。

 だがまだ、決着ではない。

「爆ッ・・・鬼ッ!!」

 ソラトバンは、叫んだ。

 急激にねじれる鬼体の中で・・・

 かろうじて、覗き窓から目を離さず・・・

 クルクルと宙に飛んだ、筒を、見逃さず・・・

 右握りで、その方向を、トンボに示した。

 トンボが塔の屋上を蹴る。空中に飛び出した。回転する筒を掴む。筒はすでに、白く光っておる。

 

 ドゴン!

 トンボの右肩、一寸砲が火を噴いた。

 徹甲弾が射出され、八角柱をした粒子封入筒に激突。穴を開けた。

 筒にかかっておった魔術──『粒子操作』の呪文が停止。

 対消滅反応を始めていた粒子と反粒子のうち、反粒子が速やかに崩壊、この世から姿を消した。

 反応は、もはや、起こり得なくなった。

 

 じゅっ!

 ・・・と、雨を蒸発させる音がした。それだけであった。

 

「す・・・数鬼どん! 感謝するぞ。いまのは、危ないトコロじゃった!」

 ソラトバン。汗を拭う。

「こちらトンボ・ソラトバン。霊炎魔に不意打ちされた。爆鬼つきじゃ」

<なに?>とチーニャ。

「前回やられたオバケじゃ。今回は、爆鬼持って来よった」

<ハイエルフの博士級の転送呪文じゃ>と、トンボどん。<視界内・距離無制限で飛んでくるんじゃ>

<距離無制限ですか?>

<そうじゃ。こちらの姿が見えておれば、どんな遠くからでも転送できる>

<了解。ソラは攻撃塔から離れろ。敵を探せ。浮鬼はそのまま。速度の低い浮上筒では、危険な相手だ>

「了解じゃ!」

 

 トンボ、ふたたび空へ。

 攻撃塔は、逃げた。

 なお、その攻撃塔にしがみつく、浮鬼の中では・・・

「狭い」

 ・・・と、数鬼が文句を言うておった。

「すまぬ」

 謝ったのは、乗駆鬼である。

 オーガの身体。デカすぎて、隣の数鬼を席から弾き出しそうになっておる。

 また、手足も長すぎて、前の席の正鬼を押し潰すみたいにもなっておる。

「手足、収めれんか?」

「無理じゃ・・・」

「そうか・・・」

 ただでさえ苦しい、うつ伏せ移動に、さらに面倒が増した正鬼と数鬼であった。

 

◆ 72、爆鬼砲、出撃命令 ◆

 

「・・・かわしやがった!」

 バッツワーノは、望遠鏡を下ろした。

「本当に素人なのか? オイ! ソラトバンよ!」

 羊皮紙の巻物を投げ捨てる。

 黒く焦げた文面。もはや読むことはできぬ。一発限りの、使い捨ての巻物なのだ。

「だが、『次』を恐れんワケには行くまい?」

 

 この一発限りで、霊炎魔は打ち止め──という事実は、弐ノ塔にはわからぬ。

 第二・第三の霊炎魔を警戒せざるを得ぬ。

 その結果。

 弐ノ塔は、岩山の向こうへ退却した。

 太陽が沈むがごとく、岩山と岩山の間に、身を沈めたのである。

 

「よし、よし! 運が向いてきた」

 バッツワーノは、笑った。

「『空飛ぶ塔』を落とす日が来たぞ!」

 そして。

 ヒラリと、ハッチに飛び込んだ。

「ひぇぇ」レイサーネが悲鳴を上げる。

「動くぞ。通信開け」

「はいな」<・・・はいよ>

「こちら、バッツワーノ。我が部下よ──勇敢なる蒸気械人どもよ!」

「・・・!」レイサーネが眉を上げた。

「おまえたち、爆鬼砲の出番だ。1から3号。全鬼出撃。作戦通り、空飛ぶ塔を攻撃せよ!」

<爆鬼砲1、了解><爆鬼砲2、了解><爆鬼砲3、了解>

 ぎこちない発音で、3人──3鬼の、返答があった。

「よろしい。ゆけ! 我らが蒸気械人よ! 神話の亡霊を駆逐せよ! 新たな時代の礎(いしずえ)となるのだ」

 通信終わり。

 バッツワーノは右弓手席に着いた。

「幽雲洞に接近しろ。森からは、出るなよ」

「・・・はい」

 レイサーネ。

 鐙を踏み込み、六腕ロボを歩かせる。

 浮上筒を起動して、半分宙に浮いた状態での移動である。なめらかで、軽い。

「コイツを鹵獲(ろかく)できたのは幸運だったが、」

 バッツワーノはパイプを取り出した。

 咥えた。咥えただけである。火はつけない。

「──おまえが乗り手だったのも、幸運だったな? ええ?」

「乗り手やありません。子供ン時に、乗って遊んどっただけです」

「鬼械人のことなど、知らんと言ってたよな」

「ホンマです。筒の仕組みとかは何も知りません。ウチがわかるん、コレとコレだけ」

 レイサーネは握りと鐙を示した。

「退役した六腕ロボに子供が乗るんは、撃竜界では普通なんです。そやけど、仕組みは部外秘で」

「それも初耳だぜ?」

「・・・。」

「フンw 女狐(めぎつね)め。よく裏切らずについて来たもんだ」

「そらもう・・・」

 

 六腕ロボは、森の中を滑走した。

 そして。

 

「止めろ」

 バッツワーノが、席を立った。

 背負い袋を持ち上げる。ゴツン、ゴツン。金属の筒がぶつかる音がした。

「・・・筒ですか?」

「・・・。」

「まさか、自爆する気ですか? ちょ!」レイサーネは取り乱した。「イヤですよ!? 私! 巻き添え処刑は!」

「ガタガタうるせえ。俺が戻るまで、ここで待ってろ」

「戻るまでて、いつまでです?」

「戻るまでだ」バッツワーノは、ハッチを開けた。

「戻らへんかったら?」

「ずっと待ってろ」飛び降りる。「オーガにでも見つけてもらえ! そのほうが、得だろ?」

 

 バッツワーノは。

 断崖に向かって、歩み去った。

 ──幽雲洞の入り口のある、断崖に向かって。

 

<・・・なあ>六腕ロボが口を開いた。

「なに?」

 ハッチにもたれたレイサーネ。ため息混じりに、反応。

<帝国軍人は、鬼械人とはしゃべらんと聞いたんやが>

「普通はそうよ」

<そやんな>

 沈黙。

<・・・なあ>

「なに?」

<さっきのん、『逃げてもええぞ』っちゅう意味に聞こえたんやが>

「そやね」

<そやろ>

「けど、ウチだけ逃げてもなぁ・・・」

<人質か>

「一人息子がね。帝国の『養子』にされとんねん」

<ほな、逃げられへんやないか>

「そうなんよね・・・」

 

◆ 73、弐ノ塔、砲撃さる! ◆

 

 幽雲洞の北西。

 岩山にて。

 低く伏せていた蒸気械弩砲が、1鬼。4本の足を動かして、立ち上がった。

 同じ岩山の、離れた地点で、1鬼。

 さらにまた、離れた地点で、1鬼。

 合計3鬼の蒸気械弩砲が、同時に立ち上がり、歩き始めた。

 険しい岩山を、斜めになって、歩く。

 空から降りてくる、3連の塔に向かって。

 本塔、飛行塔、攻撃塔──清雅たちが乗る弐ノ塔の本体に、攻撃を仕掛けるために。

 

 これを発見したのは、ウミドラーニであった。

 岩山に身を隠したチラーニから、3機のタコを広範囲に飛ばしておったウミドラーニ。

 うち1機。弐ノ塔の退却スペースを監視しとったタコが、弩砲を発見したのだ。

 

<本塔付近に、危険な弩砲を発見したでござる!>

「なに?」チーニャが半分だけ振り向く。

<装填中の矢玉に、『力の筒』がくっついてござる。爆鬼砲弾の疑いあり>

「映像出せ」

 チーニャの手元の『タコ千里玉』に、映像が出た。

 蒸気械弩砲。崖っぷちを斜めになって歩いておる。あたかも、クモが壁を這うがごとし。

 弩砲には、大きな槍がセット済みであるが・・・その槍の、根元に。

 

 『力の筒』。

 

「チラーニ、ママに警告! 『爆鬼弩砲が接近中』だ。詳細はおまえが伝えろ。ソラに通信ひらけ!」

<開いた>

「こちらチーニャ。ソラ、本塔付近に弩砲が現れた。爆鬼を、撃つつもりのようだ」

<なんじゃと!?>

「本塔に向かえ。弩砲を撃ち抜け! ウミドラーニ、位置送れ」

<送ったでござる>

<受け取った>と、トンボ。<急行する!>

 

「ぬ、ぬ、ぬ・・・」

 加速。

 ソラトバンの首と背中が、軋む(きしむ)。

 耐えながら、タコ千里玉を睨む。

 チラーニ側と同じ映像。岩壁を這い進む、弩砲の姿。

「本塔は・・・どうしとんじゃ」

<ドリナラーニが迎撃態勢じゃが、射線が通らんらしい>

「こっちは、撃てるか?」

<空中では無理じゃが。着艦して撃つわい>

「よし」

 ソラトバン、少し落ち着く。

 なんといっても、こちらには列電魔旋砲がある。

 1鬼だけなら、対処できる──との、自信があった。

 

「・・・1鬼だけか?」

 

 ソラトバン、予感する。

 予感──いや、これは、類推(るいすい)。

 

「チーニャに通信」

<開いたぞ>

「チーニャ。1鬼だけとは思えん。エッサーミヤと同じなら、3鬼は居るぞ!」

<わかった、ママに伝える>

<着艦するぞ!>

 トンボはそう言うや否や、急減速した。頭を起こし、腰の後ろの列電魔旋砲を取り外す。

 ソラトバンの肩に、ズシリと慣性が乗る。

 

 ガキィィン・・・!

 トンボの足が、攻撃塔の屋上を捉えた。着艦。

 

 左足で屋上を、右足で壁を踏むという、斜めの着地姿勢。

 壁に立つがごとき姿勢を、背の羽うならせ、わずかな時間だけ、維持する。

 その寸秒のうちに・・・

 列電魔旋砲を構えて・・・

 

 ドッ・・・・・・ゴォォォン!!!

 ブッ放した。

 

 ソラトバンの耳が、遠くなる。

 やはり、ダメか。耳がやられたか。と、思ったが・・・

<・・・弩砲1、仕留めたぞ!>

 トンボどんの声が聞こえてきた。

 いける。乗り手甲のおかげで、耳は大丈夫のようである。

 タコ千里玉を確認。

 蒸気械弩砲が、バラバラになって、谷底へ落ちてゆくところであった。

<こちらおふくろ。2鬼目を発見した。また、さらに別の方向から、射撃を受けておる>

「やはり、3鬼か!」

<そのようじゃ。2鬼目はドリナラーニに撃たす。3鬼目を頼む。位置送る>

<もらった>

 トンボ、1発でカラになった『力の筒』を取り外し、屋上の薬莢(やっきょう)入れに突っ込む。

 砲弾ケースから新品の『力の筒』を引っこ抜き、砲にセット。

<離艦する!>

 屋上を蹴って、空中へ。加速しながら砲弾を装填。これで発砲可能となった。

 入れ違いに槍が飛んできて・・・飛行塔に突き刺さった!

「あっ! 槍が」

 ソラトバン、思わず握りを引いてしもうたが・・・

<撃墜が先じゃ>

 ・・・トンボは、その操作を黙殺した。

 舞い降りる。

 眼下には、砲撃をくり返す弩砲が居る。

 岩肌に強引に着地! 衝撃に耐えかねて岩が崩れる。トンボは意に介さず、砲撃姿勢を取った。

 弩砲はこちらを見向きもせず、弐ノ塔への砲撃を続けておる。

 

 ドッゴォォォン!!!

 トンボは、その弩砲を脳天から貫いて、粉砕した。

 

「こちらソラトバン。3鬼目は潰した」

<了解>と、おふくろさん。<後はこちらでやる。戦場に戻れ>

「じゃが・・・」

<命令じゃ。戦場へ戻れ>

「・・・了解じゃ」

 トンボは岩を蹴った。ふたたび空中の巨人となる。

「わしらだけでも逃がす──とか、そんなんじゃったら、恨むぞ」

<弐ノ塔を信じろ>

 トンボはそう答えた。

<あれァ、神竜戦の経験者じゃ。ワシなんかより修羅場(しゅらば)踏んどるわ>

 

◆ 74、『見守る』 ◆

 

 さて、その弐ノ塔では。

 

「1本刺さったでござる!」

「こっちにも飛んできたでござる!!」

「ウワー! 槍が、槍が!」

 コボルドが、悲鳴を上げて逃げ惑っておった。

 

<修羅場じゃな>

 おふくろさんの、雑務ユニット。

 壁のホルダー(たいまつ差し込み口みたいなやつ)から、よっこらせ・・・と、這い出して。

 ふわ~ん・・・と、宙に浮いた。

≪砲弾を見つけたものは、付近の壁を叩いて知らせよ。私が対処するけぇ、触るな。壁を叩いて位置を知らせよ≫

 全艦放送で、指示をすると・・・

 

 カンカンカンカン・・・!

 あっちこっちで、壁を叩く音が鳴り始めた。

 

「弐ノ塔ママさん。私も手伝いますで」

 清雅が申し出てきた。

<『呪文破壊』と『粒子操作』が必要じゃが?>

「できへん。けど、『見守る』がある」

<うん?>

「チラ兄ィに通信を」

 

 カンカンカン・・・!

 壁が打ち鳴らされる音がつづく。

 

 清雅、走る。

 すぐ前を、タコが飛ぶ。おふくろさんが操作するタコである。その案内で、手近な爆鬼槍に到達した。

「清雅様!? ダメでござる! ここは!」

 壁叩いとるコボルドが、飛び上がった。

「逃げてくだされ! 危険でござる。爆鬼でござる」

「心配御無用。そのために来たんや」

 清雅。コボルドをなだめる。お気に入りの『魔泉の杖』を取り出した。

「どうなさるおつもりで!?」

「こうするんや──チラ兄ィ、おふくろさん。『見守る』やって!」

 ブンブ ー ン ・・・。タコ、上下した。

 

<えっと・・・『恩寵』のルーン、『見守る』! ママに、『見守る』を与える>

 離れた所に居るチラーニが、そう唱え・・・

 

<同じく、『見守る』。清雅に『呪文破壊』と『粒子操作』を与える>

 やはり清雅からは少し離れた、本塔側のおふくろさんが、そう唱え・・・

 

「よっしゃ!」

 清雅が、自信たっぷりにうなずいたかと思うと・・・

 知識がないハズの、ルーン魔術の呪文を、唱え始めた!

 

「文字よ欠けよ、文よ乱れよ、呪文よ崩壊せよ──『呪文破壊』。

 封じ込まれた対の粒、いまこのままに、凍りつけ──『粒子操作・凍結』」

 

「・・・どうなったんでござるか?」

「・・・成功や」

「なんと?」

「コイツはもう爆発せえへん。見張り頼む。おふくろさん来るまで、誰にも、指一本、さわらせんな」

「りょ、了解! 指一本触れず、見張っとくでござる!」

 清雅は立ち上がった。

「チラ兄ィ、ママさん、行けますわ! ドリノンにもやったって! 手数増やして!」

 ブンブ ー ン ・・・。

 タコ上下。そして、飛び始める。次の被害地点へ。

 清雅は後を追う。

 走りながら、つぶやいた。「問題は、ハズレの方や・・・」

 

 しばし後。

 

 岩山と岩山の間に、凄まじい大爆発が噴き上がった。

 

 降りしきる黒雨が、消えた。

 ──いや、吹き飛ばされたのだ。下から上に、重力に逆らって。

 半径1里どころか、2里・3里にも渡って。

 硬い岩の峰がヒビ割れ、折れる。

 岩の破片が天まで舞い上がり・・・・・・・・・、巨大な雨となって降ってくる。

 

 そのような大爆発である。

 

 遠く離れたところから見れば、天空から黒い山が生えたように見えたであろう。

 空に向かって広がる巨大な三角錘が、このとき、幽雲洞の近くに生まれたのである。

 だがそれも、一瞬のこと。

 次にその山は収縮し、うねくる巨大な竜となって、天を脅かした。

 雨雲を吹き飛ばしてキノコ雲となり・・・・・・・・・、最後は、雨雲と混ざり合って、叩きつけるような豪雨をもたらした。

 

 弐ノ塔の居った岩山は、完全に、呑み込まれた。

 土砂降りであった黒雨に、岩が混ざる。

 チラーニは急斜面に張りついて、落下物を避ける。ドカドカ降り注ぐ岩が、彼の膝まで降り積もった。

 腕を上げ、膝をついて、乗り手を守る姿勢を取ったチラーニ。その腕に岩がブチ当たり、装甲がボロボロになる。

 トンボも緊急着陸。崖の上で防御姿勢を取った。

 神竜甲は岩を弾き返したが、その衝撃は、片膝ついた状態でも、鬼体が大きく揺れるほどであった。

 

「お・・・おふくろ。おふくろっ!! 清雅!! 再鬼どん!!」

 ソラトバンは通信に呼びかける。

 応答はない。

<しばし待て>と、トンボどん。<空気が良くない。通信ができん状態じゃ>

 

 そして。

 

 片膝をついて見守るトンボの、黒い雨に汚れた覗き窓を通して・・・

 崩れかけの岩山の向こう・・・

 泥沼のごとき空気の中から・・・

 黒く汚れた連塔が、現れた。

 

 穴が空き、凹み、塔の一部は大きく欠けて、内部の構造が見える状態。

 だが、浮いてはおる。塔の数も、足りておる。

 

「おふくろ! おふくろ!」

<こち──ザザッ──くろ。ザザッ──生存者h──ザザッ──告せよ>

「おふくろ! おふくろか? 無事か!?」

<チラーニ・チ──ザザッ──ミドラーニ、負傷なし>

<ザザッ──鬼・数鬼・乗駆鬼、負傷なしや>

「お・・・おお! トンボ・ソラトバン、負傷なしじゃ」

<了解。死者はナシじゃな>

 と、弐ノ塔。

<こちらは負傷者多数。塔が激しk──ザザッ──損傷もある。じゃが、飛行は可能。退避先を選定中じゃ>

 

 弐ノ塔は。

 死の砲撃を、乗り切ったようであった。

 

「いったいどうなったんじゃ?」

<塔に刺さった槍は、対処した。じゃが・・・>

 と、おふくろさん。

<・・・谷底に落ちた槍がな。『力の筒探索』も届かん、数も不明で、逃げるしかなかった>

「この爆発は、ハズレの槍の分か」

<そうじゃ>

<凹ミ多数>

「おう。ドリナラーニどんも、負傷したか」

<それにしてもじゃ>

「なんじゃ」

<タダで筒が手に入ったぞ。幽雲に売りつけるか>

「冗談言うとる場合か」

 ソラトバン、涙が出るほどホッとした。

「しかし・・・そんな簡単に対処できるんなら、教えてくれ。トンボどんも、その方法で」

<簡単やない>

「清雅! 無事か?」

<タンコブできた>

「おお・・・」

<簡単やないねん。チラ兄ィには、かなり負担になったハズや。どう?>

<つかれたね~・・・>

「そうか。ほで、どうやったんじゃ?」

<それはな、>

「それは?」

 

<次回のお楽しみや!>

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