ソラトバン、鬼械人   作:min(みならい)

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日光浴 ◇ 空飛ぶ島

「ついに、『秘密兵器』が出撃するらしい」

 近ごろ帝国では、こんなウワサが広まっておった・・・

 

 「人喰い鬼どもを踏みつぶす、最強の兵器だとさ!」

 「ミェンノー大臣が、私財をなげうって、帝国に寄付したらしい」

 「これで、帝国に逆らう者はいなくなる。永久の平和が訪れるんだ!」

 

 ・・・この秘密兵器が姿を現わすまで、いま、しばし。

 ソラトバンたちは、楽しい休日を過ごしておった。

 

◆ 9、日光浴 ◆

 

<展望台に案内しよう>

 と、おふくろさんが言い出した。

「てんぼうだい」ソラトバンが訊き返すと、

<本塔、最上階にある。おいで>

 おふくろさん、先導しだした。

「なんじゃ」

 まあ、ついてゆく。

 チーニャ、ついてゆく。侍女のコボルド・ルディーニャちゃんも、ついてゆく。

 コボルドの子供、ゾロゾロゾロ・・・と、ついてゆく。

「チーサーネ先生、どこ行くの?」と、ガキんちょども。

「展望台だってさ」

「てんぼうだいってなにー?」

「見晴らしのいいトコさ」

「みはらしー?」「みはりー?」「みはるのー?」

<幽雲(ユーン)が、『造らせろ』とうるさくてのう>

「幽雲どんが造ったんか」

 穴堀り巨人の、幽雲どん。

 鬼械人の製造もやっとるからな。好きなんは、ダントツで穴堀りのようじゃが。

 先日、弐ノ塔のおふくろさんを修理してもろうた。そん時、ついでに展望台くっつけたそうじゃ。

「わりと・・・目的とちがうコトに、情熱注ぐ御方じゃよな」

「趣味人って感じだよな」とチーニャ。

 本塔に入る。

 人間用の小型エレベーターで、最上階へ。

 ・・・ちなみに、このエレベーターは屋上に出れる。ほじゃけ、終点ひとつ手前っちゅうコトじゃ。

 

<ここじゃ>

 案内されたんは、真っ暗な、広い部屋じゃった。

 中央に、平たくて丸い・・・ベット(?)がある。

 あと、壁が、倒れかかっておる。

 手前と左右は、ふつうだが・・・

 奥の壁だけ、向こうに倒れかけとんじゃ。

「壁が倒れそうになっとるぞ」

<傾斜させとるんじゃ!>

「見えんのだが」

 チーニャ。部屋が暗いので、何が何やらわからんようじゃ。

 超常の『夜目』を授かっとるソラトバンには、一目瞭然(いちもくりょうぜん)だったんじゃが。

<ま、手すりのとこまで、ゆくがよい>

「手すりな」

 ふむ。奥の壁に、手すりがあるわい。

 コボルドの高さと、人間の高さ。2本。

「・・・どこだよ?」

「奥の壁じゃ。ほれ」

 チーニャの手を握る。彼女の指は、白くて優しかった。

「ん・・・」

 チーニャ、ルディーニャちゃん(侍女役のコボルドちゃんである)の手を握る。

 ルディーニャちゃん、コボルドのガキんちょAの手を握る。

 ガキんちょA、ガキんちょBの耳を噛む。「キャン!」

「これ!」

 ゾロゾロゾロ・・・と、暗闇の部屋を歩く。

「気を付けてな」

「何に? ・・・おまえに?」

「ちがうわいw 部屋の真ん中に、丸い・・・ベット? があるんじゃ」

「ソファかな?」

「ああ、ソファか、これ」

<ま、ま、手すりまでゆけ>

「ゆくけどもが」

 行った。

<みんなついたか?>

「ハーイ」「ハーイ」「ハァーーーイ!!!」「はいはい」

<ほじゃ、開けるぞ>

「なにをじゃ」

 

 ガラガラガラ・・・

 目の前の壁が、開いた。

 

 朝起きたとき、まぶたを開くように。

 光が、差し込んでくる。その光は、足から膝へと上がってくる。

 太腿が、お腹が、光に照らされる──

 ついには、壁一面が光でいっぱいになった!

 その光の正体は・・・

 

 カルデラの光景であった!

 

 おふくろさんの最上階から見下ろすカルデラの全景が。

 透明な窓の向こう、いーーーっぱいに、広がったんじゃ!

 

「おお・・・!」

「キャーーーン!!」

「なるほど。展望台だ」

 

 まるで、空飛んどるときのようじゃ。

 夏の日光に照らされた景色が、足元から、ずーっと向こうまで広がっておる。

 緑が、みずみずしい。

 牛や羊が、小さく、可愛らしい。

 湖がキラキラと輝いて、眩しい(まぶしい)。

 そして、足元!

 ほぼ真下が、見通せる!

 壁が傾斜しとるから、ちょっと頭ァ突き出しゃ、真下が見れるんじゃ。

 塔の基部が見える。

 点検の仕事しとるコボルド整備士の、頭のてっぺんもじゃ。

 吸い込まれそうじゃ。

 コボルドのガキんちょ、大興奮。

 ベターッと窓にくっつき、あるいはクルクル走り回ってスッ転ぶ。自分の尻尾を抱いて噛み付き、友だちと取っ組み合う。

 ソラトバンとチーニャは、手の指を絡め合ったまま、景色を眺めた。

 ・・・で。

 振り向いた。

 雑務ユニット。黙って浮かんでおる。

「・・・おふくろ」

<なんじゃ>

「すごいぞ、これは!」

<そうか、そうか>

 おふくろ、うなずく。

<ソファに座って、くつろいだらどうじゃ? 寝っ転がってええぞ>

「あ、それいいね! 寝ようぜ!」

 チーニャに引っ張られた。

 ソファに寝転がる。手の指は絡め合ったまま。頭をくっつけ、足はそれぞれ放り出す。

 仰向けになった。

 じゃが・・・

 うーん、天井は真っ暗じゃけぇ・・・

 立っとったほうが良かったかも知れんな・・・

 と、思ったところで。

 

<ほじゃ、上も開けるぞ>

 

 ガラガラ、ガラガラ・・・

 なんと! 天井まで、開きよった!

 

 奥の壁のほうから開きはじめて、ちょうどソファの真上まで。

 部屋の半分ぐらいか?

 天井を覆っておった、黒いシャッターが開いたんじゃ。

 ほで・・・

 

 青空が、広がったわけじゃ。

 

「うわぁ・・・」

「空じゃ!」

 夏の青空。

 さえぎるものなく、広々と。

 まるで、屋外に寝転んどるようじゃ。

 じゃがホコリや虫に邪魔されることがない。窓に守られた、この安心感。

 空を見る楽しさだけ、満喫できる。

「これさぁ・・・」

「なんじゃ?」

「夜、ここに来たら、素敵だよね・・・」

「ああ、そうじゃな・・・」

 『手配しろ』っちゅうコトじゃな? はいはい。

「今夜にでも、また来るか」

「うん・・・」

 と、しゃべっておると。

 

 ズシーン、ズシーン。

 低い足音が、頭の上から聞こえて・・・

 

 にょきっ! チラーニどんが、現れた。

 

「うおっ!?」

「うわ! びっくりさせんなよチラーニ」

<へへ~んw>

 チラーニどん。

 おふくろさんの声玉を使って、しゃべりかけてきた。

 本人は窓の向こう側──つまり屋上に居るので、ふつうにしゃべっても、聞こえんからじゃな。

 でじゃ。

<虹のお届けで~す>とか言い出した。

「は?」

<よいしょ>

 チラーニ。でっかいジョウロを出した。傾ける。

 

 ざー・・・パラパラパラパラ・・・

 ジョウロから、水が。天窓に。

 

 水滴がはじける。キラキラ輝いて、窓の向こうで踊り回る。

 その粒子に夏の日光が当たって・・・

 小さな虹ができた。

 

「なるほどw」

<ほんじゃね~>

「みんな、虹が出たよ。ほらほら」

「キャーーーン!!」

 

 ソラトバンとチーニャの回りに、コボルドが群がった。

 ぐっちゃぐちゃになって、みんなで仰向けになる。

 水滴たっぷりの天窓にかかった、小さな虹を見上げながら・・・

 

「・・・。」

「・・・。」

 ソラトバンとチーニャは、子供と一緒に、お昼寝をしたんじゃ・・・。

 

◆ 10、清雅の一言 ◆

 

 ソラトバンは、この展望台が、気に入った!

 

 早速、その日の夜更けに、チーニャと2人っきりで再訪じゃ。

 料理長のコボルド女将にチーズケーキ(チーニャの好物である)とワインを頼んで。

 おふくろさんには、人払いを頼んでな。

 静かに星空を眺めたんじゃ。

 

 で、清雅たちが里帰りから戻ったんで、これも案内した。

「ここが展望台かァ~!」

 清雅と兄鬼たち。窓ンとこへ行って、「おお~!」と、景色を楽しむ。

 今日もいい天気。緑が眩しく、牛と羊は可愛らしい。

 さらに、今日は特別なモンが見れた。

「やっとるの~」

 

 トンボ、チラーニ、浮鬼。

 そして、黒トンボ(中身はドリナラーニ)。

 大地を蹴って坂道を駆け下り、飛び上がる──

 

 飛行訓練に励む、鬼械人たちの姿じゃ!

 

 展望台から見る鬼械人は、まるで夢の中の巨人のようじゃ。

 ソラトバンが子供の頃、何回も夢に見た巨人の・・・

「おお~!」

 清雅が目の前に頭突き出してきた。

 なんじゃ。見えんじゃろ。まあ初回じゃから夢中になるんはしょうがないが。

 避ける。

「なるほどォ~!」

 清雅が目の前に頭突き出してきた。

「わざとか!」

「ニキキw」清雅笑う。

「まったくもって・・・」

 しばらく2人で頭をあっちやりこっちやり、見ようとし、邪魔しようとする、しょうもない戦いをした。

 疲れたので、やめる。

 3人の兄鬼たちを挟んで、清雅の反対側に行った。

 清雅は若干不満そうにした。

 じゃが、これはしょうがないんじゃ。

 清雅と変にイチャイチャしたら、兄鬼らが殺気立つ。

 最近は、チーニャも不機嫌になるし。針のムシロじゃ。しょうがないんじゃ。

「足元」

 ボソッと。あちこち見回しとったゴブリン兄鬼が、唐突にしゃべった。

「足元がどうした? 数鬼(すうき)どん」

「・・・。」

 数鬼どん。こっちを見上げて、片眉上げる。

 『なんでわかった』っちゅう意味か?

 そりゃ、しゃべり方が唐突だからじゃ。

 あと、キョロキョロと周囲確認するクセがあるじゃろ。

「死角」

「ああ、そうじゃな。足元、ふつうなら死角になるもんな。急所じゃ、急所」

 受け売りするソラトバンである。

「この塔攻めるヤツらは、反対側の足元から来るじゃろうな」

「ウム」

「っちゅうコトは、そっちは、タコ浮かべにゃならんか」

「操作すんの気ィ使うやろ。タコは」と、別な兄鬼。

「なるほどそうじゃな。正鬼(しょうき)どん」

「・・・。」

 アンタもわかるぞ。

 数鬼どんがわかれば、あとの2人は見分けつくんじゃ。

「天井も開く・・・っちゅう話やったな?」と、清雅のそばの兄鬼。

「そうじゃぞ、再鬼(さいき)どん。開けてもらおうか」

「・・・。」

 アンタが一番見分けやすいぞ。

 1人だけごっつい棍棒持っとるし、清雅の背後に立つからな。見るからに『護衛』じゃ。

「どうしたんじゃ。再鬼どん。正鬼どん。数鬼どん」

「チッ」「張り合いないのう」「ネタが・・・」

「なんでじゃ」

 見分けたら見分けたで、もの足りんらしい。

「ま、アレじゃ。おふくろー。天井も頼めるかのう?」

 

 ガラガラ・・・。

 天井のシャッターが開いた。

 

 天井から、光が入って来る。

「ええな、これ・・・」

 清雅たち、あらためて感嘆する。

「そうじゃろ、清雅さんよ」

「いっそ、ココ、乗り手席みたいにしたらええんちゃう? 声玉置いてやー」

「艦橋か・・・」と再鬼どん。

「そうそう。タコ千里玉とかも置いてやー」

 

 ガラ、ガラ。

 天井シャッターがちょっと閉じて、開いた。

 

 今日、おふくろさんの雑務ユニットは、飛行訓練に付き合っとる。

 ほじゃけ、会話ができん。全艦放送はできるじゃろうけどな。

 代わりにシャッター動かして返事してきよった。

 

「いまのはなんじゃ。『はい』か」

 ガラ、ガラ。

「どっちじゃwww」

 

 ま、こうして。

 清雅の一言から、展望台は、艦橋としても使われるようになったんじゃ。

 

◆ 11、緊急格納 ◆

 

 ジリリリリリ・・・!

 けたたましいベルの音で、ソラトバンは眠りから覚めた。

 

「ソラ、起きろ。ソラ」

 チーニャに揺さぶられる。彼女の乳房が、腕に当たった。

「・・・いま起きたわい。何事じゃ?」

「わからん。『緊急移動に備えよ』のベルだ」

「緊急移動」

「とにかく、座席に着くぞ」

「お、おう」

 壁に固定された椅子に、それぞれ座る。

 チーニャは、裸にソラトバンのシャツをかぶっただけの姿。

 ソラトバンは、パンツはいただけである。

 

≪これより、緊急で、地下格納をする≫

 全艦放送が鳴り響いた。

≪外に居る者は、戻るな。塔から離れて、村に向かえ。・・・中の者は、席に着け≫

 しばらく放送がくり返される。

 ふだんなら、ここからさらに、点呼をするのだが・・・

≪では、動く≫

 今夜は、いきなり全塔が動き始めた。

 5基の塔が接続された状態のまま、地面から10尋(人間10人分)ほどの低空に上がる。

 

「ホントに緊急だな」とチーニャ。シャツから伸びた太腿の白さが、なまめかしい。

「うむ」

「着陸したら、すぐ服着たほうがいいぞ、これは」

「わしら、待機になるじゃろうしな」

「うん」

 加速。

 水の残っとったコップが、床に転がり落ちた。ばしゃー。

「あー・・・」

「気にすんな。ママと村が無事なら、他はどうとでもなる」

「レモンちゃん、大丈夫かのう」

「基本的な訓練はした。ルディーニャの隣の部屋にしといたから、大丈夫だろう」

 減速。

 さっき落ちたコップがゴロンゴロン転がって、壁にガンとぶつかった。

 停止。

 ガコン・・・。

 小さな衝撃が響いてきた。

「玄関が開いたな」とチーニャ。

「誰か降りるんか?」

「チラーニだろ。ドア開けに行くんだ」

「ドア」

「はねあげ戸。でっかいヤツ。ちょうど、この前宴会やった・・・」

「ああ、幽雲どんの、落とし戸塹壕(ざんごう)」

「そうそう。アレみたいな感じで、縦穴をふさいであるのさ」

「ははぁ・・・」

「把手も何もなくてな。鬼械人の魔術でないと、開けれない」

「なんとまあ」

 しゃべっとると、弐ノ塔が降下し始めた。

 一瞬、髪の毛が逆立つほどの降下速度である。

 チーニャのおっぱいがたっぷんたっぷん揺れるのを、ソラトバンはじーっと眺めた。

 彼女、揺れ動く乳房をシャツの上から支えて、「もう・・・w」

「スマン」

「余裕あるよなオマエは・・・」

 減速。

 着陸。

 ここは、いつものおふくろさんであった。静かで優しく、身体に負担のない動きである。

 

≪・・・着陸完了。移動を許可します。ただし、大きな音を立てないように。くり返す・・・≫

 恋人たちは即座にベルトを外して立ち上がった。

 チーニャが速い。

 シャツを脱ぎ捨てハダカになり、白い肌──美しいふくらみを揺らしながら、ブラジャーに手を通す。

 見たい・・・などと馬鹿なことを考えながら、ソラトバンも服を着る。

≪乗り手は、玄関格納庫へ集合せよ。くり返す・・・≫

 着終わるのは、男のほうが速かった。

「先に玄関行っとくで」乗り手甲を引っ掴む。

「手前で止まって、左右確認だぞ! チラーニに踏まれるなよ」

「了解じゃ!」

 ソラトバン、玄関・兼・格納庫へ走る。

 扉は開いておった。立ち止まって、左右確認。

 チラーニと、目が合った。あっちも玄関で左右確認しとるところであった。

「お先にどうぞ」

<は~い>

 チラーニはネコのように軽い足取りで入って来て、出口すぐそばの壁にくっついた。

<もういいよ~>

「はいな」

 ソラトバン、壁沿いに歩いてトンボのところへ。

 続いてチーニャが、やはり左右確認してから、壁沿いにチラーニのところへ。

 次に、海鳥型鬼械人・ウミドラーニが、通路をバタバタ歩いて現れた。格納庫に入ると、離陸。チラーニのハッチに直接飛び込む。なんか、ガツン! ボテッ。と音がしたが・・・。

 清雅と三兄弟が現れ、正鬼・数鬼が、赤い六腕ロボ(腕は2本だが・・・)の浮鬼へ。

「装備しとこう」とチーニャ。

 乗り手甲の装着開始。

 おふくろさんの雑務ユニットが入って来た。

<乗り込め。通信で説明する>

「了解じゃ」

 トンボが片膝ついて、手を出してくれた。ソラトバン、その手に、膝に、飛び上がる。ハッチから潜り込んだ。

 飛行時に身体を支える鞍をまたぎ、座席に背中を合わせる。

<おふくろから通信じゃ>

「うむ。つないでくれ」

<こちらおふくろ。帝国軍の飛行兵器が、間もなく上空を通過する見込みじゃ>

「帝国の、飛行兵器?!」

<うむ>

 

<『空飛ぶ島』じゃ>

 

◆ 12、空飛ぶ島 ◆

 

 外は、夜明け間近であった。

 明るくなりゆく空。夏の早い目覚めの陽光が、差し始めたところである。

 その空に。

 陽光を遮る巨影が、姿を現わした。

 

 それは、ゴツゴツとしたシルエット。

 遠い山脈のあいだに、はっきりと現れた黒い影。

 『鷹の目』と『夜目』を合わせて、見てみると・・・

 

 まさに『空飛ぶ島』であった。

 

 そうとしか言いようがない。

 岩山が、そのまんま、空飛んどるのだから。

 

<幽雲洞が、警報を回してくれたんじゃ>

 と、おふくろ。

<『秘密兵器』のウワサは知っとったが、まさかこんなモノとはな>

<ホントに帝国なの? ママ>とチーニャ。

<技術的にはあり得ん。じゃが、状況的に、帝国軍としか思えぬ>

「おふくろとくらべて、そうデカいわけじゃないな」

 ソラトバンは、報告した。

「せいぜい2~3倍かのう? 頂上と麓に、鬼械人が乗っとるわい」

 昇ってくる朝日で、逆光になって、見づらいが・・・

 岩山に埋もれるように配備された鬼械人部隊を、かろうじて発見できた。

「山の麓に、ナンガラック2鬼と蒸気械弩砲1鬼の組み合わせが3班。頂上に弩砲が1・・・あ、“鉄拳”も1じゃ」

<合計、ナンガラック6、弩砲4、“鉄拳”1か?>とチーニャ。<紋章は?>

「そうじゃ。紋章は、明らかに帝国じゃな」

<マジかよ・・・山は、回転してるか?>

「いや、しとらん」

<こっち向いてる側だけで、その数ってコトか>

「そうじゃ。それと、頂上の弩砲が、なんかおかしいな」

 

 頂上に、“鉄拳”ピンガデオスと、蒸気械弩砲が、1鬼ずつ居るのだが。

 弩砲のほうが、なんか・・・キラキラしとるんである。

 まず、色がちがう。

 黒くない。光沢のある銀色である。

 さらに、金の房飾り(ふさかざり)が、ゴテゴテと付いておる。

 パレードでもしてきたような姿であった。

 

<神馬の飾りだな>と、ハポノ人のチーニャさん。<儀式のとき、馬に着せるヤツだ。ホントに帝国か・・・>

「飾りじゃと?」

<偉い人が乗ってるんじゃないか?>

「うーん。中は見えんしのう。──あ、いま1人、屋上に見えた。トサカついた兜(かぶと)かぶっとったぞ」

<帝国軍なのか・・・。部隊に動きはあるか?>

「ない。っちゅうか、完全に休止中に見える。ハッチ開けて立ちションしとる馬鹿が居る」

<・・・好機>と、数鬼。

<やりますか?>と、正鬼。<ここで皆殺しにできれば・・・>

<ダメじゃ>と、おふくろ。

<落とすんなら、初回のいまが好機ですがのう?>

<その通りじゃが、いまここではダメじゃ。なんでといってじゃ、>

 おふくろさんは、説明した・・・

 

 <1、一方的な殺傷は、我が国・弐ノ塔の倫理に反する。撃つなら、警告してからじゃ。

  2、・・・が、警告して即座に攻撃された場合、コボルドを守れん恐れがある。

  3、また、速やかに撃墜できても、どこに落ちるか? 自爆せんか? など、不安が残る>

 

 ・・・そして、決定した。

<今回は、隠れてやり過ごす>

<了解しました>

<ソラ>と、清雅の声。<気ィ付けろ。帝国のルーン魔術師は、『鷹の目』使うぞ>

「なんでわしだけ?」

<『鷹の目』距離で、目ェ合わせてまう可能性あんの、オマエだけやろ>

「あ、そうか。了解じゃ」

 

 トンボたち鬼械人は、弐ノ塔が姿を隠した縦穴から、小さな洞窟でカルデラの外に出ておった。

 この洞窟、以前、浮鬼(うっきー)で通ったことがある。

 あのときは、まだ、弐ノ塔の仲間ではなかったが・・・

 いまは、主力の1人である。

 『鷹の目』持ちのソラトバン鬼=トンボが、出口に一番近いところに立つ。

 片膝をついてハッチを開け、手の上にソラトバンを出しておる。このほうが『鷹の目』を使いやすいし、見つかりにくい。

 浮鬼は立ったまま、ソラトバンの盾となる体勢。

 チラーニは少し奥に留まり、タコを3機飛ばし、この洞窟に近付く密偵などがいないかチェックしておる。

 

 空飛ぶ島が、近付いてくる・・・

 まっすぐ、カルデラに向かってくる・・・

 その頂上・中腹・麓に、ローブを着た人間が1人ずつ居るのが、なんとか見えた。

 人間。おそらくは、ルーン魔術師。

 周囲を眺め・・・

 下界を眺め・・・

 こちらを・・・

 

「いかん!」

 ソラトバン、身を隠す。

 ハッチに飛び込み、座席に入りつつ、報告する。

「ローブ着た人間が少なくとも3人、見張りをしとる。『鷹の目』の恐れアリじゃ!」

<全鬼、飛行塔へ退却せよ。見張り所に移動する>

 

 鬼械人たちは、洞窟内に引き返した。

 縦穴まで戻ると、チラーニ飛行塔が玄関を開いて待っておった。

 乗り込む。

 飛行塔で移動して、別な洞窟の前に止めてもらう。

 鬼械人に乗ったまま、降りる。

 

 ・・・ちなみに、トンボはこういう低速移動は苦手である。

 歩くたびに飛行塔が揺れ、地面が割れる。

<ワシも、浮上筒、造ってもらうか・・・>トンボは、そうつぶやいた。

 

 見張り所に到着。

 山脈内に巧みに隠された、洞窟見張り所のひとつである。ここは、カルデラ内の見張り所。

 上空は見えん。逆に言えば、上空からもこっちが見えん。よって、見つかる恐れは少ない。

 見張りをしつつ、万が一に備えて、待機をする。

 

 朝日が、カルデラに差し込んで来た。

 その光が、陰った。

 

 カルデラの上空に、空飛ぶ島がやってきたのだ。

 

 コボルドどもが家から飛び出し、村の通りで「アオーン!」「オオーン・・・!」と、鳴き出した。

<騒いでおりますぞ>と正鬼。

<しょうがない。コボルドはこういうモンだし・・・>とチーニャ。<素人に見えることを期待しよう>

 その、コボルドどもの姿。

 影に呑み込まれる。

 小さなコボルドの家々。

 影に呑み込まれる。

 空飛ぶ島の落とす、冷たい影に・・・。

 

 ソラトバンは、不思議な衝動に駆られた。

 いますぐ列電魔旋砲をあいつにブッ放したい・・・という、凶暴な衝動である。

 それが『恐怖』だと気付くのに、しばらくかかった。

「くそっ」

<ガマンじゃ>トンボどんは、理解してくれた。<戦士はガマンじゃ>

「戦士はガマンか」

 グッと握りを握る。トンボどんは、力強い反応を返してくれた。

 

 上空から、たっぷり時間をかけて、カルデラを観察してから・・・

 空飛ぶ島は、悠然と飛び去っていった。

 

◆ 13、セイレーンと3人の貴族たち ◆

 

 さて。

 その、空飛ぶ島であるが。

 

 この岩山の頂上には、ソラトバンが見た通り、妙な蒸気械弩砲がへばりついておる。

 金銀キラキラの、パレードでもしとるかのような、蒸気械弩砲である。

 その、屋上に・・・

 

 レラというセイレーンの、玉座があった。

 

 ・・・屋上である。中ではなく。

 ふつうは弩砲が装備されとるところ、それを取り外して、豪華な玉座を設置しとるのだ。

 レラは、その玉座に座っておった。

 金銀キラキラ飾りの服を着せられて。

 つややかな黒い髪を、ギリギリとキツくねじ上げられて。

 クジラみたいな足ヒレを、どてーんと投げ出して。

「・・・。」

 見回す。

 屋上には、3人の男がいた。

 そのうちの1人。レラの足元に控えとる男が、見上げてきた。

 30代後半。ほっそりと背の高いハポノ貴族。

 役職は『参謀』だそうである。名前も聞いたが・・・レラは、覚えていなかった。

「お疲れですか? レラ様」

「飽きた」レラはボソッと答えた。

「おお! このように偉大な成果も、御身には些事(さじ)に過ぎませんか?」

「いだい」

「ええ。この世でもっとも偉大な御方ですよ、御身は」

 参謀は、流れるようにお世辞を言った。

「なにしろ、巨大な岩の要塞(ようさい)を、空に浮かべてしまうのですから!」

「フン・・・」

 レラは目をそらした。

 屋上の端っこ。転落防止の柵が巡らされ、金の房飾りがブランブラン揺れておった。

「・・・亡き魔王にくらべれば、私など、偉大でもなんでもない」

 

「参謀閣下には、お祝いを申し上げましょう」

 次に口を開いたのは、屋上の隅に座っとる戦士であった。

 こちらも30代後半。『鬼械人部隊長』だが、名前はやはり忘れてしまった。

「・・・なんのお祝いです?」と参謀。

「今の、コボルドの村だ」

「あの村が何か?」

「税を搾り取れる。ミェンノー大臣閣下の、もっとも大切にしておられることでしょう」

「ご冗談を。ミェンノー閣下は、帝国の繁栄を、第一に考えておられますよ」

「まこと、その通り!」

 3人目が口を開いた。

 こちらは、おそらく最年長。ただし、髭は黒々としておる。

 房のついた兜をキッチリかぶって、いかにも軍人という風体。

 役職は、『天空将軍』だったか?

「このような切り札を、派閥の異なる我らに預けて下さった。帝国を第一に考えておらねば、できることではない!」

「・・・。」

 3人は、薄い笑いを浮かべたまま、睨み合った。

 レラは鼻を鳴らした。「フン」

 

 空飛ぶ島は、晴れた夏空を飛んでゆく。

 やがて。

 太陽が、東の空にはっきりと姿を現わしたころ。

 参謀が「あそこが第一の目標です」と、下界を指差した。

 

 前方に、険しい岩山があった。

 岩山には、大きな洞窟があった。

 洞窟の入り口には、ズラリと並んだ神像──の、残骸があって。

 びっくりしてこちらを見上げる、ゴブリンどもの姿があった。

 

「撃竜界(げきりゅうかい)。何度滅ぼしても人喰い鬼どもが集まってくる、悪の根源です」

 

◆ 14、空飛ぶ島、爆撃す ◆

 

「では、レラ様・・・」

 天空将軍が、セイレーンの娘の顔色をうかがう。

「洞窟の真上で、この要塞を停止して頂けますかな?」

「・・・よかろう」

 レラはため息をつきつつ、手を伸ばす。

 玉座の脇に、無造作に置いてあった、板を取り上げた。

 淡い黄金色をした、金属板である。

 幅3尺。長さ4尺。レラの上半身より大きい板である。

 それでいて、レラがヒョイと持ち上げれるほどに、軽い。

 雑に扱う彼女が、うっかり玉座に板をぶつけると・・・

 

 コォン・・・・・・

 澄んだ響きが、広がった。

 

 3人の男には、その金属が何なのか、さっぱりわからなんだ。

 彼らが馬鹿だからではない。

 帝国には存在せん金属だったからである。

 

 ──ソラトバンがここに居れば、「神竜甲じゃないか」と、言い当てたであろうが。

 

 レラは、その神竜甲の板を、表向けた。

 板の表には、びっしりと、小さな文字が刻まれておった。

 

 それは、極めて小さな文字であった。

 ──レラの指先ほどのサイズに、16×16文字も、並んでおる!

 それは、極めて精妙な細工であった。

 ──複雑怪奇なカクカクした画数の多い文字が、正確に刻まれてある!

 

 鬼械人の、呪文版(じゅもんばん)であった。

 

 呪文版によって、鬼械人は生まれ、呪文版によって、現世につながれる。

 呪文版が壊れると──トンボがそうなったように──鬼械人は、死ぬんである。

 

 3人にも、これはわかった。

 蒸気械人にも呪文版は入っとるからである。まあ、神竜甲ではなく、銅版とかだが・・・。

 3人が、喉から手が出るような表情で見つめる中。

 レラは、呪文版を素手でペタペタさわって、指紋だらけにしつつ・・・

 響き渡る声で、呪文を唱えた。

 

 ≪魔王の叡知の継承者、マテレーニャ・マレッジラゲーニャが、

  最古巨夫王(さいころっぷおう)の娘・妙雅の技を、追憶(ついおく)す。

  冥界の定めに従い、死者の身体を傷つけはせず・・・

  いっとき、彼女の技能を、借り受けまする≫

 

 すると。

 

 ご、ご、ご、ご・・・ギシギシギシ・・・ズ、ゴ、ゴ、ゴ・・・ゴォォン・・・!

 空飛ぶ島が、きしみ、ぶつかり合い、地震のような音を立てながら・・・

 

 指定された空中で、停止した。

 ギコギコ・・・と、岩山の各部を上下動させつつ、分裂することなく滞空状態となる。

 

「・・・よろしいですかな?」天空将軍は、汗を拭った。

「うむ」

「では、作戦にかかれ! 再起をもくろむ人喰い鬼どもに、帝国の力を思い知らせてやれ!」

 命令が飛ぶと。

 レラたちの足元。

 蒸気械弩砲の内部で、通信士が立ち上がった。

 銅鑼を持って、ハッチから出る。そして、銅鑼を叩いた。

 

 ゴォォーン! ゴンゴンゴォォーン・・・!

 と、一定のリズムを保って、打ち鳴らす。

 

 この銅鑼信号を聞いて、岩山の麓のナンガラックが、動き出した。

 ナンガラックが、足元の岩を取り上げる。

 もともと用意してあった岩である。

 人間の力ではビクともしない、巨大な岩である。

 その、巨岩を。

 

 空飛ぶ島のフチから、落とした。

 

 撃竜界入り口で右往左往する、ゴブリンども目掛けて。

 

 岩山の麓には、東西南北(出発時点で)に、4班の蒸気械人がいた。

 各班が1つずつ、巨岩を投げ下ろし・・・

 

 1発目。入り口の右手にハズレ。だが、樹木に当たって砕け、破片がゴブリンの頭上に降り注いだ。

 2発目。入り口の左手にハズレ。これは単純に森の中に着弾した。

 3発目。入り口の真上の岩棚に命中。岩棚を砕き、岩石の土砂崩れとなって、入り口を襲った。

 そして4発目。入り口から逃げようとしたゴブリンどもの目の前に落ちた。

 ゴブリンどもは、腰を抜かして、洞窟内に逃げ戻る。

 

 そこに、次の4投が降り注ぐ。

 ナンガラックは、各班に2鬼ずつ配置されとるので。

 入れ代わり立ち代わり、岩を落としてゆくんである・・・

 

 3巡目を過ぎて、4巡目に入ったところで。

 入り口が、崩れた。

 支柱がへし折れ、洞窟が崩落し、そこに巨岩が重なって・・・

 もはや、どこに入り口があったかもわからぬほどに・・・

 撃竜界入り口は、埋め立てられてしもうた。

 

「攻撃を終了せよ──我々の、圧勝だ!」

 天空将軍は、快哉(かいさい)を上げた。

「人喰い鬼も、これで帝国の力を思い知ったであろう。これより、第二攻撃目標に向かう!」

 

◆ 15、乗駆鬼復興隊 ◆

 

「中へ入れ!! 中へ!!!」

 オーガの若者が、もんのすごい大声で、叫ぶ。

「道具なんぞ、放っておけ!! 資材も、うっちゃって構わぬ!! 早く入れ、奥へ!!」

 崩れる洞窟。

 岩、土、泥! ──もうもうたる土煙!

 その中を走り抜けて、ゴブリン作業員とオーガの若者は、洞窟の奥に飛び込んだ。

 入り口が崩れる音がする。地響きが伝わってきた。岩の破片を含む土煙が、ドッと押し寄せて来た。

 土煙と、空気の津波!

「ウワア!」

 吹っ飛ばされるゴブリン作業員を、オーガの若者は引っ掴んだ。「伏せておれ!!」

「た、助かったわい・・・乗駆鬼(ジョッキー)の兄者」

「ああ」

 

 なんと。

 このオーガの若者は。

 ソラトバンの友達(?)の、乗駆鬼というオーガであった。

 

 乗駆鬼。

 幽雲洞防衛戦のあと、ほとんど休む間もなく、故郷に戻って来たんである。

 幽雲やダークエルフたちには、時期尚早(じきしょうそう)だと、反対されたのだが・・・

「早く戻りたい」「死ぬ前に、故郷を見ておきたい」と、身内に、せっつかれ。

「何をビビっておる。バッツワーノは死んだのに」「オーガのクセに」と、挑発までされて。

「この俺が、ビビっておるだと!!」

 短気な乗駆鬼。

 キレてしもうた。

「よかろう。見せてやる。この乗駆鬼、決してビビってはおらんということをな!!!」

 

 幽雲様(ため息ついとった)から、資材と道具を買い込んで。

 命知らずの男だけを選んで、戻って来たのだ。

 『乗駆鬼復興隊』とか言われて、ちょっといい気分になったりもしたのだが・・・

 

 やはり、時期尚早であった。

 

「クソ。なんだ、あの空飛ぶ岩山! せっかく修復したものを!!」

 崩れ落ちた入り口を見て、舌打ちする。

 ショベルもツルハシも、支柱を立てる道具も資材も、埋もれてしもうた・・・。

 さっきのゴブリンを立ち上がらせ、代わりに、ケガして倒れとるゴブリンを抱え上げる。

 オーガの怪力。小柄なゴブリンを、片手で軽く抱き上げる。

「みんな、立て。いったん退却して、やり直しじゃ」

「ハイ・・・」ゴブリンどもは、元気がない。「しかし、どこから逃げるんです?」

「なんだ。おまえたち、知らんのか?」

「何をじゃ?」

「知らんようだのう?」

 乗駆鬼は、あえて、ニヤリと笑って見せた。

「幽雲様が掘ってくれた、地下運河じゃ。未完成だが──ちゃあんと、脱出はできるのだ!」

 

◆ 16、弐ノ塔、会議する ◆

 

 一方、ソラトバンたちは。

 空飛ぶ島が立ち去ったのを見てから、本塔に戻った。

 

 暗闇の中の、本塔・・・。

 

 ソラトバンは『夜目』で、その姿を見ることができた。

 銀黒まだらになった、おふくろさんの姿。

 光のない、地の底──地底湖のそばに、しょんぼりと、座っておる。

 

 格納庫に戻った。

 コボルド整備士のおやじを交えて、その場で会議をする。

 

<今後、どうするか>と、おふくろさん。<各自、意見を述べよ。1行で>

「外人やが、よろしいか?」と再鬼。

<うむ。ぜひ意見をもらいたい>

「ほな・・・先ほど、正鬼も提案しとったが。やはり、撃墜すべきやと思いますわ。アレは、危険や」

「兄に同じ」と正鬼。

「ウム」と数鬼。「落とし方」

「ウチは、今朝の対応は正しいと思う」と清雅。「六間洞は・・・たぶん、協力はできませんわ」

「いつものことだもんな」とチーニャ。

「ア? ・・・ほな、チー姉はどないすんねん」

「おまえと一緒さw ・・・隠れてガマンする。イライラしながらな」

<コボルドを放っといて?>とチラーニ。<オレは、隠れながら、反撃していくべきだと思うね>

<ワシゃ、ソラに任す>トンボは棄権(きけん)した。

「なんでじゃ」

<なんでと言って、未来のことは、これから親になる若モンが決めるべきと、考えとるからじゃ>

「ジジイみたいなコトを・・・」

<ジジイじゃけぇ>

<ワシ、敗北、不快>と言ったのは、整備ロボ・ドリノンに憑依(ひょうい)中のドリナラーニである。

<同意。怒リ心頭>おふくろの声玉を借りて、新入りナンガラックのロナンガラーニ。

<拙者も怒髪天でござる!>ウミドラーニがバサバサした。<オチオチ釣りもできんでござる! アレでは!>

「たしかに」整備士のおやっさんがうなずく。「ここじゃ、塔の点検もできんし・・・家族のコトも、心配でござる」

 

 おふくろさんが、ソラトバンを見る。<おまえさんはどうじゃ>

 

 ソラトバンは、ドリナラーニどんを見た。

 蒸気械人ナンガラックとして生まれ、目も耳も口もふさがれて、こき使われ・・・

 ドリノンでちょっと浮上するだけで、<タノシイ!>と言うとった・・・

 黒トンボで自由に飛べて、どんなにか、嬉しかったであろう。

 そんな男(?)の姿を、見て。

 

「わしも、あきらめるのはイヤじゃ・・・」

 と、結論をした。

 

 「わしは、空飛びたいんじゃ。

  あんなモンで脅されちゃ、自由に飛ぶことはできんようになる。

  そもそもにしてじゃ。

  このカルデラは、わしらの国じゃろ?

  なら、わしらが守るのが、当然じゃないか。

  なんでコソコソする?

  帝国より圧倒的に優れた鬼械人を、友達にしといてじゃ」

 

 すると。

 

<1行でと言うたじゃろ>まず、おふくろにツッコミ喰らった。

「オマエ、24時間起きとくつもりかァ~?」清雅にもダメ出しされた。「『鷹の目』使えるん、オマエだけやねんぞ?」

「そうだそうだ。バーカバーカ」チーニャには、子供みたいな絡み方された。

<気持ちはわかるけどさ~、具体性がないよね~?>チラーニにはネチネチした感じで言われた。

<・・・。>頼みの綱のドリナラーニどんは、なんか考え込んでおる。

「おい!」

 ソラトバン、ちょっとキレた。

「なんなんじゃ! わしにだけ、寄ってたかって!」

<ふははwww>トンボどん、面白がる。

<静粛に(せいしゅくに)>

 おふくろさん、二叉フォークになった手を上げた。

<ほじゃ、決を採ろうじゃないか。──再鬼殿の案がええと思う者は?>

 

 ・・・採決した結果。

 

<ソラトバンに賛成多数>

「なんでじゃ」本人、当惑である。「あんなボロクソに批判しといてからに」

「あんなん『ボロクソ』言わへん」と清雅。ちなみにソラトバンに賛成である。

「言っとくけど、条件付き賛成だからな?」<納得できる作戦じゃなきゃ、手のひら返すからね~>と、チーニャ&チラーニ。

<・・・。>ドリナラーニどん、まだ考え込んどる。ただし、彼らも賛成である。

「くそ。まあ・・・ええけどもが」

 ソラトバン、うなずいた。

「じつはな。ちょっと、思いついたコトはあってな」

<なんじゃ。言うてみよ>

「幽雲洞のアレを、マネさせてもらおうかとな」

「アレってなんや?」

「それはじゃなァ~、清雅さんよ、」

 ソラトバン、ニヤリとする。

 

「パチモン弐ノ塔作戦じゃ!」

 

◆ 17、パチモン弐ノ塔作戦 ◆

 

<ほほう。パチモン弐ノ塔作戦とな?>

 幽雲どんは、乗り気になった。

 

 警報をもらったお礼と、協力の打診で、弐ノ塔が通信したのだ。

 すると幽雲どん、予想以上に喰い付いて来たんである。

 

<じつは、撃竜界に行った乗駆鬼どもが、通信不能になってのう・・・>

<ほう?>

<おまえさんがたに協力し、かつ、乗駆鬼どもを救うアイディアが、わしにはある!>

<先に言うとくが、カルデラの周囲は掘るんじゃないぞ? トンネルの衝突が恐いけぇ>

<・・・。>

<返事をせんか!>

 

 ──若干の不安はあったが。

 

 とにかく、穴堀り巨人の協力も取り付けて。

 『パチモン弐ノ塔作戦』が発動したのである。

 いったい、どんな作戦であったのか?

 それは、こういうことだったのです・・・

 

 翌日。

 夏の空を、誰はばかることなく飛ぶ、空飛ぶ島。

 ショラン・ギサンチ州に入る直前あたりで・・・

 

≪正体不明の、空飛ぶ島よ!≫

 

 無謀にも、進路をふさごうとする、鬼械人が現れた。

 淡い黄金色した、その鬼体。スラリとして、美しい。

 背中に4枚の羽を持ち、それを振動させて飛んでおる。

 その主張するところは・・・

 

 ≪こちらは、弐ノ塔の飛行隊じゃ!

  なんで、空からみんなを脅かした!

  二度と我が国を脅かすんじゃない。即刻、立ち去るんじゃ!≫

 

「なんだアイツは?」

 天空将軍が首をひねった。

「報告にない型だな。鬼械人部隊長、何か、わかるかね?」

「わかりませんな・・・」

「参謀」

「恥ずかしながら、私も存じませぬ」

「うーむ・・・」

 天空将軍は、玉座のレラをチラッと見るが、セイレーン様は知らんぷりである。

「・・・弐ノ塔とは、『空飛ぶ塔』の自称であったな? だが“長腕”ではない」

「ええ、ちがいますね」と鬼械人部隊長。「そもそも、ヤツは何を言っとるのです?」

「領土を主張していましたが」と参謀。

「あり得ん。帝国と戦えると思っとるのか?」天空将軍は、首をひねる。「野蛮人の考えることは、わからんな」

 

 ──彼らは、トンボのことを知らなんだ。

 バッツワーノは、報告を上げていなかったのだ。トンボを反乱に使うつもりだったからである。

 早馬制度が機能していれば、情報も集まったハズだが・・・そのチャンスを潰したのは、ハポノ貴族自身であった。

 

 というわけで、未知の鬼械人(トンボ)には、こう応酬した。

 

 ≪こちらは、ゾーゼ・メッカリュテック帝国、天空戦団である!

  『弐ノ塔』なる国家は、この世界に存在せぬ。

  ここは我が国の領土である。

  速やかに地上に降下し、臨検を受け入れよ!

  さもなくば、破壊する!≫

 

 これに「?」となったのが、トンボとソラトバンである。

<ワシを破壊するとか言うとるぞ?>

「爆鬼積んどるんかのう?」

<この距離で撃ったら、自爆じゃぞ。手間は省けてええが>

「わははw ・・・いや。わろとる場合じゃない。もしかしたら、秘密兵器があるかも知れん」

<ま、あってもなくても、作戦通りでええじゃろ>

「そうじゃな」

 とか言うとると。

 

 ぼーん。

 空飛ぶ島に配置されとる蒸気械弩砲が、撃ってきた。

 

 大きくハズレ。槍は地上に落ちてゆく。

 

<『力の筒探索』、反応ナシ。ただの槍じゃな>

「どこ狙っとんじゃ、ヘタクソめが」

<警告射撃じゃろ。次は当てて来るぞ>

「なんじゃ。そうか。・・・ま、作戦開始じゃ。外部放送開け」

<開いたぞ>

 

≪な、な、な、何をするんじゃー。攻撃するなら、敵とみなすぞぉー?≫

 ソラトバンの、情けない声に。

≪野蛮人ごときが、思い上がるな! 貴様らは、ただの害虫である!≫

 天空将軍は、厳しく返してきた。

 

<・・・おまえさん、演技ヘタクソじゃな>

「うるさいわい。次で逃げるぞ」

<あいよ>

 

 ぼぽぽーん。

 こっち向いとる弩砲3鬼が、一斉に撃ってきた。

 

≪ほげぇ~~~!!≫

 

 ソラトバン、握りと鐙をちょっとガチャガチャッとやる。

 支離滅裂な(しりめつれつな)、その操作。トンボは、あえて忠実に反応した。

 ガバッと足を開き、手で宙をかく。

 失速して、落ちる。

 地上スレスレで──森の木の枝、葉っぱを弾き飛ばしながら、やっとこさ、立て直す。

 弩砲をかわし、左右に蛇行する。

 必死で高度を上げて・・・このあたりで一番高い山へ、逃げ帰った。

 山の頂上の近くに、大きな穴が開いておる。天然の巨大洞窟である。そこに、トンボは飛び込んだ。

「・・・どうじゃ? チラーニどんのマネしてみたんじゃが」

<似とったわwww 笑い過ぎて、ホンマに落ちかけたぞ>

「おいおい」

 

 これを見た、天空将軍は。

「わっはっは! 見たか、あの無様な姿を!」

 腹を抱えて笑った。

「あの大罪人め。こんな雑魚を、『強大な敵』などと──よくも、議会を騙したものよ!」

「油断はいけませんぞ、将軍閣下・・・」

「忠告ありがとう、鬼械人部隊長! 君も、油断だけはせんようにな」

 天空将軍は、気前良く笑った。

「あんな雑魚相手に、傷ついてくれるなよ」

「・・・は?」

「君の出番だと言っておる」

「しかし・・・第二攻撃目標は、ショラン・ギサンチの暴徒どもでは?」

「そうだ。だが、途上に障害が現れたのだ。排除するのは、当然であろう」

 天空将軍は、片頬だけで笑った。

「それとも、君もあの大罪人と同じかね? 敵を過度に恐れ、逃げ回って予算を水増しする」

「まさか!」

「よろしい。安心したよ。──これより『空飛ぶ塔』一味を制圧する。鬼械人部隊は、出撃準備!」

「了解!」

 鬼械人部隊長は敬礼し、背を向けて走り、「『浮遊』!」と一言唱えて、飛び降りた。

 ふわ~ん・・・と、ただよった身体。

 少し離れたところに駐鬼しとった“鉄拳”ピンガデオスのてっぺんに、着地する。

 ハッチに入ってゆく鬼械人部隊長の姿を見送って・・・

 天空将軍は、セイレーンのレラを見た。

「レラ様。また、お願いできますかな?」

「あの洞窟に、近付けてよいのか?」

「ええ。まずは上空に。その後、私の指示で着陸をして頂きたい」

「近付けてよいのだな?」

「・・・? はい。どうかよろしく」

「よかろう」

「ぶつけないでくださいね」と、参謀。

「そんな愚かな失敗はせぬ」と、レラ。「・・・私はな」

「レラ様、参謀閣下、ここでは流れ弾の可能性がありますぞ。中へ」

 天空将軍は、みずから屋上のハッチを開けてくれたが・・・

「私はここでよい」レラは断った。「竜の翼に、矢玉は通じぬ」

「・・・しかし、鬼械人級の兵器ですぞ? 万が一があっては」

「くどい」

 レラは、ほほえんだ。

 なんとも魅力的な笑顔である。

 ハポノ貴族は、2人とも、ボーッとなった。

「私を信じよ。よいな?」

「・・・はい。失礼いたしました。レラ様。ただの人間であるところの我々だけ、中に入ります」

「それでよい」

 レラは鷹揚に(おうように)うなずく。

 そして、天空将軍が中に入ってから・・・

「馬鹿め。中に入っては、脱出ができんだろうが」

 

 バサリ。

 広げた腕は、いつの間にか、竜の翼になっておった・・・。




※このページの修正記録
2025/07/23
「12、空飛ぶ島」
 ソラトバンの報告内容を修正。
 ↓こう書いてましたが、正しくは ナンガラック2、蒸気械弩砲1 です。

 > 「山の麓に、ナンガラック1鬼と蒸気械弩砲2鬼の組み合わせが3班。頂上に弩砲が1・・・あ、“鉄拳”も1じゃ」
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