◆ 36、空飛ぶ島の正体 ◆
逃げてった『空飛ぶ島』。
このあと、結局、夏が終わるまで姿を現わさんかった。
この結果がわかっておれば、少しはノンビリできたのだが・・・
未来を見る目など、持ってはおらぬソラトバン。
スッキリしない気持ちのまま、日々を過ごすことになった。
さて。
お話は、島が逃げた夜に戻る。
トンボ、黒トンボ、チラーニ、浮鬼が、次々に着艦したところである。
「疲れた・・・」
久しぶりの実戦。それも、いままでにない空中戦である。
ソラトバンはぐったりと疲れておった。
「風呂に入りたいとこじゃが・・・」
「無理だぞ」
同じく不快そうなチーニャ。乗り手甲の兜を脱ぎ、額の汗を拭っておる。
「水は、重いからな。ここではダメだ」
飛行塔には、風呂がある。
だが、今回は貯水タンクの水を減らしており、風呂に回す余裕がない。
敵も飛べるとわかっとる以上、重たい水を抱えたくなかったんである。
ソラトバンが助けた女の子──記憶をなくした少女は、無理して入れてやったけれども。
「やっぱり、カルデラは守らにゃいかん」
ソラトバン、拳を握る。
「風呂に入るためにもじゃ!」
「そうだなw」チーニャ、耳元に唇つけてきた。「・・・守り切ったら、一緒に入ろうぜ」
「やる気出てきたわい。ちょっと、アイツ落としてくる」
「ばかw」
この夜。
島の正体について、有力な情報が入った。
穴堀り巨人の幽雲(ユーン)が、こんな情報をくれたのだ。
<妙雅(みょうが)が、盗まれておった>
幽雲どんの声。
通信越しにだが、ガックリ来とることが、はっきりわかった。
<墓所を見に行ったんじゃ。そしたら、空っぽになっとった>
<そうか>
弐ノ塔のおふくろは、平然としておった。
「まあ、帝国が飛行ユニット造れるようになった──なんて事態よりは、マシですよ」とチーニャ。
<そうだね~>とチラーニ。おふくろさんの声玉を借りて。<ママみたいなの量産されたら、たまったモンじゃない>
<みたいなモンじゃと>
「ははは」
弐ノ塔の面々、笑う。
だが、幽雲の声は晴れんかった。<すまぬ。わしのせいじゃ>
「いやいや。盗んだのは、レラちゅうセイレーンじゃろ?」
<そうじゃが。飛行ユニットついたままにしたんは、ワシじゃ>
<その点はうかつじゃったな>と弐ノ塔。
<うむ・・・>
「・・・なんで、そのまま寝かせたんじゃ?」
<そりゃあ・・・わしゃ・・・王さまの、最期の傑作(けっさく)じゃし・・・>
王さま。巨人の王さまである。
幽雲は、王さまの弟子であったのだが。
穴掘るのに夢中になり、王さまとケンカになって、飛び出した(穴掘って)。
外国(の地下)を、さすらった。
そして、『幽雲洞』と呼ばれることになる一大洞窟群を、築いた(穴掘って)。
だが、こうして幽雲がさすらっておるあいだに。
王さまは、妙雅を生み出して・・・亡くなってしもうた。
<王さまには、幽雲洞を見てもらえんのか。と、ビックリしたのを覚えておる>
幽雲は、ぽつりぽつりと、しゃべった。
<そんな時じゃ。妙雅がやって来て、幽雲洞を見て、笑った>
「笑ったんか」
<うむ。『穴堀り巨人のウワサは聞いとったが、なんとまあ!』とな>
「ははぁ・・・」
<妙雅が死ぬまで、わしは楽しかった。一緒に色々と、悪さもやった>
<・・・。>おふくろさん、若干苦い表情(?)である。
<そんな相手の遺体を、分解するなど、できなんだ>
「ああ。そりゃ当然じゃ」
<わかってくれるか>
「うむ。そんな、遺体をいじくるなんぞ・・・あ、すまん。続けてくれ」
<ま、それでじゃ。墓所を管理しとったドワーフどもを、怒鳴りつけて、>
「八つ当たりか」
<うるさい! 管理責任じゃ!>幽雲どん、ソラトバンに、八つ当たり。
「はいはい」
<それでじゃ。話を聞いたらば、ドワーフども、レラに魅了されたようでな>
「みりょう」
<事の次第はこうじゃ・・・>
幽雲どん、そのときのことを、説明した。
<ドワーフどもが、いつもどおり墓所で酒呑んだり鬼械いじったり酒呑んだりしとったときじゃ。
翼あるセイレーンの娘が、洞窟の入り口にやってきた。
この入り口自体は、隠されたもんじゃない。
『ドワーフ王国』とか言うて、人間と交易もしておる。
じゃによって、いきなり追い返しはせず、話を聞くことにした。
それがまずかった。
セイレーンが歌を歌い始めると、ドワーフども、みーんな、ぽわーん・・・となった。
フワフワと、ええ気持ち。なんでも許せる気分になったそうじゃ。
「墓所を見たい」と言われ、「こちらへどうぞ!」と案内してしもうた。
セイレーンはニコニコして、お礼に、子守歌を聞かせてくれた。
したらばドワーフども、みーんな眠りこけてしもうた。
・・・ハッと目が覚めたときには、妙雅の亡骸は、なくなっとったそうじゃ>
幽雲は、説明を終えた。
<墓所を管理しとったのはドワーフ。ドワーフを管理しとったのはわしじゃ。すまなんだ>
◆ 37、で、どうする? ◆
<妙雅の分霊(わけみたま)であった身として、謝罪は受け取った>
と、弐ノ塔。
<あとは妙雅に言え。冥界へ行くことがあればな>
<うむ。明日にでも行ってくる>
<ちがう>「おいおい、自殺なんぞするんじゃない」
<死にゃせんわい>と幽雲。<撃竜界の鬼術師に頼んであるんじゃ。冥界旅行>
「なんじゃ、そっちか」
<わしをなんじゃと思っとる>
「夢中になったらブレーキ利かん巨人じゃと」
<・・・。>
<ま、いずれにしてもじゃ、>
弐ノ塔。
ふわ~ん・・・と、ちょっと浮かび上がって、両手を広げた。
<アレは落とす。地上を圧迫するモンは、許さぬ。落とす>
弐ノ塔の面々。互いの顔を見て、うなずく。
「・・・なるほどな」
ソラトバンは、心の中でつぶやいた。
「おふくろ、平気な顔しとると思ったら・・・最初から、覚悟しとったワケか」
<仮に、アレが妙雅としてじゃ、>
おふくろさん、少し傾いた。
<亡骸が粉々になっても、文句は言わせんぞ、幽雲>
<・・・。>
<返事をせんか!>
というわけで。
弐ノ塔の面々は、『空飛ぶ島』の正体を、ほぼ、特定できたんである。
<話はむしろ、簡単になった>
と、弐ノ塔のおふくろ。
<なんせ私は、元・妙雅。長所も短所もわかっておる>
<おっと待った。弐ノ塔よ>
トンボが口を開いた(おふくろさんの声玉で)。
<忘れちゃイカンもんが、まだあるぞ>
<それはなんじゃ、トンボよ>
「≪声≫か」とソラトバン。「地面を槍にできるんじゃったな」
<そうじゃ。魔王には、それがある>
<ふむ・・・>
おふくろ、腕を組む。
<・・・飛行ユニットの性能を強化したりも、できるんか?>
<しかとはわからぬ。得意・不得意は、あるようじゃったが>
<たとえば>
<魔王は大地を操り海を操った。じゃが、天空を操ったことはない>
「『吸収』したレラにも、引き継がれるのか? 苦手は」
チーニャが見たのは、セイレーンのレモンちゃん。
「さー?」と、首ひねる。
「そもそも、吸収て何じゃ。記憶丸ごと吸収とか、できるんか?」
「さー?」
「やっとるの、見たことあるんじゃろ?」
「うん、ある」
レモンちゃんは、ソラトバンの頭を両手で掴んだ。「こうして・・・」
「ぬわー」
「ごっつんこ」頭をぶつける。
「いてっ」
「・・・しばらくこうしてて、『できた』っていう」
レモンちゃん、ニタリと笑う。レラのマネか。
「それだけじゃ、なんもわからんな」ソラトバンを奪い返しながら、チーニャ。
「死んだ船乗りの記憶を吸収して、そいつの名前とか、家とか、先祖とか、当ててた」
「ふむ・・・」
<よかろう>
おふくろさんは、手を広げた。
<不利な想定をする>
「ふりなそうてい」
<レラは妙雅を強化できる。死者の記憶も、完全に奪える。この前提で、行動をしよう>
「厳しいな」
「きびしいのう。──ほで、どうするんじゃ?」
<まずは、>
おふくろさん、両手をだら~んとした。ジロッと、ソラトバンを見る。
<ソラの拾ってきた娘どもを、どうにかせんと、いかんじゃろ>
◆ 38、少女、トリーモになる ◆
ソラトバンが助けた、2人の娘のうち──
まずは、朝助けた少女。
記憶をなくしたという、10代前半の少女であるが。
「思い出せた?」
「・・・いえ、なにも」
チーニャが『治癒』をしてみたが、記憶は戻らなんだ。
「よし」
見守っておった、エルフの女剣士。おジャスさま。うなずく。
「ひと安心やに」
「手応えなかったですからね」とチーニャ。
「・・・なにが安心なのです?」少女、眉を寄せる。
「治癒して変化があるなら、頭のケガ。そうではなかった。ひと安心」
「そうですか」少女はうつむいた。「・・・もう、戻らないのでしょうか」
「それは誰にもわからぬこと」
おジャスさまは、静かに答えた。
「人の記憶は、霊妙なり。正体、誰にも掴めはせぬ」
ソラトバンは、治療室の外で待っていた。
出てきた少女を見て、チーニャに目をやる。恋人は、肩をすくめた。
「・・・保護した以上、区切りがつくまでは面倒見てやるが、」
チーニャの姐御。
しょんぼりしとる少女の前に立つ。
向かい合う2人は、よく似ておった。黒髪。緑がかった目。キリッとした、美しい顔立ち・・・。
「2つ、誓いを立ててもらおう」
「ちかい」
「オマエはハポノ人だろ? なら『正義の眼』にかけて誓ってもらいたい」
「正義の眼・・・」
娘は遠くを見るような目をした。
ソラトバンの背後では、おジャスさまがちょっと嫌そうな顔をした。気付いたハルさまに、肘打ちされておる。
「・・・なにを誓えと言うのです?」
「2つだ。この塔に身を寄せているあいだ、私たちに武器を向けないこと。降りたあとも、弐ノ塔の秘密は守ること」
「・・・。」
「それを、代償としよう。何も支払えないおまえの──ここで食事をし、安心して眠る、代償だ」
「後になって、追加の要求をされることは? ・・・身体で払え、とか」
「ない。弐ノ塔には、奴隷も娼婦もいない」
「奴隷が、いない?」
少女はきょとんとした。
それから、気を取り直して・・・
「いいでしょう。正義の眼にかけて誓う。弐ノ塔に守られているあいだは敵対せず、その後も秘密を守る」
「よし。じゃ、おいで!」
チーニャは笑って、娘の肩に手を回した。
「遅くなったけど、食事にしよう!」
一緒に歩きだす姿は、姉妹のようじゃと、ソラトバンは思った。
ぞろぞろ・・・
チーニャと娘、ソラトバン、おジャスとハル。食堂へ。
「それで、どうする? 呼び名はさ」
「名前ですか」
「そう。仮のね。それとも、名無しのほうがいい?」
「いえ。そうですね、」
少女、振り向く。ソラトバンと目を合わせる。
「・・・希望できるなら、ソラトバン殿にちなんだ名で呼んで頂ければ、うれしいです」
「・・・なるほど?」チーニャ、振り向く。その目の緑色が、濃い。「だってさ。ソラトバン殿?」
──あ、これアカンやつじゃ、とソラトバンは思った。
これ多分、わしが付けんほうがええわい。
それと、後でチヤホヤしよう。チーズケーキ頼んどこう。
「えーと、わし? ええけどもが・・・女の子に名前付けるなんて、繊細なコトぁ・・・」
ソラトバン、振り向く。ハルさまと目を合わせる。
「スカルドさま。わしの名前にちなんだ、可愛い名前、ありませんかのう?」
「ぷw」ハルさま、吹き出した。「ソラ君、可愛いタイプちゃうに」
「わかっとるがな! そんなこたァ」
「ほな・・・、『ソラ』と『トバン』、どっちあげる?」
「うーん。トバンかのう?」
「トバンのほう?」
「『飛ばぬ』っちゅう意味じゃないぞ。『さあ飛ぼう』っちゅう意味での、トバンじゃ」
「うん」
ハルさま、うなずく。その顔、すでに詩人の顔になっておる。
「お姉ちゃん? 妹? 一人娘?」
「妹かのう。チーニャに髪がよく似とるし、年下じゃし」
「・・・。」チーニャと娘が、同時に自分の髪を触った。
「よろしい。わかったえ」
ごそごそ。
ハルさま、肩から掛けとる革袋を、開けた。
中から、そーっと取り出だしたるは、竪琴。腕で抱えられるサイズの、小型ハープである。
ぽろ~ん・・・♪
「トリーモ」
和音を奏で、名を告げた。
「トリーモ・・・」
娘はつぶやいておる。
静かに竪琴鳴らすハルさま。和音のつづき。即興曲か。『トリーモ』とでも名付けるのであろうか。
「・・・ハルさま」
「・・・なにかに? トバン君」
「トバンは、どこ行ったんじゃ?」
「トバンに『妹』で、トビーモとなる。そやに、これはちと、可愛くない」
「そうじゃな」
「音を変えたい。そやに、意味は変えとうない」
「うん」
「そこで、空飛ぶ『鳥』から、音をもろうて(貰って)・・・」
「トリーモ。なるほど」
「♪」
ソラトバン、前を見る。「どうじゃ?」
「はい。気に入りました」
娘は、うなずいた。
ニコッと笑う。緑の目が、明るく輝いた。
「ありがとうございます、トバーニ(トバン兄さん)! トリーモが、お世話になります!」
少女は、トリーモと呼ばれるようになった。
◆ 39、コローネ、お届けされる ◆
ソラトバンが助けた、もう1人。
コローネちゃん。
こちらは、晩御飯の終わるころになって、無事に目を覚ました。
運び込んだときはスリ傷だらけだったが、あいさつに来た彼女は、すっかり綺麗になっておった。おジャスさまが『治癒』してくれたそうである。
「ソラトバン殿! ・・・あ、」
笑顔は、ソラトバンの腕にくっついとるチーニャを見て、すっと消えた。
ちょっとうつむく。
鳶色(とびいろ)した髪が、焦げ茶の目を影にした。
「・・・ありがとうございました。イスリュー尼僧院でも、エッサーミヤ城門でも、今回も」
「なに。今回は、こちらのお二方のおかげじゃけぇ」
「コローネちゃん、久しぶり」と、ハルさま。
「無事でなにより」と、おジャスさま。
しばし、話をした。
ソラトバンたちは、晩飯後のお茶。コローネは食事である。
眺めとるおジャスさまが物欲しそうだったので、ソラトバンはお代わりに誘った。2人は、お代わりをした。
「神殿はどうなりましたでしょうか。修道騎士の兄者のことが、心配で」
と、コローネが言うたところに。
ふわ~ん・・・。
おふくろさんが、漂ってきた。
<神殿は崩れた。救出は終わったが、大勢亡くなったそうじゃ>
「そんな」コローネは立ち上がった。「では、もう行かなくては」
<ダメじゃ>
おふくろは、彼女を降ろすのを、断った。
「なぜです」
<『空飛ぶ島』が戻ってくる恐れ、無きにしも非ず(なきにしもあらず)>
弐ノ塔はこのとき、『空飛ぶ島』を見失っておった。
ウミドラーニが大ダコで追跡したが、島は大海をどこまでも直進し、操作圏外となったのだ。
<夜空の敵は、発見困難じゃ。逆に、明かりのついた神殿は、格好の的となる>
おふくろは、コローネを諭した(さとした)。
<じゃによって、いま、そなたを降ろすことはできぬ>
「ですが、私は・・・」
<ダメじゃ。真実を証言できる人間に死なれては、ウチも困る>
「・・・わかりました。朝まで、待ちます」
コローネは、ソラトバンを見た。
「そして・・・非才の身ですが、真実を伝えると、お約束しましょう」
その顔。
大人になったな、と、ソラトバンは感じたのであった。
翌朝。
晴れた夏空に、『空飛ぶ島』は、もう居らぬ──と、断言できる状況になった。
コローネを、お届けすることになる。
弐ノ塔、ヨスベロゴンチに戻った。
大騒ぎになった。
一晩明けても、昨日の被害は全然片付いておらぬ。住民は徹夜で作業しておったところである。
そこに、空飛ぶ弐ノ塔の登場。
「ヤツが戻ってきた!」と、誤解されたんである。
困惑した弐ノ塔。山の向こうに、引っ込んだ。
代わりに、チラーニと浮鬼が出る。
チラーニはタクシー係で、ソラトバン、トリーモ、コローネがこちらに乗った。
・・・ちなみに、初めはコローネを弓手席に座らせようとしたのだが。
チラーニの弓手席は、高い位置にある。乗り手の頭のとこに膝が来るのだ。しかも、大股開いて乗る設計である。
コローネは、真っ赤になって固まってしもうた。
それで、ズボンはいとるトリーモが代わり、コローネは反対向きの背の手席へ追いやられた。
浮鬼は護衛。正鬼、数鬼と、弐ノ塔のおふくろ。おふくろは、左弓手席にくくりつけられた。
<縛られるとは・・・>
「そう言や、おふくろは飛行ユニット積まんのか?」
<これ、遠隔操縦じゃけぇ。飛行ユニットは、ちょっとの遅延で事故になる。塔内じゃと、危険じゃ>
「・・・なるほど?」
<わかったフリせんでええぞ>
「いや、話が長くなりそうじゃから、もうええかなと」
神殿(跡地)に着くと、ハーフエルフの修道騎士が駆けつけてきた。
ハンサムなエルフ顔。ソラトバン、見覚えがあった。
「あれ? たしか、エッサーミヤで・・・」
「いかにも。ジョーレンタラーニですえ。ソラトバン殿ですに?」
「そうじゃ。今日は、ちがう鬼体じゃが」
「よーく覚えておりますえ。正義の鬼械人どの」
「・・・む?」
「森の中でレッケンサーニ兄者を助けてくださった。あの正義の鬼械人でしょう?」
<そう呼ぶ人もいるね~>チラーニが調子に乗った。
「兄者も、あそこにいらっしゃったんか」
「はい」
なんと。
ジョーレンタラーニの兄者(『兄者』は修道士への敬称です。親戚では、ありませんよ)。
すべての始まりであるところの、森での戦闘に、居合わせとったようである。
「わしら、昔から関わっとったんじゃな・・・」
「そうなりますに」
「そうですね」コローネは、なぜか、寂しそうであった。
神殿は、メチャクチャであった。
修道士たちが疲れ果てた顔で岩を動かしておる。
チラーニが申し出て、大きな岩だけ、動かした。感謝されたことといったらない。
コローネは、修道士たちと合流した。
「私は、歩いてエッサーミヤに帰ります」
<送ってやってもええんじゃぞ>と、弐ノ塔。
「ありがとうございます。ですが、あまりお世話になっては、中立性が疑われかねません」
「そうか・・・」
ソラトバン、理解はしたが、
「しかし、話を伝えるのが遅くなろう? 今回は、急を要すると思うが」
「その点は、心配ご無用ですえ」
これにはジョーレンタラーニが答えた。
「我ら太陽神殿、複数の伝達手段を持っておりまする」
「でんたつしゅだん」
「ルーン魔術、伝書鳩、鬼械人の通信、などなど」
「なんと」
「今回も、鹵獲した鬼械人に手伝ってもろうて・・・ほら、あちらに」
と、指を差す。
その方向には。
金銀キラキラの蒸気械弩砲が、ペタンと地面に伏せておった!
「あいつ! 落っこちとったんか!」
<誰? アイツ>とチラーニ。
「昨日やり合ったヤツじゃ。体当たりしてきて、危うく、わし、やられるとこじゃった」
「えっ?」コローネがびっくりして、ギロッと弩砲を睨んだ。
弩砲くん。
あちこち凹んだボディを、ギシ・・・と、ちょっとこっち向けた。
「これ! 動いてはなりませぬ。通信終わるまで、静かに」
ギシ・・・。修道士に怒られて、元に戻った。
「島の麓に転がったと思っとったが。あのあと、落っことされたんか?」
ギシ・・・。
「これ!」
「ソラトバン殿。お元気で」
「コローネちゃんも。あ、いや・・・コローネ姉者も、お元気で」
「・・・はい」
コローネは、寂しそうに笑った。
そして、荷造りをすると、自分の宿に去って行った。
◆ 40、トリーモの正体は ◆
トリーモ(仮名)も、修道士たちに顔を見せてみた。
だが・・・
「ハポノ人であることは、間違いないでしょうが・・・」
「この土地の娘ではありませんな。それだけは確かです」
彼女の正体は、誰にもわからなんだ。
「お力になれず・・・」
「いやいや」
「帝国代表がいらっしゃれば良かったのですが」「みな、逃げてしまわれましてな」
「なんじゃ。逃げたんか。臆病な。フン」ソラトバン、鼻を鳴らす。
「いやいや、無理からぬことです」
「なんでじゃ?」
「なんでといって、帝国の戦士は、『空飛ぶ島』に拉致(らち)されたからです」
「ありゃ。そんなコトに」
「あのとき、鬼械人部隊は島に残っとったようで。乗り手は、根こそぎ誘拐されたと」
「もうムチャクチャじゃな、帝国は・・・」
「3度目ですからな。部隊壊滅も」「もはや、再建も難しいでしょう」
<ほじゃ、ソラは先に帰っとれ。浮鬼は、もうしばらく頼むぞ><おう>
おふくろと浮鬼を残し、引き揚げることになる。
その前に。
ソラトバン、チョイチョイとおふくろさんを招いて、耳元にささやいた。
「・・・司祭さんや兄者がたを疑うワケじゃないが、」
<そこ、耳じゃない。声玉が耳じゃ>
「あ、はい」
やり直し。
おふくろさんの頭のてっぺんの玉に、ささやいた。
・・・なんかおでこにキスしとるみたいで、変な感じである。
「──大丈夫なんか? 万が一のコトは」
<うむ。雑務ユニットが壊れても、私はなんともないゆえ>
「え」
<言うたじゃろ。遠隔操縦じゃと>
「あ・・・そ・・・そうなんか」
ソラトバン、ちょっとショック。
いや、おふくろさんの本体が、本塔じゃっちゅうのは、ずっと前に聞いたけれども・・・
なんとなく、ふわ~ん・・・と漂っとる小っこいのが、おふくろ。
と、そんなイメージであったので。
「死んでも・・・なんともないんか・・・」
<死んだら死にじゃが。雑務ユニットがどうなろうが、私が死ぬことはない>
「は、はぁ・・・」
<細かいことを言えば、コレに『入る』こともできるし、やったコトもあるんじゃが、>
「はぁ・・・」
<話が長くなりそうじゃから、もうええじゃろ>
おふくろは頭を離した。
ふわ~ん・・・。飛んでゆく。
<ほじゃな>
帰り道。
ソラトバンは、トリーモが落ち込んでないかと、心配したが・・・
「ホッとしました!」
トリーモの反応は、ニッコリ! であった。
「あの3人が、もしも親戚だったらと、恐ろしくて。今日は、よく眠れそうです!」
「あー、たしかにそうじゃな」
「はい!」
トリーモは笑った。
まるで、嵐のあとの空のよう。見る見るうちに雲が流れ、黄金の陽光がいっぱいに広がる。そのように、笑った。
ソラトバンと2人になっても、緊張する様子はない。むしろ身を乗り出してきて、ニコニコして、しゃべった。
「気持ちいいですね、この鬼械人! チラーニさんでしたっけ?」
<そうだよ~>
「本名は、チーササラーニ、じゃったよな」
<そうだぜ~。チーニャの面倒見ることになったとき、この名前にしたのさ>
「チーを支えるお兄ちゃんですか」
<そうそう。あ、オレがしゃべったって、チーニャには言うなよ?>
「言わんけれども」
「チラーニの兄貴は、口が軽いんですね!」
<軽いぜ~?>
「認めるんかい」
「きゃっきゃっw」
トリーモは大喜びである。
弓手席でウズウズとし、上下左右を見回し、覗き窓の外を流れる空を見つめる。
「はー・・・見晴らしいいなぁ・・・!」
<仕掛け鏡も見てみたら? 頭の上にあるヤツ。引っ張ってみな>
「うわっ、伸びた!」
<そこを覗くと・・・>
「あ、外が見える」
<肩砲の握りを回すと・・・>
「わー! 回転した!」
大はしゃぎである。
そうして楽しんでおったトリーモちゃん。突然に・・・
「あれ? 私、呪文使えるかも知れません」
・・・などと、言い出した。
「なんじゃと?」
「ちょっとやってみていいですか」
<危ないのはダメだぜ~?>
「はい。危険のないヤツ。私の目にかかる呪文です」
「なら、ええか」
「では・・・」
「我が眼(まなこ)、絞りを強めよ、鳥のごと。──『鷹の目』」
◆ 41、トリーモ、『鷹の目』を使う ◆
「鷹の目じゃと!?」
「はい」
トリーモは、しばらく仕掛け鏡を見て、
「うん。やっぱり。使えます、私、『鷹の目』! ・・・あ、えっと、この呪文はですね、」
「遠くが見えるんじゃろ? 鷹みたいに。自由自在に、遠くも近くも」
「御存知でしたか」
「うむ」
ソラトバン、前方の覗き窓を見て・・・
遠くに小さく見える攻撃塔に、『鷹の目』を向けた。
「攻撃塔の屋上砲に、カラスが1羽止まっとる」
「・・・。」
トリーモは、一瞬、沈黙した。
「・・・トバーニ、詠唱、してませんよね?」
「わしのは、呪文じゃないからな」
「えっ!? ルーンの技? まさか、トバーニは、ルーンの所有者なの?」
「なんじゃそりゃ」
<ちがうぜ~? 詳細は、また今度ね~>
チラーニが割って入った。
ちょっと強引に、前に倒れて、急加速する。
「はぐ」
「おっふ」
胸にかかる重圧で、言葉を封じられて。
2人は一気に飛行塔まで運ばれた。
わざとやったな・・・? と、ソラトバンは気付いた。
トリーモも気付いたかも知れん。その後、詮索(せんさく)はやめたからだ。
がきぃぃぃん・・・!!
チラーニにしては、ずいぶん乱暴な着地。飛行塔が、かしいだ。
<おい! なにやってる!>チーニャが怒鳴ってきた。
<めんごめんご~>
<めんごもメンコもないぞクソ>
「ふぅ。チラーニ・ソラトバンじゃ。トリーモとわしだけ帰って来たぞ」
<帰ってきたのか。襲ってきたのかと思ったよ!>
「スマンスマン」
<空の旅はどうたった? トリーモ>
「楽しかったです!」
「──で、なにかわかった?」
「なんにもわかりませんでした!」
「そっか」
チーニャは笑った。トリーモが元気になったことはわかったようである。
「ですが、2つ、いいコトがありました」
「ほう?」
自分は、この土地の娘ではない。
『鷹の目』が使える。
この2つを、トリーモは説明した。
チーニャはニコニコして話を聞いた──ように見えて、ピリッと緊張したのが、恋人のソラトバンにはわかった。
「へえ! そりゃすごい。たしかに、ソラが休んでるとき、助かりそうだ」
「でしょう!」
「これは掘り出し物だな~。よしよしw」
「タダ飯食いじゃなくなりましたね!」
2人は姉妹みたいにイチャイチャしながら、食堂へ向かった。
だが。
「・・・アイツは危険だ」
夜、ソラトバンの寝室で。
2人きりになると、チーニャはそう言った。
◆ 42、アイツは危険だ ◆
「トリーモが、危険じゃと? ・・・どうぞ」ソラトバン。チーズケーキを出す。
「アイツは、ハポノ貴族だ。・・・ありがと」チーニャ、さっそくフォークを突き立てる。
「ハポノ貴族・・・」
「育ちの良さ。呪文の知識。『自決』なんて言葉が自然に出るところ。・・・モグモグ」
チーニャはソラトバンを見つめる。
「鬼械人乗りの、娘──という可能性を、考えておくべきだ」
「むう・・・」
ソラトバン、うなる。
腹の中に、じわじわと、理解が広がってくる。
「つまり・・・わしらが殺した乗り手の、娘・・・かも知れんと」
「そう。それが最悪から2番目のケース」
「・・・2番目?」
「記憶をなくしたなんて、真っ赤なウソ。初めからオマエがターゲット。これが最悪」
「まさか、そんなハズ──」
「ソラ」
チーニャは、鼻先をくっつけてきた。彼女のまつげが、ソラトバンのまつげに触れる。
「『そんなハズはない』──そういう意識のコトを、『急所』っていうんだぜ?」
「・・・。」
ソラトバンは、チーニャを引き寄せた。
彼女の背中を胸の中に入れて、腕を回して、抱き締める。
背の高い彼女が、柔らかくて細い身体であるとわかる、この抱き方が好きなのだ・・・
・・・・・・・・・いや、ちがうぞ? おっぱい揉みやすいからじゃないぞ? 少なくともいまは、ちがうんじゃ。
しばらく、そのまま考えた。
天秤(てんびん)に、かけた。
危険と──おふくろのいう『倫理』、あるいはおジャスさまの言う『正義』とを。
「・・・やっぱり、放り出すことはできん」
「頭を固くしないでくれ。柔らかく考えて」
「いや。おまえさんは正しいと思っとる」
彼女の柔らかい髪を撫でて、ソラトバンは説明した。
「あの子が帝国の密偵なら、今日殺されてもおかしくなかった」
「・・・うん」
「それでも、」
「それでもダメなのか」
「ダメじゃ」
「なんでさ?」
チーニャは向きを変え、首に手を回してきた。乳房をやわらかく押し付けてくる。
「私は・・・オマエが大事だ。オマエは、私が大事じゃないのか?」
「ふふんw 大事に決まっとる」
「だろ?」
「おまえさんみたいな美人に言われたら、ええ気分じゃが、」
「だろ? だろ?」
「じゃが、弐ノ塔の『倫・・・むむむ」
チーニャが唇をふさいできた。服の下に手を入れてくる。
これは・・・! 倫理の話をするつもりじゃったのに、そんな状態では・・・!
・・・って、わざとやっとるじゃろ。これ。
「り、倫理」
「そんなモノ、気にするな。私のコトだけ、気にしてよ」
「いや、しかし。わしゃ、おふくろの倫理に、助けられた男じゃけぇ・・・!」
「・・・。」
チーニャ。止まった。
「おまえさんだって、巻き込んだからというて、わしを助けてくれた」
「・・・ちッ」
舌打ちしよった!
スイッと離れて、めくれたシャツを直す。
あー・・・おっぱいが・・・
「やっぱ、若い娘のほうがいいんだ」
「・・・は?」
「私は、用済みか。これだけ迫っても効かないんだもんな。そーゆーコトだろ?」
「はあァ?」
「はいはい。効かないんじゃしょうがないよね! ごめんなさいねっと──」
「効いとるわ!」
「きゃっw」
ソラトバン、白い腕を捕まえて、ベットの中に引きずり込む。
「さっきからわしがどんだけガマンしてしゃべっとるとこの美女おっぱいさんめ」
「きゃーwww」
チーニャはキャッキャ言って、その襲撃を抱き止めた。
◆ 43、ソラトバン、修行を考える ◆
翌日。弐ノ塔は、いったん引き揚げることになった。
もう、ヨスベロゴンチでやることはない。
予備飛行塔と攻撃塔は、舞い上がる。本拠地のカルデラ目指して。
さて、そんな予備飛行塔の中で。
ソラトバンは、格納庫へ向かった。
「ちょっと、通信したいんじゃが」
と、整備士どもに訊くと・・・
「トンボ殿はダメでござる。総点検中」
「黒トンボ殿は、『力の筒』交換で・・・昼頃までかかるでござる」
「チラーニ殿は、装甲交換で徹夜して、さっき寝たとこで・・・」
「浮鬼殿は、正鬼殿が通信中で・・・」
・・・と、答えが返ってきた。
「ありゃ。全員ダメじゃないか」
ガックリ来たところで、
バッサバサバサ!
背後に、翼の音!
「うおっ!」
<殿! 誰かお忘れではござらんか!?>
「おお、ウミドラーニどん」
バサバサバサ! 海鳥型鬼械人・ウミドラーニどんが、弾丸のようにすっ飛んできて、着地。ぼてっとコケて、止まった。
立ち上がる。
<拙者、いまヒマでござるから!>
「ほじゃ、お願いしようかのう。まずは、乗駆鬼どんと連絡を取りたいんじゃ」
<乗駆鬼じゃ>
オーガの乗駆鬼。通信に出てくれた。
<ソラトバン殿。そっちは大騒ぎだったようじゃのう>
「そうなんじゃ。『空飛ぶ島』がまた暴れよってな。乗駆鬼どんはどうじゃ?」
<いまは、幽雲洞でアルバイト中じゃ。資材がパァになったのでな。薄給でコキ使われておる>
<ア!!? 気に喰わんのなら、帰ってええぞ!!!>
<・・・こういう状態じゃ>
「ははぁw」
どうやら、幽雲洞のドワーフの下で仕事をしとるらしい。
「忙しいトコ、スマンのう。相談があってな」
<おう。アンタの頼みなら>
「じつは、相撲を習いたくてな」
<すもうだと・・・?>
「うむ。自分と恋人と、あと仲間たちとを、不意打ちから守るのにじゃ」
<そういうことか。護身ということか>
「そうじゃ。ごしんじゃ」
<うーむ・・・>乗駆鬼、うなる。
「ダメか」
<手伝うのは、吝かでない(やぶさかでない)。オーガの相撲は、なんでもアリだしのう>
「なんでもあり」
<殴る、蹴る、締め上げる、石を投げる、逃げ出す、などだ>
「それ相撲か?」
<相撲じゃ>
「ちがう気がするが」
<護身とは、つまり『無傷で切り抜ける』ということだろう>
「そうじゃな」
<なら、逃げるも石投げるも、護身であろう>
「・・・なるほど?」
<その上でだが、最後の手段としての組み打ちは、想定が重要じゃ>
「そうてい」
<想定しとる敵は、オーガか? 人間か? けだものか?>
「人間じゃ」
<となると、私では、腕の長さ・背の高さ・体重などが、違い過ぎよう>
「む」
<組み打ちでは、体格が重要じゃ。想定しとる敵と近い相手を選ぶべきじゃ>
「なるほど」
<あとは、肉をしっかり食って、運動することだな!>
<・・・もしかして、例の女の件でござるか?>
「まあそうじゃ。チーニャから話が行ったそうじゃな」
<来たでござる。拙者・・・あの女は、悪人じゃないと思うでござる>
「わしもそうじゃ。じゃが、備えはしとかんとな」
<は~い、ディルーネで~す! ウミちゃん元気ぃ~?>
次に連絡したのは、密偵のディルーネである。
明るい声で返事があった。そして、ペラペラ軽口叩き出す。
<なになに? デートのお誘い? 浮気したなった?>
「ちがうわい」
<あっそ。ほんならね~♪ ばいば~い>
「待たんかい。訓練について相談があるんじゃ」
<なんでウチに?>
「相撲の先生探しとるんじゃ。ダークエルフの、小柄な戦士が希望じゃ。紹介頼めんじゃろか」
<費用は弐ノ塔に請求でええの?>
「あ、いや、わしが・・・」
<アンタ払うモン持ってへんやろ>
ディルーネさん、突然冷たい声になる。
それから、また楽しそうな声になった。
<あ、あったわ! 黒トンボ>
「ほじゃな。ばいばい」
<あ、ちょ待t──>
<拙者、この女嫌いでござる>
「・・・そうか」
<次はどこに?>
「うちン中で探してみるかのう」
◆ 44、ソラトバン、訓練する ◆
応接室に行ってみる。
期待どおり! おジャスさまとハルさまが、お茶をしておられた。
あいさつして、話を持ちかけてみる。
「え~?w」
ハルさま、ニヤニヤする。
「ソラ君、おジャスと抱き合って相撲のトレーニングしたいんかに? ええ~~~?w」
「それはちょっと・・・」おジャスさま、珍しく、怯えた様子。「さすがにちょっと・・・」
「いやちがうわ──ちがいますですじゃ! わしの言い方が悪かったですじゃ」
ソラトバン、平謝り(ひらあやまり)。
説明し直した。
「──つまるところじゃ。自分やチーニャを、不意打ちから守れるようになりたいんじゃ」
「なるほど!」
おジャスさま、パッと明るい顔になる。
「よろしい! かかる話ならば、この我に任せよ!」
「おお!」
「剣帯びるがよし!」
「・・・剣?」
「うむ! 弐ノ塔なら、それなりの剣、造れるハズ。まずは小剣。3年もあれば護身には十分やえ。その後、長剣を──」
「あ、えーと、わしゃ刃物は・・・」
「心配いらぬ。そなたに見合う剣を、私から弐ノ塔に発注しよう。サイズはどんぐらいがええかに?」
「大型ナイフぐらいがええんちゃうかに?」とハルさま。「乗り手席で突っかえん程度」
「なるほど! そやに!」
「いやその、わしが習いたいんは・・・」
「ソラ君、ちょっとコレ、」
ハルさま、自分の手荷物から、鞘を出した。
シャリーン・・・!
抜き放つ。
白銀に輝くナイフ。
刃の輝きも、さることながら。
柄に巻かれた白蛇の革までが、美しい。
美術品のようでいて──刃はゾロリと研ぎ澄まされておる。
「はい。コレちょっと、構えてみなえ」
「え・・・あ、はい」
ソラトバン、ナイフ持って、お二人の居らん方向に構える。
「ちがう。握りはこう」おジャスさまの指導入る。「前足はここ。後ろ足はこの角度。腰もっと低く。体は半身」
「タイはハンミ」
「腹見せるなと言うておるのえ」とハルさま。
「あ、はい。こ・・・こうかのう?」
「ちがう! もっと腰締めなえ!」
「こ、こしを締める???」
「こうやえ!」
「はい! 先生!」
・・・厳しい指導を受けること、半刻(1時間)。
「よろしい。いくらか、形になってきたに。そのままじっとしておれ」
「え」
「私が弐ノ塔にナイフ発注して戻ってくるまで、構えたまま!」
「ひぃ」
おジャスさま、退室。
だいぶ経ってから戻ってきて、
「発注完了──ちゃう言うておるに! 腹見せな!」
ドスゥ!
おジャスさまのショートレンジパンチ。
目にも止まらぬ短打、ソラトバンの腹に。
「げっほ」
「ココ突かれたら苦しみ抜いて死ぬ羽目になるのえ!」
「はい・・・先生!」
・・・さらに指導を受けること、半刻。
「よし。休憩」
「きゅ・・・きゅうけいじゃと・・・終わりでは・・・?」
「なんか言うたかに!」
「いいえ・・・先生」
<拙者、仕事に戻るでござる>
「あ・・・おう。ありがとさんじゃ・・・」
「肩ほぐしておきなえ。次は少し振らせるゆえ」
「はい、先生」
この御方に話すんじゃなかったわい・・・と、ソラトバンが後悔し始めたところで。
「ソラッソラッソラッ!」
どってんどってんどってん。
体当たり娘がやってきた。
「ソラット、バァァーー!!」
「半身じゃ!」
突撃してきたレモンちゃんに、右半身を向けるソラトバン。
「ぬわー」
結局吹っ飛ばされるも、彼女の首を抱え込むことに成功する。
「・・・。」ちょっぴり不満げなレモンちゃん。「なにしてるの?」
「特訓じゃ」
「とっくん」
「仲間を守れるように、護身術の練習をしとるんじゃ」
などと、説明しておると。
「がんばってるそうだな」「お邪魔します」
チーニャが茶菓子を手にして、トリーモと一緒にやって来た。
「やあ」ソラトバン、レモンちゃんの下から返事する。「おはよう。トリーモ」
「お・・・おはようございます? トバーニ・・・。あの、一体なにを?」
「剣の修行じゃ」
「レモンはタックルが好きだからな」お茶淹れながら、チーニャ。
「うむ。なかなかええ体当たりやったえ」と、おジャスさま。「そなたもやるかに?」
「・・・。」
レモンちゃん。しばし考えて、
「やる!」
かくして。
ソラトバン、レモンちゃん、それにトリーモが、構えを習うことに。
「うむ。そなた、なかなか、筋がよろしい」
「やったー!」
意外なことに、レモンちゃん。
足ヒレで立たねばならんというハンデを乗り越え、おジャスさまから合格をもらう。
「なんでじゃ・・・」
「この娘、下半身、よう練れておる」
「ねれておる? どういう意味じゃ? おジャス先生」
「力強く、やわらかく、バランスに優れ、スキなく、即座に動けるバネあり──っちゅう意味やえ」
「そんなに」
「泳いどるからかに?」とハル。
「かも知れぬ。加えて・・・レモン。そなた、漁が得意なんちゃうかに?」
「うん」
「あ、そうじゃ。レモンちゃんは、うまいぞ! 槍で突いて魚取るの」
「やはりそうか。一瞬を突く、狩人のセンスを感じるえ」
「ふっふーん♪」
「くそ。後輩に負けてしもうた」
レモンちゃん、上機嫌。ソラトバン、悔しがる。
「さて。トリーモ。そなたは、剣習うたことあるんかに?」
「思い出せません・・・でも、こんな構えは、やったことがある気がします」
トリーモ。
足を大きく開き、腰を落とし、左拳を腹の前に。右手は、右方向に突き出した。
右へステップして、右手で切り下ろす。右へステップして、切り下ろす・・・を、何回かやって見せる。
「カニみたいじゃな」
「・・・!」
トリーモ、真っ赤になる。構えを解いた。
「見たことない構えやが。ハル、わかるかに?」
「ハポノの馬上剣術が、こんな基本型やったんちゃうかに・・・」
「なるほど。鞍上からの切り下ろしかに」
「・・・。」チーニャはお茶を呑みつつ、黙って見守っている。
3人で指導を受けること、さらに半刻。
「よろしい。今日はこれまで!」
おジャスさま。指導を終えて、こう指示した。
「ソラ。そなたは、レモンと組んで修行しなえ。構えもやが、泳ぎと突き漁もレモンから学ぶべし」
「わし、泳げんのじゃが・・・」
「この夏じゅうに、学ぶべし」
「・・・はい。先生」
「トリーモ。そなたは、馬に乗る機会があれば、試してみよ。なんぞ思い出すかも知れぬ」
「馬ですか・・・?」
トリーモは、ソラトバンを見た。
ソラトバンは、チーニャを見た。
「馬はいないな」とチーニャ。「牛ならいるけどw」
この、馬の問題。すぐに、意外な解決を見ることになる。
◆ 45、トリーモ、乗り手になる ◆
それは、弐ノ塔がカルデラに到着して、すぐのこと。
ソラトバン・レモン・トリーモが、訓練に出た時のことであった。
3人とドリナラーニどん(整備ロボに憑依中)。
草原に出て、訓練をした。走ったり、剣術の構えやったり。
相撲もやった。
ただし、ソラトバンはトリーモとは組まんようにした。これは警戒ではない。年頃の少女だからである。
代わりに、レモンちゃんとやった。負けた。
トリーモもレモンとやった。負けた。
レモン、強い・・・。
ドリナラーニどんに、3人で挑んだりもした。負けた。四脚四腕のドリノンは強い。あと、中身も強かった。
で、お昼になった。
トンボが飛んでくる。
<やっと点検が終わったわい! ほれ、どこへでも運んでやるぞ>
とか言う。
どうやら、飛びたがっとる様子。
「ほじゃ、ちょっと飛ぶか?」
「はい!」
「・・・私はヤダ」
高いトコが嫌いなレモンちゃん、歩いて帰る。
ソラトバンとトリーモは、トンボで飛び上がって・・・
「寄り道して、グルグル飛んでみるか」
「やったー!!」
「よーし。ほじゃ、スピード出すぞ。前に傾くからな。心構えしろよ」
「はい!」
トンボがうつ伏せになって、ギュンギュン飛び回った。
このとき、
「あの・・・トバーニ?」
と、トリーモが耳元で言い出したんである。
「私・・・その、変な話なんですけど、」
「な、なんじゃ?」
「乗ったことある気がします・・・この、座席」
まさか、そんなハズは!
ソラトバンもトンボも、初めはビックリしたのだが・・・
「ああ。トンボ様のアレが、鞍っぽいからじゃないか?」
昼食を一緒にしたチーニャが、あっさりと、言い当てたのであった。
「股間のアレ。棒っていうか」
アレ。
金属の棒である。
トンボの座席の、股間のあたりに通っとる、太い棒のコトである。
「前傾したとき、またがる形になるだろ? アレが鞍っぽいんだ」
「なるほど」
このことをおふくろに話したらば、
<ほじゃ、2号に乗ったらどうじゃ?>
という話になった。
「ドリナラーニどんに?」
<そうじゃ>
「ふむ?」
ソラトバンは、チーニャの反応を心配したが。
意外にも、彼女は賛成であった。
「いいんじゃない?」
「ええんか?」
「うん。少なくとも、オマエを暗殺することはできなくなるし」
「そういう考えもあるか」
「・・・2号というのは?」
話を持って行くと、トリーモは真剣な顔で訊いてきた。
「黒トンボじゃ」
「トバーニの予備機に、私が・・・!?」
<これは命令じゃない>とおふくろ。<無理はせんでええぞ。危険じゃし。そなたは、まだ若いしな>
「あ、いえ!」
少女は立ち上がった。
濃い緑色の瞳をキラキラさせて、こう叫んだのであった。
「2号の乗り手、このトリーモに、機会をお与えください!」
◆ 46、ソラトバン、溺れる ◆
トリーモは、午後から別メニューとなった。
黒トンボ(つまりドリナラーニどん)と組んで、飛んでみるという。
なので、午後はレモンちゃんと2人で訓練することにした。
「暑くなってきたし、泳ぎの訓練しようと思うんじゃが?」
「さんせーい!」
・・・これが、間違いであった。
行き道で、コボルドの羊飼いどもとばったり出会った。話をする。
──したところ、彼らもついてくることになった。
「釣りするでござる!」
「道具持っとるんか?」
「糸と針は、常に!」
仲間を増やして、カルデラの誇る、美しい湖へと向かう。
──したところ、ウミドラーニどんがあわてて飛んできた。
<ハァハァ・・・コボルドが水辺に行くときは、そばに居るのが拙者の仕事でござる!>
「そんな、釣りぐらいで。レモンちゃんだって、居ることじゃし」
<油断は一瞬、後悔は一生でござる!>
「おおげさじゃのう。わっはっは」
と、笑ったソラトバン。四半刻もせんうちに、泣き叫ぶこととなる。
「助けてくれぇ!! がぼがぼがぼ」
<言わんこっちゃないでござる!>
「がぼがぼ。レ、レモンちゃん。手、手を放してくれっ──ガボガボガボ!」
原因は、レモンであった。
泳ぎの訓練を始めて、しばらくは、彼女は優れた先生であった。
無理な命令は、一切せぬ。
水遊びからスタート。岸辺を歩き、水の掛け合いとかをやって・・・
「川は、深さがわかりにくい。知らない川は、いきなり泳いじゃダメ」
「濁った水には、近付いちゃダメ」
・・・など、注意もちゃんと、してくれて・・・
「よし」
水の冷たさにも慣れたソラトバン。
「ほじゃ、ちょっと、つかってみるわい」
腰まで水に入ってみた・・・
ここからである。
「・・・。」
突然、無口になったレモンちゃん。
とぷーん・・・。
水の中に潜ってしまい、ソラトバンの周りを、ぐーるぐーる・・・と、泳ぎ始めた。
「ど、どうしたんじゃ? レモンちゃん」
呼びかけるが、返事もしない。
水面下に髪をなびかせ、光り輝く瞳でこちらを見上げて・・・
ぐーるぐーる・・・と、泳ぐだけ。
「なんか、いやな予感がするんじゃが」
ソラトバンは、岸に向かった。
「ちょっと一回、上がろうわい」
その途端!
レモンちゃんが、抱き着いてきた!
「お、おい!!? なにをするんj──ガボガボガボ!!」
・・・というワケである。
<拙者に掴まるでござる!>
「ガボッゴボッゴボゴボゴボ!」
<いま援軍呼んでござるから! しっかり掴まっ──ブクブクブク>
「何事でござるか!?」
「新入り殿が溺れてござる!」
「ウミドラーニどんは!」
「一緒に沈んでござる!」
「キャン! 浮力不足!」
「杖でござる! 杖掴ませて、引っ張れば」
「あいわかった! 新入り殿! この杖に掴まっ──キャン! ゴボゴボゴボ!」
「ああ! 二次災害!」
大騒ぎである。
というか、ふつうに何人も死にかねん状況であった。
──空から、黒い巨人が、舞い降りて来なんだら。
ドンバッシャーーーン!!
水を蹴立てて降り立つ、鋼鉄の巨人。
大きな手のひらを水に突っ込み、セイレーンの娘をすくい上げる。
ぽーん!
何尋も向こうの地面まで、乱暴に放り投げる。
どしゃあ!
「ぐえっ!」
<反省シトレ! 魚娘!>
珍しく怒声を発するドリナラーニどん。
それから、今度は優しい手付きで、溺れとるソラトバンとコボルド(助けようとして巻き込まれた)をすくい上げる。
地面に2人を寝かせる。コボルドは、仲間がビシバシひっぱたくと、すぐ目を覚ました。
ソラトバンが起きない。
抱き付かれとったウミドラーニがバチャバチャ翼でもがいて抜け出し、ソラトバンの胸を蹴る。
起きない。
黒トンボのハッチが開いた。トリーモが、自分の身長より高いところから飛び降りてきた。
「手伝います!」
<人工呼吸してくだされ!>
「え? じ、人工呼吸?」
ウミドラーニ。ソラトバンの胸をどすんどすん蹴って、水を吐かせながら、
<息を吹き込むんでござる! 拙者は、呼吸しとらんゆえ! お頼み申す!>
「え、え」
<指示しますゆえ、やってくだされ! 早く!>
「わ、わかった!」
トリーモ。
ソラトバンの頬に、恐る恐る触れて。
指示どおり、彼の鼻をつまんで・・・
がちん。
歯をぶつけた。
「痛っ」
<くっつけるのは唇だけでござる!>
「あい」
<要はキスでござる! キス!>
「は、はひっ・・・!」
真っ赤になったトリーモ。
うっすら涙目になりつつ、唇をソラトバンにぴったり合わせ、汗だくになって息を吹き込みはじめた・・・
・・・そして。
見事、彼の息を吹き返させたのであった。
「トリーモ。助かったわい」
ソラトバンが、礼を言うと。
「トバーニ・・・!」少女は泣き出してしもうた。
<いやはや。今回ばかりは、拙者、ハラキリ覚悟したでござる>
「ははは・・・また冥界の入り口見てきたぞ。3度目じゃ」
ソラトバン、周囲を見る。
すると、黒トンボにガッチリ握られて、ピチピチもがいとるレモンちゃんが見えた。
「なんで、あんなコトしたんじゃ・・・レモンちゃん・・・」
「わかんない」
黒トンボに握られたままの、レモンちゃん。
『なんで私が怒られるの?』みたいな顔して、こう答えた。
「ソラの足見てたら、引きずりこみたくなっただけ」
「あー! それ、セイレーンの本能やえ!」
教えてくれたのは、ハルさまであった。
「水に親しむ男を見ると、生殖したくなるのえ」
「せいしょく・・・殺されかけたんじゃが」
「セイレーンの生殖はそういうものえ。男を水に引きずり込み、溺れ死ぬ瞬間に、精を搾る」
「そんなアホな」
ソラトバン、ゾッとする。
「なんで言うてくれんかったんじゃ・・・」
「ごめんに。一緒に住んでおるから、知っとるものと思うておった」
「まこと、あいすまぬ」
今度は、ハルさまとおジャスさまが平謝りであった。
「・・・やれやれじゃ」
夜になって。
恋人と2人で、見込み違いをぼやく。
「レモンちゃんが刺客で、トリーモは救い主じゃったわい」
「ああ。私の目が節穴だったよ、ホント・・・」
押し倒されるソラトバン。
恋人の唇が、迫ってくる。
「な、なんじゃ・・・?」
「ホント・・・私のいないトコで、生殖してキスしてさぁ・・・」
「いや、あの。チーニャ? それは全然ちがうぞ?」
「ホントにもう・・・!」
と。
そんな感じで、夏を過ごす2人であった。