ソラトバン、鬼械人   作:min(みならい)

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レラ、さいごの呪文

◆ 72、レラ、逃げる ◆

 

「はぁ、はぁ・・・ふぅ・・・」

 “魔王の継承者”レラ。

 暗闇の中で、ひとり、呼吸を整える。

 濃紺の目は、いまは真っ黒に見える。その黒い目をギラギラさせて、

「もう、やめだ。ソラトバンたちを『吸収』するのは」

 と、言うた。

「弐ノ塔のヤツらの、経験。ぜひとも欲しかったが。やめだ!」

 

 雷鳴がとどろいた。

 

 レラは真っ暗な床を手探りして、把手を発見した。

 ガチャ。ひねる。

 かぱっ。開く。

 冷たい金属の匂いがした。

 床に、四角い穴が開いたのだ──垂直の通路であった。壁にハシゴがついておる。

 レラは、『浮遊』の呪文を唱えて、頭から飛び込んだ。

 垂直の通路を、真っ逆さまに、ふわ~ん・・・と、落ちてゆく。

 やがて底についた。

 オーガの男1人がギリギリ立てる程度の、かなり狭いスペース。

 そこから今度は、ふつうの通路が伸びておる。

 レラ。

 狭い床に手から着地すると、器用にグニャリと回転。

 水のようになめらかに横の通路に流れ込むと、どってんどってん、セイレーン走りを始めた。

「狭い」文句、ブツブツ。「工廠のヤツらに、広げさせれば良かった」

 やがて。

 通路は行き止まり、扉で終わった。

 レラは足ヒレで立ち上がって、扉の閂(かんぬき)を解除。外へ、押し開──けない。

「ああ、そうか。岩か」

 

≪岩よ、神となれ。仮初めの(かりそめの)生命を得て──ちょっと、どいてくれ≫

 

 ゴゴゴ・・・ピシ、ピシ、バキ、バキッ。

 扉の外で、岩が動く音がした。

 

「う、うるさいな? や、ヤツらに、バレてはおるまいな?」

 おっかなびっくり、扉を開ける。

 ちょっとだけ・・・

 で、外をうかがう。

 見えん。

 岩のトンネルが、邪魔で。

 もう少し開いた。

 トンネルの向こうは、暗い空であった。

 嵐をはらんだ雲が、どこまでも伸びておる。

「だ、大丈夫・・・か?」

 扉から出て、岩のトンネルを、どってんどってん。

 そーっと、首を出す。

 黒い骨組みが見えた。

 皿。

 柱。

 梁。

 『空飛ぶ岩』の1基であった。黒トンボに撃たれて、岩のヨロイを剥がされたヤツである。

「す、すぐそこだ。そこまで、飛ぶだけのこと」

 レラはつぶやく。

 ガタガタ震えて、扉の隙間から周囲をグルグル見回す。

「ええい。ゆくなら、早くゆくがよい」

 自分に言い聞かせて、

 

「げ、月霊術。『水鏡』」

 と唱えて、透明になり・・・

 

≪神話の力、竜の翼よ、我が腕に≫

 と唱えて、腕を翼にし・・・

 

 黄金の呪文版を、ガッキリと噛んで、咥えて・・・

(セイレーンの歯は、人間より丈夫なので・・・)

 

 暗雲の下に、飛び出した。

 

 ヒュウウ・・・ゴォォォ・・・

 風が吹く。

 レラは、ビクッとした。

 あやうく呪文版を落としそうになって、口に力を入れ直す。

 翼の動きもバタバタと。

 初めて飛んだかのような、ぶざまな姿で、黒い骨組みに、転がり込んだ。

「はぁ、はぁ。ひぃぃ・・・」

 飛行ユニットの上に、べちゃりと腹這いになった。

 でっかい飛行ユニットである。蒸気械人が何鬼も乗れるほど。

 その上に、呪文版を吐き出して、倒れ伏して。ヒィヒィと、息をする。

「はひっ、はひっ。み、見つからずにすんだ」

 そして。

「ククク・・・w」

 笑った。

「みじめだな、レラ。魔王の叡知(えいち)を継承したおまえが。くくくくく」

 自分で自分を、笑って。

 立ち直った。

「──だが、いい経験になった。私は、またひとつ、強くなったぞ」

 翼を、手に戻す。

 神竜甲の呪文版を、拾い上げる。

 淡い黄金色のその板を、曇天にかかげた。

 

「さて。反撃だ」

 

◆ 73、ソラトバン、合流する ◆

 

 ポツリ、ポツリ。

 水の粒が、黒い空から落ちてきた・・・

 

「む」

 ソラトバン。

 目を覚ました。

 うめきながら、身体を起こす。

「うーむ、痛い。頭も背中も、手足もケツも、あっちこっち、痛いわい」

 周囲は、岩山。

 フ~ワフワと揺れておる。

 空は暗い。

 雨が冷たい。

 蒸し暑い空気を貫いて、ビシリ、ビシリと、顔に当たる。

「ここァ、どこじゃ・・・?」

 ソラトバン。

 一瞬、見当識(けんとうしき)が、失調。

 自分がどこに居るのか、いまがいつなのか、わからんようになる。

 だが、すぐに、記憶が戻ってきた。

「そうじゃ。レラにやられたんじゃ!」

 ガバッ!

 立ち上がる。

 ソラトバンのまわりは、岩だらけ。岩の壁、岩の破片、そして岩の砕けた小石、である。

「・・・そうか。撃たれたんじゃったな」

 黒トンボが列電魔旋砲を構えた姿。思い出す。

「トリーモ。いや、ありゃあ、清雅にちがいないぞ」

 なんとなくで、犯人を決めつけた。

「あンの鬼女め! 『死んだら蘇生すりゃええわ』とか思うとんじゃ、どうせ!」

 ちょっと怒る。

 だが、すぐに、別のことで頭がいっぱいになった。

「チーニャ! チーニャは無事か!?」

 痛みも忘れて、岩の破片をよじ登る。

 すると、破片の山の向こうに・・・

 

 チラーニと黒トンボが、倒れとるのが見えた。

 

「チーニャ!!」

 ソラトバン、ダッシュする。

 周囲の確認も忘れて、チラーニのハッチまで一直線。

 チラーニの足を乗り越える──なんと、その足! チラーニ本体から外れておる!

「おおお・・・!」

 仰向けのボディによじ登った。

 ハッチ開こうとするが、ロックされとる。

 バンバン! 叩いて、呼びかけた。

「チラーニどん。生きておったら、開けてくれ。──おーい!! ハッチを開けてくれい!!」

 すると・・・

<う~ん>

 いつものチラーニの声がした。

<・・・なんだよ、ソラぁ~。叩くなよ~>

「チーニャは無事か!? ハッチ開けい」

<あっ>

 

 ハッチが開いた。

 乗り手席で、仰向けになって、ぐにゃーっと伸びとるチーニャが見えた。

 

「チーニャ。チーニャ・・・」

 ソラトバン、這いずって中に入った。

 ほとんど逆さまになって、乗り手席の彼女に触れる。

「ん・・・?」

 兜の中で、切れ長の目が開くのが見えた。

「ソラ・・・? あれ、冥界か、ここ・・・」

「ちがうぞ。たぶんな。まだ『空飛ぶ島』じゃ」

「む!」

 チーニャの意識がはっきりした。

 ソラトバンを睨んでくる。目に、涙を浮かべた。「浮気者・・・!」

「すまんことじゃ。・・・いやそれよりもじゃ! 『治癒』じゃ。『治癒』」

「ケガしたのか」

「わしじゃない──起きちゃイカン! 自分にじゃ。起きる前に!」

「・・・ああ」

 

 チーニャ、自分を『治癒』。

 ついでソラトバンも『治癒』してくれた。

 

<あっ! ソラトバン殿!>

 背の手席から、ウミドラーニの声がした。

「ウミドラーニどん。起きたか。ケガはないか」

<あいやお待ちを!>

 バッ!

 ウミドラーニ、翼を立てて、申すには。

<拙者ただいま耳封じてござって、会話ができませぬ。それより、聞いてくだされ!>

「ん?」

<敵、補助塔を切り離し、行動再開したでござる! 『タコ千里玉』を見てくだされ!>

「お、おう」

 

 見れば。

 上空からの映像。

 『空飛ぶ島』が、バラバラになってゆく。

 中心の岩山と(ソラトバンたちが居る場所である)、その周囲の、8つの岩塊とに、分裂したのだ。

 8つの岩塊は、中心の岩山から、離れてゆく。

 あたかも、母ネコの足元から駆け出す仔ネコのごとし。大きな本塔を残して、パッと散らばる。

 十分に距離を取って・・・

 2つのグループに、なった。

 3つは、上空へ。このうち1つは骨組みだけになったヤツである。

 5つは、水平方向へ。同じ方向に、飛んでった。

 

<弐ノ塔の方角でござる!>

 ウミドラーニどんが報告してくる。

<敵・補助塔5基、弐ノ塔に向かったもよう!>

「いかん」

 チーニャが、握りに手を伸ばす。

「立てチラーニ。寝てる場合じゃない」

<無理だよ~>チラーニ、泣きゴト言う。<足が吹っ飛んじゃってさ~・・・もうダメだ~>

「なら浮かべ! 何しに飛行ユニット付けてんだ!」チーニャ、キレた。

<ひぇぇ>

「待て。2号鬼も倒れとんじゃ」

「は?」

「アレぁ、たぶん清雅じゃ。『治癒』してやってくれ」

「知るかバカ!」

「なんでじゃ!?」

 

 チラーニ、浮かび上がる。

 ソラトバン、ひとまず、弓手席に着いた。

 席に着かんことには、振り回されて、危ないのだ。チーニャにもぶつかるし。

 ガギャーン! 嫌な音がした。

 

<あ~・・・左足も取れちゃった~>

 哀れ、チラーニ。オバケみたいな姿で、ドロ~ンと浮かぶ。

「何とかがんばってくれ」

 ソラトバンは励ましつつ、覗き筒を引っ張った。

 左右肩砲用の、確認筒である。それを両方引き寄せて、交互に覗く。周囲の安全確認である。

「浮上筒は大丈夫じゃったか」

「強化したからな」<“鉄拳”にやられたからね~>

 

 “鉄拳”ピンガデオス。帝国軍の指揮官鬼。

 その爆伸パンチで、チラーニは浮上筒を粉砕されたのだ。

 ソラトバンが、初めて乗り手をやった夜のことであった・・・

 

「そうじゃったな・・・っと、その“鉄拳”じゃ!」

 ソラトバン。

 まさにその姿を、覗き筒で発見した。

「三ツ半ウエ、敵鬼、こっちに降下中じゃ!」

 

 岩山の上から。

 “鉄拳”ピンガデオスが、降りてくる。

 ふわ~ん・・・。

 『浮遊』の効果であろう。空中を、のんびりと落ちて来よる。

 

「くそ。戦える状態じゃないぜ」

<逃げちゃダメ~?>

「ダメに決まっとるじゃろ」ソラトバン、忙しく周囲をグルグル見て・・・「列電じゃ!」

「なに?」

「列電拾え。ドリナラーニどんが、落っことしとるんじゃ」

<了解ぁ~い>

 チラーニ、ふわふわ漂ってって、砲を拾った。

<装填開始ぃ~>

 

 ズシーン・・・!

 ピンガデオスが着地した。まっすぐこちらに向かってくる。

 

「まだか。チラーニどん。装填は」

 ソラトバン、右手第二握りを握り締める。手に、汗いっぱい。

<急かすなって! オレ、コレには慣れてないんだからさ~>

「おい、あの拳」チーニャが敵鬼を見て言った。

「どうした?」

「手首に・・・筒がついてないか?」

 

 迫るピンガデオスの、鉄拳。

 『拳』と言うても、指はないが。つまりは、タダの鉄塊なのだが。

 その手首に、筒が。

 帝国型の魔蒸気筒ではなく──

 

 八角柱の『力の筒』が。

 

「「爆鬼!!」」

 チーニャとソラトバンは、同時に叫んだ。

 

◆ 74、チラーニ vs 爆鬼鉄拳 ◆

 

「爆鬼鉄拳じゃ!」

「チラーニ、ママに『見守る』呪文要請!」

<りょ、了解! ソラ、装填終わったぜ>

 

 迫るピンガデオス。

 速い。

 上下左右に激しく鬼体を揺らしながら、猛烈な勢いで突撃してくる。

 乗り手が居らんので、全力疾走できるワケじゃな。

 じゃが。

 地面を蹴るたびに、ふわ~ん・・・と、浮かび上がっておる。

 『浮遊』の効果じゃ。たしかに速くはなるじゃろうが──

 

 甘いわ。

 

「発砲じゃ!!」

 

 ドッ──グオオオオン・・・!!!

 トンボどんの中で聞くよりも、遥かにデカい発砲音。

 

 “爆鬼鉄拳”が、地面を蹴った直後。

 一瞬、ふわ~ん・・・と、宙に浮く。

 その瞬間を、ソラトバンは撃ち抜いた。

 列電魔旋弾!

 胴体の中心に、大穴あけて。

 さらに、背中の中央蓄熱塔を、バラバラにする。

 

 大爆発。

 

 魔蒸気と炎を噴き上げて、ピンガデオスは、バラバラになった。

 だが、敵もタダでは死なぬ。

 撃たれる直前、爆鬼を起動しよった。

 チラーニは発砲の反動で引っくり返り、ちょっと行動が遅れる。

 ソラトバンとチーニャ、ガッコンガッコン、座席にぶつかった。揺れが、ひどすぎる。

 乗り手甲を着けとらんかったら、鞭打ちになったであろう。

「爆鬼を・・・解除しろっ・・・!」

 吹っ飛んだピンガデオスの右拳を、追いかける。

 伸ばしたチラーニの手。ひどい状態。親指が外れ、手首も半分抜けておる。

 チラーニの腕は、トンボより弱いのだ。列電魔旋砲には、耐え切れんのである。

 それでも、岩の上を転がる鉄の拳に、なんとか届いた。

<『恩寵(おんちょう)』のルーン! ママに『見守る』!>

 

 ところが。

 

<・・・えーっと。応答が、ないんだけど>

「は!?」

 

 弐ノ塔からの、応答がない、という。

 

「どういうコトじゃ? まさか」

「なら撃て! 肩砲で壊せ!」

 チラーニ撃つ。

 徹甲弾。

 鉄拳にぶつかり、弾かれた。

<ダメだぁ~~~!>

 筒がほとんど拳に埋まっとるので、当てづらいのだ。

 肩砲の真ん前に持ってくれば、当てれるだろうが・・・チラーニの手は、壊れておる! 掴むことができん!

<うわあああ~~~! 目の前にあるのにぃ~~~!>

 あわてるチラーニ。

 そこへ。

<あれ? 映像通信>

 映像が、飛んできた。

 

┏━━━━

┃ 本× 分4

┗━━━━

 

 おジャスさま。

 板持って、立っておる。

 

「なんじゃこりゃ?」

「声は?」

<来てない。映像だけ>

 

 おジャスさま。

 こっちが理解できんと見て、ジェスチャーしてくれる。

 

 横にスススッ・・・と、身体だけスライド(板は見事に静止しておる)。

 1、2、3、4、と、指折り数えて・・・

(そっちに、居るぞ!)口パクまでしてくださった。

 

「本×・・・『本塔はダメ』ってコトか?」

 チーニャ、以心伝心(いしんでんしん)。

 おふくろの言いたいことを、理解した。

「わかった! 分霊だ! 分霊・肆が近くにいるんだ。そっちに『見守る』しろ!」

<ど、どこにだよ???>

 

┏━━━━

┃ ■

┗━━━━

 

 墨をベチャッと叩きつけた、一言(?)メッセージ。

 板、真っ黒。

 おジャスさま、手ェ広げてバタバタ。

 

「黒トンボ!」

(正解!)

 今度はソラトバンが正解した。

<黒トンボの分霊・肆に、『見守る』! 『見守る』を与える! ──来たぁ~~~!>

 

 白く光り始めた筒に、チラーニ、ぼろぼろの手をかざして、

 

<呪文よ崩壊せよ──『呪文破壊』。凍りつけ、封じ込まれた対の粒! 『粒子操作・凍結』ぅ!>

 

 成功。

 筒が溶けるところで、反応を停止できた。

 

 右の拳は。

 

「左はどこだ」

 チーニャ、タコ千里玉にへばりつく。

 ソラトバン、左右肩砲をグルグル回す。

 しかし。

「ないぞ!?」「どこじゃ、左手!?」

 物陰にでもハマったのか。

 どこにあるのか、見つからぬ。

「どうすんだ!? 間に合わないぞ」「うわああああ!」

 パニックになった恋人たちは・・・

「オマエのせいだぞソラ! あんな化け物に惚れやがって!」

「おまえこそ、黒トンボに鉄鎖砲撃ったじゃろ! アレわしのじゃぞ!」

「うるせぇ死ね浮気者死ねっ」

 ・・・夫婦ゲンカをした。

 

 その時であった。

 

<『力の筒探索』使わんかい! ──『粒子操作・凍結』じゃ!>

 淡い黄金色の鬼械人が、空から舞い降りて来たのは。

 

 岩のくぼみにハマっとった、ピンガデオスの左拳。

 かっさらって、空中で処理をしてくれた。

 

 ズシーン!

 処理した筒(ドロドロに溶けておった)を握ったまま、着地。

 

「トンボどん!」

<すまん! 遅れた>

 トンボどん。

 列電魔旋砲を引っこ抜いて、

<ドリナのヤツが、腰に当ててきおってな! 一番の弱点に・・・>

 

 ドッ──グオオオオン・・・!!!

 ブッ放した。

 

◆ 75、レラ、トンボを撃つ ◆

 

 上空で爆発。

 空飛ぶ島の1基が、吹っ飛んだ。

 

 ──いや。

 吹っ飛んだのは、岩のヨロイ。

 本体は、骨組みだけとなって、まだこちらに突っ込んでくる。

 

 2基。

 いま当てたヤツと、形のちがうやつ。

 

 形のちがうの。側面に、ガンメタリック色をした、でっかい砲台がついておる。

 丸っこい砲台から、長々と突き出した、特徴的な砲身は・・・

 

「列電か!?」

<そうじゃ。妙雅様の攻撃塔じゃ>

 

 敵の、列電魔旋砲。

 ギシ・・・ギシ・・・と、ぎこちない動きながら、こちらを向こうとしておる。

 

<こっち向く前に落とすんじゃ>弾込めながら、トンボ。

<もう撃てないよ~!>

<肩砲でもなんでも撃たんかい!>

「くそ」

 ソラトバン、左の肩砲を撃つ。

 徹甲弾(てっこうだん)。けむりだまよりは、弾道の安定する、当てやすい弾だが・・・

「ダメじゃ。外れた」

「肩砲は狙撃向きじゃないからな」

 チーニャ。

 押さえ棒を、はねのけた。

「高度下げろチラーニ!」

 命じておいて、地上に着くよりも早く、ハッチから飛び降りる。

「どこ行くんじゃ!?」

「クソガキを『治癒』するんだよ。オマエが言ったんだろ!」

 チーニャは叫び返し、黒トンボに走ってゆく。

「オマエは飛べ! ヤツの気を引いてくれ!」

「ええい!」

 ソラトバン、恋人を置き去りにする恐怖を呑み込んで、

「飛ぶぞ、チラーニどん! トンボどん!」

 

 トンボは、岩山の頂上へ。

 チーニャが降りたので、近くでは撃てん。衝撃波で、彼女が死んでしまう。

 また、敵の狙いを散らすという意味でも、砲を持つ彼が動くのは妥当であった。

 ただ、頂上に立つ必要は・・・まあ、古代の英雄ですからね。敵の前で堂々と立つ。それが英雄だったので。

 

 チラーニは、敵を目指して、突っ込んだ。

 

<自爆喰らっても知らないぜ~?>

「せんじゃろ。わしら、肩砲しかないの、バレバレじゃけぇ」

<くっそ~。オレにも神竜甲の腕があればな~!>

 

 チラーニ。ひがみながらも、任務はこなす。

 真っ直ぐ突っ込む──と見せかけて、ガクッと高度を落とし、敵の照準を外してみせた。

 

「ぐへっ!」

 ソラトバン、舌噛みそうになる。

「な・・・なかなか、やるじゃないか」

<浮上をON/OFFして、急上昇・下降すんのさ。舌噛むなよ~?>

「先に言わんk──ぐへっ」

 

 上下にガクンガクンと、敵の狙いをかわしながら、接近。

 骨組みだけになった1基が、盾となって進路をふさぐが・・・

 

 ドゴォォォン・・・!!

 トンボの列電魔旋砲が、そいつを撃ち抜いた。

 

 皿。

 柱。

 梁──から成っておった、骨組み。

 中心材である柱が砕け、空中分解。バラバラとなる!

 

 ソラトバンの『鷹の目』は、キラッと光る黄金の板が、飛んでゆくのを見た。

 

「呪文版か?」

<補助塔の分霊版かな~>と、チラーニ。<ウチの飛行塔にも入ってるんだぜ~! あ、これ秘密ね>

「はいよ」

<ま、とにかく、これであの塔は終わりさ>

 その言葉通り。

 バラバラになった1基は、落ちてゆく。

「飛行ユニットには、キズもついとらんのにな」

<霊が抜けたら、あんなモンさ──通過するぜ!>

 横にねじれながら、敵砲台を飛び過ぎるチラーニ。

 ソラトバンは・・・

 

 ドガッ、ドガン!!

 左右の肩砲を、同時に撃った!

 

<うひゃ~!>

 チラーニ、のけ反る。

 横っ飛びしとる状態からのけ反って、空中で一回転。大きく失速したが、浮上能力で持ち直す。

「・・・。」

 ソラトバン、ちょっと、失神した。

「・・・やっぱり、飛びながら撃つモンじゃないのう」

<そうだね~>

<首が抜けるかと思ったでござる>と、背の手席のウミドラーニどん。

「すまんすまん・・・もう一回やるぞ」

<あいよ>

「トンボどんが再装填するまでの辛抱じゃ。そこまで時間を稼げば、」

 

 だが、その時。

 

≪岩よ神となれ。いっとき仮初めの生命を得て──私の敵を、ブン殴れ≫

 響き渡る声がしたかと思うと。

 

 岩の巨人が、トンボを、ブン殴った。

 

「は!?」

 

 岩山の頂上。

 トンボの背後に、突然、巨人が立ち上がったのだ。

 鬼械人?

 いや、ちがう。

 間違いなく、岩の巨人である。

 だって、トンボを一発殴った後は、バラバラに崩れ落ちて、岩に戻ったのだから。

 

 トンボが、仰向けになって、落ちてゆく。

 岩山にぶつかる。右腕が外れて、吹っ飛んだ。列電魔旋砲と一緒に・・・

 

◆ 76、レラ、チラーニを撃つ ◆

 

「やったぞ!」

 レラ。

 大喜び。

 ビシャビシャ!

 ずぶ濡れになった飛行ユニットを、叩く。

 ザーザー降りしきる雨に濡れながら・・・

 黄金の呪文版を抱きしめて・・・

 下界を見下ろして・・・

「やった! やった! やっつけた! 魔王様と、同じコトをした!」

 

 うつ伏せになってバタバタと、手と足ヒレを打ちつけて、はしゃぐ。

 ──とは言え、その姿を知る者は、誰も居らぬ。

 彼女は、いまだ、透明ゆえに。

 

 ゴゴゴゴゴ・・・。

 低くうなる、飛行ユニット。彼女の腹の下で、働き続ける。

 

 レラは、戦場のはるか上空にいた。

 『鷹の目』で下界を見ておるのだが・・・雨のせいで、よく見えぬ。そのぐらい、上空である。

 これだけ退避したから、ピンガデオスが爆鬼特攻を掛けれたのだ。

 いまはもう、そのピンガデオスも、死んでしもうたが。

「アイツの爆鬼取り付けには、ずいぶん時間がかかったのにな」

 レラは、首を振った。

「勝つのも、負けるのも、一瞬だ。なんと儚い(はかない)ことよ」

 それから。

 鼻をクンクンと動かした。

 慣れ親しんだ匂いに、気付いたからだ。

「海だ」

 

 大海原。

 けぶる雨の下に、広がっておる。

 

「やったぞ。海だ。これで、私の勝ちだ!」

 黒髪のセイレーン。

 完全に、ペースを取り戻した。

 べっとり張りついた黒髪を、丁寧に払いのける心の余裕までできた。

「しぶといヤツらだった。だが、終わってみれば、素晴らしい経験となった」

 黄金の呪文版を、抱き直す。

 そして命令した。

「本塔よ。おまえは海に沈め。人間どもを、嵐の海に、ごあんないだ」

 

 本塔──黒トンボとチーニャ、それに倒れたトンボを乗せた岩山が、命令に従った。

 嵐の海へ、突っ込んでゆく。

 海面近くまで降下すると、雨と波しぶきでまったく見えなくなるが・・・

 まあ、問題はなかろう。死んだ妙雅は、命令に逆らうことはないのだから。

 

「だが、飛び回るハエは、落としておかねばな?」

 レラは『鷹の目』をチラーニに向けた。

 

≪風よ吼えよ。渦を巻け。雷つながれ。敵を討て≫

 響き渡る声で、唱えた。

 

 ド、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ・・・

 大地を揺るがす唸りが聞こえてきた。

 

 風が、吼えた。

 暗雲が、輝いた。

 耳を聾する(みみをろうする)雷鳴が、天と地のあいだを満たした。

 

 落雷。

 チラーニに、当たった。

 

 光に貫かれたチラーニ。

 まったく動かなくなり、雨の中を、落ちてった。

 

「よし」

 レラ、うなずく(透明なままで)。

「くっくっく」

 笑った。

 

「一時は、どうなることかと思ったが。なかなかどうして、いい経験になった!」

 

◆ 77、弐ノ塔、せつげんさる ◆

 

 ところ変わって、弐ノ塔。

 トンボとチラーニが相次いで落とされたいま、弐ノ塔は・・・

 

≪敵・補助塔、5基、急速接近中≫

 

 ・・・それどころでは、なかった。

 

≪これより、全速力で機動をする。全員、身体を固定せよ。くり返す。全員、身体を固定せよ・・・≫

 

 レラが放った補助塔、5基が。

 航空防衛のない、丸ハダカの弐ノ塔に、迫っておったのだ。

 

<分霊伍および陸、チラーニとトンボの防御に出します。再鬼殿、水平の舵取り、よろしく>

「了解じゃ」

<おジャスさま、身体の固定を>

「私は屋上へゆく」

 おジャスさま。

 スタスタと、廊下へ出てゆく。

「ヤツらの狙い、弐ノ塔の『経験』にあると見た」

 左手で腰の剣の柄押さえ、うなずいて、『行ってくる』のあいさつ。

「私ならば、突入を命じる」

<なるほど。では、竿を出しておきます>

「さお?」

<はい。屋上にて>

「わかった」

 扉が閉まった。

「弐ノ塔よ、」

 と、ハル様。こちらは艦長席で、しっかりベルト締めた状態で。

「気付いておるかに? 敵の数」

<はい。あちらに2基。こちらに5基。1基、足りませんね>

「そういうコトえ」

 

 さて、おジャス。

 人間用のエレベーターで、屋上へ。

 そこは、嵐の庭であった。

 嵐の中を、全速力で飛行しておるのだから・・・

 暴風。

 豪雨。

 雷鳴。

 そして、稲光と暗黒が、交互に視界を攻め立ててくる。

 おジャスは、草履(ぞうり)を脱いだ。長いスカートを、帯にからげた。

 太腿まで出して、裸足で、ピタピタ歩く。

 

 ごおう!!!

 上空を、敵の塔が飛び過ぎた。

 

 風の塊が、飛んできた。

 突風のハンマー!

 おジャス、しゃがんでやり過ごす。

 鬼械人用エレベーターへ。整備ロボ・ドリノンが待っておった。

<竿、ドウゾ>

「御苦労」

 銀色に輝く竿、3本。

 長大な竿である。おジャスの身長の3倍ぐらいある。

「これはまた。馬突き槍のごとし」

<御武運ヲ>ドリノン、伏せた。エレベーターにしがみつく。<拙者、映像ヲ、伝エルデゴザル>

「うむ」

 おジャス、竿をあらためる。

 長さの割に、軽い。ぶつけると、カン、キン、と音がする。

「・・・これ、物干し竿ちゃうんかに?」

<ハイ>

「ハイやないえ」

<頑丈デ、ゴザルカラ>

「剣士に物干し竿持たしな!」

 ちょっぴり憤慨する(ふんがいする)、おジャス。

 その背後に。

 

 岩の塊が、浮かび上がった。

 

 敵、補助塔。

 全速力の弐ノ塔に、追い付いて来たのである。

 

≪屋上砲、発砲します≫

 アナウンス。

 

 おジャス。

 ドリノンの前で(つまり艦橋に見えるように)、伏せた。

 

 ドッ・・・ゴオオオオン!!!

 左右で、屋上砲が火を噴いた。2基の攻撃塔が、同時に発砲したのだ。

 

 敵の1基が、脱落した。岩の破片をバラまいて、急激に速度を失い、視界から消える。

 だが、残りの4基が、弐ノ塔を取り囲む。

 上下左右に、広がって・・・

 弐ノ塔を、囲んで・・・

 

「やはり、接舷(せつげん)か」

 

 ・・・ぶつけて来た。

 

 衝撃。

 おジャス、これもやり過ごす。

 

 ドガァァァン!!

 もんのすごい音がして、ナンガラックが2鬼、屋上に落ちてきた。

 

「勇敢なことよw」

 おジャス、笑った。

 3本の竿抱いて、ピタタタタと、豪雨の屋上を駆け抜ける。

 ナンガラックは2鬼とも横倒しに着地(?)、起き上がろうとしておるところ。

 その1鬼の、膝の裏に。

 1本目の竿を、突っ込んだ。

 そいつは、起き上がろうとして、膝関節とピストンで竿を噛み込み・・・

 

 がっごおおおん・・・!

 コケた。

 

「あなや。頑丈なり、物干し竿」

 おジャス。

 弐ノ塔の進行方向に対して、直角になるように、敵の側面に回った。

 彼女の動きを、屋上の隅っこで伏せておるドリノンが、撮影。艦橋に送る。

 弐ノ塔(あるいはハル)、おジャスの意図を理解した。

 減速する。

 さらに、前方にちょびっと、前傾した。

 転倒したナンガラック、すべる。

 火花を立てて、屋上を滑ってゆき・・・・・・・・・虚空へ、落ちた。

 

 ドッ・・・ガゴォオン!! ゴン、ガゴン、ゴォォン・・・

 激突の音を残して、ナンガラックは消えた。

 

「あと1鬼」

 立ち上がるおジャスに、

<ゴメン>声がかかった。

 振り向けば、ナンガラックの鉤爪。

 頭上から、振り下ろされてくる。

「敵に詫びる阿呆が居るか」

 おジャス、避けた。

 外れた鉤爪、屋上に突き刺さる。

 ナンガラックは、その爪を支えとして、反対の腕をスイングする。

<声玉。レラ様。贈リ物>

「そうか。それで、しゃべれるようになったか」

<御意>

「丁寧なヤツ」

 おジャス。

 竿の2本目を、屋上に突き刺さっとるナンガラックの右肘に、突き刺した。

 ガキン! と、竿が噛む。

 それに、体重を預けて・・・

「そいや!」

 ・・・跳び上がった。

 横向き棒高跳び!

 暴風の中へと舞い上がり、白い太腿、雷光につやつやしく輝かせて・・・

「ほいや!」

 3本目の竿を、肩に突き刺して、もう一度ジャンプ!

 ナンガラックのてっぺんに上がって、

 

≪剣の名はグレイス。我が姉妹、すべてを断つ≫

 響き渡る声で唱えて、

 

 スパリ。

 中央蓄熱塔の上端を、切り飛ばした。

 

 ボーン!

 蓄熱塔、火を噴いた。

 

 蒸気械人のダメなトコ。

 蓄熱塔が破損すると、熱の出し入れができんようになり、一発で擱座する(かくざする)。

 おジャスのようなムチャクチャな剣士と戦うには、デカすぎる弱点であった。

 

「参ったか」

 勝ち誇るおジャス。

 だが、ナンガラックはこう言った。

<降服ヲ、勧告>

「なんと?」

<レラ様、自爆ヲ、御命令。降服、全滅。二者択一>

「自爆──貴様、爆鬼か!」

 おジャスが訊くと。

<我輩ニ非ズ>

 答えは、こうであった。

 

<補助塔。全テ、自爆可能>

 

「ぬ」

 おジャス、左右を見る。

 弐ノ塔、いまだ、接舷されたまま。

 左右から接舷されて大きく動くことはできず、上も下も、岩に圧迫されておる。

 この状態で爆発されれば、当然、全滅・・・

「・・・降服したとして、」

 おジャス、訊ねる。

「レラとやら、捕虜を正しく扱うんかに? 殺して『吸収』したりはせぬと、約束できるか?」

<・・・。>

「正直なヤツ」

 この会話を、聞いておったのであろう。

 

≪お断りじゃ≫

 全艦放送で、弐ノ塔が返事をした・・・

 

 ≪レラよ。

  他人の人生を横取りする、経験乞食よ。

  ふたつの理由から、おまえとの対話を拒否する。

  ひとつ。我が倫理。弐ノ塔の武力は、人間を圧迫する目的では、使わせぬ。

  ふたつ。能力の欠如。我らの知識、おまえに継承できるハズがない。

  ──以上じゃ≫

 

「・・・らしいえ」

 おジャス。

 ナンガラックのてっぺんで、あぐらをかいた。

「レラがどう出るか、見守らせてもらうとするかに」

 

◆ 78、レラ、さいごの呪文 ◆

 

「経験乞食だと!」

 

 レラは、べちんと足ヒレを鳴らした。

 べちべちべちん! イライラと、飛行ユニットの表面を打つ。

 

「フン! 倫理だと! そんなもの。死んでしまえば、おしまいだ。カッコをつけたところで──」

 

 ガコン! がちゃーん、ガランゴロン・・・。

 なんかが、落ちてきた。

 

「ん?」

 落ちてきたもの。

 レラは、取り上げて、観察した。

 大きな筒。

 周囲に、8本の小さな筒。

 結構デカい。レラの上半身よりデカい。なのに、軽い。

「飛行ユニットか? これは」

 

 それは、大ダコ。

 弐ノ塔の偵察ロボであった。

 

「まさか」

 ハッとして、手を放す。

 急いで、≪竜の翼≫の呪文を唱える。手を翼にして、自分を守りながら、振り向──

 

 スパリ。

 その翼が、斬られた。

 

「あ」

 レラは、右の翼を失った。『水鏡』の呪文も、解除された。

「あ、あ、≪竜の翼≫。私の腕」

「やはり、そこか!」

 叫びながら、短剣を振りかざすのは。

「父の仇! 魅了の人魚!」

 ルクジッコの娘、ルカツァーネ。

 手に持つのは、短剣──おジャス様の祝福をもらった、あの短剣であった。

「報いを受けよ! この“裏切りの剣”で!」

「あ、あ、あ!」

 レラは、悲鳴を上げた。

 のたうつ。

 蛇のように、猛烈に。

 ブウン! 足ヒレが、うなった。

 突進してくる少女を、横殴りに、捉える。

 人魚のキック!

「ぐ」

 少女は、あっさり、吹っ飛んだ。

 なめらかな飛行ユニットの表面をすべって・・・、そのまま、空へ投げ出される。

「おのれ!」

 レラは。

 残った片翼で、自分を抱いた。

 少女の向こうに、もう一つ、脅威があったからだ。

 

 ドゴン!!

 黒トンボ。肩砲。

 

 レラ、吹っ飛ぶ。

 今度は、≪竜の翼≫が守ってくれた。ダメージはない。

 だがルカツァーネと同じように、空へと投げ出された。

 黄金の呪文版と一緒に・・・

 嵐の空を、落ちてゆく。

「おのれ、おのれ」

 レラは、翼を手に戻した。

「おのれ。おのれ。『飛翔』! おのれ」

 呪文を唱えて。

 翼ではなく、その呪文で、飛ぶ。真っ逆さまの落下から、安定飛行へ。

 その間に、黄金の呪文版に手を伸ばし、掴んでおくのも忘れない。

 追手から逃げるため、上昇はしない。どんどん下降した。

 着水。

「ぎゃー!」

 傷口に塩水を浴びて、泣き叫ぶ。

「おのれ。おのれ! 見ていろ。弐ノ塔」

 そして。

「おまえと一緒に食べるつもりだった、こいつを食べてやる。おまえの先祖の、すべての経験を!」

 最期の呪文を、唱えた。

 

「朽ちず輝く巨人の金。人の記憶に残るものよ。

 忘れ去られる、その前に。その経験を、継がしめたまえ──『吸収』」

 

 ごっつんこ。

 おでこを、黄金の呪文版にくっつける。

 

 妙雅の──弐ノ塔の母体の──すべての経験を。

 神話から、近世までの、記憶を。

 弐ノ塔も知らぬ、秘伝を。

 すべて。

 小さな脳の中に、『吸収』して、

 

「ぐはっ」

 

 レラは、血を吐いた。

 

「あ、あれ? おかしいぞ。あれれ?」

 口から鼻から血を流し、不思議そうな顔をする。

 周囲を見て、

「ここは、どこだ? マテンは、どっちだ?」

 きょとんとする。

 そして。

 やがて、その黒い目に、霞(かすみ)がかかり・・・

 

「魔王様、どこ・・・?」

 

 “継承者”は、嵐の海に、倒れたのであった。

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