◆ 18、鬼械人部隊、降下する ◆
鬼械人部隊長。
“鉄拳”ピンガデオスの乗り手席から、外を見る。
覗き窓の向こうに、ナンガラックが見えた。向こうも覗き窓を通してこちらを見ておる。
「降下!」
隊長は命令して、手で合図を送った。
相手がうなずいて、同じ合図を返してきた。復唱である。
「そうだ。降下!」
もう一度、同じ信号を送る。
相手はうなずいて、移動を開始した。
──これが、帝国鬼械人部隊の、通信方法であった。
手信号は、遥か昔、ハポノの馬乗りが発明したと言われている。
鬼械人に乗るようになっても、手信号は使われ続けた。
バッツワーノが『声玉(こえだま)』を獲得して本国に送っても、
「鬼械人同士の通信を可能にすれば、反乱の恐れがある」
「手信号で十分である」
「乗り手は1人1人が城主である。自分で判断を下すのが当然」
・・・などという理由で却下され、手信号の伝統が、かたくなに守られておった。
ナンガラックが走る。
岩山の端に向かって。
なにもない空に向かって・・・
跳んだ。
『空飛ぶ島』は、現在、岩山の頂上あたりに滞空中である。
着陸はしとらん。浮いとるんである。
高さ、10尋(ひろ)はある。
10尋・・・
首都ハポノの5階建てマンションでも、8~9尋である。
浮上筒ナシに飛び降れば、大破確定の高さであった。
飛び降りるなど、不可能な高さであった。
──これまでの帝国軍なら。
<・・・こちらチラーニ・ウミドラーニ。敵9鬼、飛び降り始めたでござる>
「なんじゃと?」
通信の内容に、ソラトバンは混乱した。
「帝国軍が・・・飛び降りる? どこから?」
<『空飛ぶ島』から、ジャンプして地上に降りてござる>
「ジャンプ?」
<ふわーん・・・となって、着陸。損害ゼロの模様。ナンガラック6、蒸気械弩砲3>
「???」
訳がわからぬ。
ソラトバンは、洞窟の中に潜伏中である。
敵が追いかけて来とる、というのは予想どおりなので、わかるのだが・・・
ジャンプとは、なんじゃ???
<チラーニみたいな感じだよ>と、チーニャ。<ゆっくり落ちて、軟着陸した。ダメージはないようだ>
「浮上筒か?」
<いや、筒は付けてない>
「じゃあ、魔術か?」
<魔術じゃ無理でしょ>とチラーニ。<オレにはできないね>
<ワシも無理じゃ>とトンボ。<マナが足らん。まったくもってな>
<何もかもが、おかしい>チーニャがつぶやく。<帝国を相手にしてる気がしない>
<同感じゃ。魔王を相手にしとるようじゃ>
「魔王ならできるんか?」
<うむ。≪声≫なら、岩山を飛ばせてもおかしくはない>
「ふむ・・・」
ソラトバンは、洞窟の壁を見た。
真っ黒である。
炭で塗ったみたいに真っ黒な洞窟であった。ところどころ、キラッと光っておるが・・・。
火は、ついておらぬ。それゆえ、『夜目』を使わねばなんも見えんレベルで真っ暗である。
黒い壁には、穴がある。覗き込むと、向こうに空間がある。そっちには、かすかに外の光が見えた。外に繋がる空間なのだ。
「・・・魔王は、死んだんじゃよな?」
<らしいな>
「蘇生はせんのじゃよな?」
<知らんわ。じゃが、アイツぁ、戻っては来んと思うぞ>
「なんでじゃ?」
<生まれついての王だからじゃ。どこへ行っても、アイツの足元に国ができる。そういう女じゃった>
「・・・弐ノ塔みたいじゃな」
<『弐ノ塔は魔王みたいじゃな』と伝えておこう>
「やめんかい」
「いいぞ、いいぞ!」
魔王の継承者・レラは笑った。
つばさを、バッサバッサと打ち振って。
──いま、彼女は、鳥人魚モードである。
上半身、女+鳥。ほぼ女だが、両手が翼になっておる。黄金に輝く、摩訶不思議な翼である。
下半身はセイレーン。魚みたいなウロコに、クジラみたいな足ヒレの組み合わせ。
ナンガラックたちの空挺降下を、見下ろして・・・
キャッキャッと、楽しそうに笑って・・・
バサリ!
つばさを、打ち下ろした。
フワッ・・・と、彼女の身体が浮かんだ。
数回、バッサバッサとする。
見る見るうちに、上空へ舞い上がった。
「実験は成功だ! オマエたちは、用済みとなった! ・・・だが、」
円を描いて、悠然と、飛ぶ。
眼下。
帝国の蒸気械人は、整然と行動しておった。
1鬼飛び降り、着地したらすぐに移動して、場所を空ける。そこに次の1鬼が降下する。
空挺降下(くうていこうか)は、初体験のハズである。それにしては、整然としており、見事であった。
レラは、ほほえんだ。
「よかろう。見届けてやる。オマエたちの『経験』、意外と、うまそうだからな」
「・・・勝てる。レラ様のおかげで!」
鬼械人部隊長。
部下9鬼の降下を見届けて、グッと、拳を握った。
「レラ様がついていてくだされば──ただの人間に過ぎぬ我らでも、空を支配できるのだ!」
熱でもあるような顔で、ブツブツ言う。
それから、ハッと気を取り直して・・・
自分の鬼械人──“鉄拳”ピンガデオスを、走らせた。
岩を蹴って、空へ飛ぶ。
一瞬、視界は大空だけになった。
ソラトバンがいつも見ておる光景である。
すぐに、岩山の頂上が視界に入ってくる。
このまま落下するのでは──と、不安を感じた瞬間。ガクーン! と、ショックがあって、落下が和らぐ。
フワッ・・・と、絹布(けんぷ)のように柔らかく、宙に浮かぶ感じになった。
ズガーン・・・!
それでも、着地の衝撃は隊長の脳天を突き抜けた。
損傷、なし。
前進。
合流。
「突入!」声と手信号で命令。
陣形を整え、真っ黒な洞窟へ突入する。
──『パチモン弐ノ塔』作戦によって用意された、罠の中へ。
◆ 19、看板 ◆
鬼械人部隊、洞窟に入る。
隊長は、先頭をゆくナンガラックの後ろについた。弩砲と護衛のナンガラックが隊長の後ろに続く。
「デカいな・・・」
真っ黒で、巨大な穴。
鬼械人でも余裕を持って入っていけた。
「伝説の巨人でも通れそうなサイズだ。これなら、基地があってもおかしくない」
左右の覗き窓を見る。壁が真っ暗で詳細はわからない。
「偵察もなしで『制圧せよ』とは、ムチャな命令だが・・・何も見つけずに、引き返すことはできん」
ややあって、先頭のナンガラックが立ち止まった。
上半身を回転させ、左側面のハッチをこちらに向ける。
話し合いたいことがある──という場合の動作であった。
「止まれ!」
部隊を停止させる。
それを確認してから、ナンガラックの乗り手が席を離れ、ハッチを開けて、顔を出した。
「壁に、文書アリ。照明の許可求む」
声と手信号で伝えてくる。
壁に文書──看板か張り紙のことであろう。
確認したいが、暗くて読めんから、照明をつけさせてくれと。
「許可する」
「了解。照明をつける」
乗り手が、ランプと火打ち石を取り出した。着火作業に入る。
すると、後ろから蒸気械弩砲が近付いてくる音がした。
動けとは命じていない。命令違反である。
ハポノ貴族にはままあることだが・・・つい最近、鬼械人部隊が謀叛を起こしただけに、ゾクッとする。
ピンガデオスの上半身を回転させ、側面覗き窓で相手を睨んだ。
杞憂(きゆう)であった。相手は停止して、なにか伝えようとしておる。
「待て。照明。待て。重要情報アリ」
たしか、この乗り手は、鉱山を所有する貴族家の出身だったはずである。
なにか気付いたのか? そういえば、ここは鉱山のようでもあるが・・・
「わかった。その場で待機せよ」
手信号で伝える。そして、ランプを着火中の乗り手に、「待て」と命令しようと、振り向いた。
着火。
ランプに、火がついた。
壁が照らされ、看板の文字が見えるようになった──
┏━━━━━━━━━┓
火 気 厳 禁
この先、炭鉱につき
火気及び高熱源体の
持ち込み厳禁 幽雲
┗━━━━━━━━━┛
◆ 20、空飛ぶ島、敗北する ◆
「なっ!?」
ランプの持ち手は、あわてて火を消そうとする。
そのときであった。
洞窟の奥から、ソラトバンの声が轟いたのは。
≪先に撃ったのは、そっちじゃ。ほじゃけ──こちらも撃たせてもらう!≫
ドゴン!!!
轟音が、炸裂した。
「!!?」
ランプを持っていた男は、その音だけで失神。地面に転落した。
火のついたランプも、一緒に落ちた。
黒い煙が舞い上がる。地面に積もっていた細かいスス──石炭の粉末が、舞い上がったのだ。
ランプが割れる。火がススに燃え移った。
ボン! 小爆発が起こった。
そして。
この時点で、すでに、攻撃は着弾していた。
洞窟奥から放たれた砲弾──列電魔旋弾が、ススいっぱいの地面に命中。石炭とススと、猛烈な火花を巻き上げたのである。
その結果、起こったことは。
爆発であった。
舞い上がったススに、連鎖的に火がついた。
鬼械人部隊は、炎と爆風に包まれる。
先頭のナンガラックは、乗り手を失ったまま、転倒。壁に激突したあと、仰向けに地面に倒れた。背中の中央蓄熱塔が破損。高温の蒸気が噴き出した。
この蒸気が、さらなる悲劇を招いた。
ススの爆炎に、高温高圧の蒸気がぶつかって、猛烈な大爆発に発展したのである。
ドドドドッ・・・ ド ゴ オ オ オ ン・・・!!!
爆炎が、洞窟入口から噴出した。
待機していたナンガラックが炎に呑み込まれ、転倒する。
『空飛ぶ島』にも、爆炎は届いた。煽られた島が傾き、地面に接触。下部の岩がヒビ割れて、一部砕けた。
この衝突が、空中に浮かんどる島に、大激震を引き起こした。
傾いた後に上下に猛烈にシェイクされたんである。
ナンガラックや弩砲が、ゴロンゴロンと転がった。
ナンガラックの1鬼が、島から落ちてしもうた──そのほうが、マシだったかも知れん。ふわ~ん・・・と、『浮遊』の効果で守られ、軟着陸できたからである。
島の上で転倒したナンガラックは、『浮遊』が発動せず、まともに倒れた。乗り手は、死亡した。
「な・・・なにがあった!? この爆発はなんだ?」
引っくり返った天空将軍。
起き上がりながら、乗り手に聞いた。
「わかりません!」
弩砲が転落しないよう、頂上にしがみつく操作をしつつ、乗り手が答える。
「隊長から信号なし。煙で地表の様子わからず」
「ヤツらの・・・罠だったのかも、知れませんね・・・」参謀がヨロヨロと起き上がった。
「罠・・・」
天空将軍は呆然とした。
「馬鹿な・・・いや、だとすると、ここに留まるのはまずい! ──レラ様! 退避をお願いします!」
将軍。
ハシゴを登って、屋上に出るハネ上げ戸を、押し開けた。
頭を出した。
玉座を見る。
空っぽ。
見回す。
誰も居らぬ。
「レラ様!?」
まさか転落したのかと、屋上に上がって周囲を見る。
誰も居らぬ。
グルグル見回したあと、最後に空を見上げると・・・
「あはははは!」
大空を舞うセイレーンの姿があった。
高らかに笑って、こっちを見下ろしてきた。
「だから、確認してやったのだ。『近付けてよいのだな?』と」
「し・・・知ってらっしゃったので!?」
「いいや?」
レラは首をかしげる。遠くを見て、なにかに気付いた顔をした。
「だが、予想はできたことだ。炭鉱なのは、見ればわかる。爆発の罠を仕掛けるのは簡単なこと」
「なぜ教えてくださらなかったのです!」
「教えて動かしたのでは、『経験』にはならぬ」
「経験?」
「ふふふ。もうよい」
≪夢から覚めて、現(うつつ)を見よ≫
レラが、響き渡る声で、命じると。
「こ・・・この化け物め!」
天空将軍は、まさに夢から覚めたように、猛烈に怒り始めた。
「私たちを魔術にかけたな! 催眠──いや、魅了か! セイレーンの能力だな!?」
「いかにも」レラは笑う。
「降りて来い! 貴様を裁判に──いや、いまは、要塞を動かせ! ここから退避するのだ」
「言われずとも、そうする。後でな」
「なに?」
「いまはダメだ」
「なぜだ」
「巻き添えはごめんだ」
レラは、詠唱した。
「月霊術『水鏡(みかがみ)』」
そして。
すー・・・っと、空に溶けるように、消えてしもうた。
「逃げるのか! 卑怯者!」
「自分のことを心配したらどうだ・・・?」
レラの声が遠ざかってゆく。
姿は見えねど、声の位置が移動していることはわかった。
逃げたのだ。
だが天空将軍は、反対の方向を見た。
戦士の勘であった。レラが、危険からまっすぐ遠ざかったのを感じたのだ。
空に、淡い黄金色した鬼械人の姿があった。
美しい装甲──いまは、ちょっと、ススまみれ。
スマートなシルエット。
背中で羽ばたく、4枚の羽。
長い砲を抱えて、突っ込んで来る。
「げ・・・迎撃! 迎撃ィーっ!! 敵襲だ、全力で迎撃せよ!!」
蒸気械弩砲の中から、通信士が出てきた。
ゴンゴンゴンゴン・・・! と、銅鑼を乱打する。
だが、転がったナンガラックは起き上がらず・・・(乗り手が死んどるので)
唯一動ける蒸気械弩砲は、弾を当てれず・・・(空中の敵に当てる訓練など、したことないので)
一直線に突っ込んで来るトンボを、止めることはできなんだ。
ズドォォン・・・!!
トンボが、岩山の頂点に、止まった。
≪動くんじゃない! 次は、撃つぞ!≫
列電魔旋砲が、こちらを向いておる。
天空将軍。砲の詳細は知らんが・・・大砲だということぐらいは、理解した。
「ぬ・・・ぬう!」
≪あんたが、指揮官じゃな! 負けを認めて、降服せい!≫
雷鳴のように轟く、恐ろしい声(・・・と、天空将軍には聞こえた)。
勝者の命令を発して、『空飛ぶ島』を一瞬のうちに支配した。
「お・・・おおおっ・・・!」
天空将軍は。
「よかろう! 降服しよう! 敗北は認めてやる! だが、」
腰の剣を、抜いた。
「──だが私は屈服せぬ! 人喰い鬼に、頭(こうべ)は垂れぬ!!」
そう叫んで。
手にした剣で、自刃した(じじんした)。
『空飛ぶ島』は、こうして、敗北したのである。
◆ 21、島のなぞ ◆
「・・・どういうコトじゃ、これ」
ソラトバン。
トンボの中から、死んだ天空将軍の姿を見下ろして、首を振る。
「岩山を飛ばすぐらいじゃから。どんだけ強いんかと思うたら・・・なんなんじゃ、これ」
<ま、始末をしようじゃないか>
トンボは、さすがに場馴れしておった。淡々と動き始める。
まず、島全体を飛び回り、爆鬼(ばっき)などの致命的な仕掛けがないかをチェック。
──なし。
弐ノ塔を呼び寄せる。予備飛行塔と、攻撃塔1基だけが、飛んできた。
攻撃塔は高空に留まって警戒。
飛行塔が『島』に接近、整備ロボのドリノンを出した。
ドリノン(無人)は、参謀などの生存者を捕縛。飛行塔へ連行する。
これで、急ぎの仕事は終わった。
トンボは、改めて島を探索する。
すると、不思議なことが判明した。
先ほどの、島が地面に接触したとき、砕けたあたりに・・・
鉄骨のようなものが、突き出しとったんである。
「なんじゃこりゃ。柱みたいなモンが、中から出て来とる」
<骨組みかのう>
「岩山に、骨組みじゃと?」
<そう見えるし・・・>
トンボは首をひねった。
<・・・おかしいのう?>
「なにがじゃ」
<いや・・・これ、妙雅様の骨組みに見えるんじゃが>
「なんじゃと?」
<弐ノ塔よ、コレ、見てくれんか>
<なんじゃ>
おふくろさんが通信で呼び出される。
トンボが、通信で映像を送った。
<どうじゃ? 妙雅様の骨組みに似とらんか>
<・・・似とる>
弐ノ塔のおふくろさん。
いつもの余裕が感じられぬ、緊張した声で言った。
<全員、帰還せよ>
<なんでじゃ>
<説明は後じゃ。この場を離れる。全員、即刻帰還せよ>
あわただしく帰還する。
チラーニと浮鬼も、トンボの後から帰ってきた。
予備飛行塔の玄関格納庫に、全員が集合した。
「・・・なんなんじゃ」
ソラトバン、乗り手甲をゆるめ、一息つく。
そこで、おふくろさんから通信が入った。
<アレが妙雅じゃとすると、自爆が可能じゃ。ほじゃけ、距離を開けて様子を見ることにした>
「またか!」
ソラトバン、うんざりして叫ぶ。
「また爆鬼か! なんでオーガは、そんな自爆が好きなんじゃ」
<好きなワケじゃないし、使うたこともない。まあ、聞かんか>
「・・・はい」
<妙雅も私も、トンボの『力の筒』と似た方法で、活動のための力を得ておる>
<粒子の操作?>とチーニャ。
<いかにも>
「・・・ああ、筒を動かすんと、同じやり方で、力を生み出しとるわけか。ほじゃけ、同じ方法で爆発もできると」
<そうじゃ>
「なるほどな」
<その力じゃが、トンボらの筒とちがって、1箇所に集中しておる>
「・・・。」
<じゃによって、万が一、それが爆発すれば・・・>
「わかった。はいはい。爆発爆発」
ソラトバンは両手を上げた。
<真面目に聞かんか>
「聞いとるわい。おふくろみたいに便利なモンを造ると、事故も強烈になっていくっちゅう話じゃろ、つまるところは」
<・・・うむ>
「なんでもそうじゃ。よく切れる斧は、自分に当てたら恐いんじゃ」
<それは力の大きさの話じゃないが・・・まあええが>
「ほんで、半径はどんだけじゃ?」
<わからん。規模がちがいすぎて、半径も、副作用も、よくわからん>
「そうか・・・」
ソラトバン、ぐったりした。
「ま、退却した理由はわかったわい」
<パチモン作戦にしといて、良かったよね~>とチラーニ。
<カルデラだったら、逃げるワケに行かないもんな>とチーニャ。
「そうじゃな。ココでやって良かった。そう考えよう」
<ひとまず、休憩にしようじゃないか>
おふくろさん、提案する。
<攻撃塔は上空に置いておく。私が見張っておくけぇ、おまえさんがたは休憩せよ>
<万が一の場合は?>とチーニャ。
<万が一とは>
<妙雅様が生きていて、自分で飛んで、逃げ出した場合>
<あり得ん。妙雅は死んどる>
<じゃあ、妙雅様の同型鬼とか・・・>
<私らに同型鬼なんぞ居らん>
などと言うておった、まさにそのとき。
<ありゃ?>
「どうした、おふくろ」
<島が逃げ出した>
「は?」
<映像回す>
タコ千里玉に、映像が出た。
空飛ぶ島。
が、浮かび上がって、動き始めておる。
鹵獲を後回しにした蒸気械人や、自刃して倒れた天空将軍の遺体を乗せたまま・・・
徐々にスピードを上げて、飛び始めた。
・・・じつはこれ、姿を隠したレラが島に戻って、制御しておるのだが。
弐ノ塔の面々は、まだ、彼女の存在に気付いておらぬ。
<あり得ん。なんでじゃ>混乱するおふくろ。<あの島、一体なんなんじゃ>
「やっぱり妙雅様、生きとるんじゃないか。蘇生したとか」
<オレは同型鬼に賭けるぜ>
<じゃあオレも~>
と、チーニャ&チラーニ。
<冗談は後にせんか>ここでも、トンボは的確であった。<どう対処するんじゃ?>
「そうじゃな。そっちのが大事じゃ。わし、出るか?」
<いや。ここは、2号鬼に行ってもらおう>
「2ごうき」
<ドリナラーニ。黒トンボで尾行せよ>
<オウ! 了解>
<ウミドラーニ。黒トンボに移れ。例のヤツを出す>
<了解でござる!>
「例のヤツとは」
<見てのお楽しみじゃ>
黒トンボ、出撃する。
飛行塔の屋上にエレベーターで出てから、離陸である。
このとき、タコが1機、一緒に屋上から飛び立った。
いつものタコとちがう。
デカい。速い。フワフワせず、一直線にギューンと飛ぶ。
「速い!」
<飛行タコじゃ。最近造った。ウミドラーニ、使いこなせとるようじゃな>
「みんな成長しとるんじゃな・・・」
<ほじゃ、あらためて──休憩にしようじゃないか>
追跡は鬼械人2人に任せて、ソラトバンたちは、休憩を取ることになった。
この休憩は、予想より少し伸びた。
黒トンボが帰還するまでに、1日ほどかかったからである。
ひとまず、交代で軽く風呂に入って、食事して。
横になって、待機することになった。
◆ 22、待機の1日 ◆
この『待機』っちゅうのが、ソラトバンは苦手である。
緊張が抜けず、疲れが溜まるのだ。気疲れするのだ。斧持って木ィ切っとるほうが、マシなぐらいである。
最近は少し慣れてきたが・・・。
まあ、恋人になった美女がそばに居るのは、ありがたいが。
「・・・大丈夫か?」と、その恋人の姐御。
「ん?」
ソラトバン、一瞬何を訊かれたのかわからぬ。
この恋人は1人で色々と頭を回してからしゃべるので、たまに、わからぬ。
だが、それにも少し慣れてきた。
大丈夫かと訊いたときの声色で、深刻な質問なのがわかった。
──彼女は、ハツラノッツの虐殺のことを言っていたのだ。あの洞窟の大爆発と、今回の作戦が似ていたので。
「ああ。わしもちょっと不安じゃったが、やってみたら、なんともなかったわい」
「そうか」
チーニャ、髪いじる。
ソラトバン、彼女に手を伸ばす。彼女が腕に入ってきた。やわらかい・・・。
「たぶん、アレじゃ。あのとき『なんでこんなことをした』と思ったのを、今回やり直せたからじゃろうな」
「やりなおす?」
「バッツワーノは、武装しとらん女子供を巻き込んだ。警告もせんかった。威力もデカすぎた」
「うん」
「なにより、暗殺なんぞ、戦士のすることじゃない。クズのすることじゃ」
「だが、やられたら負けだぜ?」
「まあな・・・」
「オマエは、綺麗に戦いたいのか?」
「・・・。」
ソラトバンは綺麗なチーニャの顔を見てしばらく考えた。
「正直言えば」
「うん」
「戦いたくはないのう」
「・・・そうだなw」
このあと、黒トンボから<通信圏外に出る。時間がかかりそうだ>と連絡があった。
ソラトバンたち、完全に休むことになる。
寝て、起きて、食事して・・・
休む。
翌日、穴堀り巨人から連絡が来たので、お礼を言ったりした。
<おはよう、ソラトバン>
「おはようさんじゃ、幽雲(ユーン)どん。さすがは、穴堀り巨人じゃな!」
<うまく行ったそうじゃな>
「うむ。トンボどんに、キズひとつ付かんかったわい」
<列電魔旋砲とやら、威力がわからんので、少し心配じゃったが。良かったわい>
「わしのアホな思いつきを、立派な作戦にしてくれて」
<なーに、それほどじゃない。──代わりと言ってはなんじゃが、乗駆鬼(ジョッキー)のこと、頼むわい>
<もちろんじゃ>
これには弐ノ塔が返答した。
<言われたとおり、タコを地下に飛ばしとるところじゃ>
<うむ>
<炭鉱で爆発を起こしたことは、今度補償をするで>
<うむ。戦う以上、払いはナシとはゆかぬ。じゃが、生命を払わずに済んで、幸いじゃったな>
ソラトバンの『パチモン弐ノ塔』作戦とは。
ニセの基地に、敵を誘い込もう。そうすれば、カルデラは安全じゃ──と、いうものであった。
つまりは、バッツワーノ相手に幽雲洞がやったのと一緒である。
・・・ただ、そのパチモン基地の候補が、なかった。
弐ノ塔。
生真面目(きまじめ)。
パチモン拠点とか、そういうの、パッと対応できる性格でない。
そこで力を貸してくれたのが、幽雲どんであった。
幽雲どん、穴掘るの大好き。
手下のダークエルフども、パチモン工房とかで他人をだますの大好き。
彼らの協力で、今回の計画が完成したんである。
ちなみに、幽雲どん・・・
あっちこっちに、巨大トンネルを張り巡らせておったようじゃ。
幽雲洞のあたりは、言うまでもなく。
撃竜界(げきりゅうかい)にも、繋げたし・・・
弐ノ塔の本拠地にも、向かっとったそうじゃ!
おふくろ、めっちゃイラッとしとった。当然じゃわな。黙ってトンネル掘るて。侵略じゃないかw
穴堀り巨人どん。まったくもって、油断ならん御方じゃ。
で。
この『トンネル』に、川が流れとるそうじゃ。
「水が流れとれば、ものが運べるじゃろ。排水にも使えるし」
だそうな。
つまり、地底運河じゃな。
この運河を造っとる途中で、鉱脈をいくつか発見した。
そのひとつが、今回借りた炭鉱──と、こういうワケじゃ。
<石炭の有望な鉱脈じゃ。ダイヤも取れるぞ>
と、幽雲どん。
<ドワーフを派遣するつもりで基礎工事したんじゃが、こんな形で役立つとはのう>
さて。
こんな話をしておったら。
ちょうどええタイミングで、朗報が地下から上がって来た。
<乗駆鬼が見つかったぞ>
と、弐ノ塔が報告したんである。
◆ 23、乗駆鬼、発見さる ◆
<やはり、そちらじゃったか!>と、幽雲どん。<無事か?>
<いま、映像を回す>
タコ千里玉に、おふくろが発見した映像。
真っ黒に汚れた姿で洞窟に座っとる、オーガとゴブリンども。
タコを見上げとるのか、みんなこっち向いておる。
「乗駆鬼どん!」
<・・・もしかして、弐ノ塔様の偵察機か?>と、オーガの乗駆鬼。
「そうじゃ! 大丈夫か?」
<だとしたら、頼む。助けてくだされ。道に迷い、食うものもなく・・・危険な状態なのだ>
「おーい! わしじゃ、ソラトバンじゃ!」
「ソラ。タコはしゃべれない。こっちの声は聞こえないんだ」
とチーニャ。
「それより、水と、食料と、薬だ。ドリノンに運ばせるんだ。行くぞ!」
「ソラトバン殿・・・!!」
ヨレヨレになって上がってきた乗駆鬼。
初対面のときには考えられんかった態度で、頭を下げてきた。
「これで、四度目だ! おまえさんたちに助けられたのは」
「ええい! 礼なんぞ後にせよ! 水を飲め、水を」
「水は飲んだのだ・・・運河のをな。だが、スープは頂こう」
乗駆鬼、ちびちびとスープを呑む。
「そんなんで足りるんか?」
「腹減りすぎとるときは、急に食ってはいかんのだ」
そう答えて、乗駆鬼は笑った。
「飢餓(きが)のことなら、我らは、ちょっと詳しいぞ」
「そうか・・・」
見れば、ゴブリンどもも、スープでガマンしておる。目が合うと、ニカッと笑ってきた。
「にしてもだ」と乗駆鬼。「あの迷路には、参ったわ!」
「迷路? 運河のコトか?」
「『運河』な。私もそう聞いておったが──冗談キツいわ! ありゃ迷路じゃ。大迷宮だぞ」
「なんと」
「助かったけれども。感謝はしとるけれどもだ。──二度と、入りたくない場所だわい!」
ところで。
落ち着いてから、
「四度も助けた覚えないんじゃが?」
と、訊いたらば、
「幽雲洞に向かうとき。
防衛戦で、私が取り残されたとき。
鈴雅(れいが)様の一件。
そして今回じゃ」
・・・という答えであった。
「おまえさんというヤツは・・・全部、自分が背負うつもりか」
「フン。威張っとる人間というのは、なんでも背負わんといかんのだ」
腹をグウグウ鳴らしながら、乗駆鬼は威張って見せるのであった。
◆ 24、レラの力 ◆
丸一日経って、黒トンボが帰還した。
<首都まで行って来たでござる!>
ハッチから飛び出したウミドラーニ。
つばさバサバサさせて、着地。報告をした。
<アヤツ、首都近くの基地に着陸して、帝国軍に迎えられてござった!>
<友好的ニ、補給、修理>とドリナラーニ。
「ってことは、帝国陣営で疑いナシか」とチーニャ。
「まだ疑っとったんか」
「一応ね? 弐ノ塔と帝国を争わせよう──ってヤツは、いてもおかしくない」
「なるほど」
<それで、変な女が出てきたんでござる>
「へんなおんな」
<いま映像出すでござるから>
映し出されたのは。
つばさのあるセイレーン。
魔王の継承者・レラの姿であった・・・
帝国の実質的支配者・ミェンノー大臣と、親しく言葉を交わして。
死んだ天空将軍の身体に触れて。
呪文を唱えて。
しばらくして・・・オエー! と、吐く。
それから、フラフラと立ち上がる。
・・・という、映像である。
「誰じゃコイツ」
<コヤツ、着陸時には、呪文版抱えて詠唱してござった>
「呪文版・・・鬼械人の心臓じゃったか?」
<どっちかってと、脳だね~>
「島を操作しとるんか?」
<確証はござらんが、><可能性ハ、大>
「もしかして、トンボどんと同じ・・・?」
ソラトバン。
おふくろの雑務ユニットを見た。
「死体を、勝手に使われとるんじゃないか? 妙雅様の死体を」
<・・・あり得る>
おふくろはうなずいた。
<だとすると、極めて危険じゃ。なんでといって、>
「超巨大爆鬼になる」
<うむ>
「・・・ところでさ、」とチーニャ。「この女、レモンに似てるよな?」
ということで、レモンちゃんが呼び出された。
どってんどってんどってん。
セイレーンのレモンちゃん、オットセイみたいに走ってきた。
「ソラ・トゥー・バーン!」体当たりしてくる。
「ぬわー!」ソラトバン、倒れる。
「レモン、この子、見たことあるか?」
「んー?」
千里玉を覗き込んだレモンちゃん。
顔色が、青ざめた。
「・・・レラ」
「知り合いか?」
「うん。マテレーニャ・マレッジラゲーニャ」
「まれ・・・なんじゃと?」
「縮めてレラ」
「はぁ」
「レモンの姉妹なのか?」
レモンちゃんの本名は、マテレーニャ・レモノーノ。
名前の前半部、レラと同じであった。
「マテレーニャは、『マテン珊瑚礁のセイレーンの娘』。私たち、みんな、マテレーニャ」
「姉妹ではない?」
「んー・・・」
レモンちゃん、返答に悩む。
「セイレーン、タマゴから孵る(かえる)。誰のタマゴか、ゴッチャゴチャ」
「みんな同じ場所にタマゴを生むってコト?」
「そうそう」
「どういう子なんじゃ? レラは」とソラトバン。
「経験、吸収する」
「けいけん」
「うん」
レモンちゃん。
大きく目を開いて、ソラトバンの袖を、ギュッと握ってきた。
「レラは、死んだ人の経験を、吸収できる。魔王様のも、吸収した──って、言ってた」
※このページの修正記録
2025/07/23
表現が足りずわかりづらかったトコを修正。以下2点。
「19、看板」
突然「杞憂だった」とか書いてて意味不明だったのを補足。↓のあたり。
> 動けとは命じていない。命令違反である。・・・
「21、島のなぞ」
↓が誰の発言かを補足。チーニャ、チラーニです。
> <オレは同型鬼に賭けるぜ>
> <じゃあオレも~>