「ついに、『秘密兵器』が出撃するらしい」
近ごろ帝国では、こんなウワサが広まっておった・・・
「人喰い鬼どもを踏みつぶす、最強の兵器だとさ!」
「ミェンノー大臣が、私財をなげうって、帝国に寄付したらしい」
「これで、帝国に逆らう者はいなくなる。永久の平和が訪れるんだ!」
・・・この秘密兵器が姿を現わすまで、いま、しばし。
ソラトバンたちは、楽しい休日を過ごしておった。
◆ 9、日光浴 ◆
<展望台に案内しよう>
と、おふくろさんが言い出した。
「てんぼうだい」ソラトバンが訊き返すと、
<本塔、最上階にある。おいで>
おふくろさん、先導しだした。
「なんじゃ」
まあ、ついてゆく。
チーニャ、ついてゆく。侍女のコボルド・ルディーニャちゃんも、ついてゆく。
コボルドの子供、ゾロゾロゾロ・・・と、ついてゆく。
「チーサーネ先生、どこ行くの?」と、ガキんちょども。
「展望台だってさ」
「てんぼうだいってなにー?」
「見晴らしのいいトコさ」
「みはらしー?」「みはりー?」「みはるのー?」
<幽雲(ユーン)が、『造らせろ』とうるさくてのう>
「幽雲どんが造ったんか」
穴堀り巨人の、幽雲どん。
鬼械人の製造もやっとるからな。好きなんは、ダントツで穴堀りのようじゃが。
先日、弐ノ塔のおふくろさんを修理してもろうた。そん時、ついでに展望台くっつけたそうじゃ。
「わりと・・・目的とちがうコトに、情熱注ぐ御方じゃよな」
「趣味人って感じだよな」とチーニャ。
本塔に入る。
人間用の小型エレベーターで、最上階へ。
・・・ちなみに、このエレベーターは屋上に出れる。ほじゃけ、終点ひとつ手前っちゅうコトじゃ。
<ここじゃ>
案内されたんは、真っ暗な、広い部屋じゃった。
中央に、平たくて丸い・・・ベット(?)がある。
あと、壁が、倒れかかっておる。
手前と左右は、ふつうだが・・・
奥の壁だけ、向こうに倒れかけとんじゃ。
「壁が倒れそうになっとるぞ」
<傾斜させとるんじゃ!>
「見えんのだが」
チーニャ。部屋が暗いので、何が何やらわからんようじゃ。
超常の『夜目』を授かっとるソラトバンには、一目瞭然(いちもくりょうぜん)だったんじゃが。
<ま、手すりのとこまで、ゆくがよい>
「手すりな」
ふむ。奥の壁に、手すりがあるわい。
コボルドの高さと、人間の高さ。2本。
「・・・どこだよ?」
「奥の壁じゃ。ほれ」
チーニャの手を握る。彼女の指は、白くて優しかった。
「ん・・・」
チーニャ、ルディーニャちゃん(侍女役のコボルドちゃんである)の手を握る。
ルディーニャちゃん、コボルドのガキんちょAの手を握る。
ガキんちょA、ガキんちょBの耳を噛む。「キャン!」
「これ!」
ゾロゾロゾロ・・・と、暗闇の部屋を歩く。
「気を付けてな」
「何に? ・・・おまえに?」
「ちがうわいw 部屋の真ん中に、丸い・・・ベット? があるんじゃ」
「ソファかな?」
「ああ、ソファか、これ」
<ま、ま、手すりまでゆけ>
「ゆくけどもが」
行った。
<みんなついたか?>
「ハーイ」「ハーイ」「ハァーーーイ!!!」「はいはい」
<ほじゃ、開けるぞ>
「なにをじゃ」
ガラガラガラ・・・
目の前の壁が、開いた。
朝起きたとき、まぶたを開くように。
光が、差し込んでくる。その光は、足から膝へと上がってくる。
太腿が、お腹が、光に照らされる──
ついには、壁一面が光でいっぱいになった!
その光の正体は・・・
カルデラの光景であった!
おふくろさんの最上階から見下ろすカルデラの全景が。
透明な窓の向こう、いーーーっぱいに、広がったんじゃ!
「おお・・・!」
「キャーーーン!!」
「なるほど。展望台だ」
まるで、空飛んどるときのようじゃ。
夏の日光に照らされた景色が、足元から、ずーっと向こうまで広がっておる。
緑が、みずみずしい。
牛や羊が、小さく、可愛らしい。
湖がキラキラと輝いて、眩しい(まぶしい)。
そして、足元!
ほぼ真下が、見通せる!
壁が傾斜しとるから、ちょっと頭ァ突き出しゃ、真下が見れるんじゃ。
塔の基部が見える。
点検の仕事しとるコボルド整備士の、頭のてっぺんもじゃ。
吸い込まれそうじゃ。
コボルドのガキんちょ、大興奮。
ベターッと窓にくっつき、あるいはクルクル走り回ってスッ転ぶ。自分の尻尾を抱いて噛み付き、友だちと取っ組み合う。
ソラトバンとチーニャは、手の指を絡め合ったまま、景色を眺めた。
・・・で。
振り向いた。
雑務ユニット。黙って浮かんでおる。
「・・・おふくろ」
<なんじゃ>
「すごいぞ、これは!」
<そうか、そうか>
おふくろ、うなずく。
<ソファに座って、くつろいだらどうじゃ? 寝っ転がってええぞ>
「あ、それいいね! 寝ようぜ!」
チーニャに引っ張られた。
ソファに寝転がる。手の指は絡め合ったまま。頭をくっつけ、足はそれぞれ放り出す。
仰向けになった。
じゃが・・・
うーん、天井は真っ暗じゃけぇ・・・
立っとったほうが良かったかも知れんな・・・
と、思ったところで。
<ほじゃ、上も開けるぞ>
ガラガラ、ガラガラ・・・
なんと! 天井まで、開きよった!
奥の壁のほうから開きはじめて、ちょうどソファの真上まで。
部屋の半分ぐらいか?
天井を覆っておった、黒いシャッターが開いたんじゃ。
ほで・・・
青空が、広がったわけじゃ。
「うわぁ・・・」
「空じゃ!」
夏の青空。
さえぎるものなく、広々と。
まるで、屋外に寝転んどるようじゃ。
じゃがホコリや虫に邪魔されることがない。窓に守られた、この安心感。
空を見る楽しさだけ、満喫できる。
「これさぁ・・・」
「なんじゃ?」
「夜、ここに来たら、素敵だよね・・・」
「ああ、そうじゃな・・・」
『手配しろ』っちゅうコトじゃな? はいはい。
「今夜にでも、また来るか」
「うん・・・」
と、しゃべっておると。
ズシーン、ズシーン。
低い足音が、頭の上から聞こえて・・・
にょきっ! チラーニどんが、現れた。
「うおっ!?」
「うわ! びっくりさせんなよチラーニ」
<へへ~んw>
チラーニどん。
おふくろさんの声玉を使って、しゃべりかけてきた。
本人は窓の向こう側──つまり屋上に居るので、ふつうにしゃべっても、聞こえんからじゃな。
でじゃ。
<虹のお届けで~す>とか言い出した。
「は?」
<よいしょ>
チラーニ。でっかいジョウロを出した。傾ける。
ざー・・・パラパラパラパラ・・・
ジョウロから、水が。天窓に。
水滴がはじける。キラキラ輝いて、窓の向こうで踊り回る。
その粒子に夏の日光が当たって・・・
小さな虹ができた。
「なるほどw」
<ほんじゃね~>
「みんな、虹が出たよ。ほらほら」
「キャーーーン!!」
ソラトバンとチーニャの回りに、コボルドが群がった。
ぐっちゃぐちゃになって、みんなで仰向けになる。
水滴たっぷりの天窓にかかった、小さな虹を見上げながら・・・
「・・・。」
「・・・。」
ソラトバンとチーニャは、子供と一緒に、お昼寝をしたんじゃ・・・。
◆ 10、清雅の一言 ◆
ソラトバンは、この展望台が、気に入った!
早速、その日の夜更けに、チーニャと2人っきりで再訪じゃ。
料理長のコボルド女将にチーズケーキ(チーニャの好物である)とワインを頼んで。
おふくろさんには、人払いを頼んでな。
静かに星空を眺めたんじゃ。
で、清雅たちが里帰りから戻ったんで、これも案内した。
「ここが展望台かァ~!」
清雅と兄鬼たち。窓ンとこへ行って、「おお~!」と、景色を楽しむ。
今日もいい天気。緑が眩しく、牛と羊は可愛らしい。
さらに、今日は特別なモンが見れた。
「やっとるの~」
トンボ、チラーニ、浮鬼。
そして、黒トンボ(中身はドリナラーニ)。
大地を蹴って坂道を駆け下り、飛び上がる──
飛行訓練に励む、鬼械人たちの姿じゃ!
展望台から見る鬼械人は、まるで夢の中の巨人のようじゃ。
ソラトバンが子供の頃、何回も夢に見た巨人の・・・
「おお~!」
清雅が目の前に頭突き出してきた。
なんじゃ。見えんじゃろ。まあ初回じゃから夢中になるんはしょうがないが。
避ける。
「なるほどォ~!」
清雅が目の前に頭突き出してきた。
「わざとか!」
「ニキキw」清雅笑う。
「まったくもって・・・」
しばらく2人で頭をあっちやりこっちやり、見ようとし、邪魔しようとする、しょうもない戦いをした。
疲れたので、やめる。
3人の兄鬼たちを挟んで、清雅の反対側に行った。
清雅は若干不満そうにした。
じゃが、これはしょうがないんじゃ。
清雅と変にイチャイチャしたら、兄鬼らが殺気立つ。
最近は、チーニャも不機嫌になるし。針のムシロじゃ。しょうがないんじゃ。
「足元」
ボソッと。あちこち見回しとったゴブリン兄鬼が、唐突にしゃべった。
「足元がどうした? 数鬼(すうき)どん」
「・・・。」
数鬼どん。こっちを見上げて、片眉上げる。
『なんでわかった』っちゅう意味か?
そりゃ、しゃべり方が唐突だからじゃ。
あと、キョロキョロと周囲確認するクセがあるじゃろ。
「死角」
「ああ、そうじゃな。足元、ふつうなら死角になるもんな。急所じゃ、急所」
受け売りするソラトバンである。
「この塔攻めるヤツらは、反対側の足元から来るじゃろうな」
「ウム」
「っちゅうコトは、そっちは、タコ浮かべにゃならんか」
「操作すんの気ィ使うやろ。タコは」と、別な兄鬼。
「なるほどそうじゃな。正鬼(しょうき)どん」
「・・・。」
アンタもわかるぞ。
数鬼どんがわかれば、あとの2人は見分けつくんじゃ。
「天井も開く・・・っちゅう話やったな?」と、清雅のそばの兄鬼。
「そうじゃぞ、再鬼(さいき)どん。開けてもらおうか」
「・・・。」
アンタが一番見分けやすいぞ。
1人だけごっつい棍棒持っとるし、清雅の背後に立つからな。見るからに『護衛』じゃ。
「どうしたんじゃ。再鬼どん。正鬼どん。数鬼どん」
「チッ」「張り合いないのう」「ネタが・・・」
「なんでじゃ」
見分けたら見分けたで、もの足りんらしい。
「ま、アレじゃ。おふくろー。天井も頼めるかのう?」
ガラガラ・・・。
天井のシャッターが開いた。
天井から、光が入って来る。
「ええな、これ・・・」
清雅たち、あらためて感嘆する。
「そうじゃろ、清雅さんよ」
「いっそ、ココ、乗り手席みたいにしたらええんちゃう? 声玉置いてやー」
「艦橋か・・・」と再鬼どん。
「そうそう。タコ千里玉とかも置いてやー」
ガラ、ガラ。
天井シャッターがちょっと閉じて、開いた。
今日、おふくろさんの雑務ユニットは、飛行訓練に付き合っとる。
ほじゃけ、会話ができん。全艦放送はできるじゃろうけどな。
代わりにシャッター動かして返事してきよった。
「いまのはなんじゃ。『はい』か」
ガラ、ガラ。
「どっちじゃwww」
ま、こうして。
清雅の一言から、展望台は、艦橋としても使われるようになったんじゃ。
◆ 11、緊急格納 ◆
ジリリリリリ・・・!
けたたましいベルの音で、ソラトバンは眠りから覚めた。
「ソラ、起きろ。ソラ」
チーニャに揺さぶられる。彼女の乳房が、腕に当たった。
「・・・いま起きたわい。何事じゃ?」
「わからん。『緊急移動に備えよ』のベルだ」
「緊急移動」
「とにかく、座席に着くぞ」
「お、おう」
壁に固定された椅子に、それぞれ座る。
チーニャは、裸にソラトバンのシャツをかぶっただけの姿。
ソラトバンは、パンツはいただけである。
≪これより、緊急で、地下格納をする≫
全艦放送が鳴り響いた。
≪外に居る者は、戻るな。塔から離れて、村に向かえ。・・・中の者は、席に着け≫
しばらく放送がくり返される。
ふだんなら、ここからさらに、点呼をするのだが・・・
≪では、動く≫
今夜は、いきなり全塔が動き始めた。
5基の塔が接続された状態のまま、地面から10尋(人間10人分)ほどの低空に上がる。
「ホントに緊急だな」とチーニャ。シャツから伸びた太腿の白さが、なまめかしい。
「うむ」
「着陸したら、すぐ服着たほうがいいぞ、これは」
「わしら、待機になるじゃろうしな」
「うん」
加速。
水の残っとったコップが、床に転がり落ちた。ばしゃー。
「あー・・・」
「気にすんな。ママと村が無事なら、他はどうとでもなる」
「レモンちゃん、大丈夫かのう」
「基本的な訓練はした。ルディーニャの隣の部屋にしといたから、大丈夫だろう」
減速。
さっき落ちたコップがゴロンゴロン転がって、壁にガンとぶつかった。
停止。
ガコン・・・。
小さな衝撃が響いてきた。
「玄関が開いたな」とチーニャ。
「誰か降りるんか?」
「チラーニだろ。ドア開けに行くんだ」
「ドア」
「はねあげ戸。でっかいヤツ。ちょうど、この前宴会やった・・・」
「ああ、幽雲どんの、落とし戸塹壕(ざんごう)」
「そうそう。アレみたいな感じで、縦穴をふさいであるのさ」
「ははぁ・・・」
「把手も何もなくてな。鬼械人の魔術でないと、開けれない」
「なんとまあ」
しゃべっとると、弐ノ塔が降下し始めた。
一瞬、髪の毛が逆立つほどの降下速度である。
チーニャのおっぱいがたっぷんたっぷん揺れるのを、ソラトバンはじーっと眺めた。
彼女、揺れ動く乳房をシャツの上から支えて、「もう・・・w」
「スマン」
「余裕あるよなオマエは・・・」
減速。
着陸。
ここは、いつものおふくろさんであった。静かで優しく、身体に負担のない動きである。
≪・・・着陸完了。移動を許可します。ただし、大きな音を立てないように。くり返す・・・≫
恋人たちは即座にベルトを外して立ち上がった。
チーニャが速い。
シャツを脱ぎ捨てハダカになり、白い肌──美しいふくらみを揺らしながら、ブラジャーに手を通す。
見たい・・・などと馬鹿なことを考えながら、ソラトバンも服を着る。
≪乗り手は、玄関格納庫へ集合せよ。くり返す・・・≫
着終わるのは、男のほうが速かった。
「先に玄関行っとくで」乗り手甲を引っ掴む。
「手前で止まって、左右確認だぞ! チラーニに踏まれるなよ」
「了解じゃ!」
ソラトバン、玄関・兼・格納庫へ走る。
扉は開いておった。立ち止まって、左右確認。
チラーニと、目が合った。あっちも玄関で左右確認しとるところであった。
「お先にどうぞ」
<は~い>
チラーニはネコのように軽い足取りで入って来て、出口すぐそばの壁にくっついた。
<もういいよ~>
「はいな」
ソラトバン、壁沿いに歩いてトンボのところへ。
続いてチーニャが、やはり左右確認してから、壁沿いにチラーニのところへ。
次に、海鳥型鬼械人・ウミドラーニが、通路をバタバタ歩いて現れた。格納庫に入ると、離陸。チラーニのハッチに直接飛び込む。なんか、ガツン! ボテッ。と音がしたが・・・。
清雅と三兄弟が現れ、正鬼・数鬼が、赤い六腕ロボ(腕は2本だが・・・)の浮鬼へ。
「装備しとこう」とチーニャ。
乗り手甲の装着開始。
おふくろさんの雑務ユニットが入って来た。
<乗り込め。通信で説明する>
「了解じゃ」
トンボが片膝ついて、手を出してくれた。ソラトバン、その手に、膝に、飛び上がる。ハッチから潜り込んだ。
飛行時に身体を支える鞍をまたぎ、座席に背中を合わせる。
<おふくろから通信じゃ>
「うむ。つないでくれ」
<こちらおふくろ。帝国軍の飛行兵器が、間もなく上空を通過する見込みじゃ>
「帝国の、飛行兵器?!」
<うむ>
<『空飛ぶ島』じゃ>
◆ 12、空飛ぶ島 ◆
外は、夜明け間近であった。
明るくなりゆく空。夏の早い目覚めの陽光が、差し始めたところである。
その空に。
陽光を遮る巨影が、姿を現わした。
それは、ゴツゴツとしたシルエット。
遠い山脈のあいだに、はっきりと現れた黒い影。
『鷹の目』と『夜目』を合わせて、見てみると・・・
まさに『空飛ぶ島』であった。
そうとしか言いようがない。
岩山が、そのまんま、空飛んどるのだから。
<幽雲洞が、警報を回してくれたんじゃ>
と、おふくろ。
<『秘密兵器』のウワサは知っとったが、まさかこんなモノとはな>
<ホントに帝国なの? ママ>とチーニャ。
<技術的にはあり得ん。じゃが、状況的に、帝国軍としか思えぬ>
「おふくろとくらべて、そうデカいわけじゃないな」
ソラトバンは、報告した。
「せいぜい2~3倍かのう? 頂上と麓に、鬼械人が乗っとるわい」
昇ってくる朝日で、逆光になって、見づらいが・・・
岩山に埋もれるように配備された鬼械人部隊を、かろうじて発見できた。
「山の麓に、ナンガラック2鬼と蒸気械弩砲1鬼の組み合わせが3班。頂上に弩砲が1・・・あ、“鉄拳”も1じゃ」
<合計、ナンガラック6、弩砲4、“鉄拳”1か?>とチーニャ。<紋章は?>
「そうじゃ。紋章は、明らかに帝国じゃな」
<マジかよ・・・山は、回転してるか?>
「いや、しとらん」
<こっち向いてる側だけで、その数ってコトか>
「そうじゃ。それと、頂上の弩砲が、なんかおかしいな」
頂上に、“鉄拳”ピンガデオスと、蒸気械弩砲が、1鬼ずつ居るのだが。
弩砲のほうが、なんか・・・キラキラしとるんである。
まず、色がちがう。
黒くない。光沢のある銀色である。
さらに、金の房飾り(ふさかざり)が、ゴテゴテと付いておる。
パレードでもしてきたような姿であった。
<神馬の飾りだな>と、ハポノ人のチーニャさん。<儀式のとき、馬に着せるヤツだ。ホントに帝国か・・・>
「飾りじゃと?」
<偉い人が乗ってるんじゃないか?>
「うーん。中は見えんしのう。──あ、いま1人、屋上に見えた。トサカついた兜(かぶと)かぶっとったぞ」
<帝国軍なのか・・・。部隊に動きはあるか?>
「ない。っちゅうか、完全に休止中に見える。ハッチ開けて立ちションしとる馬鹿が居る」
<・・・好機>と、数鬼。
<やりますか?>と、正鬼。<ここで皆殺しにできれば・・・>
<ダメじゃ>と、おふくろ。
<落とすんなら、初回のいまが好機ですがのう?>
<その通りじゃが、いまここではダメじゃ。なんでといってじゃ、>
おふくろさんは、説明した・・・
<1、一方的な殺傷は、我が国・弐ノ塔の倫理に反する。撃つなら、警告してからじゃ。
2、・・・が、警告して即座に攻撃された場合、コボルドを守れん恐れがある。
3、また、速やかに撃墜できても、どこに落ちるか? 自爆せんか? など、不安が残る>
・・・そして、決定した。
<今回は、隠れてやり過ごす>
<了解しました>
<ソラ>と、清雅の声。<気ィ付けろ。帝国のルーン魔術師は、『鷹の目』使うぞ>
「なんでわしだけ?」
<『鷹の目』距離で、目ェ合わせてまう可能性あんの、オマエだけやろ>
「あ、そうか。了解じゃ」
トンボたち鬼械人は、弐ノ塔が姿を隠した縦穴から、小さな洞窟でカルデラの外に出ておった。
この洞窟、以前、浮鬼(うっきー)で通ったことがある。
あのときは、まだ、弐ノ塔の仲間ではなかったが・・・
いまは、主力の1人である。
『鷹の目』持ちのソラトバン鬼=トンボが、出口に一番近いところに立つ。
片膝をついてハッチを開け、手の上にソラトバンを出しておる。このほうが『鷹の目』を使いやすいし、見つかりにくい。
浮鬼は立ったまま、ソラトバンの盾となる体勢。
チラーニは少し奥に留まり、タコを3機飛ばし、この洞窟に近付く密偵などがいないかチェックしておる。
空飛ぶ島が、近付いてくる・・・
まっすぐ、カルデラに向かってくる・・・
その頂上・中腹・麓に、ローブを着た人間が1人ずつ居るのが、なんとか見えた。
人間。おそらくは、ルーン魔術師。
周囲を眺め・・・
下界を眺め・・・
こちらを・・・
「いかん!」
ソラトバン、身を隠す。
ハッチに飛び込み、座席に入りつつ、報告する。
「ローブ着た人間が少なくとも3人、見張りをしとる。『鷹の目』の恐れアリじゃ!」
<全鬼、飛行塔へ退却せよ。見張り所に移動する>
鬼械人たちは、洞窟内に引き返した。
縦穴まで戻ると、チラーニ飛行塔が玄関を開いて待っておった。
乗り込む。
飛行塔で移動して、別な洞窟の前に止めてもらう。
鬼械人に乗ったまま、降りる。
・・・ちなみに、トンボはこういう低速移動は苦手である。
歩くたびに飛行塔が揺れ、地面が割れる。
<ワシも、浮上筒、造ってもらうか・・・>トンボは、そうつぶやいた。
見張り所に到着。
山脈内に巧みに隠された、洞窟見張り所のひとつである。ここは、カルデラ内の見張り所。
上空は見えん。逆に言えば、上空からもこっちが見えん。よって、見つかる恐れは少ない。
見張りをしつつ、万が一に備えて、待機をする。
朝日が、カルデラに差し込んで来た。
その光が、陰った。
カルデラの上空に、空飛ぶ島がやってきたのだ。
コボルドどもが家から飛び出し、村の通りで「アオーン!」「オオーン・・・!」と、鳴き出した。
<騒いでおりますぞ>と正鬼。
<しょうがない。コボルドはこういうモンだし・・・>とチーニャ。<素人に見えることを期待しよう>
その、コボルドどもの姿。
影に呑み込まれる。
小さなコボルドの家々。
影に呑み込まれる。
空飛ぶ島の落とす、冷たい影に・・・。
ソラトバンは、不思議な衝動に駆られた。
いますぐ列電魔旋砲をあいつにブッ放したい・・・という、凶暴な衝動である。
それが『恐怖』だと気付くのに、しばらくかかった。
「くそっ」
<ガマンじゃ>トンボどんは、理解してくれた。<戦士はガマンじゃ>
「戦士はガマンか」
グッと握りを握る。トンボどんは、力強い反応を返してくれた。
上空から、たっぷり時間をかけて、カルデラを観察してから・・・
空飛ぶ島は、悠然と飛び去っていった。
◆ 13、セイレーンと3人の貴族たち ◆
さて。
その、空飛ぶ島であるが。
この岩山の頂上には、ソラトバンが見た通り、妙な蒸気械弩砲がへばりついておる。
金銀キラキラの、パレードでもしとるかのような、蒸気械弩砲である。
その、屋上に・・・
レラというセイレーンの、玉座があった。
・・・屋上である。中ではなく。
ふつうは弩砲が装備されとるところ、それを取り外して、豪華な玉座を設置しとるのだ。
レラは、その玉座に座っておった。
金銀キラキラ飾りの服を着せられて。
つややかな黒い髪を、ギリギリとキツくねじ上げられて。
クジラみたいな足ヒレを、どてーんと投げ出して。
「・・・。」
見回す。
屋上には、3人の男がいた。
そのうちの1人。レラの足元に控えとる男が、見上げてきた。
30代後半。ほっそりと背の高いハポノ貴族。
役職は『参謀』だそうである。名前も聞いたが・・・レラは、覚えていなかった。
「お疲れですか? レラ様」
「飽きた」レラはボソッと答えた。
「おお! このように偉大な成果も、御身には些事(さじ)に過ぎませんか?」
「いだい」
「ええ。この世でもっとも偉大な御方ですよ、御身は」
参謀は、流れるようにお世辞を言った。
「なにしろ、巨大な岩の要塞(ようさい)を、空に浮かべてしまうのですから!」
「フン・・・」
レラは目をそらした。
屋上の端っこ。転落防止の柵が巡らされ、金の房飾りがブランブラン揺れておった。
「・・・亡き魔王にくらべれば、私など、偉大でもなんでもない」
「参謀閣下には、お祝いを申し上げましょう」
次に口を開いたのは、屋上の隅に座っとる戦士であった。
こちらも30代後半。『鬼械人部隊長』だが、名前はやはり忘れてしまった。
「・・・なんのお祝いです?」と参謀。
「今の、コボルドの村だ」
「あの村が何か?」
「税を搾り取れる。ミェンノー大臣閣下の、もっとも大切にしておられることでしょう」
「ご冗談を。ミェンノー閣下は、帝国の繁栄を、第一に考えておられますよ」
「まこと、その通り!」
3人目が口を開いた。
こちらは、おそらく最年長。ただし、髭は黒々としておる。
房のついた兜をキッチリかぶって、いかにも軍人という風体。
役職は、『天空将軍』だったか?
「このような切り札を、派閥の異なる我らに預けて下さった。帝国を第一に考えておらねば、できることではない!」
「・・・。」
3人は、薄い笑いを浮かべたまま、睨み合った。
レラは鼻を鳴らした。「フン」
空飛ぶ島は、晴れた夏空を飛んでゆく。
やがて。
太陽が、東の空にはっきりと姿を現わしたころ。
参謀が「あそこが第一の目標です」と、下界を指差した。
前方に、険しい岩山があった。
岩山には、大きな洞窟があった。
洞窟の入り口には、ズラリと並んだ神像──の、残骸があって。
びっくりしてこちらを見上げる、ゴブリンどもの姿があった。
「撃竜界(げきりゅうかい)。何度滅ぼしても人喰い鬼どもが集まってくる、悪の根源です」
◆ 14、空飛ぶ島、爆撃す ◆
「では、レラ様・・・」
天空将軍が、セイレーンの娘の顔色をうかがう。
「洞窟の真上で、この要塞を停止して頂けますかな?」
「・・・よかろう」
レラはため息をつきつつ、手を伸ばす。
玉座の脇に、無造作に置いてあった、板を取り上げた。
淡い黄金色をした、金属板である。
幅3尺。長さ4尺。レラの上半身より大きい板である。
それでいて、レラがヒョイと持ち上げれるほどに、軽い。
雑に扱う彼女が、うっかり玉座に板をぶつけると・・・
コォン・・・・・・
澄んだ響きが、広がった。
3人の男には、その金属が何なのか、さっぱりわからなんだ。
彼らが馬鹿だからではない。
帝国には存在せん金属だったからである。
──ソラトバンがここに居れば、「神竜甲じゃないか」と、言い当てたであろうが。
レラは、その神竜甲の板を、表向けた。
板の表には、びっしりと、小さな文字が刻まれておった。
それは、極めて小さな文字であった。
──レラの指先ほどのサイズに、16×16文字も、並んでおる!
それは、極めて精妙な細工であった。
──複雑怪奇なカクカクした画数の多い文字が、正確に刻まれてある!
鬼械人の、呪文版(じゅもんばん)であった。
呪文版によって、鬼械人は生まれ、呪文版によって、現世につながれる。
呪文版が壊れると──トンボがそうなったように──鬼械人は、死ぬんである。
3人にも、これはわかった。
蒸気械人にも呪文版は入っとるからである。まあ、神竜甲ではなく、銅版とかだが・・・。
3人が、喉から手が出るような表情で見つめる中。
レラは、呪文版を素手でペタペタさわって、指紋だらけにしつつ・・・
響き渡る声で、呪文を唱えた。
≪魔王の叡知の継承者、マテレーニャ・マレッジラゲーニャが、
最古巨夫王(さいころっぷおう)の娘・妙雅の技を、追憶(ついおく)す。
冥界の定めに従い、死者の身体を傷つけはせず・・・
いっとき、彼女の技能を、借り受けまする≫
すると。
ご、ご、ご、ご・・・ギシギシギシ・・・ズ、ゴ、ゴ、ゴ・・・ゴォォン・・・!
空飛ぶ島が、きしみ、ぶつかり合い、地震のような音を立てながら・・・
指定された空中で、停止した。
ギコギコ・・・と、岩山の各部を上下動させつつ、分裂することなく滞空状態となる。
「・・・よろしいですかな?」天空将軍は、汗を拭った。
「うむ」
「では、作戦にかかれ! 再起をもくろむ人喰い鬼どもに、帝国の力を思い知らせてやれ!」
命令が飛ぶと。
レラたちの足元。
蒸気械弩砲の内部で、通信士が立ち上がった。
銅鑼を持って、ハッチから出る。そして、銅鑼を叩いた。
ゴォォーン! ゴンゴンゴォォーン・・・!
と、一定のリズムを保って、打ち鳴らす。
この銅鑼信号を聞いて、岩山の麓のナンガラックが、動き出した。
ナンガラックが、足元の岩を取り上げる。
もともと用意してあった岩である。
人間の力ではビクともしない、巨大な岩である。
その、巨岩を。
空飛ぶ島のフチから、落とした。
撃竜界入り口で右往左往する、ゴブリンども目掛けて。
岩山の麓には、東西南北(出発時点で)に、4班の蒸気械人がいた。
各班が1つずつ、巨岩を投げ下ろし・・・
1発目。入り口の右手にハズレ。だが、樹木に当たって砕け、破片がゴブリンの頭上に降り注いだ。
2発目。入り口の左手にハズレ。これは単純に森の中に着弾した。
3発目。入り口の真上の岩棚に命中。岩棚を砕き、岩石の土砂崩れとなって、入り口を襲った。
そして4発目。入り口から逃げようとしたゴブリンどもの目の前に落ちた。
ゴブリンどもは、腰を抜かして、洞窟内に逃げ戻る。
そこに、次の4投が降り注ぐ。
ナンガラックは、各班に2鬼ずつ配置されとるので。
入れ代わり立ち代わり、岩を落としてゆくんである・・・
3巡目を過ぎて、4巡目に入ったところで。
入り口が、崩れた。
支柱がへし折れ、洞窟が崩落し、そこに巨岩が重なって・・・
もはや、どこに入り口があったかもわからぬほどに・・・
撃竜界入り口は、埋め立てられてしもうた。
「攻撃を終了せよ──我々の、圧勝だ!」
天空将軍は、快哉(かいさい)を上げた。
「人喰い鬼も、これで帝国の力を思い知ったであろう。これより、第二攻撃目標に向かう!」
◆ 15、乗駆鬼復興隊 ◆
「中へ入れ!! 中へ!!!」
オーガの若者が、もんのすごい大声で、叫ぶ。
「道具なんぞ、放っておけ!! 資材も、うっちゃって構わぬ!! 早く入れ、奥へ!!」
崩れる洞窟。
岩、土、泥! ──もうもうたる土煙!
その中を走り抜けて、ゴブリン作業員とオーガの若者は、洞窟の奥に飛び込んだ。
入り口が崩れる音がする。地響きが伝わってきた。岩の破片を含む土煙が、ドッと押し寄せて来た。
土煙と、空気の津波!
「ウワア!」
吹っ飛ばされるゴブリン作業員を、オーガの若者は引っ掴んだ。「伏せておれ!!」
「た、助かったわい・・・乗駆鬼(ジョッキー)の兄者」
「ああ」
なんと。
このオーガの若者は。
ソラトバンの友達(?)の、乗駆鬼というオーガであった。
乗駆鬼。
幽雲洞防衛戦のあと、ほとんど休む間もなく、故郷に戻って来たんである。
幽雲やダークエルフたちには、時期尚早(じきしょうそう)だと、反対されたのだが・・・
「早く戻りたい」「死ぬ前に、故郷を見ておきたい」と、身内に、せっつかれ。
「何をビビっておる。バッツワーノは死んだのに」「オーガのクセに」と、挑発までされて。
「この俺が、ビビっておるだと!!」
短気な乗駆鬼。
キレてしもうた。
「よかろう。見せてやる。この乗駆鬼、決してビビってはおらんということをな!!!」
幽雲様(ため息ついとった)から、資材と道具を買い込んで。
命知らずの男だけを選んで、戻って来たのだ。
『乗駆鬼復興隊』とか言われて、ちょっといい気分になったりもしたのだが・・・
やはり、時期尚早であった。
「クソ。なんだ、あの空飛ぶ岩山! せっかく修復したものを!!」
崩れ落ちた入り口を見て、舌打ちする。
ショベルもツルハシも、支柱を立てる道具も資材も、埋もれてしもうた・・・。
さっきのゴブリンを立ち上がらせ、代わりに、ケガして倒れとるゴブリンを抱え上げる。
オーガの怪力。小柄なゴブリンを、片手で軽く抱き上げる。
「みんな、立て。いったん退却して、やり直しじゃ」
「ハイ・・・」ゴブリンどもは、元気がない。「しかし、どこから逃げるんです?」
「なんだ。おまえたち、知らんのか?」
「何をじゃ?」
「知らんようだのう?」
乗駆鬼は、あえて、ニヤリと笑って見せた。
「幽雲様が掘ってくれた、地下運河じゃ。未完成だが──ちゃあんと、脱出はできるのだ!」
◆ 16、弐ノ塔、会議する ◆
一方、ソラトバンたちは。
空飛ぶ島が立ち去ったのを見てから、本塔に戻った。
暗闇の中の、本塔・・・。
ソラトバンは『夜目』で、その姿を見ることができた。
銀黒まだらになった、おふくろさんの姿。
光のない、地の底──地底湖のそばに、しょんぼりと、座っておる。
格納庫に戻った。
コボルド整備士のおやじを交えて、その場で会議をする。
<今後、どうするか>と、おふくろさん。<各自、意見を述べよ。1行で>
「外人やが、よろしいか?」と再鬼。
<うむ。ぜひ意見をもらいたい>
「ほな・・・先ほど、正鬼も提案しとったが。やはり、撃墜すべきやと思いますわ。アレは、危険や」
「兄に同じ」と正鬼。
「ウム」と数鬼。「落とし方」
「ウチは、今朝の対応は正しいと思う」と清雅。「六間洞は・・・たぶん、協力はできませんわ」
「いつものことだもんな」とチーニャ。
「ア? ・・・ほな、チー姉はどないすんねん」
「おまえと一緒さw ・・・隠れてガマンする。イライラしながらな」
<コボルドを放っといて?>とチラーニ。<オレは、隠れながら、反撃していくべきだと思うね>
<ワシゃ、ソラに任す>トンボは棄権(きけん)した。
「なんでじゃ」
<なんでと言って、未来のことは、これから親になる若モンが決めるべきと、考えとるからじゃ>
「ジジイみたいなコトを・・・」
<ジジイじゃけぇ>
<ワシ、敗北、不快>と言ったのは、整備ロボ・ドリノンに憑依(ひょうい)中のドリナラーニである。
<同意。怒リ心頭>おふくろの声玉を借りて、新入りナンガラックのロナンガラーニ。
<拙者も怒髪天でござる!>ウミドラーニがバサバサした。<オチオチ釣りもできんでござる! アレでは!>
「たしかに」整備士のおやっさんがうなずく。「ここじゃ、塔の点検もできんし・・・家族のコトも、心配でござる」
おふくろさんが、ソラトバンを見る。<おまえさんはどうじゃ>
ソラトバンは、ドリナラーニどんを見た。
蒸気械人ナンガラックとして生まれ、目も耳も口もふさがれて、こき使われ・・・
ドリノンでちょっと浮上するだけで、<タノシイ!>と言うとった・・・
黒トンボで自由に飛べて、どんなにか、嬉しかったであろう。
そんな男(?)の姿を、見て。
「わしも、あきらめるのはイヤじゃ・・・」
と、結論をした。
「わしは、空飛びたいんじゃ。
あんなモンで脅されちゃ、自由に飛ぶことはできんようになる。
そもそもにしてじゃ。
このカルデラは、わしらの国じゃろ?
なら、わしらが守るのが、当然じゃないか。
なんでコソコソする?
帝国より圧倒的に優れた鬼械人を、友達にしといてじゃ」
すると。
<1行でと言うたじゃろ>まず、おふくろにツッコミ喰らった。
「オマエ、24時間起きとくつもりかァ~?」清雅にもダメ出しされた。「『鷹の目』使えるん、オマエだけやねんぞ?」
「そうだそうだ。バーカバーカ」チーニャには、子供みたいな絡み方された。
<気持ちはわかるけどさ~、具体性がないよね~?>チラーニにはネチネチした感じで言われた。
<・・・。>頼みの綱のドリナラーニどんは、なんか考え込んでおる。
「おい!」
ソラトバン、ちょっとキレた。
「なんなんじゃ! わしにだけ、寄ってたかって!」
<ふははwww>トンボどん、面白がる。
<静粛に(せいしゅくに)>
おふくろさん、二叉フォークになった手を上げた。
<ほじゃ、決を採ろうじゃないか。──再鬼殿の案がええと思う者は?>
・・・採決した結果。
<ソラトバンに賛成多数>
「なんでじゃ」本人、当惑である。「あんなボロクソに批判しといてからに」
「あんなん『ボロクソ』言わへん」と清雅。ちなみにソラトバンに賛成である。
「言っとくけど、条件付き賛成だからな?」<納得できる作戦じゃなきゃ、手のひら返すからね~>と、チーニャ&チラーニ。
<・・・。>ドリナラーニどん、まだ考え込んどる。ただし、彼らも賛成である。
「くそ。まあ・・・ええけどもが」
ソラトバン、うなずいた。
「じつはな。ちょっと、思いついたコトはあってな」
<なんじゃ。言うてみよ>
「幽雲洞のアレを、マネさせてもらおうかとな」
「アレってなんや?」
「それはじゃなァ~、清雅さんよ、」
ソラトバン、ニヤリとする。
「パチモン弐ノ塔作戦じゃ!」
◆ 17、パチモン弐ノ塔作戦 ◆
<ほほう。パチモン弐ノ塔作戦とな?>
幽雲どんは、乗り気になった。
警報をもらったお礼と、協力の打診で、弐ノ塔が通信したのだ。
すると幽雲どん、予想以上に喰い付いて来たんである。
<じつは、撃竜界に行った乗駆鬼どもが、通信不能になってのう・・・>
<ほう?>
<おまえさんがたに協力し、かつ、乗駆鬼どもを救うアイディアが、わしにはある!>
<先に言うとくが、カルデラの周囲は掘るんじゃないぞ? トンネルの衝突が恐いけぇ>
<・・・。>
<返事をせんか!>
──若干の不安はあったが。
とにかく、穴堀り巨人の協力も取り付けて。
『パチモン弐ノ塔作戦』が発動したのである。
いったい、どんな作戦であったのか?
それは、こういうことだったのです・・・
翌日。
夏の空を、誰はばかることなく飛ぶ、空飛ぶ島。
ショラン・ギサンチ州に入る直前あたりで・・・
≪正体不明の、空飛ぶ島よ!≫
無謀にも、進路をふさごうとする、鬼械人が現れた。
淡い黄金色した、その鬼体。スラリとして、美しい。
背中に4枚の羽を持ち、それを振動させて飛んでおる。
その主張するところは・・・
≪こちらは、弐ノ塔の飛行隊じゃ!
なんで、空からみんなを脅かした!
二度と我が国を脅かすんじゃない。即刻、立ち去るんじゃ!≫
「なんだアイツは?」
天空将軍が首をひねった。
「報告にない型だな。鬼械人部隊長、何か、わかるかね?」
「わかりませんな・・・」
「参謀」
「恥ずかしながら、私も存じませぬ」
「うーむ・・・」
天空将軍は、玉座のレラをチラッと見るが、セイレーン様は知らんぷりである。
「・・・弐ノ塔とは、『空飛ぶ塔』の自称であったな? だが“長腕”ではない」
「ええ、ちがいますね」と鬼械人部隊長。「そもそも、ヤツは何を言っとるのです?」
「領土を主張していましたが」と参謀。
「あり得ん。帝国と戦えると思っとるのか?」天空将軍は、首をひねる。「野蛮人の考えることは、わからんな」
──彼らは、トンボのことを知らなんだ。
バッツワーノは、報告を上げていなかったのだ。トンボを反乱に使うつもりだったからである。
早馬制度が機能していれば、情報も集まったハズだが・・・そのチャンスを潰したのは、ハポノ貴族自身であった。
というわけで、未知の鬼械人(トンボ)には、こう応酬した。
≪こちらは、ゾーゼ・メッカリュテック帝国、天空戦団である!
『弐ノ塔』なる国家は、この世界に存在せぬ。
ここは我が国の領土である。
速やかに地上に降下し、臨検を受け入れよ!
さもなくば、破壊する!≫
これに「?」となったのが、トンボとソラトバンである。
<ワシを破壊するとか言うとるぞ?>
「爆鬼積んどるんかのう?」
<この距離で撃ったら、自爆じゃぞ。手間は省けてええが>
「わははw ・・・いや。わろとる場合じゃない。もしかしたら、秘密兵器があるかも知れん」
<ま、あってもなくても、作戦通りでええじゃろ>
「そうじゃな」
とか言うとると。
ぼーん。
空飛ぶ島に配置されとる蒸気械弩砲が、撃ってきた。
大きくハズレ。槍は地上に落ちてゆく。
<『力の筒探索』、反応ナシ。ただの槍じゃな>
「どこ狙っとんじゃ、ヘタクソめが」
<警告射撃じゃろ。次は当てて来るぞ>
「なんじゃ。そうか。・・・ま、作戦開始じゃ。外部放送開け」
<開いたぞ>
≪な、な、な、何をするんじゃー。攻撃するなら、敵とみなすぞぉー?≫
ソラトバンの、情けない声に。
≪野蛮人ごときが、思い上がるな! 貴様らは、ただの害虫である!≫
天空将軍は、厳しく返してきた。
<・・・おまえさん、演技ヘタクソじゃな>
「うるさいわい。次で逃げるぞ」
<あいよ>
ぼぽぽーん。
こっち向いとる弩砲3鬼が、一斉に撃ってきた。
≪ほげぇ~~~!!≫
ソラトバン、握りと鐙をちょっとガチャガチャッとやる。
支離滅裂な(しりめつれつな)、その操作。トンボは、あえて忠実に反応した。
ガバッと足を開き、手で宙をかく。
失速して、落ちる。
地上スレスレで──森の木の枝、葉っぱを弾き飛ばしながら、やっとこさ、立て直す。
弩砲をかわし、左右に蛇行する。
必死で高度を上げて・・・このあたりで一番高い山へ、逃げ帰った。
山の頂上の近くに、大きな穴が開いておる。天然の巨大洞窟である。そこに、トンボは飛び込んだ。
「・・・どうじゃ? チラーニどんのマネしてみたんじゃが」
<似とったわwww 笑い過ぎて、ホンマに落ちかけたぞ>
「おいおい」
これを見た、天空将軍は。
「わっはっは! 見たか、あの無様な姿を!」
腹を抱えて笑った。
「あの大罪人め。こんな雑魚を、『強大な敵』などと──よくも、議会を騙したものよ!」
「油断はいけませんぞ、将軍閣下・・・」
「忠告ありがとう、鬼械人部隊長! 君も、油断だけはせんようにな」
天空将軍は、気前良く笑った。
「あんな雑魚相手に、傷ついてくれるなよ」
「・・・は?」
「君の出番だと言っておる」
「しかし・・・第二攻撃目標は、ショラン・ギサンチの暴徒どもでは?」
「そうだ。だが、途上に障害が現れたのだ。排除するのは、当然であろう」
天空将軍は、片頬だけで笑った。
「それとも、君もあの大罪人と同じかね? 敵を過度に恐れ、逃げ回って予算を水増しする」
「まさか!」
「よろしい。安心したよ。──これより『空飛ぶ塔』一味を制圧する。鬼械人部隊は、出撃準備!」
「了解!」
鬼械人部隊長は敬礼し、背を向けて走り、「『浮遊』!」と一言唱えて、飛び降りた。
ふわ~ん・・・と、ただよった身体。
少し離れたところに駐鬼しとった“鉄拳”ピンガデオスのてっぺんに、着地する。
ハッチに入ってゆく鬼械人部隊長の姿を見送って・・・
天空将軍は、セイレーンのレラを見た。
「レラ様。また、お願いできますかな?」
「あの洞窟に、近付けてよいのか?」
「ええ。まずは上空に。その後、私の指示で着陸をして頂きたい」
「近付けてよいのだな?」
「・・・? はい。どうかよろしく」
「よかろう」
「ぶつけないでくださいね」と、参謀。
「そんな愚かな失敗はせぬ」と、レラ。「・・・私はな」
「レラ様、参謀閣下、ここでは流れ弾の可能性がありますぞ。中へ」
天空将軍は、みずから屋上のハッチを開けてくれたが・・・
「私はここでよい」レラは断った。「竜の翼に、矢玉は通じぬ」
「・・・しかし、鬼械人級の兵器ですぞ? 万が一があっては」
「くどい」
レラは、ほほえんだ。
なんとも魅力的な笑顔である。
ハポノ貴族は、2人とも、ボーッとなった。
「私を信じよ。よいな?」
「・・・はい。失礼いたしました。レラ様。ただの人間であるところの我々だけ、中に入ります」
「それでよい」
レラは鷹揚に(おうように)うなずく。
そして、天空将軍が中に入ってから・・・
「馬鹿め。中に入っては、脱出ができんだろうが」
バサリ。
広げた腕は、いつの間にか、竜の翼になっておった・・・。
※このページの修正記録
2025/07/23
「12、空飛ぶ島」
ソラトバンの報告内容を修正。
↓こう書いてましたが、正しくは ナンガラック2、蒸気械弩砲1 です。
> 「山の麓に、ナンガラック1鬼と蒸気械弩砲2鬼の組み合わせが3班。頂上に弩砲が1・・・あ、“鉄拳”も1じゃ」