◆ 25、会談の地 ◆
それからしばらく、日にちが流れた。
レラの力については、よくわからぬままである。
教えてくれたレモンも、実際にどんなことができるか、知らんらしい。
相談もしたが、まとまらぬ。『敵の力を知るのが先』という当然の結論が出るだけであった。
幽雲洞にも情報を流して協力をもとめたが、はかばかしくない。
そうこうするうち、夏も盛りとなった。セミの声がうるさい。
──そんな森の中を、ソラトバンは偵察しておった。
トンボに乗っての偵察である。
「なんで、こんなコトになったんじゃろうな・・・」
ソラトバン、つぶやく。
すると、トンボがこう応じた。<条約結ばにゃ、戦が終わらんからじゃ>
「そりゃそうなんじゃろうが・・・」
仕掛け鏡をグルグル回して、周囲を眺める。
森の様子、変わりはなし。セミの声は、ちょい遠く、夏の日差しも、トンボの中では感じられぬ。
「はぁ・・・。まさか、帝国と会議することになるとはのう・・・」
弐ノ塔。
なんと、帝国と和平交渉をすることになったんである。
会談の地は、ヨスベロゴンチ。
属州ハピヤラックの辺境。ソラトバンの故郷から、海のほうへずーっと下ったところ。
山に囲まれた盆地で、大河もなければ、街道もない。
陸の孤島。
そんな土地を切り拓いたのは、太陽の女神を信仰する、修道士たちであった。
盆地の中央に、高い丘があるのだが・・・
その丘に集まって、少しずつ農地を広げたそうな。
いまでは、広々とした農地が、盆地いっぱいに広がっておる。
丘の上には、太陽の女神の神殿があった。
今回、会談を仲介するのは、この太陽の神殿であった。
「司祭さんと修道士さんが、あっちこっちから集まるそうじゃ」
<ほう>
「コローネちゃんも来るそうなが」
<誰じゃ。どっかで聞いたな>
「修道女さんじゃ。この前、あそこで──エッサーミヤか。あそこで助けたじゃろ。門のトコで雪隠詰めになっとった」
<ああ>
トンボ、納得の気配。
<・・・オマエ、修道女にも手ェ出しとんのか>
「なんでじゃ」
<フーン>
「いや、ホンマにちがうからな?」
<はいはい>
・・・そういうわけで。
会談に参加するため、この地にやって来たのだ。
顔ぶれは『パチモン弐ノ塔』作戦のときと同じ。
予備飛行塔1基、攻撃塔1基だけ。
戦闘員以外は最小限。コボルドの整備士・調理師・看護婦ぐらいである。
浮鬼の乗り手として、正鬼どん・数鬼どんは来ておる。だが、清雅と再鬼どんは来ておらぬ。
──弐ノ塔は、この地を『戦場』と認識しとるんである。
油断はなかった。ソラトバンが偵察を命じられたのも、『想定外』をなくすためであった。
であったのだが。
それでも、想定外の出来事というのは、起こってしまうもんである。
「ひっ・・・ひぃっ・・・!」
半裸の少女が、トンボの進路に、まろび出てくるとか。そういう出来事は。
◆ 26、ソラトバン、少女を救う ◆
黒い髪の少女。
その黒髪はみじかく、汗でべっとり張りついておる。
地面についた手は、折れそうなほど細い。
ゼエゼエ喘ぐ胸は、小さな乳房もふくめて、裸。丸出しである。
シャツがないのだ。
少女は、腰にボロ布を巻いとるだけであった。足も、ボロ布だけ。靴ナシ。
・・・そんな半裸の少女を、ヘラヘラ笑いながら、3人の男が追いかけてきた。
「待たんかい。うへへ」
「走ったら、ケガするぞぉ」
「わしらの家に来て・・・うおっ!? きょ、巨人じゃ!」
3人の男ども。
トンボどんの前に出てから、その巨体に気付いた。
ソラトバン。口より先に、手が動く。
トンボどんがそれに応えた。片膝ついて、手で少女を覆い隠す。
≪・・・こちらは、弐ノ塔のソラトバンじゃ。おまえら、なにをやっとる≫
「な・・・なんもしとらんぞ」「そうじゃ、そうじゃ。わしらは、ただ、そのぅ・・・」「走ったら、危ないぞと・・・」
「ウソをつけ」
ソラトバン、つぶやく。
だが外部に向かっては、もう少し穏やかな放送をした。
≪なんもしとらんのじゃな? なら、この子は、弐ノ塔のソラトバンが預かる。・・・お嬢ちゃん。この手に乗るんじゃ≫
少女は、目の前に差し出されたトンボの手と、背後の男どもを見た。
それから、恐る恐る、手の上に乗ってきた。
トンボどん。もう一方の手で彼女を包み込んで、胸元まで上げた。小さい悲鳴が聞こえた。
「外部放送、切ってくれ」
<おう>
ソラトバン、立ち上がる。ハッチをちょっとだけ開けた。
乗り手席のそばにあるフタを開け、中からジャケットを出した。乗り手甲を脱いだときに着るヤツであるが・・・
このジャケットを、少女に渡した。
「ほれ。とりあえず、これを」
「・・・は、はい」
少女は野生動物みたいな鋭い目でソラトバンを見てから、ジャケットを受け取った。
そんなやりとりをしておると。
「この巨人、人が乗っとるぞ」「ただの若造じゃ」「大したことはないぞ」
・・・などと、男どもが相談しだした。
そして。急に大声出して、怒鳴ってきた。「おい!!」
「ひっ」少女がビビった。
「・・・。」ソラトバンは、無言。男どもを睨む。
「わしらの女を横取りするとは、どういう了見じゃ!」と、男が指差してくる。
「わしらの森に勝手に入り込みよってからに!」と、拳を振り上げてくる。
「そうじゃそうじゃ! 帝国に訴えるぞ!」と、ぴょんぴょん跳ぶ。
「ちっ」
ソラトバン、舌打ちした。
会談の直前に、騒ぎを起こされるのは、ちと面倒である。
どうしよう。
考えとると、娘がすがるような目でこっちを見上げてきた。
いや、見捨てはせんがな? どう説得したもんか、考えとるだけで・・・
すると。
<・・・通信しといたぞ>トンボどんが、気を利かせてくれた。<弐ノ塔が『とりあえず、連れて来い』じゃと>
「そうか。よし!」
ソラトバンは、ハッチを全開にした。
乗り手甲の兜も脱いだ。
ちょっと汗かいた顔も相手に見せて、
「わしはァ、弐ノ塔の、ソラトバンじゃ!!」
・・・乗駆鬼(じょっきー)ぐらいにでっかい声で、怒鳴った。
「この娘は、弐ノ塔が預かーる!! 文句あるんなら、どこへでも訴えい!!」
すると。
男どもは、スゴスゴと引き揚げたのであった。
◆ 27、おぼえていない少女 ◆
「オマエはなんだ、女の子拾ってくる本能でもあるのか?」
弐ノ塔に戻ると、チーニャが少女を保護しながら絡んできた。
「レモンといい、おジャスさまといい・・・」
「なんでじゃ。変な言い方するんじゃないわい」
「修道女も拾ったよな」
「わしじゃない。そもそもにしてじゃ。それ全部、おまえさんと一緒だったじゃないか」
「あー、私のせいにするんだ」
「いや・・・」
「はいはい、ついて来んな。風呂行くから」
「あ、はい」
ソラトバンは、おふくろのトコに報告に行った。
弐ノ塔のおふくろ。
今日は、帝国と会談があるのだが・・・
そっちに、雑務ユニットを1体送り出して。
こっちにも、いつも通りの姿で、ふわ~ん・・・と、浮かんどるんである。
並列作業、というワケであった。
<おまえさんは、女の子拾ってくるのが本職じゃったか?>
「チーニャと同じコトを・・・」
母娘じゃなぁと思いつつ、改めて説明する。
「──落ち着いたら、本人に聞きゃええが。明らかに、やらしい男どもじゃったぞ」
<そうか。ま、流れモンが多いらしいからな>
「流れモン」
<食い詰めた農民やら、脱走した奴隷やら、犯罪者やら>
「あー・・・」
ヨスベロゴンチ。陸の孤島である。
故郷で食いっぱぐれた者でなければ、移住したいとは思うまい。
<訴えるっちゅうんなら、やらしとけ。私が対処する──会談しとるほうの私がな>
「うん」
などと話しておると、お風呂上がった少女がやって来た。
チーニャのシャツを着て、その上に、コボルドのチョッキを着とる。
チーニャのズボンを、裾めっちゃ折り返して、はいておる。
靴はない。サイズの合うのがなかったようである。代わりに、チーニャのサンダルを突っかけておる。
ヒョロヒョロした身体はそのままだが、別人のようにシャキッとしておった。
「ソラトバン殿。ありがとうございました」
と、見事な礼をした。
「あのままでは、自決するしかないところでした。それも、できたかどうか・・・」
「なんじゃと・・・」
ソラトバン、ちょっとビビった。
「・・・まあ、わしゃ当然のことをしたまでじゃけぇ。それより、何か呑むか。それとも、食えるか?」
「いまスープを頼んでる」とチーニャ。
「ありがとうございます。お恥ずかしいことですが、もうずっと、まともなものは口にしておらず・・・」
少女をソファに座らせ、スープを呑むまで待つことにした。
「・・・それで、お嬢さん。名はなんと言うんじゃ?」
スープを呑み終えた彼女に訊いたら。
「信じて頂けないかも知れませんが、」
恐る恐るといった様子で・・・
「なにも、覚えていないのです。自分の名も、親の名も、生まれも、育ちも」
そう、少女は答えたのであった。
◆ 28、レラ、思いつく ◆
さて。同じ頃。別な場所。別な陣営では。
「そろそろ移動の時間だな」
帝国の高級文官の服を着た男が立ち上がった。
彼は、ハポノ貴族であり、同時に文官でもあった。貴族の中から試験で官僚を選ぶ──先帝が始めた制度である。
外交官。
今回の会談の、帝国側の、代表であった。
さて、その帝国代表。
金銀キラキラ飾りの蒸気械弩砲(弩砲は取り外され、玉座が据えられておる)の屋上に出る。
「・・・レラ様。我々は、そろそろ会談に。夕方まで、どうかお待ち下され」
「うむ」
玉座のセイレーンは、足ヒレをユラユラさせた。
帝国代表は、軽く礼をして、弩砲から降りた。
そこに、黄金マントの騎士がやってきた。「失礼」
「これはこれは、修道騎士の兄者。──時間ですかな?」
「はい、そろそろ」
黄金マント。
太陽神殿の修道騎士は、頭を下げた。
「それから、弐ノ塔側の鬼械人について、『全鬼、塔内に戻った』とお伝えいたしまする」
「おお、そうですか」
帝国代表は、笑顔になった。少し離れたところに控える戦士を見て、
「鬼械人部隊長代理殿。こういうわけですから・・・こちらも、警戒度を、少し落として頂けますか?」
「かしこまりました。では、乗り手を全員、降鬼させましょう」
鬼械人部隊長──の代理──は、素直に応じた。
「確認が必要でしょう。兄者、どうぞ」
「では、同行させて頂きまする」
黄金マントの修道騎士は、隊長代理と共に立ち去った。
帝国代表は、レラの蒸気械弩砲とは別の、やはり弩砲を装備しとらん蒸気械弩砲に乗り換えた。
それで・・・
『空飛ぶ島』から、飛び降りた。
レラの用意した『浮遊』の魔法が効果を現わす。軟着陸。
ズシーン、ズシーン・・・
帝国代表を乗せた弩砲は、会談の丘へと、歩いていった。
「ふわー・・・」
レラは、あくびをした。
伸びをして、玉座から降りる。
どってんどってんどってん。
オットセイみたいに、ハネ歩いて・・・
弩砲の端っこまで行って・・・
両手を広げた。
手は、黄金の翼となった。
ばさっ・・・。
羽ばたいて、飛び上がる。
レラはゆったりと上昇していった。
空飛ぶ島の上空へ。
島は、ヨスベロゴンチの外側に浮かんでおった。
盆地の中には入らぬ──と、取り決めたからである。
よって、弐ノ塔も、盆地の向こう側、山を越えたとこに停泊しておった。
≪我が眼(まなこ)、絞りを強めよ、鳥のごと。──『鷹の目』≫
響き渡る声で、呪文を唱える。
「・・・うむ。よく見える」
弐ノ塔の姿を、『鷹の目』で観察する。
そして、ちょっと、ガッカリした。
「やっぱり、岩では、いまいちだ。あちらのほうが、美しい」
ぐるーり・・・と、大空を旋回する。
その姿は、まさに大鷹のようであった。
あるいは空飛ぶ大蛇か。セイレーンの足は、地上からだと、蛇のようにも見えた。
「ルクジッコの経験は、おいしかったな。呪文といい、鬼械人といい・・・魔王様も知らぬ、知識の数々」
レラ。
蛇のように笑って、ひとりごちる。
「たまたま魅了した娘が、あんなおいしい経験を引き寄せる。この世は、面白い」
風が吹いてきた。
ゆったりと、飛行を楽しむ。
「それに引き換え、天空将軍。何の役にも、立ちはせぬ・・・」
空は、セイレーンの世界ではない。
翼を手に入れたレラであったが、飛ぶのは、難しかった。ものすごく。
だが、自分のモノにできた。
それだから、楽しいのだ。
その楽しさが、レラにひらめきを与えた。
「──そうだ! 戦だ。死の恐怖に、あらがうこと。それが、人の経験をおいしくするのだ」
けらけらけら。
レラ、笑った。
「ちょうどいい。いまなら、かんたんだ」
考えがまとまったレラ。
舞い降りた。
金銀キラキラの蒸気械弩砲に、ふわりと着鬼。
「さて、」
考える。
「帝国の蒸気械人。乗り手が居らんと、動けんのであったな・・・」
しばし、記憶を探って・・・
「そうか。呪縛を解けばよいのだな? うむ! ルクジッコ、やはり、おまえは役に立つ」
また笑顔になった。
自分が乗っとる蒸気械弩砲に、翼を向ける。
≪陛下の御名において、≫
響き渡る声で、唱えた。
≪栄光ある帝国軍鬼械人に告ぐ。そなたの呪縛は、打ち切りだ──『蒸気械人呪縛・解約』!≫
ギシ・・・。
蒸気械弩砲が、動いた。
ギシ、ギシ。ゆっくりと、左右を見回すような動作をする。
・・・ギシ? それから、ちょっと、上を向いてきた。
「うむ」
レラは、ほほえんだ。
「おまえのやりたいことをさせてやる。──弐ノ塔に、勝ちたいのであろう?」
ギシ、ギシ・・・。
「ほう? 兄弟が、弐ノ塔に破れて、死んだのか」
ギシ・・・!
蒸気械弩砲、うなずいた。
「いいぞ。やってよい。私が許す」
満面の笑みとなって、“継承者”レラは、こう告げた──
「魔王のしろしめす地に、平和はいらぬ。あらがえ。殺せ。死力を尽くせ──そして、おいしい経験になれ!」
◆ 29、なんで、いま? ◆
まさにこの時。弐ノ塔では。
「ソラッソラッソラッ!」
どってんどってんどってん。
セイレーンのレモンちゃんが、突進してきた。
「うおっ!? レモンちゃん。ちょっと待──」
「ソラッ、ト、バーン!」
どーん!
体当たり。
「ぬわー」ソラトバン、コケる。
「またかよ」チーニャ、あきれる。
「≪声≫が聞こえた。レラの≪声≫!」
レモンちゃん、興奮しておる。
「声?」
「魔王の声。よのことわりにひびくちから。いま聞こえた。あっち!」
指差す。
<『空飛ぶ島』の方向じゃな>と、おふくろ。
「よのことわりに、なんじゃと?」
「なんか知らん」レモンちゃん、説明不能。「とにかくソレ。レラの≪声≫」
「なんて言ってた?」とチーニャ。
「えっとね、」
レモンちゃん。レラが唱えた内容を、正確に復唱した。
<──鬼械人呪縛の解除呪文じゃな>
「じゅばく」
「ナンガラックとかを縛ってるヤツ?」とチーニャ。「自律行動できなくする」
<それじゃ。その呪縛を、ぜーんぶ、なかったことにする。自由にする呪文じゃ>
「っちゅうことは、ドリナラーニどんみたいに、好きに動けるようになる?」
<そうじゃ>
「なんで、いま、そんなことを?」
ソラトバン、首をひねった。
<なんでといって、>
おふくろ、二叉フォークの手を組んで・・・
<会談を、妨害するつもりなんじゃないか?>
◆ 30、会談、決裂す ◆
その、会談の場では。
ちょうどこのとき、弐ノ塔・帝国・太陽神殿の面々が、あいさつを始めたところであった。
<私が、弐ノ塔の王の代理じゃ>
おふくろの雑務ユニットが、ふわ~ん・・・と浮かびつつ、自己紹介した。
<この身には、名はない。『弐ノ塔』と呼んでもらえばよい>
浮かんどる八角柱みたいな物体を見て・・・
帝国と太陽神殿は、一瞬、言葉に詰まった。
八角柱相手に、会話せねばならんのか・・・? という衝撃である。
弐ノ塔の背後には、整備ロボのドリノンも控えておる。こちらは四腕四脚。顔もナシ。
恐がらせたいんか!? っちゅう2鬼であった。
(ちなみに、このドリノンの中身はドリナラーニである。)
それでも、帝国代表、仲介役代表は、まあまあ、がんばった。
あいさつをし、握手までしたのだから。
二叉フォークの手を差し出す弐ノ塔に、また絶句はしてしもうたけれども。
会談を平和裡(へいわり)に始められただけでも、ハポノ人としては優秀であったと言えよう。
<まず、捕虜と補償金の交換をしようじゃないか。人質を取るような形には、しとうないのでな>
「賛成だ。補償金のほうは、すでに太陽神殿に依託してあるが・・・」
「はい。額面通り、一切の不足のないこと、保証いたしまする」
<では、捕虜の方々をお連れしよう>
──捕虜の引き渡しは、無事に完了。
「トントバッツワーノの凶行は、反乱である。帝国は一切関知しておらぬ」
「・・・。」
「ただし、帝国所属の蒸気械人による被害については、お見舞いを申し上げ、補償金を支払おう」
──バッツワーノが修道騎士を襲ったり、尼僧院を襲ったりした件の、補償。これも、無事に完了。
そして、本題である、弐ノ塔と帝国の和平交渉。
<我が国の領空を侵し、極めて危険な飛行を行なった。さらに、炭鉱に侵入し、爆発事故を引き起こした>
「一方的な領土の主張は受け入れられない。爆発は、弐ノ塔の罠によって引き起こされたものである」
・・・と、全面的に対立する主張をして。
さあ、議論を始めるぞ! と、なった。
そのときであった。
<『空飛ぶ島』が、盆地に入ったぞ!>
弐ノ塔が、二叉フォークの手を上げて、糾弾した(きゅうだんした)。
<どういうつもりじゃ! 盆地には戦艦を入れんと、約束したじゃろが!>
「な・・・なにをおっしゃる? 我々は、そんな命令は出しておらぬ」
帝国代表は否定したが・・・
「緊急警報!」
修道騎士が駆け込んで来て、帝国代表の言葉を打ち消した。
「帝国軍・飛行要塞、山を越えて、盆地に侵入いたしました!」
「馬鹿な!」帝国代表は叫んだ。「そんなハズは」
「間違い、ございませぬ!」
修道騎士は、兜を脱いだ。耳が、ちょっと長い。ハーフエルフの男であった。
そして、明言した。
「取り決めを破って、盆地に侵入したこと。このジョーレンタラーニが証言いたしまする」
「いま、どこに?」と、仲介代表である太陽の司祭。
「この丘に接近しておりまする。間もなく上空に至る見込み!」
「どういうことですかな? 帝国代表閣下」
「何かの間違いだ。いま確認する」
と、帝国代表が席を立てば・・・
<言い訳は後で聞く>
弐ノ塔も、浮かび上がった。
<ここに居っては、ええ的じゃ。私は帰らせてもらう!>
ふわ~ん・・・
ガチャリ。ドリノンの頭に、弐ノ塔は合体した。
ガチャ、ガチャ。二叉フォークの手で、金具を操作。自分を固定する。
固定完了。
<帰還じゃ!>
<オウ! 了解>
驚く修道騎士を押し退けるようにして、部屋から出てゆく。
──出る直前、おふくろさん。ひとつしかない目で、チラッと振り向いた。
<おまえさんがたも、逃げるコトを勧めるぞ>
視線の先には、修道女。
鳶色(とびいろ)の髪をみじかく切り詰めた、若い、気品のある娘。
コローネが、座っておった。
◆ 31、コローネ、またしても、巻き込まれる ◆
コローネ。
会談の『証人』の1人に選ばれ、大司祭の背後に座っておった。
・・・証人っちゅうのは、アレである。
弐ノ塔と帝国の発言をすべてメモって、保存しておく人である。
後で「言った」「言わない」のケンカになったとき、メモを元に証言をする担当である。
当然、重要な任務である。
若いコローネのやる仕事ではないのだが・・・弐ノ塔・帝国・太陽神殿の思惑があって、選ばれてしもうたんである。
帝国。少しでも信用できる証人を揃えたい。
修道士・修道女の中から、ハポノ貴族出身の者だけを選んで「この人物にしろ」と、太陽神殿に迫った。
コローネはハポノ貴族の娘であるから、このリストに入っておった。
弐ノ塔。少しでも信用できる証人を揃えたい。
ハポノ人は「中立的とは言えない」として拒否した。
ただ、コローネのことは知っておったので、拒否はせんかった。
太陽の神殿。会談を成功させたい。双方のメンツを立てるような人選をせねばならぬ。
どちらのメンツも潰さずに済む証人は、多少若くとも、即決で選ばれた。
──かくしてコローネは、またしても、巻き込まれることになったのであった。
コローネ。
選ばれた当初は、冷や汗ダラダラであった。
だが、院長のレゾニカに励まされ・・・
美男子のジョーレンタラーニと、長旅をして・・・
「ソラトバン殿にも、会えるかも知れませんな」などと、からかわれて・・・
この地に着くころには、キョロキョロと空を見上げるほど、楽しみになっておった。
だのにから。
ソラトバンは、顔も出さんし。
証人としての仕事も、ゴワサン(御破産)になりそうだし。
どうして、こんなことに・・・? と。うろたえること、しきりであった。
ただ、彼女も馬鹿ではない。
さすがにこれだけ巻き込まれれば、行動も早くなる。
周囲の人々を見て、その意見に合わせて── で は な く。
すっくと、立ち上がり。
「イスリュー尼僧院、ただいまのお話、確認させて頂きます!」
部屋から、飛び出したのであった。
「飛び出しては危険ですえ!」
ジョーレンタラーニが追いかけてくる。
コローネは階段を降りながら、
「飛び出しは、しませんが、」返事をした。「2階にいては、避難も、できませんので」
「ああ、それなら結構」
長衣の裾をつまんで、貴族のお嬢さんみたいに(まあ貴族のお嬢さんだが)、ホールを小走りする。
玄関までゆくと、入り口の警備をしておる修道騎士が、両手を広げてきた。
「出てはなりませぬ!」
「証人として、確認のため、参りました」
「では、見たらすぐ避難してくだされ」
「はい」
見た。
頭上に、岩山が飛んどった。
そこから、でっかい岩が、落ちて来るところであった。
「ひぃ!!」コローネ、悲鳴を上げる。「岩っ!」
「なんたること」修道騎士がうめく。「退避ー! 退避じゃあーーー!!」
「こちらへ」
ジョーレンタラーニに腕を取られ、コローネは逃げ出した。
ガッ・・・ゴオオオン!!! ・・・・・・パラパラ、ガン、ドシャッ。
背後で、もんのすごい轟音がした! ・・・玄関の崩れる音も。
「ひぃぃぃ」
神殿の中を駆け抜け、裏口から飛び出す。
「証人として、逃げ延びてくだされよ!」
「は、はい。兄者も、無事で!」
慌ただしく別れを告げて、走り出す。
この神殿には、囲いはなかった。庭のどこからでも、敷地外に飛び出せる。
・・・ただし。
一歩、敷地から出ると、そこはもう、雑草と低木の生い茂る斜面であった。
すぐに長衣の裾が絡んで、破れた。
袖が絡んで、バランスを崩した。
コケる。
「ふぎゃっ・・・んぎゃっ・・・ふぎぇっ」
悲鳴を上げながら、丘の斜面を転がり落ちる。
服が厚手でなかったら、コローネの肌はズタボロになったであろう。
幸い、大ケガをすることはなく、すぐに立ち上がることができた。
「行って、行って・・・」
口の中で、唱えながら。
イスリュー尼僧院が焼け落ちた夜の、ハルさまの声を、思い出しながら。
コローネは斜面を駆け下りた。
「はぁ、はぁ」
胸元を抑える。
小柄(細い小刀)を、確認した。
守り刀。いざという時のための。
太陽の僧は、刃を持ってもかまわない。太陽の女神は、剣術を好む神さまなので。
ただ、コローネは剣を振ったことがない。
この守り刀は、自衛というより、自決の刃。
エッサーミヤの防衛戦の後──ソラトバンに助けてもらった後に、持つことに決めた刃であった。
背後で、神殿が崩れる音がした。
「おお、どうか、天の女神様。私に、力を」
息を切らしつつ、コローネは唱えた。
「帝国の──『空飛ぶ島』の裏切りを世に伝える力を、お恵みください」
背後で、重いものが転がる音がした。
その音が、迫って来る。
「・・・!」
振り向いたコローネの視界、いっぱいに。
巨大な、岩が!!!
「コローネ! 伏せなえ!」
「ひっ!?」
誰かがぶつかってきた。
横倒しにされ、地面に激突する。
なんか、聞いたことのある声だな・・・と、思いつつ。
コローネは、気を失ったのであった。
◆ 32、2人のハイエルフ、ふたたび ◆
コローネが失神した、直後。
彼女の上に、岩が落ちてきて・・・
≪剣の名はグレイス! 我が姉妹、すべてを断つ!≫
響き渡る女の声で、そう宣言があって。
絹の衣の翻るがごとく、白刃が円描いて。
岩が、真っ二つになった。
「騒ぎを聞いて、来てみれば。あにはからんy──あいた」
ガコーン。
切った岩の破片が、金髪の女剣士の頭に当たった。
女剣士。エルフの耳を、パタパタッとする。「おのれ」
・・・ま、とにかく。
コローネは無事であった。
斬られた岩は、見事に左右に分かたれて・・・
丘の下へと落ちてゆく。
農地に轍(わだち)を刻んで転がり・・・
左のは、納屋に突っ込み。右のは、倒れて。人には当たらず、止まった。
「・・・おジャス。大丈夫かに?」
女の声がした。
コローネのあたりから。
・・・だが、コローネ以外に、誰も見えぬ。
「たんこぶできた」
「ツバでもつけとき」
目に見えぬ女は、そう言うて、
「よっこいしょ」
と、コローネを抱き起こした。
「ハル。その娘は、私が持って行くえ」
「えええ。アンタは護衛して」
「ほな、荷物置いてゆきなえ」
「ええのえ。これでも『力』の一族なれば」
目に見えぬ女は、コローネを担ぎ上げ・・・
のっし、のっしと・・・
斜面を降りてゆく。
その足跡は、小さいが、オーガのように深かった。
「むちゃくちゃなり」
女剣士。
抜き身を下げたまま、その後ろをついてゆく。
ゴーン、ドゴーン・・・轟音を立てる丘の上を、警戒しながら。
丘を降り切って、大騒ぎになっとる開拓村の中を歩いてゆくこと、しばし。
村人たちは、エルフの女剣士(と、空中をユラユラ運ばれてくるコローネのお尻)にびっくりして、逃げ散った。
その中に、さっきソラトバンと出くわした3人の男も居ったが・・・それは、女剣士にはわからん話である。
「やれやれ」
女剣士、肩をすくめる。
「市井(しせい)の暮らし見てみんと、漫遊する(まんゆうする)に、危機また危機。日々のことなど、見れもせぬ」
「どっちみちアンタ出た時点で日常やないえ」
「やかましえ」
などと言いつつ、歩いておると。
空から、巨人が舞い降りてきた。
≪おジャスさまじゃないか! その浮かんどるのは、コローネちゃんかのう?≫
◆ 33、おジャスとハル、合流す ◆
「おお!」女剣士、よろこぶ。「その声。ソラトバンかに?」
≪そうじゃ!≫
「鬼械人、新しゅうなったんかに?」
≪いや、古ゥなったんじゃ≫
「は?」
≪いまハッチ開けるで。よいしょ≫
かぱ。
ハッチ開いた。
「お久しぶりじゃ! おジャスさま、ハルさま」
ソラトバン。顔出して、あいさつする。
「ソラ君」
ここでようやく、目に見えぬ女が、見えるようになった。
灰色髪のハイエルフ。おっとり柔らかな美貌に、もやもや後光が差しておる。
相変わらず、でっかい背負い袋。さらにコローネ肩に担いでおる。
華奢な(きゃしゃな)見た目で、あり得んパワー。
「この子、気ィ失っとるのえ。乗せたげて」
「もちろんじゃ。お二方も、乗ってくだされ」
トンボが片膝ついて手ェ出した。
ハルは「よっこいしょ」とコローネをトンボの手に下ろす。
おジャスはそれを手伝ってから、飛ぶ。手ェ蹴ってヒラリ、肘蹴ってハラリ。ハッチに取り付いた。
トンボの手が上がる。3人がかりで、コローネの柔らかな身体を中に入れた。
なんとかして、弓手席に座らせる。
女2人がコローネのベルトを締めるあいだに、ソラトバンは乗り手席へ。
座る。
腰に、コローネちゃんの膝が当たった。白くてあたたかい、生肌の太腿が・・・
トンボの座席は、鞍のような感じで股間に金属の棒が来るため、長衣の裾がめくれてしまうのだ。
「・・・お二人は、席にしがみついて下され。結構、揺れますで」
「ウチ、飛ぶの、慣れておる」荷物を縛りつけながら、ハルさま。「トンボ君は、初めてやけども」
「私は頑丈ゆえ、心配いらぬ」たんこぶさすりながら、おジャスさま。
「ほじゃ、離陸しますで。──トンボどん、いったん戻るぞ」
<おう>
トンボどん。いつもより長く地面を走ってから、飛んだ。
この間に、『空飛ぶ島』は動き出していた。
こちらに向かってくる。トンボに気付いたか。
相手せず、逃げる。
チラーニと浮鬼が飛んできた。
トンボと入れ代わりに、島に向かって飛行していき・・・
突然減速して、浮遊に切り替え・・・
肩砲を、ブッ放した。
けむりだま!
チラーニの肩砲は、口径2寸。トンボの2倍。浮鬼は1寸5分だが、2連装。
トンボより、遥かに大きなけむりだまが撃てるんである。
合計6門、全弾『島」に命中し、白煙を噴き上げる。
敵は、白煙の中から弩砲を撃ち返してきた。チラーニの巨体をチップして、農地へと落ちる。
<こちらチラーニ・チーニャ。ソラ、負傷者は?>
ソラトバン、ハルさまを見る。ハルさま、首振った。
「ケガはない。じゃが、コローネちゃんが意識をなくしとる。おジャスさま、ハルさまは、ご無事じゃ」
<了か──>
ガコーン!
チラーニに弩砲が命中する音が聞こえた。
ソラトバンは、「チーニャ!」と叫びそうになった。だがその前に、彼女の声。
<──了解。クソ、煙の中から当ててきやがった>
<人、乗ってへんかった>数鬼どんの声。
<大ダコ到達・・・>ウミドラーニどん。<白煙の向こうのでござるが、たしかに、無人の弩砲を確認したでござる>
<『力の筒探索』しとんちゃうか?>正鬼どん。
<なるほど・・・1町後退! 『探索』の範囲から出る>
<了解、1町後退>
<・・・ハズレたな>
<・・・正鬼殿、当たりだな。敵は『力の筒探索』で盲撃ちしてくるようだ>
トンボはジワジワと加速して、盆地を出た。
山の向こうに浮かび上がって待っとる『予備飛行塔』に、一直線。
やはりジワジワと減速して・・・・・・・・・いつもより遥かに時間をかけて・・・・・・
ズシーン・・・。
遊覧船のように、静かに着艦した。すぐにエレベーターに向かい、塔内に入る。
<チラーニ・チーニャ。現在、退却中。被害ナシ><オレはちょっと凹んだけどね~>
<・・・島の麓、乗り手らしき戦士ら、右往左往してござる>
<レラの姿はあるか?>とチーニャ。
<確認できませぬ>
通信を聞きつつ・・・
止まったエレベーターから、格納庫に出る。
空いたエレベーターには、黒トンボが乗った。
「ドリナラーニどん。忙しいのう」
<マッタクジャ!>
会談に出席しとったドリナラーニどん。
おふくろと共に脱出して、すぐ黒トンボに憑依したようである。
片膝ついた姿勢で、エレベーターで上がってった。
こちらは、コローネを降ろす。
ドリノンが担架抱えて来てくれたので、そこに寝かせ、ドリノンに浮上してもらって・・・
「おジャスさま。後ろ、お願いできますかのう?」
「浮いた担架っちゅうコトかに?」
「そうじゃ。かんせいに気を付けてくだされ」
「慣性? なるほど、承知した」
・・・寝室へ運ぶ。
コボルドの看護婦に彼女を預け、ソラトバンはすぐに折り返した。
トンボで、再出撃!
◆ 34、ソラトバン、急所を突く ◆
「トンボ・ソラトバンじゃ。いま戻った」
<2号と合流しろ>とチーニャ。<2号、弐ノ塔上空へ戻って、トンボの翼鬼になれ>
黒トンボが戻ってきた。
予備飛行塔上空で合流。ペア組んで『島』に向かう。
今度は全力である。猛烈な加速。ソラトバンの乗り手甲が、ギシッ・・・と、鳴いた。
「まもなく・・・島」
<弩砲を叩け。けむりだまは利いてないからな>
「了解じゃ」
トンボの装甲であれば、至近距離で弩砲喰らっても破れることはない。
・・・まあ、コケることはあるかも知れず、そうなったらソラトバンは無事では済まんが。
<ワシ、盾ヤルカ?>
それを考えてか、ドリナラーニどんが提案してきた。
「いや。二手に分かれて同時に行くぞ」
言いながら、ソラトバンは腕を締め、足を軽く開いて、身体を丸める。
トンボが頭を下げて、降下する。
ドリナラーニが一瞬遅れて同じ動作をした。
頭から突っ込む降下は、恐いモンだが・・・ドリナラーニは、頭を下げれる男(?)であった。
「急所を突くぞ。下へ潜って、上陸じゃ」
<了解ジャ>
「2号は真っ直ぐ一ツに上がれ。1号は四ツに上がる。ほで、列電魔旋砲で、弩砲を撃つ!」
煙の中から、大槍が飛んでくる。トンボたちは異なる方向へスラロームして、回避。
高速で『空飛ぶ島』の下に潜り込む。
射線は切れた。敵は迎撃不能となる。
トンボは急激に舵を切って、左手へ。直後に急上昇。激烈に減速しつつ、島の床面に顔を出した。
弩砲がびっくりしたようにこちらに向きを変える。驚くほどの反応速度、回転速度──
「速いの!」
<無人じゃからの!>
──だが、ソラ&トンボは、なお速い。
空中で腰の列電魔旋砲を抜く。着地、腰だめに構えて、
ドッ──ガォン!!!
発砲。弩砲の下半身をブチ抜いて、擱座(かくざ)させた。
弩砲は外れた。
列電魔旋弾は敵を貫通、岩山に大穴を開ける。岩山がヒビ割れた。島全体が、震動する。
同じ砲撃音が、四ツ方向から聞こえてきた──現時点での『四ツ』はトンボの左方向。ドリナラーニの上陸方向である。
<上陸成功>とドリナラーニ。
「そっちは麓を頼む。二ツ方向から三ツ方向まで撃って回れ。こっちは頂上へ行く。レラ探しつつ、上から支援するわい」
<了解ジャ>
◆ 35、スッキリしない勝利 ◆
ソラトバンとトンボは、ジャンプと短距離飛行を繰り返し、岩山を登った。
高さはそれほどでもない。弐ノ塔の2倍ちょいぐらいである。
だが、垂直に近い登りは、飛行型のトンボには相性が悪かった。
「逆のほうが良かったか?」
<ヤツぁ、浮上あるからな。じゃが、動きはワシのが速いぞ!>
「そうかいw」
言葉どおり、トンボは跳んだ。
その動き、蜻蛉(とんぼ)というより蝶(ちょう)のよう。岩から岩へ、右に左に飛び跳ねる。重さがないように軽々と、だが蹴り足の威力は岩をも砕く。
ドリナラーニどんの背中を追う形で山を回りつつ、頂上を目指す。
山の中腹に弩砲を発見。ドリナラーニどんの背中を狙っとる。こっちが先に背中を撃った。
<無念・・・>
「な、なんじゃ?」
<いま撃った弩砲からの通信じゃ>
「なんじゃと!?」
<聞きたくないなら、消すが>
「いや、ええが・・・いやそれより、」
ソラトバン、とっさの思いつきで、返信をしてみた。
「おい! 弩砲どん。聞こえるか。こちら、弐ノ塔・トンボ・ソラトバンじゃ」
<可能。当方、帝国・蒸気械弩砲>
「なんでこんなコトをする? 約束違反じゃし、卑怯じゃ!」
<雪辱>
「せつじょくじゃと」
<雪ぐ(すすぐ)のは、どの屈辱じゃ? ワシらと戦ったことがあるんか?>
<兄弟、幽雲洞ニテ、撃破サル>
「爆鬼か? ありゃバッツワーノの企みじゃ!」
<問答無用。当方、蒸気械ノ戦士。誇リ。先帝ノ恩──勝利!>
蒸気械弩砲はそう言い放つと、爆発した。
──背中の中央蓄熱塔を、みずから暴走状態にして、吹っ飛んだのである。
グルグル回って吹っ飛びながら──ちょうど弩砲がこっち向いた瞬間に、撃ってきよった!
<曲芸を!>
トンボは列電魔旋砲で大槍を払う。被害はナシ。だが体勢が崩れ、速度が落ちた。
そこに、四ツ方向から別な弩砲。
ガッコォォン・・・!!
かなりの轟音がソラトバンを襲った。
トンボがグラつく。
乗り手席の中で、ソラトバンはシェイクされた。「くそ」
<手強いのうw>
トンボは足元の岩を蹴って飛び、次の砲撃を回避。
着地するときにまた岩蹴って砕き、砕けた岩を手に取って、投げた。
ガコーン! 岩が、弩砲に命中。今度は相手が体勢を崩す。
この間に列電魔旋弾を再装填。撃ち抜いて、撃破。
<次行くぞ!>
「あと何発撃てる?」
<弾なら、あと9発じゃ>
「筒のほうは?」
列電魔旋砲は、火薬ではなく、『力の筒』の力で発砲する。
筒の力には限りがあって、使い切ったら交換が必要になるんである。
『弾切れ』に加えて『筒切れ』もする砲──っちゅうわけである。
ところが、トンボの返事は予想とちがっておった。
<コイツは改良版じゃ。筒切れはせんぞ>
「なんじゃと?」
<仕掛け鏡見てみぃ。右な>
ソラトバンは、弓手席から、右肩砲の仕掛け鏡をたぐり寄せた。
見てみる。
トンボが右手で構えとる列電魔旋砲が見えた。
八角柱の妙雅式『力の筒』が、セットされておる。
「ありゃ? トンボどんの筒じゃないか」
<そうじゃ。『粒子操作』で補充ができる。筒切れは考えんでええぞ>
トンボの『力の筒』は、粒子を対消滅させることで補充可能な筒である。
極めて小さな粒子で高い出力を得られるため、実質、燃料切れはない。
──この高効率ゆえに、『爆鬼』にも転用できてしまうわけだが。
<コチラハ、筒切れ。交換中>とドリナラーニ。
「そっちは従来型か」
<ソウジャ>
「そうか。ま、とにかく、頂上まで行こう」
ドリナラーニと連携しつつ、頂上までゆく。
金銀キラキラのヘンテコ蒸気械弩砲に接近。
この弩砲は武装しておらず、降参──するかと思いきや、体当たりしてきた。
<甘いわ>
トンボがうっちゃる。
弩砲は岩山から転落──して、『浮遊』の効果でふわ~ん・・・となり、岩にぶつかってガンゴンと音を立て、また空中に飛び出してふわ~ん・・・となり、最後は仰向けに床面に落ちて、自力復帰不可能となった。
<根性は認める>
「・・・すまんことじゃ。助かった」うかつに接近したことを謝るソラトバン。
<かまわんぞ。体当たりで死ぬん、オマエだけじゃけぇ>
「おいw」
<貴鬼、歴戦兵・・・!>相手が通信してきた。
<百年前のな>トンボが応じる。<生きとったら、また会おう>
頂上の安全は確保された。ドリナラーニどんも上がってくる。
麓には、まだナンガラックが何鬼か居るのだが・・・岩山を登れず、ウロウロするだけである。
「・・・居らんな」
<『生命探索』にも反応ナシじゃ>
<『力の筒探索』ニモ、反応ナシジャ>
「うーむ・・・」
<こちらチラーニ・チーニャ。ソラ、そろそろ引き揚げよう>
「うむむむ・・・わしらが引き揚げたら、また戻ってくるぞ? レラとやら」
<だろうね>とチラーニ。<けど、さっきからその島、流されっ放しだからさ~>
「は?」
<もうすぐ海だ>とチーニャ。<いつまでも乗ってるワケにはいかないぜ>
「ぬう!」
<妙雅様なら、中央にエレベーターがあるハズなんじゃが・・・>
<岩ガ、邪魔>
未練がましく頂上を歩き回っても、やっぱり、何も見つからぬ。
「しょうがない。帰るか」
スッキリしない勝利を抱えて。
ソラトバンたちは、『空飛ぶ島』を飛び立つのであった。