ソラトバン、鬼械人   作:min(みならい)

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新婚夫婦 ソラ&チーニャ

 戦いは、終わった。

 弐ノ塔は、カルデラに戻り・・・

 

 楽しい日々が、始まった!

 

◆ 86、チラーニどん、ふろはいる ◆

 

<いい湯だな~>

 

 チラーニどん。

 お湯の中で、4本ある足を、ワシャワシャと泳がせる。

 関節のない胴体を、左右に揺らす。

 4本ある腕で、ぽちゃんぽちゃんと、湯を叩く。

 

 ・・・楽しそうじゃな。

 

「まったくじゃな。ええ湯じゃ」

 と、ソラトバン。

 こちらも、のんびりお湯につかりつつ・・・

「しかし、ビックリしたぞ。ドリノンが『風呂入ろうぜ~』とか言うてくるから」

<へっへっへ~>

 

 チラーニどん。

 いま、整備ロボ・ドリノンに入っとるのだ。

 憑依(ひょうい)──っちゅうヤツである。

 

「てっきり、いつものボディで蘇生されたモンじゃと」

<蘇生された時は、そうだったよ>

「なんで移ったんじゃ?」

<ママが『工兵弐型から、参型に、強化せんか?』って言い出してさ~>

「さんがた。何が変わるんじゃ?」

<秘密w>チラーニは、2叉フォークの手で「シー」のポーズをした。

「なんじゃ。もったいぶって。気になるのう」

<楽しみにしといてよ>

 チラーニは、伸びをした。

<楽しみって言えばさ~>

「うん」

<カルデラ祭、楽しみだよね~>

「おう!」

 

 カルデラ祭。

 麦の収穫が終わった後の、お祭りである。

 毎年やっとったが、今年は最大の規模でやるという。

 コボルドどもが、大はしゃぎで準備に駆け回っておった。

 

「わしも手伝えたら良かったんじゃが・・・」

<ソラは、他人を手伝ってる場合じゃないもんな>

 チラーニどんは、ソラトバンの肩を叩いた。

 

<がんばれよ、森番見習い君>

 

◆ 87、もりばんみならい ◆

 

<ソラ。おいソラ。ギサンチに入ったぞ>

「・・・ん? おお」

 トンボの声で、ソラトバンは目を覚ました。

「すまん。飛行中じゃのに」

<うむ>

 

 時刻は、明け方。

 トンボは、雲の下を飛行中。

 ギサンチの大地が、大海原のように流れておる。

 

 やがて、前方に小さな山が見えてきた。森に包まれた山である。

 

<あれか?>

「見てみるわい」

 ソラトバン、『鷹の目』。

 ギューンと景色を拡大。

 小山の頂上に、ちょっと開けた場所があるのを、確認した。

 麦と野菜の畑。その奥に、新築の木造家屋。玄関には太陽の紋章がある。

「うむ! あそこじゃ。尼僧院が見えるわい」

 

 トンボは、畑の手前に、舞い降りた。

 すぐ近くに、小屋がひとつある。

 畑の奥に建っとる尼僧院とは、別の建物である。ずっと小さい。

 その小屋の中から・・・

 

「おまえさんが、見習いかな?」

 

 ・・・おじいさんが、現れた。

 麻の服に、毛皮の上着。ブーツと、腕を守る巻き布──森で仕事する人の姿である。

「そうですじゃ!」

 ソラトバン、荷物を地面に置いて、ビシッとした。

「森番見習いで参った、弐ノ塔のソラトバンですじゃ。先生ですかのう?」

「先生なんちゅうモンではないが、」おじいさん、笑う。「森番なら、長いことやっておる」

「よろしくお願いしますじゃ。こちら、弐ノ塔から」

 ソラトバンは、包みを渡した。謝礼の品である。

 おじいさんは、喜んで受け取り・・・

 トンボを見上げて、こう言うた。

「──それにしても、でっかい見習いじゃの~」

「いやいや! 見習いは、わしですじゃ」

<わっはっは>

 

 そうして談笑しておると。

 尼僧院から、おばあさんと若い娘が出てきた。

 

「いらっしゃい、ソラトバン殿」

「院長先生」ソラトバンは、頭を下げた。「朝早くから、お騒がせしとりますじゃ」

「いえいえ。あなたは、私たちの恩人ですから。歓迎に参ったのですよ」

 おばあさん院長の、レゾニカ。

 ほほえんで、若い娘を押し出した。

「ソラトバン殿」娘は、キチッと礼をした。「おはようございます。お元気そうですね」

「コローネの姉者も。お久しぶりですじゃ」

 

 若い娘。コローネであった。

 明るい笑顔。どんよりした雰囲気は、もう、どこにもなかった。

 

 あいさつを済ませると、院長とコローネは院に戻った。

<ほじゃ、ワシも帰るとしよう>

 トンボも、ハッチを閉めて、帰り支度をする。

<タコは荷物に入っとるな?>

「うむ。ここにあるぞ」

<ちょっと出してみてくれ>

「ほい」

 ソラトバンがタコ出すと、トンボがそれを操作。

 ブ ー ン ・・・と、飛ばした。

<羽根よし。映像よし。音声よし。──問題ナシと。ほじゃ、ワシはこれで>

 

 トンボは1人で飛び立った。陽光照らす空へと消える。

 

「たまげたモンじゃ。巨人が空を飛ぶとはのう」

「まったくですじゃ」

 おじいさんとソラトバンは、小屋に入る。

「・・・ソラトバンよ」

「はい」

「あんなモンに乗れる御身分で、なんで、森番なんぞになろうとする?」

「それはじゃな、先生・・・」

 ソラトバンは、ちょっと頬を赤らめた。

 

「嫁さんを、もらうためじゃ!」

 

◆ 88、ソラトバン、修行する ◆

 

 ・・・そもそも、森番とは、何ぞや? と申しますと。

 

 帝国では、森林代官のことです。

 ハポノ貴族に命じられて、山林の管理を代行する。

 主な仕事は、山火事の防止、侵入者(敵・浮浪者・山羊飼い)の排除、樵(きこり)や狩人からの徴税(ちょうぜい)だ。

 

 弐ノ塔には、この役目の人が居らなんだ。

 じゃあ、誰が山林の管理をしとるんかと言うと・・・

<私じゃ>

 おふくろさんが、1人でやっとるという。

「その仕事、わしに任せてもらうことはできんじゃろか?」

<なんでじゃ?>

「家庭のためじゃ」

<どう結びつくんじゃ>

「平和になっても続けれる仕事で、家を支えたいんじゃ」

<ふむ。乗り手は、やめるんか>

「いや。ずーっと続けたいが。人間じゃからな。身体が衰えても、家族は養いたいし」

<なるほど>

 おふくろは、ちょっと感心したようであった。

<そういうことなら、譲ってやってもよい。じゃが、問題がある>

「なんじゃ?」

<私のやり方は、人間には、真似できんっちゅうコトじゃ>

 

 おふくろさんは、並列作業によるゴリ押しで、仕事をしておる。

 タコを何機も飛ばして、上空から森を監視。

 作業ユニット(虫みたいな四脚ロボ)を出して、木や下草を刈り払う──という具合である。

 

「むむ・・・」

 

 そこで助け船を出してくれたのが、スカルドのハル様であった。

 

「レゾニカに頼んでみなえ」

「院長先生に?」

「あの人、森の蒸留所の女将やったに。森番とも、知り合いのハズやえ」

「なるほど!」

 

 ──こうして、ソラトバンの森番見習い生活が、始まったのである。

 

「落ち葉をそのままにしとくんじゃない! 集めて燃やすか肥料にするかじゃ!」

「はい! 先生!」

「こりゃ! 考えもナシに枝を折るな! それでも樵の息子か!」

「はい! 先生。すみませんですじゃ」

 

 毎日、おじいさんと一緒に山を歩き・・・

 

「ここの地形。ちと危ない。なんでかわかるか」

「崖が突き出しとる。上に生えとる木も、ヒョロヒョロじゃ。崖崩れの恐れありじゃ!」

「よくわかったな。で、どうしたらええと思う」

「あらかじめ崩しゃええんじゃないか? ナンガラックとかで、ドカーンと」

「バカモン! 大雑把すぎるわ!」

 

 怒られながら、山林の管理を叩き込まれ・・・

 

「さて・・・森番にいちばん大事なコトは何かわかるか」

「毎日コツコツやるコトですかのう? ちょっとサボると、すぐ、手に負えんようになる」

「そうじゃな。じゃが、一番は、そこじゃない」

「なんじゃろ・・・」

「──ソラトバン殿。お話し中、失礼します」

「おや? コローネの姉者」

「幽雲洞のディルーネさんがお見えです。『ソラトバン殿に頼まれた石の件で』と」

「あー・・・!」

「行っておいで。人を待たせちゃいかん」

「すみません。先生。話の腰を折って」

「なに。これこそ、わしが言おうとしたコトじゃ」

「?」

 

 謎かけのような教えも受け・・・

 

「あと半年。──いや、3年。修行する気はないか?」

 最後は、森番のおじいさんに、そう言われるほどになった。

「こちらから、お願いしたいとこなんじゃが・・・」

「嫁をもらうんじゃったな」

「そのつもりですじゃ」

「1年も待たせたら、逃げられるか」

「ははは・・・」

「しょうがない。行け。嫁さんつかまえて、元気な子をバンバン生ませい」

 

 ソラトバン。森番の先生と、がっしり、抱き合った。

 そして、トンボに乗って、ギサンチを後にした。

 

<チーニャがソワソワしとったぞ>

「1カ月放ったらかしじゃからな・・・しかし、やっぱり、時間が足らんかったわい」

<じゃろうな>

「こんなんで仕事になるかどうか」

<なーに。一番の修行は、現場に放り込まれるコトじゃ>

「おふくろの助手をやるんじゃが。役に立つかのう」

<大丈夫じゃ。アレ、仕事はできるが、大雑把じゃけぇ>

「先生にも言われたわw」

 

 2人でゲラゲラ笑いながら、大空飛んで。

 お祭り直前のカルデラに、帰還したのであった。

 

◆ 89、カルデラ祭 ◆

 

 カルデラ祭を、目前に控えて。

 弐ノ塔は、大騒ぎであった!

 

 なにしろ、手始めにやったのが、用地の造成という。

 気合入りすぎじゃろ! という、お祭りであったのだ。

 

 丘の上の木立を切り払い・・・

 野焼きをして、消毒し・・・

 ドリナラーニ・ロナンガラーニら、ナンガラック兄弟が、地面をならし・・・

 木造のステージと、美しい銀色の照明台を設置し・・・

 友邦国の旗を、飾り立て・・・

 

 やっとこさ、準備完了である。

 

 そして、当日の夕方。

 

 巨大な篝火(かがりび)!

 銀の照明台に、赤々と燃え上がった!

 

 夜の丘が、煌々と(こうこうと)照らされ・・・

 

 どごーん! どごーん!

 祝砲と共に、カルデラ祭は、始まったのである!

 

「カルデーラさーい!!」

 セイレーンの、レモンちゃん。

 真新しい木造ステージに、一番乗り。

「キャーン!」「レモンちゃーん!!」「アオーーーン!!」

 どってんどってんハネ歩く彼女の姿だけで、コボルドどもが大喜び。

 歌い始めるや、狂喜乱舞。

 そこらじゅうで揉みくちゃになって踊り始めた。

 

 一服して、お食事の時間。

 肉、魚、果物、パンに団子、酒とジュースが、たっぷり持ち込まれる。

 ステージにはハル様が上がって、竪琴(たてごと)を奏でた。

 野外でやるには、音量の足りない楽器だが・・・

 そこは弐ノ塔。

 ステージの左右に、トンボと黒トンボが立って、スピーカーを務めた!

 繊細な音色が、よーく聞こえ、食事はいっそうおいしくなった。

 

 宴のあいだに、相撲大会も開かれた。

 コボルドの部、ゴブリンの部、オーガの部。

 幽雲洞のオーガ戦士と、撃竜界の乗駆鬼(ジョッキー)の決勝戦は、おおいに盛り上がった。

 乗駆鬼は惜敗。

 たいそう悔しがって、しばらく話もできんほどであった。

 が、宴が終わるころには落ち着いて、あいさつにやって来た。

 ディルーネと一緒である。

 ハーフダークエルフ・オーガのディルーネ。えらい綺麗にお化粧して、ドレス着て。

 乗駆鬼に、腕をからめておる。

 ひょっとして・・・

「ソラトバン殿。私は、このテイガと、婚約をした」

「ていが?」

 ソラトバン、首をひねる。

 ディルーネ、自分を指差して、(ウチ、ウチ)と合図。

「貞節な、牙、で貞牙らしいわ」そばに居った清雅さん、名前解説である。

「ディルーネは?」

「偽名」

「なんじゃと」

「ごめんな~? 本名名乗ったら、ハーフオーガってバレてまうやん?」

「あー。・・・お父ちゃん、オーガじゃものな」

「そーゆーコト!」

 

「──意外な2人じゃったな」

 と、ソラトバンが言うと、清雅は「そうか?」と首をひねった。

「武力と人望の乗駆鬼に、人脈と諜報(ちょうほう)の貞牙や。強い夫婦になるやろ」

 

 みんなのお腹がいっぱいになると、ふたたびレモンちゃんがステージに上がった。

 ハル様とレモンちゃんで、甘~~~いメロディ、スタート。

 官能的な竪琴の音。声とも楽器ともつかぬ、レモンちゃんのハミング。

 若い男女が、抱き合って踊りはじめた・・・

 

 恋人たちのダンスの時間である。

 

<ソラ、預かり物のお届けだぜ~>

 整備ロボ・チラーニどんがやって来た。

 小さな箱を、ソラトバンに渡す。

<勝利を祈る! じゃ~ね>

 

 ソラトバンは、チーニャを誘いに行った。

 

◆ 90、ソラトバン、もうしこむ ◆

 

「美しい乗り手さんや。わしと踊って頂けませんかのう?」

「あははw いいよ、たくましい乗り手殿」

 

 ソラトバンが気取って誘うと、チーニャは気さくに乗ってきた。

 2人でくっついて、のんびり、踊る。

 貴族の踊りではない。

 足運びがどうとか、そういう決まりはない。

 くっついて、ユラユラして、ひそひそ声で楽しく会話するだけである。

 

「1カ月も、すまんかったのう」

「そっちこそ、大変だったな?」

「なに。・・・おまえさんが居らんで、悶々とはしたがな」

「ばかw」

 

 イチャイチャしとると、近くに顔見知りのコボルドがやって来た。

「ルディーニャちゃんじゃ」

「ほんとだ」

 コボルドの娘・ルディーニャ。チーニャの侍女役である。

 踊っとるうちに、たまたま、お隣さんになったらしい。

「もうすぐ結婚じゃったよな」

「うん」

 こっちと目が合うと、恥ずかしそうに、会釈してきた。

「初々しいのう」

「あれで結婚したら子供がウジャウジャできて、男は家から追い出されるんだぜ」

「え・・・」

「コボルドはみんなそうさ。整備の親方も、家から蹴り出されて、飛行塔に住んでんのさ」

「・・・人間で良かったわい」

「ふふふw」

 

 おしゃべりしながら。

 ステージの陰へと、チーニャを導く(みちびく)。

 

「贈り物があるんじゃ」

 ソラトバンは、小さな箱を、開けてみせた。

 

 ブレスレット。

 緑色の宝石と、白銀の台座からなる、繊細な腕輪が、姿を現わした。

 

「どうしたの、これ」

「幽雲洞に注文したんじゃ」

「高かったでしょ・・・?」

「ちゃんと自分で払ったぞ。おふくろに、給料を決めてもろうてな」

「そっか」

 

 チーニャは、ブレスレットを、篝火にかざした。

 オレンジ色・レモン色の炎に照らされて、透き通る緑が不思議に煌めく(きらめく)。

 

「きれい・・・」

「翠玉(すいぎょく)じゃ。おまえさんの目にちなんでな」

 

 チーニャ。青と緑の入った黒い瞳で、ソラトバンを見つめる。

 ソラトバン。彼女の肘を両手で支える。

 

「弐ノ塔のチーサーニャ」

「・・・はい」

「このソラトバンと、一緒になってくれ。この一生、わしと一緒に歩いてくれ」

「ふふw」チーニャは笑った。「歩くだけでいいのか?」

「おっと。こりゃ一本取られたわい」

 ソラトバンは、チーニャを抱き寄せた。

 

「空飛ばん、愛しい人よ」

「どこまでも、あなた」

 

◆ 91、鬼械人、ふろはいる ◆

 

<うまく行ったようだね~>

<祝福>

「ありがとさんじゃ」

 

 翌朝。

 左にチラーニ。右にドリナラーニ。

 ドリノンにはさまれて、ソラトバン、朝風呂に入る。

 

<拙者、殿なら、うまくやると信じてたでござる>

 ・・・あと、プカプカ浮かんで目の前を泳ぐ、ウミドラーニどん。

 

<いや~、ホント、ホッとしたよ>

 チラーニ、四ツ腕をすくめる。

<いまだから言うけどさ~・・・チーニャが行き遅れたらどうしようって、ずっとさ~>

「チーニャなら、引く手数多(ひくてあまた)じゃろ──いや、もう誰にも渡さんが!」

<当然ジャ>

<でも、ウチの友邦国って、オーガばっかりだぜ?>

「あー・・・」

<清雅も心配してたと思うぜ。言わないけどさ>

「目上には礼儀正しいもんな。清雅」

<そうそう>

 チラーニ、ガックンと前に傾く。

<いまごろ『うまく行ったわ』って、ニヤケてんじゃないかな~>

 

「うまく行ったわ! キキキw」

「ホンマに言うとるわ」

 

◆ 92、清雅さん、いましめらる ◆

 

 朝風呂浴びて、ドリナラーニどんと散歩に出たソラトバン。

 六腕ロボ・浮鬼がたたずんどるのを発見して、近付いた。

 したところ、清雅の笑い声を聞いてしもうたんである。

 

<おう、ソラトバン殿。おはよう>

 と、浮鬼。

「おいおい! 殿はやめてくれ。浮鬼どんのが、ずーっと先輩じゃのに」

<いやいや、弐ノ塔の姫のオトコに、『おいソラァ』とは行かんわ>

<同意ジャ>

「そうやぞ、ソラトバン殿」

「清雅に言われると気持ち悪いのう」

「なんやとコラァ!」

「──ほで、何がうまく行ったんじゃ? わしらに何かしたんか?」

「ん? いや、オマエには何もしてへんぞ」

「なんじゃ。そうか。誰にしたんじゃ?」

「レラや」

「レラ?」

「魔王と会わせたったんや。『取り持つ』でな」

「あー。そう言や、やっとったな。冥界で。──どんな効果じゃ?」

「離れ離れになっとる2者を、話し合いのテーブルに着かせる」

 

 清雅。ニヤニヤしつつ、説明をしてくれた。

 

「ケンカしとる奴らでも、とりあえず、話し合いの席には着くんや」

「魅了みたいじゃな」

「魅了ではない」

「相手が怒ったりはせんのか?」

「バレんかったらええねん」

「おいおい」

「大丈夫大丈夫。なんぼ魔王でも、気付かへんかったら──」

 と、清雅が手のひらヒラヒラさせたときであった。

 

≪気付いてはいるぞ≫

 

 ──冷たい、地の底から響くような声が、浴びせられたのは。

 

「ひ!?」

 清雅、凍りつく。

 その右肩に、何かが、ガシリと掴みかかった。

 目に見えぬ爪が、清雅の服にギリギリ喰い込む。

 清雅は真っ青になった。その表情を見て、ソラトバンは、勇気を奮い起こした。

「だ・・・誰じゃ!? せ、清雅を・・・どうするつもりじゃ!」

 すると。

 

≪話をしに来ただけだ≫

 

 姿のない声は、そう告げて。

 フッ・・・と、清雅の肩を放した。

 

 清雅は、ひれ伏した。

 地面に正座して。

 前髪が土につくほど、頭を下げて・・・

「出すぎた真似を、いたしました」と、謝った。

 

≪よかろう。今回だけは。私の首に抱きついているセイレーンに免じて≫

 

 ≪声≫は消えた。

 涼しい秋の風が、ふたたび吹いてきた。

 

 どってんどってんどってん。

 レモンちゃんが、やって来た。

「・・・。」だいぶ離れたところで止まり、こちらの様子をうかがっておる。

「なんじゃ? レモンちゃん」

「・・・。」

「もしかして、≪声≫が聞こえたんか?」

「うん」

「もう帰ったみたいじゃぞ」

「・・・そう」

 レモンちゃんは、ホッと息をつき、急いで逃げてった。

 

「・・・わしも帰るわい」ソラトバンも、逃げる。

「ちょ、待ってくれ」清雅、すがりつく。

「放せ。巻き込まれとうない」

「マジでw 腰、腰抜けて」

「ありゃ」

 

 ドリナラーニどんで、清雅を浮鬼のハッチまで上げてやった(整備ロボには、浮上能力があるのでね)。

 乗り手席に座らせてやる。

 

「はぁ・・・」清雅はため息をついた。「さいあくや・・・」

「元気出さんか。魔王様も許してくれたようじゃし」

「よりによって、ソラに助けられるとは・・・」

「一生ビビっとれ!」

 

◆ 93、カルデラ祭、2日目 ◆

 

 そんなことのあった、カルデラ祭2日目。

 この日は、運動会が行なわれた。

 あっちでは、競争や槍投げが行なわれ、

 こっちでは、出店が特産物を販売する。そんな日である。

 

 ソラトバンは、ドリナラーニどんに付き添われて、ブラブラと歩いた。

 

「いらっしゃーい。農業、荷運び、騎兵戦! なんでも役立つヤドカリはいかがー」

 ディルーネ(貞牙)が、販売やっておる。

 売り物は、ヤドカリチャリオット。

 6本の脚で地上を疾駆する、小さいながらも装甲の硬い鬼械人である。

「試乗もできますよ~!」

 試乗会は、コボルドのガキんちょに大人気であった。

 真面目な客も居った。弐ノ塔のおふくろが、あれやこれや質問をし、値段の交渉までしておる。

「・・・買うつもりかのう?」

<耕作用カト>

「こうさく・・・」

<畑、耕ス>

「ナンガラックでは」

<重イ>

「ドリノンは」

<短足>

「なるほどのう」

 

 ヤドカリチャリオットは、運動会にも出場した。

 チャリオット(戦車)競争である。

 ヤドカリに2輪馬車をつないで、騎手が乗って競争するのだ。

 1位・2位は、幽雲洞の戦士が取った。順当な結果である。

 3位には正鬼どんが喰い込んだ。かなりの健闘である。撃竜界のゴブリンからも、祝福されておった。

 

「いらっしゃいませ。応援で、喉が渇いたでしょう? ギサンチの麦酒はいかがですか」

 お酒の店もあった。

 売り子は、なんと、コローネであった!

「コローネの姉者。来とったんか」

「ディルーネさんに連れて来てもらいました」

「そうかぁ」

「よければどうぞ。一杯、私がおごりましょう」

「いやいや、ちゃんと払うで」

「では、2杯目からはお代を頂きますね」

「商売上手じゃなw」

 シュワシュワ泡立つ、甘酸っぱいお酒を呑む。

 ふと気付くと、おジャス様が隣で呑んでおった。

「おジャス先生。いつの間に」

「うむ。ギサンチの酒。まことに美味」

「各地の修道院の名産、7種を揃えました。どうぞ、呑みくらべてみてください」

「7杯は呑めんのう・・・」と、断ったソラトバンであったが、

「ソラ、あと3種頼め。私も3種頼む。半分こして呑むべし」

「えー」

 結局、7種類呑む羽目になるのであった。

 

 そんな、にぎやかな2日目であったが。

 清雅だけは騒ぎに加わらず、1人で作業をしておった。

 

 かーん。かーん。かんかんかん。

 木槌を振るっておる。

 

「何やっとんじゃ。清雅さんよ」

 ソラトバンが、近付いてみると。

「戒めや」

「いましめ」

「失敗を忘れんように、石に刻んどるんや」

 

 見とるうちに、清雅は石を刻み終えた。

 いわく、

 

 『六間洞の鬼術師・清雅、

  魔王陛下に、戒めらる。』

 

「よいしょ」

「なに勝手に建立(こんりゅう)しとんじゃwww」

 

 清雅の立てた碑。

 結構長いこと、その場に残っておった。

 そのおかげか知らんが、弐ノ塔は、この後もずーっと、冥界の魔王とはケンカせずに済んだんじゃ。

 

◆ 94、鎮魂歌 ◆

 

 2日目の夜。幽雲どんが、顔を出した。

 

「やあ」

 と言うて、突然、地面から顔を出したんである。

<掘るなと言うたぞ!!!>

 おふくろが激怒して、ちょっとまずい感じになったが・・・

「わしじゃない」

 話を聞いてみれば、掘ったんではないという。

「もともと、空洞になっとったんじゃ」

<なに?>

「地底運河が、一部、崩れてな。補修をしに来たんじゃが」

<ほう>

「壁の穴が、でっかい洞窟につながっとってのう。調べたら、この真下まで抜けとったんじゃ」

<堀り広げたワケじゃないのか?>

「ちがう。最後の何尋かは掘ったが、何もせんでも、いずれ崩落したハズじゃ」

 

 というワケであった。

 

<私の知らん洞窟が、まだあったか・・・>

 おふくろは、怒りを収めた。

 で、こんなことを言うた。

<ちょうどええわい。お礼じゃ。コレを見てゆけ>

 

 それは、空飛ぶ塔。

 銀色に輝く、大きな飛行塔であった。

 

「おまえさんの本塔・・・ではないな。これは。もしや」

<そうじゃ>

「妙雅か!」

 

 弐ノ塔より、ひと回り大きな空飛ぶ塔。

 レラから奪還した、妙雅の本塔であった。

 

<資材が足らんで、本塔を鎧う(よろう)のがやっとじゃった>

「おお・・・!」幽雲は両手を差し伸べた。

<こら。さわるな>おふくろさん、塔を逃がす。

「なんでじゃ。さわるぐらい、ええじゃろ」

<気持ち悪い。その手を引っ込めよ>

「ちょっとだけじゃから!」

 

「・・・幽雲どん、妙雅様のことになると、見苦しいな」

 ソラトバンたちは、弐ノ塔・本塔の艦橋で野次馬である。

「どう見ても片思いやもんな」と清雅。

「ひどいなオマエらw」とチーニャ。

 

 野外で呑み明かしとるお客さんたちも、塔と巨人のイチャイチャに、盛り上がっておった。

 

 妙雅様の遺体は、あらためて、墓地に収めるということになった。

 ただし、飛行ユニットは弐ノ塔の戦利品とする。

 幽雲どんと弐ノ塔は、

「おいしいトコだけ引っこ抜きおって・・・」

<当たり前じゃ。六間洞に、蘇生費用2人分取られたんじゃぞ>

 という会話をしたそうである。

 

 そういうことなので、3日目の朝には、身内だけで鎮魂の儀式をやった。

<墓地に戻すからな>

 おふくろが、妙雅の遺体にそう伝える。

 あと、レモンちゃんが、レラに、こんな歌を捧げた・・・

 

 ♪サンゴの海を 旅立って

  はるばる わだつみ さまよえり

  タリラリラン タララレラ

  無敵の王を 恋い慕い

 

  人間どもを まどわして

  響かす≪声≫にて あやつれり

  タリラリラン タララレラ

  海ゆくはレラ セイレーン!

 

◆ 95、貴族コローネ、侍女トリーモ ◆

 

 カルデラ祭、3日目。

 この日は、特別な催しはナシ。出店と宴が続いた。

 

 ソラトバンは『コローネが会談を希望している』ということで、呼び出された。

 行ってみると。

 

 ──ハポノ貴族の娘と、その侍女が、ソラトバンを待っておった。

 

 ハポノ貴族の娘。

 鳶色(とびいろ)の髪をした、美しい娘である。背が高く、姿勢も良く、健康そうな。

 

「・・・コローネの姉者?」

「還俗(げんぞく)して、ハポノに戻ることになりました」

「なんと!」

 

 コローネさん。

 尼僧やめて、貴族に戻るという。

 

「まあ、還俗と言って、1年も修行していないのですが」

 コローネは笑った。

 それから、真面目な顔になる。

「・・・じつは。母と義父が、不貞と暗殺の罪で、処刑されたのです」

「それは」

「義父はミェンノー大臣派だったのですが。他にも、暗殺に関わっていたそうで・・・」

 ここで、コローネはお茶を口にした。

 しばらくしてから、話を続ける。

「ハポノの飢饉(ききん)は、御存知ですか?」

「ウワサは聞いたわい。食料が届かず、疫病まで起きて、百万人も亡くなったと」

「そうです。貴族も大勢死にました。それで、我が家は取り潰しにならず、私が呼び戻されることになりました」

「そんな、人を、コマみたいに・・・」

「貴族はコマですよ。ですが、生きたコマです。だから、自由だってあります」

 コローネは、にっこりと、ほほえんだ。

 

「女伯爵になる私は、婚約者を探しております。弐ノ塔に、候補はいらっしゃいませんか?」

 

「品切れです」チーニャが即答した。

「それは残念」

 コローネは席を立った。

「侍女が、殿と話したいそうです。よろしければ、付き合ってやってくださいな」

 

 で、若い侍女が残されたのだが。

 

 こちらは、黒い髪を短く切って、少年のような雰囲気。

 コローネとはちがって、従僕の服を着ておる。そのせいで、遠目には本当に男の子に見えた。

 その侍女の、名は。

 

「・・・ルカツァーネ」

「人ちがいです。ソラトバン殿」少女は、首を振った。

「は?」

「私は、身元不明で、記憶もなくした──おそらくは平民の──名無し娘に過ぎません」

「なんじゃと?」

<ルカツァーネは、死亡した>

 弐ノ塔のおふくろが、口を開いた。

<これは帝国の公式記録じゃ。じゃによって、この子はルカツァーネではない>

「そんな・・・」

 

 ソラトバンは、ルカツァーネ──トリーモを見た。

 

「それで、ええんか。トリーモ」

「いいも悪いもないです。それが、事実になるのですから」

「おまえさんがどうしたいか訊いとるんじゃ」

「・・・私」

「そうじゃ」

「私は、」

 トリーモは、立ち上がった。

 潤んだ目でソラトバンを見つめて・・・

 

「私は、あなたが好きです! トバーニ。愛してます。ですから、──さようなら!」

 

 ・・・走り去った。

 

「くそっ!」チーニャがキレる。「私の婚約者だぞ!」

 彼女が怒ったおかげで、ソラトバンは落ち着いた。

「はははw すまんのう、2人とも」

「なに笑ってんだよ!」<なにを謝っておる>

 

 ソラトバンは、チーニャの背後に回って、椅子ごと彼女を抱き締めた。

 で、おふくろさんを見て、

 

「あの子のために、手配してくれたんじゃろ。すまんかった」

「・・・べつに?」

 チーニャは、唇を尖らせた。

「オマエが言った通りさ──私たちの健康のために、やっただけだよ」

 

◆ 96、男ども(とレモン)、ふろはいる ◆

 

<トリーモ、出てっちゃったね~・・・>

「うむ」

 

 ソラトバン。またしても、チラーニと一緒に、風呂に入っておる。

 ただし。

 今日は、満員であった。

 

「寛大な対応や」「帝国なら、処刑されとるわ」「ウム」──清雅の兄鬼、ゴブリン三兄弟。

「オマエ、なんでそんなモテるのだ? 見た目は、パッとせんのに」──乗駆鬼。うるさいわい。

<男は中身でござる!>──ウミドラーニ。

<同感デ、ゴザル>──ロナンガラーニ(海鳥型に憑依中)。

「ソラが オンナを ひっかけ~る~♪」──仰向けで浮かんどるレモンちゃん(おっぱい丸出し)。

「キャーン!」「ソラ、ひっかけーるー」──そのお腹に抱っこされとるコボルドのガキんちょ。

 

 多すぎである。

 

 ちなみに、ドリナラーニは不在である。

 トリーモについてったのだ。コローネの領地に入るまで、護衛をするそうである。

<黒トンボ、許可サレタシ>

<絶対ダメじゃ>

 というやりとりが、おふくろとあったそうな。

 結局、ナンガラックで行った。帰還には時間がかかるであろう。

 

「帝国オンナに、モッテモテ~♪」

「レモンちゃんw 変な歌広めるのやめてくれ。わし、婚約しとんじゃから」

「次から次へと、声かける~♪」

「いつの間に、こんなヘンな歌を・・・」

<ハル様に師事してるらしいからね~>

「教育に悪い御方じゃ」

「婚約と言えばやが、」正鬼が、口を開いた。「俺も、婚約したわ」

「おお! お相手はどなたじゃ?」

「幽雲洞の、乗り手の娘や。婿入りや」

「おめでとさんじゃ」

「ありがとう。乗駆鬼殿が、仲立ちしてくれてのう」

「なーに、大したコトはしとらん」と、乗駆鬼。「立派な乗り手じゃと、本当のコトを言うたまでよ」

「そうかぁ」

 ソラトバンは、汗を拭いた。

「・・・ところでじゃが」

「なんや」

「妹さんは、どうなんじゃ? 鬼術師じゃし、お相手選びは、大変じゃろ」

「幽雲洞に打診はしとるんやがな」と正鬼。

「オカンがな」と数鬼。

「注文がうるさすぎてな。縁談がまとまらんのや」再鬼が補足した。

「清雅のオカンか。・・・うるさそうじゃな」

「ウム」「ウム」「ウム」

「そうなると、正鬼どんは、責任重大じゃな」

「ウム。清雅のために、人脈作らんとな・・・」

 正鬼が立ち上がった。

 湯船を出て、パーンとタオルを背中にかけ、歩み去る──途中で、足を止めて。

「・・・コレだけは言うておくがな、ソラ」

 

 正鬼。

 カッ! 小さな眼を、見開いて──

 

「妹に手ェ出したらコロス」

「わかったからwww」

 

◆ 97、そのうちな ◆

 

 祭りは終わった。

 弐ノ塔は、新たな日常に戻る。

 

 ソラトバンは、乗り手と並行して、森番の仕事を始めた。

 おふくろの助手をしながら、次第に仕事を覚えていったんじゃ。

<コボルドの本音が聞けるようになったわい>

「そうか?」

<うむ。おまえさんが間に入ると、やりやすい>

「そりゃ良かったわい」

 先生が言うとった『一番大事なこと』。

 ひょっとしてコレかな、と思うソラトバンであった。

 

 チラーニどんは、『工兵参型』になった。

 見た目は同じ。3人乗りなのも同じである。

 あるが。

 なんと!

 『力の筒』が、すべて、トンボ型に切り替わった!

 強力じゃが扱いが難しい、下手すりゃ1里巻き込んでドカン! の筒じゃ。

 喜んだチラーニどん。

<おおお~! これでオレも爆鬼になれるぞ~!>

 などとアホな発言をして、チーニャに叱られておった。

 

 トンボどんは、木を切るようになった。

 鬼械人の樵じゃ。効率は、ものすごいぞ。

 切った木は、『新居に使え』と言うて、ソラトバンにプレゼントしてくれたわい。

 ちなみに、使っとる斧は、チラーニどんを背中からぶった斬ったヤツじゃ。

 斧を見たチラーニどん、ピタッと固まっておったわいw

 

 ドリナラーニどんは、えらい時間かかって帰ってきた。

 なんでも、隣の伯爵が戦を仕掛けてきたそうな。

 トリーモと一緒に戦場に出て、大活躍したそうじゃ。

<なんでそんな勝手をする!>

 と、おふくろさんは怒ったが・・・

 その後、ナンガラックを1鬼、コローネに売っとった。本心では、許しとったんじゃろうな。

 

 清雅は、弐ノ塔に来る回数が、少なくなった。

 鬼術師としての仕事と、婚約者探しで、忙しいらしい。

 ソラトバンは、さびしい思いをした。

 チーニャもそうで、清雅が来ると御機嫌になった。

 

 ・・・あ、清雅と言えばじゃ。

 ずーっと前から「そのうちな」と後回しになっとった、お礼じゃが。

 ソラトバンが訊いたら、

「あの日、オマエを蘇生したんは、いろいろ事情があってのコトやけどな・・・」

 と、語り出した。

「なんの話じゃ」

「ええから聞けや」

「まあ、聞くが」

「いろいろ事情があって蘇生したんやが、」

「うん」

「決め手は、勘や」

「カンじゃと」

「コイツ蘇生したら、状況打開できるんちゃうか・・・? って、ピンと来たんや」

「状況とは」

「撃竜界が負けて、六間洞も、いつ攻められてもおかしない。そういう状況やったやろ」

「ああ、うん」

「それやのに、ウチのババアどもは何もせえへん」

「ふむ」

「『このままやと、帝国に滅ぼされる。なんとかせなアカン』って、再兄らと話し合っとった」

「そうじゃな」

「再兄が、オマエんトコのリダーニとしゃべったりしたんも、『なんとか』の一環や」

「リダーニ兄貴か」

 

 リダーニ兄貴。

 ソラトバンの故郷の、狩人である。子供の頃から仲良くしてくれとった。

 

「再鬼どんが『知り合いや』っちゅうとったな」

「そや。そんなある日のこと。俊英(しゅんえい)の鬼術師・清雅ちゃんは、巨人大好き坊やが、死んどるのを発見した」

「・・・そん時ゃ、まだ、見ず知らずじゃったがな」

「いや。ウチは、リダーニ通してオマエのウワサ聞いとったから」

「え」

「樵の息子。空飛ぶ巨人を見たっちゅうて、ソラトバンと馬鹿にされとる」

 清雅、ニヤニヤする。

「けど、俺は、アイツは大物じゃと思う。──ってな」

「おお・・・」

「それで、『コイツに賭けてみるか』、となった」

「おおお・・・!」

 

 ソラトバン。感激である。

 思わず浮かんだ涙を拭って・・・照れ隠しに、話を元に戻すことにした。

 

「・・・ほで、お礼はどうしたらええんじゃ?」

「鈍いヤツやなァ~」

「なにがにぶいんじゃ」

「『もう十分役に立った』っちゅうとんねや。気付けやァ~」

「わかりづらいんじゃ。感謝するなら、ストレートに『ありがとう』て言わんかい」

「うっさいね阿呆ゥ~」

「まあ、うれしいけどもが」

 ソラトバン、照れる。

「けどもが、なんか、お返しさせてくれ。ハッキリと」

「そのうちな」

「またそれか!」

「ホンマに困ったら『助けて』て言うわ。困らんかったら、めでたしめでたしやろ」

 

◆ 98、新婚夫婦 ソラ&チーニャ ◆

 

 冬になって、春が来て。

 ソラトバンとチーニャは、結婚をした。

 カルデラ祭のときのような、楽しい騒ぎをしてな。

 

 おジャス様とハル様は、式に参列してくれて、それから旅に出ていった。

 行きがけに、ソラトバンの故郷に立ち寄って「ソラは幸せにやっとる」と伝えてくれたそうじゃ。

 ありがたいことじゃ。

 

 レモンちゃんは、ハル様についてった。

 どこまで一緒に行ったのかは知らんが、さぞ有名になったコトじゃろう。

 

 さて。

 

 完成したばかりの、新居。

 

 土地は、カルデラ祭で開拓した、あの広場じゃ。

 家は、鬼械人たちが集まって建ててくれた。

 庭は、ヤドカリチャリオットが耕して、見事な畑にしてくれた。

 

 そんな新居で・・・

 新婚夫婦のソラ&チーニャは・・・

 いつか森番の先生に言われたように、バンバン子供を作って・・・

 元気な子供、頼れる鬼械人、楽しいコボルドどもに、囲まれて・・・

 末永く(すえながく)、幸せに暮らしたんじゃ。

 

 めでたし、めでたしじゃ!

 

 

 

 『ソラトバン、鬼械人』 完

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