◆ 75、第八格納庫 ◆
幽雲洞の格納庫は、大騒ぎであった。
「弐ノ塔様が、爆発に巻き込まれたと・・・!」
「うちの部隊もじゃ。誰も帰って来ん」
「まさか、全滅・・・!?」
ゴブリンと、ダークエルフ。整備士の男ども。
空っぽの格納庫で、不吉なウワサをやりとりする。
そこに、ピンクの肌したダークエルフがやってきた。
「ゴタゴタ抜かしとるヒマあったら、掃除でもやっとれィ!!」
ピンクのダークエルフ、整備班長さん、怒鳴る。
「だいたいオマエらはなァ・・・!」
「うわまた班長の小言始まった」「このおっさんキレたらめんどくさいねや」
「なんやと!!」
ダークエルフ班長、さらに怒鳴りかけたが・・・
一瞬、妙な顔をして・・・
話を変えた。
「まあええわ。それよりもや! 第八格納庫は、ちゃんと空けてあるか?」
「第八、ですか」
「そや! 第八や! お客さん来る予定やったやろ!」
「あ、あー・・・! そう言や、そうでした」「爆発で、すっかり頭から飛んどったわい」
整備士ども、顔を見合せ、フンフンうなずく。
「ほな、オマエ! 幽雲様に『そろそろ第八へ移動お願いします』て連絡入れて来い!」
「ハイ!」ゴブリン整備士、走り去る。
「オマエらァは・・・ああ、そや。ヤドカリ引っ張り出して来い。荷搬用のん、奥に居るやろ? 10鬼ほど連れて来い」
「へーい」ゴブリンとダークエルフ整備士、大半が走り去った。
「ほんで、オマエは俺について来い。第八確認しとかなアカンからな」
「あー、ゴミ掃除ッスか。へいへい」
班長と、茶色のダークエルフ整備士1人も、『第八』と書かれた扉の奥へ消えた。
格納庫は、無人となる。
すると。
ゴブリンでもダークエルフでもない、男が。
帝国軍の隊長が、姿を現わした。
「第八だと? 報告にはなかったが」
ゴツ、ゴツン・・・
背負い袋の中で、金属の筒を鳴らしながら・・・
「まあ、よかろう。幽雲の顔、拝ませてもらうとするか」
・・・バッツワーノ隊長が、出てきたのであった。
整備班長の後を追って、広い洞窟に滑り込んだバッツワーノ。
途中、その班長らが引き返して来るのを、隠れてやり過ごす。
「守備がなっとらんな」
この通路。
床はきちんと整備されとるのだが。
壁が、放ったらかし。天然の洞窟のまま。凸凹だらけなのだ。隠れやすく、侵入しやすい。
・・・で。
たどり着いたのは、『八』と書かれた大扉。
鬼械人用の扉である。閉まっていたら厄介であったが・・・半開きだったので、問題ナシ。
じつにゆるい防衛態勢であった。
中は、魔術の光で明るく照らされた、広い倉庫。
壁ぞいに、鬼械人の腕・足・ボディ・でっかい鉤爪・・・などが、積み上げられておる。
六腕ロボとヤドカリチャリオットの予備部品であろう。完成品はない。動けそうな鬼械人は居らぬ。
クレーンがいくつか並んでおるが、これは部品の移動用か。
これらは、驚くほどのモンではない。
──が。
正面の壁に。
バッツワーノが思わず息を呑んだ、信じがたい存在が、立っておった。
「トンボ・・・の、同型鬼だと!?」
それは。
くろがね(鉄)の色をした、鬼械人。
スラリとした体型。
頭に、2本のツノがある。
背中には、特徴的な飛行ユニットに4枚の羽──
黒い、トンボであった。
「しかも、動いている?!」
黒いトンボ。
倉庫の奥で。
クレーンのそばに立って、なにやら操作をしておる。
六腕ロボのボディを持ち上げ・・・下ろす。
そんな操作である。
「トンボの、量産だと・・・!!」
バッツワーノは、生唾を呑み込んだ。
呼びかける。
「そこの、鬼械人よ! トンボの兄弟よ! 話がしたい!」
すると。
黒いトンボが、クレーンから手を離して・・・
こちらをジロリと、睨んで!
外部放送で、話しかけてきた!
≪おまえは、誰じゃ? 招いた相手ではないようじゃが≫
◆ 76、黒いトンボと、バッツワーノ ◆
「黒いトンボよ。お初にお目にかかる。俺は、トントバッツワーノ。帝国軍、蒸気械人の長(おさ)だ」
≪鬼械人の長とな?≫
「いかにも」
ゴツ、ゴツン・・・。
バッツワーノは体重を移し替え、わざと背負い袋を鳴らした。
「先に言っておくが、俺に手を出すと、爆発するぜ」
≪爆鬼か≫
「そうだ」
≪フン・・・≫
「で、オマエは誰だ。トンボの兄弟か?」
≪わしは、幽雲と呼ばれておる≫
「ユーンだと!?」
≪いかにも。この幽雲洞の主ということになっておるところの、幽雲じゃ≫
「鬼械人だったのか・・・!」
≪気に喰わんか?≫
「いや! いや!」
バッツワーノは、両手を広げた。
笑顔で。
心の底から。
「素晴らしい!」と、叫んだ。
≪なんじゃと?≫
「鬼械人は、王になる資格がある──俺は、常々そう考えていたのさ!」
≪ほう?≫
巨人は、頭を傾けた。
≪鬼械人を自爆させておいて、王とな?≫
「勝つために。蒸気械人たちも、同意したことだ」
バッツワーノは壁に近付いた。
六腕ロボの足を、ポンポンと叩く。
その上に、座った。
「──帝国の蒸気械人は、性能が低い。御存知の通りな」
≪・・・。≫
「だが、どんなに弱い者にだって、『勝ちたい』という気持ちはある」
≪・・・ふむ≫
「俺は、その望みを、叶えてやったのさ」
≪騙くらかして(だまくらかして)、操ったんじゃないのか≫
「いいや。蒸気械弩砲たちは、志願したんだ。『空飛ぶ塔に勝ちたい』とな」
≪・・・。≫
「いつか訊いてみるといい──だが、いま話すべきは、我らの未来だ」
≪提案など、許した覚えはない≫
「オイ。勘違いするな、幽雲」
コン、コン。
バッツワーノは背負い袋を指で叩いた。
「 俺 が 『降服を許す』と言ってるんだ。幽雲洞の能力を評価すればこそな」
≪わしらの能力か≫
「そうだ」
≪わしらの『力の筒』で、おまえは何をした。──虐殺じゃ。このことで、わしらがどれだけ苦しんだと思う≫
「勝つためなら、何万人殺したって、何とも思わないね」
≪殺人狂めが≫
「オーガが降服しないからだ。爆鬼を使わざるを得なかった。平和のための犠牲だ」
≪平和じゃと・・・!≫
「さて、結論に移るが、」
バッツワーノは腕を組んだ。
「賠償として、六腕ロボ10鬼を寄越せ。また今後、俺の国に対し、武器を向けるな。鬼械人を販売せよ」
≪断ったら≫
「皆殺しだ」
コツ、コツ。
背負い袋を叩くバッツワーノ。
≪では答えよう。トントバッツワーノよ≫
黒いトンボ。
ビシリと、鬼械の手で、虐殺犯を指差した。
≪殺人狂の賊と、交渉などせぬ。これが幽雲洞の答えじゃ≫
「・・・蘇生術をアテにしてるのか? だが、死ぬのはオマエ1人じゃないぞ。到底、間に合わn──」
・・・・・・・・・ガキン!
脅しを掛けようとしたバッツワーノの身体を、クレーンが締め上げた。
<文字よ欠けよ、文よ乱れよ、呪文よ崩壊せよ──『呪文破壊』>
どこからともなく、鬼械人の声で、詠唱が響いた。
<封じ込まれた対の粒、いまこのままに、凍りつけ──『粒子操作・凍結』>
「なッ・・・!? 爆鬼の、停止呪文!? 誰だ!」
バッツワーノ。
締め上げられた身体をよじって、左右を見る。人の姿はない。クレーンの根元を見る。人の姿はない。
──誰もいない!?
「どこかに、霊炎魔がいるのか!?」
<全然ちがうぞ>
クレーンの根元から、声がした──根元についとる声玉(こえだま)から。
「このクレーンが・・・鬼械人なのか!!」
<如何にも然様(いかにもさよう)>
クレーンが答えた。
<わしらは、鬼械人じゃ。じゃによって、呪文ぐらい唱えれるぞ>
大扉から、オーガが駆け込んできた。
幽雲洞防衛隊長、克鬼(こっき)の一隊。
バッツワーノから背負い袋を奪い、縛り上げ、隠し持っとった刃と毒薬を取り上げる。
引っ立てられていく直前、バッツワーノは、黒いトンボを見上げた。
「その姿・・・からくりであったか」
≪さあな≫巨人は肩をすくめた。≪おまえに真実を語る気にはならぬ≫
◆ 77、ソラトバン、レイサーネを捕まえる ◆
ソラトバンは、通信でそれを知った。
<こちらチラーニ・チーニャ。いま、幽雲洞がバッツワーノを取り押さえたぞ>
「おお!」
色々と思うところのある敵である。
少し、モヤモヤはしたが・・・
不満を感じるより早く、『鷹の目』が、発見をした。
眼下の森に、赤い鬼械人。
「・・・六腕ロボが居る。1鬼だけじゃ」
<チラーニに位置送れ>
<送ったぞ>
トンボがチラーニに現在地点を送信する。チラーニがそれを幽雲洞に問い合わせて・・・
<幽雲洞の鬼体じゃない。制圧しろ。爆鬼に警戒>
「了解じゃ」
トンボは舞い降りる。
列電魔旋砲を抜いて・・・
腰だめに構え・・・
着陸!
≪動くな! こちらは弐ノ塔じゃ。動けば撃つ!≫
と、外部放送で呼びかけたところ。
≪撃つな撃つな!≫
六腕ロボも外部放送をして、両手を上げた。
手だけでなく、左右の2連肩砲も真上を向けて、戦闘の意志がないことを表わす。
だが、それだけで信用はできぬ。
バッツワーノが爆鬼という禁じ手を使ったせいで、砲の向きだけで信用はできなくなったのだ。
≪爆鬼を調べる。そのまま待て!≫
「・・・とか、偉そうに言うたが、トンボどん任せなんじゃよな」
<黙ってろよw>
チーニャ相手に、通信で無駄グチ叩いておると。
<──爆鬼積んどるぞ、コイツ>
トンボが、そう判定した。
<乗り手席付近に1本、ムダな筒がある>
「くそ」
≪爆鬼を積んどるな!? ハッチ開けて、出て来い!≫
ガチガチに緊張して、そう呼びかけたソラトバンであったが。
相手は、素直にハッチを開けて、顔を出した。
女である。
オーガの女であった。
「撃たんとって!」両手を上げる。「ウチは、なんも知らんのです! 仕込まれとるのも知らんかった!」
≪──ほじゃ、そのままで居れ。動くんじゃないぞ!≫
調べた結果。
自爆用と思われる爆鬼が、弓手席の下に隠されてあった。
オーガの女は、何も知らんかったらしい。
六腕ロボのほうは、知っとったが、帝国の束縛呪文のせいで言えんかった、とのこと。
ともあれ、起動はされとらんかったので、事なきを得た。
・・・しかし、オーガの女は、厄介な訴えをしてきた。
「トンボ様。トンボ乗りのソラトバン様。どうか、ウチを帝国に引き渡してください」
「なんじゃと?!」
ソラトバンは仰天した。
「あんた、帝国の人間なんか? オーガじゃのに」
<生まれ故郷と、所属を言え>トンボが問い直した。
「生まれは撃竜界です。いまは帝国の──バッツワーノの奴隷です」
<なんでソラトバンの名を知っとる>
「旦那が帝国軍人に脅されたとき、その場に居ったからです」
「あの森か!」
覆面どもに誘拐された、恐怖と屈辱の事件。
ソラトバンは、苦々しく思い出した。
「アンタ、ちょっとだけじゃが、わしをかばってくれたのう」
「力及ばず・・・」
レイサーネは頭を下げた。
「撃竜界の鬼術師・鈴雅(れいが)。それがウチの、ホンマの名前です」
やつれた姿に、かすれた声。
ソラトバンは胸を痛めた。鬼術師が捕まると、こうなるんか・・・と。
<なんで帝国に戻りたがる?>
「はい、トンボ様。息子が、帝国に囚われとるんです」
<人質か?>
「はい。私が戻らんかったら、殺される思います」
「そんなことをして、何になるんじゃ・・・」
「見せしめです。オーガの奴隷は、みな、家族を人質にされてますから」
レイサーネ──鈴雅を、どうするか。
これが、揉めた(もめた)。
撃竜界から避難してきたオーガやゴブリンは、特に・・・
「せっかく助けた鬼術師を、むざむざ帝国に送り返すだと!!!」
乗駆鬼(ジョッキー)など、防衛隊長の克鬼どんに喰ってかかったらしい。
「それでも同胞か!! この女の生命を、なんだと思っておる!!!」
「同じ言葉を返そう。乗駆鬼よ。この女の息子の生命を、なんだと思っておる」
「ヌウ!!!」
こうして、数日揉めたあと。
清雅が、ソラトバンのところへやって来て。
正座をした。
「折入って(おりいって)頼みがある」
「な、なんじゃ。清雅」
ソラトバンも、あわてて正座した。
「鈴雅さんのことか?」
「ウム」
清雅。極めて真面目な眼で、ソラトバンを見つめて、
「強攻策に、トンボ様を使わせて頂きたい」
「きょうこうさく」
「──それは、俺から説明しよう」
巨大な影が近付いてきて──
これまた、正座した!
「乗駆鬼どんまで」
「俺のことを『殿』などと呼ぶな。ソラトバン殿。トンボの乗り手よ」
「持ち上げたって・・・アカンもんはアカンぞ?」
「そんなんじゃないわ!!」乗駆鬼、瞬間的にキレた。「・・・いや。ふつうに、尊敬して言うとるのだ」
「そ、そうか」
「それでだな・・・つまり・・・」
「照れとらんと、しゃべれや」
「照れとらんわ!! ・・・いや。それでだな。俺の考えた策は、こうだ──」
そして。
バッツワーノとレイサーネは、帝国へ引き渡された。
段取りは大変であったが・・・ソラトバンは関わっとらんので、説明は省く。
バッツワーノは、最後に、こんなことを訊いたそうである。
「初めから、このつもりだったのか。俺を生け捕りにする・・・」
「そうだ」答えたのは、防衛隊長の克鬼である。
「交渉相手は・・・」
「お身内に訊くがよい」
「ミェンノーか? ・・・ミェンノーだな」
◆ 78、ミェンノー大臣 ◆
センヂョーネター・ミェンノーは、最高権力者である。
役職は『大臣』。
法律上は、帝王の臣下である。だが、実情は逆であった。
「ミェ、ミェンノー大臣よ。朕(ちん)は、バッツワーノが裏切ったというのが、信じられんのだが」
若き帝王。
第四代ウシャーニ帝が、このようにおっしゃっても。
「事実でございますので」
40代半ばのミェンノー大臣は、頭すら下げようとせぬ。
逆に、こう言い放つほどであった。
「この罪人については、恩赦などできませぬ。よろしいですな?」
「だが・・・だが、バッツワーノは忠臣だと、そなたも言っていたであろう?」
「チッ」
ミェンノー大臣は、舌打ちをした。
帝王と大臣以外に部屋に居るのは、侍従と筆記係であるが・・・
2人とも、聞こえぬフリ。侍従は大臣を咎めず、筆記係は舌打ちを記録しない。
「私も、遺憾(いかん)です。 先 代 帝 王 が お認めになられた男ですから。しかし!」
ミェンノー大臣は、まくし立てた。
「しかし、これで帝国混乱の元凶(げんきょう)もわかったというもの!
オーガとの戦がこれほど長引くのは、ヤツのせい! 予算欲しさに、勝利を遅らせておった。
麦の高騰(こうとう)も、ヤツのせい! ショラン・ギサンチの反乱を煽動した(せんどうした)。
太陽神殿の使者を襲ったのも、ヤツであった! 太陽神殿と陛下を敵対させる企み。
まさに、すべての元凶なのです!」
「まさか、そんな、何もかも・・・」
「その『まさか』。ヤツを信じようとなさる陛下の御温情が、仇になったのです・・・!」
と。
責任を、帝王になすりつけてから、
「ですから、厳罰を下さざるを得んのです。納得頂けましたか? よろしゅうございました! それではこれにて」
ミェンノーは、帝王の御言葉も待たずに、立ち去るのであった。
◆ 79、結末 ◆
首都ハポノ。
郊外の、丘の上。
建物はないが、立派な旗が翻っておる。
太陽と。目と。地面に刺さった剣。──『正義の目』の旗である。
この丘で、バッツワーノは処刑された。
罵声を飛ばす野次馬に囲まれ、石を投げつけられながら・・・。
言い遺すことはあるかと訊かれた彼は、何も答えなかったという。
バッツワーノ・キルビンナック・ルクジッコの家は取り潰され、妻子は奴隷に落とされた。
ルクジッコと娘のルカツァーネは行方不明であったが、失踪前の状況から心中(しんじゅう)と推定、『死亡』と記録された。
──以上が、首都ハポノを騒がせた『バッツワーノの乱』の結末である。
そして。
この乱に関わる結末が、もうひとつあった。
オーガの母子の行く末である。
「自分から戻って来たそうだな? レイサーネとやら。顔を上げよ」
「・・・。」
縄で縛られたレイサーネ。クマのできた目を上げる。
見上げる先に、ミェンノー大臣。
ゴテゴテした姿で、職杖(しょくじょう)をついて、立っておる。
「バッツワーノは処刑されたぞ」
「はい」
「オマエは殉死せねばならぬ。それを承知で、引き渡しを希望したのか」
「はい」
「ほほう・・・」
ミェンノー大臣は、一瞬、何かを考えた。
そしてこう言うた。
「奴隷の鑑(かがみ)よ! 特別に、ゆるす。言いたいことがあれば、申してみよ!」
「では・・・」
レイサーネは頭を下げた。
「最期に、息子に会わせてください。ひと目だけでも・・・」
「おお! そうか、そうか。息子が居るのか! クックック・・・よかろう! その願い、叶えてやるぞ」
そして。
ふたたび、郊外の丘。
野次馬どもがワアワア騒ぎ、正義の目がむなしく翻る、処刑の丘で・・・
「ハポノの悪魔・・・!!」
レイサーネは、吐き捨てていた。
彼女の前に、処刑斧。
オーガの少年が近付いてくる。
まだ小さなオーガだが、それでも、野次馬どものいちばんデカい男ぐらいの身長はある。
その少年を、レイサーネは知っていた。
「おのれ・・・!」
ミェンノー大臣を睨む。
処刑の丘より高い丘から、ニタニタ笑って、こちらを見下ろしておる。
怪物のごとき馬に乗って。
8本足の馬──牙馬(きば)である。ハポノの神獣である。
ふつうの馬より大きく、鉄の盾を噛み砕くといわれる、恐ろしい馬である。
周囲を固める護衛も、牙馬騎兵。さらに、ナンガラックと蒸気械弩砲まで並べておる。
まさに、お山の大将。
「帝国法を破り、太陽の掟をも踏みにじって、邪悪な死霊術(しりょうじゅつ)を行使した、オーガの女!」
職杖でレイサーネを指して、言い放つ。
「大罪人の一味! 許しがたい悪鬼(あっき)! 正義に基づき、処刑する!」
「殺せ! 殺せ!」野次馬が騒ぐ。「オーガめ!」「人喰い鬼め!」
「──だが、帝国の宗主なる我らハポノ人は、慈悲深い。服従する者には、父親のごとく振る舞う」
「そうだそうだー」「ミェンノーさまー」「ハポノに栄光あれー」
「若きオーガよ! 帝国への忠誠を見せよ! さすれば、そなたの血を継ぐ者に、慈悲が示されよう!」
そして。
ミェンノー大臣は、口の中で、こう付け足した。
「約束通り、息子に会わせてやったぞ? クックック」
若いオーガは、震える手で処刑斧を握り締め、レイサーネに近付く。
「野蛮なオーガの女よ! お・・・おまえが誰か、私は知らぬ。だが、て、帝国の法に従って、おまえを裁く!」
「おお・・・!!」
レイサーネはキバを噛みしめ、身をよじった。
言葉を振り絞る。
「私は、私も・・・ッ! あなたのことなんか、知らん! そう、言うておく・・・!!」
「・・・。」
「とっとと済ませて、帰って寝ェ(寝ろ)・・・!」
「こ・・・子供扱い、するな!」
オーガは、斧を構えた。
「わ、私は・・・帝国貴族だ。おまえのような野蛮人とはちがう・・・!」
そのときであった。
≪その女! いらんと言うなら、もろてゆく!(もらっていく!)≫
響き渡る声が、空から降ってきたかと思うと。
ズシィィィン・・・!!!
地を揺るがせて、淡い黄金色した鬼械人が、処刑場に突っ込んできた!
≪けむりだまじゃ!≫
ドドン!! ドパァァァン・・・!
左右の肩砲から小さな砲弾が飛び出して、処刑場を煙に巻いた。
野次馬が悲鳴を上げて逃げ惑う。
ミェンノー大臣も馬上でのけ反り、一瞬言葉を失った。
だが、腐れ果ててもハポノ貴族。落馬はせぬ。怪物馬を御して(ぎょして)、叫んだ。
「敵だ!! 撃て!」
護衛隊長がこれに反応。野次馬を下がらせ、ナンガラックに大臣の護衛を命じる。
弩砲にも砲撃準備を命じるが・・・
けむりだま! 白煙と野次馬の入り乱れる現状、砲撃はできぬ!
「な・・・何者だ!?」
処刑斧を持ったオーガの少年。鬼械人を見上げて、訊いた。
答えは。
≪弐ノ塔のトンボ・ソラトバン! そして、撃竜界の乗駆鬼じゃ!≫
「げ、撃竜界」
オーガの若者は、取り乱した。
「人喰い鬼の国! この首都で、そんな名を、口にしてはならぬ」
≪おまえの祖国であろうが!!!≫
もんのすごい声。
・・・なんか、さっきとちがう声である。明らかに、別人。迫力がちがう。
「そこく」
≪このたわけ!! 腑抜け!! 祖国の意味も理解できぬ、オマエこそが、野蛮人よ!!!≫
そこに、新たな鬼械人が降ってきた。
≪どいてどいて~!!≫
≪六間洞の浮鬼、参上や!≫
腹のデカい、腕の長い、大型鬼械人。
そして、六腕ロボ。
2鬼揃って、着陸直後に肩砲をブッ放す。ミェンノー大臣の丘も、白煙に包まれた。
≪よし。さっさと済ますぞ。チラーニどん、浮鬼どん、2人を頼む!≫
「俺がほどく」
浮鬼のハッチが開き、ゴブリンの数鬼が飛び降りた。処刑台に走って、縄をほどく。
レイサーネはフラつきながら浮鬼のハッチに回収された。
「ウチの息子・・・!」と、叫びながら。
≪任せよ!≫
トンボが答えて、オーガを引っ掴む。
「うわー! 放して!」
騒ぐ少年オーガを、チラーニのハッチに放り込む。
チラーニの中は、空っぽであった。誰も乗っておらぬ。
「む、無人!? 鬼械人の反乱だ!」
<キミはバカだな~w>チラーニ、からかう。<オレ、帝国の鬼械人じゃないもんね~>
≪引き揚げじゃ!≫
トンボが地面を蹴った。
チラーニは、空に向けて鉄鎖砲を撃つ。背中の筒から延びる錨(いかり)。その先端を、トンボが拾った。
引っ張られたチラーニが浮上する。その足に浮鬼が飛びついて一緒に浮上する。
≪ヌウ! 重い!≫
文句言いつつ飛ぶトンボ。
チラーニと浮鬼は、曳航されて(えいこうされて)、加速する。
≪あーばよ~♪≫
弩砲が飛んできた。チラーニのスネに直撃。
≪いてっ!?≫
≪調子に乗るからじゃwww ぬごっ!?≫
浮鬼の顔面にも直撃した。
装甲が凹む。わりと危ない一撃であった。
≪クッソ! けむりだまじゃ!≫
浮鬼が2連装肩砲を撃って、目眩まし(めくらまし)。
≪やめんか! 失速する!≫
≪すんません≫
「落とせ! 撃ち落とせ!」
ミェンノー大臣は──帝国の最高権力者は、そう叫んだが。
白煙の向こうに遠ざかる鬼械人に、もはや弩砲は届かない。
「おのれ゛!」白煙に喉を痛めながら、ミェンノーは叫んだ。「よくも、このわ゛たしを! 覚えておれっ・・・!」
黄金の鬼械人は、天へ、高く高く、舞い上がった。
帝国のどんな追撃にも捕まることなく。
『正義の目』の翻る丘を、後にしたのであった。
◆ 80、オカンはそこに ◆
しばしのち。
チラーニ飛行塔の玄関格納庫にて。
エレベーターから降りてきた鬼械人たちが、ハッチを開けて・・・
「ち・・・近付くな! や、野蛮な、人殺しの怪物ども!」
チラーニから飛び降りたオーガの少年が叫ぶ。
帝国風の衣装の腰から、短剣を抜いて、構えた。
コボルドの整備士ども、あわてて後ろに下がって、クーンクーンと鳴き声を出す。
そのコボルドをかき分けて、オーガの娘が説得に立った。
「おとなしゅうせぇ、撃竜界の坊主」
「なんだと、小娘! 名を名乗れ」
「六間洞の鬼術師・清雅」清雅さん。イラッとなって、言い返す。「オマエより歳上や」
「そ、それがどうした。私は、帝国市民の一員で、」
「おまえはオーガや」と清雅。「オカンもオーガや。そうやろ?」
「は・・・母は、オーガに殺されたのだ!」
「アホ言うな。おまえのオカンは、そこに居る」
「えっ?」
浮鬼のハッチから身を乗り出す、オーガの女。
バッツワーノの奴隷──であったのは、過去のこと。
「励鬼(レーキ)」
鈴雅は呼びかけた。
その声が、少年の呪縛を解いた。「お・・・オカン・・・?」
清雅が、母子を連れていった後で・・・。
かぱ。
トンボのハッチが開いて・・・
「もう大丈夫かのう?」ソラトバンが顔を出した。
「オマエ、どんだけ臆病なのだ!!」乗駆鬼も顔を出した。
「うるさいわい。おまえさん、オーガの力がわかっとらんじゃろ」
「オーガの力だと」
「その馬鹿力で殴られたら、わしなんぞ、一発で冥界へ逆戻りじゃ」
「む」乗駆鬼、ひるむ。だがすぐ言い返した。「だが、あいつは子供だろう!!」
「わしよりデカいじゃないか。危険じゃ」
「なら、なんで清雅様を前に立たす!!」
「おまえだって引っ込んどったじゃろ!」
「オマエがハッチ開けんからじゃ!!」
ケンカしながら降りてくる2人。
「はははw」
格納庫を見下ろす回廊で、チーニャが笑った。
「友達ができて、良かったな! 2人とも」
「「誰が友達じゃ!」!!」
◆ 81、地下宴会場へようこそ ◆
数日後。
幽雲洞近くの丘陵地帯に、トンボは降り立った。
戦場となった丘陵である。爆鬼の炎に舐められて、ガラス質の砂だけが広がる死の土地と化しておる。
そこに、トンボが。続いてチラーニと浮鬼も、着陸したんである。
すると。
ず、ご、ご、ご・・・・・・・・・!
地響きと共に、地面が、ハネ上がった!
あたかも、床下収納のハネ上げ戸のごとし。
地面を持ち上げて、巨大な人物が、地下から姿を現わした。
いったい、誰なのか!? 地下から出てくる巨大な人物とは!
ヌーーーッ・・・
地面から、顔を出したのは・・・
モジャモジャの、髪と髭の見分けもつかぬ・・・
目がひとつしかない巨人。
「幽雲どん。おひさしぶりじゃ!」
「おう! ひさしぶりじゃのう、ソラトバン」
幽雲洞の主! 穴堀り巨人の、幽雲どんであった!
・・・ちなみに、幽雲の姿は、ふつうの(?)巨人である。
ソラトバンが知っとる通りである。黒い鬼械人とかではない。
<幽雲殿。前世ではお世話になりました>
「おう、トンボ。百年ぶりじゃな」
<まったくもって>
トンボが軽く礼をする。ハッチにもたれとるソラトバンがちょっと揺れた。
で、そのソラトバン。
地面を指差して、
「それ、もしかして、避難路か? オーガ部隊の・・・」
「いかにも、その通りじゃ!」
幽雲がハネ上げた、地面のハネ上げ戸。
主力部隊の、避難路であった。
爆鬼が爆発した、あのとき。
ヤドカリチャリオットのオーガ部隊は、全滅した──と、思われたが。
じつは、この穴から地下にストーンと落っこちておったんである。
「バッツワーノめ、完全に騙されておったぞ。わっはっは」
「落差あるようじゃが、大丈夫じゃったんか?」
「・・・ケガ人は出たが」
「・・・じゃろうな」
「じゃがしかしじゃ。ちゃーんと、底は斜めに、滑り台のごとくしてある」
「ほほう」
「全員が転がり込んだところで、岩の扉を落として、爆風も遮断した」
「なるほど」
「塹壕(ざんごう)としても使え、退却路としても使える、落とし戸塹壕じゃ!」
「さすが幽雲どんじゃ。穴を掘らせたら、右に出るモンは居らんわい」
「わっはっは。褒めすぎじゃ!」
穴の仕組みを説明できて、とても嬉しそうな幽雲どんであった。
「ま、そういうワケでじゃ。このトンネルは、めでたいトンネルとなった」
「うむ」
「ほじゃけ、ここで宴会をする」
「・・・それは、幽雲洞らしいことじゃな!」
「うむ。幽雲洞・地下宴会場へ、ようこそじゃ」
鬼械人に乗ったまんま、巨大なトンネルへ降りてみると。
垂直な縦穴が、斜めになり、それがゆるやかになり、やがて平らな通路となった。
なるほど、これなら落ちてきた部隊も・・・いややっぱりケガはしそうである。
で、その先は。
魔術の光に照らされた、広大なパーティー会場であった!
<ここでパーティーすんのか・・・>通信で、チーニャがボソッと言うた。
<オーガとダークエルフやからなー>と、清雅。<洞窟、大好きや>
<俺も興奮しとる>これは、再鬼どん。清雅の長兄、ひさしぶりの外出である。
「わしもちょっと、すごいなと思うとるんじゃが」
<・・・あ、そう>ハポノ人のチーニャさん。あまり共感できない様子であった。
「ソラくーん! いらっしゃ~い!」
六腕ロボのハッチで、ディルーネが手を振っておる。
その胸元には、ウミドラーニが首抱かれてぶら下がっておった。連絡係なのだが・・・どう見ても、ヌイグルミである。
「お邪魔しますわい」
トンボで入ってゆく。
「トンボ!!! トンボ!!!」オーガとゴブリンが盛り上がった。
その盛り上がりに、トンボも手を上げて応える。
≪おう! 六腕神の息子・娘たちよ。 見事な戦いじゃったのう!≫
「ウオーーー!!!」
≪今度死んだら、お伝えしとくわい。立派じゃったと≫
「いやいや!!」「死にすぎじゃ!」「今度は長生きしてくだされ!!」
≪わっはっは≫
チラーニと浮鬼がそれに続く。
オーガたちは「・・・誰じゃ?」という感じで、盛り下がった。
<入る順番、逆だったよね>チラーニが文句言う。
<俺も、ダブマダック仕留めたんやけどなァ・・・>浮鬼も文句言うた。
パーティーは、盛り上がった。
ソラトバンは右から左からオーガどもに絡まれ、酒を呑まされ、特に理由もなく殴られそうになり、大変であった。
美人を何人も連れとる(チーニャとか清雅とかレモンちゃんとか、あとディルーネも寄ってきた)ので、それも大変であった。
セイレーンのレモンちゃんが歌うと、また大騒ぎになった。
洞窟が崩れるんじゃないかっちゅうほどの大騒ぎである(まあ、ビクともせんかったけれども)。
声が反響して反響して・・・互いの声に揉みくちゃにされる。その一体感は、すごかった。
ちなみに乗駆鬼は、今日は遠くに座って、他人のフリをしておった。
「なんじゃ。冷たいのう」
「気ィ使うとんねやろ」と清雅。
「おまえさんも居るしのう」
「ちゃうわ。オマエにや」
あと、こんな話をしてくるダークエルフのおっさんも居った。
「私ですわ! パチモン格納庫に案内したん!」
「案内とな? 誰をじゃ」
「あの爆弾魔ですわ!」
「なんと!」
「いや、私、整備班長してましてね?」
「ほう」
「物陰に変な男が隠れとんのに気付いたんですわ」
「よう気付いたのう」
「ダークエルフの勘ですわ! わしら、360度、目ェついてますねん!」
「ウソじゃろw」
「ホンマホンマ。ほんで、こらアカン! 爆鬼かも知れん! 思うてね」
「恐ろしい状況じゃ。上手いこと誘導したモンじゃのう」
「それですわ! 『第八』っちゅうね、パチモンに誘導する時の合い言葉をね、パッと思い出してやねぇ・・・!」
「おお! それでそれで?」
おっさん。ここで、「あ」となった。
「なんじゃ?」
視線を追ったソラトバン。ディルーネがこっち見とるのに気付く。
ディルーネさん。密偵女。ごっつい恐い目ェしておる。
「・・・アカン。コレ秘密やった」とおっさん。
「なんじゃと」
「いまの、なかったことに」
「あ、はい。うむ。わかった」
ソラトバン、うなずいた。
「アンタはなんか手柄立てたんじゃな。じゃが、すまん。どんな手柄かは、全然わからん!」
「わからな~い♪」レモンちゃんが歌にしだした。「何の手柄か、わからな~い♪」
「ははは・・・」
ダークエルフのおっさん──整備班長。しばらく、このネタでからかわれたそうである。
で。
みんなが呑み食いを十分にやったところで。
「余興がある」と、幽雲どんが引っ込んだ。
地面から頭だけ出して参加しとったのが、地面の中に沈んだんである。
代わりに、穴から上がってきたのが・・・
黒いトンボであった!
「な、なんじゃと」ソラトバン、腰を抜かした。「トンボどん、これは!」
<ワシも知らんぞ!?>
≪ふっふっふ。驚いたようじゃのう≫
「ゆ・・・幽雲どんか?」
≪そうじゃ≫
と、黒いトンボの外部放送で、幽雲どん。
≪だいぶ長いこと掛かったが、形になってな。動かせるぐらいになった≫
<中身入り・・・では、ないですね?>とチラーニ。
≪うむ。誰も入っとらん。いまのところ、予備部品を組み立てた人形に過ぎぬ≫
黒いトンボは。
霊の入っとらん、空っぽの人形。
幽雲どんが操縦しとるだけ──と、いうことのようであった。
≪おまえさんがたに贈るつもりだったんじゃ。ソラトバン、清雅よ≫
「わしらに・・・?」
≪うむ。冥界に連れてってくれた礼にな≫
「おお・・・!」
≪ところがじゃ。ゆえあって、中古品になってしもうた。まこと失礼じゃが・・・受け取ってもらえるか?≫
「そりゃあ・・・ありがたく、頂くわい。なあ? 清雅さんよ」
「そ、そやな」珍しく、清雅が動揺しておる。「素晴らしい贈り物、感謝いたします! 幽雲様」
≪そうか。すまんのう。贈り物を使うことになるとは≫
「今回の防衛でか?」
≪そうじゃ。『生身で顔出すな!』と、反対されてのう≫
「当然ですぞ!!!」と、防衛隊長・克鬼。
≪『腕』どもは、生身じゃったのに≫
<わしらは、仕方ありませぬ>
壁際のクレーンどもがしゃべった。
<生身でないと、『見守る』が効かんということじゃったから・・・のう?>
<うむ><うむ>と、クレーンども、互いにうなずく。
「見守る・・・か」
黒いトンボは、大人気であった。
オーガたちも知らん者が多かったらしい。ペタペタ触わりに来る。手形だらけになってしもうた。
「・・・ところでじゃ、清雅」
「なんや」
「『見守る』とは、どういうモンなんじゃ?」
「ああ」
◆ 82、『見守る』とは ◆
「女神グレイスさまが所有者の『恩寵(おんちょう)』のルーンの技や。信者に、一時的に力を貸し与える」
「・・・は?」
「サルにでもわかるように言い直すとやなァ~、」
「その前置きいらんぞ」
「自分の知識や呪文を、味方に貸すんや」
「貸す・・・」
「オマエの『鷹の目』を、ウチに貸すとか。そーゆーのや」
「え!」
ソラトバン、ちょっと飛び上がる。
「そんなインチキが、できてええんか!?」
<できちゃったんだよね~>とチラーニ。
「清雅が『見守る』したら・・・わし、蘇生術使えるんか?」
「いや」
「アカンのかい」
「いや、蘇生術は使えるけど、回数が増えへんねん」
「?」
「冥界の法でな。蘇生術師1人につき、1月に1回だけなんや。蘇生術は」
「ふむ?」
「オマエ、蘇生術師ちゃうやん?」
「うむ」
「結局、1月に1人しか蘇生できへんワケや」
「・・・そうか。残念じゃ」
「冥界法定めたん、ルシーナ様やからな。『見守る』も知ってやから(知っていらっしゃてだから)」
「お星さんの女神さまか。拝むと頭良くなるっちゅう」
「それァ迷信や」
<あとは、自分でやったほうが早いってのもあるよね~>
「ンむ」
清雅、酒呑む。
「オマエがウチに『鷹の目』貸すとするやん?」
「うん」
「そのあいだ、オマエは『鷹の目』使われへん」
「なんでじゃ?」
「『見守る』んに神経使うからや」
「なんじゃそりゃ・・・」
ソラトバン、がっかりである。
「・・・あれ? ほじゃ、爆鬼止めたときは?」
「あれァ、弐ノ塔のママさんが並列作業したんや」
「へいれつさぎょう」
「同時にいっぱいやることや」
清雅は右手と左手でソラトバンの頭をぺちぺち叩いた。
「『見守る』でウチに『呪文破壊』の呪文を貸す。同時に、『見守る』でウチに『粒子操作』の呪文を貸す・・・」
<同時に、ドリノン1号にも『呪文破壊』と『粒子操作』を貸す・・・>
「なるほど・・・痛いわ! いつまで叩いとんじゃ」
「説明とシバキの並列作業や」
「アホか。しかし、なるほどな。うん。なんとな」
ソラトバン、酒呑む。
「インチキなんは、弐ノ塔のおふくろさんじゃったか」
「そやな」
「2人とも、ママに言ってやろw」チーニャが酒呑みながらつぶやいた。
「ちょ。やめんか。チーニャ。いまのは」「ちゃうねん。チー姉」
「ニヒヒw」
◆ 83、まがまがしい飛行物体 ◆
その弐ノ塔であるが。
しばらく幽雲洞に留まって、修理することになった。
爆鬼のダメージが深刻だったからである。
<雨漏りがひどい。錆びた。ハエが湧いとる。パーツも結構どっかいった。泣きたい気分じゃ>
・・・と、おふくろさんが泣き言を言うほどであった。
幸い、幽雲洞には、素材も技師も設備も、揃っておる。
しばしドワーフが塔に入って、「ア!!?」とか怒鳴り散らすことになったが・・・
レモンちゃんがその大声を恐がってくっついてきたので、蹴つまずいてコケたりもしたが・・・
すっきりさっぱり、弐ノ塔は、生まれ変わったんである!
<質感がバラバラなんじゃが・・・>
銀色と黒色の、マダラ模様の塔となって!
「弐ノ塔よ。おまえさんが、変な素材使っとるからじゃ」
<幽雲よ。どこに目ェ付けとんじゃ。軽銀は、優れた軽量素材じゃぞ>
「精練が変にめんどくさいし、第一、おまえさんロクに原料持っとらんじゃないか」
<まあそうじゃが・・・>
「強度は上がっとんじゃ。文句言うな」
<その分、重いじゃろ>
「飛行ユニット付けたんじゃろ? なら、問題なかろう」
<あるわ。応力とか。慣性とか>
「うるさいヤツじゃ。・・・にしても、いつの間に付けたんじゃ?」
幽雲どん。
弐ノ塔・本塔の最下部を覗き込んで、チョンチョンとつついた。
<何をする。この助平(すけべ)>
「妙雅に『飛行ユニットを量産したりはせん』と約束したじゃろ」
<私がしたのは『人間を圧倒するつもりはない』じゃ>
「む」
<約束は守る。私と、トンボの予備分と・・・チラーニと浮鬼とドリナラーニとウミドラーニの分しか造っとらんけぇ>
「主力全員じゃないか!」
<私の倫理ではオッケーじゃ。つまり、妙雅の倫理でもオッケーじゃ>
「ホンマか」
<たぶん>
というわけで。
無事、弐ノ塔も復活。
青空に舞い上がり、以前よりも速いスピードで空飛ぶ勇姿は、
『マダラ模様の、まがまがしい飛行物体』
として、ギサンチの山脈に暮らす羊飼いたちのウワサになったそうである。