ソラトバン、鬼械人   作:min(みならい)

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大混戦! 清雅、ソラトバンを撃つ!?

◆ 64、耳に詰めとけ ◆

 

 清雅とトリーモは玄関格納庫に出た。

 くろがね色のトンボが、片膝ついてハッチ開けて待っておる。

 周囲には・・・

 弐ノ塔のおふくろ。ふわ~ん・・・と、浮かんでおる。

 おジャスとハル。

 コボルドの整備士ども。こちらは壁際で座っておる──せわしなくキョロキョロしながら。

<用意させたぞ>

「どうも」

 おふくろが、なんか差し出した。清雅が受け取り、トリーモに突き出してくる。

「耳に詰めとけ」

「なにコレ」

 瓶に入った、淡い黄金色の、半透明の・・・

「蜜蝋や」

「みつろう」

 トリーモは、瓶の中の粘体を指ですくってみた。

 ネバー・・・。

 粘土みたいに、粘っこい。

「・・・耳に詰めろって言った?」

「セイレーンの魅了は耳栓で防げる──と、伝説にある」

「取れなくならない? こんなの詰めたら」

「死ぬよりマシやろ」

「ふむ」

 右耳に塗ってみる。ゾワゾワした。

「耳、聞こえなくなるよな?」

「聞こえたら魅了されるやろがド阿呆ゥ」

「どうやって戦うんだよ」

「オマエは、突っ込め」

 清雅は、トリーモの肩をポンと叩いてから、人指し指を真っ直ぐ出した。

 次に、自分の胸を叩いて、拳をグッと握り、パッと開く。

「ウチが、撃つ」

「わかった。そうする。ドリナラーニ殿は、耳栓どうすんの?」

<ワシ、引キ籠モル>

<汚染モードの私が、ドリナの盾となる>とおふくろ。<名付けて、空蝉(うつせみ)戦術じゃ>

「・・・。」

 トリーモ。会話についてゆけぬ。

 だが、この娘。ソラトバンとは一味ちがった。わからん単語への推定能力が高い。

「弐ノ塔とドリナ殿は、魅了されずに行動できる──ってコト?」

<いや。じゃが、ある程度の対策はする>

「そっか」トリーモは、ドリナの足を叩く。「頼むぜ、相棒」

<オウ!>

「オマエ」と、清雅。「レラ知っとるっちゅうとったな?」

「ん? ああ」

<知っとったんか!?>おふくろ、ぴょーんと飛び上がる。<なんで言わん!>

「言いました。思い出したときに。チーサーニャに」トリーモ、ふてくされる。「アイツは聞いてたハズだ」

「わかった。この話は後!」と清雅。「役に立つことあったら、いまのうちに言うとけ」

「あ、そっか。耳栓するんだもんな。えっとね、」

 トリーモ、急いで考える。

「・・・『鷹の目』で目が合った。密偵ではないかと思い、通報に向かった。だが、先回りされた」

「警戒はしとったんやな?」

「ああ。剣を抜くか考えたが、考えてるうちに魅了された」

「敵対しとっても魅了は喰らうわけか・・・」

<じゃろうな。ソラもやられたし>

「アイツは甘いトコあるから。──詠唱はしとったか?」

「いいえ。少なくとも、ルーン魔術の詠唱は聞いてない」

「他には?」

「半刻ほどあとで、レラを怒らせた。レラは『ミタマクリート』という呪文を私にかけた」

「『御霊繰り糸』かに?」

 ハル様が、横から訊いてきた。

「操り人形みたいに、相手の思うままにされる──いう呪文やが」

「はい! そう、まさにそんな感じでした」

「禁呪やに」

「きんじゅ」

「うん。ずっと昔に、ハイエルフが禁呪に指定した。帝国には、伝わっておらぬハズ」

<魔王でしょうか?>と、おふくろ。

「その可能性、大なり」

「魔王の継承者──っちゅう自称、おおげさではないか」と、おジャス。

「ソラも喰らう恐れありますね」と清雅。

「・・・!」

 トリーモは、総毛立った(そうけだった)。

「オーガよ、早く行こう。役立ちそうな話は、これで全部だ」

「よっしゃ。ほな、重要なサインだけ決めとくぞ」

 清雅が、トリーモの背後に回った。

 バシバシバシ! トリーモの頭叩いてきた。

「貴様ッ! なにをする!」

「『退却しろ』の合図や」

「・・・もうちょっと弱く叩け! この馬鹿力が」

「遠慮したら気付かへんやろォ~!」バシバシバシ!

「痛いって言ってんだろ!」

 トリーモは相手の手を振り払った。

 ゴチッ。力強い感触。女の手とは思えぬ。トリーモの手のほうが壊れそうである。

「・・・クソ。私がオマエに退却指示するときも、叩くからな」

「オマエは叩くな」

「なんでだよ!」

 言い合っておると。

「これ、トリーモ」白い服着たエルフの女剣士が、前に出てきた。

「・・・はい、おジャス先生。何か?」

「これを」

 

 渡されたのは、短剣。

 弐ノ塔が造ってくれた、ソラトバンとお揃いの──『仇討ち』で、彼に向けてしまった刃である。

 

「・・・この剣は」

「持っておれ」

「はい」

 トリーモは、両手でその短剣を捧げ持った。

 おジャス。その剣に手を触れて、祝詞(のりと)を唱えた。

 

「剣の名はグレイス。我が姉妹。すべてを断つ。

 事断つ女神の名において、ここな裏切りの剣、ひとたびに限り、すべてを断つ」

 

「差してゆけ」

「・・・。」

 腰に差す。鞘に付いとる紐を、ベルトに結わえた。

「心せよ」と、おジャス。「次に抜くとき──ただ一度だけ、すべてを断つ神剣となる」

「は・・・はい!」

「私も、支援するかに」

 ハル様も出てきた。

「そやに、乗ってからでないと不具合あるゆえ・・・」

「かしこまりました。──乗れ」ばし! 清雅がケツ叩いてきた。

「どこ叩いて!」

 トリーモ、左の耳にも蜜蝋を詰めて、瓶を清雅に返して。

 黒トンボのハッチに、飛び付いた。

 乗り手席へ。

 ベルトを締める。

 締め終えたあたりで、清雅。

 すぐ背後、弓手席(ゆんでせき)に、ヒラリと。

 彼女の膝が、トリーモの腰をガッチリと挟んだ。悔しいが──その感触は、心強かった。

 

 ゴーッ・・・、ゴーッ・・・、ゴーッ・・・

 速い川の流れのような音だけが聞こえた。トリーモ自身の、血潮の音だ・・・。

 

 黒トンボの前にハル様が出て、なにやら、まじないをした。

 弐ノ塔のおふくろが『ふむふむ』っちゅう感じでうなずいておる。

 何が起こったんかは、こちらにはわからんが。完了したようである。みな、下がった。

 

 トン、トン。清雅が肩を叩いてきた。

 

(なんの合図だよ!)

 決めてない合図すんな──と思いつつ、黒トンボの握りをチョンとつつく。

 握りが、グイッと、うなずいた。

(よし、行くぞ!)

 

 トリーモは黒トンボを立ち上がらせた。黒トンボは、エレベーターへ移動した。

 

◆ 65、空飛ぶ岩 ◆

 

 空は、曇天(どんてん)。

 時刻がわからぬほど、暗くて、低い。

 その雲の下を、くろがね色のトンボは飛んだ。

 眼下、カルデラの景色が、一瞬で流れてゆく。ドリナラーニと飛行訓練した土地が。

(いつか乗り手になるつもりではいた。──だが、敵の鬼体とは!)

 ゆく先に、不審な浮遊物。

 トリーモは『鷹の目』を詠唱し、発動する。

 進行方向を、ズームアップ。

 岩が、空に、浮かんでおる。

 指差して『発見、1』を伝える。清雅は、膝でギュッと返事してきた。

(『空飛ぶ島』じゃない? いや、その一部か)

 接近。

 詳細判明。

 

 上下にナンガラックの生えた岩であった。

 

(!?)

 トリーモ、あわてて握りを傾け、コースを逸らす。

 ちょうどそのとき、清雅が撃った。

 肩砲の振動。ガクンと減速がかかる。

 曲がりかけで急減速喰らった黒トンボが、安定を失った。激しく揺れて、一気に高度を失う。

「いきなり撃つな、馬鹿ッ!」

 トリーモは叫びつつ(心の中ではない。本当に叫んだ)、鐙を開いた──『伏せろ』。

 ドリナラーニ殿、指示に忠実に、頭を落とし、地表へ突っ込む。

 その一瞬後、弩砲の大槍と、鉄の鎖が、黒トンボのいた空間を通過した。

 なんや? と、清雅の膝が訊いてきた。

(3つ、浮いてたんだ! 岩が。くっついて!)

 

 敵は、『空飛ぶ島』を構成する浮遊物の一部であった。

 3つの大きな岩が、縦一直線に並んで、カルデラ方向に接近中だったのである。

 先頭の岩。上にナンガラック、下にナンガラック。

 岩に下半身を埋め込む形で、一体化して。

 その腕は、長い鉄の鎖になっておった──先端に鉄の鉤(カギ)がついた、捕縛用の鉄鎖である。

(ふつうに立ってたら、引きずる長さだった!)

 で、その岩の後ろに、弩砲を載せた岩が2つ浮かんでおったのだ。

 トリーモが避けたのは、ギリギリのタイミングで、狙われとることに気付いたからであった。

 

(強い!)

 トリーモ、相手の錬度が高いことを直観する。

 黒トンボが安定したので、清雅を振り向いた。

(どうする?)

(オマエは、突っ込め。私が、撃つ)

 清雅は、さっきやったジェスチャーをした。

(・・・ふっw)トリーモ、笑う。(なるほど。このオーガ、頼りになるじゃん)

 黒トンボを旋回させる。

 敵の側面に回った上で、高空から急降下するルートを選んだ。

 両手を、パッと開いて見せる。

(任せる!)

 『ルート変更しないからな!』──の意味である。

 清雅はうなずいた。

 彼女が、弓手席の3本の握りのうち、右手第二握りに、手を掛けるのが見えた。

 ドリナラーニが、列電魔旋砲を腰から取り外す。

 構えた。

(・・・マジかよ)

 トリーモ、あわてて両手を握りの根元に当て、肘を曲げた。

 ショックに備える。

 

 発砲。

 

 耳栓を貫いて──胴体を直接叩かれたような衝撃が、前方から浴びせられた。

 ほぼ同時に、激烈な減速。

 メチャクチャな揺れ。まるで、どこかに衝突したかのよう。

 ちゃんと手で支えていたのに、トリーモはつんのめって、頭を乗り手席の操作台にぶつけた。

 背中に衝撃が来た。清雅が、乗り手席にぶつかったようだ。

(馬鹿だコイツ!)

 トリーモは揺れる視界に耐えながら、手探りで握りを探し、握った。

 指示を出すというより、状況を訊くために。握りをチョイチョイとつつく。

 ドリナラーニ殿は、握りを左に若干傾け、鐙をやや伏せ気味にした──『水平飛行、左旋回中』。

 トリーモは、もう一度相手の上に回りたいと思った。

 握りを少し開く。

 上昇開始。清雅が元の位置に戻る気配。

 『鷹の目』でチェック。

 

 岩は、砕けていた。

 

(やった──のか? いや、まだ浮いてる?)

 よく見れば。

 列電魔旋弾を撃ち込んだ、2番目の岩は、粉々に砕けておった。

 だが・・・

 岩の外装が砕け散った後、姿を現わした、黒い骨組みが・・・

 その骨組みだけで・・・

 空を飛び続けておった。

(焼け落ちた家が飛んでるみたいな姿だな。不気味!)

 

 骨組みは、皿と、柱と、梁(はり)からできておった。

 皿──上部甲板である。弩砲がへばりついておる。

 柱──大黒柱(だいこくばしら)である。他の骨組みはすべて、ここに接続しておる。

 梁──皿と柱をつなぐ、弓形のパーツ。アバラ骨みたいな。

 

(弐ノ塔のおふくろみたいじゃな!)

 トリーモは誰かさんの口調で考えた。

 骨組みの形が、弐ノ塔の雑務ユニットと、だいたい同じなのだ。

 八角柱で。

 下部は、コマみたいにすぼまっておって。

 そのコマみたいな部分だけ、スカスカの骨組みではなく、ガッチリとした巨大部品になっておって・・・

(あれが浮上ユニットか!)

 トリーモは清雅の膝を叩いた。

 指差して、『発見』を伝える。

 指差したまま、わざと敵の近くを飛び過ぎた。その間、ずっとコマの部分を指差し続けた。

 ポン。清雅が肩を叩いてきた。その手が、パッと広げられる。

(よし)

 もう一度旋回。

 上空へ。

 衝撃がキツ過ぎるので・・・

 やりたくは、ないのだが・・・

 清雅とドリナラーニ殿が、列電魔旋砲を撃ち込めるよう、急降下を開始。

 

 が。

 

 敵に全然近付かんうちに、ドリナラーニが勝手にブレイクした。

 指示もしてないのに、右に舵を切って、ルートを逸らしてしもうたんである。

 

(何をしてる!?)

 トリーモは混乱した。

 ・・・まさか、魅了されたのか?

 レラの姿は見えなかったが。知らないうちに魅了されたのでは?

 清雅を見る。 

 オーガの女は、慎重に状況をうかがう様子であったが・・・

 ふと、何かに気付いた様子で、前方を指差してきた。

 トリーモ、前に目を戻す。

 

 3つの空飛ぶ岩が(ひとつは骨組みだけだが)、退却していくところであった。

 

(なんで邪魔した!)

 ゴンゴンゴン。

 トリーモ、操作台を叩いて不満を伝える。

 すると・・・

 『タコ千里玉』に、映像が浮かんだ。

 ゴブリンの男が映っておる。清雅の長兄、再鬼であった。

 手に、板持っておる。

 

┏━━━━

┃ 自爆の恐れ。近距離、浮上ユニット攻撃、ダメ! ──おふくろ

┗━━━━

 

(あ、はい。そうですか)

 トリーモはうなずいた。

(じゃあどうやって落とすんだよ)

 旋回。

 敵を見る。

 3つの岩は、すでに『鷹の目』でないと捉えられん距離まで逃げておった。

 

┏━━━━

┃ 敵・本塔、追跡中。ドリナに追わす。一時、休め

┗━━━━

 

(了解)

 トリーモは清雅にもその手書き指示を見せてから、ふう! と、息をついた。

 手を放す。

 ドリナラーニは、勝手に進路を決めて、飛び始めた・・・

 

◆ 66、本塔・艦橋 ◆

 

<危ないところじゃった・・・>

 

 こちらは、弐ノ塔。

 つい最近できたばかりの、『艦橋(かんきょう)』である。

 

 メンバーは、おふくろ、おジャスとハル、そしてゴブリン兄貴の再鬼であった。

 再鬼は、操作輪(そーさりん)の前に、こっち向いて立っておる。

 その手には、伝言板。いま、トリーモたちに伝えた内容が書かれておる。

<ありがとう、再鬼殿。もうええぞ>

「ウム」

「次、何書いたらええかに?」

 ハル様。

 再鬼の向かいで、大きな椅子に座って、太い筆を握っておる。

 彼女が、伝言板に文字書いたのであった。

<急ぎの伝言はありませぬ。後ほど、指示を出そうかと>

「ほな、『こちらは被害なし』とだけ、伝えておくかに? 耳聞こえへんと、不安やろし」

<そうですね>

 ハル様、すっ・・・と、筆を横に出す。

 おジャス様、ぶすっ・・・とむくれて、インク壺を出す。

 ぽちゃ。

 さらさらさら。

 ハル様、インクをつけて、走り書き。──『こちら被害ナシ』。

 再鬼がその板を持つ。

 おふくろが映像送る。

 トリーモが、うなずいた。

 伝言完了である!

「・・・なんで私、インク持ちなんかに?」おジャスが疑問を呈した。

「私のが字ィ書くん速いし」

「私かて達筆やえ。エルフ文字」

「エルフ文字書いても、トリーモわからへんに。嫌がらせかに?」

「・・・。」

 おジャス、言い負けた。ますますふくれる。が、インクを手放すことはせんかった。

「して、ソラ君の様子は?」とハル。

<談笑してますね>

 弐ノ塔が答えて、操作席背後の『タコ千里玉』の映像を切り替えた。

 

 ソラトバンと、レラが映っておる。

 まるで恋人のように、レラが抱き付いて、翼で彼を抱き締め、サワサワと撫でさすっておる。

 ソラトバンは、ニヤニヤとだらしなく笑って、彼女と話をしておった。

 

「このタコ、誰が飛ばしておるんかに?」と、おジャス。

<ウミドラーニです>

「彼も魅了されたんちゃうんかに?」

<いえ。彼は、タコ操作に集中するため、自分の鬼体の感覚は、遮断しておったらしく>

「それで魅了をかわしたと?」

<はい。彼のおかげで、ドリナラーニを守る方法も見つかったというワケです>

「そうか・・・」

 おジャス、うなずく。

「・・・にしても、ヘニャヘニャしたツラやに」

<はい。馬鹿ヅラですね>

「なんとなくやけど、」

 と、ハルさま。

「彼がコロッと落ちた理由、わかる気がするえ」

<それは?>

「ソラ君、素人やのに、ずいぶんと人が死ぬのを見てきた」

 ハル。

 豪華な座席──艦長席に、沈み込んだ。

「そこで、こんな風に魅了されたら・・・」

 

「若者よ。友達になってもらいたい。──殺し合いなど、もう、やめようではないか?」

 

◆ 67、ソラとレラ ◆

 

「レラ様に、言ってもらえて。わしゃ、目の前がすーっと明るくなったんじゃ!」

 

 ソラトバン、デレデレする。

 非常に残念なことに──恋人のチーニャより、レラ相手のほうが、デレデレしておった。

 

「そうじゃ! わしが言うて欲しかったんは、この言葉じゃ! となった」

「殺し合いを、やめたいのだな?」

「そうじゃ! もう、こりごりじゃ!」

「わかるぞ」

 レラはほほえんだ。勝利の笑みであった。

「そして、それは可能だ」

「ホンマか?」

「ホンマだ。私と弐ノ塔が力を合わせれば、できぬコトなど、ない」

「たしかに・・・そうじゃ!」

「一緒に、平和な国を造ろう。そなたは、王になれ。私は王妃となって、そなたを支えよう」

「うへへへw いやぁ、困ったのう。わしには、恋人が居るで・・・」

「チッ・・・」

 レラは顔を背けた。

「・・・私が魅了したのに、恋人だと!」

「ん? なんかおっしゃいましたかのう、レラ様」

「ふふふw なんでもないのだ。ソラ・・・」

 さわさわさわ。

 翼がソラを撫で回す。

 黄金色の、鳥のようでもありコウモリのようでもある、摩訶不思議の翼が。

「うわあw くすぐったいですじゃ」

「私と仲良くしてくれたら、もっとくすぐったくしてやろう」

「喜んで、そうしますじゃ。レラ様と戦わんで済むなら、わしも、うれしいし」

「私が姿を見せただけで、3鬼で攻めてきたクセに」

「いやぁ・・・とうとう決戦かと思いましてのう」

 

 今日の戦い。

 『空飛ぶ島』が姿を現わしたところから、始まったのだ。

 カルデラの上空に接近する島を見て・・・

 ソラトバンたちは、出撃した。

 隠れてやり過ごそうとして、投石攻撃を喰らったら、コボルドの村が壊滅するのだ。

 打って出ざるを、得なかった。

 ところがである。

 まさに、こうしてソラトバンを誘い出すことこそが、レラの狙いであったのだ・・・

 

「まこと、すまんことじゃ。この通り!」

 頭を下げるソラ。

 レラは、優しく笑って・・・

「ふふふw かまわぬ。おまえのことは、みな、評価していたぞ。バッツワーノも、ルクジッコもな」

「い、いやぁ・・・恐れ多いことですのう」

「だから私も、おまえのことを知りたいのだ」

「よろこんで!」

「おまえの家はどこだ? あそこにあるのか? あの、コボルドどもの村の中に」

「いや~~~・・・それは、そのぅ・・・」

「隠さなくてもいいではないか。私たち2人のあいだで」

「いやぁ・・・わっはっは・・・」

「やれやれ。しょうがないな。では、食事にするか。私たちの未来について、ゆっくり話し合おう」

「おお・・・!」

 

 レラは、大喜びするソラトバンから離れて、岩山に開いた横穴に入った。

 で。

「ちぇっ!」

 壁を、蹴っ飛ばす。

「あのオトコ、操りづらいな。おかしいぞ? 魅了は、間違いなく効いておるのに」

 

「ああいうオンナ、わしゃ、苦手じゃ!」

 ソラトバン、汗拭う。

「わしが一文ナシと知ったら、手のひら返すにちがいない。なんとか誤魔化して、気に入ってもらわにゃ・・・」

 

<ソラのヤツ、楽しそうだね~>

「・・・うん」

 ボケーッと突っ立っとるチラーニの中。

 ボケーッと座っておる、チーニャの姐御である。

 ふだんの厳しすぎるぐらい厳しい雰囲気は、どこへやら。

 覗き窓からソラトバンの姿を、ボーッ・・・と見つめる姿は、まるで古びた人形のよう。

「・・・レラ様に・・・任せるしか、ないさ。私なんかより、いい女だし。ソラも、幸せだろ」

 そんなチーニャの、背後。

 空っぽの弓手席を挟んで、3列目。背の手席には、ウミドラーニが座っておる。

 海鳥型鬼械人の、ウミドラーニ。

 小さく丸まって、ウトウトしておる様子。

「ウミドラーニもそう思うだろ?」話しかけても、

<・・・。>反応しない。

「珍しいな。任務中に寝るなんて」

<真面目なヤツなのにね~>

「どっか壊れたか? 直さないとダメかな・・・」

<安心したんでしょ。レラ様が、信頼できるセイレーンってわかって>

「あ~・・・、そうかもな・・・」

 

(おいたわしや、チーサーニャ様!)

 ウミドラーニは。

 寝てなんぞ、おらんかった。

 彼は、タヌキ寝入りしとるんである!

 タコ3機、飛ばし続けて、弐ノ塔に現状を伝えているのだ。

 ふだんのチーニャなら、間違いなく見抜いて「タヌキ寝入りだろw」と、つついて来るのだが・・・

(姫。ソラトバン殿を寝取られて、フニャフニャになってござる)

 弐ノ塔の『姫』とも言える、チーサーニャ。

 彼女が、恋人を寝取られたこと(まあ、寝てはいないんですけどね・・・)。

 ウミドラーニにとっても、屈辱。

 怒髪天であった!

 だが、いまは、タヌキ寝入りをするしかない。

(音声を聞くわけにもゆかんでござるし)

 いつ魅了が飛んでくるかわからぬ。

 外部から入ってくる音声は、遮断せざるを得ぬ。

 だから、チーニャの声も聞こえなかった。

 それでも、彼女が気落ちして、しなびてしまっているのは、ひしひしと伝わってくる。

(おのれレラ。この屈辱、晴らさでおくべきか!)

 オトコ一羽。

 海鳥型鬼械人。

 一世一代の、タヌキ寝入りであった。

 

 そんなチラーニの、お隣さん。

 赤い小型鬼械人、浮鬼(うっきー)の中では。

「ええオンナやな・・・レラ様・・・」

「ウム・・・」

「クソ・・・ソラぁ・・・次から次から、美人コマしよって・・・」

 ゴブリン兄弟の正鬼と数鬼が、ソラを妬んで(ねたんで)おった。

「こんなんで『平和』になっても、俺ら一生独身やないか・・・」

「分けろ・・・」

<ワシにも分けてくれ・・・>浮鬼までブツブツ言い出した。<清雅ぐらいの美人ちゃんでええから・・・>

「しばくぞ・・・」

「ワレ・・・」

 

 ──と、まあ。

 黒トンボが突っ込んできたとき、ソラトバンたちのほうは、こんな状況だったのである。

 

◆ 68、黒トンボ、ダウンする ◆

 

(島が見えた!)

 トリーモ、清雅の膝を叩いて『発見』を知らせる。

 そして、握りに手を掛け、コントロールを取り戻した。

 前方を確認。

 間違いない。『空飛ぶ島』本体である。

 先ほど逃げた岩3つ(1つは骨組み状態)も、合流。

 本体の周囲をグルグル回転して飛び始めた。防御態勢ということか。

(恐いのは、オマエたちじゃない・・・)

 清雅が座り直し、握りに手を掛ける気配がした。

 その彼女に、『右から回り込む』と手で合図。

 右上方へ進路を変えた。

(まっすぐは行かない。最悪、トンボの列電魔旋弾が飛んでくる)

 

 ここまでの移動中、弐ノ塔からは、2つの指示が出ていた。

 

┏━━━━

┃ 鬼械人を撃つなら、下半身を狙え。乗り手が無傷で済む可能性が高い。

┏━━━━

┃ レラと黄金の呪文版を、同時に撃て。さすれば自爆はできぬ。

┗━━━━

 

(むずかしいコトを言う・・・)

 トリーモは、ふたたび、上空からの急降下攻撃を選択した。

 短い訓練期間に、ドリナラーニ殿とさんざん話し合って(口ゲンカすらした)、決定した戦法である。

 十分な訓練をしたとは言えない──だが、いちばん長い時間、訓練した戦法であった。

 だから、使う。

 

 しかし。

 

 敵は、最悪の手を打ってきた。

 

 チラーニと浮鬼が、島を離陸。浮かび上がって来る。

 その背後。島の上では、レラがソラトバンを抱き締めてニヤニヤしておる。

 トリーモからは、ほぼ一直線に重なって見えた。

(やられた!)

 

「どうだ! 撃てまい。あはははは!」

 レラ。勝ち誇って、笑う。

 この笑いは、黒トンボには届かなんだが・・・

 

≪おまえは何も考えぬ。思い悩むこともない。私に意図を紡がせよ──『御霊繰り糸(みたまくりいと)』≫

 

 ・・・≪声≫は、届いた。

 

 黒トンボの身体から、力が抜けた。

 推力がゼロとなる。急降下が、自由落下に変わった。

 ほとんど逆立ち状態でも、腹側が下になるよう、姿勢を維持しておったのが・・・

 だんだん、完全な逆立ちへと、移行した。

 トリーモは、握りを操作する。

 反応がない。

 黒トンボの姿勢は変化せず、いつもなら返してくれる手応えもなかった。

(まずい! 操られた!)

 トリーモは、まず真っ先に、緊急事態を清雅に知らせた。

 清雅は・・・

 うなずいた。

 なにやら呪文を唱え始める。

(呪文? なんとかなるのか?)

 清雅、もう一度、うなずいた。

 任せとけ──っちゅう表情である。

 で、詠唱はやめずに、ジェスチャーしてきた。『おまえは、突っ込め』

(く・・・くそっ・・・!)

 ダラダラと冷や汗をかきながら、トリーモは姿勢を戻した。

 握りに手を掛ける。

 すると。

 突然、その握りが暴れ始めた。

 手首が折れそうな勢いで、ガチャガチャと握りが暴れる。

(ドリナが!? ・・・いや、これは、風か。風でバタついているだけだ)

 トリーモは、必死で握りを抑えた。

 不規則に乱れるのを、なんとか左右に開いて、保持しようとする。

「ふんぬ・・・ヌヌヌ・・・!!」

 冷や汗が、脂汗に変わる。

 黒トンボの頭が、少しだけ、起きた。

 さらに起きた。

 さらに。

(取り・・・戻し・・・たッ・・・!)

 トリーモは姿勢制御に成功。急降下を中止して、右へ進路変更。頭を起こし、高度を取り直すことにした。

 その時である。

 握りのバタつきが、ピタッと、収まった。

(なんだ?)

 タコ千里玉に、指示が出た。

(読んでるヒマなんて、ないんだけど!)

 

┏━━━━

┃ ドリナに『御霊繰り糸』。防御成功。

┗━━━━

 

◆ 69、汚染、汚染、汚染 ◆

 

<分霊・壱、汚染。清雅の呪文で、ドリノンに隔離した>

 

 弐ノ塔のおふくろの声。艦橋に響く。

 再鬼、ハル、おジャスの顔が、一気に引き締まった。

 

<分霊・弐と入れ替え。鬼体制御、回復>

「・・・どういうことかに?」とおジャス。

<ドリナラーニと外界との中間に、私の分霊を挟み込んでいます>

「二人羽織(ににんばおり)──っちゅうコトかに?」

<そうですね。鬼体を制御しているのは、ドリナラーニ。しかし外界に対しては、私が窓口をしている状態>

「ゆえに、『御霊繰り糸』は、分霊にかかった」

<そうです>

「・・・で、その分霊は、いくつ出せるんかに?」

<本塔に支障が出ない範囲では、鉢(はち)まで8鬼>

「再鬼殿に操縦を委任した場合は」

<もう8鬼。ただしその場合、着陸ができない。屋上砲も使えなくなる>

「なるほど」

 おジャス、ハルを見る。

 ハル、うなずく。

 目の前の声玉に話しかける。

「ほな、弐ノ塔よ。いまから再鬼殿に少しずつ操縦を任せなえ」

<しかし・・・>

 弐ノ塔は渋った。

 が、その直後。

<分霊・弐、汚染。参と入れ替え>

 交代したばかりの分霊がダウンしたので、弐ノ塔も折れた。

<かしこまりました。ハル様の提案通りに>

「では」と再鬼。操作輪に手を掛ける。「弐ノ塔様、失礼」

<左右のみで。上下は危険性が高いので。──分霊参、汚染。肆に交代>

「わかりました」

 再鬼が、操作輪を、16分の1だけ傾けた。

 ──輪っかには、スポークが8本入っておる。輪と中心をつなぐ8本の棒である。この棒と棒の中間には、これまたきっちり2等分となる位置に鉄球が埋め込んである。なので、この鉄球を指で確認しながら回せば、きっちり16分の1だけ回せるんである。

 

 弐ノ塔が、ゆっ・・・くりと、右へ回頭する。

 艦橋がわずかに右へ向き直り、進路もそちらに変化する。

 

 ギシ・・・ギシ、ギシ・・・。

 塔のあちこちで、構造がきしむ音がした。

 

「回し過ぎでしょうか」と再鬼。

<若干>

「では、16分の1の半分、左に・・・」

 

◆ 70、清雅、ソラトバンを撃つ! ◆

 

 制御を取り戻したトリーモは、いったん逃げようとした。

 だが、清雅に、ガシッと左肩を掴まれた。

 振り向くと、彼女は前方を睨んで右手を列電魔旋砲の握りに掛けておる。

 トリーモは・・・

 彼女に従った。

 突っ込む。

 視界左下に、トンボが現れた。猛烈な速度で迫ってくる。

 トリーモは、『鷹の目』を、そちらには向けないようにした。

 目的は、そこではない。

 空飛ぶ島の中央。

 レラと、ソラトバンだ。

 トンボが接近。まもなく交差。

 チラーニが射線をふさぐように上昇。

 浮鬼がけむりだまを撃ってきた。これはハズレ。

 トンボが交差──

 

 発砲。

 清雅が、列電魔旋砲を撃った。

 

(え!!)

 砲の反動で揉みくちゃにされながら、トリーモは悲鳴を上げた。

(トバーニを、撃った!?)

 

「ひぃぃぃ!!」

 レラは悲鳴を上げて、バタバタと這いずって逃げた。

 手放したソラトバンはその場に倒れる。気絶したらしい。

 それが当然であった。

 

 至近距離に、列電魔旋弾が撃ち込まれたのだから。

 

 2人は、衝撃で吹っ飛ばされ、打ち砕かれた岩の破片でめった打ちにされた。

 レラの翼の、摩訶不思議な防御力がなかったら、2人とも死んでおったであろう。

 だが、そんな翼の持ち主は・・・

 

「ひぃ! ひぃぃ! ソ、ソラがいるのに、撃ってきた!?」

 大混乱であった。

 

「な、なぜ!? なぜなのだ!?」

 どってんどってんどってん!

 足ヒレで飛び跳ねて、岩山の穴の中に飛び込んだ。

 翼があるのをすっかり忘れ、本能のままに逃げたので、セイレーン走りになっておる。

「なぜ『御霊繰り糸』が効かぬ??? かかったハズなのに。それも、3回!」

 ハァハァ。

 汗だくとなり、完全にうろたえて、レラは洞窟を進んだ。

 行き止まり。

 床に、縦穴。

「ハァ、ハァッ・・・!」

 レラは、翼を手に戻した。

 その手で、足元の呪文版を取り上げる。淡い黄金色の呪文版。妙雅の呪文版である。

「は、早く上がって来い。ううう」

 

 ふわ~ん・・・

 縦穴の底から、黒い板が上がってきた。

 

 エレベーターである。ただし、支えの類は一切なかった。ワイヤーも支柱もない。

 空飛ぶエレベーターであった。

 

「はぁ、はぁ・・・2発目は、ないな? トンボが仕留めたか?」

 エレベーターに乗ったレラ。

 降下が始まると、ちょっと落ち着いた。

 目を閉じて、集中する。

「・・・トンボよ。答えよ。黒いトンボは落としたのか?」

 

 すると。

 

<ワシに任せよ! いま追い付いたわい。まずァ、列電魔旋砲を──>

 空中のトンボが、答えた。

 答えながら・・・

 すぐ下方を飛ぶ黒トンボに、手を伸ばす。

 必死で左右に逃げる黒トンボだが、本家トンボからすれば、その動きは──

<甘いわ!>

 ──鈍すぎた。

 それはまさに、オオワシの小鳥を狩るがごとし。圧倒的な力を持つ王者が、弱い獲物を掴み取りにゆく。まさにそんな風にして、トンボは相手を掴みにいった。

 目的は、撃墜──ではない。

<平和のためじゃからな! 列電だけ、もろうてゆく!>

 黒トンボの、列電魔旋砲であった。

 これさえ取り上げれば。肩砲の貧弱なトンボ級では、レラに対抗できんのだ。

<──取ったり!!>

 

 宣言しながら、ガッチリと、砲を握った!

 ・・・ハズであったが。

 

<ありゃっ?>

 

 黒トンボは。

 パッと散って、粉々になった。

 ・・・そして、10間(約18m)ほど左前方に、ユラユラと、姿を現わしたのであった。

 

<『水鏡(みかがみ)』か!>トンボ、叫ぶ。<クソッ。ハルさまじゃな!?>

 

◆ 71、黒トンボ vs チラーニ ◆

 

「してやったり」

 タコ千里玉でこの様子を見ておった、ハル。おジャスと手を打ち合わせる。

「トンボ君は、ちと天狗になりやすい気性のようやに」

「うむ。後でからかってやるべし! ──して、弐ノ塔よ、分霊の被害はいかに?」

<分霊・肆は健在です。先ほどの列電魔旋弾以来、汚染された者は居りません>

「ソラ君は、大丈夫かに?」

<わかりませんね。ま、『死んだら蘇生したらええねや』作戦ですから>

「ひど・・・」

<清雅の案です。私ではない>

 

(コイツやっぱりアタマおかしい!)

 トリーモは、激しく取り乱した。

 『空飛ぶ島』の中央が、バッキバキにヒビ割れとるのを見たからだ。

 ソラトバンの姿も、レラの姿も、見当たらぬ。

 ゾッとした。

(何しに来たんだよ!? トバーニを殺すんなら、来なくていいだろ!?)

 その背後で。

 清雅は、左右に首振っておった。

 黒トンボの肩砲用の覗き筒を、交互に見ておるのだ。

 で、脅威を発見した。

 トリーモの右肩を叩いて、手で合図。『二ツ半ウエ、敵鬼』

 トリーモは、賢かった。

 即座に、右上方へ進路変更。

 舞い降りてくるトンボとクロスするようにして、相手の掴みをスカらせた。

 左下方にトンボの姿が流れる。

 これを見逃す清雅ではなかった。

「死ねやオラァ!!」

 

 発砲。

 またしても、反動で2人はシェイクされる。

 

 弾は、トンボの腰をかすめた。

 たぶん当たった──が、結果はわからぬ。

 互いに高速で飛び違ったからである。

 休む間もなく、黒トンボの視界に次の敵が現れた。

 丸っこいボディ。明るい色合い。小っこい緑のひとつ目の、トボケた顔みたいな、丁字型のパーツ。

 チラーニであった。

 

≪オラオラァ~! ドリナくぅ~ん! このオレ様に敵うと思ってんのかァ~?≫

 

 ・・・チラーニさん。

 帝国軍鬼械人部隊から、一目置かれる(いちもくおかれる)存在であった。

 『長腕』と呼ばれ、「アイツは手強い」と、秘かに尊敬もされておった。

 隠れた実力者であったのだが・・・

 

(オマエなら、気兼ねなくブン殴れる!)

 

 トリーモ。13歳。

 そんなん、知らん。

 突っ込んだ。

 むしろ、背後の清雅のほうがギョッとしておる。

 チーニャの手の内、知っとるだけに──

 

 チラーニ、肩砲を撃つ。けむりだま。黒トンボの下方をかすめた。

 トリーモが反射的に上に逃げたところで・・・

 チラーニ、頭を下げる。

 

 ──ほら見ろやっぱり来たわ!

 清雅、即座に反応。

 ばちこーん!

 トリーモの頭を叩いた。

 

「いてっ!?」

 トリーモ、つんのめる。勢いで握りを押し倒してしまう。

 黒トンボも、頭を下げた。

 

 どん!

 チラーニが、背中の砲を撃った。

 

 鉄鎖砲!

 

≪ソラを撃ったのがトリーモなら、殺す! 清雅なら・・・もういいや、みんな殺す!!≫

 

 魅了のせいか?

 レラにソラを取られたせいか?

 はたまた、清雅にソラを撃たれたせいか?

 錯乱気味のチーニャさん。黒トンボを殺しに来た!

 船の錨(いかり)のようなフックが、うなりを上げて飛んでくる!

 これに引っ掛けられたが最後、黒トンボは鎖でブン回され──下手すれば、墜落する!

 だが。

 黒トンボの頭は、ガクッと下がっておったので。

 鉄鎖砲は、ハズレ。空振りに終わった。

≪あれっ?≫

≪遅いんだよ!≫

≪チーニャが遅いんだろ!?≫

 兄妹ゲンカ始める2人に──

「落ちろッお邪魔虫ッ!!」

 ──黒トンボが、突っ込む。

 左の腕を伸ばして、ラリアット。

 チラーニの顔面(丁字型のパーツ)を、ブッ叩く。

≪ほげッ!?≫

 そのまま手で掴んで、片腕で相手に抱き付く。

 グルリと回って、背後へ。

 でっかい浮上筒(いまは飛行ユニットも組み込まれておる)に、またがって。

 背後から、チラーニの左腕を、ねじり上げた。

 

≪ふぎゃ~~~! ちぎれるぅ~~~!!!≫

 すんごい声で、チラーニが叫ぶ。

≪やめてやめてやめてぇ~~~! 降参するからぁ~~!!≫

 

 もしも、この声が聞こえておったなら。

 トリーモも、ちょっと心が痛み、手をゆるめたかも知れぬ。

 けど、耳栓してたし。

 なんにも、聞こえんかったので。

「落ちろーーーっ!!」

 

 チラーニを抑え込んで、そのまま島へと、落下したのであった・・・

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