◆ 16、チラーニ、介入す ◆
「チラーニ、詳細報告」
チーニャが命じる。鬼械人チラーニが応答した。
<四つ半シタ、半町(50m前後)。
陣営1:覆面の歩兵、20あまり。
陣営2:黄色マントの歩兵、8。随行、10あまり。戦士の盾に太陽の紋章>
ソラトバンは首を伸ばして、チーニャの手元を見た。
不思議な玉に、上空から見た映像が映っておる・・・
森の小道。曲がり角手前。
丸太が倒れ、道をふさいでおる。
樵(きこり)のソラトバンには、その木がついさっき切られたものだと、ひと目でわかった。
その丸太の手前で、2つのグループが戦っておる。
覆面の襲撃者と、黄金色マントの戦士である。
覆面のほうは、全員よく似た木の長槍を持っておる。先端に焼き入れただけの即席槍である。
その槍でもって、突く。
槍は、黄金色マントの隊列の隙間を抜け、非武装の随行員を襲った。役人らしき男が、腹を押さえて倒れた。
黄金マントが、電光石火の反撃。長剣を閃かせ(ひらめかせ)、槍を叩き斬る。斬ったその手で肘打ち。鼻面に喰らってのけ反った覆面に、ゾッとするほど美しい一撃。絹の衣のようになめらかな剣で、卑怯者は即死した。
覆面ども、ひるんだ。陣形変更。剣の間合いから逃げ、遠巻きにする。
黄金色マントは円陣を組み、非武装の随行員を守る。
その随行員のうち、淡い黄色のローブをまとった男が、倒れた役人のそばに膝をついた。祈りを唱える。傷口に当てた手が、輝く。役人が顔を上げ、咳き込んだ・・・
「太陽の祝詞(のりと)やな」と清雅。「服も、太陽の司祭のや」
<じゃあ、太陽神殿の一行で間違いないね。覆面のほうは、何者だろ?>
「山賊には見えへんなー。陣形変える動き、めっちゃ玄人(くろうと)っぽかった」
「そうだな」とチーニャ。「これは、何かを待ってるな・・・?」
戦闘。膠着した(こうちゃくした)。
覆面が、攻勢に出るのをやめたのだ。
だが、包囲は解かない。
黄金マントは、動けない。司祭や役人を背負っているためだ。
「援軍やったらヤバいで?」と清雅。「助けるんなら、いま助けな」
「む・・・」チーニャは、迷っていた。
その間に。
ソラトバンは、1人の娘の姿に、目を引き付けられた。
どんよりした目の娘である。
鳶色の髪をしておる。服は、草木染めのローブ。若い娘には似合わぬ、ダボついた服である。
司祭とも役人ともちがう。年齢が若すぎる。もちろん黄金色マントの戦士でもない。
ただ、周囲を眺めておる。恐怖もなければ、緊張もない。
彼女自身の運命が、この戦いにかかっておるというのに・・・
「おい」
「・・・。」
「おいコラ阿呆。ボケカスナス」
「わしかい」ソラトバン、我に返る。「なんじゃい」
「なんじゃいちゃうわ。背窓から目ェ離すなスカタン」
「そうじゃった」
ソラトバン、身体を戻して、背窓を睨みつけた。
清雅は、それ以上怒っては来なんだ。代わりに、チーニャに決断を迫る。
「チー姉。どないすんねん」
チーニャは・・・・・・妙な沈黙のあと、こう言った。
「清雅、ソラトバン。すまん。巻き込む。──チラーニ、介入するぞ。浮上歩行、発進」
<発進します>
ソラトバンの座席が浮き上がった。
背窓の景色が、流れ始めた。
鬼械人チラーニは、『浮遊筒』の効果で、自重を打ち消すことができる。
密やかなること、山猫のごとし! ほとんど足音もなく、戦場に向かった。
「弓手(ゆんで)、けむりだま用意」
「おう。けむりだま用意」
ガチャコン。清雅が手元のなんかを操作。
かちゃ。ソラトバンの頭上で動作音がした。
「・・・わし、なんかすることあるかのう?」
「背窓見とけ」と清雅。
「他になんかあれば・・・」
「色気出すな。背窓見とけ」清雅は、静かな口調でこう言うた。「後ろから喰らうたら、死ぬん、オマエやぞ?」
「りょ、了解じゃ」
ソラトバン、首をすくめる。
それから・・・心ン中で、ブツブツ言うた。「ちゅうても、どうせ後ろにゃ何も居りゃせんし──」
そのときであった。
背後。
右手の、森の中から。
しゅううう、と、白い煙を吐きながら。
うっすらと黄金色に輝く、巨人が現われたのは。
「トッ──トンボじゃ!」ソラトバン、叫ぶ。「三つ半、トンボが出たぁ!」
◆ 17、vs トンボ ◆
白い煙を、背後に噴き上げながら。
淡い黄金色した、巨人は──
トンボは。
右手に握った巨大な斧を、腰だめに、引いた。
「──お、斧っ! 斧じゃ! 背中、斬られるぞお!」
ソラトバンの胴体ほどもあろうかという、鉄の刃が──水平に!
「おらァ!!! 鉄鎖砲ォ!」
ガッチャン! 清雅がなんか操作。
背窓の中に、チラッと、筒が入って来た。
そして、巨斧が、激突した!
ズガッギィン!!! もんのすごい、音!
巨斧が──喰い込んできた! チラーニの背中に!
ソラトバンの、腹の高さに!
おお、あわれ、ソラトバン。樵のおまえが、斧で切られることになろうとは・・・
「チー姉! ねじれ!」と清雅。「鉄鎖で受けた! ねじって取れッ!」
「──ッさ!」
チーニャがアクション。
右手を突き出し、右足を胸(でっかい)に引き付ける!
左足を突っ張って、左手、まあるい乳まで引き戻す!
『握り』と、鐙(あぶみ)。
手足に対応する4つの部品が、乗り手の意図を、鬼械人に伝える。
それはあたかも、騎馬のごとし。
騎士が、手綱と鐙と声とでもって、馬に意図を伝える。
馬はその意図を汲んで(くんで)、みずから巨体を走らせる。
そのように、鬼械人チラーニは、動き出す。
乗り手チーニャに、心を合わせて。
<「おォォらァァァ!」>
ぐるーり・・・・・・・・・チラーニの巨体が、回転する!
ねじれながら、左へ傾き・・・・・・右足を、後ろへ、突き出した!
ドガゴン! 重い衝突音。
「ぐわああー!」
ソラトバンの全身が、強烈に左右に揺さぶられる。
「なにがどうなっとるんじゃあああ」
それは!
チラーニの、後ろ回し蹴り!
とんがった足が(チラーニの足はコマみたいにとんがっとるんである)──
トンボの右腰を、捉えた!
クリーンヒット!
その瞬間、
「猫爪ッ!」
激震走る座席の中で、チーニャが叫び──
ギ・ギ・ガッギィィィン!!!
チラーニの足先に、金属の爪が、3本! 飛び出した!
火花散らして、トンボの右腰装甲板をブッ叩く!
『猫爪』は、チラーニの足に仕込まれた隠し爪である。
ふだんは引っ込んでおる。必要なときだけ、出る。
まさに、猫の爪。
頑強な金属の爪は、長さ2尺を超える。人間の太腿ぐらい、ごっつい。
爆発的に伸び、カーブを描いて、ワシが獲物掴むがごとく、掴む。
チーニャはこれを、蹴りに合わせて突き出したのだ。
まさに、猫爪キック!
タイミングも完璧。威力も、申し分なかった!
──のだが。
ダメージ、なし。
「硬ッ・・・たァ!」
<ウソだろおい?!>
トンボは・・・
派手に転倒はしたのだが・・・
轟音を立てて倒れ、木にぶつかり、道を踏み砕いて・・・
乗り手は、さぞかし激しくシェイクされたであろうが・・・
ダメージ、なし。
トンボの右腰、変形なし。破損なし。機能異常、なし。
会心の猫爪キックは、うっすら黄金色に輝くトンボの装甲に、浅い凹みをつけただけであった。
◆ 18、次なる巨人 ◆
<こんなに? こんなにちがうのか、神竜甲(じんりゅうこう)>
チラーニは、感じ入ったようにつぶやいておる。
だがそんな場合ではない。チーニャは次の指示を出した。
「けむりだま! 視界をつぶせ!」
「けむりだま、発砲」
ガキン。清雅がなんか操作。
ドゴン! チラーニの左肩の砲、火ィ噴いた。
砲丸が飛び出し、トンボの頭をゴガァンと殴る。
その砲丸が、炸裂。
ぼっふぁーーーん・・・。
白い煙、炸裂。まったく視界の効かん濃い煙が、トンボの頭を包み込んだ。
目つぶし、成功である。
「弓手、けむりだま再装填。急げ」
「けむりだま再装填、開始」清雅が操作。
「鉄鎖砲は」
「死んどる」
<斧でブッ壊れちゃった>
「了解。けむりだま装填後、右肩には、散弾砲、装填」
「右、散弾砲。了解」
「効かんだろうがな」
チーニャは周囲を見回し、上空からの映像をチェックし、それから後ろの座席に呼びかけた。
「背乗り手! 生きてるか? 外は見えるか」
「・・・おぅ!?」
呼ばれてハッとなるソラトバン。
自分を見てみた。
斧が、腹に当たっ・・・・・・・・・てない。
トンボが振り回してきた、でっかい斧は・・・
チラーニの背中を、カチ割って・・・
背窓を、枠ごとグシャグシャにして・・・
ソラトバンの腹から1寸(親指ぐらい)のとこで、止まっておった。
「わ、わし、生きとるようじゃ」
「感謝せえよ?」と清雅。
「お、おおう。太陽の女神さま、光の女神さま、ありがとさんじゃ」
「 オ レ に や」
ソラトバン、ぜーんぜん、理解できておらんかったが。
彼が生きとったのは、清雅のおかげであった。
トンボの斧が、迫ったとき・・・
清雅が、とっさに『鉄鎖砲』を背中に回して、かばってくれたのだ。
おかげで、鉄鎖砲は真っ二つになったが、ソラトバンはそうならんで済んだ。
まったくもって、このオーガの娘には、頭が上がらんようになる一方じゃ・・・。
「・・・ええと、外はええっとォ、いまは無理じゃ」
背窓、グチャグチャ。
斧が突き刺さって、視界をふさいでおる。
「いま、なんとかするわい!」ソラトバン。斧の刃を、足で蹴っ飛ばした。「ほーれ!」
「おいムチャすんなオマエ阿呆。足切れんぞ」
清雅が心配してきた。ソラトバン、笑い飛ばす。
「こげんなまくらで、切れやせんわいw」
この巨斧。そんなに鋭くなかった。古い斧のようで、あちこち欠けとったんじゃ。
じゃからして、足で蹴り出すこと、そう無茶なことではなかったんじゃ。
「斧っちゅうたら、樵じゃ。外しかたァ、わかっとんじゃ。そーれ!」
ギッ・・・ガ・・・ゴッ・・・・・・・・・
「ほーれ抜けろ、それ抜けろ、どっこらせい!」
斧が抜けた。
ズズウン・・・! 地面に落ちた。
ギギッ・・・ミシミシ・・・。チラーニの背中が、嫌な音を立てた。
<めげそう(壊れそう)>
「がんばれ」とチーニャ。
ソラトバンは、歪んだ背窓を押し開けた(大変な力が必要であったが。ま、腕力はあるので)。
後ろの視界が戻った。
チラーニ後方──『三つ』方向は、現在、黄金マントたちの戦場のほうを向いておる。
魚眼ではないので、見える範囲は狭まっておるが・・・
まだ少し距離があり、木の枝も邪魔だが・・・
それでも、はっきりと、見えたものがあった。
巨人、1体。
「・・・三つ方向、巨人じゃ」
「ア?」と清雅。「トンボのことなら、『一つ』方向やぞ?」
「いや、ちがうんじゃ。別のじゃ。トンボとは別の、四角いヤツじゃ」
その巨人は、ゴツゴツした、四角いヤツじゃった。
塔・・・っちゅう感じかのう? まあ、手足生えとるんじゃけど。
足は短い。短足ガニ股じゃ。
腕は、ごっつい長うて、太うて、強そうじゃ。
あと、手が鉤になっとる。鉤手(かぎて)じゃな。指がなくて、鉤一本になっとんじゃ。
鎖とか引っ掛けるようなアレじゃが。
実際、鎖を引っ掛けておる。
馬鹿げた鎖じゃ。鉄環ひとつが、人間の頭ぐらいあるんじゃないか?
<ナンガラック!>
チラーニが、四角いヤツの正式名称を叫んだ。
<ソラ報告の三つ方向、蒸気械人(じょうきかいじん)、ナンガラック型、1体!>
◆ 19、帝国式蒸気械人、ナンガラック ◆
ナンガラック型は、帝国軍の工兵型巨人である。
魔蒸気筒(まじょうきづつ)で関節を動かすので、『蒸気械人』と称する。
この蒸気筒は、動作がノロい。ナンガラック型も、動きはとてもノロくなってしまっておる。
関節に装甲板がないのも、戦闘では重大な弱点となる。
だが、その長い腕を使った攻撃力はあなどれない。
特に、鉄鎖などの武器を持った場合には──チラーニのような高級機を、一撃で粉砕するパワーはあった。
ちなみに、オーガ陣営の鬼械人は、『力の筒』で動いておる。
筒が伸縮して関節を動かすのは同じだが、こちらのほうが高速・高出力である。チラーニはこの方式。
さて、その巨人ナンガラックが。
右の鉤手にぶら下げた、巨大な鎖を・・・・・・・・・振り回し始めた。
「マジかよ」チーニャがつぶやく。
<鎖鞭(くさりむち)だあ~>
「覆面どもは、トンボとこいつを待っとったわけやな」と清雅。「そこにオレらが入ってもたんや、アハハ」
「マジかよ」
「けむりだま、再装填完了」
「弓手は、トンボ用に温存しろ。ナンガラックは空気砲で仕留める」
「温存了解」
チーニャ、握りと鐙をグイッと押し・引く。
チラーニ、くるーり・・・と、180度ターン。
ソラトバンの視界も、180度ターン。
白い煙が見えた。
白い煙が──晴れてゆくのが見えた。
立ち上がるトンボが。
左手を、こちらに向けて、上げてくるのが、見えた。
「わーお」
「なんやねん。わかるように言わんかい」
「三つ方向、トンボが。弓、こっちに向けておる。わしがやられた弓──」
言うた瞬間。
ぐりぃぃぃん! チラーニ、また180度ターン! トンボに向き直る!
「散弾砲、けむりだま!」
「散弾砲発砲」
ドドッパアン!!!
チラーニの、まずは右の肩砲が炎を噴いた。
目にも留まらぬ速度で弾が飛び、ばらけ、広がり、トンボを襲う礫(つぶて)となる。
ガギギギギン!!! 金属を叩く散弾の、猛烈なる連打。
・・・ビキバキゴキッ。・・・チラーニの身体から、嫌~な音。
<めげるぅ~~~>
「左手で腰掴め。がんばれ!」とチーニャ。
「けむりだま発砲」
ドゴォン!!! チラーニの悲鳴など無視、ブッ放す清雅である。
<うげあ~~~!>
180度ターン。
ソラトバンの視界に、ふたたびトンボ。
左手を宙に上げておる。
何をしとるんじゃ? ・・・と思うとったら、その左手から、弓がバラバラに砕けて、落ちてった。
「トンボの弓、壊れたようじゃ。んで、煙で見えんようになったわい」
「よっしゃ! 見てみんかい!」清雅がガッツポーズ。
「お見事」とチーニャ。「被害は?」
<新たな被害、なし。弓はハズレた。でも、めげそう>
「はいはい」
チラーニ、前傾。
四角いヤツ──ナンガラック型蒸気械人に、突進する。
ナンガラックはすでに、鎖が水平になるぐらいの勢いで、腕を振っておる。
名付けて、水平スイング・鎖鞭!
こんなん喰ろうたら、死んでまう!
「浮上!」
<あい!>
チラーニが、浮いた。
突撃の速度はそのままに、地面を離れて、空中へ。
<も、もう、蹴ったりしないでよ? めげるからね? ホントに!>
「はいはい。蹴らない蹴らない」
真横に薙ぎ払って来る、巨大な鎖を。
飛び越──さない。
肘の内側に、突っ込む!
「当てる! 猫爪ェ!!!」
<蹴らないって言ったぁぁぁ!!!>
◆ 20、勝利のねこづめキック! ◆
チーニャ、鐙を、横に蹴る。
チラーニ、その意図を理解──サイドキック!
捉えたのは、ナンガラックの肘!
鎖を振り回す右手の肘を、蹴って、猫爪!
ドガッガギィィィン・・・!!!
ナンガラックの肘を、3本の鉄爪が貫く!
鎖が回り込む。
チラーニの左腕を、鎖が叩いた。
当たったのは根元である。威力は低い──はずだが、もんのすごい衝撃が伝わって来た。
「うおッおわおお」
<うぎあ~~~>
ソラトバンとチラーニ、悲鳴上げる。
巨鎖がさらに回り込む。チラーニを第二の関節として、速度を増して、折れ曲がる。
二重振り子の原理!
ナンガラックの左腕に激突。
さらに増速しながら折れ曲がる。
四角い胴体に激突。
また増速して折れ曲がる。
終端が、右腕に・・・
バギャッガシャアアアアン・・・!!!
ナンガラック。
自分が振り回した鉄鎖によって、右肘を痛打!
猫爪サイドキックと鎖に挟まれる形で、右肘、ちぎれ飛んだ!
左腕も折れ曲がっておる。魔蒸気筒から蒸気が爆発的に噴出。
両腕機能、喪失(そうしつ)である!
・・・なお、噴出した魔蒸気は、チラーニの内部にも入ってきた。
「熱っちゃちゃちゃちゃ!」
ソラトバン、おおあわて。
「吸い込むなよ。毒やから」
「なんじゃと!? ゲホゲホ!」
<ぎあ~~~!>
チラーニは両手で腰を掴み、空中でエビ反りみたいになっておる。
こっちも、下半身がちぎれそうなのだ。必死で下半身を掴んどるのだ。
その姿。ズボンが脱げそうになっとる、おっさんのごとし!
さて。
戦闘はまだ続く。
ナンガラックはまだ動く。
木立に突っ込むように移動して、チラーニを木に叩きつけようとしておった。
「右手出せッ!」
<ちぎれるから~~~!>
「うるさい出せッ!」
<うわーん>
チーニャの意図を、チラーニが実現する。
右手。を、腰から放し。
ゆるみ始めた巨鎖から、引っこ抜いて。
ナンガラックにはない、指を広げて。
手のひらを、ナンガラックの出入り口ハッチに、当てて──
「空気砲!」
ボン!!!!! 爆音。
掌底にある射出口から、空気のかたまりが撃ち出された音であった。
本来は、柔らかい地盤を掘削するための工兵装備。
チーニャ、ハッチ破壊に転用したんである。
接合部に右手を押し当てて──
ボン!!!!! ボン!!!!! ボン!!!!!
──金具が曲がり、折れ、ハッチが弾け飛ぶまで、撃った!
「止まれ! 止まらねば、殺す!」
「こッ、降参! 降参ッ」
剥き出しになった乗り手席で、覆面の男が両手を上げ、悲鳴を上げた。
ナンガラックは、男の意図を実現した。
──戦闘を、やめたのである。
「降参したぞ! う、撃つな、やめてくれ!」
「よかろう」
チーニャは空気砲を構えたまま、周囲をチェックする。
「トンボは?」
「まだ煙ン中じゃ」
「歩兵」
<戦闘は停止状態。こっちを見てる。オレの足元には人間なし>
「よし」チーニャは、チラーニの手を差し出した。「乗れ!」
「ひぃぃ・・・」
ナンガラックの乗り手が、チラーニの手に移った。空気砲の射出口にビビりながら。
巨人の手が、ゆっくりと男を地面に下ろす。
ポイ。最後は意地悪。転がした。
「ぐえー」
乗り手。ゴロゴロ転がり、泥まみれとなる。
「く、くそっ! 覚えてろ! 空飛ぶ塔の、長腕(ながうで)め・・・!」
ほうほうの体で、森の中へ逃げてった。
「トンボどないする?」と清雅。
「仲間なら、」
チーニャは、歩兵たちの戦場に近付いた。
「外部放送開け」
<了解。放送開いた>
《鬼械人はつぶした! まだ、やるか?》
チーニャの声が、森に轟いた(とどろいた)。
「た──退却! 退却、退却ぅー!」
覆面どもは、逃げてった。
全員、木の槍をその場に投げ捨てて。
残るは、トンボのみであるが・・・そちらを見ておるのは、ソラトバンである。
後ろを警戒する担当だったから──というのは、もちろん、ある。
だがそれ以上に、ソラトバンは。
白い煙が晴れてゆくのを。
トンボの姿が、ふたたび現われるのを。
左手を上げたまま立ちつくす巨人を、見ておったんである。
「・・・三つ方向、煙が晴れたわい。しかし、なんじゃろな」
「わかるようにゆえ(言え)っちゅうねん」清雅さま、ご注文である。
「いや、なんちゅうか・・・ハッチの下ンとこから煙噴いとって・・・動く気配がないんじゃ」
「・・・。」
チーニャが無言でターンした。
スライドするような、独特の浮上歩行で、トンボに近付く。
ちなみに、チラーニは左手で腰を掴んだままである。ズボン掴むおっさん状態継続中。
《羽ある鬼械人の乗り手に告ぐ。ハッチを開けて、出て来い》
反応なし。
チラーニ、右手でトンボのハッチを掴んで、開いた。
蒸気が流れ出す。
その煙が晴れた後、乗り手席には。
散弾で胸を貫かれ、絶命した男が、座っておった。
──戦闘終了である。
◆ 21、サーニとティモ ◆
「ありがとう。鬼械人の乗り手よ。あなたのおかげで、みな助かった」
黄金色マントの武人が、カブトを脱いだ。
きらーん。青銅のカブトに匹敵するほど輝く、ハゲ頭。露(あらわ)となる。
「我が名はレッケンサーニ。ナダラカン修道院の騎士長。この一行の隊長を務めておる」
深々と礼をする。
これに応えたのは、チーニャ姉さん。
背高く、おっぱいでっかい、黒髪の美人乗り手である。
「お名前は存じております。私の恩人──サーニ」
「・・・なんと」
ハゲ頭が上がった。
「覚えてませんか?」チーニャはほほえんだ。「弐ノ塔の、チーサーニャです」
「・・・・・・ティモ? あのティモなのか!?」
「はい」
「おお!」
2人は、抱き合った。黄金色マントが、チーニャの身体を包んだ。
「なんや? お熱いやないか」
「知り合いかのう?」
<そうだよ。チーニャが子供のときのね>
コソコソしゃべる、清雅・ソラトバン・チラーニ。
鬼械人チラーニの中。スースー涼しいハッチのそばである。
乗り手席の前の、あの不思議な玉には、上空からの映像が2種類、交互に切り替わりながら表示されておる。
それをチラチラ確認しながら、野次馬しとるんである。──頼りにならん見張りだこと。
「ウチが出てったら、面倒になるからなー」
「オーガじゃからか?」
「ンむ」
「けんかになるんか?」
「けんかにはならへん」
「ほじゃ、ええじゃないか」
「阿呆」
「阿呆じゃないわい」
「オーガと仲良うしとったら、帝国に敵対したことになるやろ」
<下手したら、レッケンサーニ殿、捕まっちゃうね>
「ははあ、そうなるんか」
うなずくソラトバン。
・・・ちょっと経ってから、気付く。
「あれ? ほじゃ、わし、ヤバいじゃないか」
「ヤバいわな」
<オーガと通じてるって知られたら、処刑されちゃうかもね!>
「え」
「死んだまんまのが良かったんかいや?」
「いや、そりゃ困るが・・・」
ソラトバン、清雅の顔を見る。
彼女の黄色い瞳。こちらを見ておる。キリリと引き締まった、なんともカッコいい顔。
次から次へ暴言吐くクセに、綺麗なツラしとるのう・・・。
「・・・いや実際、感謝しとる。うん。心から、ありがとさんじゃ。巨人にも乗せてもらえたし」
「フン」
清雅、猫みたいに鼻鳴らした。
「にしてもやー」興味津々で、下を覗く。「チー姉、アレ絶対本気やぞ?」
<うれしそうだよね>
「どこまで行っとんねん?」
<そーれはー・・・、本人に訊いて!>
どこまでて・・・
ソラトバン、ちょっと、動揺する。
あんな美人のおっぱ・・・美人の姐御と、男女の仲・・・!
この世の中には、そんなええ思いしとる男が、実在しとんのか・・・?
「何うろたえとんねん」
「い、いややや、べつに」
「・・・ええコト教えたろか」
「なんじゃ」
「修道騎士はな、妻帯禁止やねん。ヤラれとっても、結婚はできへん」
「若い娘が、なんちゅうこと言うんじゃ」
「ホンマやし。ま、オマエにゃチャンスないやろけどな! キキキw」
「この鬼っ娘めが!」
ソラトバン、赤くなる。
「・・・そんなんじゃないわ。住む世界がちがうんじゃなーと、思うただけじゃ」
「現世はひとつやぞ?」
◆ 22、戦利品 ◆
「──では、チーサーニャ殿。敵の鬼械人は、2体ともあなたのものに」
ハゲ頭の騎士レッケンサーニ。
呼び名をフルネームに戻して、そう言った。
「当然の戦利品であるから、異論はないものと思うが?」
仲間を振り向く。
すると、先ほど治癒の術を見せた司祭が、
「ございませぬ」と答えた。「ところで、この先、鬼械人の護衛があれば・・・と、思いまするが」
「おお。おっしゃる通りじゃ」
レッケンサーニは向き直った。
「チーサーニャ殿。御身を、護衛として雇うことはできまいか?」
「残念ですが・・・私は、帝国とは顔を合わせられぬ身なれば」
「なんと」
「代わりに、ナンガラックを兄者に譲るということで、いかが?」
「よろしいので?」
「ええ」チーニャは笑った。「腕は落としてしまいましたが。荷車にはなりましょう」
「ありがたい話じゃ!」
レッケンサーニ、ふたたび仲間を振り向く。
「──ジョーレンタラーニ! 貴殿、蒸気械人の運転経験があったな?」
「はい、兄者」
黄金マントの若者が歩み出た。カブトを脱ぐ。なかなかの美男子である。
そして、耳がちょっと、とんがっておった。
「・・・エルフや」と清雅。「ハーフっぽいな」
「エルフじゃと!?」
「うっさいね阿呆ゥ~。声がデカいねん」
「はい。すまんことじゃ」
ソラトバン。とりあえず謝ったが。
見たことないんじゃ。見たいんじゃ。じゃのにこの鬼っ娘。わざと邪魔しよんじゃ!
「清雅。ちょっと清雅、そこどいてくれ。わし、エルフ見たことないんじゃ。のう」
「さわんなボケェ~w」
「──ナンガラック型ですね? 留学中に乗ったことがあります」
「動かせるかどうか、中を見てきてくれ」
「かしこまりました」
若き騎士ジョーレンタラーニは、腕を失った巨人・ナンガラックに飛びついた。
ヒョイヒョイと、側壁のはしごをよじ登る。
胸当てをつけたままでの軽業である。さすがは騎士、あるいは、エルフの血、といったところか。
「・・・エルフは空飛ぶらしいからな」
「またまた!」
「ホンマやっちゅうねん。ルーン魔術あっての話やけどな」
「るーんまじゅつ」
<ルーンは、古代の巨人文字。それで組んだ魔術のこと。詠唱が速くて、威力がデカいんだ>
「マナ切れも速いけどな」と清雅。「鬼術より歴史古いねん。ずーっとな」
「へぇ・・・」
などとしゃべるうちにも、若い騎士が確認を終えて「行けそうです!」などとやりとりしておる。
「ははあ・・・」
「なんや」
「エルフな上に、巨人にも乗ったことあるとか、なんちゅう人生じゃと思うたんじゃ」
「オマエ人のコトうらやましがりすぎやろ」
「世の中、何でもできるヤツが居るもんじゃな」
<見た目より歳上なのかもね>
「まあ、ナンガラックは普及品やからな」
「え? わし、初めて見たんじゃが・・・」
「ここァ、属州やからな」
<属州には蒸気械人を入れないんだよ。帝国は>
「くそっ・・・」ソラトバン、歯ぎしりする。「属州に生まれたばっかりに・・・!」
「オマエはどうでもええけど、」
「よかないわい」
「──あいつら、何モン(何者)や? っちゅう話よな」
<うん>
地上では、移動の準備が始まった。
ハゲ騎士レッケンサーニとチーニャは、チラーニの足元で、くっついて話をしておる。
「・・・立派になったな」
「・・・。」チーニャはじっと相手を見つめる。「あなたに・・・あなたのおかげで」
「天よ見そなわせ。あの幼子(おさなご)が、我らの救い手になろうとは! ──本当に、見違えたぞ」
「私も、サーニ」
「ああ、これだろ?」レッケンサーニ、ハゲ頭を叩く。「綺麗になったろう!」
「ばかw」
2人は、もう一度抱き合った。
抱き締めあったまま、会話する。
「詮索はせぬ。が・・・一緒には行けぬのか。ナダラカンに来ることは」
「そっちこそ、還俗(げんぞく)は」
「死んで天に昇る。それが我らの行く末と、定まっておる」
「・・・。」
「なあ、ティモ。あっちの鬼械人だが。あれは、何だ?」
「トンボ。撃竜界の、伝説の鬼械人──の、亡骸(なきがら)」
「あの魔王とやり合ったという? どうやって動かしたのだ」
「わかりません」
「手に入れたら、タダでは済むまい?」
「ええ」
ハゲ騎士が腕をゆるめる。チーニャはうつむいた。
「天の女神と御剣(みつるぎ)の、恵みがそなたにありますように」
「・・・・・・サーニも」
ナンガラックは、無事に動いた。
ガニ股をガゴーンガゴーンと盛大に鳴らして、黄金色マントたちと共に、歩み去った。
ソラトバンがちょっと気になったのは、あのどんよりした目をした娘のことであるが・・・
チーニャに、「あの娘はなんじゃろ?」と訊いてみたのだが。
簡潔に「知らん」との答えであった。
かくして。
トンボは、ソラトバンたちのもとに、やってきたのである。
※このページの修正記録
2025/02/03
「22、戦利品」
ソラトバンのセリフが連続していたのを修正。2行挿入しました。+のとこ。
= 「うっさいね阿呆ゥ~。声がデカいねん」
= 「はい。すまんことじゃ」
+ ソラトバン。とりあえず謝ったが。
+ 見たことないんじゃ。見たいんじゃ。じゃのにこの鬼っ娘。わざと邪魔しよんじゃ!
= 「清雅。ちょっと清雅、そこどいてくれ。わし、エルフ見たことないんじゃ。のう」